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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年春休み編
154/368

6-5

2024/09/08 加筆修正しました。

アヴリオスという世界には、神々の力の残滓が多く残っている。デスカルとアツシはそれを眺めながら、あらためて情報の整理を行っていた。


「とりあえず、ロキの周りの加護持ちの多さもあいまってすんごいことになってるな」

「ああ、親族だけでもかなり多い。……デスカル、なんか知らない? 普通こんなことない。何かへの対抗策で神霊があれこれしているとしか思えないんだけど」

「俺がその場に呼ばれてないとこっちのことは詳しく見てないからな……だからこそこっちで情報収集もしてるわけだし。まあ、俺アヴリオスには5回くらい来てるけど、1回だけヤバイのあったぞ?」

「え、何それ」


デスカルとアツシの間にも情報の共有不足があったらしい。デスカルも何度か呼ばれている、というの自体がアツシにとっては驚きだった。


「大体、デスカルってロキに呼ばれたのって2回くらいだって言ってなかった??」

「ああ、ロキに呼ばれたのは、な。その前と間で3回呼ばれてる」

「人間?」

「2回人間、1回世界樹だな。ただ、世界樹に呼ばれた時のやつ、今は記憶に封印が掛かってる。このこと自体思い出したの最近だし」

「それ絶対なんかあるやつじゃん」

「ヤバイ、ってのもこれだ。とにかくヤバかったことしか覚えてないっていうポンコツっぷりですケド」


だからこれについてはわからない、とデスカルは言いつつメモに整理した情報を書き出していく。


「このブラックボックスな記憶については一旦置いておく。ロキたちの世代が異常なまでに加護レベルが高いのとか、加護持ちがやたら多いとか、いろいろと何かの影響を受けて良そうな予感がするからどこかで調べたいとは思うけどな」

「その時は付き合うよ」

「おう」


アツシもロキに呼ばれたことがあるが、その時はただただ金属の加工を楽しむために金属系の精霊と契約できたら、とかいうとても可愛らしい召喚だったことを覚えている。金属や宝石の加工を楽しむ人が好きなアツシにとっては、彫金や宝石研磨、魔石の生成を楽しめるロキはとても相性が良かった。


属性的な相性はあまり良くなかったので、後々の戦争にアツシは投入されなかったのも覚えている。ロキはそこで戦死したらしく、契約は切れてしまって、甥っ子(シド)の嘆きだけが伝わってきたのだ。


加護持ちは加護に付随する特殊な魔法、”加護固有魔法”を扱うことができる場合がある。

ロキ神はその魔法が結構種類が多いので有名だ。


ロキ神の加護によって起こせる魔法の中に、地震を引き起こすものがある。分かりやすく言うと、ロキのHPを削ることでマップ全体に影響を及ぼす大規模殲滅魔法を作動させる、ある意味自爆技の一種なのだが――この魔法は、アツシとは相性が良かった。


魔法というものは、基本の術式にただひたすらに魔力を沢山つぎ込んで、魔力のごり押しで本来ありえないほどの威力を出すというコスパ最悪な代物だが、その分、属性が必要な部分に使う魔力の属性さえ合っていればどうとでもできるという何ともガバガバ判定ものでもあった。


金属精霊は土属性の精霊に分類される。土属性の精霊にも植物だったり金属だったり土だったり地面だったりと様々な分類があるのだが、土属性の精霊であれば概ね使えるのが土のマナ、である。そして土のマナによって引き起こすことができる事象であれば土属性の精霊は起こすことが可能だ。

つまり、土属性の精霊というだけで、土属性の魔法は使えてしまう、という事だ。


アツシが居れば、あの時のロキにとって、ロキ神の加護固有魔法は切り札足り得ただろう。消費魔力を減らしてコスパを上げるなり、ロキの受けるダメージを多少肩代わりしたりなど、使いようはいくらでもあったはずだ。それを、ロキはしなかった。あの時あの子は、精霊など必要ないと、驕りゆえに死んだのか、と考えなかったわけじゃない。けれど。


