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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年後期編
126/368

5-9

2024/01/27 改稿しました。

ロキ、セト、シドの3名はギルド本部へと足を踏み入れた。

ロキたちが踏み込んだと同時に視線が飛んでくるが、3人は気にしない。


冒険者ギルド本部と商業ギルド本部は繋がって大きな1つの建物になっている。

ロキの印象としては、ギルドはハローワークに近いもので、冒険者ギルドの方は特にその傾向が強い。犯罪者でさえなければギルドへの登録はでき、手続きもそこまで煩雑なものはない。名前さえ書ければ大丈夫だ。王都では肉体労働なども斡旋しているようなので日雇い労働者もここにくる形になっている。


ロキはとにかく目立つ。体躯がたとえ160センチあるかないかの小柄な少年だったとしても、その瞳は多くの人を惹き付け、銀髪も目を惹く。


ロキは冒険者ギルド側の入り口から入った。辺りを見渡せば帯剣している男が多い。立派な体躯の者から魔術師タイプのひょろっとした者や、一目で日雇い労働者とわかるような作業着姿の男たちまで様々で、中にちらほらと女性が見受けられる。


「お、いつもより薬草の買取価格が上がってんな?」

「お、マジだ。ラッキー、これ受けるか」

「え、ずるいぞお前ら」

「ウチ今新人訓練中なんですー」


別パーティ同士の会話だろうか。


「なんか今日やたら冷えてたな」

「あー、レゲット通りか。あんな大量のでかい氷何に使うんだろうな」


冒険者ギルドには酒場が併設されている。軽食をつまみながらしゃべっている冒険者たちがいた。


「最近草食の魔物増えてるねえ」

「肉になるからいいんじゃない」


同一パーティらしき女性冒険者同士がお冷を飲みながら言葉を交わしている。


「見てこれ、新調したの」

「お、綺麗なもんだな。俺も、腕のいい砥ぎ師を見つけたんだよ。今度紹介してやる」

「やったー。すごい、綺麗なもんだね」


仲のよさそうな冒険者と労働者の会話もある。


通常ギルド内は会話が溢れているものなのだ。

カウンター、集会場があるのはどこの冒険者ギルドの施設も変わらない。


冒険者ギルドのカウンターはフォンブラウ領にあるものとは違い、商業ギルドと似た雰囲気があった。きっちりと整備されていてロキ的には好ましくも面白くなかったりするが、そこは前世からのゲーム脳のせいだろう。


周囲を見渡したロキは人が少々列をなしているカウンターに目をやる。栗毛の女性が1人で何か書き、その紙を並んでいる男に手渡している。ロキはシドを見た。


「あれ順番待ちか?」

「ああ、あのお姉さん転生者」

「よし、順番取って来い」

「分かった」


シドが列に加わる。ロキはセトに視線を移した。


「先に商業ギルドへ行ってくる。セト、シドを頼む」

「お、おう、けどいいのか?」

「いいんだよ。ドルバロム、頼んだ」

『おっけー』


ほとんど姿を現さないため忘れられがちではあるが、ロキには強力な精霊と上位者が付いている。ドルバロムが青い髪を靡かせ顕現した。セトたちが心配するようなことは何も起きない――ロキはそう言外に語ってみせ、商業ギルドへ向かった。



ロキが王都の商業ギルドへ向かう理由は、フリーマーケットである。ロキは、フリーマーケットで自分たちの作った物品が売れることにある意味で味を占めたのであった。


フォンブラウ領でのフリーマーケットの参加はセーウネス家の後押しもあったのだが、王都でやるなら王都支店の許可が必要だ。ロキがエドガーを連れて来なかったのは、ロキが自分の目で商業ギルドを見たかったからだ。セーウネス商会はフォンブラウ公爵領で最も力のある商会であるので、口利きをしてもらえばそれはそれでよいのだろうが、ロキとしては一旦エドガーの事は置いておきたかった。



冒険者ギルド側と違って商業ギルドは同業者ばかりなのもあってそこまで混み合ってはおらず、カウンターも空いている。


いかにも貴族然とした姿の少年が冒険者ギルド側からやってきたことに気付いたカウンターの女が声を掛けてきた。


「こちらへどうぞ」

「……はい」


ロキは大人しくその声に従ってカウンターに足を向ける。カウンターへ行くと、こちらはかなり赤みの強い茶髪の女だった。ロキを貴族と見るや対応しようとしてきたということは、それなりに貴族相手で問題が起こっているのだろうなと何となく予想が付く。


「こんにちは。本日はどう言った御用件でいらっしゃったのでしょうか」

「こんにちは。サファイアの日のフリーマーケットに出店したいと考えておりまして、代表として申請をしに来ました」


女は驚いた。表情に少し出た。

貴族ですと主張しているような服装の少年が、フリーマーケットに。

そんな馬鹿な。


「……あの、申し訳ありませんが、どちらからいらっしゃったのでしょう」

「フォンブラウ領です」

「あら」


フォンブラウ領、と聞いて女は何か納得したような表情をする。ロキはフォンブラウ領がどんな風に考えられているのかの一端を垣間見た気がした。


「王都に出てこられたんですね」

「はい」


流石にギルドの末端の人間に神子の情報は出回っていないようだ。ロキは試すようなことをして悪かったかな、と思いつつ苦笑を浮かべた。

随伴者の1人も付けていないことを見咎めるように女がロキに視線を送ってくるので、ロキは答える。


「伴は冒険者ギルドでの用事を頼んでおります。自分、自惚れ抜きで強いので」


ロキの言葉に女は小さく息を吐いた。失礼な、とは思えど、それをどうこう言うつもりはロキにはない。随伴者が居ないと貴族って問題を起こす生き物なのだ、多分。


「フリーマーケットで出品するものをここに御記入ください。こちらで審査しますので」

「はい」


フリーマーケットは出展者の審査と、ブースの抽選があった。視線を緩めた女から紙を渡され、ロキは記入し始める。

販売者は誰か、どれくらいの規模か、系統は何なのか、販売する物は何か。


今回考えているのはエリオとカル抜きでロキ、ソル、ルナ、エリス、セト、シド、ゼロ、ヴァルノスであるが、レインとロゼは参加したがる可能性がなくもない。だが今回は止めておいてもらおうと考える。流石にロゼは無茶な参加はしないだろうが。


