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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第八章】天使追憶篇
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【第八章】天使追憶篇ⅡーThe past frozen end 2ー

 フローフルとインベルは『天使城(セラフィム・ヴァール)』の中にある庭で座禅を組んでいた。

 二人はミルフィーユに弟子入りし、二人は剣の修行をしていた。

 あの後、フローフルだけでなくインベルも弟子入りする事になった。

 ミルフィーユはフローフルのみのつもりだったが、別にもう一人取ってもいいと考え、弟子入りを許可した。

 『天使(エンゲリアス)』を顕現させるには自身の精神世界に入る必要がある。

 自身の精神世界に入る事が出来れば天使は誰でも『天使(エンゲリアス)』を手に入れる事が出来る。

 そして、二人はその精神世界に入る為の修行をしていた。

 フローフルは突然力を覚醒させた事により、『天使(エンゲリアス)』を顕現させた為、精神世界に入った事が無かったのだ。

 インベルはどうやら、精神世界に入る事により、成功した様だ。

 インベルの目の前に赤い剣が出現した。


「インベルは要領いいね~。すぐに精神世界に入れるなんて…フローフルはどうかな?」

「精神世界に入れたけど…『天使(エンゲリアス)』の化身はいなかったぞ?」

「オレはその『天使(エンゲリアス)』の化身って奴にあったぞ?名前も教えて貰った」

「へぇ~、飲み込み速いね。インベルは」


 ミルフィーユは素直にインベルに感心していた。

 フローフルだけでなくインベルも弟子にして正解だったとミルフィーユは思った。


「フローフルは逆に『天使(エンゲリアス)』と対話するのはかなり下手だね…いや、ハーフエンジェルだから少し特殊なのかもしれないね…」

「下手で悪かったな…」

「まぁ、でも普通に『第一解放(アインスエンゲル)』は使えてるから大丈夫か。じゃあ、早速始めるよー」


 不貞腐れた様にフローフルが呟いた。

 ミルフィーユは腰に差してあるサーベルを取った。


「【風騎士皇(ラファエル)】」


 ミルフィーユのサーベルから風が巻き起こっていた。

 ミルフィーユの『第一解放(アインスエンゲル)』である【風騎士皇(ラファエル)】だ。

 彼女の天使(エンゲリアス)は風を操るという非常にシンプルな能力だ。

 しかし、シンプル故に単純なスペックが協力であり、セラフィム騎士団の中でも屈指の実力を持つ。


「さ、二人で掛かってきて♪」


 ミルフィーユがそう言うと二人は自分の剣を取った。


「【氷水天皇(ザドキエル)】!」

「【炎竜天皇(カマエル)】!」


 フローフルは氷の刀、インベルは炎の剣でミルフィーユに突撃した。

 ミルフィーユは二人の剣をいなしていた。

 二人掛かりだというのにミルフィーユは余裕の表情であった。


「うーん、まだまだ隙が大きいね」


 ミルフィーユがそう言いながらインベルの脇腹を蹴り飛ばした。


「うわっ!」


 更にフローフルには突風をお見舞いしたが、フローフルはどうにかミルフィーユが発生させた突風を凍り付かせた。


「油断しない」


 突風を凍り付かせ、一瞬油断していたフローフルはミルフィーユの剣をまともに受け、吹き飛ばされた。


「いって~」

「クソが!」

「二人ともまだまだだね~。特にインベルは隙がデカ過ぎ。フローフルはそこそこ戦い慣れしてるみたいだけどそのせいか油断しやすいね」


 ミルフィーユが二人にダメ出しをした。

 ミルフィーユはあまり頭で教え込むのは上手くない。だからこそ、実戦で訓練しているのだ。

 そもそもミルフィーユが弟子を取る事自体これが初めてなのだ。


「じゃあ、まだまだやるよ~。で、ある程度私とやったら休憩挟んで君ら二人で戦ってね~」


 ミルフィーユは笑顔でそう言った。

 ミルフィーユはフローフルの高い戦闘センスを最初から見抜いていた。

 だからこそ、弟子にしようと考えていたのだが、インベルも中々の素質があった。

 正直、ミルフィーユ一人でもフローフルを鍛える事は出来なくも無いがインベルがいた方がフローフルもインベル自身も効率良く鍛える事が出来るだろう。

 ミルフィーユにとってこれは嬉しい誤算だった。


「いつか…私と戦えるまでに強くなって貰わないとね」






「はぁ…はぁ…」

「はぁ…はぁ…」

「はい、今日はそこまで!」


 ミルフィーユがそう言うとフローフルは腰を下ろした。

 既に日が沈みそうになっていた。

 インベルは大の字になって倒れていた。

