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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年夏休み編
109/377

4-9

2023/08/25 改稿しました。

リガルディアの貴族は、成長の過程で魔力を吸い込んで蓄えていく。貴族の家というのはたいてい霊脈の上にあるためだ。霊脈とは魔力が豊富に溢れる場所を指す。王都と公爵家領都はリガルディア王国内部の大きな霊脈の上にあり、子供の成長過程で霊脈を利用するやり方が主流となっている。王都の学園に子供が義務的に集められる原因だ。


「貴族の子供ばっかり強くなるのおかしいんじゃない?って話の『イミドラ』でイベントあったんですよねえ」

「そんなのあったんだ?」

「はい。多分ロキ様も知ってると思いますよ」


エリスとソルがクッキーを茶請けにのんびりしている。現在彼女らはカルによって招集を掛けられ、ロゼ、ヴァルノス、ナタリア、レイン、セトのメンバーで茶会を開催している。この場にロキがいないのは実家に帰っているからだが、今年もフォンブラウ公爵領の魔物の発生状況があまりよろしくないということでソルとルナは王都のタウンハウスに待機となっていた。


「まあ、そのイベントはサイドストーリーですし、案外大人が知っていることかもしれないです。だからロキ様もそこまで情報共有してないのかも?」

「案外皆知ってると思ってるだけかもしれないわね」


そのうち聞いてみたら言ってなかったっけ?ってなりそう、とソルは苦笑する。


「まあ、私たちもそこまで注意払ってなかったし、聞いたことなかったしね」

「そうだったんですね」


エリスはクッキーに手を伸ばした。

チラリとカルの方を見やる。カル・ハード・リガルディアはロキに気を配っていることが伺える態度を取っているので、ロキと仲良くしておくのが良いことは明白だ。エリスは誰への牽制なのか何となくわかっていた。


「そういえば、ロキの武勇伝って何か知ってる?」


レインが口を開く。エリスはソルと顔を見合わせ、記憶を辿った。


「最適性武器じゃない片手剣で中級竜の首を刎ねた話とかですかね?」

「それ伝わってるんだ」

「伝わってくるの早かったですよ」


流石に中級竜は、とエリスは言う。

中級竜は狩ってもいいかどうかの判別がつきにくいため、狩りたがる者がほとんどいない。ロキはその辺りの判別がつきやすいらしく、狩っていい竜と狩ってはいけない竜を先に知らせてくれることもあるらしい。


「ロキ様が教えてくれるって、そこまで一緒に行ったんですね、レイン様」

「ロキにとっては母方の従姉弟だしね」


レインは近頃ロキと仲が良い。それは喜ばしい事なので2人の距離感がバグってようがソルは気にしないことにしている。


「とはいえ北西と王都ぐらいまでしか噂来てないですよ」

「そうなのか、ヴァルノス嬢」

「はい。実家の方では一部の冒険者しか知らなかったです」


ヴァルノスの言葉にセトが口を開く。


「公爵様がある程度情報統制してるんじゃないのか」

「あー、その可能性はあるわね」


侵入者の撃退の話もあるよね、とロゼとヴァルノスが呟いた。


「まあ、イミットばりの怪力でもなきゃ竜種の首なんて切れるわけがないから、どっちにしてもやばい噂なのは変わりないけれど」

「ロキあんまり筋力高くないはずなんだけれどね」

「それは、フォンブラウ領で育っていればそうなるのでは?」


ロゼとヴァルノスの言葉にカルが返すと、ソルが口を開いた。


「でも、カル殿下。ロキはほとんどフォンブラウの土地で過ごしてないですよ?」

「そうかもしれんが、元々あの土地はあの形状だからな、戦場になりやすいせいで人刃の魔力が染み渡っている」


カルは手元に紙を持ってきて簡易的な地図を書き、フォンブラウ家の土地を示す。

森に覆われた丘に挟まれ、奥にはまた深い森に覆われた山がある。

魔物は森に発生することが多い。領地の3分の1を森に覆われたフォンブラウ領は、それはそれは強い魔物の出現地となっていた。


「確かにそうかもしれませんけど」

「ロキだってずっと王都にいたわけではあるまい」

「生まれてすぐは王都にいたみたいだけど、ちょくちょくご両親の実家に帰ってるでしょ」

「フォンブラウにもメルヴァーチにも顔出してるっては言ってたな」


カルはそうか、と呟く。

この世界の住人は、まず10歳までの間に一度魔力量がぐんと伸びる時期がある。そして、次にまた魔力の成長期が来るのは14歳から18歳までの4年間。貴族の子供が王都に強制的に招集されるのは15歳から18歳までの間なので、この期間に合致している。王都にも実家の領地にも顔を出しているロキは存分に魔力を蓄えながら育っているという事なのだろう。


