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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年夏休み編
103/368

4-3

2023/07/04 改稿しました。

ハドの証言を基に相手が身を隠しているであろうエリアの絞り込みを行い、事情を知っていそうなナタリアからもループ中の情報を聞き出し、ロキの契約精霊であるヴェントに情報収集を頼み、迅速にケイリュスオルカの救出準備を進め、ロキたちが件の陣へ突入準備が整ったのは丸1日後の事だった。


暗闇に乗じての方が面倒ごとが少ない事と、ケイリュスオルカが現在は平民であることも考慮して、保護者プラス少数の護衛と、子供たちが動くことになった。


本来子供を行かせるわけにはとアーノルドが渋ったのだが、一度進化を終えていたロキは王種であるが故に拉致された同族、しかも自分と血縁が近しい者を、他人任せにしたくないといって真っ向から対立した。まだロキの瞳も青いままだったため、ジークフリートが特別に許可を出して、ロキを行かせることにしたのだ。ただし、条件として、髪の色だけは変えていくことが付けられた。ここで怪我をしても、公爵令息がここに居たなんて事実はない、と扱うという事だ。


リガルディアの法律では、瞳や髪の色を変えることは処罰ものだ。属性詐称、という面倒な罪状となる。が、今回は国王の許可があるのでよし、ということになったのである。まあそもそも何者が喧嘩を売ってきたのかは知らないが、ハドの話を丸っと信じるのであれば外交問題になること請け合いなので、こちらもそれなりの対応をする、という話だ。


ロキたちは相手が何者であるかなどの情報を仕入れたうえで行動を開始した。そうでなければ不測の事態で驚いてしまうかもしれない。そうなったらロキを抑えるのが大変になる。大人が行けばいいといわれるかもしれないが、そうなれば確実に外交問題に発展するので子供に任せる方法を取ることになった。チャンスは一度きり。


「しかし、夜襲か」

「一番楽に人質強奪して帰るなら夜襲、ってことでこうなったけれど、上手く行くかしら」

「夜間行軍なんて練習したことないよ」

「行軍じゃないからセーフ」


暗闇に乗じての作戦である。

風に吹かれてなびくロキの髪は黒い。カルたちは髪の色を元の色の補色に見えるように調節していた。


この場に来ているのは、ロキ、カル、ロゼ、レオン、カイウス、そしてヴァルノスの6人である。

カイウスが巻き込まれたのは、風属性だからだ。今回は風属性にも居てもらいたいというヴァルノスの要請で呼ばれたのがカイウスだった。セトは魔力量が足りないということで留守番である。


「しかし、この地形だと迎え打たれるよな」

「だから人質奪取で帰るって話になったんだろ」


レオンの反応にカイウスが返した。ここにいるメンツの中ではカイウスが年長で皆よりも1つ年上だ。カイウスはロキを見やる。ロキはだいぶ落ち着いた様子を見せているものの、これはまだ怒っているな、と悟った。


ロキの瞳は未だ青い。とはいえ、ブチギレ状態が続いているわけではなく、静かに怒りを堪えている状態に近い空気を感じる。


ケイリュスオルカを攫ったという相手が陣を構えていたのは、周りを崖に囲まれた狭い盆地だった。入るための道は細い山道のみで、ヒューマンには越えられない高さであるのは間違いない。ここがヒューマンの国だったなら、情報すら伝わらなかったかもしれない。


少々開けている場所に何やら打ち上げるためのものらしき機構が設置されているのをカルが見咎めた。


「……なんだ、あれは」


発射台に見える、とカイウスが呟く。鉄製っぽいな、とレオンが言うと、ロゼとヴァルノスがロキの傍に寄っていった。


「ロキ、あれ『イミドラ』に出てた?」

「……ああ、出る」

「やっぱり対空兵装?」

「対竜兵装だ」


短くロゼとヴァルノスの言葉に答え、ロキは視線を上げる。


「だが、今の時点であれが出て来ることはなかった」

「いつごろ出て来るものなの?」

「最低限4年後くらいだ」

「4年後って何があるの」

「ハンジが帝都防衛戦でドラゴンを討伐する」

「その時使われるってことね」

「ああ」


ヴァルノスがきっちり確認をして、小さく息を吐いた。これはループを覚えている者がいて、先に兵器を開発したとみるべきだろう――とカイウスがまとめようとした時、カルが口を開いた。


