【第八章】天使追憶篇ⅣーThe past frozen end 4ー
あれから数年の月日が流れていた。
フローフルとインベルとアポロはミルフィーユの修行をしていた。
フローフルは相変わらず学校に行くのをサボり気味であり、その度にエリシアに突っつかれるのだが、彼はまるで懲りていなかった。
しかし、ミルフィーユの修行にはちゃんと来ており、今もこうして修行をしている。
今はフローフルとインベルとアポロの三人でミルフィーユと戦っていた。
「だいぶ動きが良くなったね~。じゃあそろそろ…」
「フローフルはいるかしら?」
そんな声が聞こえたのでミルフィーユ達は声の方へと振り向いた。
すると、そこにいたのはルミナスとエクレアであった。
「ルミナス!?それと…エクレア副団長!」
「こいつが…セラフィム騎士団の副団長だと…」
アポロが二人の名を言うとフローフルは驚いていた。
驚いていたのはインベルも同じであった。
まさか、こんな所に神聖ローマの皇帝とセラフィム騎士団副団長がやって来たとなると驚くのは当然と言える。
「何しに来たのかな?見ての通り、私たちは修行中なんだけど…」
「フローフル・キー・ローマカイザーと話がしたいとルミナス様が言っていてな」
「何で?」
ミルフィーユの疑問にエクレアが答えたがやはり話が見えない。
何故、フローフルなのか…それが分からなかった。
「フローフル以外の者達は修行を続けていなさい。フローフル、こっちへ来て」
「ふざけないで!理由も言わずにそんな…」
「アポロ…静かになさい」
ルミナスが霊圧を荒げた。
アポロどころかミルフィーユですら震える程の霊圧であった。
そんな霊圧にアポロが耐えきれる筈も無く、ルミナスに膝まずく形になっていた。
「はぁ…はぁ…」
「分かってくれたみたいね。私は嬉しいわ」
ルミナスは笑顔でそう言った。
そんなルミナスをアポロは忌々しげに見ていた。
ー凄い霊圧だった…正直、ビビったね。
ミルフィーユがそんな事を考えていた。
ミルフィーユは仮にもセラフィム騎士団である。
その彼女をビビらせる程の霊圧をルミナスは放っていたのだ。
「じゃあ、フローフル。行きましょうか」
「…ああ」
従うしかない。
フローフルはそう思った。
それに断る理由も無いし下手に断ると面倒そうだ。
それに大した用でも無いだろう。すぐに終わる筈である。
フローフルとルミナス、エクレアは天使城の城内へと入っていった。
「全く!気に入らないわ!」
「ルミナス…あの人が最近皇帝になった人か…てか、アポロとフローフルのお姉さんだよな?何か全然似てねぇな」
「どういう事よ?」
「いや、アポロとフローフルは粗暴な感じだけどルミナスって人は気品に溢れてるっていうか…」
「よし、インベル表へ出ろ」
「遠慮しときますすいません」
アポロとインベルがそんな会話をしていた。
ミルフィーユは訝しげな表情をしていた。
ルミナスの真意が掴めない。
フローフルに用があるならあるでもおかしい事でも無いが今である必要があるのだろうか?
フローフルは夜には修行を終えている。そこからでも遅くは無い筈だ。
「まぁ、今考えても仕方無いか…」
ミルフィーユがそう言って、サーベルを手に取った。
「二人とも、修行再開だよ!」
「「はい!」」
ミルフィーユが修行再開の言葉を聞いて二人は大きな声で返事をし、修行を再開した。
「なぁ?アンタ…会うの初めてだよな?」
「そうね、私の名前はエクレア・パイルペンドラーよ。これからよろしくね」
「これから?」
フローフルとエクレア、ルミナスの三人は城内を歩いていた。
エクレアはフローフルに歩きながら自己紹介をした。
フローフルはエクレアの言葉に少し引っ掛かっていた。
「これから」よろしくとはどう言う意味なのか?まだ、会う機会がある…という事なのだろうか?