――アツシの手はドワーフのようなすごい細工を作る手だ。俺はアンタとはまた色々作りたいんだよ。


戦場を共にする必要はない、と言外に言われた。そしてその言葉通り、ロキはアツシを戦場に呼ばなかった。あの戦場の凄惨さは今でも覚えている。


辺り一面が炎で焼けて、ガラス質になっていた。ケイ素が溶解して急冷されたのだ。それを引き起こしたのはまず間違いなくフォンブラウの人間だっただろう。アツシはその戦場だった場所で見つけたのだ。

髪のすっかり短くなった赤毛の女が、身の丈に合わぬ斧槍を前に泣いていたのを。


人刃族というのは、死ぬと武器になる、と伝わる。目の前で見てみないことには、契約者の死後の姿なのかどうかすら判別がつかなかった。魔力の残滓が一気に霧散してしまって、アツシにはその斧槍がロキだったのかどうかすらわからない。ロキが一番手に馴染むと言って使っていたオーダーメイドの斧槍と同じ形状だったことはわかったけれども。


「……アツシ?」

「……ん?」

「何考えてた?」

「んー、俺がロキに呼ばれた時の事」

「ほーん」


何か碌でも無さそう、とデスカルが言うので、失礼な、と返してやった。



コレーがデスカルの索敵範囲に入ったのはそれなりに時間を遡らねばならない。

どうやらデスカルとアツシがアーノルドを追ってメルヴァーチにまで来ていることに気付いて、こちらの様子を窺っているようだ。


加護や神々の話をした時によく聞き耳を立てていたようだった。

デスカルとアツシはいよいよネイヴァス傭兵団の誰を借りるかとか、誰をどこに配置するかとか、そういったことを話し始めていた。アーノルドへの報告はまだだが、家族団欒の時間を潰す気はない。


走行している内に、シドが合流し、情報共有の時間が始まった。


「――ってことで、王都にナツナとカルディアは置いとくことになる。ナツナは普段からロキの近くに居るようにしといて、カルディアは自由散策させとく。あいつもあいつを知らない土地の方が上手くやれるだろうしな」

「おっけ、んじゃカルディアにはお金渡しとこう。ナツナはお金いらないの?」

「必要になったらネイヴァス傭兵団の一員として稼げって話だ」

「それもそうか」


ナツナも籍を置いているネイヴァス傭兵団、構成員を知れば知るほど謎が深まる。


「監視付けときたい奴ってどいつだったっけ?」

「ウェンティ・ファルツォーネとその取り巻き君たちだな。なんだかんだロキはウェンティ・ファルツォーネを信用しやすい傾向にあるっぽいし」

「マジすか」

「やっぱ経験?」

「だろうな、それにこの子加護で見えないだけで祝福も結構デカいのが付いてる、天然ものじゃない」

「うわ。あ、んじゃこっちの加護持ち君たちも?」

「だと思う。詳細はまだ調べきれてないけどな」

「うげぇ……」


デスカル、アツシ、シドの3人でメモ書き程度の資料を囲んで話していたところで、デスカルはふと視線を上げた。パッと気配のしている方を見やる。

ミルクティー色の髪とエメラルドグリーンの瞳の少女、コレー・フォンブラウがそこに立っていた。


「お? コレー様?」

「コレーお嬢様、いらっしゃい。どうされました?」

「え、っと……」


コレーはもじもじと少し恥ずかしがっているようだ。デスカルとアツシは顔を見合わせた。シドがコレーに寄って行く。


「もう朝御飯食べ終わってたんスね! どれが一番美味しかったっスか?」

「あ、えと、卵スープ、美味しかったわ」

「それは良かった! 研究したレシピお土産に持ってきた甲斐があったっス」


分かりやすくガッツポーズをとったあと、シドは改めてコレーに向き直った。


「って、こんな話じゃないっスよね。コレー様、デスカルたちの話で何か興味が惹かれたことがあったんスか?」

「う、ん……」

「どの話だったっスか?」

「え、と、加護の、話……神様の、話」


デスカルはやっぱりか、とコレーが聞き耳を立てていた部分と合致するのを確認して、デスカルの方を見たシドに小さく頷いた。何が知りたいのか、聞きたいことを言いに来てくれる子は対応しやすいので楽でいい。