 今回、何度かフローフルとインベルが戦ったのだが全ての勝負がフローフルが勝っていた。

 その為、インベルは大の字になって倒れていたのだ。


「…あー、やっぱ強いな…フローフルは…」

「………」


 インベルがフローフルの強さを称賛するとフローフルはインベルから眼を逸らした。


「二人とも悪く無かったけど、まだまだだね。インベルはまず基礎体力を付けないとね。フローフルはもっと神経を研ぎ澄まして反応を速くして」


 ミルフィーユが二人にダメ出しをした。

 実際、ミルフィーユからすれば二人はまだまだだ。

 大器ではあるがそれはまだまだ未完である。

 まぁ、最高のモノを造ろうとすればそれなりに時間は掛かるモノだ。大器晩成という言葉があるくらいだし。

 ミルフィーユはゆっくりじっくりと二人を育てていこうと考えていた。

 それでも訓練だけでは話にならないので実戦もどんどんやらなければならないのだが。

 二人がミルフィーユの弟子になってから軽く一週間程経過していたがそれにしては二人とも飲み込みが速かった。

 これは期待出来る。


「さてと…じゃあ、私がご飯用意するから二人とも手伝ってね♪」

「いやいや!俺達怪我してるんですけど!?」

「働かざる者喰うべからず。そんなの言い訳だよ。手伝って」


 ミルフィーユは二人を無理矢理叩き起こした。


「いて!」

「~~~!」


 二人は立ち上がり、歩いていくミルフィーユに付いていった。

 ミルフィーユの家はこの城から少し離れた所にある。

 この城に常に在住しているのはローマカイザーの者だけであり、それ以外の者は別に家を持っている。

 二人は城から出て、少し歩いた辺りに道の真正面に人影が見えた。

 そして、その人影の姿が露になった。見たところ小さな少女であった。

 というより、見た目はフローフルとインベルと同い年位であった。

 その少女は薄紫の髪と瞳に御下げのツインテールが特徴的であった。


「君は確か…」

「私はアポロ・ローマカイザーです。お久し振りです。ミルフィさん」

「うん、久し振り。やっぱりアポロか…少し見ない間に大きくなったね~」

「あっ、アポロじゃん!」

「インベル…何であなたが…」


 アポロが挨拶するとミルフィーユもそれに応じた。

 どうやら、インベルも彼女の事を知っている様だ。

 アポロはインベルとミルフィーユが一緒にいた事に驚いていた。

 インベルは普通の天使の子供の筈であり、本来ならミルフィーユと接点がある筈が無いからである。


「俺とフローフルはこの人に弟子入りしたんだよ」

「弟子入り!?あなたたちが…」


 これまたアポロは驚いていた。

 そして、アポロはフローフルの方を見た。

 何やらアポロはフローフルの事を気に入らなそうに見ていた。


「知り合いか?インベル…」

「バカ!同じクラスだろ!クラス委員長だろ!……んん?よくよく考えたらフローフルもアポロも同じローマカイザーじゃん!」

「今更だね~」


 インベルの自問自答にミルフィーユは少し呆れていた。

 気を取り直してミルフィーユは話を戻した。


「そう言えば、フローフルとアポロは会うの初めてだっけ?」

「はい…」


 ミルフィーユの問いにアポロは答え、アポロはフローフルを睨み付けていた。


「何だよ?何ガン飛ばしてんだよ?」

「別に…あなたね、遊女の息子ってのは」

「何か文句あんのか?」

「別に?ミルフィさん、何で彼等を弟子に?私は弟子入りしても断ったのに」

「あー、いや…う~ん。そんな事もあったかな~」


ーヤバイどうしよう…あの時は面倒臭かったから断ったなんて言えない…


 ミルフィーユは胸中でそう呟いた。

 ミルフィーユはとても気まぐれな性格であり、気分じゃなかったらあまり乗りが良くない。

 アポロが弟子入りした時は丁度ミルフィーユの機嫌が悪い時で断ってしまったのだ。

 それにアポロはあまり剣術が優れている訳では無い。

 素質は確かにあるにはあるのだが…ミルフィーユが指導するべきでは無いとミルフィーユ自身は考えていた。

 しかし、アポロは非常に頑固であり、このまま放って置く方が面倒そうだ。

 それに彼女は思い込みが激しく、ミルフィーユの言い分を言っても恐らく聞かない。


「そうだね…私も君をそろそろ鍛えないと行けないと思ってたんだよ。よし!君も私の弟子にするよ!」

「!? 本当ですか!?」

「うん!でも、君の場合は私以外にも色々教わった方がいいと思うよ?ホラ!君の力はサポート向きだし」

「それは分かってますよ」


 ミルフィーユがそう言うとアポロはとても嬉しそうな顔をした。


「それにしても…あなた…一応、私の弟なのに私の事を覚えて無い上にクラスが同じって事を今まで知らなかったってどういう了見よ?」

