【第八章】天使追憶篇ⅠーThe past frozen endー
イシュガルとの戦いから早三日経っていた。
未だに一夜が戻る気配が無かった。
蒼達は今、蒼の部屋に集まっていた。
「一夜さん…遅いね」
「ああ、あいつが戻って来なかったらいつまでも話が進まん」
慧留と屍がそれぞれ言った。
そう、蒼とインベル、アポロはこれから自身の過去を話す所であった。
蒼の過去は慧留も関係している。
慧留がこの国に逃げるきっかけとなったローマ戦争…その戦争を引き起こしたのが蒼達だからだ。
慧留はそれを知り、蒼の話を聞く事を決意。
蒼も今まで話せずにいた過去を話す事を決意したのだ。
しかし、一夜が戻って来るまで話せない。
一夜一人外した状態で話すとまた過去を話さなければならず、二度手間だ。
だから、一夜が戻って来るのを蒼達は待っていた。
こうして、この三日間、蒼の部屋に集まっては夜遅くになると解散、また蒼の家に来るといった作業を繰り返していた。
何故、一夜がこの場にいないのかと言うと、蒼とイシュガルがこの世界とは別の世界で戦っていた。
その時に一夜はイシュガルとの戦いを見ていたジェネミと遭遇。
そして、ジェネミと話がしたいと言い、一夜はその世界に残ったのだ。
そして、残ってから三日間、帰ってくる事は無かった。
アスディア曰く、ちゃんと返すとの事だったが三日間まるまる帰ってこないとなると少し不安になる。
「一夜…」
蒼がそう呟いた瞬間ー
「呼んだかい?蒼?」
「うわああああああ!!!!」
蒼の目の前に突然、一夜が現れ、蒼は驚いた。
当然、驚いたのは蒼だけでは無い。
突然、虚空から現れた一夜を見て、他の者達も驚いていた。
「一夜さん!」
「やぁ、皆…ただいま…」
「三日間まるまる帰ってこないから心配したぜ?」
美浪が一夜に声を掛け、インベルが心配そうにしていた。
「いやいや、済まない済まない…思ったより長引いてしまってね…」
「それで?何の話をしていたのかしら?」
「それは…秘密だよ。けど、いずれ分かるよ…それより、まずは君達の過去…だろう?」
アポロの質問より一夜は蒼の過去を知る事を優先していた。
それはそうだ。元よりそのつもりで戻ってきたのだから。
「そうだな…」
「蒼…僕達に隠し事は無しだよ?」
「分~かってるよ…ちゃんと話すよ…」
蒼は溜め息を吐きながらそう言った。
そして、蒼はこう言った。
「なぁ…一夜の家で話したい。ここは狭い」
「ここは一介のマンションに過ぎない…ここに八人いるのは確かに狭いだろう」
蒼の言葉に皆は納得した様で、一夜の家へと向かった。
一夜の家は豪邸の様な家であり、一部屋が広い。
本人曰く、家をいくつか持っているとの事だ。
こいつの方がよっぽど謎だらけの男である。
「さてと…それじゃあ、始めて貰うぞ」
屍がそう言うと蒼が「ああ」と短く答えた。
「まず始めに…俺達には師匠と先生がいたんだ…」
「俺達三人に剣を教えてくれた人がミルフィーユ。お前らも…特にプロテアは知ってんだろ?」
蒼が話し始め、インベルが次に発言した。
インベルの言葉にプロテアはピクリと眉を動かした。
プロテアにとって、ミルフィーユは因縁の相手だからだ。
「そして…私達には先生がいた…名前は…エリシア・メシア…私達の先生で…私達がローマ聖戦を起こしたきっかけの人よ」
アポロがそう言った。
すると、他の者達の反応が変わった。
「俺達ローマカイザーはアポロを含む三人の皇女と一人の皇子…つまり俺の四人いる」
「そして、ローマ聖戦は…その内の三人が深く関わっているわ…私とフローフル…そして…神聖ローマ第一皇女、現在のローマ合衆国皇帝…ルミナス・アークキエル・ローマカイザーの三人よ」
