【第七章】海王の花嫁篇Ⅲーtomorrowー
蒼と屍と慧留とアポロは四人で夜道を歩いていた。
自宅帰りの途中であった。彼等は全員同じマンションに住んでいるので同じ方向になるのは当然であった。
「さてと…明日以降はどうするか…」
蒼がそう言っていると目の前に三人の人影があった。
インベルとプロテアと美浪であった。
「見つけました。蒼、屍…」
「美浪!?どうしたんだ?」
「こっちで色々調べてたんだよ…丁度良かったわ。フローフル、屍、俺達に付いて来い」
「何で…蒼と屍なの?」
慧留は疑問を口にした。
確かに慧留の言う事は最もだ。何故二人で無くてはいけないのか…
「二人に会いたいって人がいる…そうね?」
アポロがそう言うと美浪がコクりと頷いた。
「フローフル、屍、すぐに四神天城に来て」
最後にプロテアがそう呟いたのであった。
蒼と屍とインベルとプロテアと美浪は四神天城の執務室にいた。
そこには白髪のオールバックの初老の青色の軍服を来た男性と黒髪に片眼鏡をかけた執事服の男性であった。
白髪の方が常森厳陣、黒髪の方が黒宮大志である。
厳陣は十二支連合帝国の総帥であり、黒宮は彼の腹心である。
「ようこそ、時神君、天草くん」
「久し振りですね」
厳陣と黒宮は挨拶をするが蒼は話を進めた。
「話は聞いてますか?」
「ああ、大体ね。また君は随分バカな事をしたね」
「本当ですね。ヘレトーアの戦いが終わってあれだけ説教したというのに…全く反省してませんね」
「ぐっ…」
厳陣と黒宮は辛辣な言葉を蒼に浴びせた。
先日のヘレトーアとの戦いが終わった後、蒼は黒宮と厳陣、主に黒宮に説教されたのだが、それが全く意味を成していないと知り、彼等は失望を通り越して最早呆れていた。
「事情は主に霧宮君から聞いている。そこで今、保護しているイシュガルドの人間に情報を得ようと試みたんだ」
「保護してるイシュガルド?」
そう、ヘレトーアの一件が終わった後、十二支連合帝国を攻め込んだプロテア以外の四名は厳陣により、四神天城に保護されていた。
蒼達はその話は聞いていたが、実際に彼等と会ってはいなかった。
「ええ、セルリアはその手の情報に詳しいから聞こうと思ったのだけれど…」
「何だ?口を割らなかったのか?お前の頼みなのに?」
プロテアが言うと蒼は意外そうな表情をした。
プロテアが言ったセルリアとはプロテアと同じイシュガルドの人間だ。つまり、プロテアの仲間だ。
プロテアの危機と知れば口を割らない筈が無い筈だが…
「違う。話す代わりにフローフルと屍を連れて来いって言われたんだ」
「成る程そう言う事ね」
「セルリア以外の三人もここで保護されてんのか?」
「ええ、そうですよ。四宮さんが週に二回ほど来て、彼等に手習いを教えてるんですよ」
「そうか…」
蒼は安心した様な顔をしていた。
どうやら、イシュガルドは皆保護されている様だ。
「で?そのセルリアって奴はどこにいるんだよ?」
「地下だよ。地下で話したいんだそうだ」
インベルがそう言った。
何故地下がいいのか蒼達には分からなかったが、こちらが困る事は特に無い為、蒼達は向かう事にした。
「入るぞ、常森、黒宮」
そう言って入って来たのはゴスロリ衣装の長い黒髪と青い瞳が特徴の少女が入って来た。
彼女の名は四宮舞。蒼達のかつての教師であり、一宮高校の教職員だ。
「四宮さん…」
「四宮先生といつも…まぁ、それはいい。パルテミシア十二神に喧嘩を売る様なバカにこんな事を言っても無駄じゃな…」
「アンタまでそう言う事言うのかよ!?」
「当たり前じゃろ?お主はバカじゃ」
舞がそう断言すると蒼には返す言葉も無かった。
「では、時神くんと天草くんはプロテアさん達と一緒に地下に行って下さい」
「ああ、分かった」
蒼と屍とプロテア、インベルと美浪は黒宮に返事を返して部屋から出ていった。
「パルテミシア十二神とは…」
「ああ、事態は思ったより深刻なのかもしれん…」
「パルテミシアは別にこの国を襲ってはおらんぞ?」
「それはそうなんですが…我々はパルテミシア十二神の事をよく知らない…何か起こっても不思議では無い…という事ですよ」
黒宮は舞に対してそう言った。
そう、彼等はパルテミシア十二神を今まで伝説上の存在だと思っていた。
しかし、今回でパルテミシア十二神は伝説上の存在では無く、実在する事が証明された。
