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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年夏休み編
114/368

4-14

方言もどきが入っております。あくまでも創作上の方言であることを前提にお読みください。


2023/09/25 改稿しました。

目の前に立つ青い髪の少年、金髪の少年、赤毛の少年を連れた金髪の偉丈夫を見てロキは絶句した。


「来ちゃった☆」

「王都に帰れ」



ロキはソル、ルナ、ヴァルノス、そしてイザークと時間を調節してフォンブラウ領のフリーマーケットで会うことを決めた。

地球で言うところの土曜日に該当するサファイアの日、午前9時から12時までの3時間限定イベントである。

とはいっても、毎週開催されているのだが。


「じゃあ予定通り、ソルとルナは直接接客になるが、大丈夫か」

「任せなさい」

「ファミレスでバイトした経験を生かす日が来たぜ」


大学へ行ったらしいルナの前世のことである。バイトの経験はそれなりに豊富だったのだろう。


「魔力結晶を作るのは訓練になるものなんだな」

「売ることも可能ですからね」


イザークとロキがメインで魔力結晶を、それをシドと、興味を持ったらしいアツシが首を突っ込んできたため加工を任せた。ゼロは何やら意気投合した鍛冶師のイミット2人と一緒に狩りに出かけ、その素材をガラガラと持って帰って来たので毛皮はなめして持ってきて、他の素材類も一緒に並べることにする。


「ゼロ、お前は下がってろ」

「ああ」


下手をすればイミットは絡まれる。ゼロは手先が器用で武器の手入れは上手いのでサクッと修繕できるところは修繕をさせてもいいかもしれないなどとロキは思っているが。


ソルとルナは持って来た回復薬やらなんやらをバッグに詰め込んでいる。ロキが作ったポーションなどは、エングライアの店を真似て、種類ごとに同じ色形の瓶に入れた。


場所取りに始まり、あまり柄の良くない男にソルが絡まれ、それが傭兵である事実が発覚したり、心配してくれた隣のガラス職人らしき親子とソル、ロキが打ち解けてしまったりとイベントには困らない。


「セネルティエ出身ですか?」

「ああ、そうだぜ神子さん」


ロキの問いに男は答えた。

色ガラスをふんだんに使っているのはせいぜい教会くらいである。色付きの硝子は珍しい。ガラス加工で有名なのはセネルティエ王国であった。


イミットは力が強すぎてガラスを扱うには向かず、日々羅華という島国の職人が細やかなガラス細工を得意とするという。別の大陸の傍の島国にまさに日本そっくりな国があると聞いて、ロキはぜひ行ってみたいと考えてしまった。致し方あるまい。ロキは涼の知識にある日本の古い町並みが好きだったのだ。


「あ、ロキー」

「よう、エドガー」


灰髪の少年が駆け足で近付いてくる。そのバッグには何が入っているのやら、パンパンに膨らんでいる。

外ではロキと呼べとロキが言ったので、比較的様付けが浸透していなかったエドガーは割とすぐ呼び捨てに慣れた。


「……領主様の息子?」

「気にしないであげてください」


気付いてしまった男にソルがすかさず言った。

開店準備をして、いよいよ始まる。


ロキたちはどれもこれも13歳から15歳くらいの外見の子供ばかりである。舐めてかかられるのも仕方がなかった。

とはいっても、大人連中はうまいこと皆シドに乗せられてしまうのだが。


「こんなとこで傷治してくれんのか」

「使った薬によって代金変わりますよー」

「嬢ちゃん、これ治せるかい」


そんな不届き者以外はソルとルナで対応する。椅子に座った冒険者らしき男は腕に包帯を巻いていた。


「外しますよー、うわ」

「うわー」

「これヴァルクファングか」

「お、わかるのかい」


ヴァルクファングは火属性に特化進化した狼型の魔物である。

男の腕に巻かれた包帯を解くと、そこには噛まれた痕が火傷になっていて痛々しい傷が見える。深そうだなと呟いて、ソルは男に質問を投げた。


「この傷はいつ頃?」

「ほんの2日前ぐらいだが」


後には一緒に組んでいるらしい男たちが4人立っている。5人パーティであるらしいことが伺えた。

ロキは男たちのその傷を診て目を細める。


「どうした、ロキ」

「……先日散々ヘルハウンドを狩ったけど、ヴァルクファングは見かけなかったよ。もう一度出てみるべきかな……」

「ヘルハウンドもヴァルクファングもCランクなんだが」


イザークのツッコミに対しロキは小さく首を振った。


「火属性対策さえしておけばヴァルクファングはほとんど犬と変わらないですから。よっぽど鋼竜の幼生の方が頑丈です。5人パーティでこれなら規模がかなり大きい群れか、個体が大きかったとみるべきかな」