「前世で似たようなものってあるのか、ロキ」

「やりようによっては玩具レベルで作れてしまうな」

「ロキたちは作れるのか?」

「ある程度再現はできるかもしれないが、にわか仕込みもいい所だ」


対竜兵装とロキが呼称したことで、カルの中では発射台もどきが危険なものに見えているのだろう。ロキたちがどうにかできるものであるのならどうにかしたいと考えるのは当然だ。


「……あれ、何対策だと思う?」

「対イミットだろ」

「……そうよね」


ロゼはロキの答えに小さく息を吐いた。


「ハドが追いかけてくるって分かっていてやってるわよね」

「覚えてる奴が居るの確定だな」

「空から行ったらやられる、ってことね。ハド君がロキを頼ってきたのって、ナタリアが知ってるループとハド君が覚えてるループが重なってるのかしら」

「可能性高いわね」


ループについてカイウスに説明している暇すら惜しいので説明しないと先に宣言していたロキの所為で、カイウスはループについて全く質問する暇がなかった。あとで聞けと視線だけで黙らされてしまったカイウスにご愁傷様とカルとレオンが生温かい視線を向けている。


「あれ先に止めた方が良いかしら」

「距離によっては味方を巻き込みながらでも撃てるだろうな」

「じゃああれを先に吹っ飛ばす?」

「ああ」


ロキとロゼの間で大体のことが決まってしまったようで、ロキとロゼがカルたちの方に向き直った。


「レオン、一撃目はお前に頼みたい」

「ヘ、俺?」


レオンが慌てて聞き返す。ロキは小さく頷いた。


「レオンの一発の威力ならあれくらい壊せるはずだ。――ケイの位置も把握できた、行こう」

「俺に拒否権はないのかよ」

「この状況で必要か?」

「……お前のそういうとこ苦手だ」

「ごめんあそばせ。慣れろ」

「横暴だ」


ロキの目に赤っぽい色が戻って来たのにレオンは気が付く。放置よりも何か話す方が彼の怒りを鎮めるのに有用だったらしいことに気が付いてレオンは嘆息した。


今回の作戦では、相手を1人も殺さず目的を遂行せねばならない。1人でも殺したら国際問題まっしぐらで、子供だけで責任は取り切れない。


レインが連れて来られなかったのは、実家に戻っているからで、エミリオは学業的な理由で不参加となっている。人数が増えすぎてもよくないのであまり突っ込まずにいることが伺える。


子供が実行者であるのは間違いないが、実は近くにちゃんと大人も待機していた。この行動を止められなかったのは、ロキの怒れる王種の魔力に中てられた子供たちが動こうとし始めて収拾がつかなくなったためだ。ロキの怒りに引っ張られたというべきか。


止められないと悟ったアーノルドにより、相手を殺さないことを条件にロキと、サポートできるメンバーを揃えて少数に人数を抑えられた。ロキはこのことに特段不満はないらしく、淡々とアーノルドの伺い口調の問いかけを承認していた。レオンはここはロキに従うのが良いと悟る。冷静になってきたであろうロキを見て少し安心したというのもあるかもしれない。


「……俺は何をすればいい?」

「あの簡易発射台を融解させてくれればいい。武器の無力化が最優先だ」


ロキの言葉にレオンが構える。ロキの傍には全長160センチはあろうかという巨体の狼型の魔物――風銀狼が座っている。フェンリルとロキが名付けた魔物はロキたちの知らぬ間に昇級進化していた。


「今回は私たちには足が無いからロキの単独吶喊になる。アンタのおかげで私も土を扱えるようになったわ。カル殿下には何もないから安心なさい」

「……なぁカル、ロゼが最近ソル染みてきたと思わない?」

「俺に振るな……」


ロキがカルに話を振れるまで落ち着いたことが伺える。

ロゼが満面の笑みを浮かべた。


「ソルと同じように言えばお前は拒否しないとソルが言っていたわ」

「ブルータスお前もか……」


ロキの目がいつもの濃桃色に戻る。ロゼはロキの前に拳を突き出した。


「ほら、やっと色が完全に戻ったわ。あんまり怒りに全振りしてると碌なことにならないって、狂皇が言っていたでしょ」

「狂神に魅入られてはたまらんな」


ロキはそう返して、出発前に唐突にロキたちの元へやってきたグレイスタリタスを思い浮かべる。



「おい、愚か者」


まず聞こえたのはそんな声だった。

王都にロキが戻ってきたとき、グレイスタリタスがロキに接触してきたのだ。人刃の王種が怒り狂っていることを察して接触してきた、というのが正しいだろう。ロキも自分がここまで怒りを抱えたのは初めてで、とりあえず叫び出さないように抑え込むだけで精いっぱいだったのだが、それを見た発狂をこそ加護として受ける狂戦士族の長だった男は見咎めたのだ。


