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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年夏休み編
111/368

4-11

2023/09/10 改稿しました。

「――というわけで、いい感じのイメージないですか」

「先に問わせろ。お前の中の常識はどこへ行ったの、ソル」


夜風に吹かれ、月光に照らされた長い銀髪の少年――ロキ・フォンブラウは現在、頭を抱えていた。

後には瑠璃色の髪を同じく風になびかせたスクルドが陣取っている。


何故、なぜこうなった。

ロキには分からない。


(なぜ母上が転移門への道を塞いでいらっしゃるのですか――――ッ!!)



事の起こりは、イルディ男爵領へ泊るぜと宣言したソルが夜になって『火属性マナを使って製氷するイメージが分からない』と、ゲートを開いてやってきたことによる。

後からさらっとエリスやルナ、見慣れぬ赤い髪の少年が見えていたことから考えておそらく繋いでいるのはイルディ領からであろうと簡単に予測できた。


簡易ゲートを開くための石をエリオから渡されていたらしく、それを使って一旦カイゼル領へ飛び、そこからフォンブラウ領のゲートの座標を教わって繋げたらしい。受け答えをしたのはスクルドだった。


よってここには現在自己紹介を終えたエリスの兄・イザークとエリス、ソル、ルナ、そしてヴァルノス、それぞれの親が居座っていた。


「視線が重い。期待が重い。あとなんで正義側の女神の加護持ち連れてきた!!」

「俺の母です」

「男2人とかねーよォ……」


ロキが珍しく意気消沈している。ソルはその原因をちゃんとわかっているのでロキの肩をポンポンと叩く。


「頑張んなさい」

「お前が元凶だろうが」


夜である。

いや、どうにも、奥様方には先に連絡が回っていたらしい。残念ながらスクルドはロキには教えてくれず、問答無用で王都カイゼル邸へ連れてこられたのである。ロキが常識を盾に拒否する未来が見えていたのかもしれない。


「……はぁ、ツッコミを入れきれないや。本題は?」

「火属性のマナで製氷したいです」

「相談する相手間違ってね?」

「氷も変化も使わずにやってみなさい!」

「あれ、なんで俺男爵令嬢に命令されてんだ!?」


やまない漫才を繰り広げながらロキとソルは製氷方法を考え始める。

イザークは思う。


ロキはすぐ乗り越えてしまうだろうな、と。


何せあの槍姫が称賛する弟である。魔術の才は私よりも上、と明確にイザークはスカジの口からロキへの称賛を聞いていた。


ロキはといえばどうイメージすればいいのかなんて知りもしないのに唐突に火属性マナで製氷しろだなどと無茶振りを振られて溜息を吐きたい。


「どうしろっていうんだ……」


とはいえ、ロキはマナをちゃんと見ることができるようになっている。

火属性としてソルが利用できるマナは恐らく火属性全般――そう考えると、と周囲の赤い光を放つマナを観察し始める。


母親たちはイザークの母イリスを含めお茶をし始めていた。


「調子はいかがです?」

「ええ、すこぶるよろしいですわ」

「よかったわ。スカジがずっとイザーク君のこと心配してたのだもの」


脳筋発言が続きそうだったのでロキはその会話を脳から締め出した。


(熱のマナは火にも光にも属している。熱は運動エネルギーだ。それをマイナス側へ? どうやって?)


こういう時には転生者としての知識は邪魔になるな、とぼんやりと考える。マナ自体はいくつかの種類があり、その組み合わせで何のマナ、と呼べるかが決まってくるが、ロキはなにぶん目が良かった。マナを見る瞳が、ソルたちより段違いに良かったのだ。見えているものが2種類ならそれは2つに分けて考えたくなるというものである。


さて、ソルが使えるものの範囲でソルが理解し、イメージできる形へ落とし込まねばならない。ロキは改めて考える。


還元――は別の物を近くで反応させなければならない。

単純な吸熱ならば、気圧を下げる?