「第二皇女であるマーブル・ファイ・ローマカイザーは今回の件に関わっていない」
蒼、インベル、アポロがそう言った。
ローマカイザーは四人いる。
第一皇女がルミナス・アークキエル・ローマカイザー。
第二皇女がインベルの口から出た、ジェラート・ファイ・ローマカイザー。
第三皇女がアポロ・デルタ・ローマカイザー。
そして、第四皇子が蒼の事であり、フローフル・キー・ローマカイザーだ。
この四人が今のローマカイザーの後継者達だった。
しかし、五年前からルミナスが神聖ローマ皇帝となった。
更には三年前に神聖ローマを完全に統一し、神聖ローマをローマ合衆国へと改名した。
たった二年で今まで統一できて無かった大国を統一したルミナスの手腕はかなりのモノであると分かる。
そして、インベル、アポロ、蒼は語り始めた。
「これは…俺達の始まりの物語だ」
「そして…止まってしまった物語で…」
「俺達の罪の物語だ…」
ここは神聖ローマ…国として確立されたのは今から二百年ほど前だ。
神聖ローマは四大帝国の中で国として確立されたのが最も遅い国であった。
五百年ほど前にヘレトーアが形成された。
ヘレトーアは国として一番最初に確立された国ではあるが、ヘレトーアと呼ばれる様になったのはこれもまた、二百年前である。
一番速く国として始動したのはUSWであり、史実ではUSWが始めに四大帝国の中で一番最初に出来た国であると言われている。
これは蒼達の時代から約十年前まで遡る事になる。
フローフルは一人でチェスをしていた。
この頃のフローフルは子供で身体が今より小さい。
当時の蒼は神聖ローマに引き取られて間もなかった。
フローフルの母親は遊女であった。
この頃のフローフルは水色の髪と瞳を持っていた。
フローフルの母親はフローフルを捨ててすぐに死亡していた。
そこでフローフルの父親であるヤハヴェラ・アークキエル・ローマカイザーがフローフルを引き取った。
しかし、フローフルは遊女の息子として周囲からは軽蔑の目を向けられており、一人でいる事が多かった。
義理の姉であるルミナス・アークキエル・ローマカイザーともこの頃はお互いに会う事あまりが無く、フローフルは一人でいた。
しかし、あまり会う事が無いというだけで仲が悪い訳では無かった。
むしろ、軽蔑される事が多いフローフルの数少ない話し相手であった。
ルミナスはフローフルの事情を知っていても軽蔑する事は無かった。
ルミナス曰く、「悪いのは母親でフローフルでは無い」との事である。
子供ながらそこまで割りきった考えをルミナスは持っていた。
フローフルは一人でチェスを打ち続けた。この部屋で。
この部屋は神聖ローマが保有する城である天使城であり、フローフルはその一室をまるまる与えられていた。
部屋はかなり広く、フローフルでは持て余す広さであった。
部屋は玩具などがあるだけで他は何も無かった。
そんなフローフルの一人だけの空間に一人の人物が入ってきた。
「入るわよ、フローフル」
その女性は黒色の長い髪に桜色の瞳を持つ女性であった。
服も白色を基調とした桜色の宗教服を着ていた。
「エリシアか…」
「全く…あなたはまた一人で…」
「外は出たくない…皆…僕を見下すんだ…」
「………」
エリシアは黙ってフローフルを見ていた。
フローフルは回りの自身を見下す眼が嫌になり、外に出る事を拒絶していた。
エリシアは蒼の教育係を任されていた。要するにエリシアはフローフルの先生であった。
エリシアもルミナス同様、フローフルを蔑んだ眼で見る事は無かった。
フローフルもエリシアとルミナスには一定の心は開いており、普通に話せる相手であった。
しかし、父親との関係はあまりいいものでは無かった。
