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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
15/368

1-14

2021/06/30 大幅に修正しました。

ロキの誕生日パーティが無事に終わり、ロキは正式に家庭教師の指導のもと、勉強を始めた。今の今まで、ロキ自身があれだけ喋れるとはいえ、5歳未満だったのだ。家庭教師が付くのは大体5歳からであるので、ロキは別に遅くも早くもない。むしろ7歳を迎えてなお家庭教師が見つからなかったプルトスの方が問題になっているだろう。ロキのためにと連れてこられた彼女ではあるが、プルトスに家庭教師がいなかったこともあり、プルトスを優先させることになっていたのだった。そしてロキが5歳になった今年から、プルトスの授業以外にロキの授業も開始される。


アンリエッタ・ブラスティは、アーノルドの学友であり、A級の魔術師でもある。他の貴族子弟の家庭教師の経験もあるとのことで、アーノルドが彼女に仕事を頼むのは時間の問題だっただろう。


顔合わせの時、ロキはアンリエッタの印象を「優しそうな人だ」と思った。柔らかな若竹色の髪と瞳の、風属性を扱う魔術師。異名の類も存在するはずだが、教えてくれなかったのでアンリエッタ先生、とだけ呼ぶことにした。


そして、アンリエッタが来たことによって、一つだけロキの生活で変わったことがある。



「今日はここまでにしましょう」

「ありがとうございました」

「ロキ様は勉強がお得意でいらっしゃいますね」

「何かを知ることはとても楽しいのです」


アンリエッタの授業は現在、文法、算数、歴史の3つがメインだ。もっと大きくなったら詩や楽器、ダンスや刺繍なども教えるとは言われているが、今はまだ基礎だけで十分だとのこと。魔術はいつ頃ですかと問えば、早くても10歳ごろ、魔力が発現してからだと返され、魔力の発現が普通は10歳前後であることを知った。スクルドやアーノルドが大慌てしていたわけだ。ロキは現在封印を掛けられているとはいえ2歳で一度魔力を発現してしまっている。その辺りについてはアーノルドがリウムベルやガルーに尋ねるようにとロキに先に言ってくれていたので、アンリエッタに問うことはなかったが。


しかし、アンリエッタはロキが普通の子供よりも魔力の流出傾向が強いことに気付いていた。会ってすぐにかなり調べられた。ドウラの封印があるとはいえ、完全に流出を止めてしまっても身体に悪いので、ある程度遊びがある程度の封印なのだが、アンリエッタほどの実力のある魔術師になると、どんな術に掛かっているのかはわかってしまうようで、こんな小さい子に封印を掛けるなんて、イミットの長は何やってるんだとアーノルドに言い募っているのを聞いたことがある。


「アンリエッタ先生はこの後どうなさるのですか?」

「うーん、今日の分は終わってしまいましたから……どうしましょう、刺繍でもしましょうか?」

「……お帰りにはなられないのですね……」

「当然です」


ロキがジト目になる。アンリエッタは、本来ただの家庭教師のため、家から通いで来るとか、授業が終わったら帰るとか、普通ならそうなるはずだった。ロキ自身別にアンリエッタを嫌ってなどいない。けれど、夕食にまで同席するこの家庭教師、余程アーノルドとスクルドと仲が良かったと見える。


「ロキ様がこの薬を苦手とされているのは存じ上げております。しかし、飲んでいただかなくては困るのです」

「うう……それ、すっごく苦いです! せめてもうちょっと甘くしてくださいませ!」

「私の魔力では無理ですね!」

「えーん」


口だけで泣き真似をして、ロキは苦笑を浮かべた。それを見てアンリエッタも笑う。


アンリエッタが下した結論は、ロキには薬が必要だ、という事だった。最初アンリエッタにロキが転生者だとは伝えていなかったのだが、薬、という言葉に反応したのを見て、アンリエッタはロキが転生者ではないかと見抜いた。


ロキはアンリエッタの授業を受け始めて半年経つが、今でも覚えている。


――幼い()()が“薬”を知っている! 転生者ですね!? 


強烈だった。たったそれだけでバレるもんなのかとロキ自身驚いたが、スクルドの驚嘆とアーノルドの鉄仮面が崩れたのを見る限り、()()というものは基本薬の世話にはならないらしいことは分かる。


そういえば、とロキは思い返した。プルトスはあまり顔を合わせないので何とも言えないが、フレイもスカジもトールもコレーも、食事の時に一度でも欠席したことがあっただろうか?


結論は、無い、である。ロキは2歳の頃の一件以来、ちょくちょく熱を出して食事を摂れないことがあったのだが、他のきょうだいはそんなことなかった。過労だなんだと言いつつアーノルドが本当に倒れたところ等見たことも無いし、いつ寝てるんだと問いたくなるほどフレイとスカジは剣を振り回している。スクルドが夜出歩いているのも見たことがある。


――もしかしてうちの家族滅茶苦茶丈夫なんじゃね?


