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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年後期編
147/368

5-30

2024/08/03 改稿しました。閑話としていた内容を含めメインストーリーに組み込みました。

リガルディア王国は周辺国から”竜王国”と呼ばれることがあるほど竜種との関りが深い国家である。

王家に竜種を頂いているので関りが深いのは当然だが、生活の中にも竜種が良く馴染んでいる。


例えば、移動手段の最上級のものは専ら竜を使う。分かりやすいものは竜車である。馬車の竜が牽くタイプのもので、とにかく移動が速く、牽くモノが重くても問題ないため豪華な車を牽いていることが多い。リガルディアでは他国の王族を乗せることが多いが。また、竜種であるため死徒を恐れず背を見せることができるため、死徒の血統を継いでいる国内の貴族でも乗ることが可能だ。


アーノルドの外交に関する報告書を読むと、定期的に「馬車に乗れなかった」や「徒歩の方が早い」などの感想らしきメモが追加されていることがある。この従兄弟の小さな愚痴を見るのがジークフリートはお気に入りなのだが、別でメモになっている所を見ると、恐らくアーノルドが報告書に紛れ込ませているのではなく、アーノルドの報告書を運んでいる部下がメモを一緒に持ち込んでいるとみられる。アーノルドの次にその国家に行くのは確かに部下たちなので、馬車が利用できるかどうかは結構問題だったりするのだ。


竜車はいくつか種類があり、陸路の竜車以外に空路の竜籠、水路の竜船がある。リガルディアで最も発達しているのは実は竜籠だったりする。これは大陸イミットの本拠地を抱えているためだ。イミットは子供を背に乗せるのではなく籠に入れて運ぶ。何故なら彼らの子供は人型だったり竜型だったりで定まらないためだ。イミットたちも竜の姿になると腕の無いワイバーン型の個体も存在するため、なんだかんだ籠を付けた方が都合が良かったのもあるのだろうが。


ジークフリートが確認しているだけでも、アーノルドに竜車を出さなかった国家は3つある。アーノルドは臣籍降下した元王女の息子であるため、アーノルドに竜車が出ないということはそもそも持っていない可能性が高い。某帝国は、竜車の意味が既に変わってしまっているので何とも言えないところだが……。


アーノルドは現在、一番下の子以外は学園に入ったのでだいぶ外交関係でこき使われている。こき使っているのはジークフリートだ(だって一番良い結果を持ってくるんだもの)。

あと2年でさらにこき使われるようになり、さらに3年経てばアーノルドの外国への出張はさらに多くなっていくだろう。王族の血を引いていて、尚且つ人間の”話術”スキルや”交渉術”系のスキルに対抗できるのがアーノルドしかいないので必然的に働き詰めになるのだ。


ジークフリートもそういうスキルを持っていればよかったのだが、持っていないので致し方ない。アーノルドを傍に付けての交渉が多く、そうでなければ嘘看破スキルを持っているロマーヌに頼ることになる。

ロマーヌはもともとアーノルドの右腕として王宮魔術師団の隊長格を務めていた女性だ。ジークフリートの母親はゴルフェイン公爵家出身で、あまりじっとしていられるタチではない。実はロマーヌを迎え入れたのは母親の助言によるところが大きかったりする。


魔物や死徒に対応できる馬といえば“ノクターン卿の戦馬”が有名だが、こちらはリガルディア王国ではよく使われる陸路の移動手段となる。人間の御者が扱うのは難しいので、亜人や魔物混じりが御者をやっていることが多い。リガルディアでは見慣れた光景だ。


ジークフリートは各公爵たちから上がって来た報告書に目を通す。リガルディアに限った話ではないのだが、ロキたちのような転生者が多い時期は、どの国家でもよくわからないものが発明されることが多い。明らかに危険なものから、なんだこれといわれそうなものまで様々だが、とにかく今の技術体系でよくもまあ作ったなと言いたくなるものまであるのが特徴である。


ロキが作った”リンクストーン”などもその代表格だ。以前からあれこれ連絡手段については考えられていたし、【念話(テル)】のような魔術だって存在しているのだが、何せ闇属性だし長時間使うとかなり精神的に疲労が溜まるので、長時間の通信が可能なリンクストーンの開発というのはかなり画期的な事だった。魔道具としてロキが作成したこれは今はフォンブラウ家で獄炎騎士団に配布され運用されているらしい。


運用データが上がってくるのが楽しみなところだが、逆にそれだけ信用できる者と共に運用していく必要はあるだろう。そこは公爵たちの方が得意なので王宮で運用できるかはわからない。


竜車も最初は転生者による発案だったという記録が残っているので、転生者ってホントなんでも思いつくよなとジークフリートは発明品の歴史に思いを馳せた。



アーノルドは部下から上がって来た報告書に目を通し、訂正箇所のある書類の差し戻しを指示し、一旦休憩に入る。


「閣下、お茶をご用意いたしましたが、甘味もご一緒にお持ちしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」