駄目だそんなことをしたらいくら魔力があっても足りない。


ロキが最初に考え付いたのは単純なもので、火属性マナに対して発熱温度をマイナス点にするというものである。

この表現は正しくはない。


前世では温度を示すものに“度”と“ケルビン”いう単位が存在していた。

“度”におけるマイナス273度ほどが“ケルビン”における0だった。


つまり、通常水が凍り始めるのが0度となっているのだから、それ前後の温度を出すように火属性マナに命じればいい。

マイナス点云々は考えるよりもやってみた方がいいか、とロキは早速やってみる。


火属性マナに命じる。

無言よりは口に出した方がやりやすいので、あまり人に見られたくないのだが。


「――雪のようなものでいい。触れれば融けるような。小さくていい。指先ほどの氷」


ふわり。

ロキが作り出した小さな氷の粒は、夏の気温に負けてさっと融けてしまった。


大気中の湿気が、一瞬でも凍った。

問題ない。

ロキはソルを見る。


「出来た?」

「ああ。少し大きめのを出す。慣れろ」

「簡単な説明してよ」

「とりあえず、火属性のマナに0度付近の熱を出すように命じてみろ。コップに結露でも張ったらどうだ」

「言い方が可愛くないわね! もうちょっと優しさを求めるわ!」

「俺風呂まだなのふざけんな」

「はー? そんだけ桃の香りさせといてそりゃないでしょ!」

「事実だよだから来たくなかったんだよ」


言い合いつつもソルは早速実践を始めていた。その横でロキもガラガラと拳大の氷を大量に製氷し始める。イザークは「やっぱりか……」と遠くを見ていた。


「冷ややかなるもの、虚空より描くまろい輪郭をなぞるもの。水の凍てる様。【氷結(フリーズ)】」


あっさりと新しい魔術として詠唱まで考えてしまったロキに感服するほかない。イザークはロキの詠唱を真似て自分の手元でも製氷をしてみた。ころりとなんだか丸っこい氷が掌に収まる。平和利用スタンスの詠唱だったようだ、とイザークは体温で溶けていく氷をぼんやり眺めた。


「しかし、イザーク先輩。この案は素晴らしいですね。慣れてくればおそらく消費魔力がぐんと減るはずですから、レポートにまとめてはいかがです?」

「はっ?」


ロキは変なことを言っただろうかと首を傾げる。


「え、消費魔力が減る??」

「発熱と吸熱だと、発熱の方が大量にエネルギーを消費します。発熱に掛ける魔力量の方が多くなりやすいようですよ。最悪共同発表なんて手もありますが」

「……書いて、みようかな。でも、大人に気付いてる人がいないだろうか」

「先に発表すりゃこっちのもんです」


ロキの氷がどんどん石の形から星やらハートやらファンシーな形になってきた。


「あら、涼しくなったかしら?」

「湿気が無くなったんだと思いますよ」

「あそこに転がってるものね」


母親たちのトークにも花が咲いているようである。


「ただ、これだと水が綺麗だっていう保証が無いから、やっぱ飲料水代わりにするのは浄化系が使えないと厳しいな」

「あ、私浄化なら持ってる」

「流石ヒロインスペックか」

「回復が魔法しかないんですけど」

「気にするな」


ロキはふと母親たちのいるテーブルを見る。出されているのは麦茶である。氷が入っても味がそう変わらないからだ。もう、ぬるくなってしまっただろうか。ロキは虚空から皿をぽんと出す。そして皿に乗っている間は解けない、という条件付けで変化魔術を使い、普通に氷魔法で可愛らしい形の氷を大量に製氷した。


「どうぞ」

「あら」

「まあ、可愛らしい」

「皿から取ると融け始めます」

「ありがとう、ロキちゃん」


ロキは茶を用意していたカイゼル家のメイドに小さく礼をする。メイドは小さく会釈をして次の麦茶入りのパックを持ってくるためいったん下がった。


「……相変わらずロキは何でもするね」

「そう、か?」


漸く口を開いたヴァルノスにロキは小さく言葉を返す。


「すごいことだと思うよ。妬むのがバカらしいくらいに」


ヴァルノスの表情が沈んでいるように見えるのは、ロキの見間違いなどではないだろう。ロキからすると何でもできるのはこの身体のスペックの問題、という印象だった。だが、ヴァルノスにとってはそれだけではないのだろう。