「神子さんはよくわかってるじゃねーか」


男が言う。

そりゃあ自領で先日までブートキャンプしていたのだ。ロキには大体領内のことも把握できている。


「獄炎騎士団に父が所属していまして」

「へー。すげえな。結構な火属性魔術の使い手ってわけだ」

「ええ。自慢の父です」


ロキは嘘は言っていない。

獄炎騎士団の団長はアーノルドである。


ソルは薬瓶を取り出す。

ルナと一緒にそっと回復薬等を準備し、傷口にかけてゆく。


「おお? 傷を広げんのか」

「火傷で傷口がケロイド状になってるもの。このままじゃ治らないわ。この神子様にやらせたら痛みなくナイフでズッパリ行ったでしょうけど、そこまで刃物は得意じゃないの」


特殊な薬――ソルの誕生日にとエングライアがもたらしたレシピがこれだったらしい――を掛けて、傷口のケロイドが消え去ると、刃物で切られたような傷だけが残った。ソルがそこからルナに代わり、ルナが回復薬を掛けて傷を治していく。


「すげえな……」

「流石に傷が深いからちょっと特殊なの使いましたけど。ロキの使っていい?」

「構わないよ」

「これ飲んでください」


ロキの傍から美しい水色のガラス瓶に入った回復薬を取って男に渡す。

男は迷わず飲んだ。

すげえな、とロキは思う。


「お? おおお?」

「はい、損傷個所の修復を確認。これでもう大丈夫です」

「すげえな嬢ちゃん!」


男は興奮しきった様子で手を握ったり開いたりする。

ロキはシドが相手にしている女性客がアツシが弄ったペンダントを買っていったのを見て小さく息を吐いた。


男たちが去って行った後、女冒険者がロキたちの作った回復薬に興味を持ち、買って行った。名はエリザベス・ベッソン。しがない農家の出身だという。


また来るからねー、と言っていたあたり彼女は何か解析に近い魔術かスキルかを習得しているのだろうとロキは考えて、まあその時になればまた関わることもあるだろうと、特に気にせずぼんやりと過ごしていた。


その最中である。

ちらりと、青、赤、黄色が見えて、視線をそちらへと向けたロキは目を見張った。


青い髪の少年はロキたちよりも年上だ。金髪の少年と赤い髪の少年はロキたちとそう変わらない。そして、そんな3人を連れている金髪の男。


「……なぜ貴方がたがここにいらっしゃるのですか……」


ロキの言葉を聞いてか聞かずか。男は笑って言った。


「来ちゃった☆」

「王都に帰れ」


言ってしまったのは仕方があるまい。

王族がこんなところに来ているのだから。


「……!?」

「えーっ」


もはや公爵家の人間といることが多すぎて王族が来てもその程度の反応で済んだエリスやソル、ルナはいいのだが、ロキは絶句し、イザークは固まってしまった。


「アニキ! 何置いてるんすか!」

「……そう、だな。まだ、回復薬類と、魔力結晶だけだけど」

「これ俺も置いてっていい?」

「王都でもやるからここに居座んな」


すっかりロキに懐き、なおかつシドの口調を写してしまったらしいエリオにロキは苦笑を浮かべた。今この場ではある意味あまり浮かなくていいのかもしれないが、服装と口調が合ってないので問題外であろう。


「こんなところに急にお越しになられては困ります」

「まあそう言うな」

「父上が胃潰瘍になってしまいますよ」

「なるかもなあ」


まあそれはそうと、とお忍びでやって来た国王ジークフリートは丁寧に並べられた回復薬の入った瓶を見つめる。

質はどれも上等。

大銀貨1枚は下らないだろう。

通常の回復薬はそれなりに効果のあるものだと小銀貨5枚は必要になる。


「いくらで出してる?」

「小銀貨7枚です。効果が通常の物より高いのは分かってますので」

「誰で試したんだ」

「セトとレインで」

「ぷっ」


金髪の少年――カルが思わずといった風に吹き出してしまう。本当はカルでも試しているのだが、言わない方が良さそうである。ロキは呆れたように息を吐き、青い髪の少年――アルを見る。