「二人とも、そろそろ着くわよ」
ルミナスがそう言うと天使城の奥の部屋である王の間へと辿り着いた。
ここは神聖ローマの皇帝が座す場所であり、皇帝に許された者しか入る事が許されない。
「ここは…」
「王の間よ…ねぇ?フローフル?あなた、前世の記憶が残ってる…て言ったら信じられる?」
「前世の記憶…だと?」
「ええ、私が初めてこの部屋に来た時ね、私の前世の記憶が頭の中に流れ込んで来たの」
「…気のせいじゃねーのか?」
「信じるか信じないかはあなた次第よ」
「………」
フローフルはとても信じられなかった。
前世の記憶が引き継がれるなど、ありえない。
そもそも前世など存在するのか?
フローフルはそこら辺をかなり懐疑的に見ているのであまり信じられなかった。
しかし、ルミナスの雰囲気が別人の様に変わっているのは事実だ。
口調も勿論、佇まいや物腰も変化していた。
だが、性格はあまり変わってはいないようで、無垢さはそのままであった。
「フローフル、私はあなたを…セラフィム騎士団へと入団させます」
「!?」
ルミナスの突然の宣言にフローフルは驚いた。
無理もない、フローフルはローマカイザーではあるが、経緯が特殊な所謂腫れ物だ。
そんなフローフルを神聖ローマ最高戦力であるセラフィム騎士団に入団させるなど、正気の沙汰では無かった。
エクレアには話を通していた様で、大して驚いてはいなかった。
「いや、何で俺なんだよ?」
「あなたには力があるわ。だからよ」
「理由になってねぇよ!」
「けど、あなたが入団する為には最低条件があるわ」
「いや、こっちの言い分無視すんな!」
フローフルの言葉を無視して話を進めるルミナスにフローフルは溜まらず叫んだ。
ルミナスは時々、人の話を聞かずに話を進めるきらいがある。
「あなたは神聖ローマに力を認められた。素直にそう受け取って貰えればいいわ。話を戻すわよ、あなたが入団する為にしなければならない事。それは…【第二解放】の会得よ」
「エンゲル…?何だよそれ…?」
「エンゲルアルビオンとはエンゲリアスの二段階目の解放で最終形体よ。セラフィム騎士団入団の最低条件」
フローフルの疑問をエクレアが淡々と答えた。
つまり、フローフルはまだ正式にメンバーになった訳では無いという事だ。
今はルミナスが推薦している状態…という事だろう。
「一ヶ月後に入団試験がある。それまでに【第二解放】を修得して」
「一ヶ月!?本来ならどのくらい掛かるんだよ…」
「大丈夫よ。私なんかは三日で修得したし」
「ルミナス様が特別なだけかと。本来なら速い者でも十年は掛かるわね」
「無理に決まってんだろ」
「それでもあなたはやらなければならない。もしあなたが入団試験に落ちればルミナス様の顔に泥を塗る事になるわ」
「知るか!勝手に期待して勝手に泥を浴びてるだけだろ!」
フローフルの言い分は最もである。
いきなり最強の騎士団に入れと言われ、その為の入団試験に通れと言われてもフローフルからすれば知った事ではない。
「フローフル…入団を断ればあなたにも悪影響が出るわ」
「どう言う事だ?」
「入団試験に落ちれば、あなたは更に見下される事になるでしょうね。「ローマカイザーの子供なのに出来損ないだと」」
「…それが何だよ!?」
「あなたの居場所が完全に無くなるわ。ルミナス様の申し出を拒否すればあなたは今のままでは居られなくなる…理解しなさい…これは交渉でも申し出でも無いわ…命令よ」
エクレアがフローフルに対して威圧的にそう言った。
「エクレア、フローフルにそうきつく言うモノでも無いわ。でも、フローフル、これは私からのお願いよ」
「………分かったよ。やりゃいいんだろ?やりゃあ…」
フローフルは頭をかきむしりながらそう言った。
フローフルはルミナスとはそれなりに親しい仲だし無理に断るのも気が引けた。
それに…試験に合格すればいい話だ。
「ありがとう、フローフル。エクレア」
「分かりました。……フローフル、君は私の元で訓練を…」
