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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年春休み編
153/368

6-4

2024/09/07 加筆修正しました。

早朝、目を覚ましたロキは、ロキの気配に気づいて起きてしまったレインと共に庭に出ていた。


夢見が悪かったのか、と問われれば、酷い顔をしていたのだろうな、と、検討くらいはつく。

なんとなくだが、あまりいい夢でなかったのは確かだ。内容などこれっぽっちも覚えちゃいないが。


「ろくでもない夢を見たのは確かだよ」

「……カル殿下も、かなり夢に悩まされてると言っていた」


レインはそう言って、ベンチに座ったまま、空を見上げた。

ロキといいカルといい、レインの周りにはまともな人生を歩んでいる者がいない気がする。


「カルも、か」

「内容を深く覚えているわけではないと仰っていたけどね」


ただ記録を眺めているだけのような感覚だったと、カルはレインに語っている。本来これはロキが幼い頃からカルと親しくしていく過程で聞いているべきものだったのだろうに。


「……15歳の誕生日は、ちゃんと殿下と過ごすんだぞ? 5歳の時も10歳の時も呼ばれなかったんだって泣いてたから」

「……ああ。もう平気だよ」


ロキとしては元々5歳の誕生日にカルを避けたかっただけだった。


「……10歳の時の誕生日に誰を呼んだんだ?」

「……はて。押しかけて来たソルとヴァルノスとロゼの記憶はあるが、誰か呼んだかな」

「……だよな、いとこの僕を呼ばないなんてありえないからな。僕呼ばれた記憶ないんだけど?」


お前ちゃんと誕生日祝ってる?

レインがロキに問う。


10歳の誕生日の際、ロキは普通に学校もあるため気にしておらず、過ぎてからソルたちに食堂へ引きずられていくような案件があったが、その時は、パーティはしない、とスクルドが言い出したのだ。アーノルドに何か用事が舞い込む確率が高いと分かったためだったのだが、アーノルドは最後まで諦めなかった。結局実際に急用、しかも重要案件が舞い込み、ロキの誕生日パーティは開催できないということになってしまったのだが。


アーノルドは長く家を空けても、王都にいる。が、その時は王都を出ねばならなかった。ロキの誕生日の1週間前に出て行って1か月間帰って来なかったのである。


魔物討伐にはそれだけの金と時間がかかる。特にフォンブラウが動くときは、後ろに草どころか命すべてが無くなると言わしめる火力を誇るため、再建費用が洒落にならない。

ましてアーノルドは無事でも帰って来た時獄炎騎士団の面々がボロボロになっていれば、そちらに集中させて良かったとロキは思ったほどだった。


回りくどい回想だがつまり、ロキの誕生日パーティはどう頑張っても開催できなかったしそれについてロキは後悔など微塵もしていない。


「……母上の予知が、重なったからね」

「ああ……あれはそういう事か。難儀だな」

「どうせ15歳のは国を挙げての青年期突入だ。誰も逃げられやしないさ。そもそも俺自身、お前の誕生日に呼ばれたことないけど? 俺のことばっか言える立場じゃないだろ?」

「ぐっ……」


ましてその時は俺を嫌っていたせいでしょう?

ロキが愉しげにくすくすと笑うから、レインは頬を膨らませた。


ロキちゃーん!

スクルドの声がした。そちらを見れば、2階の、スクルドに宛がわれている部屋の窓が開いている。

瑠璃色のスクルドの髪が風になびいていた。


「なんですか、母上」


ロキが声に応えれば、スクルドは笑って窓から飛び降りてきた。


「今日ギルドへ行きましょう! 今日は良い日だわ!」


何か良いことがあると視たのだろうな、とレインとロキは顔を見合わせる。


「そういえば、フリーマーケットは明後日だよな?」

「ああ。……こちらは手続きはいるのか?」

「分かんね。今日行ってついでに見てくる」


存外行き当たりばったりで生きていることが伺えるこのロキの対応にレインは笑みを浮かべた。

ロキ、という男は、その名を冠された神霊に違わずかなり計画性のない人生を歩んでいる。元々そういう奔放な生活の似合うタイプだ。ロキの外見を注視してしまうとそうは思えないのがすごい所。


もしも(ロキ)が本気で計画なぞ立てたとしたら。


――すまない


レインは振り返った。

声がした気がした。


「レイン?」


気付いたロキがレインに声を掛ける。

レインは目を見開いて立ち尽くす。


――貴方から姉も弟も、両親も、曾祖父も、奪ってしまって、すまない


聞こえているのは誰の謝罪だ?

