【第七章】海王の花嫁篇ⅤーDuel startー
イシュガルとの約束から一週間経った。
後々に場所と時間は報告すると言っていたのにあれから一度も連絡が無かった。
今、蒼達はマンション、苗木日和の蒼の部屋に集まっていた。
「もしかして忘れてるんじゃねーか?」
「流石にそれは無いだろう?」
屍と一夜がそんな話をしている中、蒼は外の景色を眺めていた。
「フローフル?」
プロテアが蒼の名を呼ぶ。
すると、蒼はプロテアの声に反応する。
「何だ?」
「勝てると思う?あの…イシュガルに…」
「さぁな…けど、やれるだけやるしかないさ」
蒼は驚く程に冷静であった。
イシュガルの戦いから諦めモードになっている訳でも死を悟った訳でも無い。
蒼は今回の戦いに勝たなければならない。恐らく、負ければ死ぬ。
向こうがそのつもりが無くても…それ程までに今回の敵は規格外の力を秘めているのだ。
死なない様にだの負けない様にだのと考えている様では帰って危険である。
「ごめんなさい…私のせいで…」
「謝るのは無しだ。どうせなら、もっとポジティブな言葉をかけて欲しいぜ…」
「何だ、時神?いつになくキザだな」
「うるさいお前は黙ってろ、屍」
屍が茶々を入れてきたが蒼は一蹴した。
「確かに昔のフローフルなら考えられないキザっ振りだな」
「インベルは普段からキザったらしくてウザいと騎士団内でも専らの評判だった。最低キザ野郎の称号おめでとうございます」
「嘘だよな!?俺、そんな事言われてないよね!?」
蒼は冗談かそうで無いか判別しづらい事をインベルに言った。
いや、そんな噂を聞いた事も無いし、多分蒼の出任せだろうとインベルは思った…いや…思いたかった…
「フローフル…本当にイシュガル達は来るのかしら?」
「奴等は間違い無く、来る」
アポロの問いに蒼はそう断言した。
彼等が決闘を守る保証は無い。
むしろ、蒼達にとっては決闘は無い方が絶対にいい。
だが、蒼は彼等がやって来る事を確信していた。
「大地と海を操る神…想像するだけで恐ろしいですね…」
美浪は怖じ気づいた様にそう言った。
相手はそこらにいる様な凡百な神とは訳が違う。
世界最強の神々の集団…その内の一人と蒼は決闘しようとしている。
そして、その男、イシュガルは大地と海を自在に操る事が出来るとされている。
蒼は何の比喩でも何でも無く、正に世界そのものと戦おうとしているに等しい状態であった。
「それでも…勝つしか道は無い…だよね?」
慧留がそう呟いた。
そう、何かを得るには…掴む為には…危機から逃れる為には…戦って勝つしか無い。
今までだってそうして来た。そして、これからも…そうしていかなかればならない。
どうも、蒼は巻き込まれ体質というか、面倒事に巻き込まれる事が多い。
これは何故なのか蒼自身疑問でならない。
「蒼…私は…あなたにまだ、何も聞いてない。何も知らない…この戦いが終わったら、絶対に話して貰うからね」
「ああ、分かってる」
「どうやら、心と身体…両方の準備完了みたいだね♪」
蒼の後ろに突如アスディアが現れた。
「!? ゼウス!」
「もう~、僕の名前はアスディア!名前で呼んでよ~」
「どうやってここに…」
「ふふふ…フローフルと僕はかつて交信した事があるって言ったろ?その時点で僕とフローフルは霊力が結び付いている状態なんだよ。だから、こうしてフローフルの所へ移動出来たという訳だよ」
「それで俺がピンチの時に駆け付けてくれるなりしてくれたら俺はお前の見方をほんの少しでも変わったかもな」
「いつでも使える訳じゃ無いんだよー」
アスディアは悲しそうにそう言った。
「空間術の一種ですか?」
「厳密には違うかな?僕の身体を霊体化してフローフルの霊力に流れ込んでその瞬間に実体化したんだよ。だからテレポートとかじゃないよ」
「成る程ね」
「え?今ので分かったんですか?」
「大体ね。要は蒼はアスディアさんの道標として使われた訳さ」
「そう言う事~。一夜君は物分かりがいいね~」
「それほどでもないですよ」
「それで?来てるのはあなた一人の様だけど?イシュガルは?」
「ああ、イシュガルなら決闘する場所でスタンバってるよ僕が迎いに来たのさ」
「迎い?」
アポロはアスディアの意図がよく分からなかった。
「ああ、そうだよ。僕が君達全員を決闘場所に連れていく。この…空間術でね!」
アスディアがテンション高めにそう言うと蒼達の地面から魔法陣が出現した。
「さぁ!さぁ!さぁ!!!決闘場所へ~~~レッツゴー!!!」
アスディアが頭のおかしいテンションでそう言った瞬間、蒼、慧留、一夜、屍、美浪、プロテア、インベル、アポロ、アスディアの九人は部屋から姿が消えていった。
「さぁ~て、到着だよ!」
「痛てて…」
「ここは…」
アスディアが元気良く到着の宣言をすると蒼達は辺りを見回した。
するとそこにあったのは青空と綺麗な草木が生い茂る草原の数々であった。
もし、異世界というモノが存在するのならこう言う世界を言うのだろうかと蒼は考えた。