「あー、それだけは絶対無理」
「何故?」
「僕にはもう、師匠がいるからだよ」
「ミルフィーユか…まぁ、君がそう望むなら好きにするといいわ。けど…」
「分かってるよ…ちゃんと試験には合格する」
「ちょ…フローフル!?」
エクレアはすんなりとフローフルの言葉に納得していたがルミナスは違った様だ。
「何だよ?ルミナス?」
「ミルフィーユで大丈夫なの!?こう言う言い方もあれだけど…ミルフィーユはあんまり教え方上手くないよ?」
「それはお前にとってだろ?僕はミルフィーユに教わったら方が性に合ってるんだよ」
「でも…」
ルミナスが珍しく駄々をこねていたがエクレアがそれを制止した。
「まぁ、モノは試しですよ」
「あなたは面倒臭いだけでしょ?」
「…違います」
「今の間は何なのよ!?」
エクレアは戦いを教える事があまり好きでは無かった。
面倒臭い…というのも一つの理由だが、エクレア自身、争いやそれに繋がる事が好きでは無いというのが最大の理由だ。
ルミナスの言っている事も間違ってはいなかったので少し反応に困っていたのだ。
「話は終わりか?」
「え…ええ…ご苦労様、フローフル。期待してるわよ」
ルミナスがそう言うとフローフルはこの部屋から出ていった。
違う…違うのだ…ルミナスがフローフルをエクレアの下に置きたがる理由はもっと別の所にある。
しかし、フローフルがああ言う以上、ルミナスは止められない。
「ルミナス様?」
「何でも無いわ!」
ルミナスは拗ねた様にそう言った。
エクレアはやれやれと言った顔をした。
この小さな皇帝はどんな事を成し得るのか…エクレアは楽しみな反面、不安もあった。
その不安を取り除くのが自分の役目である。
骨が折れそうだなとエクレアは思った。
「さて…あなたはルミナス様の期待に応えられるかしらね?」
エクレアはここにはいないフローフルに対し、そう言った。
「「フローフルがセラフィム騎士団に入団する!?」」
インベルとアポロが同時にそう言った。
二人が驚くのも当然である。
神聖ローマ最強の騎士団にまだ子供であるフローフルが入団する事になったのだから。
「じゃあ、私とフローフルは同僚になる訳だ。ははは…妙な話だね」
「そう言う訳だ。その…エンゲルアルビオンってやつを教えてくれ」
「言われなくても、三人には【第二解放】を教えるつもりだったよ」
「「「!?」」」
ミルフィーユがそう言うと三人は驚いていた。
「お前…もしかしてこうなる事を分かってたんじゃねーだろうな?」
「まさか…私は預言者じゃないんだよ?これでも驚いてるんだよ?君が騎士団に入団する事に」
「確定した訳じゃねーよ」
「だね。入団する為にも【第二解放】を習得しないとね」
「俺も応援するぜ!」
「…精々頑張りなさい」
インベルが激励の言葉を送ったがアポロは少し納得が行かない様子であった。
「君達も【第二解放】の修行に入るからね~。今までより厳しく行くよ」
ミルフィーユがそう言うと三人はコクりと頷いた。
「まず、【第二解放】を習得する為には精神世界にいる天使本体を倒す事が条件だよ。でも、これが難しい。仮に習得出来ても鍛練にかなりの時間を要する」
「ちょっと待てよ。僕はまだ天使本体と会って無い…」
「うん、だからフローフルは全く別のやり方で【第二解放】を修得してもらうよ」
「全く…別の方法で?」
「オレ達二人はさっきミルフィーユが言った通りにやればいいんだな?」
「うん、そっちの方が安全だし」
「それはつまり、フローフルのやり方は危険が伴うという事ですか?」
「そうだね」
アポロの問いにミルフィーユは淡々と答えた。
「【第二解放】の修得は本来なら速くても十年は掛かるんだけど…まぁ、数年で修得してるヒトもいるし、私なんか半年で修得してるよ。ルミナスに至っては三日で修得してるからね~」
「「「三日!?」」」
「いやー、ルミナスは天才も天才。流石は歴代皇帝西京と言われてるだけあるよね~。フローフルはそんなヒトに見込まれてる訳だね」
