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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年後期編
137/377

5-20

2024/06/15 加筆修正しました。

コンゴウという鋼竜は、鋼竜種の中では最も強力な種とされている金竜――ゴールドドラゴンの幼生である。

シドはコンゴウに会ったのは久しぶり、という感じであった。


「コンゴウが来てるってことは、案外うまくいくルートなんだよな」

「なんか不穏だなその言葉……」

「最近ロキより先にセトからツッコミ返って来んだけど」


ロキにツッコミ入れてほしいんだけどなー、とシドは言いつつも、セトがこうして普通に反応を返してきていることには安堵を浮かべていた。

オシリスが来て、ずいぶんと打ち解けたらしい。


ソルやルナによれば、これでおそらくセトは完全に乙女ゲームに関係するトラウマの一切を負わなかったことになる。

オシリスが実際のところ死んでいることに関しては、死んだ状態しか知らないため論外扱いだった。


現在、皆馬に乗ってゆっくりと進んでいる。

中等部には乗馬の授業が存在する。ただしこれは自由科目のため、ほとんどの生徒は取らないことが多い。高等部では必修になるのだが、今は置いておく。


ロキは乗馬の授業を取らなかった。

本当は取ってみたかったのだが、入学当初馬に怖がられていたのでやめたのだ。

つまり現在皆が馬に乗っているということは、ロキも何らかの足が必要になるのだが。


「ま、アレだな。ロキ、ドンマイ」

「まさか実体験することになろうとは……」


某有名映画よろしく狼に跨ることになったロキの心象やいかに。

乗っているのが狼でさらに魔物であるというのもあって、ロキは皆よりだいぶ前を歩いている。


跨られているフェンの方はむしろ上機嫌なので、フェンはロキに乗ってもらえるのを楽しみにしていたことが伺えるのだが。


シドに関しては大人しい馬に乗っており、フェンの横でも少し怯えてはいるが、ここまでの行程で大分フェンに慣れてくれてもいた。ロキは何度も近付くことはせず「ありがとう」と声を掛けている。


セトの方も、こちらは少々気性は荒いがその分フェンが噛みつかないことが分かるとしょっちゅう寄って来てフェンと仲良くなっていたため、おそらくノクターン卿の育てた馬であろうことが伺えた。


現在向かっている鋼竜の巣は王都から馬で約2日ほどの距離にある断崖絶壁の中腹にある。断崖絶壁と言ってもちゃんと道はある。無論馬車など通ることはできない。

麓で馬を預けて巣までは歩くことになっており、ロキたちはその間学園から外出許可をもらっているのだった。


ハインドフットが、ロキたちに知り合いの冒険者がいないかと問うてきたとき、ロキはフリーマーケットに参加して以来よくロキたちの所へ立ち寄ってくれるエリザベスという冒険者のパーティを思い出した。それと、ソルとルナの治療を始めて受けたルガルという男のパーティの2つをハインドフットに示したところ、エリザベスのパーティは白銀級、ルガルのパーティは白金級のパーティだったことが分かった。


エリザベスの方はまだわかる。ルガルのパーティがそんな上位パーティだったことにロキは驚いたが納得もした。

ソルとルナの治療を受けに来た時、彼らは火傷をしていた男以外ほとんど外傷が無かった。それだけあの細身の男によほどのことがあったということであろう。あれだけの重傷だったのだ。


「見えてきましたよ。今晩はあの村に泊まります」


エリザベス――リズと呼べとお達しがあったので以下リズとする――が声を上げた。

見えてきた目標の村は城壁などなく粗末な木製の柵が設けられている。

リガルディア国内の城壁のない村や小規模な町はだいたいこんなものだ。フォンブラウではこの柵すらないのでロキにとってはかなり新鮮な風景なのだが。


この日、ロキたちは一度も魔物との戦闘はしていない。

エンカウントこそしているのだが、フェンを見て魔物が逃げ出して行ったのである。


「いやー、星喰狼(フェンリル)の一歩手前なんて連れてたら護衛いらねえんじゃねえのか、フリオ兄?」

「まさかルガルとフォンブラウが知り合いとは思ってなかったからなぁ。それにフェンも楽しそうで何よりだぁ」


ルガルとハインドフットは従兄弟だった。まさかそこに繋がりがあったとはとロキも驚いたものだ。

ハインドフットの従弟ということで、いかつい男5人パーティの方が先に生徒から信頼されるという不思議な光景にリズが唖然としていたのは記憶に新しい。


「ここには結構大きな宿屋があります。そこを予約しておいたから、最初に真っ直ぐそこに向かうわ」

「手際が良いなぁ」


リズから報告を受けてハインドフットは頷いた。ロキにも聞こえているだろう。

しばらく騎乗のまま村に近付き、村に入るときにロキはフェンから降りた。


「フェン、くれぐれも怪我の無いようにね」

『御意に』


フェンは現在闇喰狼と呼ばれる種の星喰狼の下級種となっている。ロキはいつの間にフェンが進化段階を踏んでいるのか知らないのだが、ロキがちょっと目を離すとすぐ何か起きているので、分かっていてやっているとしか思えないこの頃である。


