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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年後期編
128/368

5-11

ブックマーク80件突破…(*´▽`*)うれすぃ

これからもよろしくお願いします。


2024/02/18 加筆修正しました。

ロキがまさかここまで兄について触れられて沸点が低いとは思っていなかった。これが、フレイやプルトスを知っている者たちの感想だった。


大人顔負けに鋭い殺気を飛ばしているロキは笑顔であり、まったく一体何を言っているのかさっぱりわかりませんよと言われればしらばっくれて逃げ切れるであろう満面の笑みである。


が、殺気が突き刺さっている側からすると今のロキは修羅より恐ろしく思えた。

迂闊に兄を愚弄しようものならばこうして度々殺気を向けてくるスカジという前例がいたにもかかわらず彼らはロキの前で同じことをしでかした。それだけである。


が、ここには今現在、仏か、さらなる鬼か――スカジが来ていた。


「まったく、学ばんのだな、先輩方」

「面目ない……」

「だって銀髪ってだけじゃねーか……」

「本能的に異質な存在であると分かったはずだ。それともそんな勘まで鈍っているのか。中等部から鍛え直した方がいいのではないか?」

「ぐっ……」


スカジが喋っているからロキが口を挟んでこない。

しかしスカジの戦闘訓練の成績ははっきり言ってここに居る誰よりも高いはずだ――ロキを除いて、だが。


「……はあ。ロキが戦闘特化の加護ではなくどちらかというと精神的なものを扱う加護でよかったではないか。今のロキには私ですら傷一つ付けられんというのに」

「はっ!?」

「バケモンかよ」

「人の弟を化け物呼ばわりするとは何事か。誉め言葉として受けておいてやる」


ただでさえ化け物扱いを受けているスカジが傷付けられないとはこれいかに。

セトの隣で大人しく事の成り行きを見守っており、もはや殺気など微塵も感じさせなくなっているロキを見て、ファリアは思う。


――この子、強すぎだろう。


セトが語った話の中に、かなり厳しい状況に置かれており何度も苦しい思いをしたんじゃないかと、それに気付きもしなかったと、友達としてすら何もしてやれなかったのだと語った人物がいた。