ロキが息を吐いてグレイスタリタスの方を見やった時、かなり不機嫌さが表に出ていたと自覚はしていた。グレイスタリタスが気にしたのはそこではなかった。むしろ、その後の行動に、言葉に、ロキはグレイスタリタスが言わんとすることを理解して眉をひそめたものである。


「おい、人刃の王種」


ロキ、と名前を呼ばずにロキを指す音を並べ、グレイスタリタスは彼をちゃんと見上げようとしたロキに平手を喰らわせた。


「……?」


ロキが一瞬呆気にとられたのは致し方ない。何すんだこいつと思ったのも否めない。が、ロキはそれをあからさまに表には出さなかった。グレイスタリタスは舌打ちした。


「何故何も言わない? 完全に耐えることができないのならば、吐き出すがいい。吐き出せないのなら、周りに悟られることなく抑え込むことだ」


ロキが感情を抑え込めなかったことを咎めている、と気付いてゼロが抜刀しようとしたのをロキが止めた。ゼロはロキの選択は全て肯定されるべきで、ある程度は許されるべきだと思っている。だからロキはゼロを止めた。自分がやろうとしたことを正しくグレイスタリタスは理解し、忠告してくれている。


「……ロキ・フォンブラウ」

「……」

「お前は闇に属する神霊の寵愛を受けやすい。見初められやすい。もたついているとあっという間に神霊に掻っ攫われるぞ」


ロキは目を閉じ、呼吸を整える。怒りを抱くことをグレイスタリタスは禁じていない。神霊に気付かれないようにしろと言っているに過ぎない。


グレイスタリタスの髪の銀の房が淡く光っていることに気付いた。ロキの髪も淡く光っている。グレイスタリタスがいるから怒りを司る精霊に見つからなかっただけだと悟ったロキは口を開いた。


「グレイスタリタス」

「――」

「忠告感謝する」

「……ふん」


グレイスタリタスはしばし瞑目し、その赤い瞳をロキに向け直す。


「積み重ねの上の怒りか。早急に怒りを鎮めろ。でなければ次の()()は貴様だ、ロキ・フォンブラウ」


がちりと錠の落ちる音がした気がした。

周囲を探れば狂皇が何か術を施したらしいことも窺える。


「狼を連れて行け。あれならばオレの術も多少は届こう」

「……ありがとう、グレイス」

「……こんなところで潰れるな、ロキ」



嵐のように去って行った彼が、狂神と名高い怒りの精霊サタンの加護を受けていることは有名な話である。ロキの怒りはサタンを呼び寄せたか。それを感じ取ったグレイスタリタスがロキの保護のために動いたのだと大人たちが理解するのにそう時間はいらず。


それと同時に、この手で、とロキが願う以上、怒りを完全に治めることはできないというジークフリートの判断で、突撃を掛ける役目をロキたちが賜った。


カルが付いてきたのはいざという時最も騎兵としての能力が高いから――仮にも竜と血を分けた王家なのだ。フォンブラウ嫡男の多少の無茶にもついていける人員をと考えたら、彼は必然的に選ばれるに至った。また、本人の希望があったこともある。


私たちも一緒に行きたかった、とは年上たちを代表したアルの言葉だ。今回ロキの兄姉であるフレイもスカジも来たがってはいたのだ。人が多くなりすぎるということで理由を付けて不参加となった者もいるが。

結果的に公爵家がほとんど動くという大事にはなったが、火消し役に残ったソキサニス公爵には本当に申し訳ない気分である。お礼を兼ねて何か贈ろうと子供心に決めたレオンだった。


ロキは木の棒を持っている。刃先があると相手を殺す可能性が極めて高いため、刃のないものを使うこととなったのだ。それでも突きを正確に喉などに当てればまず相手は助からないだろう。ロキはそれだけのものを持っている。