そして、パルテミシア十二神の存在が明るみに出るという事は…
「『世界宮殿』…あの宮殿が存在する…という事だ…」
『世界宮殿』とはこの世界の運命を操作する宮殿である。
この『世界宮殿』が実際に存在していると世間に知れ渡れば世界が混乱する事は容易に想像がつく。
「何としても…『世界宮殿』とパルテミシア十二神の存在は表向きにバレてはいかん」
「そうですね…」
「黒宮…お主は千年以上生きているじゃろ?パルテミシア十二神の事は知らなかったのか?」
「僕はその頃は何も考えずに戦いに明け暮れていましたからね…パルテミシア十二神の事など当時は興味ありませんでしたし、あの時は何より戦って生きる事しか考えていませんでしたので…それから数百年後には多少私は大人しくなりましたがここまで大人しくなったのは少なくとも厳陣と会ってからですね」
黒宮はそう言った。
そう、黒宮は千年前は器が存在しない…所謂概念の様な存在であった。
そこに意思はなく、ただただ破壊の限りを尽くしていた。
それから数百年が経ち、黒宮は自我に目覚めた。しかし、それでも黒宮は戦う事しか考えて出来なかった。
戦いが好きという訳ではない。だが、向こうから仕掛けて来るなら仕方がない。叩き潰すしか無かった。
そんな生活をしていた時、黒宮は厳陣と出会ったのだ。
「大人しくとはよく言ったものじゃの」
「あなたは昔の私を知らないからそう言えるのですよ」
黒宮は舞に皮肉混じりにそう言った。
確かに厳陣と比べれば舞は黒宮との付き合いは浅い。しかし、それでも少なくとも五十年以上は付き合いがある。
「いずれにしても、恐らく…ここから先、何かが始まるのは間違い無いな」
「そうですね…」
「妾も話にしか聞いておらんが…ゼウス…と言ったか?パルテミシア十二神の首領は」
「そうですがどうかしましたか?」
「ゼウスの目的は…何じゃ?」
「パルテミシアの守護…だけでは無いでしょうね、恐らく」
「ああ、私と黒宮は少なくともその男は信用していない」
アスディア…少なくとも厳陣と黒宮はあの男を信用していなかった。
会った事の無い人物であるから信用しないのは当たり前と言えば当たり前なのだが、それ以前にアスディアという男は掴み所が無い男の様に思えた。
「まぁ、そうじゃの…何か裏があるのは確実じゃな。それが何なのかは分からんが」
舞も黒宮と厳陣と同じ考えの様だ。
そもそもこのタイミングで来るのも違和感がある。
「我々だけでも警戒しておくに越した事は無いだろう」
「そうですね。我々も少しばかり調査した方が良さそうですね」
黒宮がそう言うと厳陣は「そうだな」と呟いた。
黒宮たちは黒宮たちでパルテミシア十二神の事を探った方がいいだろう。それに…
「神混髏奇…彼についても調べる必要がありますからね」
神混髏奇…世界に混沌をもたらす者と言っている謎の男だ。
どうやら、彼は何らかの組織を立ち上げている様だ。しかし、その組織は一切不明で目的も不明。
仮の組織名として「ピエロ」と呼ばれている。
「彼もこの事を嗅ぎ付けてる筈だ。奴が動かないとも限らん。…イシュガルド内乱の様な悲劇を出さない為にも」
「…そうですね」
「そうじゃの」
厳陣がそう言うと二人は頷いた。
今から五十年前に起こったヘレトーア最大規模の内乱、イシュガルドの内乱が起こった。
表向きではヘレトーアの軍人が誤ってイシュガルド人を射殺し、それがきっかけで戦争が起こった…という流れなのだがこの流れを造り出したのが神混髏奇であった。
ヘレトーアの軍人に髏奇が化けており、その状態でヘレトーアの子どもを射殺した。
つまり、ヘレトーアの子どもを殺したのはヘレトーアの軍人では無く、髏奇がやったという事だ。
あの男が生きている限りヘレトーアの様な悲劇がまた起こってしまうだろう。
そうならない為にも何としてもあの男を始末しなければならない。
しかし、そう簡単な事でも無い。そもそも、ヘレトーアの事件の発端の真相を知ったのもつい最近の事だ。
つまり、それ以前は彼の悪行が明るみに出ていなかったという事だ。
それだけ髏奇は神出鬼没であり見つける事すら難しいと言った状況だ。
しかし、彼は何か大きな事件が起こるとそこに介入する事がある。
その時が彼を見つけ出す最大のチャンスだ。