「王都はかなり強い霊脈の上にあるわ。ここの立地条件は、要は子供たちの魔力成長期に沢山の魔力を取り込む力をつけさせるために利用されてる。何のために13歳になる年から寮生活になるのか、考えてみればなるほどって感じになるわね」


ナタリアの言葉で、そうなのかー、と小さく感心の声を上げたルナとエリスだった。13歳になるとし、つまり中等部は全寮制ではないが寮があるし、高等部は全寮制になり、学園からはよほどの理由がない限り出ることは叶わなくなる。


「それで、なんでいきなりロキの武勇伝の話をしたの、レイン?」

「……手紙が来てさ」


ロゼの問いにレインは懐から紙を取り出した。


「これは?」

「ウチの領からフォンブラウ領のギルドへ移ったやつがいたらしくて、そいつがロキに喧嘩を吹っ掛けてしまったらしいんだ」

「あらら」

「死んだな」

「ゼロとシドに捻られて終わるんじゃないの」

「それなら問題にはなっとらん」


手紙に目を通したセトがうげ、と小さく呻いた。


「どうしたの」

「1人魔物に殺されたみたいだな」

「え?」


それフォンブラウ領に移った奴が悪いんじゃ、と言いたくなるのを堪えて、ソルは言葉を選ぶ。


「もしかして、その死んだ冒険者がロキに喧嘩を売った奴で、そいつをロキが助けなかったの?」

「御名答だよ」

「いくらロキでもそれ助けない気がする」

「どんな喧嘩を売られたかによるんじゃない?」


レインの話が見えてきた。これは、ロキの機嫌が悪いのだろう。そして仲が良くなってきたレインがロキの機嫌を取るように言われてしまったのかもしれない。


「あの状態のロキに声を掛けるの結構きついんだよ」

「どんだけ怒ってんのよ……」

「助けなかったことを悔やんでいるけれどそれより喧嘩売られた方に機嫌損ねてる感じなんじゃないの」

「ソルだったらどうするの?」

「とりあえず甘味で釣るかしら。あとは話を聞くくらい」


ソルの言葉に、レインが少し反応した。


「やっぱりロキは甘味が好きなんだよね?」

「試したんですか?」

「ああ、でも全然靡いてくれなかった」

「時間かける必要があるかもね」


結局僕が頑張るしかないのか、とレインは項垂れる。ロキの気分が紛れそうなもの、とソルが少し考えて、ヴァルノスに問いかけた。


「ヴァルノス、ロキが好きそうな本に心当たりない?」

「あー、その手があったわね。ちょっと待ってて」


ヴァルノスが一時的に居なくなり、その間にナタリアが口を開く。


「そういえばロキ様が売られた喧嘩ってどんなものだったんですか?」

「……対して実力も無い貴族のボンボンは引っ込んでろ、って言われたらしいよ」

「うわその冒険者馬鹿じゃないですか?」

「いや、一応そいつ白銀級だったらしいんだよ」

「そういえばロキ昇格試験受けてないからまだ青銅級か黒鉄級よね」


階級で馬鹿にされてキレたという事らしい。ロキが一応それだけ教えてくれた、とレインが言ったことでソルが口を開いた。


「あ、じゃあロキ嘘吐いてますね」

「え?」

「多分ロキ自分単体で馬鹿にされても怒らないですから。一緒に貴族全体か領主を馬鹿にする発言でも混じっていたんじゃないですか?」


これはソルが正しい、と何となくレインは思ったらしい。


「もう少しロキの話を聞いてみるよ。ありがとう、ソル嬢」

「いえいえ」

「ただいま戻りました」


丁度ヴァルノスが戻ってきた。


「お帰り、ヴァルノス嬢」

「ロキ様へのオススメの本の1つです。これで機嫌が直ると良いんですが」


ヴァルノスはアイテムポーチから大きな本を取り出してレインに手渡す。レインはありがとう、ちょっと見てもいいかなと礼と断りを入れて少しページを繰ってみた。


「宝石魔術学?」

「はい。魔晶石の精製も元は錬金術や宝石魔術の分野のものですから。最近錬金術の本を読み漁ってるって言ってたので、こっちも興味持つんじゃないかなと」

「そうか」


ロキってほんといろいろ読んでるな、とレインは呟いた。ロキが知識欲を満たすために初等部から本の虫だったのは知っているけれども。


「とりあえず、この後実家に帰るやつは?」

「僕は帰るぞ」

「俺も帰る」

「私も」

「私もです」

「私実家王都だし」


一通り話が終わったと判断したセトの問いに答えたのは順に、レイン、レオン、ヴァルノス、エリス、ナタリアである。