ルミナスが天才なのは知っていたがここまでとは思っていなかった。
フローフルとインベルどころかアポロまで驚いていた。
「さてと…早速始めようか。インベルとアポロは精神世界に入って」
「分かりました」
「分かった」
ミルフィーユの指示を聞き入れ、アポロとインベルは目の前に天使を置き、座禅を組み、眼を閉じた。
そして、精神世界に入っていった。
「さてと…フローフルは今から一ヶ月で【第二解放】を修得しないといけない訳だけど…」
「ああ…どうすればいい?」
「まず、これに天使を刺して貰うね」
ミルフィーユはそう言って鏡の様なモノを出してきた。
「それは?」
「『鏡分身』…セラフィム騎士団のメンバーの一人が開発した天使を実体化させるモノだよ」
「実体化した天使を倒せ…て事か?」
「まぁ、そう言う事だね」
「何でこんな楽な方法があんのに【第二解放】の修得者は限られてるんだ?」
「この方法で【第二解放】を修得出来たのはこれを開発した本人だけだよ…【第二解放】を修得するのは自身の天使を倒す事だけど…天使はそれ単体で天災級の強さがあるわ。修得者が限られてるのはそれが理由、セラフィム騎士団以外の天使で【第二解放】を修得している者はほぼいないと思っていいよ」
「マジかよ…それをたった三日で修得したあいつはどうなってんだよ…」
「まぁ、それだけルミナスがヤバイって事だね」
「それだけで片付けていいのかよ?」
フローフルはミルフィーユから【第二解放】の修得がかなりの難度を誇る事とルミナスのヤバさを聞き、少し途方に暮れていた。
しかし、やるしかない。
それに、まだ始まってすらいないのだ。
やる前から諦める訳には行かない。
フローフルは自分の天使を『鏡分身』に突き刺した。
ーこれでフローフルの天使の本体が出る筈…
『鏡分身』は天使本体を強制的に呼び出す。
つまり、これでフローフルの天使本体を見る事が出来る。
前、フローフル曰く天使は精神世界にいなかったとの事だがそんな事はあり得ない。
しかし、フローフルは【第一解放】は修得している。
ミルフィーユはその事にずっと引っ掛かっていた。
やがて、フローフルの天使…【氷水天皇】の姿が現れる…
「え?」
ミルフィーユはそんな声を上げた。
何故ならそこに現れたのは…もう一人の…フローフルだったからだ。
「これが…僕の天使の本体?」
ー違う…あれは天使本体じゃない…一体どうなって…
そう、あれはフローフルの天使では無い。
自分とたまたま同じ姿をしているとも考えられたが違う。
フローフルの天使とは霊圧が違い過ぎる。
「………」
もう一人のフローフルが異空間から真っ白い刀を取り出した。
刀は雪の様に白く、太陽の様に輝いていた。
まるで雪と日輪が合わさった様な…そんな刀であった。
ーやっぱり…フローフルの天使とは違う…でもフローフルは天使を持ってない…間違いなく『鏡分身』に転写されてる…どうなってるの?
「始めるか…」
フローフルがそう言うともう一人のフローフルが無言でフローフルに襲い掛かった。
ー今は…様子を見るしか無い…
ミルフィーユはしばらくの間、様子を見る事にした。
取り合えず、今はフローフルの【第二解放】修得がかなりの先だ。
考えるのは…その後でも遅くは無い。
もう一人のフローフルの斬撃をフローフルは回避する。
フローフルは今、丸腰だ。迂闊に接近も出来ない。
フローフルが今、出来る事は霊呪法だけだ。
「フローフル、霊呪法じゃそれは倒せないよ。天使を使わないと」
「!? どういう事だ!?」
「それは自分で考えてねー」
ミルフィーユはヒントっぽい事だけをフローフルに言っただけで後は静観していた。
ーフローフル…私の言った言葉…自分で見つけないと意味が無いんだよ…
もう一人のフローフルは氷の力を使っていた。
やはり、【氷水天皇】は氷の力を使う天使であるが故にその力を使う。
だが、何か違和感がある。
そう、フローフルは目の前の敵に違和感を感じていた。
ー何だこいつ…こいつ…本当に僕の天使…なのか?
