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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年後期編
131/368

5-14

2024/03/14 編集しました。

ヘンドラはほう、と息を吐いた。

漸く、学園の重鎮ことラブレス・ネルデオ理事長が腰を上げたのである。


流石に今までの警告に重ねてゾンビに入り込まれ、生徒が怪我を負っては腰を上げざるを得なかったようだ。


ロキとカル、そして国王であるジークフリートが警告自体は発し続けていた。実は学園長も王族だが、其方からも苦言を呈されていたようだ。それを聞き入れなかったのは純粋にラブレスが悪い。ヘンドラはむしろ何故今まで全属性結界を採用しなかったのかと激しくラブレスに抗議を始めてしまったアーノルドたちを見て苦笑を浮かべていた。


「魔術が得意なあの子たちがいたからよかったものの、中等部の教員はほとんどが近接戦闘向きなんだぞ!! ゾンビの相手などできるわけがなかろう!! 平民出身の(魔力が少ない)教員が多いことを忘れたのか!!」

「下手をすればあの場で生き残れたのはハインドフット先生とアラン、スパルタクス殿がいいところだ。ヘンドラ先生も魔力切れを起こせばすぐにやられていたでしょう。……やはり属性の相性も見直して、氷属性や火属性を得意とする教員を中等部にも回すべきです」


今回の件は、ラブレスだけが悪いわけではないと皆分かってはいる。改革には後押しが必要で、ラブレスは保守的な立場だっただけだ。光と闇の結界は結界を張られて今まで700年間破られたことなどなかったのだから、保守派が勢いづいてもおかしくはなかった。

それぞれで話し合っている公爵たち。この場にヘンドラがいるのには理由がある。


「……」


ヘンドラの後ろには、今回ゾンビたちを捕らえたということでロキが呼ばれていた。


場所は王宮。

会議室と簡単にジークフリートが呼んでいるため会議室としか呼ばれない部屋。正式名称は“翼の間”という。


ヘンドラはロキの様子をうかがう。

ロキは目を閉じてアーノルドたちの話を聞いているのだ。ヘンドラは、ロキの身にこれ以上何かが無いといいがと祈るような気持ちで虚空を見た。





ロキが死徒を捕らえ、それを王家直属の騎士団と魔術師団に引き渡したのが2週間ほど前。そこからロキは授業の合間合間に何か文章を書き始め、1週間前には書き終えて、ヘンドラたちに添削を乞い、ヘンドラたちもその文章に目を通した。


内容自体は実にシンプルに、ゾンビが入り込んだことによる被害のまとめとその収拾のために使用した薬剤などをまとめた表、原因の分析、解決策の提示で構成されていた。


ところどころのふさわしくない表現を訂正させて返した結果、その日の内にそれは学園長であるラブレスに叩き付けられ、ついでにロキから「とっとと腹を決めろ。慎重なのはいいが臨機応変な対応もできない凝り固まった頭など要らん。使えん物は捨てる主義でな、父上に早く言ってしまえばよかった」とまあロキらしからぬ脅しの文言まで受け取ったとはラブレス自身の言である。人刃の王種に睨まれた、怖かった、と愚痴を零していたが。


ラブレスにだってわかっているのだ。ロキが普段はそんなことする人間でないということくらいは。

それをやったのだからロキも相当痺れを切らしていたということであろう。


いや、それ以上のことが待っている可能性もなくはない。

前回だって思いっきり国政に関わりそうなところまで踏み込んだロキだ。きっとまた何か情報の一つや二つは仕入れているだろう。


「……ロキ」

「はい、フォンブラウ公爵閣下」


アーノルドに名を呼ばれ、他人行儀に接するロキはあくまでも親子としてではなく、学園側から代表生徒としてこの場に足を運んでいるという姿勢を貫くつもりであろう。


「お前が寄越した報告の内容を改めて述べてもらっても?」

「はい」


ジークフリートが苦笑を浮かべる。

ロキは先ほどまで目を閉じていた。緊張していないわけがない。


ロキは的確にまとめた資料を手に持っている。ジークフリートたちの手元にも資料は配られていた。


「ロキ・フォンブラウと申します。皆様の前で報告、並びに意見を述べることを許されたこと、光栄に存じます」

「ん。この件は早めに手を打った方がいい、早速始めようか」

「はい、陛下」


ジークフリートの言葉にロキは語り始めた。


まず、今回のゾンビの侵入について。

おそらく使われたルートは王家の氷室へのルートと重なるレゲット通りが使われた可能性が高い。一応ギルドで聞き取りはしてきたが、運ばれていた氷についてはほとんど誰も気にしていなかったため、おそらく認識阻害系統の魔術を行使できるものが内輪にいるもしくは本人が使えることを考えておいた方がいい、という点が1つ。