「うるせぇよ…一々関わりの無いヤツの名前なんか覚えてられるか!」

「いい度胸ね?いいわ!姉としてあなたを躾けてあげるわ!」

「二人とも止めろ!街中だぞ!」


 フローフルとアポロが喧嘩を始めようとしていた所をインベルが止めた。

 ミルフィーユは正直、安心してた。自分で喧嘩を止めるの面倒臭いし。


「じゃあ、アポロも一緒に私の家に来る?」

「行きます!」


 ミルフィーユの誘いにとても嬉しそうに答えた。




 四人はミルフィーユの家に辿り着いた。

 早速、フローフルとインベルはミルフィーユの家事の手伝いをさせられた。

 アポロも一緒に手伝っていた。こういった事は割りと率先してやるタイプの様だ。

 ぶっちゃけ、フローフルもインベルもアポロはお嬢様育ちの為、こういう事はやりたがらない人物だと思っていた。

 ミルフィーユの家は簡素なモノであり、普通の一軒家より少し広い位の広さであった。

 ミルフィーユが料理を作り、フローフル達は食器を並べていた。

 今回ミルフィーユは無難にシチューを作っていた。

 食事の準備が出来たフローフル達は席に着いた。


「ぶっちゃけ、ミルフィーユは料理が下手だと思った」

「あなた、無礼ね。一回死んだら?」

「何だと?」

「だから二人とも落ち着いてよ!」

「仲良くね~」


 またもや、フローフルとアポロが喧嘩しそうになった所をインベルが止めた。

 これではインベルとアポロ、どちらがクラス委員長なのか分からない。


「でさ、何でアポロはミルフィーユに弟子入りしたの?」

「ミルフィさんはかっこいいからよ。戦う姿が」

「ただの戦闘狂じゃねーか」

「あなたマジでぶち殺すわよ?」

「ああ?やんのか?」

「だから喧嘩するな!」


 ミルフィーユはインベルがいて助かったと心底思った。

 いなかったらミルフィーユが止めないといけないところだったからだ。

 こういう面倒事はミルフィーユ自身とても嫌いなのだ。

 しかし、それと同時にインベルは苦労しそうだなともミルフィーユは思った。


「フローフルとアポロって学校以外では会わないんだな」

「僕は基本引きこもってるからね」

「そう言えば、あなたはぼっちだったわね」

「あー、もうその下りはいいから。アポロも挑発しないで」


 また喧嘩を始めそうになったのでインベルがアポロを諭した。

 何で自分が二人の喧嘩を止めるハメになってるんだとインベル自身思ったが気にしても仕方が無かった。

 ………こういう事は本当はミルフィーユがやるべきだと口が裂けても言えなかった。

 アポロがどこでキレるか分からない以上、余計な事は言わない方がいいだろう。

 どうも、普段のアポロは皆に慕われている優しい委員長という印象がインベルの中では強かった為、素のアポロの性格がここまで頑固者だとは思わなかった。

 人の裏表の切り替えは恐ろしいなと子供ながらインベルは思った。


「私もフローフルの事を知ったのは最近よ。まぁ、私は寛大だからフローフルの事を特別気を使ったりなんかしないわ」

「寛大か?傲慢だな?寛大って文字を辞書で調べる事をお奨めするぜ?」

「あら?そう言うあなたはそんな性格をしているからロクに人と関われずにぼっちになったんじゃないの?」

「………お前らは喧嘩しないと死んじゃう病かなんかなの?」


 インベルは二人の低レベルな子供の喧嘩を呆れながら見ていた。

 ミルフィーユはというとそんな三人の姿を見て、少しだけ楽しげであった。


ーたまにはこういう賑やかなのも悪くないね。


 ………ただし、フローフルとアポロの喧嘩は一切止めようとしないけど。





 フローフルは一人で城に戻った。

 アポロとインベル、ミルフィーユと別れ、一人で戻ってきた。

 すると、目の前に見慣れた顔の少女がいた。

 見た目は白く長い髪に黒い瞳が特徴の少女だった。


「フローフル!」


 少女はフローフルの元へと駆け寄った。


「何だよ…ルミナス…」

「えへへ…会えて嬉しい」

「そうかよ」

「ねぇ?何か遊ぼうよ?」

「悪い…僕今日は疲れた…」

「え?あっ…何で怪我してるの!?」

「ちょっと剣術を始めてな」


 ルミナスはボロボロのフローフルを見て驚いていた。

 ルミナスはフローフルと出会うまで同年代で親しい者はいなかった。

 更に言うとルミナスはその環境のせいで孤独であった。

 母はルミナスが産まれた瞬間に死に、父は病に伏していた。

 更にルミナスにはなまじ才能があったせいで他の者達から羨望や嫉妬、期待などあらゆる劣悪な感情にまみれて生きてきた。

 一応、義理の妹が二人いたのだが、第二皇女のマーブルはフローフル以上の引きこもりであり、外に出る事が無く(最近のフローフルは引きこもっていない)、アポロとは確執が大きかった。