「何か…ファンタジー世界みたいな場所ね」
「そう…ですね…」
「………」
アポロが率直な感想を言うと慧留が返事を返した。
プロテアはずっと押し黙っていた。
先程からプロテアは殆ど会話をしていない。
やはり、今回の一件で責任を感じているのかも知れなかった。
「スッゲーな、ここは何処なんだ?」
インベルが一人だけ場違いなテンションでそう言った。
「気に入って貰えて僕も嬉しいよ(^o^)!」
「「「いや、はしゃいでんのインベルだけだから」」」
蒼、アポロ、プロテアの三人が息の合った突っ込みを入れた。
「どぼじでぞんな事言うの~(T-T)」
「べっ別にはしゃいでねーし!?ちょっと珍しいって思っただけだ!」
アスディアがとてもとても悲しそうな顔をする。
対してインベルは一人だけはしゃいでしまって恥ずかしくなったのか、自身だけはしゃいでいた事を否定した。
「ツンデレ乙ですね」
「美浪ちゃん…その言い方マジでウザいから止めて貰っていいか?」
「だって他人を煽る時に使う言葉ですからね」
「僕、君に何か恨み買いましたかね!?」
「すみませんすみません。冗談ですよ…インベルさん、からかい安いので」
「何か…美浪って私達が知らない内に誰かと仲良くなってるよね?」
「あいつのコミュ力はどうなってんだ?」
美浪とインベルのやり取りを見て、慧留と蒼は不思議そうにしていた。
確かに美浪は蒼達が知らない内に誰かと打ち解けている事が多い。
いつの間にか薊と話す様になっていたり、USWのアルビレーヌと仲良くなっていたり、プロテアとも蒼と慧留以外の仲間の中では一番早く仲良くなっていた。
案外、一番美浪が世間馴れしているのかもしれない。
まぁ、蒼達がコミュ障過ぎるだけの気もするが。
「さてと…この場所を気に入ってくれたみたいで僕はとても…」
「だから気に入ってるとは一言も言ってねぇよバカか精神科行けこのグズ」
「ねぇ?フローフル?冷たくない!?冷たくない!?」
「気のせいだ、さっさとしろボケ」
「全く…君達は…少しは僕を敬う気は…」
「調子乗んな」
「あなたみたいな変態に敬うとか無理です」
「…ノーコメントで」
「キモい」
「ちょっと…無理ですね…」
「自分の行動を振り返ってもう一回振り返って永遠に振り返って自身の愚行を呪いなさい」
「敬うは無理だわ!」
「もう止めて!僕のライフはもうゼロよ(ToT)!」
蒼達から罵詈雑言を浴びせられてアスディアは本気で心が折れかけていた。
確かにアスディアは性癖には問題があるし頭おかしい事をよく言うがここまで言われる筋合いは無い筈だ。
まぁ、それでも言っちゃうのが彼らな訳であるが…
「何を油を売っているんだ?」
「おっ!主役のお出ましだ」
「煽るな」
やって来たのはイシュガルであった。
後ろに巨大な槍を背負っていた。恐らく、彼の神具だろう。
「よう、イシュガル…」
「ああ、戦う準備は…出来ている様だな…貴様との戦い楽しみにしていたぞ」
イシュガルはそう言って右手をフローフルに向けた。握手を交わそうとしている。
見た所、蒼を見下している様子は無い。むしろ、敬意を表している様にすら思える。
「そんなに警戒しなくていいよ、フローフル。イシュガルは本心で言ってるから」
アスディアが言うと蒼はイシュガルと握手を交わした。
このプレッシャー、これが戦闘態勢のパルテミシア十二神、はっきり言ってレベルが違う。
「今回いる神は君達二人だけですか?」
「いいや、「上」で他の四人の神々も見てるよ。」
「上?」
一夜はアスディアの言葉に疑問を抱いた。
空…ではなく一々上と表現した事に違和感があった。
「うん、「上」だね」
「成る程…ここは「箱」という訳ですね」
「一夜君は本当に鋭いね~。頭がいいだけじゃないのがまた…」
「どういう事だ?」
「つまり、ここは異空間で僕らはその異空間に放り出されている状態だ。そして、異空間の外から他の神々が僕らを見てるんだ」
屍の問いに一夜は淡々と答えた。
「一夜君の言うとおりだよ。そもそもここは現世の裏側の…影の空間なんだよ。普段イシュガルはここから現世を見ている。その影の世界に更に異空間を発生させて創ったのがこの空間と言う訳さ」
アスディアは珍しく淡々と説明をした。
つまり、この世界は現世とは別の世界である…という事らしい。
「特殊な異空間の中に更に異空間を創った…という訳か…」
「ああ、これで現世や『世界宮殿』、冥界には影響は出ない………どこぞのバカ達は先日やらかしたがな」
「やっぱりあれ…気のせいじゃ無かったんだな」
「はぁ~、やはり君達も感じたか…アスディアとガルデアは後で説教だなこれは」
蒼の言葉を聞いてイシュガルは左手を頭に置きながらそう呟いた。
アスディアは身体を若干ビクっとさせたが、すぐに持ち直した。
「つーか、アスディアとガルデアだよな?前争ってたの…何でそんな事になったんだ?まさか、神とか大層な呼ばれ方してる癖に喧嘩したんじゃねーだろうな?」
インベルの言葉にアスディアは汗をダラダラ垂らしていた。
