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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年後期編
119/368

5-2

2023/10/22 改稿しました。

魔物には進化の概念が存在している。それは、人の混じった魔物であっても当然のことだ。条件を満たせばすぐ進化に移ることができる個体も割といる。とはいえその条件を満たすことが難しいので滅多に進化を起こす個体が居ないのだが、では仮に、進化条件を満たしてしまった場合どうなるのか。


――当然、進化を起こすのである。


「ロキ?」


魔物学の時間。

久々にそれぞれの生徒が孵した卵の中身――つまり魔物の様子を見に魔物舎にやってきていたカルたちは、魔物舎でそれぞれの魔物の相手をしていた。


セトはシドが勝手にこなしていた卵割りの後、実家に帰れなかったこともありずっとグリフォンと一緒に居たらしく、すっかりグリフォンはセトに懐いていた。

ロキのスレイプニルたちがいるレーンの右側にはソルが、左側にはセトがいる。


遅れないようにと走ってきたにしては顔の赤かったロキをひとしきり皆でつつき回した後、授業が始まり、ロキはしばらくフェンリルの毛並みに埋まっていた。落ち着いたら魔物たちのブラッシングを済ませて椅子に腰かけていたが。

セトがふと顔を上げた時、椅子に腰かけていたはずのロキの姿は見当たらなかった。


「ロキ?」


もう一度ロキの名を呼ぶ。

セトはコウと、エアルと名付けた黒いグリフォンを置いて、ロキのレーンを覗き込む。ロキはまたフェンリルに包まれて寝ているらしかった。

いや、確かにここは綺麗だけれども。というかロキはしょっちゅう掃除をしに来るのでなかなか清潔でもあるけれども。


『騎士』

「ん?」


突然セトに向けて掛けられた声にセトは驚いた。

騎士、とは一体。

しかしセトを呼んでいると分かる声だった。自分に向けられているのは、声だけではなかったような気がする。


「もしかして今の、フェンか?」

『是。主人を運んでくれ』

「はっ?」


セトは一旦ハインドフットの方を見る。ハインドフットが気付いて駆け寄って来た。


「バルフォット、どうしたぁ?」

「なんか、ロキを運べって言われて」

「――!」


ハインドフットが目を見開いた。


「バルフォット、ケイオスとカイゼルを呼んできてくれ」

「は、はい」


セトがナタリアとヴァルノスを呼びに行くと、ハインドフットはレーンの中に入り、ロキの状態を見る。


ロキはうっすらと汗をかいていた。呼吸は少し荒い。

ハインドフットは小さく息を吐いた。


「フェイブラム、クラッフォン」

「呼びました?」

「……」

「呼んだぞぉ」


すぐにナタリアとヴァルノスを連れてセトが戻って来た。ロキのレーンを覗き込んで目を見張る。


「え、嘘っ」


ナタリアが声を上げた。そしてすぐにシドを見咎める。


「時間なかったんだよ」

「見学するように言えばよかったでしょ。なんでレーンの中に入るの止めなかったのよ」

「どうなってるの?」


意味が分からないとヴァルノスが問う。セトも同じ気持ちである。

人が集まったためソルも顔を出した。


「どうしたの?」

「ロキ様進化始まってる。進化には外部のエーテルとマナを一緒に取り込まないといけないの。魔物が沢山いる此処でだとちょっと体調崩すと思う。――ヘルが近付いてない理由はそれね」