コレーがおずおずといった様子で話すので何かあったかなと思っていたら、どうやら立ち聞きがマナー上よろしくないのであっさり受け入れられたことに驚いてのことであったらしい。


「コレーお嬢様、どうせだから座ってくださいな。お聞きになりたいこと、お答えいたしますよ」


デスカルはそう言いつつ近くにあったベンチを指す。屋内でベンチにお嬢様を座らせるのはどうなのかと思わないでもないが、話そのものは長くなりそうな予感がするのでデスカルの判断は間違っていないと思う。シドもそうっスね、と承諾したのでコレーはベンチに座ることになった。


「えっと。デスカル、アスト、ロキ兄様はまた上位の方と契約を結ばれたのですよね?」

「ああ、そうですよ。よくお分かりになりましたね」

「トール兄様が言ってました、氷が強くなったかな、って。ロキ兄様は冷たい氷の持ち主でしょう? だから、そこまで変わったのなら、きっと上位の方だろうと思って」


デスカルは目を細め、トールの魔力を視る眼とコレーの思考に舌を巻いた。トールはよくロキを見ているし、コレーは魔力の変化をすぐに上位者を結び付けられるところがすごい。


ロキの魔力はいわば無色透明に近いので、何か変化があればすぐ分かりそうなものだが、これがなかなかわかりにくいのである。それを感じ取れたトールの感知能力も凄まじいのだ。


「正解です、コレーお嬢様すごいですね、すぐ分かっちゃうなんて」


誉められたと素直に受け取ってふにゃっと笑ったコレーに満足したデスカルは、一旦そこで話すのを止めた。ロキに付いては追々色々と分かってくることも多そうなので、まずはコレーの聞きたいことを聞こうというところである。


「んで、加護とか神とかについて、何が知りたい?」

「あの、加護で色があるって聞いて、何色なのかなって、思って」

「あー、色持ちか」


デスカルは神々の持つ色についての話を一通り思い返して、話し始めた。


「じゃあ、コレーお嬢様は神の色について何か知ってる色はある?」

「はい、ロキ神が白と黒、オーディン神が赤と青です」

「お、ちゃんと対で覚えてますね。そうそう、神の色は基本対になっているんです。トール神は紫と黄色とかね」


デスカルはコレーが知っているであろう神格の話から始める。

神々と呼ばれたある種の上位者たちは、神の外見というものが視認できるものとして普通に存在している。当然、外見は世界によってちょっとずつ異なる場合が多い。アヴリオスにおいては、神々の外見にまつわる色と、それとは別に神の色と呼ばれる特殊な配色が存在していた。


神霊の名を借り受けている、とされている加護持ちは、神霊の力を借りることも出来るとされている。それは神霊の魔力、いわゆる神力をその身に降ろし、神降ろしと呼ばれる状態になることだ。この神降ろし状態で、神霊から借りた力が加護持ち本人の魔力量を上回っている場合、神の色が発現する。色持ち以外はその神格の外見になぞらえられた色を呈するのが一般だ。


例えば、ロキたちがギリシャ神話と括っているゼウス神たちの場合、ゼウスは金髪赤目、ヘラは金髪碧眼、分かりやすい特徴があるのは軍神アテナの水色の髪とエメラルドグリーンの瞳や、武神アレスの緋色の髪とサファイアブルーの瞳だろうか。


一方、特段神降ろししているわけでもないのに生まれた時から神霊の外見と同じ色を発現している者もいない訳ではない。北欧神話、とロキが括っているオーディン神やトール神のグループは、プラチナブロンドに近い薄い金髪に日の光のような黄金色の瞳のバルドル神の加護持ち、バルドル・スーフィーがそのままの色を映している。この事実はデスカルたちがバルドル神のこともゼウス神たちのことも知っているからこその知識ではあるが。