どうやら、インベルの予想は当たっていたらしく、他の者達も呆れていた。
「信じられない程バカね。こればっかりは流石に私もドン引きよ」
「いや、お前、結構辛口だぞ?」
アポロの言葉にインベルが突っ込みを入れるが無視した。
「家のバカ兄とバカ弟が済まないな。今後、こんなバカな事が無いよう、徹底するよ。現世を守護するのが俺の役目だしな」
イシュガルがそう言った。
イシュガルは本当に紳士的な男だと蒼ですら感心するレベルであった。
「さてと…それじゃ!始めますか!フローフルとインベル以外は僕の所に来てね♪」
アスディアがそう言うと蒼とイシュガル以外の七人はアスディアの元へと集まった。
すると、アスディアの周囲から結界が張られた。
「結界を張ったよ~。これで心置きなく観戦出来るね♪」
アスディアが陽気な感じでそう言った。
蒼とイシュガルはお互いを睨み合った。
「さぁ、始めようか。時神蒼…いや、フローフル・キー・ローマカイザー」
「ああ…」
蒼は二振りの刀を持った。
左手には黒刀、右手には水色の刀を持っていた。
イシュガルは背中に背負っていた巨大な三ツ又の槍を両手に持った。
「一つ聞きたい…何故君はプロテアの為にここまでする?君はプロテアの事が好きなのか?」
「……さぁな、つか、そんな事今はどうでもいいだろ?」
「君は良くても俺は良くない。大事な事だ」
「仲間だから…これだけじゃダメか?」
「いや、君はあの時、明らかにプロテアの気持ちを察していた。ただの仲間…には見えなかったな」
「それはアンタが勝手にそう思ってるだけだろ?」
イシュガルの素頓狂な質問に蒼は動揺していた。
まさか、戦いの前にそんな事を聞かれるとは思ってもみなかったからだ。
イシュガルの狙いは蒼を倒し、プロテアを正式に自身の花嫁にする事が目的の筈だ。
にも関わらず、何故、イシュガルはわざわざそんな質問をしてくるのか蒼には本当に分からなかった。
「そうか…まぁ、いいさ…ここから先は戦って確かめるとする」
「そうかよ……で?その槍がアンタの神具か?」
「ああ、俺の神具…『地海三叉』だ」
「成る程な…ヤバさがヒシヒシと伝わって
来るぜ…」
「どうやら神具を見たのは初めての様だな…まぁ、当然か」
蒼は神具の存在は知っていたが実際この眼で見るのは初めての事だ。
今回の決闘は不確定要素が限り無く多く、且つ蒼が勝てる可能性は極めて低い。
しかし、やるしかない。ここで蒼が負ければプロテアは不幸になるだろう。
望まない人物に嫁がれる事は仮に蒼がプロテアの立場であっても嫌だ。
プロテアの気持ちを分かっているからこそ、蒼は…戦うのだ。
「行くぜ!【第二解放】!」
蒼は【黒時皇帝】と【氷水天皇】を同時に【第二解放】をした。
左側面に黒い衣と翼、右側面には氷の翼と白い衣がまとわれており、左眼は黒、右眼は水色になっていた。
「それが…『天使』の二本同時解放か…」
少なくともイシュガルは蒼の力に少しばかり驚いてはいる様であった。
確かに『天使』の二本同時解放など聞いた事が無いので当然の事である。
『天使』は全て、二段解放まで可能ではあるが、そこまで到達出来る者は少ない。
神聖ローマ最強の騎士団である『セラフィム騎士団』の入隊条件の一つが【第二解放】を使える事であり使えなければ入隊は認められない。
『セラフィム騎士団』が少数なのはそれが理由であり、神聖ローマの天使ですら【第二解放】に至っている者は数十名しかいないのだ。
そんな【第二解放】を二本同時に使う蒼は明らかに異質である。
「見せて貰おうか…『特異点』の力を!」
イシュガルは【地海三叉】を掲げた。
すると、地面から間欠泉が発生し、瞬く間に地形を海に変えてしまった。
蒼は地面に氷を作り、足場を整えていた。対して、イシュガルは水の上で立っていた。
「な!?」
「一瞬で…地形を変えるなんて…」
「これがイシュガルの力だよ。これはイシュガルの基本技である【大海】だね」
【大海】とはその名の通り、海を作り出す力であり、草原は消え去り、海へと変わった。
一夜とアポロはそんな途方の無いイシュガルの力に動揺を隠せなかった。
他の者達も同じの様である。
「分かっちゃいたが、こうもデタラメだと却って驚かねぇな」
「そうか…【乱嵐海波】」
巨大な波が蒼に襲い掛かる。
しかし、蒼は冷静に【氷水天皇】を構えた。
そして、【氷水天皇】から水を発生させ、それを巨大な波にぶつけた。
「ぐっ…!」
「………ほう」
イシュガルは蒼の取った行動の意味が分かったのか感心したような声を上げた。
やがて巨大な波は消え去り、凍り付いていた。
「ふぅ…」
「成る程な…全く同じ属性、質量をぶつけつつ逆流させ相殺したのか……」
「はぁ…はぁ…まぁな…」
技を一つ相殺しただけなのに蒼は若干息を切らしていた。
その事に慧留達が気が付いたのかさっきよりも動揺が強くなっていた。
「ねぇ?不味くない?蒼、もう息切れしてるよ?」
「誤算だったな…強い強いとは聞いてたけどここまでとはよ…」
屍も驚きを隠せなかった。