「とは言え、今は気長に待つしか無いでしょうね」
「ああ、待つ事には慣れている。しかしー」
「ええ、分かってますよ」
黒宮と厳陣と舞は夜空を眺めていた。
ここは四神天城の地下だ。
しかし、地下と言う割りには外装は地上と余り変わらなかった。
「地下なんだからもっと薄暗い場所かと思ったぜ」
「いやいや、それはお前の偏見だろ?」
屍が意外そうにそう言うとインベルが突っ込みを入れた。
地下は確かに薄暗い洞窟の様な雰囲気がある様なイメージが付き勝ちではあるが別に四神天城の地下の造りが特別珍しい訳でも無い。
「ここは牢屋じゃねーんだ。そんな不気味な場所でも無いだろう」
蒼がそう呟いた。
そう、ここは別に牢屋でも何でも無い。
この地下にはかつて空き部屋であったが、現在はイシュガルドのメンバーが一時的に滞在している。
そして、舞が不定期にやって来ては彼等に手習いをしていた。
「あなた…」
蒼達の目の前に一人の人影が現れた。
黒髪のウェーブと琥珀色の目をしているローブを着ている女性であった。
「久し振りね、グレビリア」
「ええ、久し振りね、プロテア。そっちの暮らしはどう?」
「………」
プロテアは気まずそうにグレビリアから目を逸らした。
ここは現在、イシュガルドの人間が住んでいる。グレビリアはそのイシュガルドの人間の一人だ。
プロテアがセルリア以外で一番気心が知れた仲であった。
「プロテア?」
「あー、ちょっと厄介な事になっててな」
屍がそう言いながら、グレビリアに事の事情を話した。
すると、グレビリアが顔面蒼白になりながら、プロテアの両肩を掴んだ。
「アンタ…大丈夫なのそれ!?最悪…」
「それは多分大丈夫よ…多分…命までは取らない感じだったし」
「でもそれは…相当不味い事になったわね…」
「返す言葉も無いわ…」
「で?そんな大変な事になってるのにここに何の様なのよ」
「セルリアに会いに来たのよ」
「あー、成る程…確かにセルリアは博識だからイシュガルの事も知ってるかもね」
グレビリアはプロテアの言葉でここに来た理由は大体分かった。
そう、プロテア達はセルリアに蒼と屍をこっちに来させる様に頼まれたのだ。
蒼と屍はその事を今知った。
「俺と屍に会いたいって言ってた奴はセルリアだったのかよ」
「ああ、言って無かったな悪い悪い」
インベルが何の悪びれも無くそう言った。
全く悪いと思っていないインベルの態度が蒼は少しイラッと来た。
「私も行く!」
「まぁ、別に断る理由も無いし好きにしろよ」
「言われるまでも無いわ」
蒼がそう言うとグレビリアは強気そうに歩いて言った。
「私達も行きましょう」
美浪がそう言うと皆は再び歩き出した。
しばらく歩くと扉に辿り着いた。
どうやらセルリアは一番地下の中でも奥の部屋にいるらしい。
「この先にセルリアがいるのか?」
「…ええ、そうよ」
そう言ってプロテアが扉を空ける。
部屋の中は何も無く、一人の男が座禅を組んでいた。
琥珀色の短い髪に瞳と眼の周りのクマが特徴的な青年であった。
眼は閉じられており、一人で瞑想をしているようであった。
蒼達が部屋に入るとセルリアは目を開け、蒼達を見つめた。
「貴様が時神蒼か…そして…久しいな…アザミの花のリーダー。天草屍」
「まさか…アンタに会うなんてな…」
「私も驚いた…貴様が十二支連合帝国の犬に成り下がっていたとはな」
「俺は別にこの国の犬になった覚えはねぇ!俺は…時神達に付いてるだけだ!」
「成る程…まぁ、そう言う事にしておいてやろう」
セルリアが適当に返事をする。
「お前ら…知り合いなのか?」
蒼が突然そう訪ねた。
それもそうだ、蒼はセルリアと屍は初めて会う筈なのにまるでお互いの事を知っている様に話していたからだ。
「まぁ…そう言う事だ」
「三年前…神器を強奪したのは俺じゃない…あいつだ…」
「!? て事は…お前、三年前にイシュガルドと協力してたって事か!?」
「まぁ、そうなるな…たが、俺は奴の素性は全く知らなかった…イシュガルドだったってのは初耳だな」
屍は冷や汗をかきながらそう言った。
「俺は…貴様が貴様の正義があると信じ…協力したんだがな…」
「はっ…アンタはやっぱ勘違いしてんな…俺の正義はこの国を潰す事でも復讐でもねぇ…この二つはついでだった…俺とアンタは最初から違ってた」
「何だと?」