「私、今のロキなら簡単に殺せるわ」

「分かったから近付かないでちょうだい」


ヘルはレーンの隅に寄っていた。ナタリアがハインドフットの横に向かう。


「分かるんですね」

「どのマナが必要かも大体分かってます。皆、レオン様とカル殿下呼んできて! ロキ様圧倒的に光が足りないから!」

「分かった!」

「土は?」

「ロゼ様とヴァルノス様がいればいいわ!」

「ロゼ様呼んでくる!」


ぱたぱたと近くに居た生徒が走り出した。ナタリアは魔力で糸を紡ぎ、ロキの体に巻き付け、その身体を浮かせる。

レーンの外へ運び出し、魔力の糸を切って日陰にロキを横たえる。魔物たちが不安そうにロキを見ていた。


「セト、コウを連れてちょっと離れて。金属のマナはシドから取れるみたいだけど、コウがいるとコウの方が乖離しやすいみたい」

「分かった」

「殿下たち呼んできた!」

「何があった!?」

「来ましたわ!」

「ありがとう! 殿下、レオン様、ロゼ様、こちらへ!」


ナタリアがてきぱきと指示を出していく。


「えっと、ロキ様が何の条件を達成してるかによるけど、シドは分かる?」

「たぶん“死徒”ルートだな。さっきシグマと接触してる」

「古人種経ずに飛んだの!?」

「ああ、飛んだ」


シドとナタリアの間のみで成立する会話にレオンが顔をしかめた。準備をしながらナタリアはレオンの無言の問いに答える。


「……ロキ様は最終的に上位者の所にまで踏み込むみたいなんだけど、私は途中までしか知らない。でもこの段階の進化は知ってる。だから手伝う。今ロキ様は半転身ができる状態だから、ここで進化したらたぶん純血の人刃になるの」


ナタリアの説明にシドが呟く。


「ルビーたち間に合わなかったな」

「赤目の人たち?」

「ああ」

「じゃあここに居る人刃巻き込まないためにせいぜい苦痛に耐えてね!」

「分かってらァ!」


進化、とは。

通常、魔物が上級種に成ることを表す言葉である。


進化のためにはマナと大気中のエーテルを取り込まねばならない。それまでの自分から変化せねばならないのだから当然のことだが、進化するとまず色や、身体の大きさが変化する種が多い。何なら種族まで変わることすらある。


人間も、かつては進化していたと言われている。

それは仙人と呼ばれたり、神人と呼ばれたりしていたと書物には残っているが、ステータスというものが閲覧できない現在、それを確かめる術はない。


「人型のある意味最終進化系が死徒だからなぁ。死徒の進化は()()ことだぁ」


ハインドフットが言った。

ロキの身体に淡い光が集まり、弾ける。

う、と小さくロキが呻いた。


「ロキ様」

「……」


ロキは目を開ける。近くにカル、ロゼ、レオン、レイン、ナタリア、ソル、ルナ、シドやゼロ、エドガーといった見知ったメンツの顔が並んでいるのを見て、自分が気絶したらしいことを察したのか、手の甲で口元を隠し、目を背けた。