しかも、父は今、病に伏しており、殆ど寝たきりである。
「そうは言うけどね?ずっとここに引きこもってる訳には行かないでしょ?」
「外は怖い…」
「あなた…ここに来てからもう1か月くらい経つけど三回程しか外に出てないじゃない…」
「いいよ、もう…出たくないんだ」
フローフルは相当に心に傷を負っていた様だ。
母からも虐待当然の扱いを受けていた様で、更にここに来ても結局母の立場のせいで差別されている。
どこに行ってもフローフルには居場所など無かったのだ。
「はぁ~、なら私とチェスをしなさい。そして、私が勝ったら私と一緒に外に出なさい。いいわね?」
「僕が勝ったら?」
「あなたの好きにしなさい」
「………」
正直、フローフルはこんな賭けに乗りたく無かった。
しかし、エリシアはフローフルが首を縦に振るまでは絶対に引かない。
フローフルはその事を分かっていた。
「分かったよ…やればいいんでしょ?やれば…」
フローフルは渋々承諾した。
フローフルはこの年にしてはチェスがかなり強かった。
二人のチェスの実力は五分五分と言った所だ。
二人は早速チェスで菖蒲を始めた。
エリシアもそこまで弱いという訳では無かった。
今回はエリシアに分があった様だ。
勝負はエリシアの勝利で終わった。
「さぁ、約束よ」
「………分かったよ」
フローフルは根負けした様にそう言った。
何でこんな時に負けてしまったのか…フローフルは深い溜め息を吐いた。
フローフルとエリシアは部屋から出ていった。
実に一ヶ月振りの外の世界であった。
「それでは、授業を始めるわよ」
エリシアはそう言って教室からやって来た。
ここは神聖ローマの教育学校であり、フローフルはその生徒の一人であった。
ここでもフローフルは一人だった。だから、一ヶ月前からフローフルは一切学校にも行って無かった。
蒼はエリシアの後ろからトボトボやって来た。
「さぁ!フローフルも座って!」
フローフルは適当に窓際の席に座った。
「なぁ!何で今まで学校来なかったんだよ?」
すると、赤髪の少年が話し掛けて来た。
彼はインベル・ヴァレンテ。彼はどうもフローフルの事を気に掛けていた様でフローフルに話し掛けていた。
「僕に話し掛けるな」
「酷くない!?」
インベルはフローフルの事を皆と同じように知っていた。
しかし、見た所、フローフルに対して見下している感じは無かった。
「僕と関わるな…」
「何で?」
「いや…僕といると…お前も…」
「あ~、そう言う事か…別にオレは気にしないぞ?」
「何でだよ?」
「別にお前にはカンケー無いじゃん?」
「………」
インベルはフローフルの出生や事情をある程度は知っているにも関わらずフローフルと普通に接していた。
差別されていたり迫害されている者に普通に接する事が出来る人物は少ない。
インベルは見た所、かなりおおらかな性格の持ち主の様だ。
しかし、フローフルは元から人付き合いが得意では無いし、色々訳ありの為、誰かと関わろうと言う気にはなれなかった。
「授業おわっちまったな」
インベルがそう言うとフローフルはさっさといなくなってしまった。
「あっ!フローフル!?」
インベルは辺りを見回したがフローフルはそこにはいなかった。
どうやらすぐに帰ってしまった様だ。
「インベル…あいつとは関わらない方がいいよ~。あいつ、悪い人のこどもなんだろ?」
「そうだよ!ローマカイザーだからって…いいご身分だよな~」
生徒達が口々にそう言っていた。
そう、ここの生徒達はフローフルの事を知っている。
彼等の親もフローフルと関わる事を拒んでおり、フローフルはあらゆる方面で迫害されていた。
「いや、別にそれはあいつはカンケー無いだろ?」
