表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年後期編
140/378

5-23

2024/06/22 加筆修正しました。

ロキたちが鋼竜の巣に着いた時、太陽は真上にあった。


狭い道、とはいっても人間が2列で歩くことができるほどの広さはあるのだが、そこを抜けると少し広がった道と、壁面に空いた沢山の穴を見ることができた。


風が吹き抜けていく。ロキはその風景に既視感を覚えた。

いつかどこかで見たことのある光景に見えたのだ。

それが一体なんなのかを考える気は、ロキには無い。なぜならば、それが一体どこからくる記憶なのかなど、大体想像がついたからである。


「じゃあ、中を確認してもらってから入るぞぉ」

「行ってくる」


リズのパーティが残り、先頭に秀でたルガルのパーティが壁に空いた穴へ足を踏み入れた。ロキは大半が闇属性であるが故か、その穴の中を見ることができるのだが、何も言う気はない。


20名足らずの生徒達は各々休息に入り始めた。

ここには満12歳から満15歳までの生徒がおり、ロキたち1年生は10人ほどが参加している。魔物学そのものは選択必修であるため、魔物が好きという生徒以外は概ね他の科目を選んでしまうのが常のようだ。もっとも、今回のような遠出の演習には親の許可も必要なので平民や資金を捻出するのが難しい家の生徒は来ないことが多いのも事実なのだが。また、中等部では選択必修のこの魔物学も、高等部では必修科目となるため、もうそこで学べばいいじゃんくらいの感覚の生徒も多い。


カルとロゼ、セトとハンジとオート、ロキとソルとルナ、エリスとナタリアとレオンといった小さなグループで休息に入り、少しして戻ってきたルガルから報告を受ける。


「とりあえず、中にはなにもいねえ。先に一度ギルドの方で調査団も出してたしな」

「後から魔物が入り込む可能性だって零ってわけじゃねえからなぁ。なあに、警戒するにこしたことはなねぇよ」


ハインドフットは朗らかにそう言い放って、んじゃ行くかぁ、と、一番大きな穴に歩を進めた。


元々鋼竜というのは岸壁に巣を作るが、基本は洞窟みたいなものを掘る。その為には多少の足場が必要で、こうして人間が通る山道などがあると、そこを足場にして巣を掘ってしまうことがある。


道の途中が広くなっているのはおそらく元々人間が休憩所として使っていたのであろうとロキは思っている。そんな場所を足場にしないわけもなく、ここには鋼竜の巣が掘られた。それ以来人間は寄り付かなくなった。そんなところであろう。


「前来た時は魔力結晶が大量に在ったんですよ」

「鋼竜がいたならそうだろうなァ」


リズの言葉にシドが呟く。

ロキは袋を虚空から取り出した。今回のメインイベントである。


「では皆さん、まずは鋼竜の素材の回収にご協力お願いいたします」


ロキが言うと同時に、皆が返事をして、魔術で灯を付け、鋼竜の進化に必要な素材を集め始めた。


今回の演習の一番の原因は、セトとシドが孵した鋼竜の子供なのである。コウとコンゴウは、本来親の魔力を貰って育つはずの鋼竜を単独で孵してしまった。結果的にとても成長が遅いのである。

とんでもなく速い成長速度を見せつけるように巨大化していっているロキのフェン以外も、それなりの成長速度を見せていた。ソルの双頭蛇竜(アンフィスバエナ)も既に1メートルほどに成長しているし、エリスの双頭番犬(オルトロス)も体長が1メートルほどになっている。ルナの殺人兎(アルミラージ)はそもそも小さいのでそこまでわからないのだが、レインの翼竜(ワイバーン)もあっという間に1メートルを超えたのを考えると、鋼竜の子供がいくら成長が遅いとはいえ、大体の魔力が足りないのではないかという話が持ち上がってもおかしくはないのである。


鋼竜は2匹いるため、素材はかなりの量が必要になるのは明白で、故にロキは今回皆の協力を先に取り付けていた。他の素材は基本的に自分で回収したものは自分で持っていていいことにしてある。


「一応聞いておきますが、近年ドラゴンに使われた形跡はないのですよね?」

「はい。死徒が来ただけで終わりですね」


ロゼの問いにリズが答えた。

竜族と死徒たちがまだ和解する前に使われていた巣なのであろう。死徒に食われたらしい齧られた痕のあるドラゴンの骨をいくつも回収したとリズが語った。


「ドラゴンも食われるのか……」

「案外ドラゴンは食われる。特に、将来的に強力な個体ほど基本的にチビの頃は弱い、から」


カルの言葉にゼロが答えた。

ロキは思う。不思議な世界だ、と。


前世の世界では同じ種からは同じ種しか生まれてこなかった。どう足掻いたってトカゲから猫は生まれないし、鳶は鷹を産まない。しかしそれがこちらの世界ではもしかすると普通に起こる。


ドラゴン種は基本的に、弱い個体から始まった種でも、後々に続いていく場合がある。それは、彼らが生きているうちに進化を起こしたり、子供が別の何かの影響を受けることもあるが、最も大きいのは、おそらく彼らの種族自体が生き延びるために地球の生物と同じように、少しずつ身体を変え、方法を変え、生き残ろうとすること。進化の概念がアニメや漫画で示される方の進化と大差ないこの世界において、地球での進化は進化ではなくただの変化として扱われる。一世代の内に劇的な身体の変化が伴うものを、進化と称するのである。


