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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年夏休み編
104/368

4-4

2023/07/05 改稿しました。

ケイリュスオルカ・クレパラスト。ハド・ドラクル。

両者が今回の誘拐事件について、きちんと抵抗したのかと言われると、そこは微妙なところだ。ロキに言えばおそらくブリザードが吹き荒れること請け合いのため、カルはこのことをロキに伏せている。ケイリュスオルカとハドはループを知っていた。ロキがループを知らなかったということは、ケイリュスオルカやハドが不安から試すこともあるのだろう。


ロキを試すために自分の身を危険に晒すようなことをしてほしくないと思うばかりだが、逆を言うのであれば、自分たちの身体が被る被害も分かったうえでやっていなければ、今回のような、ロキの怒りを誘発する舞台を仕立てられるとは考えにくい。


それに比べて今日のなんと平和なことか。ロキの目は濃桃色で、空は晴天だった。

事件のひとまずの解決を見て、公爵家の子供たちが王宮に集められていた。難しいことは大人に投げるに限る。大人がどう解決してくるかは気になるが、リガルディアに不利なことはないだろう。


――もう誘拐話は御免だ。

アーノルドたちが般若の如き形相で仕事を片付けている間、ロキは一つの問題点に気が付いた。


「なあ、カル」

「どうした?」


ロキ・フォンブラウ。学校でその名を知らない生徒はもう流石にいないだろう。中等部前期で最優秀成績を修めた彼は、新聞部の取材を上手いこと手短に終わらせて自由時間を確保するという、今までの者たちにないことをやらかした。取材が長ったらしくて見ていられないとか、事実にそぐわぬことを書かれるのは心外であると脅したとか何とか。


頭が回る人物なのは確かで、たとえそれが若年故に思考に青さが残っていたとしても、周りの頭がそれについていけるかと言われればそれは無論、否で。


「今思ったけど、王都は結界が張ってあるよね」

「ああ」

「……綻びがあるんじゃないかと思うんだけど」

「……やはりそう思うか。お前の父君もそう仰っておられてな」


ロキ以外にも気が付いている者がいたことにロキが安堵の表情を見せる。アーノルドがそう言っているということはまず間違いないだろうとロキは思った。王都の結界に関しては、ただでさえグレイスタリタスの強行突破で揺らいでいた時期がある。その時に内部に入り込まれ、その後は内側から削られていると考えてもおかしくはない。


「学園にも同様のことが言えたら最悪ね」

「可能性がないわけではない。調べているのではないだろうか」


だって、浮島にやってきたあの男たちのことがあるじゃないか。


ロゼの言葉にカルは予想を口にする。ロキ達の日常にちらちらと見え隠れしていた影は、どう考えても今のカルやロキの手に負えるものではなかった。大人に頼って何が悪い、と言って憚らないロキ、しかし力ずくで捩じ伏せるときに自分たちが出入りしていることを忘れたわけではないだろうに。


グリフォンの密猟事件の際、他の生徒達へは伏せられていたものの、学園を守る結界に綻びがあった可能性は高い。

学園の結界を張り直さなければ、と思うのは致し方ない。


「お待ちください、エリオ殿下!」

「ええい邪魔だっ、退けっ!」


俄かに廊下が騒がしくなる。お茶会中なのだから止まれと声を上げる門番役の騎士を振り払ってドアに体当たりをかましたらしい赤毛の少年が、転がり込んできた。


「ああっ、カル殿下、ロゼ様、ロキ様、レオン様、カイウス様、エミリオ様、申し訳ございません!」

「いい、気にするな」


カルが手早く答え、ロキは転がり込んできた少年の方へ足を向けた。この少年、ロキはほとんど会ったことが無かったのだが、話には聞いている。

この国の第3王子、エリオ・シード・リガルディア。『イミラブ』の攻略対象。


「エリオ殿下、いつまでそうしている気ですか?」

「……ん!」


ロキの言葉にエリオが顔を上げる。黄色い瞳の瞳孔は細く、イミットのような目をしていた。

先祖返りか、とそんなことを考えたロキは手を伸べた。エリオはその手を取って引き上げられて身体を起こすと、ロキに抱き着いた。


「まあ」

「いかん……」

「エリオ!」


順にロゼ、カイウス、カルの言葉である。

レオンも息を吐いた。


「エリオ殿下、どうなさったのです」

「……トールから話を聞いていた。お前、魔術が得意なのだろう? 魔道具作りに興味はないか!?」


顔を上げてロキと視線を合わせたエリオの言葉に、ロキはトールを思い浮かべた。



「ロキ兄上ええええ」

「どうした、トール」


夏休みじゃー、と事件の事後処理をアーノルドたちに丸投げしたロキが屋敷に戻ってくると、トールがけたたましく初等部2年目1学期の報告をしてきた。


「エリオ殿下に目をつけられまして」

「公爵家で同い年なのに逃げられると思ってたのか」

「だってあの人横暴だって噂だったのに、俺にめっちゃ絡んでくるんですよう!」


人間に興味ないって噂だったのに、とそんな話を聞いていったいどんな人物像ができていたのだとちょっと弟が心配になったロキだった。


「なんか、魔術に傾倒してるみたいで」

「そうなのか。ならば、お前は珍しい雷を持っているから目をつけられるのもうなずけるだろう?」

「でも最近魔道具作りに没頭してて、危ないったらありゃしないんですよ!」


あ、こいつ苦労人になるわ。

フォンブラウにしては珍しく振り回されるアーノルドの遺伝を確かに感じたロキだった。



魔道具を作るのに興味はないかと、言われれば、それはもちろん興味があるに決まっている。ロキは小さく頷いた。


「!」


嬉しそうに目を輝かせたエリオに、これはカルも御しきれないだろうなと思う。将来的には御せるようになるのかもしれないが、今はまだ無理だ。同級生に緑の髪の似たタイプがいることを思い出しながら、無意識でエリオの頭を撫でる。