「……ヴァルノス、虐めのフラグでも建ったのかい?」

「……アンタがそんな声出すってことは、結構私まいってるのね」


無自覚だったらしいお疲れ気味のヴァルノスに、さっとメイドが冷えたグラスに注いだ麦茶を出してきた。もう戻って来たのか、とぼんやり考えた。


「別に、私に虐めフラグなんて建ってないよ。ロゼ様も平気だし、ソルとルナも今は落ち着いてる。エリスはフラグクラッシュしてる」

「一番ヒロインチックなはずなのにフラグクラッシャーだったのアイツ」

「アンタの方が知ってるでしょ」

「伊達に傭兵やってなかったか……」


前世のゲームネタについてこれるものは限られている。少なくともヴァルノスはアーマー〇コアには付いてこれない。そう、エリスとロキは前世でロボアクション系のゲームも好んでいた。


「誰のルートにも進む気ないんだろうね、エリスは」

「それならむしろ、フラグクラッシュというより、フラグ管理をきちんとできているという方が正しいんじゃないのか。誰のルートにも入らない、トゥルーエンドに」

「……そっか、そう考えることも出来るか」


ヴァルノスがあれこれと悩むのは、今に始まったことではない。ロキもロゼも公爵家の人間で、裏で動くのは得意だが表立って流れを弄るには目立ちすぎる。女性陣の皺寄せが全て、丁度良い伯爵家の地位に居るヴァルノスに集中しているのは想像に難くない。


「今度茶会でも開こうか」

「ロキ様の側に伯爵令息いないじゃありませんか」

「シスカあたりでも引き込んじゃおうかな」

「ケビン様可哀想、じゃなくてレオン様が使える人がいなくなっちゃうわよ」

「だってフォンブラウ系列の伯爵家どこも令嬢だもんよ」


ついでに年上ばっかりだとロキは肩をすくめた。要は、兄姉が傍に置く人材なのであって、自分たちの近くに来てくれる都合の良い人がいないのだと言っているに等しい。ヴァルノスはしばらく自分が頑張るしかないと改めて思い直したようだ。


「頑張ります……」

「何かあったら言ってね、ヴァルノス嬢。実際君にはかなり世話になっているから」

「じゃあせめて悪役令息扱いまっしぐらなのどうにか管理してくれません?」

「あれ、そんなことになってたっけ?」

「無自覚かよ最悪」


定期的に言葉遣いが深窓の御令嬢とは思えないモノになるヴァルノスにツッコミを入れてはいけない。ロキは自分の置かれている状況を思い返した。


「……俺、遠巻きにされる以外になんか変なことあったっけ?」

「遠巻きにされてるんですわ。自覚あるじゃないのどうにかしろ」


ロキは自分を遠巻きに眺める生徒たちを思い出す。話しかけられないと思っているのは普通だと思うし、公爵令息というロキの肩書を考えると当然ではあるのだが、そこに別の何かをヴァルノスは感じているらしい。


「……俺、嫌われてる?」

「嫌われてるまでは無いと思うけど、人によるかしら」

「……うーむ。ちょっと考えておかないといけないな」


ロキは麦茶で唇を潤して、思考を回す。


「嫌われてないなら別に、と思うけれど」

「ロゼ様やレオン様経由で動けばいいだけだから?」

「というより、ロキ神の加護持ちは嫌われる前提が頭の中にある所為かな」

「否定できないのが辛いなぁ」


ヴァルノスもそうだが、転生者というものは、普通とか常識とかいうものを俯瞰的に見ていることがある。それは彼ら彼女らの前世から見ると何それと言いたくなるような常識に対して発揮されることが多く、加護持ちについての常識というのは、その内のひとつだった。


「ロキは転生者なのは事実だけれど、涼君って呼ぶにはこっちに染まりすぎてる気がするわ」

「高村涼が俺の前世なのは理解しているよ。君が松橋久留実であることもね」

「でも程度の違いくらいはあるんでしょ?」

「それはそうだね。俺はロキ・フォンブラウであって、もう高村涼じゃないし」


ヴァルノスが少し表情を陰らせる。ロキとヴァルノスの感覚は少しずれているらしい。ロキはそれを何となく悟った。前世と随分性格が変わったと分かるのは正直、ロキ自身とヴァルノスだったのだが。