どれくらいの規模かと問われると難しい。

そんなに商品の数が沢山あるわけではない。1つの商品につきおよそ30個が限度だ。

系統は何でも屋か、雑貨屋。


販売する物は作り手によって変わる。

ルナやソルなら治癒薬、回復薬の類。ロキもこれに手を出している。エリスは手芸が好きといっており、アクセサリにアミュレットやリフレクターなどの効果を付けて販売するのはどうだと言い出し、エリオと直接繋がりはないが版図が広がった。


セトに関しては何故できるのかロキ的に甚だ疑問のレース編み。これもエリオが一枚噛んだ。編み込みに使うビーズで簡易魔法陣を描くという意味の分からないことを実践した。成功したのでセトも販売者の中に名前が入っているのだが。


カルは特に何もしてやれることが無いと言いつつできる範囲でエリオと連絡を取り合ってサポートをしてくれているし、ロゼも刺繍糸に魔力を込めることでその手の魔術効果を付与する方法を模索している。


シドとゼロがどうする気なのかロキにはまだわからないが、恐らく魔物の素材となるのであろうなあという気はしている。


そんなことをつらつらと考えながら書き連ね、書類を提出する。


「書けました」

「はい」


女はロキから書類を受け取って固まった。


「……フォンブラウ……?」

「はい?」

「……し、失礼しました。まさか公爵令息様がいらっしゃるとは思っておらず」

「ああ、お気になさらず。では、」


ロキはカウンターから離れる。その瞬間を狙ってだろう。声がした。


「ロキ様!」

「?」


ロキは声のした方を振り向く。小包を手に灰髪の少年が走ってくる。

エドガーであった。


「エドガー」

「もう、いらっしゃるなら声を掛けてくださればよかったのに!」

「君はゲルハルト殿の手伝いがあったよね?」

「そうですけど、父もロキ様の呼び立てなら断ったりしませんよ!」

「そらそうだわな」


エドガーの手の中の小包が冷えていることに気付いたロキは手を軽く触れて温度を一定に保ってやる。


「相変わらず息をするように魔法を使われますね」

「魔法じゃなくて魔術だけどね。昔の暴走を繰り返していた頃を見せてやりたい気分だよ」


ロキはエドガーについてカウンターを離れ、近くに設置されているローテーブルとソファに向かった。


「やはりフリーマーケットに参加なさるのですか?」

「うん。実験も兼ねてね」


フリーマーケットには駆け出しの錬金術師や魔道具作成を手掛ける者たちも集う。ロキはそこに便乗させてもらう形をとることにしたのだ。


「実験、ですか」

「普通の人間に効くかどうかもよくわかんないしね。だからといって君を魔物狩りに連れ出すのは不安だし」

「ははは。素で馬より速く駆ける方に言われるとどうしようもありません」


まあ、王都近くにはそこまで強力なものはいませんが。


エドガーの言葉にロキは薄く笑みを浮かべた。

ロキが準備を進めているのは、薬品ではなく治癒魔術を込めた使い捨ての魔導具である。だからといって傷の治癒の実験の為と言ってナイフで傷付けようとしたところで、もうロキの身体はほとんど傷など付きはしないだろう。ロキではその効果を確かめるまでもなく傷がつかないか治りが早いかという話になってくる。


「まあ、ガキの考えたもの、くらいの気持ちで手に取ってもらえるとしたら、フリーマーケットが一番早いかなって。幸いその手に精通してるやつもいるしね」

「シド様ですか。あの人どこであのいろんなスキル覚えていらっしゃるんです?」

「俺も知らない」


前世だなんて正直に言う者は流石に居ないだろう。ロキはさて、と腰を上げた。


「あ、もう行ってしまわれるのですか」

「セトと来てるんだ。あまり待たせてもいけないからね。エドガー、お前も早くその荷物をしかるべき場所へ届けに行きなよ。確かに冷やしたままにはしてるけど、時間の流れを止めているわけではないからね」

「はい、ありがとうございます。では、お気をつけて」

「そちらもね」


エドガーと別れてロキは冒険者ギルドの方へと戻って行った。

荷物を届けるために腰を上げたエドガーに、カウンターにいた女が声を掛ける。


「セーウネスさん!」

「はい、何でしょう?」

「……あの方、フリーマーケットに捻じ込む気、無いのでしょうか?」

「……ないんでしょうね」


セーウネス商会。その名は伊達ではない。

フリーマーケットくらい、捻じ込めるくらいのツテがあるのに使わないとは。


「単に頭から抜けてる可能性は」

「ないですね。ロキ神の加護持ちでそんなすっぽ抜けた考えの人はいないと思います」

「……捻じ込みましょうか?」

「お願いします」


ちなみにこの案件については、後日エドガーがロキに確認したところ、別に公平に選ばれたなら落ちてても別に構わなかったとのたまったとか。


ロキはコミケとかのイメージでやってます。抽選なんだから通ることを祈っとけみたいな思考です。

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