セトは名こそ出さなかったが、それがロキではないだろうか。


確信めいたものを覚えてしまうのは、何故なのだろう。

ともかくファリアは、そろそろやめないか、とスカジと上級生たちとの間に割って入った。


「ほら、そこまで」

「むむむっ」

「スカジも、もう十分だろう。それにフレイやプルトスは弱くない。実力で分からせる日がいつか来る。言葉よりは実践の方が分かりやすいのだからそれまで待て」

「……私はそれでもかまわない。兄上たちの勝利を信じている。……ロキ」

「なんです、姉上」


ロキは突然呼ばれたにもかかわらずにこにこと笑って対応する。


「お前、この人数何秒で潰した」

「さあ。覚えていませんよ。せいぜい8秒がいい所では?」

「むっ。もう越されてしまったか」

「姉上の場合魔力で気圧したりできませんからね。その辺りは今度組み手でもやってみませんか」

「そうだな。――しかし、お前なんでここに来ていたんだ?」

「王都ではまだ登録していなかったなと思いまして。本命はフリーマーケットへの参加ですので」

「なるほど。そろそろ戻った方がいい。さっき連絡が回っていた」


スカジの言葉にロキが目を見開いた。


「もうそんな時期か……?」

「知っているのか?」

「学園内にゾンビが入り込んだりしていませんか」

「……よくわかったな」

「魔物がやられるんですよ。今回は拙いです、あのレーン順だとコウが危ない」

「コウが?」


セトが反応した。

シドが口を開く。


「前回とレーンは変わってねえ。ちなみにそこだとコウは片羽捥げる」

「戻るぞ」

「ああ」

「姉上はどうしますか」

「一緒に戻ろう。走って来たからな」

「分かりました」


ロキがスカジとセトの手を握る。シドもスカジとセトの手を握って4人で円状になる。


「どうするんだ……?」

「先輩方、早めに学園内にお戻りください。帰りの道中の御無事を祈っておきます。――【転移(テレポート)】学園門前」


ひゅん、と音がすると同時に4人の姿が消えた。残された者たちは驚愕に表情を染める。

魔力反応に気付いてやってきたらしい大人たちが顔を見合わせた。


「今の子たち、学生だよな?」

「でもスカジを姉上って呼んでたから、マジでフォンブラウ公爵の?」

「ほんとバケモンステータスなんだろうなあ……」


そこへ、ゆっくりと歩み寄って来たがっしりした体躯の男。彼は静かに口を開いた。


「さてお前ら。今の様子だと騎士団だけで足りるとも思えねえ。学園出身者とそれ以外に分けて班を組め。万が一こっちに要請が回って来たら応援に向かう」

「「「「「了解」」」」」


返事をした者たちを見て、赤と黒の髪の男は小さく息を吐いた。たったあれだけで一体何がどうなっているのかをしっかりと理解できた者は居ないだろう。


「待ってください、何がどうなってるんですかこれ」

「恐らくだが街中に何か入り込んでる。貴族連中が動き出すまでにそこまで時間も無いだろうから、先に体勢を整えるぞ」


がっしりした体躯の男の言葉にやらなければならないことをある程度把握した冒険者たちが動き出す。赤と黒の髪の男も動き出す。


直後、男は表情を驚愕に染めることになった。

ああ、どうして、こんなことがあってたまるか。





「まさかこの時期だったとはなぁ」


ロキは独りごちる。何より、結界の強化が間に合わなかったのが痛い。ヘンドラからちゃんと話は行っていたんだろうにと思いつつも、腰の重い学園の重鎮たちに苛立ってしまうのは致し方ないと思いたい。


ロキは転移して学園の門の前に立つとイーを急かして学園内に入った。イーは警告をしようとしてきたがロキたちが押し入る方が早かった。魔物舎へ向かって走り出せばロキの速度についてくるなどスカジ以外にいない。


「くそっ、分かっていたら今日出かけたりしなかった!」

「こればっかりはどうしようもあるまい!」


ギャアギャアと魔物が騒ぐ声とガラガラと建物が崩れるような音。

スカジと共に魔物舎まで走って来たロキはビタリと足を止めた。

スカジも慌てて止まるが、すぐに視線がある一点に釘付けになる。


「これ、は」

「……フェンとヘルでしょうね」


ロキは静かにそう答えた。

血の臭いが漂い、魔物たちが倒れているのが見える。

そんな中割と平気そうな顔をしているのが20体前後、どれもこれもドラゴンや亜人系とそこそこ知能の高いものばかりだった。


ゆらり。

それは人のような姿をしていて、けれど赤く、鉄臭く、動きは緩慢。


ふらり。

濁った瞳の色は判然としない。ただ、何か柔らかそうなそれがこちらを見た。


ロキとスカジは虚空から武器を取り出す。

ロキはハルバードを。スカジは槍を。

教員が来るまで戦うなんて馬鹿らしい選択であると、ロキならはっきり答えることもできただろう、しかし戦うことを選んだことに理由など、無い。


「――術式解読」

「気付いたぞ」

「氷漬けにします。姉上は水を」

「うむ。――その身を包むは清き水。されど育むものなし。【ウォルタ・プリズン】」


ゾンビ系というのは総じて動きが遅い。それは死徒に分類されるアンデット系統の魔物も同じで、魔術の発動を止めるほどの動きはできない。

水の大きな玉にゾンビが閉じ込められる。


「凍てつけ。【氷玉(アイス・プリズン)】」


スカジの作り出した水の玉がロキの魔術で瞬く間に凍り付き、中のゾンビが完全に停止した。気泡のほとんどない氷の玉の中にゾンビがいるなんて、ずいぶんとおぞましい光景を作り上げたものである。