そう、イシュガルの力が蒼達の創造を遥かに越えていたのだ。
一度技を相殺するだけでかなりの霊力を消耗していた。
何の冗談でもなく身体の一部を持っていかれた様な感覚に蒼は教われていた。
「……見事だ…少しはやるようだ。だが、一度相殺しただけで息を切らす辺りまだまだだな」
「手厳しいな…けど、仰る通りだ。けど、まだまだ…ここからだ!」
「!?」
蒼が叫んだ瞬間、蒼の姿が突如として消えた。
すると、いつの間にか蒼はイシュガルの隣にいた。
「【時間停止】!」
「…時間停止か!?」
イシュガルは蒼の能力に気が付き、【地海三叉】で蒼の刀を受け止めた。
蒼の刀はそれぞれ別の能力を持っており、【氷水天皇】は水と氷を操る事が出来、【黒時皇帝】は時を操る能力を有している。
そして、蒼が今使ったのは時間を数秒だけ止める事が出来る【時間停止】だ。
「は!」
「くっ…」
蒼とイシュガルの接近戦になった。
蒼は刀を二本持っているにも関わらず、イシュガルはその槍捌きで蒼の攻撃を悉く防ぎきっていた。
刀を二本持っていれば必ずしも強いという訳では無いのだが、蒼の剣をここまで鮮やかに止めるのは流石だ。
「【大海】」
イシュガルの後ろから水が蒼に襲い掛かってきた。大量の水は蒼に直撃する寸前で蒼はその攻撃をあり得ない程速い速度で回避した。
「【時間加速】!」
「今度は時間の加速か…だが、時間の加速、停止を持ってしてもこの水には追い付けまい」
イシュガルが言うと確かに時間を加速させても水は蒼を追いかける。
蒼の時間操作は数秒しか出来ない。それ故に蒼に攻撃を追い付かせる事が不可能という訳では無いが非常に困難な事である。
それを当たり前の様にやってのけるイシュガルはまさに別次元の強さを秘めていると言える。
「くそっ!」
蒼はとうとう、イシュガルの出現させた水に囲まれ、直撃した。
しかし、蒼は【氷水天皇】の力でどうにか水を相殺した。
相殺は相手の同属性、全く同じ質量を使い、中和する技術だが、これはとんでも無く難しい技術なのだ。
ましてや、パルテミシア十二神クラスの技を相殺するとなれば尚更だ。
しかし、蒼はイシュガルに有利な風も雷もあまり使えない。
故にこの方法でイシュガルと戦うしか無かったのだ。
蒼がこの一週間でイシュガルと戦う為に練った作戦が正にそれだ。
しかし、イシュガルの力は蒼の想像を遥かに越えており、一度相殺しただけで全霊力を持っていかれる様な錯覚に襲われる。
「ふん…このまま水を使い続けても倒す事は不可能では無さそうだが…少々時間が掛かり過ぎるな…」
正直、このまま戦ってもイシュガルは負ける気がしなかった。
しかし、このままでは長期戦になり過ぎる。その間に何か手を打たれたらそれこそ厄介だ。
イシュガルは短期決戦を好む。その方が楽だからだ。
自分から申し込んだ血統にこんな事を考えるのもあれだが、このまま水を使った戦いでは埒が明かない事をイシュガルは悟った。
「想像以上にハンパねぇな…イシュガル…」
「ええ…ここまで付いて来れてるだけ…凄いわ…」
インベルとプロテアはそう呟いた。
他の者達も似た様な乾燥を持っている様だ。
「ふふふ…今の所は…『見た感じ』は互角だね~。見た感じは」
大事な事だから二回言ったよと言わんばかりにアスディアはそう言った。
アスディアも分かっているのだ。確かに見た感じは互角だが力の差は歴然。
それは他の者達も分かっていた。
「随分楽しそうですね…」
「ああ!こんな事は滅多に無いからね!見ていて楽しいよ!」
呑気にそんな事を言うアスディアに美浪は少しアスディアに対してゾッとした。
こんな別次元な戦いを見せられているにも関わらずまるでコロシアムを楽しむ様な感覚でそう言ったアスディアに、美浪は狂気を感じずにはいられなかった。
「さて…ここからどうする?フローフル?(*´ω`*)」
アスディアはニコニコしながら二人の決闘を見ていた。
他の者達は真剣な表情をしながら観戦しているというのに一人だけ場違いな感じが出ていた。
「はぁ…はぁ…ぐっ!?」
蒼は片膝を付いてしまっていた。
しかし、どうにか立ち上がった。
息をかなり切らしていた。
「降参するならしてもいいぞ」
空中からそうイシュガルが言ってきたが蒼は断った。
「ハッ!降参なんかするかよ…はぁ…はぁ…」
「かなり疲れている様に見えるが?」
「それはアンタの見間違いだろ?俺に言わせりゃあ…アンタの方がよっぽどガタが来てる様に見えるぜ?」
「ふっ…ブラフを言えるだけの余裕は…残っている様だな…」
そう言ってイシュガルは空中から海へと降りた。
そして、イシュガルが再び槍を掲げると今度は水が干上がり、大地が出現した。
「な!?また…地形を変えたのか!?」
「俺は海と大地の神だぞ?これくらい出来て当然だ」
当たり前の様にイシュガルはそう言った。
これはイシュガルのもう一つの基本技【大陸】である。
その名の通り、地形を陸に変化させ、土属性の力を自在に操る。
ークソ…こんだけ規格外の事をしてんのに…霊力が減る所か増大してるだと…?