「お前の言う俺の正義は…仲間を守る事だ。お前みたいに復讐に魂売った事なんか一度も無い!」
屍がそう断言した。
確かに屍にはこの国に恨みがあった。しかし、それ以上にこの国が魔族と共に生きれる国にする事を望んでいた。
復讐はそのついででしかなかった。屍の信念は何一つ変わってなどいない。
「ふっ…そう言う事か…どうやら俺はお前の事を読み間違えていた様だな…」
「そう言うこった…」
「だが…変わった所もある…昔の貴様はそんなに感情を表に出す様な男では無かった」
「いや、あっちのは作りでこっちが素だ」
「そうか…どうやら俺は貴様を完全に読み違えていたみたいだ」
「その下り二回目だぞ。アンタもしかして天然か?」
屍が呆れた様にそう言った。
どうやら、お互い当時会った時とはかなり印象が違っていて驚いていたのだろう。
「アンタは…どうなんだよ?アンタは…まだ復讐を望んでんのかよ?」
今度は屍がセルリアに疑問を投げ掛けた。
「今更…元には戻れん…俺は…神混髏奇と…ミルフィーユを倒す…」
「…イシュガルドの内乱の事は…全部知ってるのか?」
「当然だ。その上で言っている」
「けど…ミルフィーユはアンタを助けたんだろ?」
蒼は疑問を抱いていた。
神混髏奇は分かる。イシュガルドの内乱を引き起こしたのはあの男なのだから。
しかし、分からないのはミルフィーユだ。ミルフィーユは目的はどうあれ、セルリアを助けた。むしろ、恩を感じてもいいくらいでは無いだろうか。
「ああ、そうだ。奴は「俺だけ」を助けた」
「…そう言うことかよ……」
蒼はセルリアのその一言で察した。
ミルフィーユはセルリアの家族を、友を、村を、殺したのだ。
セルリアだけを見逃して…
「時神蒼…貴様はミルフィーユの弟子だろう。その話は聞いていないのか?」
「あいつは自分の過去をあまり人に話す様な奴じゃ無かったからな…戦闘狂なのは今もそうだが、それを人に強要する事はしなかった。まぁ、断片的にしか聞いてないから分かんねぇけど、俺の知ってるミルフィーユとアンタの知ってるミルフィーユは多分違う」
「……五十年の歳月で奴は変わったというのか?」
「さぁな…だが、変わっても不思議じゃねーだろ?」
蒼はミルフィーユの口からイシュガルドの話など聞いた事が無かった。
だから蒼はミルフィーユがイシュガルドに対してどんな感情を抱いていたのかは分からない。
「けど、前会った時、お前と戦えてあいつはなんか嬉しそうだった。あいつのあんな顔見るの久々だったな。まぁ、三年間会って無かったから久々なのは当たり前か」
「まぁそれに…強い奴と戦いたくて軍規背いてまでお前ら生かした辺り、あいつらしいと言えばあいつらしいな」
蒼とインベルが呆れた様にそう言った。
正直、蒼とインベル…そしてアポロはミルフィーユの弟子ではあったが、彼女の戦闘狂振りにはついていけなかった。それは今も変わらない。
「そうか…」
セルリアは短くそう呟いた。
「で?セルリア…お前、パルテミシア十二神の事を知ってるのか?」
「パルテミシア十二神は知らんが…イシュガルの事なら多少は知っている………まぁ、それでもたかが知れてるがな」
「何で俺と時神をわざわざ呼んだんだよ?」
「貴様らと話をしたかっただけだ。それ以外に理由が必要か?少なくとも…俺にとってはけじめを付ける為にも貴様らと話す事は重要な意味があった」
セルリアは屍の問いにそう答えた。
そう、セルリアは復讐者だ。屍とはかつて共に復讐を誓った同士、蒼は自身の仇の弟子である。
蒼と屍と会って、話す事がセルリアにとっては重要だったのだ。
「それで?付いたのか?けじめってやつを」
「貴様らと話しただけで全て解決する程簡単なモノでも無い…だが…全くの無駄…という訳でも無かった」
「そうかよ…」
蒼は頭を掻きながらそう言った。
確かにセルリアの言う通り、少し話しただけで折り合いを付けれるならばセルリア自身、復讐鬼になる事は無かった。
だが、セルリアにとっては意味が全く無かった訳でも無いようだ。
プロテアには少しだけセルリアの表情が柔らかくなっている事が分かった。
「で?何を話せばいい?イシュガルの出生か?それとも…」
「出来れば…弱点…とか?」
「そんな都合のいい話があるわけ無いだろ?」
「デスヨネー」
「だがまぁ、伝承でどの様な力を使えるのかは知っている」
