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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年夏休み編
108/368

4-8

2023/07/25 加筆修正しました。

ギルドへ向かうロキの足取りは軽い。もともと外歩きが好きだったようで、馬車での移動を嫌がることは無いが、少し眉根が寄ることを本人は知っているだろうか。シドとゼロがいる今ほど自由に歩けるタイミングも無いだろう。用事があると真っ先にそれをこなすために動くので、あまり自由にほっつき歩くことは無いのだが。


フォンブラウ公爵領領都にある冒険者ギルドは、石造りの立派な建物である。大きなギルドは冒険者ギルドと商人ギルドを併設していることが多い。フォンブラウ領都のギルドも、冒険者ギルドと商人ギルドが併設されていた。


ギルドへ足を踏み入れると、内部がざわめく。

左手にカウンター、右手には集会場があり、奥には掲示板。依頼の紙は掲示板に張り出されており、受注はここに張られている依頼用紙を持ってカウンターへ行く。


今回ロキはただ顔を出しついでに騎士団の皆で狩った獲物を換金しに来ただけであるため、すたすたと迷わずカウンターへ向かった。


唐突にギルドに現れた白銀の髪の少年は、身長も低く色白で細い腕、上等な生地の服を身につけている。目立たぬはずがない。

冒険者ギルド、そこはまさにむさくるしい男たちの集まる場所である。


後に従者と思しき少年を2人連れているが、片方は半精霊、もう片方はイミットと異色の組み合わせだった。


新人たちは何だあのガキはといわんばかりの視線を向ける。

しかし昔からこのフォンブラウ領で生活している冒険者たちは違った。今にも声を掛けそうになった新人の冒険者を周りの冒険者たちが止める。


「やめとけ」

「領主様の息子だぞ」

「獄炎騎士団がキャンプしてたからな、換金しに来たんだろ」


ちゃんと領主の子供を知っているようで何より、とロキは内心ほっとしていた。フォンブラウ領の冒険者は他の領に居る冒険者よりも強いことが多く、手を上げられたら多分ロキはただでは済まない。

