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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年後期編
132/368

5-15

2024/03/26 改稿しました。

シドはドルバロム経由でロキから出された指示に従って動いていた。


――人を、探して来てくれ。


シドはギルドでの仕事を任された。


ロキからこの指示が来たのはシドにとっては初めての事で、それが吉凶のどちらに転ぶかはまだ、正直言って分からない。

初めての経験は嬉しくもあり、恐れも生む。


――俺が、同じ……? 俺の家族を奪った奴らと、俺が、同じものだっていうのか!?


いつだったか、どこかで聞いたセトの声がフラッシュバックした。あの時のセトは家族を喪っていた。今は違う。たった12歳の子供に家族を喪い天涯孤独になる運命を背負わせずに済むのは、良いことだ。まあ、今回に関しては代わりに被害に遭った者が居るけれども。


シドとしては、自分の仕事が増えるのは構わないので、いや本当は嫌なのだが、嬉しい忙しさというものはある。セトの親兄弟が死んでいないという点については、喜んでもいいではないか。


冒険者ギルドに足を運んだシドはあたりを見渡して、集会場の中に探している人物が居ないことを確認し、カウンターに向かった。平時は人がごった返していることが多いギルド内だが、今は随分と空いている。


「あれ、学生さんにしては早いね?」


先にシドに声を掛けてきたのは先日の受付嬢だった。


「ファリア・ケインドル殿を探しているんですが」

「……」


ふ、と集会場の話し声が止まる。

シドが目の前の娘を見上げると、目が据わっているのが見えた。


「……ファリアさんに何の用ですか、メタリカ様?」


ああ、金属精霊メタリカ、その存在と認識されていたのならばこの対応にも頷ける、と、シドは息を小さく吐いた。


ロキに情報を持って帰るためにはひと踏ん張りせねばなるまい。

シドとしては特に何かおかしな点などをファリアに感じたことはなかった。だからこそロキの方もおそらく特に警戒していなかったのであろう。


「……そんなにギスギスしなさんな。俺はただ、ファリア殿に用があるだけだ。穏便な方法でその居場所を知りたいだけ」

「……あなたならいくらでもここに居る人間くらい捻るでしょうね」

「俺は戦闘向きじゃねえからこっちもダメージ負うんだぞ? ふざけんな割に合わねェ」


ファリアを探し出す方法なら、別にこうして聞く必要はない。ドルバロムに聞けばいいだけだ。この世界はドルバロムという闇竜の腹の中なのだから。


「別にこっちはファリア殿をとっ捕まえようってんじゃねえんだ。大人しく奴さんと会わせてくれ。ギルドへの不利なことも特に言う気はねえから」

「でも、あなたの御主人様はどうかしら」

「あいつを持ち出すのは反則だろ」


ロキの事を言われてもどうしようもない。ロキがシドにこの場を任せてしまったのだから。

任された以上はシドがどうにかするしかない。


「あいつを貶すのはやめてくれ。こうして俺に仕事任せてくれるくらいには俺のこと信じてくれてんだから」

「……貴族っていうのは手段を選ばないことを、俺たちは知っている」


訓練場への受付カウンターにいた男がゆっくりと歩いてシドに近付いてきた。

シドは男を見上げて応える。


「そらそうだろうよ。特権なんだ、使わなきゃ錆びれちまうだろ」

「ファリアに会ってどうする気だ。それくらいは聞かせろ」

「……」


シドは瞑目した。

はっきり言って、確定事項ではないがロキが使うであろう手も分かってはいる。こちら側にはなんといってもセトがいる。ファリアがセトを放り出すとは考えにくい。


「……ウチの御主人様はファリア殿の擁護に回ろうとしてる。その為には本人から話を聞かなきゃならない」

「……あいつが、俺たちにも教えてくれなかったことをお前らに教えるとでも?」

「そこは話を聞いてからしかどうとは言えねェよ」


シドは男を見上げてはっきりと告げた。教えてくれるかどうかは本人次第だ。聞いてみなければ答えは出ず、彼らに教えられなかった事でも、シドたちならば聞けるかもしれない。何らかの術で制限があって親しい仲の者に相談ができない、なんてこともあり得るかもしれない。かもしれない、は考え出せばキリがない。ならばひとつずつ潰していくだけだ。


男が求めるような言葉にならず、ありきたりな言葉になったとしても。


「……」


シドはふと、胸ポケットに忍ばせていた魔石に意識を向けた。これはロキが作った魔道具で、リンクストーンと名付けたものだ。同じ術式を刻んだ魔石を複数用意し、任意の魔石を反応させて呼ぶというものだ。魔道具で電話を再現したとでもいうべきか。


ロキが作り、カルとロキが使ってみて、改良を施したもので、現在はロキ、シド、ゼロ、カル、セト、ナタリア、ソル、ヴァルノス、ロゼ、ハンジの10人だけが持っているものだ。