蒼は心の中でそう呟いた。
はっきり言って、イシュガルは全く本気を出していない。
いきなり海から陸へと地形を変えたのは単に水を使っての戦いは面倒だとイシュガルが判断したからに過ぎない。
「さて…今度の攻撃は防ぎきれるか?」
イシュガルがまるで蒼を試す様にそう言った瞬間、地面から土が盛り上がり、巨大な岩盤が蒼に襲い掛かる。
蒼は氷を生成し、ガードしようとするが一瞬で氷が破られ、吹き飛ばされてしまった。
「ぐわっ!?」
「貴様が得意な水属性だったからこそ、さっきの攻撃は辛うじて防げていたが今度はさっきの様には行かないぞ」
そう、蒼がイシュガルの水属性攻撃を辛うじて凌いでいたのは蒼が元々水属性の扱いが得意であったからだ。
しかし、今、イシュガルが使っている攻撃は土属性攻撃であるが故に攻撃に全く対応しきれていなかった。
岩盤は蒼に次々と攻撃を仕掛けてくる。
蒼は【氷水天皇】と【黒時皇帝】の力を使うが次々と襲い掛かる岩盤に対応出来なかった。
「一つ教えておいてやる。君のその形体…あまり良くないぞ?二つの【第二解放】…最初は度肝を抜いたが案外それ程でも無い。霊力の消費量が倍になるから滅茶苦茶燃費が悪い。更に二つの力を同時に解放するせいでそれぞれの力が半減する…そして何より…」
イシュガルは少し間を置いて、こう言い放った。
「【黒時皇帝】はエリシアの刀だ。借り物の力を扱ってる様では…俺には勝てない」
「!?」
イシュガルがエリシアの名を言った瞬間、蒼は明らかに霊力を乱した。
その瞬間をイシュガルが見逃す筈も無く、その瞬間、岩盤を蒼に殴り付けた。
「ぐあああああああああああ!!!!」
「【大陸盤撃】」
岩盤の嵐が蒼に襲い掛かり、蒼は遥か後方に吹き飛ばされた。
「蒼!」
「フローフル!?」
慧留とインベルが声を荒げた。
他の者達も動揺が走っていた。………アスディア以外は
イシュガルは蒼の目の前に来ていた。
「がはっ…ぐ……」
「ここまでだな…」
「何…だと…!?」
「ここが…貴様の限界だ…」
「ふざけんな!俺はまだやれる!」
蒼は再び立ち上がる。
「その刀…エリシアの刀だな…貴様が…持っていたんだな」
「ああ…そうだよ…アンタらが見捨てた…エリシアの刀だよ!!エリシアは…アンタらの仲間だったんだろうが!!何で……何でアンタらはエリシアを見捨てた!?」
蒼は血塗れの左手でイシュガルの胸ぐらを掴んだ。
「俺と戦うのであれば…俺の胸ぐらを掴むのでは無く、剣を取れ。そして…俺を倒して見せろ!」
イシュガルが蒼に叱咤すると蒼は再び剣を持ち、イシュガルと接近戦をした。
しかし、蒼は一つ、重大な事を見落としていた。
「さっきから思ったが…イシュガルの奴…」
屍がそう言うとアポロも慧留も屍の言わんとしている事に気が付いた。
そう、イシュガルは…『片手だけ』で蒼の二刀の刀を防いでいた。
しかも殆ど動かずに…
「どうした?時神蒼…俺はこの戦いが始まってから…利き手とは逆の左手「だけ」で貴様の攻撃を防ぎ切っているぞ?貴様の力はそれまでか?」
「な!?」
蒼はイシュガルに指摘されるまでその事に気が付いていなかった。
そして、イシュガルは蒼の極僅かな隙を完全に突き、槍を蒼の脇腹を貫いた。
「がはっ!?」
「はっ!」
イシュガルは蒼ごと槍を投げ飛ばた。
槍はイシュガルと霊力で繋がっており、蒼が岩盤に吹き飛ばされた後、霊力で槍を自身の左手に引き寄せた。
「がっ…ぐ…」
力の差が有り過ぎる。
格が違うとか実力が違うとか最早そんな次元の話では無かった。
全てに置いて、圧倒的であった。
蒼は岩盤に打ち付けられた後、ばたりと倒れた。
「時神!」
「蒼!」
「フローフル!!」
屍、一夜、プロテアが蒼の名を呼ぶ。
「そんな…蒼…が…」
美浪は信じられないと言った表情をしていた。
「蒼が…負ける…」
慧留が絶望した表情に変わる。
蒼はこれまで巨大な敵が壁となった事がある。だが、それを乗り越えて来た。
勝ってきた。しかし、今回の相手は蒼が倒して来た敵たちとは比べ者にならなかった。
そう、勝てる気が全くしないのだ。
蒼は絶望的な状況に直面した事は幾度もあったが勝てる気がしないと感じた事は今まで一度も無かった。
しかし、今、イシュガルという圧倒的で暴力的で理不尽な力を持つ者の前で蒼は倒れていた。
「もう…終わりか?時神蒼」
「が…」
「もう少しはやれると思っていたんだがな…残念だ…」
イシュガルがどこか落胆した様にそう呟いた。
そして、イシュガルは蒼の前から去って行く。アスディアに報告に行くつもりだ。
決闘は終わったと…
蒼は必死でイシュガルを追おうとするが身体が動かない。
みすぼらしく地面を這いずる事しか出来なかった。
ー待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て!!!!!