それくらいはロキだって考えたことがあった。だが、答えを持っている者はこの家の中にはいなかったのだ。いや、居たのかもしれない。詳細な正体が不明のアリアなら、何か知っていたかもしれない。けれど、吸血鬼の基準で話されても、と思って問いかけなかったのはロキだった。


結果、アンリエッタが来るまで、ロキはこの家の中では病弱な方の部類の人間として扱われることになっていたのだが、アンリエッタに詳細を見てもらってようやく判明したことが、2つ。


まず、このフォンブラウ公爵家、及びスクルドの実家であるメルヴァーチ侯爵家は、人刃族と呼ばれる人型の魔物の血族であるらしい。リガルディアは王家が竜の血を引いているので、配下が魔物の血を引いていてもおかしくはないだろう。とりあえず、物理耐性が高く魔力も持ち合わせていることで有名な魔物だとのことだ。


そんな丈夫な人刃族は、基本薬どころかポーション(所謂回復アイテム類)さえほとんど使用しないため、人間と関わるようになってからしかその名前を覚えない。学校を出た貴族の人刃たちは名前と効能くらいは知っているが、ロキほど幼い人刃が薬と聞いて反応をするのはおかしい、とのことである。


次に、そんな人刃だからこそ、ロキに薬が必要な状態であることを判断する基準が存在していなかった、とのことである。ガルーたちはそんなこと言ってなかったぞ、と言うアーノルドに、人刃と吸血鬼と人狼は同類なので基本薬も医者も要りません、とアンリエッタが返し、とりあえず専門知識がある人でもわかりにくい症状だから門外漢じゃ余計分からなかったってことですね、とロキがまとめれば、そうです、とアンリエッタは頷いた。


今すぐ薬を作りますから、アーノルドの工房をお借りします、とアンリエッタが嵐のように去り、それ以来ロキに薬を作ってくれるようになったのだ。ただし、すごく苦く、ロキの舌には合わない。ロキ的には青汁をさらに苦くしたような飲み物で、飲んだ後はロキの全身の毛が逆立っていたりする。しかもかなり効果がきつい薬らしく、食後に飲まされる。しかも苦みが長く舌に残り、口直しどころの話ではなかった。


ロキは中身がそれなりの年齢であるため飲めているだけだ。けれど、ロキがアンリエッタ先生特製青汁、と呼んでいるこれは、この半年間ロキが発熱で寝込むのを抑えてくれていた。


「ロキ様は薬の効果をお伝えすれば我慢してくださるのでとても助かっております」

「はは、私だって死にたくはないんですよ」


ロキは氷属性のスクルドと火属性のアーノルドの血統を受け継いだためか、気温の変化、体温の変化にもかなり鈍感で、倒れるのは決まって体力の限界が訪れてから。これではだめだとアンリエッタが言うのもやむなしである。人間でいうところの、2週間に一度は寝込むレベルの虚弱さだそうである。


人刃族でこんなに倒れているのはヤバいらしい。


「人間でいうところの少し丈夫な人くらいの体力があるので分かり辛いですが、本当はもっとお休みを増やした方が良いくらいなんですよ。動かないと体力がつかないのでお止めしませんが」

「アンリエッタ先生は上手く落としどころを見つけてくださるので助かっておりますわ」


ロキの言葉にやれやれとアンリエッタは肩をすくめた。

ソファにしっかりロキが身体を沈めて、アンリエッタと一緒に刺繍を始める。本当はもっと後から教えるつもりだったんですけれど、やることがないから仕方がないですね、とアンリエッタは笑った。



「ロキちゃーん、アンリエッタ、入っても大丈夫かしら?」

「はい、大丈夫ですよ、母上」

「大丈夫でございますよ、奥様」


ロキとアンリエッタの刺繍が少し進んだところで、スクルドが声を掛けてくる。なんだろう、とロキがスクルドに視線を向けると、その手には手紙が握られていた。


「招待状かしら?」

「ええ、さっきガルーが持ってきてくれたのだけれど、ロキちゃん宛よ。一緒に見てみましょう?」

「はい」


刺繍道具を片付け、退席しようとするアンリエッタをスクルドが引き止める。ちょっと見ていてほしいの、とスクルドが言えば、アンリエッタは諦めたようにソファに沈んだ。学生時代からそうだけど、スクルドが引き止めるってことは何かありそうってことでしょうね、というアンリエッタに、ロキは苦笑を返すしかなかった。


カイゼル伯爵家から贈られてきたというその招待状は、上品な白い便箋に、不思議な模様が描かれていた。手書きのようだが、ロキはそれを見た瞬間、目を丸くする。


ロキはこれまで、基本的に茶会を断っていた。長時間令嬢のフリをするのがキツイと感じるようになってきているためだ。無論、何故かまでは分かっていない。アンリエッタの見立てでは、ロキの転生前の性別が男だったことと、何らかの術に掛かっていることによる反動がこのような形で現れたのではないかという事だった。


「ロキちゃん、これって……」

「行きます、このお茶会」


そんなところに降って湧いたお茶会の誘い。カイゼル家は親戚筋ではないのでロキの誕生日パーティには呼んでおらず、これまでに接触したことは一度もない。


「大丈夫?」

「大丈夫ですよ母上、これロゼが一枚噛んでいます。問題ありません」

「……ロキちゃんがそこまで言うのなら、大丈夫ね」


ロキとスクルドの結論が出たところで、アンリエッタは手紙の縁の装飾に目を走らせて、驚いた。これは、と小さく呟いたのを拾い上げたロキが、しーっ、と笑って制止したので、アンリエッタは何も言わない。


「早速お茶会に行く支度をしなくっちゃね!」

「2週間後だそうですので、ひとまず服選びからですね」

「そうね!」


ロキが家の外に出ると言ってくれて嬉しいらしいスクルドの興奮は、夕食を食べ終わっても収まらなかったのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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