「ちょいと失礼」


シドはリンクストーンを取り出す。青紫に光る石を見てギルド内が騒然となった。

石からロキの声が響く。


『シド、今どこだ』

「冒険者ギルド本部だ」

『そうか。ファリア殿は見つかったかな?』

「んにゃ」

『そうか――』


ロキが小さく息を吐いて、小さくパン、と手を叩いた。シドも嘆息してリンクストーンを掲げる。今シドが持っているものは、スピーカー機能までつけてみたものである。そんな機能つけなければピアスサイズで収まっていたのにと思わなくもないが。


「?」


顔を見合わせるギルドの人間たちに対し、ロキの声が無慈悲に響いた。


『ファリア殿、そこにいらっしゃるでしょう。今回の案件の根本的解決のために貴族が動くことになりました。分類は公爵(デューク)級。フォンブラウ公爵が出撃します』

「ッ――!?」


ガタリと椅子の倒れる音。集会場から1人のローブ姿の男がシドの許へ走り寄ってくる。


「それは本当ですか、ロキ様?」

『先ほど報告を終えまして。公爵家の出撃は確定、死徒列強第5席『狂皇』を今引き留めているところです。申し訳ないですが、迎えに行くのでついて来ていただきたい』

「……分かった」

「ファリア!!」


男が声を荒上げた。ローブを脱いだのは赤と黒の髪の――ファリアだった。

では、と小さく言ったっきり、リンクストーンが光を失う。ロキはすぐに迎えに来ることだろう。

シドは懐にリンクストーンをしまい込んで、息を吐いた。


「やっぱそうだよなァ。ゾンビ狩りを元来生業にしてたフォンブラウが動かねえわけがねェ。分かり切っちゃいたが辛いもんだよなァ」

「……こんなの只の脅しだ」


男の言葉にシドは苦笑を浮かべた。

確かにそうだろう。けれども脅しで何が悪い。こちらは急いでいるのである。


じき、ロキがフ、と現れた。転移でも使ったのかもしれないが、どこから来たのかもわからず、いつからそこにいたのかもわからないほどに自然にそこに現れた。


「意外と遅かったな?」

「授業抜けて来たんだよ。まあ、スパルタクス先生もアラン先生も俺に甘い気がするけど」

「あー、今武術か」


ロキの姿を見てギルド内の空気が張り詰める。

ギルドマスターであるダイクもまた姿を現した。


「ロキ様よう」

「あ、ダイク殿」


ロキはほとんど話したことはないが、貴族相手に立ちまわっているのは大抵ギルドマスターであるため、名前と顔くらいは知っている。ロキはダイクを見上げた。ダイクは少し困ったような表情だった。


「ファリアをあんまり虐めないでやってくれよ」

「……口添えはしてみますが、まだ俺所詮子供ですからね。判断は父上たちにお任せすることになります。本来ならば王族はギルドに対して強制的に情報を寄越せということもできたはずです。俺には詳細は分かりませんが、陛下がそれだけダイク殿を信頼しているという証でしょう」


ダイクの言葉にロキはそう返して、ああそれと、と付け足した。


「鼠の処理は任せるそうです」


ふわり、とロキの魔力が辺りに満ちた。その圧倒的な魔力量に皆圧倒される。


「シド、戻るぞ。ファリア殿、御同行ください」

「はいよ」

「ああ」


ロキがあっさりとシドとファリアを連れて姿を消した後、ダイクはほう、と息を吐いた。


「相変わらずバケモンみたいな魔力量だな。流石フォンブラウの令息だ」

「……あ、やっぱりあの子貴族……は? フォンブラウ?」

「公爵の令息だぞアイツ」

「……私不敬罪で処刑とかないですよね?」


ダイクにそんな反応を返した娘は小さく息を吐いた。リガルディア王国は基本的に冒険者ギルドに対して強権を使ってくることはないが、使ってこないだけで使える優位性を持っている。冒険者でも敵わないレベルの魔物を貴族が容易く屠る国で、冒険者を守る独立性など、付与されているだけの権利に過ぎない。


「アイツはわざと狙ってやったんだろうよ。そういうやつだ。人間を弄って遊ぶタイプのな」

「うわ、悪人じゃないですか」

「ロキなんて演技の悪い名前の時点で察してやれ」


そもそも名を隠しすらしなかったロキはなかなかに自分や周りを利用してそのさらに外側にいる人間を量るのを楽しんでいる節がある。


ダイクはそれにしても、と小さく呟いた。


「鼠は任せる、だってよ。勘弁してくれ」


ギルド内部に裏切者がいるらしいぜ。

そんなダイクの言葉に目を煌かせたのは黒髪の男である。


「久しぶりに動くってことだな、団長?」

「ああ、まあな。赤に連絡。黒は待機。青に洗い出しさせとけ」

「分かった」


黒髪の男が姿を消せばギルド内が騒然となり、あれ、と辺りを見渡す男がいた。


さあて、誰かのために動くのは嫌いじゃないんだ。

ダイクはそう言って姿を消した。


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