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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年後期編
133/376

5-16

2024/03/30 改稿しました。

ゆらり、と空間が揺らぎ、染み出すようにロキ、シド、ファリアが姿を現す。少し開けた石畳の地面。白亜の化粧石の壁。そして。


学園に招き入れられたファリアがまず驚いたのは、いきなり目の前に2メートル越えの巨漢がいたことである。

紺色の髪、横髪は銀色で、赤い瞳が非常に印象的な男――グレイスタリタス。


すぐ後ろにはその付き人であるロイも控えていた。他に、ゼロ、セト。


「え、と?」

「ファリア殿、彼はグレイスタリタス。一度貴方に会いたいというのでここに待機していてもらったんです」


ロキの簡素な説明にファリアは目を剥いた。グレイスタリタスといったら、死徒列強の名だ。しかも、序列は第5席のはず。加えて状態異常を常時振りまいているはず。

ロキは戸惑うファリアからグレイスタリタスに向き直った。


「これでいいかな」

「ああ……」


グレイスタリタスは魔力を指先に集めて何か文字を書く。


「虚言は無駄だ。時間はない。黙ればそこのガキの命はないものと思え」


セトを示してファリアに実に簡潔な脅しを叩き付けたグレイスタリタスがす、と立ち上がった。


「ロキ」

「なんだ」

「二度と屍を晒すな」

「俺に言われてもほとほと困るんだけれど。そんなに嫌なら貴様こそ生き残ることを前提にするんだね」


ロイも置いていく、とだけ言い残し、グレイスタリタスが姿を消した。

ファリアは意味が分からずロキに視線を向けた。ロキは苦笑しつつ答える。


「えっと。彼、俺たちが楽になるように魔術を掛けてくれたみたいです。彼は確かに狂戦士族ですけれども、彼なりに俺たちを心配してくれているってことだと思います」


それにしても、とロキはファリアを見つめた。


「何のルーンですかね? ルーンなのはわかるけれど意味までは勉強していないんですよねえ」


セトも覗き込んでくる。ファリアは何となく自分に刻まれた文字の意味は理解できているけれども。


「……間違いなく、グレイスタリタスは君たちを心配していると思うよ」


刻まれているのは棘のルーン“スリサズ”なのだが、要するに戒めの意味を持っている。シドは読めているが教える気はない。ロキ神もルーン魔術を使えるはずなのだが、ロキはルーンの勉強を後回しにしているらしい。


「ま、勉強はまた今度だ。今はファリア殿の話が聞きたい」


ロキは早速切り替える。話を聞くためには、どこかに座りたいなと呟いた。





ファリアの話を聞くための場所の準備にゼロが動いたのでロキたちはその後をゆっくりと付いて行った。


「もっと時間があったらしっかり事情説明も出来たんですけれど。急ぎになってしまって申し訳ないです」

「いえ、こうやって時間を取ってもらえるだけでありがたいです」


廊下を歩いていても、誰ともすれ違わない。


「……今の時間って講義があるんじゃ?」

「公爵閣下達が動く、と言ったでしょう? 講義なんて全部休講です休講」


教員たちは一堂に召集を受けて職員室に籠っている。生徒たちは学園の敷地内から出ないよう指示を出されて寮に籠っている者がほとんどだ。

現在寮に戻っていないのはロキたちをはじめとする一部の生徒のみだ。


「ロキ」

「ここか」


とある講義室のドアの前でゼロが待機していた。この部屋を借りることができたという事であるらしい。ゼロがドアを開け、ロキとファリアを中へ招く。

中に入ったゼロがドアを施錠し、防音魔術の結界が立ち上がった。


「揃ったか」


口を開いたのは金髪碧眼の少年――カルだった。王子がこの場に居ることにファリアは目を丸くしたが、この場で一番大人に情報を上げやすいのが王子であることもまた事実だろうと勝手に納得する。


「セト、進行を」

「はい」


カルの言葉にセトが口を開いた。


「ファリアさん、ここに居るのは、俺の友人たちなんで、あんま警戒しないでくださいね」

「そうか……セトの」


ファリアは自分を慕ってくれていた子供が交友関係を深めていたことを嬉しく思う。セトは説明を続ける。


「今回、動く公爵閣下がフォンブラウ公爵なんで、御子息のロキが動いてくれてる状態です。武力解決も辞さないってことだったんで、その後ファリアさんを守る材料集めしとこうってことらしいです」