フローフルもミルフィーユと同じ違和感を感じていた。
何かが…目の前にいるもう一人のフローフルには何か違和感がある。
「考えるのは後だ!」
もう一人のフローフルの攻撃は凄まじく、フローフルは回避する事すら困難だ。
ごちゃごちゃ余計な事を考えていてはその間にあっという間にやられてしまうだろう。
フローフルは目の前の敵を倒す事に専念した。
ルミナスはエリシアと会っていた。
厳密にはエリシアはルミナスに呼び出されたのだ。
エリシアは今、ルミナスがいる王の間にいる。
「陛下が私を呼び出すなんて…どの様な御用件で?」
「敬語なんて使わなくていいわ。あなたは一応、私の師なんだから…」
「じゃあ、何か様なの?」
「あなたにはフローフルの教育係から外れて貰うわ」
「何故?」
「これは命令よ」
ルミナスは厳格な態度でエリシアにそう言った。
「随分、私からフローフルを引き離したいみたいね」
「彼がセラフィム騎士団に入団し次第、エクレアが教育係をして貰うわ」
「同じセラフィム騎士団なら私でも問題無いのでは?」
「あなたはフローフルの教育係だけでなく、学校の講師もやっているわ。それに騎士団の業務と平行してやっている…その負担を減らす為よ」
「…分かったわ」
「素直で助かるわ」
「あなた…随分変わったわね」
「そうかしら?」
「ええ、昔より…傲慢になったわ」
「………」
エリシアも彼女の変化に気が付いていた。
しかし、ルミナスが何故ここまで豹変したのかまでは分からない。
今は下手に命令に逆らう訳にはいかないだろう。
フローフルを自分の目の届かない所に置くのは不安だが、学校で定期的に会う事も可能と言えば可能だ。
「ああ、それと、フローフルが騎士団に入団すれば、彼には騎士団の業務に集中して貰うから学校は卒業扱いにするわ」
「な!?」
「当然でしょ?」
「いや、それはいくらなんでも…」
「彼はもう学校で学ぶ事など無い筈でしょ?成績もトップだし」
全く予想していなかった訳では無いがどうやらルミナスはフローフルを自分の管理下に置きたい様だ。
学校にも行かせないという徹底振りだ。
「ルミナス様、しかし…」
「私も陛下になった途端に卒業扱いになったんだからそれと同じでしょ?」
「…それは…」
そう、ルミナスは皇帝になってから学校へ行かなくなった。
厳密には皇帝になった事で卒業扱いになったのだ。
フローフルにも同様の処置を取らせようとしていた様だ。
不可能では無い。むしろ、セラフィム騎士団に入団する以上、それは自然の流れだ。
だが、エリシアはそれを良く思っていなかった。
何故なら、学校で学ぶ事は勉学だけでは無い。
それ以外にも学ばなければならない事も沢山あるのだ。
それを学ばないままルミナスは卒業してしまったのだ。
特にフローフルはエリシアはまだ卒業させるべきでは無いと考えていた。
「これは決定事項よ」
「仮に…一月以内に修得出来なかった場合はどうするのよ?」
「それは有り得ないわ。でもそうね…もし修得が出来なかったら私が直々に叩き込むわ。まぁ、そんな事せずともフローフルはここまで上がって来るけど」
「何でそこまで言い切れるの?」
「だって彼は…この私が認めた男だからよ」
「理由になってないわね」
「私の言う事は絶対よ」
ルミナスが自信満々にそう言った。
根拠が見当たらない。しかし、エリシアは知っている。
ルミナスが断言した事は必ずそうなっていた事を。
彼女の言葉に外れの二文字は存在しない。
「あなたがそう言うならそれ以上は何も言わないわ…けど、フローフルを今、卒業させるのは反対よ」
「あなたがどう言おうが結果は変わらないわ」
「…そうね」
「あなたは…この世界の神そのもの…でも、あなたでも私に逆らう事は出来ない」
「!? あなた…私の事を…」
「ええ、知っているわ。過去の記憶であなたの事が分かった」
「あなた…まさか、歴代ローマカイザーの記憶を…」
「ええ、歴代皇帝全ての記憶が私には継承されているわ」