アーノルドの執務室に付いて来ることができるのはガルーのみだ。執事(ガルー)ハウスキーパー(リウムベル)両方が居るからこそできる芸当ともいう。ガルーがグラス入りの紅茶と小さなケーキを一緒に運んできた。紅茶はフォンブラウ領で珍しく生産体制を整えることができたチャノキを使用している。


「……これは?」

「ロキ様の発案でケーキのテイクアウトを受け付けていますでしょう? ケーキのカットの小型化による食べ比べのようなパッケージ案を新しく運用中のようで。面白そうだったので買って参りました」

「……ほう」


ガルーが皿に盛り付けてはいるが、元々は小さなケーキを複数好きに選んでテイクアウトできるものであるらしい。入れ物だったらしい白い箱は魔物の皮から作られる紙で作られているようで、よく見ると冷却・保温の魔法陣が描かれている。


「……入れ物がゴージャスだな?」

「氷を入れての持ち運びは大変だろうということで、ロキ様が考案されたようですね。他にもいろいろやっておいでのようですから、たまにはそちら方面でロキ様とお話をされても良いのでは」

「……そうだな」


何だか三男が面白いことしてるじゃないかとアーノルドの魔術師としての研究意欲が首をもたげた。アーノルドはもともとアウトドア派ではあるが、研究者としてあれこれつつき回したい意欲も持ち合わせている。ロキは色々な意味でアーノルドに似ていると言えた。父親の意欲を刺激するようなものを弄り倒しているのはもうこれは遺伝だと家臣一同考えているくらいなので。


アーノルドが口に運んだケーキは四角くカットされたガトーショコラで、程よい控えめな甘さと冷たさにアーノルドはこのケーキを気に入った。チョコレートが使われているので高級ケーキなのは間違いないだろうが……。


「冷たくて美味い」

「それはようございました」


紅茶もしれっとアイスティーなので暑がりのアーノルドのためにガルーがあれこれ手を回してくれていることが伺える。


外交関係の決定権を持っているのはアーノルドなので、書類が集まってくるのは致し方ない。王宮内部のジークフリートが信用できる相手の選定やらなんやらも並行して行われている現状、アーノルドのようにジークフリートが特に深く考えずに信用できる相手というのはとても貴重だ。結果的に重要書類が集まってきやすい位置にアーノルドは居るという事である。


「……そういえば、ガルー」

「どうなさいましたか」

「メルヴァーチに行く日程の件なんだが、別件が入った」

「おや……それは」


アーノルドの言葉にガルーは少し考え込んだ。

アーノルドには妻が2人居る。第1夫人のスクルドと第2夫人のメティスである。スクルドは現メルヴァーチ侯爵の姉であり、メティスの方は元々平民であった。


メティスの実家についてはアーノルドもよく知らない。そもそもリガルディア出身ですらない。リガルディア王国の貴族は最も強い子が継嗣になるので第1夫人の子か第2夫人の子か自体はあまり問題にならない場合が多い。とはいえ、それだと基本的に人間の子供は不利になる関係か、第1子を継嗣にするという方針を取ろうとする家もある。その場合は認められる場合もあるが、基本的には一族から課された魔物の討伐が家督を継ぐのに必要な条件だったりするので、家によってまちまちというのが正しいだろう。


フォンブラウ公爵家はガントルヴァ帝国との関を管理する役目も担っているのでそもそも魔力量が一定以上あること、血統魔法が使えること、強いことの3つが継嗣の条件となっている。

侯爵以上の家だと割とよくある条件だ。


さて、メルヴァーチ侯爵家はスクルドの実家であるため、スクルドとその子供たち、夫であるアーノルドが行くのは全く問題ないのだが、問題はメティスとその子供であるプルトス、コレーである。

今回はフォンブラウ公爵領への帰省だけでなくメルヴァーチ侯爵家への帰省をしようとしていたので、皆で揃って行こうという話になっていたのだ。アーノルドが仕事で帰省できないとメティスが肩身が狭い。