 いずれもあまり良好な関係では無かった。

 しかし、フローフルは違った。

 最初は遊女の息子だと聞き、少し不安があったのだが、ルミナスの思っていた以上にフローフルはルミナスと似ていた。

 あらゆる人から圧力を掛けられて生きてきた…そんな点が二人の共通する点であり、ルミナスはフローフルが唯一の心の拠り所となっていた。

 ルミナスにとってフローフルは大切な弟であった。


「何で剣術を始めたの?今までは引きこもってたのに?」

「…何でだろうな…ミルフィーユに勧められたからかな?」

「ミルフィに教わってるの?私も教わりたい!フローフルと一緒に!」

「お前は俺より全然強いじゃん」


 フローフルはそう言った。

 そう、ルミナスは基本、出来ない事は無い。

 剣術も相当なモノであり、普通の大人ではまずルミナスには勝てない。

 頭も良く、帝王学も学んでおり、次の神聖ローマの跡継ぎの最有力候補でもある。


「私はフローフルと一緒にいたいの!」

「そもそもお前、忙しいだろ…」

「そうだけど…」

「そう言えば…今日、アポロに会ったよ」

「アポロに!?………あの子メチャクチャ性格悪いでしょ?皆の前では猫被ってるけど」

「ああ、最悪だ。あんな性格の悪いヤツがここにいるんだな」

「そうそう、嫉妬深くて思い込みも激しいんだよね~。猫被ってるから他の人からの評判がいいのがムカつく!!」


 ルミナスは地団駄を踏みながらそう言った。

 ルミナスとアポロには確執が存在し、アポロがルミナスを一方的に敵視している。

 アポロはルミナスに会う度に喧嘩を吹っ掛けてくるし、文句や悪口も言う。

 ルミナスはそんなアポロにうんざりしていた。

 正直、ルミナスはアポロに対して眼中に無かったがああも露骨に嫌悪されてはいい気はしない。


「なぁ?僕の部屋で話さない?ここではなんだし」

「うん!フローフルの話、もっと聞きたい!」


 ルミナスはそう言ってフローフルと一緒にフローフルの部屋へと移動した。

 ルミナスはフローフルにとてもなついており、フローフルもルミナスは数少ない話し相手であった。

 フローフルとルミナスは部屋へと移動し、話を始めた。


「アポロと僕以外にもう一人いるんだ」

「へぇ~、誰?」

「インベルっていう僕と同じクラスの奴だ。最初は僕とインベルでミルフィーユの修行をしてたんだ」

「男の子?」

「ああ、そうだけど?」

「ならいいけど」


 何がいいというのかフローフルにはさっぱり分からなかったが話を戻した。


「インベルはアホっぽい奴だけどいい奴なんだ。またお前とも会わせたいな」

「フローフルがそう言うなら私もその人に会ってみたい」


 ルミナスがフローフルの話をとても楽しそうに聞いていた。

 ルミナスはこうしてフローフルと話をするのがとても楽しいのだ。

 今までの嫌な時間を忘れられるから。

 勉強も、運動も、戦いも、ルミナスは類い稀なる才能を発揮し、全てにおいてそつなくこなすし周囲からも期待の眼差しを向けられる。

 しかし、嬉しくない。

 満たされない。そんな空っぽな眼差しを向けられても、ルミナスは嬉しくなかった。

 そんな事より、フローフルとこうして何気ない時間を過ごす方がルミナスにとっては幸せだった。


「ルミナス?遊びに来たのね」

「エリシア先生。こんばんは」

「ええ、こんばんは、ルミナス」


 エリシアとルミナスはお互いに挨拶をした。


「何しに来たんだよ?」

「あなたにルミナス以外の友達が出来たみたいで安心したわ」

「別に友達なんか出来てねぇよ」

「そう…ふふ…」

「何だよ?その顔は?」

「何でも無いわ。ルミナスもいつもフローフルの事、ありがとうね」

「いえ、そんな…」


 ルミナスはエリシアとフローフルを呆然と見ていた。

 ルミナスはの眼にはエリシアとフローフルが写っていた。

 やがて、ルミナスはエリシアが黒く塗り潰される姿を想像した。

 ルミナスはこの感情が何なのか…この時はまだ、分かっていなかった。