「闇属性魔術か……また厄介な」

「しかし認識阻害系統はむしろ魔物と戦うには有効な手です。持っていて損はなく、なおかつ人間にもあまり直接的に害を与える魔術ではありません」

「黒っぽい髪のギルドメンバーを全て当たってみるか?」

「まだギルド登録者がやったと決まったわけではないでしょう」


ロキは話し合いを挟みつつロキの話を聞く公爵たちの話を聞きながら、いろいろと考え始めていた。

ロキはギルドで情報を掴んだからギルドで調べているだけなのだが、公爵たちは最初からギルドを疑ってかかっているような話し方をするのだ。


次に、侵入を許した結界の解析の結果である。

解析の結果、おそらくだが学園のことを知っている人間の行動ではないかというのがロキの結論だった。でなければ、何故、結界の起点を当てたのか。そして、何故破壊しなかったのか。


「……学園の卒業生、か」

「結界の起点の位置を知っているということは、相当な実力者だったはずですよ」

「スキルの持ち主の可能性もある」


ロキは悩み始めた公爵たちを見て、作ってきた資料に目を落とした。



調べてきた内容として、ロキがまず気にかけたのは、最近あまり戻ってこなくなったというセトの師匠ファリアのことである。

ファリアはかなりの実力者だった。そしてそれと同時に闇属性を扱うことが髪の色からも見て取れた。もしもあの髪の色が器を表しているだけで彼本人が闇属性魔術を使えないというのならば話は別だが、彼の話をセトに聞いた時。


「俺に闇属性の魔術を教えたのはファリアさんだ。あの人が闇属性の魔術を教えてくれたけれど、それが俺は嫌だったんだよ」


セトは、風よりも闇の適性の方が高い。こればかりは加護を与えたもうた神の名によるものでもあるためどうしようもない。ソレを幼かったセトは受け入れられなかったのだろう。

セトは今でこそそんなもの全てを受け入れているが、そりゃあそうだろう、セトの両親はどちらも闇なんてこれっぽっちも持っちゃいないのだ。


ロキはロキという名を持った時点でショック過ぎたこともありそんなに衝撃が加わっていない上に、ましてロキ神が闇でないと言われたら信じられないとすら言えた自信すらある。ロキのイメージではこう、ロキ神というのは闇だの氷だのでもっと禍々しいイメージだったのである。


断じて現在のようなビスクドールよろしく整い過ぎてお人形さんなんてロード・カルマから呼称されるようなものを想像していたわけではないのだ。


ともかく、前世を持っている人間とそうでない人間の精神状態を同等に見るのは愚かしい。

ロキは小さく息を吐いて、やっとまた会えるようになったはずの師匠が再び姿を消してしまったことに不安げに瞳を揺らしているセトの頭を撫でた。


「……あ、そう、いえば」


セトが蒼褪め、声を震わせたのでロキはセトに目を向けた。


「どうした」

「……ファリアさん、て、たしか……」


セトは懐からナイフを取り出してその柄を開ける。中からは小さな紙が出てきた。


「それは?」

「ファリアさんの妹さんが、去年俺の誕生日プレゼントにくれたんだよ。俺はロングソードの方が好きだったんだが、適性はこっちの方が高くて」


セトはロキの問いに答えつつ紙を取り出してロキに見せた。

ロキはそして見てしまった。その文字を。拙いその字を。


『死者立つ岡』


ロキにその意味は分からない。

けれどもその字を見たその時、ロキの中で、今回のことを手引きしたのが誰なのかに直感的に結論が出た。

信じたくないと感情的に叫ぶには、ロキとその人物はあまりにも距離が遠かった。



「……状況証拠で話などしたくはありませんが、俺の考えを聞いていただけませんか」

「どうした」


資料の説明を終えて、ロキが言葉を紡ぐと、ジークフリートが反応した。


「……おそらく、今回のことを手引きしたの自体は、バルフォット領出身の冒険者かもしれません。名は、ファリア・ケインドル」

「……何故また、彼が?」


アーノルドの返しに、ロキは瞑目する。調査対象だったわけでもないのに公爵たちが名を知っているということは、ファリアはかなり名の売れた者だったという事だろう。ロキの中でも漠然とした感覚頼りであるため、あまり話したくはなかったのだが、それでもここで言わねばならない気がしたのだ。きっとこれ以上遅れるわけにはいかないと。