気にする必要はあまりないかもしれないが、アーノルドが居ないなら王都に残る方をメティスは選ぶだろう。


「……ガルー、スクルドとメティスにどうするか聞いてきてくれ」

「畏まりました。因みに、閣下が拘束されるのはどれほどで?」

「分からん。早ければ3,4日だろう。長ければ7日ほどか」

「畏まりました」


そこまで伝えてどうするか決めてもらいましょう、とガルーは独り言ちて、使いを遣るために一旦退室していった。


「よう、アーノルド! 休憩中か!」


ガルーが出て行ったのと入れ違いで、バァンと大きく執務室のドアを開ける大男が1人。


「……ジークも休憩中かね」

「おう」


淡い赤みの掛かった金髪を揺らして入ってきたのは国王ジークフリートだった。ジョンキルの瞳が煌めく。


「休暇に日程被っちまって悪いな」

「いや、仕方ないだろう。こればっかりは、な」


これでもあれこれ調整した結果なので何とも言い難い所である。まあ、子供の休みは大人の休みとは違うという事だ。


ジークフリートの手にあった書類に気付いたアーノルドがそれは、と尋ねると、ほい、と手渡される。アーノルドが書類に軽く目を通すと、薬草の物価リストのようだった。


「……クフィ草はやはり値上がりしているな」

「ああ、かなりの値上がりだな。お前が備蓄しとけって言ってたからまだ在庫はあるが、ポーションの流通に関わってくるだろうな。帝国の方じゃこんな値上がり方じゃないらしいな?」

「ああ、リガルディア国内のクフィ草の在庫も帝国の商人が買い付けに来て目減りしているからな」

「レベッカ卿がある程度抑えてくれてこのざまだからなぁ。冒険者もロルディアとエングライア媼の領域被ってるところで薬草の採集は嫌がるし」


アーノルドはロキが珍しく口を出してきていたクフィ草についての話を思い出していた。恐らく前世で同じことが起こるような知識を持っていたのだろうが、クフィ草に関してはエングライアからも似たような話を何度か持って来られていたのでよく覚えている。もしかすると、エングライアも分かっていてアーノルドに言ってきたのかもしれない。


「……ファルツォーネ伯は、領地も無いし、仕事振ってもいいんじゃないか」

「……いいかもしれない。若いし、いい経験になるかもしれないな。レベッカ卿に付けてみようか」

「ああ、風にしてはいい感じに落ち着いてるしな」

「ファルツォーネ侯爵に似たんだろう」

「かもしれんな」


ロキたちから改めて話を聞く必要性も視野に入れつつ、アーノルドはレベッカへ回す仕事のまとめを始める。ジークフリートの目に小さなケーキが止まった。


「アーノルド、このケーキなんだ?」

「ウチの店で出しているケーキだ。食べ比べのようなものらしい」

「へー。なんか箱に保温とか冷却とか描かれてんだけど」

「保冷のためにロキが色々試行錯誤しているらしい」

「ロキ君色々やるのなぁ」


1個もらい、と勝手に小さなケーキを1つ摘まんだジークフリートは、んまい、と素直な感想を述べた。


「そういやそろそろ終業パーティも終わる頃か」

「もうそんな時間か」

「ああ。ロキ君たち呼ぶの?」

「いや、ガルーにスクルドとメティスに確認を取らせている。ロキたちはすぐ出立準備をさせるから、ジーク、カル殿下にロキが持たせている石を借りられるだろうか」

「あー、耳に付けてるあれ?」

「ああ」

「分かった」


アレもうちょっと普及させてほしいなあ、とジークフリートは言う。

通信技術というのはやはり戦闘職の人間がかなり反応を示すものだ。


今後が楽しみさ、と笑ったジークフリートは、リンクストーンをカルから借りるために退室していく。また入れ替わるようにガルーが入室してきた。


「閣下、奥様方から御返事がありました」

「どうだった?」

「スクルド様の方で対応してくださるとのことでした」

「助かったな……」


ほう、と息を吐いたアーノルドは自分が抱えている大きな問題をひとつ思い出し、すぐに思考の隅っこに追いやった。


「どうかなさいましたか?」

「……いや。スカジの婚約の件を思い返していただけだ」

「あぁ……」


アーノルドと共にガルーも遠い目をする。王家を飛び越えてスカジに婚約の打診が来たのは記憶に新しい。王家の女児は第1王女アリシアと第2王女ソフィアの2人だ。アリシア王女は既に婚約が決まっており、ソフィア王女はまだ婚約はしていない。少々齢は離れているが、一回り程度であるし、他の王族の娘たちを飛ばしてスカジに来たのはアーノルドとしては由々しき事態だったりする。


「……どういうつもりで言い出したのかを問い質す必要はありそうだな」

「直接お会いできるとよろしいですが」

「……次回どうにかする。贈答品選びは任せても?」

「畏まりました」


スカジを嫁に、と望む人物――ガントルヴァ帝国第2皇子、オーディン・フォン・ガントルヴァ。

一度しっかりと話す必要がありそうだ。


スカジは戦女神の加護持ちである。皇妃になってはいけない。戦神、軍神は戦争を呼ぶからだ。リガルディア王家でも王妃がロマーヌで第2妃がブリュンヒルデであるのにはちゃんと理由がある。ブリュンヒルデ第2王妃も戦女神の加護持ちだ。


スカジが嫁にやると他にもいろいろと考えるべきことがある。アーノルドはひとまず目の前のあれこれから片付けることにした。

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