「カンケーあるよ!悪い奴のこどもなんだから悪いやつだよ!」
子供の考え方というのは単純だ。
悪い人は悪い。いい人はいい人そんな単純な考え方をする者が殆どだろう。
しかし、この世界は外見上はいい人っぽい感じを見せて裏では極悪人だった…という者も中にはいるしその逆もいる。
子供ゆえに考え方が単調になるのは仕方の無い事なのかもしれない。
大人でも視野の狭い見方しか出来ない者もいるのだ。子供なら尚更そうなるだろう。
「オレ…あいつが悪い奴とは思えねぇよ」
インベルはそう言って、教室から一人出ていった。
「はぁ…疲れた…とっとと家に帰るか…外は嫌だ」
フローフルは一人でそう言いながら天使城の中を歩いていた。
すると、目の前にいる誰かとぶつかった。
「いて!」
「気を付けないとダメだよ」
その人物は女性であった。
オレンジのミディアムパーマに瞳、白を基調としたオレンジ色の服を着ている女性であった。
「アンタは…」
「君は…ああ、第四皇子の…」
「アンタは…ミルフィーユだな…セラフィム騎士団の…」
どうやら、お互いに名前は知っている様であった。
ミルフィーユはセラフィム騎士団の一人であり、無類の戦闘狂として知られている。
穏やかそうな見た目に反してとてつもないギャップを持っていた。
「私の事を知ってるんだね」
「アンタの悪名高さは有名だからな」
「それは君もだよね?」
フローフルは露骨に嫌そうな顔をした。
そんなフローフルの心情を悟ったのかミルフィーユは素直に謝った。
「ごめんね、少し大人気なかったね」
「だったら言うな」
「君が少し生意気そうだったからついね」
「子供相手に容赦出来ないのかアンタは?」
「うん、だって…兵隊だよ?私」
ミルフィーユは眼を据わらせてそう言った。
その殺気にフローフルはビビっていた。
それもそうだ。軍人の眼力を子供が見れば子供は大概ビビるだろう。
「怖がらせちゃったね」
「いや!ビビってねぇ!」
「君、ここに来てから一月くらい経つよね?どう??慣れた??」
「今の僕を見て何故慣れている様に見える?」
「あっ!それもそうか…君、繊細そうだし」
ミルフィーユはそう言った。
ミルフィーユはフローフルに対して特に興味がある訳では無い。
ミルフィーユにとっての興味の対象は力が強いか強くないかだ。
フローフルの将来性は期待しているが、今はさして興味がない。
「アンタ…こんな所で油売ってる場合かよ?」
「子供の癖に難しい言葉を使うね…」
「で?その子供に大人気ないのはどこの誰だ?」
「はは…そうだね…君、面白いね…ねぇ?君って剣をやってたりする?」
「剣?やってない」
「そう…剣をやる気になったら、私の元へ来なさい。私があなたに戦い方を教えるよ」
「何でそうなる?」
「何でもだよ、じゃあね~」
ミルフィーユはそう言って、フローフルの前から去っていった。
何だかよく分からない人物であった。
しかし、少なくともフローフルにたいしてはかなり好意的であるようだ。
フローフルはそのまま自分の部屋へと戻った。
部屋はいつも通り殺風景であった。
そして、フローフルはいつもの様にチェスに興じる。
フローフルはむかしからチェスが好きだった。ただ、好きというだけで特別才能がある程強いという訳では無い。
精々、フローフルの歳にしては上手いというだけだ。
それ以外のボードゲームもするにはするのだが、一番分かりやすかったチェスが一番好きだった。
フローフルはこうやって一人でチェスに興じる事が唯一の楽しみであった。
「フローフル!入るわよ」
そう言って、エリシアが入ってきた。
「エリシア…もう僕は外には…て…」
フローフルは驚いていた。