ロキがぼんやりと足元をつついていると、ふと視界にきらりと光るものが見えた。

それに視線を移すと、そこには、気泡を含んだガラスのような球があった。


「……宝玉、か」


宝玉と呼ばれるものは、魔物の体内に稀に出来上がるもので、種族ごとに色や大きさが異なる。


ドラゴンの場合は宝玉のみで意思を持つとすら言われる。


竜帝の許へ集う意思はあるか。

ロキはふと、そんなことを問い掛けそうになった。

傍から見れば意味が分からないだろうが、ゼロなら理解はしてくれるだろう。


ロキはともかく宝玉を回収して亜空間へと放り込んだ。

自分が回収できたということは、おそらく自分には回収されてもいいと考えたということであろうから、と。





はてさて、ところで、一番大きな巣穴にロキたちがいるだけで、他の巣穴に素材がないわけではない。ゼロとシド、そしてルガルたちはすぐ上にある巣穴に登っていた。岩肌に容易く薄緑の金属でできた梯子を掛けたシドにルガルたちの表情が引き攣ったのも無理はない。


シドは何も言わずにあっさりとやってのけたが、これは彼が金属精霊の最高峰たるメタリカだからできることである。


「梯子にミスリルを使うとはどういう神経してんだ」

「有り余ってんだよ。世の中辛いこと多すぎてよォ」

「ああ、苦痛に応じて金属生成するんだっけか……」


シドが簡単に10メートルほどの梯子を作ったことに驚いたのは彼らだけではないが、ロキが何の反応も見せず気を付けてな、とだけ言ったところを見ると、金属生成の仕組みを彼は詳しくは知らされていないのであろう。


「……シド、お前そんなに……」


ゼロが口を開いた。


「あー、勘違いすんな。俺の場合、前世もその前もその前の前も、思い出すときに結構強烈な苦痛が伴う。あっちじゃ仲いいのにこっちじゃ殺されたりすっからな。こんなミスリルの量、ロキに会ってから生成する暇ねえわ」

「よかった」


ロキに会ってから俺が苦痛なんて感じてるわけねえだろ。


シドは笑ってそう言うが、実際の事情は違う。

ゼロはそちらは気にしないでいてくれたようだが、ロキがいればツッコミを入れられてしまっていたことだろう。


シドはもう、痛みの感覚が麻痺していた。

それでもこれだけの量のミスリルを生成するということはつまり、それだけの、ミスリルに匹敵するとメタリカたちの基準で判断された何かがあったということに他ならない。


精霊としての機能に問題はない。

けれども、その肉体に入ってから経った時間はやはりまだシドだって13年程度なわけであり、ロキの魔力回路よろしく理由があってイレギュラーを起こしたわけでもないのだから、金属の量がこれだけ溜まっているのはまたおかしいことでもあり。


そして何よりも、シドは何も言っていないではないか。


なぜ彼がミスリルを使ったのか。

理由など単純だ。


彼にとって持っている量が多かったのがミスリルだっただけである。


シドの契約精霊名はアウルムである。これは“金”、元素記号で言うところのAuを表す言葉から呼び名に充てられている名である。

しかしだからと言って、シドがいつ、金しか生成できないなどと言ったのか。


ミスリルしか生成できないと彼は言っただろうか。


否。


つまるところ、シドは皆にまだ金属生成能力の一角すら見せきってはいなかったのである。

ロキはそれに気付いているだろうなとシドは思う。それをわかっていてあえて何も言ってこないところに一握の彼の優しさと性格の悪さを感じる。


「ゼロ」

「ん?」

「ロキに弱点聞かれた時は絶対に答えんなよ」

「……何故」


シドはゼロに告げる。


「信用無くしたってことになる」

「……!?」

「強い奴は信用する、弱い奴は信頼する。それがロキの基本スタイルだな。こうするって知ってて分かっててその際は手をいつも見てやがる。弱さを、見せてもいいが、答えるな、ロキを頼るな。テメエがしっかりしてりゃあそもそもロキはあそこまで駆け足に人刃に成ったりしなくて済んでたはずだった」


このシドの口ぶりは、経験したのだろうな、とゼロは思う。

その世界線の自分はものすごくふがいないのだなとも思った。


今のゼロからしたら、もう、ロキに負担をかけることなど考えられない。その時の自分を殺してやると思えるほどには、ロキに入れ込んだ自覚もある。出会った瞬間から感じるものがあったのだから致し方ない。


けれどもこれは今の自分を言われているのだとすぐに分かった。

そうか、自分はふがいなかったか。


ゼロの中で何かがストンと落ちる。

そうか、ふがいない存在だったか、自分は。


「……シド」

「ん」

「命を張ることほど、愚かしいことはないな」

「……その答え、ロキが死ぬまで無くすなよ」


どんな行動についての話だったのかを理解したゼロの答えにシドは満足そうに頷く。

早々に聞くのを放棄していたルガルに感謝しつつ、2人は素材集めを始めた。


一応の素材集めが終わったころ、雲行きが怪しくなり始め、慌てて彼らもロキたちの居る下の大穴に戻ったのだが、直後。


「……急な天候の変化にお気を付けください?」

「これはサンダーバードのせいに決まってんだろ」


空を舞い踊るサンダーバードによって、彼らは足止めを余儀なくされることとなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