「セトは帰らんのか」

「帰れるわけないだろ。今じゃすっかり警戒態勢に入っちまって皆フォンブラウ領とか他の領地に逃げてる」

「セーリス領は言わずもがな、か」

「ええ」「はい」


セーリス領に入り込んだゾンビの一件がかなり尾を引いている。加えて、隣の領地を治めていたクレパラスト侯爵家が政変で追い落とされたのも痛手であったのだ。

じゃあ、とエリスが言う。


「イルディ領に来ませんか? 私の両親も喜ぶと思うんですが」

「えー、いいのかな? 行っちゃうぞー?」

「ぜひいらしてください!」


ソルから色よい返事をもらったエリスは早速手紙を書かねば! と意気込み始める。カルはロキがいなくなったと知って意気消沈する弟を諫めているであろう兄に思いを馳せた。


久しぶりに兄弟で遊んでみようか。

きっとアルも喜んでくれるだろうなと考えて、カルは静かに紅茶を飲み干した。


こんなところに彼女らが呼ばれているのは彼女らが転生者という特殊な立場であるからに他ならない。先ほどのように意外な情報を持っている場合もあるので案外馬鹿にできないのだ。そしてそれが同時に彼女らが狙われている可能性を改めて感じさせる。


「そういえばエリスって確かお兄さんがいるのよね?」

「はい。そこまで仲は良くないですが、二つ上に」

「二つ上ならスカジ様が御存知かしら」

「かもしれんな」


エリスたちがそんな話をしているとき、カルは懐から魔力の波動を感じて手を突っ込んだ。

中からはタンザナイトカラーに光る石が出てきた。


「あら、リンクストーン早速使うんですね」

「この色は、ロキか」

「ですね」


使い方は単純で、受け取ったら魔力を軽く流せばつながる。

カルが魔力を流すと、声が聞こえてきた。


『通じたかな?』

「ああ、ロキ。通じている」

『皆で集まっているようだね』

「ああ」


カルが答えればロキは満足そうに小さく笑う声を聞かせた。


「要件があるのだろう、どうした?」

『ああ、実は父経由でギルドから店をやらないかと話をいただいてね』

「ほう?」


友人を誘ったらいいと言われたんだよ、とロキは続けた。


「それは……まさか、」

『うん、おそらくエリオ殿下の件も含めてだろうね』

「分かった、公爵が言っているということは陛下も御存知だろう。確認でき次第エリオの反応を見て連絡する」

『頼んだよ。――ソル、お前たちはどうする』

「私とルナはやったほうがいいかもね。既に薬とか作ってるわけだし」

「参加します!」

『わかった』


ロキからの唐突な誘いではあるが、乗らない手はないとソルとルナが目を輝かせており、セトは少し悩みながらも参加したいなあと小さく呟く。


「ロキ、その店はどうするつもりだ、店番だなんだといろいろあるが」

『最初は毎週サファイアの日のフリーマーケットに出ようと考えているよ。おそらく魔導具や回復薬の類ばかりを扱うことになるだろうね。冒険者ギルドの集会場でも借りるという手もあるがね?』

「令嬢を行かせる場所ではなかろう」

『そういう事だよ』


ロキが楽しげに言葉を紡ぐ。表情が見えないと、それだけで声に気を使って話しているらしいロキの様子が伺えた。


「ロキ、いつもより声に力入ってるわね」

『以前試しにカルと通信をしてみたのはいいけど、声に抑揚が無いと言われて少しばかり落ち込んだよ』

「アテレコの経験しててよかったじゃない」

『まったくだ』


エリスとルナとナタリアが、「これロキ様役者になれるわ」「声優とか行けそう」などと話していたのは脇に置く。


「いつ帰ってくるの?」

『早くとも来週だね』

「そう。私とルナはイルディ男爵領にお邪魔するかもしれないわ」

『そうか。ああ、レイピアは持って行けよ。イルディ男爵令息は姉上の指導を受けているブロードソード使いだ。なかなかに真面目な方だと聞いているよ』

「分かったわ」


鍛錬に精を出すフォンブラウの気風に慣れてしまったらしいソルとルナを見つつ、セトは思う。


「鍛錬なら俺も一緒に行きたいです……」


自分を置いてフォンブラウにブートキャンプに行ってしまった父の率いる騎士団の若手のことを思いながら、セトは呟くのだった。


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