「ロキ様、もうロキ様の身体は進化を迎えています。しばらく安静にしていてください」

「……進化?」

「はい。死徒へ飛ぶかと。というか、完全転身ができるようになる可能性が高いです」

「……そうか」


何が原因だったのかは大体察したらしいロキは目を閉じる。

始まったものはもう仕方がない。


「骨格が変わるわけじゃないのでそこまで痛い思いはしないと思います。死徒から何か受け取りましたね?」

「……鈴蘭の、花を」

「……どうしようシド私お初」

「俺もお初だわ無茶言うな」


つまり安静にしていればいいんだろう。

ロキは目を開けてゼロを見る。ゼロはしゃがんだ。


「注意が、あれば」

「……あとで一緒に訓練場を炎上させよう」

「ゼロのテンションもおかしくなってないか」

「主人が不安定になってんのにイミットで下僕が不安定にならんわけないだろ」


カルのツッコミにシドが答え、そして静かに息を吐いて、ハインドフットを見る。


「後はハインドフット先生の方が詳しいかと」

「そうさなぁ。皆は魔物たちの所に戻れぇ。フォンブラウは進化が終わるまでこの状態を維持すればいい、もう少し頑張るんだぞぉ」

「あの、俺めちゃくちゃ削られるんですが」

「クローディは一度に放出してるマナの量が多いからなぁ。良くも悪くも一撃必殺だぁ」


ロキが少し震えた。肌寒いのだろうな、と思っているうちにほう、と小さくロキは息を吐いた。

そして身体を起こす。


「もう動いていいのか」

「むしろ魔術を撃った方がよさそうだ。回路にマナがびっしり。フジツボみたいだな」

「その例えやめろ」


ロキも自分で言っておいて気持ち悪くなったらしい。しかめっ面になったのでとりあえず魔力を放出した方が良いと準備を進めていく。

シドは何か違和感を感じたようにロキを上から下までじっと眺める。そして、あれ、と小さく呟いた。


「……ロキ、“命”属性強くね?」

「それ思った」

「おん?」


ナタリアが同意する。

ロキは首を傾げた。


「……ハインドフット先生、ちょっと魔術使っていいですか」

「いいぞぉ」

「【属性判定(エレメントチェック)】」


ハインドフットの許可を受けたシドがロキのマナの属性を判定するために魔術を行使した。


「……すげえ」

「どうなってるの?」

「『命の器』が解放されてる」

「うん、よくわかんない」

「ロキの適性が闇に振り切ったってことだ。しかし、そっか、うん。こりゃ新しい人刃だな」


シドが勝手に納得してしまうのでナタリアがさらにシドをつつく。教えろと。

ロキは自分に【属性判定(エレメントチェック)】を行使する。


ロキが持っている属性は全属性と表されるものだ。魔力には大まかに分けて6つの属性が存在し、うち4つ以上の属性を持っていると全属性と呼ばれる。場所によるが、四属性(スクエア)五属性(ペンタゴン)六属性(ヘキサゴン)などと呼ばれることもある。


ロキは偏りこそあるが6属性全てへの多少なりの適性を持っているため、間違いなく全属性であり、六属性(ヘキサゴン)と呼ばれる存在だ。希少価値が高すぎるので全属性とふわっと表現されているだけである。人攫いの襲撃待ったなしだ。


6属性だけでは表現できない氷や雷といった希少な属性は、複合属性といい、氷は水もしくは水と風、雷は風もしくは風と氷の複合属性という扱いになる。鋼という複合属性も存在するが、滅多に持っている者が居ないためほとんど表に出て来ることはない。なお、土もしくは土と火の複合属性である。


ロキの属性の偏りはかなり酷く、闇、火、氷がほぼ同格であり、土、風、水、ついで光といった具合であるため、光属性への適性はロキ本人の中ではかなり低いものとなっている。


ロキは咄嗟に自分自身を魔術で判定(チェック)したが、これまではそも見ることすら叶わなかったものだ。


「……あれ? 自分のマナ判別ができる?」


ロキは気が付いた。何か変わっているぞ、と。シドが少し嬉しそうに口を開く。


「『上位者への階段』が解放されてる。よーし名実ともに上位者まであと一歩」

「……父上の仕事増えた」

「そこでテンション下げるのお前らしいよなァ」


ロキの反応を見てシドは呆れた。喜んでいいのに、と。

ロキは静かに立ち上がる。砂を払ってどこぞのアニメかゲームかで得た知識をもとに全身を【解析】し、異常がないことを確認する。


「父上に手紙を書いて、カルから陛下に報告を回してもらわなきゃいけなくなったな」

「分かっている、案ずるな」

「頼みます」

「ああ」


すぐ横から飛んできた返事にロキはそちらを見て少し笑みを浮かべた。カルは一連の流れを眺めていたらしい。


「やはり初等部のが一番本来のお前に近いのか?」

「そうかもしれませんね。逆に演技をしているものとして割り切らなければ敬語が使い辛くなっています」

「今のお前は純血の死徒と同じだからな。おそらく混血である俺たちを下に見ているのだろう。死徒にはありがちだ。気にするな」

「このままあと2年と半年乗り切れってんですか。鬼畜生ですか」

「鬼畜はお前の代名詞だろう?」


カルとロキが終わらない応酬を始めたのを見たセトが、終わったと判断して戻って来た。


「終わったか、て聞くまでもないか」

「あ、殿下よりセトの方が上に見える」

「セトの方が死徒の血が濃いのか」

「そうみたいですね」

「何のこと??」

「「後で話す」」


はて、とセトが首を傾げるが、ヘルがとうとうぐずりだしたため、ロキはレーンへ向かった。カルたちも一旦そこで解散として授業として現在繰り広げられている魔物との交流へと戻って行く。


進化を終えた存在の、その力を目の当たりにするのはまだまだ先のこと。

ハインドフットが戻ってきてロキに問診をしたり、ロキがフェンリルたちにもみくちゃにされたりして、割と平和に時間が過ぎていった。


ロキ様進化!進化!

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