「フローフル、明日もちゃんと学校に来るよの?」

「ここ最近、ちゃんと行ってるだろ?」

「だから、それをちゃんと続けなさいって言ってるのよ」

「ったく、うるせーな。分かってるよ」

「エリシア先生は何でフローフルに学校へ行かせるんですか?」


 ルミナスはエリシアに疑問を投げ掛けた。


「そっちの方が他人と関われるからよ。あなたも学校に行ってるじゃない」

「フローフルと同じクラスがいい…」

「人にはそれぞれペースがあるのよ。あなたは優秀なんだから」


 ルミナスはフローフルと同じ学校に通っているものの、違うクラスである。

 フローフルが普通クラスでルミナスは特進クラスであった。

 ルミナスはその特進クラスの中でもダントツのトップであり、家でも英才教育を受けていた。


「へぇ…ルミナスってそんなに凄いんだな」

「…そ…そんな事無いよ…」


 フローフルがルミナスを褒めるとルミナスは照れながらそう言った。

 三人が話している内に時間は過ぎ去り、既に十時を回っていた。


「…もう…戻らなきゃ…」


 ルミナスが名残惜しそうにそう言った。


「そうか…またな」

「うん、またね。フローフル」


 そう言ってルミナスは急いでフローフルの部屋から出ていった。


「あの子…随分あなたになついているわね」

「そうなのか?」

「…あなたは鈍感ね…本当に」


 エリシアは呆れながらそう言った。


「なぁ?一つ、疑問なんだけど…」

「何?」

「アンタは何で先生とかやってんだよ?」


 フローフルはエリシアが何故教師などやっているのかが気になっていた。

 エリシアはセラフィム騎士団のメンバーでもある。

 しかし、彼女は神聖ローマの学校の教師も兼任している。

 エリシアの実力は正に鬼神そのものと言われており、セラフィム騎士団の中でも最強クラスの実力がある。

 それにも関わらず彼女はなるべく前線には立たず、争いを好まない性格である。


「私は…何かを残したいのよ…奪ってばかりだったたから…」

「………」

「だから…せめて誰かを教え導いていきたいのよ」

「…よく分からないな」

「そうでしょうね。まだ、あなたには分からないかもしれないわね…けど、分かる時がきっと来るわ。そのときは…私よりも強くなって貰わないとね」


 エリシアが笑顔でそう言った。

 エリシアは戦いにおいて多くの戦果をあげてきた。

 しかし、それは裏を返せば多くの命を奪ってきた…という事だ。

 エリシアはそれに関して責任を感じていたのかもしれない。

 フローフルはエリシアの気持ちがこの頃はまだ分からなかった。

 この頃のフローフルは何も考えていなかった。

 いや、考える暇が無かった。

 今を生きる事に必死だった。

 強くなる事に必死であった。





「ふ~ん♪ふふふふ~ん♪」


 暗い部屋で鼻歌を歌う者がいた。

 暗く視界が見えないため、姿は見えなかったが少女である事は鼻歌から察する事が出来るだろう。

 彼女はこの部屋にずっと引き込もっており、外に出る事が極端に少なかった。

 彼女の名はジェラート・ファイ・ローマカイザー。

 神聖ローマ第二皇女である。

 彼女に関しては生まれがかなり特殊である。

 彼女は天使なのだが、天使と悪魔の間に生まれた子供であり、所謂デモンエンジェルと呼ばれる存在だ。

 堕天使という訳でも無く、悪魔という訳でもない、極めて特殊な天使である。

 デモンエンジェルの特徴としては普通の天使より高い戦闘能力を持っているのと、速く死ぬ事が挙げられる。

 デモンエンジェルは普通の天使どころか人間よりも寿命が短いと言われており、長くても五十年程しか生きられないと言われている。

 光より暗闇を好み、夜に活発化するなど気質は悪魔に近い。

 ジェラートの家系は特に特殊であり、代々、子供を生んだ瞬間に母体は死に至る。更に単為生殖である。

 ジェラートの一族自体は五百年前から存在しており、ローマカイザーの中でもファイは古参の部類に入る。