フェンは既に人間に言葉を語りかけるだけの知能を持ち、ロキ以外にも話しかけるまでになっている。

ロキはフェンの脚に革製のアミュレット効果のベルトを嵌め、フェンを送り出した。

フェンが下手に攻撃を受けないためである。森や草丈の高い所にさえ入らなければ隠れることもない。フェンの能力ならば自分が誰かの所持下にあることを知らせるだけの時間くらいは稼げるだろう。村の近くは警戒度が高いので、下手に村に入れられない魔物を連れている貴族は身分証代わりのアクセサリーを身に着けさせて放っているのが通常であった。


基本的に村の中に魔物を持ち込むのはご法度である。故にロキは今回はヘルも連れては来なかった。

ロキがフェンを送り出したのを確認したハインドフットたちは村に入る。これから夕食時であるためか屋台のような食料品を売っている店に人々が群がっているのが見えた。


リズたちの案内で大きな宿屋へ足を向けた学生の一団を、物珍しそうに道行く人々が眺めている。ロキだけを歩かせるわけにはいかないため全員馬を引いている状態だ。


「ここです」

「おー、立派になったなぁ」


ハインドフットは知っている宿だったらしく、嬉しそうににこにこと笑って、大きな建物を見上げた。


「ここはイミットが宿屋をやっててな。雰囲気が結構いいんだぜ」

「タタミ、だっけ。あれ夏は涼しいのよねえ」


ルガルとリズの感想を聞きながらロキはソルたちと目配せし合う。この宿の中身は間違いなく旅館であろう。このリズの言う”タタミ”が何を指すかにもよるが、もし畳であるなら存在に驚きである。

部屋割りは既に決められていた。ロキはカル、レイン、レオン、シド、ゼロ、セト、ハンジの8人で大部屋に泊まる予定になっている。


何故こんなに大部屋のような部屋割りなのかと思っていたが、実際に大部屋だった。8人部屋とはこれ如何に。騎士の寮でもこんな大部屋はお目にかかれない。

恐らくベッドと布団か布団のみという状態だろうとロキは思う。こちらの布団は薄く硬い。カルたちが無事に寝れるかどうかは怪しい。ロキはむしろ畳の上に雑魚寝でもぐっすり寝れる自信があるが。


宿屋にリズが入っていく。しばらくすると黒髪の男が出てきた。赤い眼と緑の目、典型的な火竜種のイミットである。イミットは目を丸くして驚いたように声を上げた。


「……ろろ? クラッフォンの倅がいる!」

「アイルダ? アンタがここを?」

「そうだよ。てことは、こっちの銀髪の……」


銀髪、目立つ、数が少ない。

ロキに目を留めたアイルダと呼ばれた男はロキを見た瞬間固まり、ぎこちない動作でゼロを見て、ロキに視線を戻し、ゼロの肩を組んでロキに背を向け、ゼロに耳打ちする。


「何する」

「おめえあんなべっぴんさんと契約したんかい!」

「自慢の主だが何か」

「まるでこの世のものとは思えねえ。月から来たとかじゃないん?」


聞こえてます。

そして俺はかぐや姫じゃありません。あとイミットもこの世ならざるものは月から来るって伝承があるんですか。

ロキはツッコミを入れたかった。





馬を置いて宿屋に入り、ロキたちは案内された部屋に踏み入れる。

ロキの想像通りの部屋だったといっていい。が、畳16畳二間とはこれいかに。


「広いな」

「一番高い部屋だってよ」

「こんな造りの部屋見たことないよ」

「木造にわざわざここだけ改築を? 手が込んでるな、そことか」

「引き戸だこれ」

「テーブルじゃない。低いあれどうすんだ」

「でもあのテーブルの木、一枚板だぞ」


感想を言いまくるカルたちにロキ、ハンジ、シドは顔を見合わせた。

部屋の造りは右奥に床の間、手前に押し入れと思しき引き戸、左には開け放されたふすま、奥には縁側付きの部屋が見える。

中庭として日本庭園のようなものを造っているらしい。


「ロキ、シド、ハンジ、ゼロ、お前らならこれどうするのかわかるんじゃないのか」

「とりあえず待て」


ロキはそのまま畳に上がりそうになるカルたちを引き留めてブーツを脱いで上がった。

ゼロが隅に積んであった座布団を人数分敷いてスタンバイされていた茶葉とお湯で煎茶を入れ始める。シドが皆の荷物を持って奥の部屋へと運び、ハンジもそれを手伝った。


ロキは動かず、辺りを見回してほう、と息を吐いた。

なんとなく落ち着くのは前世の祖父らの家を思い出すからだろうか。


「靴を脱ぐのか」

「流石って感じですね」

「ここの引き戸の中何?」


レインが靴箱(ロキたちには分かるがカルやレインには分からなかった)を開ける。中には下駄が入っていた。


「……何コレ」

「下駄か」

「流石にまだリアルに草履履いたら皮膚擦れるだろ」

「足袋でも縫ってみるか?」

「ゼロ、押し入れの中に浴衣とかねーのかよ」

「浴衣ある」

「よっしゃロキに着せんぞ!」

「待てなぜ俺なんだ」


用意されていた浴衣の色は紺や浅葱色と落ち着いたものだったので風呂に入ったら絶対着せるとゼロが意気込み始めたのをロキは拳骨で黙らせる。

貴族の服装に関してうるさいのはシドだが、ゼロは和装に関して煩い。お前ら並みになら俺らも知っとるわと言い返してやりたい気分のロキだった。



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