「……他にも入り込んでいたりは?」

「不明だ。だがもうじき……」

「あっ、生徒がいるぞっ!!」

「本当だ!」


スカジが肩をすくめる。噂をすればなんとやら、ハインドフットが数名の教員を連れて足早に近付いて来た。


魔物たちは既に大人しく集まってきている。中心に、スレイプニルにまたがったヘルがいるのは、彼女が魔物たちを率いて動いていたことをうかがわせた。


「フォンブラウ姉弟!」

「お久しぶりです、ハインドフット先生」

「ハインドフット先生」

「姉君の方は久しぶりだなぁ。2人とも、怪我はないかぁ?」

「はい、接触してませんから」


ロキは端的に答える。ハインドフットは小さく息を吐いて、2人の額にデコピンをかました。


「「~~ッ!!」」

「ゾンビなんかと戦うんじゃないぞぉ。何かあったらどうする気だったんだぁ?」


苦言を呈する教員は数あれど、実害を及ぼしてくる教員はそうは居ない。ハインドフットのデコピンはスカジとロキの硬い額を赤くするだけの力を持っていた。


ハインドフットの言葉にロキは俯くしかない。

進化が進もうが何をしようが、きっとこの先生は態度を変えないのだろう。それがとても、ロキは嬉しかったけれど。


自分がバケモノステータスなのは分かっていたが、他人に言われてささくれていたのかもしれない。


「はー……しかし、また随分透明なのを作ったなぁ」

「……もう、癖ですね。あと、こいつ作った死霊術者(ネクロマンサー)がいます。術式も特定してますから、後はこいつを移送したやつが特定できればいいんですが」

「そこまでやったのかぁ?」


ハインドフットが驚きの声を上げた。


「判断力の低い成りたてのゾンビを連れ歩くことはできないし、自ずとルートは絞られるでしょう。転移か、割と本気で氷漬けにして運んだか――」


ふ、とロキはあれ、と思う。

氷。

冷える。


追いついてきたシドとセトがロキに跳び付いた。


「ロキ!」

「テメー、速いんだよ!」


ロキはそんな2人を見て口を開く。


「おい、シド、セト」

「ん?」

「なんだ」

「……今日、ギルドで何か話を聞かなかったか。変な話を」

「「変な話?」」


シドは思い至ったらしく、ふと視線を氷の玉に移した。


「あるけど、どうした」

「その前にシドには確認したい。お前この事象が起きることは分かってたか?」

「……ランダムだ。中等部に来るか高等部に来るかって割合は中等部の方が高い。でも基本この赤身ゾンビタイプだな」


赤身ゾンビ――肌の無い血と脂と筋肉が露出した死体である。


「今日だということは」

「悪いが冬までの間に起きるってしか」

「冬。冬か。奴さん焦ってるな」

「……あね、そうだな」


納得してしまったロキとシドにスカジが説明を求めた。


「待て、私にも分かるように説明しろ」

「……姉上。おそらくこのゾンビは氷漬けの状態で運ばれています」

「ほう?」

「レゲット通り、だったか――。ギルドにいた者たちの会話で気になった情報、まず薬草の買取価格の上昇、草食の魔物の増加、これは繋がってるでしょうね。あとはレゲット通りがやたら寒かったという話がありました」


よく覚えてるな、とシドが感心したように息を吐いた。


「それらは置いとくとして、レゲット通りが寒かったという話の中に、大きな氷、というのがありまして。もしかするとその中に」

「待て、なぜそうなる」

「仮定と想像で繋げれば繋げられるというだけです。このことが冬までの間に起きているというのなら、氷を運ぶことにおかしなことはないと思いますよ」


本来なら。

ロキはそう言って虚空から王都のマップを取り出した。


「いつの間に」

「ドゥーに作ってもらいました。ハインドフット先生、レゲット通りはどこか分かりますか」

「……ここだなぁ」


ハインドフットがつー、となぞった通りを見てロキは眉根を寄せた。


「王宮の氷室って学園と近いんですね」

「氷室に氷を運ぶってのは今もやってるからなぁ。あまりきれいな氷を作れる魔術師はそういない。しかし氷室に氷を運ぶにしては時期が早すぎるぞぉ?」

「ギルドの人間を当たってみましょう」

「そうだなぁ。だがその前に、学園内にあと3体居るやつらを片付けてからだぁ。まずは生徒の安全を確保しなくちゃなぁ」


ハインドフットはついでにスカジにロキたちを避難場所まで連れて行かせるつもりで居るらしい。それくらいならばやってやろうとスカジは思ったし、ロキも逆らおうとは思っていないようだった。


「ハインドフット先生、魔物たちをお願いします」

「分かった。ゲオルグ先生、この子たちを連れて避難場所へ向かってくれよぉ」

「分かりました。4人とも、ついて来て」

「「「「はい」」」」


ロキたちは教員の引率について、生徒よろしく避難場所へ駆け出したのだった。


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