「どんな些細な事でもいい。教えてくれ」
蒼が真っ直ぐセルリアを見て言うとセルリアは眼を閉じて再び開けた後、話し始めた。
「奴は…この世界の大地と水…厳密にはこの世界の龍脈を使っている」
「龍…脈?」
「龍脈とはこの世界に流れてる自然の…もっと言うと「地」の霊力だ。イシュガルはそれを自在に操れる。これが厄介だな」
「お前らの使う『二十二式精霊術』と同じ原理って事か?」
「原理だけで言えばそうだな。俺達の使う『二十二式精霊術』もこの世界の自然エネルギー…つまりは龍脈を操って使ってるからな」
そもそも『二十二式精霊術』はイシュガルが人間に与えた力だ。原理が同じでも何ら不思議は無い。
「そして、イシュガルが扱う最強の矛、トライデント…一振りであらゆる物を破壊すると言われている…トライデントはイシュガルの龍脈操作の能力を高める神具という訳だ」
「じゃあ、お前らの使う、『二十二式精霊術』ってさ、何か致命的な弱点とかあるのか?」
インベルが唐突に質問をしてきた。
しかし、その質問はセルリアでは無く、プロテアが答えた。
「『二十二式精霊術』の共通の弱点は主に三つね。一つ目は龍脈を操作する訳だからコントロールが難しいわ。イシュガルドの人間には『二十二式精霊術』を扱う特殊な精霊回廊があるから楽に操作出来るけど、普通の人間や魔族が龍脈を操作しようとすれば龍脈の霊圧に飲まれて自壊するわ」
「さらっと恐ろしい事を言うな…」
インベルは顔を引き釣らせながらそう言った。
龍脈を操作する『二十二式精霊術』の使用者はいずれも強力な力を持っていたがやはりそれに見合うだけの危険性はあった様だ。
それにいくらイシュガルドでも弱っている状態や戦えない状態で無理に龍脈を操作すればただでは済まないだろう。
龍脈を操作する事は非常に難しい事なのだ。
「二つ目の弱点は…龍脈…つまり自然のエネルギーを使っている以上、自然環境に力が左右されやすい所ね。まぁ…これに関しては個人差があるわ。私の場合は水場や雨に弱いわ」
プロテアの言っている二つ目の欠点は単純に言えばこうだ。
例えばプロテアの『二十二式精霊術』の一つの能力は鉄を操る能力だ。
彼女は鉄を作り出しているがそれは大地の龍脈と鉄分を練り合わせて生成している。
つまり鉄分が無い海や水場では鉄を生成する事が出来ない。
更に雨が降っている時もあまり強力な鉄を生成する事が出来ない。
雨水の影響で生成した鉄が錆びてしまうからだ。
更にフォルテの使っていた『恋人』も死者の怨念が多い墓場などでは絶大な力を発揮するがそれ以外はあまり力を発揮出来ない。
これはあくまでプロテアの『鉄征神』の欠点であり、他の『二十二式精霊術』使い達の大半がそれぞれ苦手な自然環境が存在する。
「つまり、プロテアは雨の日は無能って事だね」
「何か腹立つわねその言い方」
美浪の毒舌に少しプロテアはイラッとした。
「因みに俺の『二十二式精霊術』は苦手な環境が無い変わりに相手の血を採取する必要がある。…と言った様に『二十二式精霊術』には何らかの大きな制約がつくか環境に力が左右されるというのが殆どだ。この二つに該当しなかったのは俺の知る限り一人だけだ」
「…アラルガンド……」
「そう言う事だ」
蒼がアラルガンドの名を呟くと回りの空気が一瞬凍った。
アラルガンドがどれだけのチートっぷりかが分かる。
あんな出鱈目な力を制約無しで使えるとはとんだ化け物である。
蒼が勝てたのが未だに信じられないくらいだ。
「そして三つ目…これは個人差がかなりあるけど『二十二式精霊術』の力がかなり弱まる時があるのよ」
「どういう事だ?」
「例えば私の場合は一年に一度…元旦の日は『二十二式精霊術』が全く使えなくなるわ」
「俺は半年に一度、身体が幼児化する」
「私の場合は月に一度全く目が覚めなくなるわね~」
プロテア、セルリア、グレビリアの順にそう言った。
つまり、『二十二式精霊術』には何らかの副作用が存在するという事だ。
それは人によって違う上に掛かる負担もそれぞれ違う様だ。
「『二十二式精霊術』って致命的な欠点が多くね?」
「いや、それを差し引いても『二十二式精霊術』は強力な力だ」
屍が『二十二式精霊術』の欠点がヤバイ事を言っていると蒼はそれを批判した。