蒼は必死で追い掛けようとする。
だが、追い付かない…むしろ、離れて行く。
蒼はどうしようもない虚無感に襲われる。
また、選択を誤ったというのか…
蒼の視界が暗転する。
そう、まるで闇の中に入ってしまう様な…
「がああああああああああああああああ!!!!」
蒼はそんな絶叫と共に立ち上がった。
イシュガルもそれに気が付き、後ろを振り向いた。
しかし、イシュガルの見た蒼の姿は想像を絶するモノであった。
「何だ…?その姿は…」
そう、蒼は先程までの【第二解放】の姿では無く、美しく生えていた翼は枯れ果てた樹木の枝の様なモノになっており、瞳は赤黒くなっており、牙も生えていた。
更にドス黒い霊圧を放っており、とても正気とは思えない姿であった。
しかし、今までとは桁違いに霊圧が上昇していた。
さっきまでの蒼とは比べ物にならない。
「何だ…あの姿は…時神の奴…隠し球をまだ持っていた…訳じゃ無さそうだな…」
屍がそう呟いた。
他の者達も蒼のあの姿に衝撃が走っていた。
今まで見た事が無い程、今の蒼の姿は禍々しく、邪悪であった。
しかし、ただ一人だけ…狂気に満ちた表情をしていた者がいた。
「始まったか…!」
アスディアは眼を輝かせながらそう言った。
ー始まった?何が…?
プロテアはアスディアの言葉を不信に思った。
どうやら、アスディアは何かを知っている様だ。
「アスディア…フローフルのあの姿は何なの?」
プロテアがそう言うとアスディアは興奮の眼差しを一瞬で引っ込めた。
「僕にもよく分からないね…だが、一つ言えるのは…フローフルの霊力が暴走している…このまま放っておくのは不味いね…」
「………」
明らかに誤魔化していた。
しかし、プロテアはあまり言及しなかった。
いや、言及などしている場合では無い。
このままだとヤバイ事はプロテアにも分かっている。
「なら、この決闘は中断すべきだ!」
一夜がそう言うがアスディアは首を横に振った。
「いや、まだだ。イシュガルがやる気の様だからね」
アスディアが呑気にそう言った。
「今の蒼は…堕天する時と同じ様な状態になってる…このままだと蒼は堕天する…」
慧留がそう呟くとアスディア以外の者達が驚愕の表情をした。
しかし、慧留は更に言葉を続けた。
「…だけならいいけど、あの霊圧の乱れはヤバイよ…あのままじゃ膨れ上がり過ぎた霊圧が暴発して大爆発するか…蒼の自我が完全に消失してしまう…」
「な!?」
慧留の言葉にアポロは思わず声を漏らした。
他の者達も息を詰まらせていた。
「速く何とかしねーとやべーじゃねーか!?おい!アスディア!!」
「もう~、大丈夫、大丈夫~。イシュガルが何とかしてくれるよ~」
「ふざけないで下さい!仲間の命が掛かってるんですよ!」
インベルと美浪がアスディアに何とかする様に言った。
すると、アスディアは根負けした様に溜め息を吐いた。
「しょうがないな~。じゃあ…」
アスディアはここから動ける様にする為に結界を解除した。
すると、とてつもない障気の奔流が慧留達に襲い掛かった。
その障気は凄まじく、息をする事すら出来なかった。
「な…」
「何だ…これは…」
「息が…出来ない…」
「ちっ…」
「……」
それぞれ、苦悶の声を上げていた。
唯一、アポロだけは平気そうであったが、あまりいいとは言えなかった。
アスディアはその事に気が付き、再び結界を張り治直した。
「ね~?君達は僕の造った結界が無いと障気の渦に巻き込まれてそれこそ死ぬよ?分かったろ?僕が出張れない理由が」
そう、蒼のあの状態のヤバさはアスディアが一番よく分かっていた。
だからこそ、アスディアは慧留達を蒼の発生させている障気から守っていたのだ。
「何も…出来ないなんて…」
慧留がそう言うと皆は下を向いて俯いた。
皆、自身の無力さを思い知らされる。
「今は、信じるしか無いよ…信じるしか…」
アスディアは真面目な表情でそう言った。
………ただし口元は少し緩んでおり、その事に気が付いていた者は誰もいなかった。
ーふふ…フローフル…ここからどうする?ここから這い上がれないのであれば…君はその程度の存在だった…という事だよ…
アスディアは蒼を試している。
アスディアは蒼がこうなる事を予め予見していた。
イシュガルをぶつけたのはそれが理由だ。
この戦いを気に再び再起するか、止まるか…アスディアは試しているのだ。
「貴様は一体何者だ?」
「………」
「答えは無しか?」
「…ヴ……」
「?」
「ヴああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「どうやら…言葉が通じないらしいな」
イシュガルが槍を構える。
しかし、いつの間にか蒼はイシュガルの後ろにいた。
「!?」
イシュガルは咄嗟に槍で攻撃をいなしたが、後方へと吹き飛ばされた。
速い…反応すら出来なかった。
やはり先程までとは桁が違っていた。
「…面白い!」
イシュガルがこの戦いで始めて笑った。
イシュガルは大量の岩盤を出現させた。
「【大陸盤撃】!」
蒼は大量の岩盤を回避しては二刀の刀で切り裂いた。