それもそうだ。何故なら、フローフルの目の前にいたのはエリシアだけでは無かった。
もう一人いたのだ。
「何でてめぇまでいるんだよ!」
「お前が普段ここに籠りっぱなしって聞いたから来た」
「理由になってねぇ!」
フローフルはインベルに対して怒鳴った。
そう、エリシアともう一人いたのはインベルであった。
どうやら、インベルはエリシアからフローフルの場所を聞き出し、ここへ来たようだ。
「まぁ、そう言うなよ!へぇ~、チェス好きなのか?オレ、やった事無いから教えてくれよ!」
「嫌だ。帰れ」
「フローフル」
エリシアが笑顔でフローフルの名を呼んだ。
すると、フローフルは背筋を凍らせた。
このままインベルを無理矢理にでも帰すと恐らくエリシアが黙っていない。
「……ちょっとだけだぞ」
「やった!」
インベルは嬉しそうにそう言った。
そして、インベルとフローフルはチェスのボードに駒を置き始めた。
「おい、配置場所が違うぞ」
「え?これって置く場所決まってるの?」
「当たり前だろ?僕が置くからお前は見て覚えて」
「見て覚えろなんて不親切だよ。ちゃんと教えてくれよ」
インベルがそう言うと溜め息混じりでフローフルはインベルに駒の配置場所を教えた。
「二列目には全部ポーンを置けばいい。で、両端にルーク、中央にキングとクイーン、その隣にビショップ、ナイトと続けて置くんだよ」
「へぇ~」
「駒によって動かせる駒が決まってるからそれにそってゲームを進める。勝利条件は相手のキングを取る事だ」
「これってターン制だよな?先攻後攻ってどうやって決めるんだ?」
「じゃんけんで決めても別にいいが、基本は白が先攻だ」
「じゃあ、俺が先攻だ!」
「けど、先攻は相手の駒を取れないからな。…まぁ、そもそも取れようが無いが…」
フローフルが一通りせつめいを終えると二人はチェスを始めた。
インベルは案外物覚えが速く、フローフルが説明したルールを一通り覚えていた。
最初こそ、ルールを熟知していない事もあり、フローフルが勝ち越していたが、後半にはインベルが勝つようになっていた。
「な…初心者に負けた…」
「フローフル…やってる割りにはあんま強くないんじゃねーの?」
「うるせぇ!」
「でも、こういうのも楽しいな」
「なぁ?何でお前は僕を避けない?僕の事…ある程度は知ってるんだろ?」
「え?あー、まぁ、そうだけど…オレ…君がそんなに悪い奴とは思えないんだよな~。エリシア先生がずっと言ってたんだ、人は見た目や外見上で判断するのはいけないってな。まぁ、他の皆はエリシア先生の言葉の意味を全然分かって無いみたいだけど」
「何だよそれ…」
「オレは君の事をよく知らない。だから、知っておきたいんだよね」
「僕と関わるとロクな事にならないよ」
「何でそう決めつけるんだ?なんかやらかした訳でも無いのに?」
どうやら、インベルには賢さと楽観さを持ち合わせている人物である様だ。
相手の言葉の意味を深く理解する聡さと差別されている人の偏見を一切持たない懐の広さを併せ持っている。
フローフルはこういう人物こそが国を納める王に相応しいのだなと感じた。
不倫している自分のクソ王様とは偉い違いだとフローフルは感じた。
「じゃ、今日はありがと!オレ帰るな。あんまり長居するのも悪いし」
「ああ、とっとと帰れ。んで二度と来んな」
「いやだ!また来るよ!」
インベルはそう言って出ていった。
どうやら、インベルも初めてフローフルの家に来たという事でフローフルに対してある程度は気を使っていた様だ。
「いい友達ね」
「友達じゃねー」
「でもフローフル、楽しそうだったわよ」
「相手がお前くらいしかいなかったからだ」
エリシアの言葉をフローフルは否定した。
