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非公式不定形労働組合

 派遣社員や客先常駐社員などの外注社員は、正社員と違ってその立場を保障されていない。例え、クビにならなくても、契約期間を延長してもらえなければそれでその職場からは「はい、さよなら」で終わりな厳しい境遇にある。だから、長く残っている外注社員というのは大概が仕事ができる場合が多い。適者生存。生き残りのロジック。だから、多く仕事を任されるのも当たり前で、正社員ではできない仕事を外注社員がやっているケースも珍しくない。

 正社員は主にマネジメントを行い、外注社員が実質的な仕事をこなす。それはそれで会社の体制として一つの選択肢で、決して全否定されるようなものじゃない。

 だけど、その体制に問題が全くないって訳じゃない。

 正社員は外注社員と違って法律だとか労働組合だとかに守られている。だから、少しくらいやる気がなくて、仕事ができなくってもあまり問題にならない。もちろん、彼らだって競争し合っているし、それがなくたって真面目で有能な人もいる訳だけど、いわゆる“不良社員”が残ってしまう可能性が外注社員より高いのは動かし難い事実だ。

 しかも、そんな“不良社員”の中には、性格がすこぶる悪い人も混ざっているのだった。

 

 その職場では“学歴”が信仰されていた。学歴が高い人間の地位が高くて、周囲を見下しているのが当たり前。相手が外注社員ならばその傾向はより顕著で、ほとんどの仕事を外注社員に任せて、自分は何もしないでいても何の良心の呵責も感じないなんて正社員も中にはいる。

 性格が悪い社員だと、更にそこに“八つ当たり”が加わったりもするから、外注社員達も大変だ。

 そしてだから、彼ら外注社員達は、ある時にこんな事をやり始めたのだった。

 「SNSに入会して、外注社員だけのグループをつくり、そこで“問題のある正社員”の情報を共有する」

 古参の外注社員のページにその為のリストが置かれ、外注社員達のそれぞれがそれを更新して、対策や警告を書き込む。

 例えば、「Aという社員は今週、夫婦喧嘩をした所為で機嫌悪い。できる限り、話しかけない方が良い」とか、「Bさんは、アイドルのファンだから、褒めると機嫌が良くなる」とか、「Cさんは刺身が嫌いだから、飲み会は揚げ物中心でいった方が良い」とか。

 それは始まった当初は、ただただ情報を共有する為だけのものだった。ところが、とある事件が切っ掛けとなって、それが変わってしまった。

 ある日、外注社員の一人が、こっぴどく叱られた。ただ、話を聞く限りではどう考えても彼は悪くなく、本来はある正社員の落ち度とするべき責任を無理矢理に擦り付けられたようにしか思えなかった。しかも、それが原因となって、その外注社員は契約金を減らされかねないらしい。

 「これは、いくら何でもあんまりじゃないか?」

 それを受け、SNSの共有スペースで実力のある外注社員の一人がそう書き込んだ。すると、それに賛同する声が俄かに上がり始めたのだ。このままじゃ済ませない。会社側に俺達の怒りを分からせやるべきだ。そして、次の日彼らは実際に行動に出たのだった。

 外注社員達のほとんどが、次の日に一斉に休暇申請を行った。しかも、全員が同じ日だった。つまり、彼らはいわゆるストライキのような事をやり始めたのだ。

 当然ながら、それに会社の正社員達は驚いた。外注社員達は、その職場ではほぼ五割を占めている。彼らが一度に休暇を取ったりしたならば、はっきり言って仕事にならない。一体、どうした事なのだ?

 彼らがストライキに踏み切った理由は、直ぐに会社の上層部に伝わった。そして上層部はいち早く対応を執ったのだった。責任を取らされかけている外注社員の罪を取り消し、問題を起こした正社員に謝罪をさせた。それでなんとかその事件は収束をした。つまり、会社側が全面的に負けた格好。

 彼らは公式の労働組合ではない。法的には認められてはいない。だからと言って、法律違反かどうかは定かではない上に、事を大きくすれば傷が大きくなるのは会社側だ。だからそうして大人しく引いたのである。

 ただし、会社側もただ負けただけでは済まなかった。

 彼らがSNSを通して結びついたのを突き止めると、会社側はそこで中心になっているであろう古参の外注社員を正社員へと引き込んだのだ。しかもその上で、彼を別の職場へと飛ばしてしまった。

 「これでもう安心だろう。中核を失った彼らの労働組合(?)は、バラバラだ」

 そう会社側は考えた。

 しかし、その考えは甘かった。それからも外注社員達の非公式な労働組合は存続をし続けたのだった。

 理由は簡単。彼らには元々、中核なんてなかったのだ。古参の外注社員は、ただ単に集合場所を提供していただけで、元々、組織性の薄い集まりで、個人個人がインターネットを通じて繋がっただけのもの。だから、古参の外注社員がいなくなると、直ぐに他の外注社員のページが集合場所となり、そこで情報交換を行うようになったのだ。

 例えるのなら、不定形生物。アメーバーみたいなもの。頭がないから、どこを潰してもあまり意味がない。

 恐らく、外注社員の誰かが正社員から酷い目に遭わされたなら、彼らはまた協力し合って会社に抗うだろう。

 

 因みに、近年のテロリスト達は、インターネットによって、このような構造を既に獲得しているらしい。

 だから、とてつもなく厄介なのだけど。

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