ちか、と一瞬光がカルの視界に入った。


「ロキ、合図が来た」

「行ってくる」

「死ぬなよ」

「そう簡単には死なん」


ロキが動くのを察したフェンが腹ばいになる。ロキがまたがると苦も無く立ち上がり、カルに小さく頭を下げて走り出し、崖を駆け下りていった。


「フェンって頭いいよな」

「狼型ですからね」

「本来は群れるしな」



ロキを乗せたフェンは音もなく崖を降りていく。直後、すさまじい爆発音がした。


「!?」

「なんだ!?」

「て、敵襲――ッ!」


男たちの声がする。

ああやっぱり敵国の者なんだろうなとそんなことを考えながらフェンで駆け下りた崖の先、ケイと呼ばれている従弟のいるテントを既に割り出しているロキはまっすぐそちらへフェンを誘導した。


「狼!?」

「騎兵か!」

「単騎です!」

「オッドアイじゃねえ! 人間だ!」


眼のいいやつがいるなとロキはそちらへ目を向ける。

強化魔術を使っているのが見えた。よって。


「ドゥー」

『はーい♪』

「ぐあっ!?」

「どうした!」

「闇精霊がいる!」


指示を出したら視界を潰すことを優先するようにとドゥーには言ってあった。強化魔術を使っていた男に視界を奪う魔法をぶつけ、状況整理が早いことに少々危機感を覚える。情報の伝達も早そうだなとロキは思った。やるしかないだろう。


「フェン、殺すなよ」

『御意に』


ロキはフェンから飛び降り、テントを守っている門番役の兵士たちに向けて魔術を放つ。


「【鈍化(スロウ)】」

「!?」

「状態異常か!」


ロキは詠唱を破棄して状態異常魔術、つまりデバフを男たちにぶつける。変化属性の祖であるロキはこういった支援魔術系統が得意であることが判明していた。詠唱を破棄することで効果時間が短くなるというデメリットはあるものの、発動が早くなる分で補える。相手がどれほどの実力があるのかもこれで大まかに測れる。もしこの詠唱破棄をした魔術を早々に解除して殴り掛かってくる者がいれば、それだけ魔術耐性の高い者がいるということに他ならない。


身バレしないようにと国旗も金属の鎧も身につけず簡素な革鎧だけで身を守っている手練れと思しき兵士たちの腹を横殴りにして引き倒し、ロキはテントへ駆け込む。


そこには、存外寛いでいるミノムシがいた。

明るい茶髪、赤みの混じった黄色い瞳、長めに整えられた髪。

10歳前後の少年ケイはロキを視界に収めて、目を見開いた。


「ハドじゃない……?」

「……俺をここに寄越したのは、ハドだがな」


ロキがそう答えると、ケイはもぞもぞと動き始める。ロキはケイを巻いているロープを切って巻きつけられたブランケットをはぎ取る。


「ケイ」

「……ロキ、兄。何で」


ケイが驚いて目を見開いている。まるで、来ないのが普通だと思っていたかのように。

無表情だったロキが、ふっと口端を上げた。


「……帰るぞ」

「……はい!」


ケイは泣きそうな顔で笑みを浮かべる。ロキはその表情の意味を考えないことにした。

縛られていたためか、少々身体が固まってしまったらしい。おぼつかない足取りのケイをロキは抱き上げた。


「下手したら戦争だな、これ」

「身バレしないように死人出すなって話では?」

「……やっぱお前ループ組か?」

「たぶん予知夢ですよー?」


ケイは今度は苦笑する。表情がころころと変わる子だ、と思いながら、ロキはケイの頭を撫でた。ループの自覚が若干ある状態なのだろう、ロキはそう思った。アンネローゼが亡くなった際、ケイが泣かなかったのは、泣かなかったのではなく、泣けなかったのかもしれない。


テントを出ると、外にいた兵士たちはみなフェンに沈められており、風を纏うBランクの魔物は流石に鎧が無ければ攻撃を一撃食らっただけで腕も足も食いちぎられてしまうためか迂闊に近づけずにいるらしいことが伺える。


「フェン」

『はい』


フェンはすぐにロキの元へやってくる。

ケイを乗せてやり、ロキも乗る。


『【軽量化】【疲労回復】』


ロキは面倒になると前世の言葉で魔術を紡ぐ。フェンは意味が分かっているらしく、『ありがとうございます』と礼を述べた。


「身体を預けろ、ケイ」

「は、はい」


フェンが走り出す。追撃の魔術が飛んでくるがロキはヴェンに目配せするにとどめ、更にフェンの速度を上げる。


「届かない!?」

「風の精霊様だ」

「くっ」


追いつけないと判断したらしい。

フェンが合流地点へと駆け抜ける直前、ロキと緑の髪の青年の目が合った気がした。


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