 ローマカイザーはアークキエル、ファイ、デルタ、キーの四つの皇族があり、アークキエルが最も古く、千年前から存在している。

 ファイは五百年前から、デルタは二百年前から、キーはフローフルの時からであり、フローフルが来るまで第四のローマカイザーは存在しなかった。

 ファイは五百年前から存在するものの、その特異性から昔から呪いの一族と呼ばれていた。

 それでもローマカイザーの一族という事もあり優遇されているのも事実である。


「夜は綺麗だね~。私は…夜が好き…」


 ジェラートはそう呟いた。

 ジェラートは夜が好きであった。

 夜は全ての者達を優しく包んでくれる。

 夜は全てを終わらせてくれる。

 朝が世界の始まりならば夜は世界の終わりであり、マーブルはそんな夜に魅力を覚えていた。

 ジェラートは悪魔としての力が非常に高いものの、『悪魔(ソロモン)』も『天使(エンゲリアス)』も持たない特殊な人物でもある。

 天使であれば『天使(エンゲリアス)』、悪魔であれば『悪魔(ソロモン)』を持つ。

 それはデモンエンジェルでも例外では無く、デモンエンジェルの場合でも『天使(エンゲリアス)』か『悪魔(ソロモン)』のいずれかは持っている。

 デモンエンジェルは天使記号と悪魔記号、どちらに片寄っているかで『天使(エンゲリアス)』か『悪魔(ソロモン)』を使えるかが決まる。

 悪魔には悪魔記号、天使には天使記号が体内に含まれており、比率が高い方の力を持つ事になる。

 天使よりであれば『天使(エンゲリアス)』だし悪魔なら『悪魔(ソロモン)』を持つ。

 ジェラートは天使の記号が多い為、本来なら『天使(エンゲリアス)』を持つ筈なのだが、ジェラートは『天使(エンゲリアス)』を持たない。

 実はこれはジェラートだけに限らずファイは五百年前から『天使(エンゲリアス)』も『悪魔(ソロモン)』も持たない特殊な一族であった。

 デモンエンジェルは天使の力と悪魔の力を両方使える稀有な存在だ。

 天使のみが使える霊術である『聖唱(ヴィーゲンリート)』も『魔歌(マーニア)』も使用できる。

 ジェラートもそれは例外では無く、両方使える。

 そして、マーブルという名は世襲制であり、五百年前から語り継がれている名である。


「う~ん、私…何か忘れてる気がするんだよね~?何だろ?」


 ジェラートはそんな事を言い出した。

 ジェラートは非常に変わり者であり、彼女とまともに話が出来る者など存在しなかった。

 ルミナスやアポロとも姉妹であるにも関わらず会った事すら殆ど無かった。

 ジェラートはよく色々な記憶が現れる事がある。

 そして、「何か」を忘れている気がするのだ。

 ジェラートはそれをどうにかして思い出したいのだが、思い出す方法が分からない。


「まぁいっか!ゆっくりと思いだそーっと」


 ジェラートは能天気そうにそう言った。

 ジェラートは非常に能天気な性格であった。

 それにも関わらず何故引き込もっているのかと言うとジェラートは日の光が苦手だからだ。

 なのでこの部屋は太陽が登った瞬間、窓にシャッターがかかる特別仕様だ。

 ジェラートは日の光が苦手ではあるがいられないという訳では無く、たまには外に出るのだが太陽の光が眩しくすぐにダウンしてしまう。


「そう言えば…最近、新しい弟がやって来たんだよね?」


 ジェラートはそう呟いた。

 そう、今まではローマカイザーはアークキエル、ファイ、デルタの三つの皇族までしかいなかったが、四人目がやって来たようだ。

 マーブルとしては一度会ってみたい所であった。

 マーブルは決してルミナスもアポロも嫌っている訳では無く、むしろ姉妹として好いているのだが、どうも彼女等には嫌われている様だ。


「確か…フローフル・キー・ローマカイザーだったっけ?」


 マーブルはフローフルに会ってみる事にした。





To be continued

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