そして、イシュガルの眼前に迫った。
「あああああああああああああ!!!」
「ふっ!」
高速で蒼はイシュガルに剣を振るう。そして、それを槍で受け止め続けるイシュガル。
しかし、先程と比べて剣の一撃が重い。片手でいなしきれなかった。
イシュガルは両手を使って、蒼の攻撃を回避し続けていた。
だが、イシュガルは防戦一方であった。
蒼の攻撃は先程から隙だらけなのだが、蒼の一撃が重過ぎてカウンターが出来ない。
「あああああああ!!!!」
「しまっ!?」
イシュガルは槍を振り払われた。
そこで大きな隙を生じてしまった。
蒼は薄黒くなった【氷水天皇】でイシュガルを切り裂いた。
イシュガルの右肩から下半身までバッサリと切り裂いた。
イシュガルの身体から鮮血が迸る。
「ぐっ!?」
イシュガルは槍を構え直し、蒼を槍で殴り倒した。
蒼は後方へと吹き飛ばされた。
「ぐっ…」
イシュガルは苦悶の声を上げた。
「蒼が…イシュガルにダメージを与えた…」
「今までは手も足も出なかったのに…」
「ほう…やるねぇ~…」
慧留達は驚いていたが、アスディアはそこまで驚いてはいなかった様だ。
「このままじゃあ…」
「君達…少しイシュガルを舐めすぎだよ。なぁに…この程度でやられるイシュガルじゃあ、無いよ」
アスディアは笑顔でそう言った。
アスディアは常に余裕そうな表情をしている。
彼のその掴み所の無さは非常に不気味であった。
「この霊圧…その樹木の様な翼…貴様…『黙示録のラッパ吹き』か!?」
『黙示録のラッパ吹き』 …それは天使の中でも最上位の存在である。
『黙示録のラッパ吹き』はパルテミシア十二神と対等に渡り合える…いや、それ以上の力を持った天使の事であり、現在確認されているのは三名だ。
実際、パルテミシア十二神の何人かは『黙示録のラッパ吹き』にやられている。
「厄介だな…まさか…四人目が貴様とはな…暴発していて本来の力を出せていないが…」
それでもそれに準ずる力がある事には変わり無い。
「どうやら…本気を出さなければならん様だな」
イシュガルが暴走している蒼に槍を向けながらそう言った。
「ここは……」
蒼は暗闇にいた。
この場所には覚えがある…確か蒼自身の精神世界だ。
しかし、ここには誰もいない。蒼の中にいた二人の『天使』もいない。
全くの暗闇…そう、この世界を一言で表すならば…無である。
「俺は確か…イシュガルと戦って…」
そして、負けた。ただ負けただけでは無い。惨敗だ。まるで相手になっていなかった。
それから先の事は全く記憶が無い。恐らく意識を失ったのだろう。
ならば今、自身の身体はどうなっているのだろう?
まぁ、恐らく、病院送りでも喰らって意識不明の状態なのだろう。
蒼は自分の意識を現実に戻そうとするが出来なかった。
「何で戻れねぇんだ?」
「それは君の中の大きな力のせいだよ」
「!? 誰だ!?」
蒼は謎の声に反応した。
すると、蒼の目の前に人影が現れた。
見た目は完全に蒼と瓜二つであった。
「俺は『黙示録のラッパ吹き』の化身だ。まぁ、貴様の力が実体化して意識を持った存在…と言った所だ」
「何だよ…じゃあ、話が速いな。俺はどうなってるんだ?」
「ああ、イシュガルとの決闘は続いてるよ。君の身体は動き続けている」
「な!?俺は意識を失ってるんだぞ!?どういう事だ!?」
「力の暴走だよ…暴走した君の力はイシュガルと対等に渡り合う程の力だよ」
「俺は…どうなるんだ!」
「このままだと君は自我を完全に失い、消えるだろうね。そして、君は完全な魔獣となり、この世界の災厄になるだろう。おめでとう」
「な!?」
蒼はトロンペーターの言葉に驚愕した。
このままでは蒼は化物に成り果てると言うのだ。
「元に戻れねぇのかよ!?」
「無理だね…お前はいつもそうだ…いつも…間違った選択をする…」
「何だと…?」
「これ…覚えてるかい?」
トロンペーターが蒼にとある映像を写し出し、見せた。
それは幼い蒼と黒い髪の顔がよく見えない女性が一緒にいる時の映像だ。
「エリシア…」
「そう…これは、君の過去だ。君は遊女と呼ばれた女性の子供であり、神聖ローマの迫害の的だった。そんな君に気を掛けてくれる数少ない人だった」
トロンペーターがそう言って映像を更に増やした。
そこにはアポロ、インベルと会話する蒼、蒼の師匠であるミルフィーユから剣を教わっている時の蒼…などたくさんの映像が出てきた。
「俺の過去を見せてどうするつもりだ?」
「…君はこの頃はそれなりに幸せだった筈だ…けど、そんな時間は長くは続かなかった…」
トロンペーターがそう言うと映像が流れ込んできた。
蒼とインベル、アポロが仲間と会話している所だ。
『神聖ローマがエリシア処刑を行われる事になった…皆…友として…エリシアの教え子として…俺達に力を貸してくれ!』
『ああ!勿論だ!』
『先生は助ける!』
『行こうぜ!』
この映像はエリシア処刑が決まった時、蒼とインベルとアポロがエリシアの生徒達をかき集め、戦争をしようとした時の映像だ。
エリシアは蒼とインベル、アポロ以外にも多くの生徒や教え子がいた。