「歴代皇帝全て!?」
エリシアは驚いていた。
ローマカイザーの一族でその宗家であるアークキエルは歴代皇帝の記憶が継承される事がある。
しかし、継承されるのは精々、先代の記憶が引き継がれる程度だ。
しかし、ルミナスは全ての記憶が継承されている。
確かに、エリシアの正体を知るローマカイザーは初代皇帝であるヤハヴェ・ローマカイザーのみだ。
少なくとも彼の記憶は継承されている。
「あなたはエリシア・ローマカイザーと名乗っている。あなたは表向きではローマカイザーの黎明期から存在し、ローマカイザーに拾われた…という事になっているけれど、実際は違う」
「………」
「あなたの本当の名はエリシア・アテネ・パルテミシア…パルテミシア十三神の一人だった者。あなたが千年前に消えた事により、パルテミシア十二神となった」
「…本当に記憶を継承されている様ね」
そう、エリシアの正体は…神だ。
パルテミシア十二神とはこの世界最強の神々であり、エリシアはかつてそのメンバーの一人であった。
しかし、訳あってエリシアはパルテミシア十二神を抜け、そのまま行方を眩ませていた。
そして、神聖ローマに辿り着き、ローマカイザーに仕えていた…というのが真実だ。
「あなたが天使を持っているのは…あなたの友人から受け取ったモノでしょう?」
「本当に全てを知っている様ね」
エリシアにはかつて、友がいた。
セラフィム騎士団最初期のメンバーの一人であるエル・マクガヴェインだ。
エリシアは共に神聖ローマをその友と守っていた。
しかし、エルはヒューマニックリベリオンで死亡し、エリシアに天使を託した。
「私はこの世界の知識を手に入れた…これで…私はこの世界を統一出来る。本当の平和を手に入れる事が出来る」
「だと良いけどね」
「何か言いたげね?エリシア?」
「世界はそう簡単にコントロール出来ない…という事よ。どんなに知恵を持っていても、どんなに力を持っていても、どんなに強い心を持っていても、他人の心というものは…簡単には支配出来ない。そして…自分が本当に欲しいモノ程、思い通りになってくれない」
エリシアがそう言った瞬間、ルミナスはピクリと眉を動かした。
どうやら、エリシアの言葉が彼女の琴線に触れたようだ。
「それでも…私は掴んでみせる…どんな手を使ってもね…」
「あなたには大きな力がある…それは認めるわ。けど、その力、正しく使える事を私は祈っているわ」
「神が祈る…ね…面白い事を言うわね」
「神だって神頼みしたい時くらいあるわよ」
「そう…」
「話はこれで終わりかしら?」
「ええ、もう下がっていいわ」
「じゃあ、また会いましょう。ルミナス」
エリシアはそのまま王の間から出ていった。
「エリシア…やはり侮れないわね…」
エリシアは世界最強の神々の一人だ。
力が衰えているとは言え、それでもセラフィム騎士団内でも最強クラスの実力がある。
現在、セラフィム騎士団の団長はフラン、副団長をエクレアが勤めているが、恐らくエリシアはこの二人より強い。
セラフィム騎士団最古参の人物であり、強大な力を秘めている。
そして何より、フローフルと最も近しい存在でもある。
ルミナスはエリシアに対してある感情が沸き上がっていた。
これが何の感情なのか…ルミナスはローマカイザーの記憶を継承される事でようやく分かった。
これは嫉妬だ。自分では無く、エリシアがフローフルと最も近しい存在である事に対する嫉妬。
だからこそ、ルミナスはエリシアとフローフルを引き離そうとしていたのだ。
しかし、エリシアの力はセラフィム騎士団には欠かせない存在だ。
そんなエリシアを始末するなんて事は流石にルミナスは考えていなかった。
この時は…まだ、考えてはいなかった。
しかし、今から約一年後…ルミナスはエリシア処刑を宣言する事になる。
それが、フローフル、インベル、アポロ達が引き起こしたローマ聖戦へと発展していく事になるのであった。
To be continued