そもそも神の力を人間が扱うのだ。それぐらいの制約や欠点があるのは自然の事である。
「だが、これはあくまでイシュガルドの場合だ…イシュガルには恐らく当てはまらないだろうな。分かったか?お前がどんな相手を敵に回してしまったのか」
「それはもう充分過ぎる程分かってるよ」
「で?他には何か知ってる事はあるの?」
グレビリアがセルリアに聞いてきた。
どうやら、彼女にもイシュガルの事に興味がある様だ。
自身の力の始祖の存在の事に興味を持つのは当然の事であるが。
「他には…そうだな…イシュガルは特殊な空間にいると聞いた事がある。イシュガルの役目はこの世界の守護だ。この世界のどこかの空間でこの世界を見ている様だ」
「何だよそれ?」
「成る程な…ゼウスが『世界宮殿』の守護…ガルデアは冥界の守護…そしてイシュガルはこの世界の守護…という訳か」
意味が分からないと言った様子の屍に対して蒼は何だか納得言っている様子であった。
「悪いがこれ以上話せる事は無い。後は貴様らが知っている情報しか知らん」
「いや、礼を言うぜ、セルリア。恩に着る」
「着なくていい気色悪い」
蒼が礼を言うとセルリアはムスッとした顔でそう言った。
「セルリアもグレビリアも元気そうで安心したわ」
「呑気な奴だなプロテア…貴様の命運がかかっているというのに」
「それでも…よ」
「そうか…」
プロテアが笑みを浮かべてそう言うとセルリアは安心した様な顔をした。
グレビリアもセルリアと似たような反応をしていた。
「時神蒼…プロテアを頼んだぞ」
「言われるまでもねぇ」
「ふっ…頼もしいな」
セルリアが眼を瞑りながらそう言った。
「じゃ、長居するのもあれだしもう行くか…」
屍がそう言うとプロテアとグレビリア以外が外に出始めていた。
「プロテア、しばらくここに残るか?」
「いえ、もう行くわ。セルリア、グレビリア、ありがとう」
そう言ってプロテアもセルリアとグレビリアの前から去って行った。
その姿をセルリアとグレビリアは彼等の姿が見えなくなるまで見送った。
「やれやれ…プロテアもとんだ騒動に巻き込まれたモノだな」
「というか、時神蒼達って何であんなに厄介事に巻き込まれるんだろうね~」
「さぁな、とは言えイシュガルドの事が関わっている以上、これは他人事では無い」
「セルリアはどうするの?」
「勿論、奴等の決闘を見届けるさ。それが俺達イシュガルドの務めだ」
「相変わらず堅苦しいわね」
「お前はどうする?」
「勿論、見届けるわよ。プロテアは私の大事な友達だし」
セルリアとグレビリアは覚悟を決めていた様だ。
「それにしても…時神蒼…か…」
「彼がどうかしたの?」
「いや、何でもない」
そう言ってセルリアは再び座禅を組み、瞑想を始めた。
グレビリアはそんなセルリアに何も言わずに去って行った。
ここは白い空間、いや、白い宮殿と言った妨害いいだろう。
あるのは巨大な無数の柱だけであり、全てが白で構成されていた。
そんな白い宮殿に一人の人影があった。アスディアだ。
アスディアはこの宮殿を守護する役割を持っている。
そう、この白い宮殿は『世界宮殿』…ある者はここを天界と呼び、またある者はここを運命を司る場所と呼ぶ。
「さて…刻々と近付いているね…フローフルとイシュガルの戦いが…」
アスディアは宮殿の外の景色を見ながらそう呟いた。
彼の言うフローフルとは時神蒼の事だ。彼は十二支連合帝国に来てからは名を変えており、本当の名はフローフル・キー・ローマカイザーであり、神聖ローマにいたハーフエンジェルである。
「アスディア!」
後ろから声が聞こえた。黒い宗教服を来ている三白眼と長い黒髪が特徴の陰湿そうで暗そうな雰囲気のある男であった。
彼はガルデア・ハデス・パルテミシア…パルテミシア十二神第三権力者であり、アスディアの三つ子の長男だ。
そして、パルテミシア十二神最年長の男でもある。
「ガルデアか…君がここに来るなんて珍しいね…しかも思念体じゃなく、本体で来るなんて…」
アスディアは笑顔で嬉しそうにそう言った。
アスディアはガルデアに冷たくあしらわれる事が多いので珍しくガルデアから自身に会いに来てくれた事にアスディアは嬉しく思っていたのだ。
ガルデアは本来、この世界とは別の世界である冥界を統治しており、基本的には冥界から出る事は無い。