「お母様の、メティス、は?」

「色持ちは確認されてないね。メティス女神本人は青い髪に青い瞳。水の精霊(ニンフ)の一種だったかな」

「知恵の女神でもあるっスね」


色持ちは特殊であるため、通常加護をくれるような神々は色持ちを持っていないことがほとんどだ。オーディン神とかトール神とかロキ神とか、ビッグネームばかり揃っているフォンブラウ公爵家がおかしい。


「プルトス兄様」

「プルトス神は明るい茶髪。俺は目を見たことはないですね。俺が知り合った時には既に盲目で、目を瞑っていました。恵みの大地、デメテル女神の息子ですね」


フレイ兄様。

フレイ神は豊穣神。見事な金髪に赤いグラデーションが入っていて、瞳は新緑で、とにかくキラキラしてる。双子の妹にフレイヤ女神が居る。


スカジ姉様。

スカジ女神は影の国の女王。影の国は冥界ではないことに留意されたし。

見事なブルネットの髪をざっくりまとめただけの印象が強い。脳筋気味なので戦衣装でいることが多かった。本人はスカサハと呼ばれ、英雄や英霊と肩を並べることを望んでいたけれど。


ロキ兄様。

ロキは小さな巨人族。人を揶揄うのが大好きで、自分の興味の無いことはとことん見向きもしない。肌が青く、夜空と見紛う美しい紺碧の髪を長く伸ばしている。瞳は赤く、本気で怒ると銀色になる。白と黒の色持ちが確認されてる。


トール兄様。

トールは赤い髪と青い瞳の戦神。雷を打ち鳴らし、聖なる鎚をその手に持つ。ロキと仲が良く、酒飲みで陽気で豪快。紫と黄色の色持ちが確認されている。


コレーが問うのは兄姉の加護。ヒントならあった。コレーが聞いているとはデスカルも思ってはいなかったけれども、ロキについて、彼のことを”黒”と呼んだのは他ならぬデスカル達だった。


「私は?」

「コレー女神は茶髪に新緑の瞳。コレーお嬢様よりもう少し黄色っぽいかな。恵みの大地のデメテル女神の娘で、芽吹きを司る」


では。


「……ペルセフォネは?」


コレーが口にした名前に、知ってたんだね、とデスカルは苦笑した。


「ペルセフォネ、冥王ハデスの后。ヘルが閉じ込められた今、冥界を回しているのはハデスとペルセフォネといっても過言ではないでしょう。まあ、ヘルという特殊権能持ちがいなくなったことによって管理はしやすくなったと思います。……彼女は、白からダークグレーへのグラデーションの髪と……夏の、酷く暑い夏の、炎天下の空の色の瞳」


彼女が生まれ育った場所は、冬より夏の方が作物が育たなかったから。


デスカルはそう言って、コレーの頭を撫でる。芽吹きの小さな権能から冥府の王妃へ。切り替わった権能の力の振れ幅はかなり大きい。


「何も不安がること無いよ。だってこの国、冬の方が厳しいから」

「大体植物なんて枯れてなんぼっスよ。夏に干からびるならその前に種を残して次の種への養分に。冬に枯れるならその前に極寒に耐えられる種子を残す。ほーら何の心配もねェ」


アツシとシドも言う。

加護持ちは加護と向き合うときに、考える。その権能は一体何なのか、力の使い方に解釈を添える。

コレーがコレーなりに、権能について考え、悩んでいた結果なのだろう。


聞きたいことが終わったらしいコレーはベンチを立った。


「ありがとうございました」

「どういたしまして」

「あの、コレーちゃん」

「はい?」


アツシがコレーを呼び止める。


「何で急に神について聞こうと思ったの?」

「えっと……」


コレーは少し視線を彷徨わせて、照れたようにはにかんだ。


「実は、婚約の打診があって」

「おあ。そりゃおめでたい」

「どの家?」

「えへへ……」


セネルティエ王国の方で、ハデスという方です。


おぅ、加護に影響受けまくりじゃねえか、とデスカルとアツシはツッコミを入れた。

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