セトは説明されたままに受け取っているのだろうなとファリアは思いつつ、勧められた椅子に座る。ロキがあれこれ動いているのは見ていればなんとなくわかるので、本当に情報を集めようとしているんだろうというのは理解できた。


「……ここに居るメンバーは一部が転生者です。まあ、首を突っ込みたがるのは性と言いますか。今回は公爵家が貴方を叩く立場ですから、擁護のための証拠になりそうなものの一切を俺たちが調べ上げておこうという考えです。ああでもその前に」


ロキが簡潔に事情を説明し、そっとファリアに近付いた。

手を伸ばし、軽くファリアに触れる。


「……なるほど」

「なんかあるか?」

「結構手の込んだ隠蔽が掛かってる。ナタリア、手伝ってくれ」

「はーい」


ロキが名を呼んだピンクパールの髪の少女が近寄ってきた。ファリアをよく視て目を見開く。


「うわ、えげつないわこれ」

「これと同類を解除したことは?」

「あります。任せて」

「俺が隠蔽を解除する、頼むぞ」

「はい」


ナタリアとロキの会話が終わると同時に、ファリアは2人の魔力に包まれた。解呪が始まる。

ロキの目が青緑色に変わった。


「!?」


ファリアは驚く。目の色が分かりやすく変わったら誰だって驚くだろう。

ファリアはすぐに、目の前に居るのがフォンブラウ公爵家の御令息であったことを思い出す。


「ロキ君、特殊個体か」

「ええ、まあ」


ロキはファリアの疑問に軽く答え、解呪を進めていく。薄く魔力で描かれた術式が浮かんだ。


「【隠蔽解除(ブレイク)】」


ロキが呟くと同時にファリアの周りに膨大な量の魔力が溢れる。それが瞬く間に赤黒い結晶に変化していった。

ファリアは目の前で起きた現実に目を見張る。

自分の魔力結晶と同じ色の結晶が目の前で生成されていくのである。当然だろう。


魔力というものは、結晶化していなければ、そのまま空気中にエーテルとマナの形に分離してしまうのものである。

そしてまず、他人の魔力を結晶化させるなんてことは普通、できない。


それをロキがやってのけた。

ファリアは魔術師としての技量もそこそこある自負がある。ロキがやったことが異常であるという事を、理解した。


隠蔽は解け、露出した術式をナタリアが解いていく。ナタリアが術式の解呪に集中しやすいように、仕掛けられていたカウンター術式をロキが捌いていった。


「……解除完了」

「術式は?」

「形は【フォールダウン】と【デス】を組み合わせたものですね」

「えげつない」


ロキもナタリアもまだ学園でそこまで術式そのものを学んでいるわけではないので、魔術名を知っていることも驚くべきところだろうが――ファリアはロキが「転生者である」と言ったのを思い出し、口を噤んだ。


「完全に解除された、ということだな?」

「はい。これでもうこの方の命の危険はありません」


魔力量でゴリ押しされたんでしょうね。


金髪碧眼の少年に対するピンクパールの髪の少女の的確な答えにファリアは乾いた笑みが浮かんだ。そこまでわかるのか。


「【解析(アナライズ)】――体内損傷無し、内部術式なし、精神干渉――解除完了。復旧完了(オールオーバー)


ロキが最後の確認と言わんばかりに魔力でファリアを包む。残っていたらしい精神干渉を解除して、復旧完了(オールオーバー)と告げたロキの声を聴くと同時にファリアの思考から重いものが消えた。


「……精神干渉まで受けてたのか、俺……」

「闇属性を持っていたためかなり耐性があったようですが、魔力のゴリ押しって怖いですね。魔力回路の損傷は自分で治してください」

「ああ、うん、ありがとう、ございます?」

「俺に敬語はいりませんよ」

「分かった」


あらためて敬語はいらないと言われてファリアはロキにありがとうと礼を言い直す。ファリアが落ち着いたところでロキはファリアに問いかけた。


「ファリア殿。今回のことのあらましを、教えていただけますか」

「――ああ」


これだけ動いてもらったのだ、何が起きたのか一瞬で終わってしまって理解が追いつくまでには少しかかりそうだけれども、話すのが筋ってものだろう。


少し、長くなってしまうけれど、ゆっくり聞いてくれ。


ファリアはそう言ってゆっくりと語り始めた。


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