そのガルデアがわざわざここ、『世界宮殿』に訪れたという事は余程の事があるからだろう。
「貴様…何を企んでいる?」
「何の事だい?」
アスディアが惚けた様にそう言うとガルデアはアスディアの胸ぐらを掴んだ。
アスディアは突然の事に少し驚いたがすぐに平静を取り戻した。
「何をするんだい?」
「もう一度聞くぞ?何を企んでいる?」
「何で僕が何かを企んでると?」
「イシュガルと時神蒼が戦う事になる事を貴様は予見していた…あるいは…「そういう風に仕組んだ」」
「考え過ぎだよ」
「…本気で言ってるのか?」
ガルデアは今回、アスディアが何らかの介入をしていると踏んでいた。
イシュガルはあんな性格であるから自然に決闘するという流れになった…大半の者ならそう考えるだろう。
だが、ガルデアはそうは考えなかった。
「はぁ…勘違いしないで欲しいな…僕がこの戦いを仕組んだ?そんな訳無いだろう?僕は一応、神だよ?そんな遊び感覚でフローフルとイシュガルを決闘させる訳無いだろう?………まぁ、確かに、君の言う通り、フローフルとイシュガルが決闘する事は予想がついていた」
「何が目的だ?時神蒼を使って…貴様は何を企んでいる!?」
そう、ガルデアは確信していた。アスディアは蒼を使って何らかの計画を進めていると。
そして、それをアスディアは誰にも言わずに独自で進めているという事を。
「全く…君は勘が鋭過ぎるね…ガルデア…それとも…僕がそんなに恋しいのかな?口では僕の事を罵ってはいても身体は正直だね」
「今はお前の口車に乗ってやれるゆとりは無い」
「君はいつも僕の口車に乗らないじゃないか」
アスディアは不気味な笑みを浮かべて浮かべてそう呟いた。
ガルデアはアスディアから手を離した。
ガルデアは確信した。やはり、アスディアは黒だと。
「君はいつもそうだ…僕やイシュガルの事は何でもお見通し…見てない様で…誰よりも見てるんだ…やっぱり、君が最高神に相応しいね…僕なんかよりも…ずっと…」
「くじ引きで決めようと言ったのはどこの誰だ?」
「はは…そうだね…でも…くじ引きで決めようと言ったのはアテネだよ?僕は賛同しただけさ」
「アテネ…久し振りに聞いたな…その名を」
「ああ…彼女も僕らと同じ十二神…の筈だった」
アテネとはパルテミシア十二神の十三人目の神である。
いや、厳密に言えばパルテミシア十二神が結成される前に突然姿を消し、それ以降消息不明であった。しかしー
「奴は姿を表した。だが、奴は既に死んでいた…」
「改めて思うよ…僕らは…間違いだらけだとね…」
アスディアは遠い目をしながらそう呟いた。
アスディアが珍しく辛気臭そうな顔をしていた。
「話を戻そうか…貴様は一体何を企んでいる?」
「またその話かい?悪いけど…今は話せないなぁ…まぁでも…いずれは分かるよ」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。いずれ分かる」
「なら話を変えようか?時神蒼は何者だ?」
「驚いたね…そこまで気付いていたのか?」
「奴が特異点だという事までは分かっている…だが…それだけじゃない…」
「そうだね…敢えて言うのであれば…彼はラッパを吹く者だよ」
「………」
アスディアの言葉の意味をガルデアは分かっている様だ。
だが、アスディアの言葉の意味を知った時、ガルデアは動揺せずにはいられなかった。
「アスディア…分かっているんだろうな?貴様がこの世界の安寧を乱す様な事があれば…俺は貴様を殺す」
「この世界の安寧?バカも休み休み言いなよ、ガルデア…この世界のどこが安寧だよ?このままでは世界は消え去るよ」
「俺達の使命を忘れたか!?」
「君がそれを言うのかい?まぁ、安心してよ…僕は別に…世界の支配者になりたい訳でも世界征服をしたい訳でも無い…そんな事…無意味だし…ただまぁ…強いて言うのであれば…僕は…世界の平和を企む者かな?」
「世界の平和を企む?貴様の口からそんな言葉が出るとはな」
「僕は僕で真面目に考えてるって事だよ」
「まぁいい。こうなった以上…今回はこれで見逃してやる…だが…忘れるな…」
「ああ…分かってるよ…心配掛けて済まない」
「誰が誰の心配をしてるって?馬鹿なのは変わらん様だな」
アスディアが笑顔でガルデアに礼を言うとガルデアはイラつきながらそう言った。
アスディアは本当にガルデアの事が好きな様だ。