「……最近彼の姿があまり見えません。ギルドにもあまり帰ってきていないようです。ギルドが彼を匿っているなら話は別ですがね。……ここからはほとんど勘ですから、あまり頼りにはしていただきたくないのですが」


ロキは、セトから受け取っていた紙を虚空から取り出す。


「何かあるとみて間違いないでしょう。きっと彼は何か理由があって今回のことを起こしている」


紙を見せられたアーノルドが立ち上がった。

それほどまでに衝撃的だっただろうかと首を傾げたロキに、ジークフリートは問う。


「これは、どこで」

「セトが、ファリア・ケインドルの妹、アトロポス、彼女から受け取ったものです。セトが、去年彼の誕生日プレゼントで貰ったナイフに入っていたと」

「……」


苦虫を嚙み潰したような表情のアーノルドと、いまいち状況が飲み込めていない公爵たちに、ロキはまあ当然そうなるよなと思いつつロキが組み立てた予想を話す。


「彼女の名は、俺の前世においては運命の女神、特に、人の人生という名の糸を断ち切る役目を持った女神の名です」


ロキは前世の知識にこれほど頼る人生になろうとはと内心頭を抱えてしまいたくなる。


「……外国系か……?」

「セネルティエ系に聞こえるな……」


最も、リガルディアのメインとなっている神霊の名はケルト系、北欧系であり、ギリシア系統の神々の名はあまり知られていない。いるには、いるのだけれども。


「父上」

「む」

「よく似た立ち位置にいる女神の名は、スクルドでございます」

「!」


アーノルドはロキの告げた事実によって考え込んで、そしてすぐに結論を出した。


「……過去にそれを渡されたというのであるなら、その未来を知っていたということだな」

「おそらく。そしてアトロポス殿、または、今回の起点となった人物はそこにいると思われます」


ロキは知らない。

紙に記された『死者の立つ岡』がどこなのかなど、知らないのだ。


「……ロキ。お前は来るな、絶対にだ」

「承知いたしました」


アーノルドの言葉にロキは頷いた。どうせ行くつもりなど毛頭ない。

ここに行きついた時点でまるで咎めるようにロキの後ろをついて回ったグレイスタリタスが端的な証拠であろう。回帰前のロキが何かやらかしていると思われる。


「ただ、父上、ジークフリート陛下」

「なんだ」

「どうした?」

「万が一の場合は戦闘になるかと思われます。俺を引き留めるかのようにグレイスタリタスが付いて回っていましたので」


ロキは戦闘には出ない。おそらく、次の戦場にはグレイスタリタスが出る気なのだろう。ロキは彼を連れて行くべきだとジークフリートに告げた。


「……難しいな」

「俺は決定に従います。ただ、グレイスタリタスと共に戦場には立つなと言われていますので、彼が戦場に行けば俺は確実にそちらへ行くことはないと言い切ることができます」


ロキはその為の人員でしかないと軽く告げる。

元々たかが学生にできることなどありはしないのだから。


話合いと戦闘の一切を大人に丸投げすることが決定し、ロキとヘンドラは王宮を辞した。

早めに結界の導入はするとして、諸々の手続きの続きをせねばならないからということで理事長は残った。


途中で少しばかりロキがジークフリートに呼び止められ、言伝を頼まれ。


王宮を出たロキはヘンドラに告げる。


「ヘンドラ先生、俺はこれから実際にやったのがファリア殿なのかどうか、確かめに行きます。皆を押さえておいてください」

「……危険なことはしないでくださいね」

「はい。戦闘などしませんからご心配なく」


馬車で学園へと戻る道中、ロキはずっと青い空を見上げていた。


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