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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
10/368

1-9

2021/06/02 加筆修正しました。元の文章と内容が変わっているので、お気を付けください。

「やれやれ……いつこの茶番は終わるんだ」


アーノルドたちフォンブラウ家の面々がメルヴァーチ領へ再出発したのを見送ったドウラは小さく呟いた。何度も読み返して飽きた本をおすすめされてしまって、また読む羽目になった、とでもいうような、うんざりした視線。しかし、ふっとその視線が緩められる。


「まあ、ロキ坊のおかげで今回は退屈しなさそうだが」


まさか初っ端からやらかしてくるとはな、とドウラは口元に笑みを浮かべた。ロキのために封印を施してやったが、どうせあの様子ならばすぐに破れるだろう。ロキ・フォンブラウのポテンシャルを読み違える程度の者だったなら、きっと今ここにドウラはいない。



「姉さん!」

「あらゼオン、慌てちゃってどうしたの?」

「取り繕ってる場合じゃないでしょう! みんな無事だった?」

「大丈夫よ、誰も死んで無いわ」


フォンブラウ家の馬車はメルヴァーチ邸に到着するなり、使用人の出迎えではなく、現当主ゼオンの出迎えにあった。

2台あった馬車は、荷物を魔物が全く荒らさなかったこともあって、1台は大破したがもう1台が残っていた。スクルドもアーノルドも馬に乗れる。負傷したサシャを馬車に乗せ、子供たちを頼んでスクルドとアーノルドは馬に乗り替えたのだ。


メルヴァーチとの関所付近で襲撃に遭ったものだから、ゼオンの所に情報が伝わるのがかなり早かったようである。早く休んで、とゼオンが使用人たちに指示を出して荷物を受け取る。受け取った知らせでは、護衛の騎士が数名負傷し、スクルドの侍女であるサシャ、そして子供たちも怪我をしたと聞いている。


応接間に通され、皆ももうすぐ来るから、ちょっと怪我診せてとゼオンが言う。ゼオンは水属性を扱う魔導騎士で、治癒術を得意とする。


怪我をした子供は、一目瞭然だった。赤い髪の子供が右目にガーゼを付けている。治癒術師(ヒーラー)が要りそうだね、とゼオンが言うと、頼めるか、とアーノルドの声が返ってきた。


「火属性の人たちはあんまり治癒術がないから大変だね、アーノルド義兄上」

「まあ、火力に寄ってるからな」


アーノルドの答えに苦笑を返して姉と義兄の子供たちへ目を走らせて、ゼオンはふと気が付く。


「あれっ、ロキちゃん封印掛かってる?」

「ああ」


ロキは自分の頬をぷにっと触った男性にしては細めで整った指先を見て、ゼオンの顔を見た。ゼオンはペイルブルーの髪に青い瞳をした男性だ。優しく細められた瞳が、シャンデリアの光を反射してきらきらと煌いた。


「どうしたの、あれ、魔力が漏れてる?」

「……ロキちゃん転生者で、さっきの戦闘で魔力を使っちゃったみたいなの」

「えっ、えっ、なんか色々とおかしい気がするの俺だけ??」


頭がこんがらがってきたらしいゼオンにロキは心の中でひっそりと、申し訳ねえ、と謝る。スクルドとアーノルドがソファに座り、ゼオンの検診を受けつつ待っていると小さな子供を連れた女性が2人飛び込んできた。


「「スクルド!」」

「ゾラ! ウルド姉様!」

「心配したんですよ!」

「ヤな予感がしたから帰ってみれば! あんたの加護もポンコツねえこんな大事なこと予知しないなんて」


ゾラは若草色の髪に茶金の瞳のはつらつとした女性で、ゼオンの妻でありスクルドの親友である。ウルドはスクルドの姉で、既に嫁に出ているのだが、勘で帰ってきたらしい。ウルドは名前の通り、過去を司る女神の加護持ちであった。


2人が連れてきた子供たちは3人で、ゾラの子供は2人、ウルドの子供が1人だ。ほら、自己紹介して、と言われた若葉色の髪の少女は、沢山練習したであろうカーテシーで自己紹介をする。


「リーフ・メルヴァーチともうします。スクルドおばさま、アーノルドおじさま、よろしくおねがいいたします」

「よろしくね、リーフちゃん」

「よろしく、リーフ。フレイ、スカジ、お前たちも」


はい、と言ってフレイとスカジも自己紹介をする。そしてスカジはロキとトールを紹介したくてたまらない感を出し始め、大人たちに微笑まれながらロキとトールの自己紹介を代行した。するとリーフも弟の自己紹介を代行する。リーフの弟の名は、レインといった。