「ロキ、平気か?」

「問題ないよ。魔道具作りに興味があるのは事実だしね」

「……????」


カルはそれよりも大人しく撫でられている弟に気を取られたようだ。ほとんど話していなかったが、と付け加えれば、聞き取ったロゼが目を細めた。


「ロキは属性の関係上道具にした方が楽なものもあるでしょうしね」

「それもあるけれど、今1つ思いついたことがあるんだ」


ロキはエリオのポケットの中でがつがつと音をさせているものを指して問う。


「エリオ殿下、貴方が持っているその魔道具は一体なんです?」

「む? ああ、これか、これはな、結界だ!」


がた、と音がしてカルとレオンがエリオの方を見たのが見えた。ロキは見せていただけますか、と声を掛け、エリオは頷いてテーブルにごとごと、と魔法陣(コード)を刻んだ石を置いた。


「……カル、エリオ殿下の魔術に関する評価を上方修正させておくべきだと思うね」

「ああ」


術式を発動させて効果を得る物は全て魔道具と呼ばれる。術式を刻んだ石も魔道具だ。

カルとロキは魔道具に刻まれた高度な魔法陣を見て驚愕していた。ここまで細かい魔力操作をすることができていたとは、初めて知ったと言わんばかりの表情のロゼやカイウス、エミリオ、レオン。皆エリオが細やかな魔力操作ができることを知らなかったのである。


「?」

「エリオ、この結界の術式は、元々の物よりかなり細かいようだが」

「! ああ、兄上、聞いてくれ! この結界にはすべての属性を交えてみたんだ!」

「6属性結界ということか?」

「ああ!」


ロキはエリオが置いた4つの石を正方形に配置する。

魔力をそっと流し込めば、発動した。


「!? お前6つとも持っているのか!?」

「ええ、少々偏りが酷くはございますが」

「すごいな!」

「お褒めにあずかり光栄です、エリオ殿下」


立ち上がった結界の発動には6つの属性が必要であるらしいことが伺える。1つ下とは思えないはしゃぎっぷりにロキは薄く笑みを浮かべた。

そも、その辺に落ちている石を結界の起点に使おうと考えたのが、思考の柔らかい子供らしくて、ロキは好感を覚える。


「本来は結界だから、複数人数で張ることを前提として考えているのだ。石を増やせばもっと大きな結界も張れる! 魔力は流し込むだけ、術式をもっと簡素化できれば替えも利きやすいのだが、」


熱中し始めるとべらべらと喋りまくるタイプらしい。12歳にしてこれだけ魔術にのめり込んでいるのは一種の才能だ。ロキは魔法陣を見る。虚空から紙とペンを取り出して書き写し、眺める。


ふむ、と小さくロキは呟いて、術式を書き直し、虚空から透明な魔力結晶を取り出す。それに魔力で直接丁寧に魔法陣を刻み付けていく。


「な、何だその魔力結晶は」

「俺が生成したものです。結界のスイッチのオンオフならばこんな石を使うよりも魔力結晶や魔核を使った方がよいでしょう。中の魔力が無くなれば消失します。消失を知らせるアラーム音でもかけておけば異常事態としての警報の役割も兼ねることができるでしょう」


エリオは目を輝かせてロキを見上げる。それを見ていたカルは息を吐いた。


現在学園に使われている結界は光属性のみまたは闇属性を混ぜた双極属性結界と呼ばれるものである。

全体的に、含む魔力の属性が偏っていると、結界は脆い。


つまり、つまりである。


さらりとロキが改良を加えてしまったが、エリオは今までの偉人たちが頑張ってもできなかった6属性の反発だの云々といった面倒な問題を解消した結界の基礎を組んだということになる。それがどれほどのことかカルもロキも分からないほど子供ではない。


「ロキ、この後陛下の許へ行く。付き合え」

「わかったよ」


小さな声でそう言葉を交わし合い、2人はエリオを捕まえに来たメイドたちにエリオを引き渡し、エリオはロキと離れがたそうにしていたが、またお会いしましょうとロキが言えば約束だと言って笑顔で去って行った。


「……ねえカル」

「なんだ、ロゼ」

「エリオ殿下ってスライム飼ってないっけ?」

「……それについては触れるな。王族なのにスライムなんぞ孵して情けないって言われて結構傷が深そうなんだ」


ロゼの言葉にロキは首を傾げる。


「ロキ、エリオ殿下が『イミラブ』の攻略対象なの知ってる?」

「ああ」

「きっかけは魔物学なのよ。でもその前にひと悶着ある。そっちがもしかしたら今回の件に絡むかもしれないわ。エリオ殿下が中等部2年に上がるときのことよ」

「……早めに解決しておいた方がいいか?」


ロキとロゼの会話にカイウスとエミリオが首を傾げると、レオンが「前世の知識に関する話みたいですね」と答えた。


「……俺たちが中等部3年のときか……」


カルが小さく呟いたのだが、誰の耳にも届かなかった。


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