「……君が松橋であり尚且つヴァルノス・カイゼルだというのは否定しないよ。でも俺は、前世で死んでるならいい加減こっちに慣れていいとも思う」

「……それもそうね」


ヴァルノスが麦茶を飲み干した。からりと氷が音を立てる。


「まあ、その辺りは、自分で向き合うしかないんでしょう。それより問題なのは、貴方がロキ神の加護持ちは虐められて当然と考えていることなのよ。公爵家の人間が虐められていいわけないでしょ」

「虐められているとすら思ったことが無いんだがね」

「一番タチ悪い。私たちが見ていて虐めだなって思ったら先生に報告するから」

「先生も選ばなきゃいけないだろ?」

「うっ、そうだった」


たった3年なんだから平気だって、とロキはなんてことないように言う。が、そんなロキの肩を後ろから掴む影、髪は群青。


「ヴァルノスちゃん、ロキちゃんが虐められているって本当?」

「……母上」

「スクルド様は御存知なかったんですね」

「……読み外してしまったみたい。抗議してこなくちゃ」


スクルドは笑っているが、目が笑っていない。これは本気で怒ってるなとロキは察した。だからと言って母の怒りの鎮め方はロキには分からない。ロキは虐められているらしい。スクルドがこの反応ということは、スクルドから見てもロキの扱いには抗議するべきだと思う何かが見えたという事だろう。


「ロキちゃんそういうところちょっと鈍いわよねぇ」

「……自覚がないならばまあ平気かと思いまして」

「駄目よ?」


ロキはシドとゼロに思ったことはスクルドに報告するよう指示し直した方が良いかもしれないと思いながら麦茶に手を伸ばす。


「大体ロキ今、バルドル様とクルト様があれこれやってくれているのもあって風当たりがそこまで強くないってのはあるのよ」

「あの2人が動いてくれているのは知っていたけれど、そんなに?」

「バルドル様人気高いからねえ」


バルドルと言ったら、スーフィー伯爵家の御令息だったかしらとスクルドが呟いたのでロキは小さく頷いて肯定しておいた。


「平民の子たちは二分されてるかな」

「平民って言ってもそこまで人数多くないだろ」

「まあそうだけれど。でも一番話せるロキがそれを放置しているのは面倒かも」

「ロゼに影響が出る?」

「そこまではまだわからないから何とも」


まあ多分影響は出ないしヴァルノスがロキを心配してくれているだけなのだろう。それは素直に感謝しておく。


「まあ、なんだ。ありがとう、ヴァルノス嬢」

「なんのお礼かわかりませんねぇ」

「心配してくれていることにだよ」

「あらま」


ヴァルノスは笑って麦茶のお代わりを求めた。


「それはそうと、私はケビン様が気になるわよ」

「あら、それ何?」


ソルが口を開いたのでヴァルノスとロキは視線を向ける。


「ケビン様って結構ロキに突っかかってるじゃない。あれどうなのかなって」

「ロキがケビン様を弄るのが悪いんじゃないの?」

「あー、でもシスカと繋がりのあるギルド職員だと少し態度が悪かったりはするかもしれない」

「影響出てるじゃん」


ケビンがそこまでする奴には思えないけどな、とロキは笑った。スクルドが口を開く。


「シスカ家ってだけならお兄さんの方の影響かもしれないわ」

「そうなんですか?」

「フレイちゃんとプルトスちゃんにいろいろちょっかい掛けてきてるみたいだからね」

「なんか聞き覚えあるなぁ……」


ロキに自覚があまりないはずだ、とソルは納得したように口を噤んだ。


「それはそうと、俺を誰だか知らない奴の反応が面白すぎて揶揄うのが止められない」

「止めて差し上げろ」

「それは何されてもロキが悪いわ」


周りの職員も何も言わないから放置してるよ、とロキが言うので、ヴァルノスは小さく息を吐く。ロキは人間観察を楽しんでいる所もあるが、基本的にはあまり人をしっかり見ているわけではない。相手の気持ちを慮ろうとしての観察ではないのだ。自分が楽しいから見ている、という印象をヴァルノスは持っていた。