「先輩、おはようございます」

「おはよう、ロキ君。父や弟たちがすまないな」

「フットワーク軽すぎですよ」

「お前に言えるのか?」

「王都からわざわざここへ来るお前よりはもともと身軽なつもりだけど?」

「くっ、事実なだけに何も言えん」


カルの反応にアルがくすっと笑ったところで、ふらりと赤い髪のオッドアイの青年が姿を現す。


「おん?」

「お? 珍しいな、ホウ」

「ジークじゃん。珍ひー」


姿は青葉色の着流し、浅葱色の帯。手に持った黒い艶のある鞘の刀の柄には紫の房が付いている。

赤い髪は長く伸ばしており、瞳は黄色と紅。大きく骨ばった手は、切り傷や火傷痕だらけだ。


「ホウ殿、先日はゼロが世話になりました」

「おん、気にすんなー」

「ああ、ゼロ君の……」


カルがロキを見る。ロキは小さく頷いた。ゼロが気付いてロキに並んだ。


「何の用」

「これやるー」

「……は?」

「じゃけん、これやる」

「……」←ゼロがロキを見る

「……」←ロキがホウへ視線を移す

「……」←ホウが刀をグイと押しやる

「……」←ゼロが刀を受け取る

「なんか言え」

「「「ありがとうございました」」」


そうじゃない!

カルのツッコミが心の中で炸裂した。


イミット流の反応ならわかる。まだわかる。ゼロとホウだけならわかる。

なぜそこにロキが混じっているのか。ロキが何の違和感もなく順応しているあたりに激しく事情を聴きたい。


「オウも連れてくればえがったのー」

「駄目。ダメゼッタイ」

「おん。ゼロ、ムゲンのとこにいたときより性格歪んどらす」

「ゼロって歪んでんのか?」

「たしかー、ヤンデレ?」

「ロキ、平気か」

「俺とゼロどっちが主人か知ってるか」

「お前に賭ける」

「うん合ってる」


カルの言葉にエリオとアルが目を丸くした。

ロキの反応にも驚いているが。

矢継ぎ早に新情報が開示されるものだから、処理が追い付かないのだろう。


ジークフリートを見知っているような発言もあった。情報量が多すぎる。


「しかし、ホウとオウがこんな傍に居るとはな」

「魔物がぎょーさんおるけんなー。皆ナマクラは使いとうないんじゃー」

「んっ、結構なまってて意味わかんね」

「魔物が沢山いるからな。皆ナマクラは使いたくないのさ」

「ロキ分かったのかよ!」

「いや、なんかこう。雰囲気が前世の方言と似てる」


シドのみ客に対応している点、後で何か要求されそうだと思いつつロキは視線をシドに向けた。シドはにこにこと笑って魔力結晶の説明をしているところだった。むしろ入れ込んでる、あれは邪魔しないのが一番だ。


「さて。そろそろ我々は行く。頑張って稼げよ」

「気安過ぎです。ああ、ここから2ブロック先に女性向けのアクセサリ店があります」

「むっ、なんかバレてて釈然としないが、礼を言おう」


ジークフリートはなかなかロキの傍から離れようとしないエリオを引っ張って去って行った。嵐である。


「おん。じゃー(おい)も行くけんのー。あー、(おい)ん弟が学校(ガッコ)んおるけん、()うたら斧槍作れーて言いなっせ。(おい)より上手(うま)かけんな」

「ホウ殿、……教えてくれて助かる。弟ジョ(弟さん)(の名前は)何て(何と)言わすとね(いうのですか)?」

「スザクじゃー」

「ありがとございました」

「よかよか、気張れー」


もう1つの嵐も去って行った。


「……すっごいなまってたわね。でも意味わかるっていうか。ていうかロキ喋ってるし」

「分からなかったの俺だけか?」

「“じゃあ俺も行くね。ああ、俺の弟が学校に在籍しているから、会ったらハルバードを作れと言え。俺よりも腕はいい”……だったね」

「ハルバードって聞こえもしなかったが?」

「斧槍って言ってたわ」

「イミットは国語は習わんのか」

「あのイミットがどこ出身かによる。イミットに国境は関係ないからね」


さあ、そろそろ販売に戻ろうか。

そう言ってロキたちが販売に戻ったのは11時半頃のことだった。シドが1人で店を回していた時間はそこまで長くはなかったのだが、嵐は濃かったのである。


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