ガルデアはアスディアのその態度にイラつきを覚えていた。
ガルデアは昔からアスディアの事が嫌いであった。
アスディアは常にガルデアの一歩先へと行っていた。
そして、誰よりも優しい男でもある。
そんなアスディアをガルデアは堪らなく気に食わないのだ。
「僕は…いや、僕に限らず…かな?世界は…人は…神は…魔族は…常に変化している…このガラクタが常に激変するこの世界にいつまで対応出来るかな?」
「仮にも『世界宮殿』を守護する者が『世界宮殿』をガラクタ呼ばわりとはな」
「君もそう思うだろう?いや、君は僕以上にそう思っている筈だよ?僕も…昔の君が言っていた言葉の意味…やっと分かって来たんだよ」
「どうせ分かるならもっと速く分かって欲しかったな…遅すぎだ」
「そうだね…」
ガルデアはかつて、この『世界宮殿』の存在に納得いかなかった。
この『世界宮殿』により、あらゆる生物の運命をコントロールされている事に納得がいかなかった。
アスディアや他の十二神達は当時はその事に疑問を持たなかった…しかしアスディアは今になってガルデアがこの世界に納得いってない理由が少しだけ分かって来たのだ。
「今の俺はこの世界を納得している」
「そうか…けど…僕は納得していない」
「お前はずっと…」
「変わるんだよ…人は」
「お前は人じゃなく神だがな」
「同じさ…」
アスディアは遠い目をしながらそう言った。
ガルデアはアスディアの真意が未だに掴めない。
彼は昔からそうだ。何かを企んでいる事は分かるのだがその全貌は掴ませてはくれない。つくづく喰えない男である。
「セレナーデが死んでからか?」
「さぁね…どうだろうね…まぁ、少なくともそこが今の僕を形作った転換期であったのは確かだね」
そう、第三次世界大戦でアスディアの妻と息子であるセレナーデとイクサは死んだ。
その時からアスディアはこの世界に対して不信感を抱いたのは事実だ。
だが、無論、それだけでは無い。
「君がどれだけ僕を警戒しようが意味が無いよ。僕はこの世で最も強いのだから」
「大した自信だな。貴様が俺と戦って、勝った事が一度でもあったか?」
「今なら勝てるよ」
「よく…そんな事が言えたモノだな…」
ガルデアが霊圧で大気を震え上がらせた。
『世界宮殿』はヒシヒシと音をたて、やがて地面にヒビが入った。
『世界宮殿』は相当頑丈な造りの筈だがガルデアは霊圧だけで『世界宮殿』にヒビを入れていた。
彼の霊力の凄まじさを物語っていた。
「おいおい…怒り過ぎじゃないかい?ガルデア…君は昔からそうだ…短気は損気…だよ?」
「黙れ、どうやら貴様には灸を据える必要がありそうだ」
「ふふ…兄弟喧嘩なんて久し振りだね」
アスディアは何故か嬉しそうにそう言った。
だが、一つ言えるのはアスディアは引く気が無いという事だ。
アスディアが引く気が無い以上、ガルデアとアスディアは間違い無くここで戦う事になる。
「貴様の奔放さにはある程度目を瞑ってやったが…今回ばかりは見逃せん」
「え~?そんなに怒る?(`´)ガルデアは訳の分からない所で怒るよね?」
「何を言う?俺は全然温厚な性格だぞ?何せ、貴様のアホみたいな行動を今まで目を瞑ってやっていたんだからな」
「ねぇ?ガルデア…あんまりそう言う事ばっかり言ってると流石の僕も怒るよ?」
アスディアが笑顔でそう言った。
顔はとても笑顔だが凄まじい殺気に満ちていた。どうやらアスディアは笑いながら怒るタイプの様だ。
ガルデアはもう今にもぶちギレそうな顔をしていた。この時点でもうアスディアとガルデアが正反対の性格をしている事が分かる。
アスディアも霊力を解放していた。二人の霊圧はぶつかり合い、相剋していた。
このままでは『世界宮殿』を壊してしまう勢いであった。
もしここが現世であったのならば彼らが向かい合っているだけで世界が崩壊しかねなかっただろう。
それほど、今のアスディアとガルデアの力が強大なのである。
「やる気か?」
「威嚇で済むならそうしたい所だけど…どうやら引いてはくれないみたいだね」
「それはこっちの台詞だ。覚悟はいいんだろうな?」
「それは僕の台詞だよ」
アスディアとガルデアがほぼ同時に突進し、『世界宮殿』全域が震撼した。
神と神の大喧嘩が今、始まった。
To be continued