この声をレインは知っている。


――身勝手で悪いな。それでも貴方には生きていてほしい


勝手にエゴを押し付けるな、という思いがふつ、と湧いた。

一体何に対する怒りなのか、全くレインには分からない。


そこに幻視した姿をレインは、覚えてしまった。

ああ、だからこんなにもロキに自分は腹を立てたり赤面したりするのだと思い知った。


嘆く声は遠い。


――何故お前が戻って来た

――何故お前を裏切った国に戻って来た

――何故この国のために死ぬ


それは聞き慣れた自分の声か。

もうそこに答えは返って来ない。


レインは両手を見た。

焦土の匂いを嗅いだ気がした。


「――レイン」

「!」


ロキの凛とした声に意識が引き戻される。

レインはロキに視線を戻した。


「それは夢だ。かつてのことだ。終わったことだ」

「――」

「レイン・メルヴァーチ、俺を見ろ」


本来ならばロキは慌ててしかるべきであろう。何故か何も言わず黙りこくって空を見ているだけのレインを、性格に引き戻す言葉を紡ぐことができたのは、ロキがきっと理解しているからに違いないのだ。


「……ロキ」

「なんだい」

「……しばらく一緒に居てくれるかい」

「ああ、いいよ」


スクルドは少し悲し気に目を細め、けれどすぐに気を取り直す。

スクルドには具体的な事象が見えたとしても、心の内を見ることはできない。


唐突に幻視された過去の情景を、レインはただ受け入れるしかない。

もうわかっている。

一体何があったのか、あの場面が一体なんなのか。


「……ロキ、一つだけ文句を言わせてほしい」

「……俺に記憶がないのは知ってのことだね?」

「ああ」


「――お前、いい加減裏切り者を助けるのやめろ」





伝え、られたかな。


水色の髪の青年は、銀髪の青年の遺体を抱きかかえ、水鏡に映った幼い頃の自分たちを眺めていた。


あの頃はまだ、彼は彼女のままだったなあと、そんなことを考える。

きっともうじきここは崩れ落ちることだろう。それが正しい。そうでなければならない。

ここを守ろうとした彼には悪いのだけれど、これ以上こんなものが紡がれていくのは、嫌だ。


無くなってほしくないと願っていて尚、この世界が崩れ落ちると分かっていたとしても、それでも諦めずにいられるかと聞かれれば、おそらくこの銀髪の青年は「無理だ」と答えるだろう。

諦めて当然だと答えるだろう。

――たった一度でも僕たちの前で諦めたことなどないくせに。


銀の髪が風に靡く。きっともうじき冷たくなる。

銀髪の青年はきっと諦めない。それは彼を助けられないことと同義であった。崩れ落ちる世界を諦めさせることはできないんじゃないか、そんな不安があるから何も知らぬままこの同じ道を辿り続けるのだ。スタートとゴールは変わらないので、道中が多少変化するだけ。


「その結末が、王族の裏切りか。ならば僕はけして認めない。たとえ君の決定だろうとね」


君こそ国母にふさわしかった。

自由奔放なうえにプライベート空間では実は一人称が俺だったり、実はものすごくサディストで気に入った人間は徹底的に虐めてみないと気が済まないのであるとか、多少なりとも問題点はあった。本当はあのひろいんとかいう奴らも気に入っていたんでしょう?


カル殿下と結婚したくなかったんでしょう?


けれど自分の意見を押し通すことはなく、一線を越えることはなかった。

なのに嵌められて国外追放の憂き目にあった。


最後、ひろいんとか呼ばれていた女の表情が醜く歪んだのを見た。

なのに君は笑っていたね。出て行くときにこう言ったね。


――やっと解放された。いやー、男と結婚とか死んでもごめんですわ!


そして君は国外に行って消息を絶ってしまった。

シド・フェイブラムはあえて残り、ゼロ・クラッフォンは君について行ったね。

そしてたった2年後、この戦争でこうして君は死んだ。


青年の回想など、もう意味などないのだと知っていても。

誰か、繋いでおくれ。

その誰かがいないから、自分がやるしかなかったのだ。


肌の一部が炭化したいとこを、レインは自国の王子たちに見せなかった。彼を、ロキ・フォンブラウを捨てた愚かな王子たちに、こんなにも美しい彼と最後の時など過ごさせてなるものか。


「……ロキ、次はちゃんと生き残ってくれよ」


他の世界線とやらでは知らないが、少なくともこの世界線の王子たちは王と敬うに値しない。レイン・メルヴァーチはその回想を最後に目を閉じた。


世界にひびが入る。すべてが割れ、砕け散り、闇へと還る。


「こんなはずじゃなかった」


「こんなの認めない」


さあ、もう一回。


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