彼女を慕う人者は多く、今写し出されている映像が何よりの証拠であった。
「君はここで間違いを犯した。ここはエリシアを助けに行くべきでは無かった。この戦いで何が生まれた?誰が得をした?余計な犠牲を生むだけで終わった…」
「違う!俺は…」
「しかもこの戦争で月影慧留はローマから消える事になった…君はあの少女の運命を狂わせた…」
「うるさい!黙れぇ!!」
蒼は叫ぶがトロンペーターは無視して話を進めた。
「この時の事は…君が無惨に負けた時だね…」
蒼は一人の男性と向かい合っていた。
その男は青色の長い髪に瞳を持っており、灰色の宗教服を身に纏っていた。
彼の名はアラルガンド・セクラム。蒼が先日ヘレトーアの戦いで蒼と舞、アポロとインベルの四人掛かりで倒した蒼の宿敵だ。
『ぐっ…』
『終わりだ…小僧…全く無意味な事をしてくれた…これではエリシアも浮かばれないだろうな…』
「そして、君は…君達はバラバラになった…」
「止めろ!こんなモノを見せるな!」
「自らの運命から眼を背けるな!これがお前の罪だ!」
トロンペーターが更に映像を見せる。
蒼とトロンペーターの周りにはたくさんの映像が出現しており、黒い空間を埋め尽くしていた。
「さてと…ここだね…ここで君と彼女は出会った…」
映し出されたのは蒼と慧留の始めての出会い、そこからすぐに起きた屍率いるアザミの花との戦い、その後の四大帝国会議の事件、一宮高校生徒会で楽しく過ごす蒼たち、USWとの戦争、すれ違った慧留との戦いが映し出された。
「この頃の君は一番人間らしかった時だね…恐らく…」
トロンペーターがそんな事を言っていた。
人間らしさって何だよと蒼は思ったが何も言えなかった。
「君は…この三年の間は何事も無く過ごした…だが、そこからは怒濤の展開を迎える事になる」
更に映像が映し出される。
今度は舞に取り憑いていたアザゼルが引き起こした事件、セルリア、プロテア率いるイシュガルドの侵攻…
「そう、君はここでもう一つ、過ちを犯した。音峰遥はイシュガルドの戦いで死んだ!」
トロンペーターが言うと舞が死んだ姿が映し出された。
そこには悲しみに暮れる澪がいた。
そして、映像は巻き戻る。
「君が残っていれば…音峰遥は死ななかったかもしれない…君が逃げたが故に再び過ちを犯したのだ!」
次に映し出されたのはヘレトーアとの戦争だった。
「この戦いは誰も失わずに済んだが…君は過去を打ち明ける事を心のそこでは拒んでいる!何故…君は学習しない!?」
トロンペーターが饒舌に語り掛ける様にそう言った。
「うるさい!お前に…俺の何が…」
「分かるさ…だって僕は君で君は僕だ」
「…っ!?」
「そして、君は…今回、イシュガルとの戦いで暴走し、仲間を危機に晒している…」
最後に映し出された映像はボロボロのイシュガルと暴走している蒼であった。
蒼はその姿を見て、驚愕の表情を浮かべた。
「分かるかい?これが君の姿だ…君は何度も過ちを繰り返す。何度も…何度も…」
「俺は…」
「君はもう、ここで終わりだ。もう、ゆっくりとお休み…」
蒼の視界が再び黒く染まる。
何となく分かる。この世界が完全に黒く染まる時、蒼は完全に終わる。
ーフローフル!
「!?」
蒼はそんな声が聞こえた。
聞こえた声の主は…プロテアであった。
いや、プロテアだけでは無い。
ー蒼!
ー蒼!
ー時神!
ーフローフル!
ーフローフル!
ー蒼!
聞こえる。慧留の…一夜の…屍の…インベルの…アポロの…美浪の声が…
それ以外にも多くの声が響き渡ってきた。
その声が蒼の心を打ち震わせた。
「そうだ…俺は…一人じゃ…無い!!」
蒼は再び再起し、黒い霧を両手で振り払った。
「!?」
トロンペーターは驚いていた。
あそこから復活するとは思っていなかったからだ。
黒い霧に包まれた瞬間、もう終わりだと思っていたからだ。
「何故、抜け出せた?」
「お前、さっき言ったよな?お前は俺で…俺はお前だってな…なら、分かるだろ?」
トロンペーターは蒼を見つめた。
すると、蒼の後ろに沢山の人々の幻影が見えた。
そして、実感した。蒼は多くの人々と繋がっていたという事を。
そして、それが有る限り、蒼が本当に心が折れる事が無いという事を。
「そうか…なら、大丈夫だな…」
トロンペーターがそう呟いた。
「お前は…俺を試してたんだろ?」
「………どうかな?」
「お前は俺だ。嘘が下手だな」
「分かっているのならわざわざ聞くな」
「で?どうやって抜け出すんだよ?」
「それは俺にも分からない。だが、何処かに出口がある筈だ。それを見つけ出せ」
「分かった」
蒼はトロンペーターに背を向けた。
「無事を祈っているよ…というか、俺はお前の一部だからな。ここで消えて貰っては困る」
「もう、消させねぇよ」
「………」
蒼が後ろを振り向いてそう言って去っていった。
トロンペーターは蒼を見つめていた。
「さてと…どう転ぶかな?フローフル・キー・ローマカイザー…いや、時神蒼が待ち受ける結末は…一体どうなるのかな?」
トロンペーターはそう言い残し、光の粒子となり、消えていった。
To be continued