床を元気に這うトールと、そんなトールの行く手を阻むようにペタン、と手を着いたウルドの子供。ロキもハイハイでトールを追いかける。まだ1歳半だが、喋れる子供は喋り始めるころだ。ウルドの子供は喋ることはできないようだが、ロキには何か伝わったらしい。


「てお」

「ん!」

「えいん」

「むぅー」


ロキが上手く名前を呼べないことに不満を唱えているように聞こえるレインだが、多分そんなことはない。ウルドはスクルドに似て群青の髪だが、てお、とロキに呼ばれたウルドの子供は露草色の髪をしている。

レインはスカイブルーの髪にアイスブルーの瞳だ。


「あら、この子転生者?」

「ええ」

「じゃあ御爺様にはあまり会わせない方が良いかもね。結構物言いがきついし」

「そうかしら?」

「どうとらえるかはその子次第でしょ? 精神が成熟してるとその分周りの悪意のない言葉の痛みって重たいものなのよ」


ロキはウルドを見上げている。母親を見上げる銀髪の幼女に興味津々な露草色の髪の幼児が、ロキの髪をちょっと引っ張ったり母を見上げたりしていた。ロキにスクルドもアーノルドも念話を使わないのは、せっかくドウラが施してくれた封印をわざわざ解くような真似をしないためだ。


「フレイちゃん、スカジちゃん、ロキちゃんとトールちゃんのことお願い」

「「はい!」」

「リーフ、レインのことお願いね」

「はい」

「あら、コンフィはどうしましょ」


ウルドがわざとらしく、スクルドとゾラの言葉に乗れなかったことを口にすれば、ロキが慌ててコンフィとかテオとか呼ばれているウルドの息子――コンフィテオルの手を握った。つられてレインもコンフィテオルの服を掴む。それを見たリーフが、「かわいい!」と言って3人の頭をまんべんなく撫でた。


結局、フレイがロキをおんぶしてコンフィテオルを抱き、スカジがトールを、リーフがレインを抱っこして、子供部屋へと執事に連れられて行った。それを見送ってほっこりした大人たちは、これからいろいろと話し合わねばならないことがあるのだが――子供たちにはまだ難しい、これでいいのだ。


「アーノルド、今日の話し合いメモした方が良いわ」

「な、何が視えたんだ……」

「あら、分かるでしょう? 今日の事、後々ロキちゃんに根掘り葉掘り聞かれるわよ」

「な、まさかロキは商人型なのか!?」

「そうね、お話は上手になりそうだわ」


どちらかというと口数の少ないアーノルド。将来のロキがどうなっているのかはまだ想像がつかないのだが、とりあえず速記が必要そうだ。


「久しぶり、スクルド。アーノルド君も、久しいね」

「やっと帰ってきたわねえ、スクルド。アーノルド君も、ゆっくりして行ってね」

「お久しぶりです、お父様、お母様」

「お久しぶりです、義父上。ありがとうございます、義母上」


ウルド、スクルド、ゼオンの両親であるディーンとレイフィアが部屋に入ってくる。大人たちはローテーブルを囲んでソファに座った。

アーノルドは関所で先に報告に上げていた部分を再度報告する。


「――既に上げた報告ですが、教会の襲撃に遭いました。神子保護の過激派でしょう」

「アーノルド君、襲撃は今回が初めてだったのかね?」

「ここまで危険なものは初めてでしたね。今までは屋敷に鼠を送ってくるくらいでしたが」

「今回狙われたのは、やっぱり、ロキかい」

「間違いないでしょうね。そうでなければ、俺とスクルドの方にシェロブが来ないのはおかしい」

「シェロブが出ていたのか!」


事情を知れば知るほど孫の置かれた状態が芳しくない。ディーンとレイフィアは表情を険しくしてしまった。


そも、シェロブ自体がかなり強力な魔物であるため、こんな人里近い所に住んでいるはずもない。何より、シェロブに関しては暗闇を好む性質を持ち、洞窟に棲んでいることがほとんどだ。森に居ることは少ない。しかも、基本野生は単体での行動はしない。


「……教会の動きがあまりにも不気味だな」

「はい。ジュードと連絡を取ろうにも、手紙さえ返って来ません」

「……教会内部で何かあったのかもしれんな」


大人たちは結局、夕食の支度が出来ましたと家令が呼びに来るまで話し合いに熱中していた。子供たちがその間にちょっと仲良くなったのは、当然の事だったかもしれない。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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