ロキは買取カウンターへと向かい、お久しぶりです、とカウンターに座っている娘に声を掛けた。


「あら久しぶりですね、ロキ様。夏季休暇ですか?」

「はい、父上も休暇に入られたので帰省しました」


ギルド嬢がカウンターの横にトレーを置く。ロキはそこにポンポンと小さな魔物をどっさり100ほど積んだ。コレーの分である。


「コレー様ですか、このメイスの跡」

「ええ。日に日に腕力が無視できないレベルに達していって」

「はい、大銀貨3枚ですね」

「流石にこの量になると結構しますね」

「状態もいいですしね」


どさどさとロキが手早くカウンターに積んでいく魔物が90ほどになった。


「これは……プルトス様とフレイ様ですね」

「ええ。双子らしく半々で分けやがれと」

「はい、小金貨6枚です」


回収されていく魔物の素材をギルド嬢もロキもにこやかに見ている。


「見事に魔核のみ。トール様ですか」

「ええ。最近出力がさらに上がってるようで、近々武器がショートする予定です」

「半年保ったからいい方ですよね」

「ええ」

「小金貨1枚、大銀貨5枚です」


魔核のみは処理しやすくていいですー、と言いつつギルド嬢はさあ次寄越せと構える。

ロキはどの成果がどの騎士の物かを逐一把握しているらしく、こまめに受け取って次、次、とテンポよく換金していった。


「……あの、そろそろコカトリス狩ってる方が増えてきましたね」

「これをやったやつは左腕が石化してるので致し方ないかと」

「石化の恨みは重いですからねー。小金貨3枚です」


ロキははあ、と小さく息を吐いた。


「どうしました?」

「ここからは面倒になりますよ」

「どんとこい、です」


ヘルハウンドを一気に8頭ほど積めばギルド嬢は流石に飛び上がった。


「ヘルハウンド!? しかも群れですよねこれ!?」

「いくつかの群れが合わさっていたようです。すべて狩りつくしましたよ。抜かりはない」

「うわー……大金貨1枚になります」


ヘルハウンドはCランクだが、狩るのが非常に難しい魔物である。とにかくその数に押し切られれば命はない。大抵群れているので基本的にはBランク扱いである。


「またヘルハウンド……大金貨1枚、小金貨4枚です」

「あと3人分です、頑張ってください」

「魔力回復薬とってきます」

「試作品がここにありますよ」

「……効果は」

「殿下に飲ませたらそれは元気に」

「王族に何飲ませてんですかもー!!」


でも飲みます。

ギルド嬢は回復薬を飲んでジワリと広がる魔力に嬉々として仕事を進めていく。


「すごいですねこれ! めっちゃ回復しますよ!」

「副作用はそのまま、回復量を1,5倍ほどにしたものです」

「もうロキ様お店開けるんじゃないんですか」

「やれるならやりたいですよ」

「換金終わったら商業ギルドに紹介状書いてもらいましょうよ。はい、大金貨3枚、大銀貨5枚」


シドとゼロがそろそろ終わりそうだなとロキの傍へ寄ってくる。


「ヘルハウンド以外にも結構ヤバいの混じってますね。去年結構狩ったと思ってたのに……」

「何か拙い魔物でもいましたか」

「ええ、皆に聞いた方が分かると思うんですけど、グールが出たっぽくて」


ギルド嬢はロキが出した魔物たちを見ながらロキの質問に答えた。

ゾンビが進化するとグールになってしまったりする。屍族と呼ばれるこれらは最終到達地点が死徒であることもあり早急に狩ることが推奨されているのだ。


「……穏やかじゃないですね」

「グールなら気を付けた方がいい。グールに齧られるとイミットでもゾンビになる」


ロキの呟きにゼロが口を開いた。シドは少しばかり悩みつつ、換金がてらするお話じゃねえわな、と呟いた。


「はい、大金貨5枚、小金貨2枚です。これアンドルフさんですかね」

「正解です」


ロキは最後に自分の分を取り出す。

これが一番皆をビビらせる、という認識あってのこと。実力を鼻にかけることこそないが、自覚は十分だ。最後に虚空ではなく、ウェストポーチから鉄籠を取り出す。


「……オークもいたんですか」

「……オーガじゃないだけよかったと言ってください」


オークは豚頭の亜人系の魔物である。ランクはB、群れるので通常はBAやBSといった表記がなされる。

平均的に出る魔物がCランクが多いとはいえ、Bランクもいないわけではない。


「ゴブリンにホブゴブリン、オークにハイオーク、バジリスクにコカトリス、ミミックウェポンにジャック・オ・ランタンの生け捕りですか。金庫空になりますよ。小白金貨1枚、大金貨3枚です」

「お疲れ様です」

「はい」


ジャック・オ・ランタンの生け捕りとは、と冒険者たちが覗き込んでくるのでロキは見せる。美しい曲線の装飾のなされた鉄籠に入っているジャック・オ・ランタンはプルプル震え、頭が揺れている。


「でもジャック・オ・ランタンなんて珍しいですね。Bランクの火と植物系の魔物」

「友人が魔物学基礎で孵したのがこいつらだったので」

「珍しいですね」


白金貨が飛び出したことに驚愕する新人たちをよそに、買取カウンターを後にしたロキは集会場側へと足を踏み出す。


「グールを見たことのある者はいるかい」

「へーい」


新人を捕まえている冒険者が手を上げた。


「出来れば詳しく教えてもらえるかな」

「はいよ。まず俺たちがグールとエンカウントしたのは街道沿い、セーリス男爵領方面行き。向こうはもう仕方ねえとは思うが、どさくさに紛れてやべえのが入り込んでるかも知れねえ」

「あたしたちはクレパラストの方面で遭ったよ」


別のパーティからの情報を聞きながらロキは少し考え、ああ、と小さく頷いた。


「セーリスとクレパラストは隣接しているからな……よくない傾向だね。他に何かあるかな」

「グリフォンの気が立ってるとかは?」

「それも」

「卵泥棒が後を絶たねえらしい。とうとうこないだ自分で巣を破壊しちまったやつがいて討伐されたよ」

「……」


ロキはゼロと視線を交わし、小さく頷いた。


「もしもの話だが、その時異臭は?」

「獣人の奴らが鼻が曲がるって喚いてたぞ」

「……やっぱ薬品か?」

「同一犯にしては広がり過ぎている……」


やっぱりか、とロキは小さく呟き、小金貨を1枚ずつ情報をくれた者に投げる。


「お、小金貨か」

「傭兵が流れ込んでくる可能性が高い。備えておいて」

「「「「「了解」」」」」

「帰るぞ」

「「承知いたしました」」


新人は銀糸を揺らして帰って行く領主の息子を唖然として眺めていた。

なんだ、なんだあれは。

貴族の子弟とはあんなものだったか?


自分の知っている貴族の子弟はあんなにいい意味で堂々としているものではない。

そう思って金貨を受け取った冒険者に問う。


「あの貴族様は一体……?」

「ああ、あの方はロキ・フォンブラウ。俺たちが束になっても敵わなかった中級ドラゴンを……一撃で殺した御方だよ」


力が全てのここでは、あの人には逆らわないことだ。


「そうそう、『一番得意な得物じゃないんだがな』とか言いながら片手剣で首を一発スパンっとね」


でもまあ、仕方がないんだよなあこれが。


「この土地で生まれ育ったやつは特にその傾向が強いらしい。こないだパンを買いに行ったらよ、そこの亭主が今夜はワイバーンの肉だーって騒いでたからな?」


ここでは平民も魔術が使えるんだぜ。


新人冒険者は思う。

この土地に移ってきてよかったのかと。

今更悩んでも致し方ないことである。


フォンブラウ家は、そういう土地柄であるのだから。


みんなのぱわーいんふれがしゅごい

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