そう、エリシア以外の相手と戦ったからそう見えただけだ。
フローフルはそう思う事にした。
「ん?これは…?」
フローフルはある物が視界に入った。
それは財布であった。しかし、フローフルとは違う財布であった。
「あいつのか…」
恐らく、インベルの財布だろう。どういう訳か忘れていってしまったようだ。
「どうしたの?フローフル?」
「ちょっと外で買い物に行く」
「外に自分から出るの?珍しいわね」
「うるせぇ…」
フローフルは自分の部屋から出ていった。
そんなフローフルを見て、エリシアはこう呟きいた。
「素直じゃ無いわね~」
エリシアはフローフルの心情を察してわざと知らないフリをしていた。
まぁ、夜は遅いがインベルが出ていってからそんなに次官は経っていないし問題ないとエリシアは思った。
エリシアはフローフルが戻って来るまでフローフルの部谷を掃除する事にした。
「ったく…あのバカはどこだ?」
現在、夜であり八時を回っていた。
フローフルはインベルの忘れた財布を届ける為にインベルを探していた。
彼が出ていってからそんなに時間が経っていないのですぐに見つかるのかと思ったがどうやらそんなに甘くは無かった様だ。
そもそもフローフルはあまり外をうろつく事も無い為、土地勘が全く無いし、インベルの家がどこにあるかも知らなかった。
というより、何故自分はこんな事をしているのかとフローフルは自問自答した。
また学校であった時に返せばいいだけだ。それなの何で…
「いや、もう学校には行かない!僕は学校に行ってあいつにわざわざ財布を返しに行くのが嫌だから今返しに行ってるんだ」
フローフルは自分でそう言い聞かせる様にそう言った。
かなり無理のある言い訳であったが、それを指摘する者は誰もいなかった。
「……一応…護身用にこれは持って来たけど…」
フローフルはそう言って腰にある刀を取った。
水色とも透明とも言えるその刀はフローフルの『天使』である。
フローフルは天使としての力を既に手にしており、この歳で既に『第一解放』を扱う事が出来る。
フローフルが『天使』を顕現させたのは今から一ヶ月程前、つまりフローフルが母親に捨てられた日だ。
フローフルはその時の悲しみと怒りにより、『天使』を顕現させた。
そして、その力に気が付いたローマの軍隊がフローフルを捕縛しそのまま保護する事になったというのがフローフルがこの国に保護される様になった一連の流れだ。
そして、フローフルのははおやの捜索が始まり、その頃には既に死亡していた事が発覚。
それと同時にフローフルの父親が現皇帝であるヤハヴェラの子供であった事が発覚した。
そのせいでフローフルは遊女の息子だと迫害されるようになった。
それ以前からも母から虐待同然の仕打ちを受けており、フローフルが歪んでしまった原因でもあった。
その為、フローフルはエリシアにしか心を開いていなかった。
「…!いた!」
フローフルはインベルを見つけ出した。
「けほ…けほ…」
「てめぇ…マジで調子に乗るなよ!」
「お前らが犬を虐めてたからだろ…」
インベルは目が死んでいるゴロツキらしき男たちに殴られていた様だ。
「お前ら…何してんの?」
「!? 何だガキかよ…こっちに来るな…でないとお前、痛い目を見るぞ?」
「ザコは皆そう言うよな?」
「何だと?」
「フローフル…」
フローフルはゴロツキ達に声をかけた。
インベルはフローフルがこんな所にいた事に驚いていた。
「おいガキ…今なんて言った?」
「低脳なバカなてめぇらには聞こえなかったか…済まない。じゃあ、もう一回言うわ。お前らクソザコ共が一体ここで何してんの?って聞いてんだ」
「何だと!?ガキが!調子に乗るなよ!!」