「まあ、恐れ知らずが居たものね」

「王都で銀髪で身なりが良いヤツって今じゃロキぐらいじゃないの?」

「たぶんそうだね」


それで伝わらないならそれはそれでいいのさ。

ロキが気にしてないなら今あれこれ言ったところであまり意味はない。ソルも小さく嘆息した。


「まあ、エリオ殿下にまで飛び火しなければ何とかなるんじゃない?」

「一番の問題はそこかもしれないな」

「そういえばエリオ殿下って攻略対象だったわね」

「年下かつ推しじゃないってだけでって忘れてんなよ」

「失礼ね、しょうがないでしょ」


その先を言おうとしなかったソルに、ロキはにやりと意地悪く笑う。


「顔が好みじゃない?」

「殿下にそれ言ったら多分物理的に首が飛ぶんですけど」

「事実だろ?」

「悪かったわね、私リガルディア王家の顔アイドル感強すぎるのよ」

「マジかぁ」


まあ変な夢見ない感性に安心ねと言い切るソルを見てヴァルノスとロキは顔を見合わせて笑ってしまった。


「一つ自分からよろしいでしょうか」

「あら、シドちゃん」

「よう、シド」


いつの間に来たのだろう。フォンブラウ公爵邸から来たであろうシドは、普段はけして見せない作り物めいた笑みを浮かべてロキたちの前に立った。


「ロキ、お前、俺とゼロがいない間にいろいろちょっかい出されてるじゃねーか。狙われてんのいい加減気付け?」

「お前らが居る時皆が話しかけてこないのお前らの所為だろ」

「守ってるって言え。俺らはセ〇ムなんだからな?」

「それにしたって友達が増えないのはちょっと悲しいぞ」

「俺らのセキュリティを正規ルートで越えてきた身元とマナーがしっかりしてる子たちと友達になれ、頼むから」

「俺がそんな真っ当でいられるわけないだろ」

「お前が手癖も足癖もめっちゃ悪いの俺知ってるからな。そのうえで周りにほとんど危害を加えてないお前の理性に俺は称賛を贈ろう。その上で言う、もうちょっと管理されてくれ」


真っ当に口説き落としに来たこいつ、とロキが笑ったその意味をちゃんと理解できるものはこの場には居ない。


「……ねえヴァルノス様」

「……どうしたの、ソル様」

「私改めて思ったけど、ロキ様の理性って鋼鉄超えてアダマンタイトなんじゃないかって思うのよ」

「それはソルが加護持ちだからこその体感よねぇ」


私にはその感覚分からないもの、とヴァルノスは呟いた。というか、ソルが魔術を使えるようになったイェーイで話が終わらないのが本当にこのメンバーらしい。ロキが虐められている自覚がなくとも、傍から見ていてハラハラするのだ。ヴァルノスの危惧はおかしな話ではない。


加護持ちは、感情の高ぶりによって制御が効かなくなることがある。そこにもともと制御が効きにくい加護且つランク5という条件が揃うと、正直な話、周りに被害が出ていないのが奇跡と呼ぶべきもので。


(なんかホント、ロキを大切にする理由しかないんだよなぁ)


ヴァルノスが抱える疑問は残っている。それでもまあ、今はいいかとヴァルノスはまた麦茶を飲み干す。


「ロキ様にはまだ遠く及ばないですねえ私」

「エリス嬢はそこまで加護のランクって高くなかったような?」

「はい、私はランク3です」


ヴァルノスにロキを取られていたエリスもいつの間にかちゃっかり近くに来て菓子を頬張っている。ふわふわとした金髪が風に靡いていた。


「そろそろお開きにする?」

「そうね、もう遅いし」


母親たちの言葉でこの場は解散する運びとなる。使用人たちが撤収の支度を始めた。ロキはシドに引っ張られて戻っていったし、フォンブラウ公爵邸と繋がったのでソルとルナもフォンブラウ公爵邸に引き上げることになった。お泊りはまた今度だ。


「ソル様、ルナ様、今日はありがとうございました!」

「ソル嬢、ルナ嬢、俺もとても良い経験をさせてもらったよ」

「構いませんよイザーク様。私も使える魔術の幅が広がりましたし」

「楽しかったです! エリス様、今度はお招きいたします」


ひとしきりそれぞれ礼を述べて、それぞれの転移陣に乗って戻っていった。

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