「フローフル止めろ…ここから逃げろ!」
「やだよ。こんなザコ相手に何で逃げないと行けないんだよ」
フローフルはそう言った。
フローフルはこういった者達が気に入らない。
弱者を虐げ、悦に浸って自分は強いと勘違いしているこんなバカ共相手に逃げる程、フローフルは落ちぶれてはいない。
「お前、こいつの仲間か?」
「違ぇよ、んな訳ねーだろ?バカかお前は」
「優しくしてりゃ調子に乗りやがって…」
「『優しい』って言葉を辞書引いて見直す事をお薦めするよ。無能共」
「黙れクソが!!」
三人組のゴロツキが襲い掛かって来た。
相手は鉄パイプや鈍器を持っていた。
しかし、フローフルは動揺せずに刀を抜いた。
「【氷水天皇】」
フローフルはゴロツキ達に刀を振り上げた。すると頃達は凍り付いた。
フローフルは刀を鞘に納めてインベルに近付いた。
「何でオレを…」
「これ、忘れてたぞ」
フローフルはそう言ってインベルに財布を渡した。
「あっ!忘れてたのか…全然気付かなかった」
「で?何であいつに襲われてたんだよ」
「あいつらが野良犬を虐めてたから…」
「何だよそれ…それでボロボロにされちゃ世話無いな」
「全くだね…それにしても…それ、『天使』だよな…凄いな…その年で使えるなんて…」
「そんな事…ねぇよ」
フローフルが遠い眼をしながらそう言った。
インベルはフローフルを見て、訳ありと判断し、それ以上は言及しなかった。
「助かったよ…ありがとう」
「別に礼なんていらねぇよ。気に入らなかったからぶっとばした。それだけだ」
「正確には氷付けだけどな…寒い…」
インベルはフローフルが発生させた冷気がかなり寒い様だ。
しかし、この冷気は当分は収まらない。
フローフルとて多少の加減はしている為、数時間もすれば氷は溶けるだろうが、彼等はしばらく入院する事になるだろう。
「凄いね…大した『天使』だ」
インベルとフローフルの前に現れたのはミルフィーユだった。
「ミルフィーユ!?」
「え!?この人が!?」
「ん?私の事を知ってるの?」
「セラフィム騎士団のミルフィーユを知らない人なんてこの国にはいませんよ!」
「へぇ~」
インベルの言葉をどうでも良さそうに聞いていた。
「でもね、油断はしない方がいいよ?」
ミルフィーユがそう言うとフローフルとインベルの後ろから巨大な化物が襲い掛かって来た。
ミルフィーユはサーベルを抜き、サーベルから風を纏った刃を飛ばし、巨大な化物を切り飛ばした。
「「え?」」
フローフルとインベルはそんな声を上げた。
「その魔獣は『ミミック』だね。弱い動物に擬態して隙を狙って大きな口でガブリンチョ…子犬に擬態してさっきのゴロツキ達を喰い殺そうとしていた所を君達に邪魔されて怒ってたみたいだね」
ミルフィーユの言葉にフローフルもインベルもゾッとした。
つまり、インベルが子犬を助けたのは無駄どころか逆に殺される棄権に晒されていたという事か…
「『ミミック』は擬態は上手だけど魔力までは擬態出来ないから感知すれば一発だよ?君達は子供だから無理だろうけど」
「………」
「ねぇ?フローフル?私の元で…剣を学ばない?」
ミルフィーユは笑顔でそう言った。
フローフルとインベルはそんなミルフィーユをずっと見ていた。
To be continued
過去篇が始まりました。
この過去篇に関しては初期の頃から構想はあったんですが結構初期に考えていた内容とはかなり変わっています。
今までは蒼の過去は断片的にしか触れてきませんでしたが今回で色々謎とされていた伏線が回収されます(多分)。
まぁ、過去篇なのでお馴染みのキャラは出てきませんがそこはご勘弁を。
蒼達の過去を楽しんで頂けたらなと思います!それでは!




