【第七章】海王の花嫁篇Ⅱーyesterdayー
蒼と慧留と屍とアポロの四人は十二支大学の大霊書回廊にいた。
蒼達がいる大霊書回廊は十二支連合帝国の国立図書館の一つであり、世界でも最大規模の図書館である。
その分、資料が多くだだっ広く、天を突かんばかりの量の本が並んでいた。
そこには蛇姫薊と御戸狂の姿もあった。
「てか、何でお前らまでいるんだよ?」
「仕方無いでしょ?あなた達の監視を頼まれたんだから…私だって好きでこんな事をしてる訳じゃ無いのよ」
紫のセミロングの髪に蛇の様な瞳が特徴的であり、和服に身を包んでいた薊がそう言った。
そう、ここは大学図書館である事には変わり無いのでここの図書館を蒼達が閲覧するのには薊とくるの協力が必要だったのだ。
「てか、蒼ちゃんもバカだよね~。まさかパルテミシア十二神に喧嘩を売るなんてね」
「仮にバカだとしてもてめぇにだけは言われたくねぇ」
「くるはバカじゃないもん!」
黒髪黒目のツインテール特徴的であり、薊とは違い、サスペンダーを着けた服を着ていた。
「それにしても…資料が膨大過ぎるだろこれ…」
「この図書館は世界でも有数の規模を誇るから当然よ。ぼやいてないで手を動かしなさい」
「へーへー、分かりましたよ~」
「…何よその返事は」
「二人ともここは図書館だよ…喧嘩しないでよ…」
屍とアポロが喧嘩しそうになっていたので慧留がそれを諫めた。
二人は会って間もない筈なのに何故こんなに仲が悪いのか…慧留には理解出来なかった。
蒼も屍とアポロの仲の悪さには気が付いてはいたが大した問題では無いと思いあまり気にしていなかった。
「そう言えば、あなたとは会うのは初めてね」
「ええ、そうね。私はアポロ・ローマカイザー。神聖ローマのセラフィム騎士団の一人よ」
「そんな凄い人が何でこんな所にいるの~?」
「色々あるのよ…」
「そう…私は蛇姫薊、よろしく」
「私は御戸狂!くるって呼んでね」
「ええ、よろしく。薊、くる」
アポロは薊とくるに対して気さくに話していた。
「ローマ出身って事は蒼と知り合いって事かしら?」
「まぁ、そんな所ね。私がここにいるのもフローフルの監視だし」
「へぇ~、でもおかしいよね?監視するくらいなら蒼ちゃんを力尽くで持ち帰ればいいのに」
「何言ってるのよ…くる…力尽くなんて無謀な真似はしないでしょ。十二支連合帝国も無視は出来ないだろうし…まぁ、けど確かに取り戻す素振りを見せないのは妙ね」
「そこの所は私にもフローフルにもさっぱりね。なんせルミナスは真意の読めない人だし」
薊とくるはどうも神聖ローマに対してかなり懐疑的に見ている様だ。
まぁ、確かに今までの話を聞いている限り、妙な点が多いのは事実だ。
懐疑的に見てしまうのも無理は無いのかもしれない。
因みに薊もくるも蒼達がここに来た事情も既に知っており、その上で協力しているのだ。
「おい、お前も探せよ…」
「分かっているわ」
屍がアポロに文句を言うとアポロは本を探し始めた。
屍はアポロの態度が気に入らなかった。
薊やくるとは普通に話している癖に屍に対してはかなりずさんな態度で接していた。
しかし、これに関しては屍もアポロに対して似たような態度を取っているので人の事は言えない。
何故かこの二人はウマが合わないようで相当仲が悪い。二人ともそれは自覚している様だ。
「ねぇ?蒼…何で屍とアポロさんってあんなに仲が悪いと思う?」
「俺が知るか…まぁでも、気にする必要は無いんじゃねーの?喧嘩するほど何とかって言うしな」
「そんなモノかなぁ?」
「好きと嫌いは同じ感情から来るモノらしいからな。仲が悪い事が一概に悪いとは言えないんだよ」
「蒼にしてはなんか賢そうな事言ってる…」
「おい、それはどう言う事だ。これでもお前の数倍頭いいよ俺は」
普段の言動で忘れ勝ちだが、蒼は結構頭が良い。
まぁ、一夜や澪という、蒼より遥かに頭の良い人物も多くいる為、蒼が霞んでしまうというのも理由の一つだろう。
とは言え、蒼が冷静に物事を言う事が珍しいのも事実なのであまり頭が良いように見られないのも仕方の無い事なのかもしれない。
「まぁ、あんまり酷い様なら俺も止めるよ」
「蒼の場合はますます状況を悪化させそうだけど」
「お前は何で俺をディすってんの?」
「いや、ディすってるつもりは無いんだけど…」
「まぁ…俺は頭に血が上りやすいからそう思われても無理は無いか」
「自覚はあったんだ」
「…お前マジで何なの?」
「ごめんって!そんなに怖い顔しないでよ!」
慧留は蒼が怖い顔をしていたので慌てて諫めた。
「まぁ、今はそんなに心配しなくてもいいってこった」
「蒼が言うならそうなんだね。分かったよ」
「? やけに素直だな」
「そりゃあ、私は蒼を信じてるからね」
「そうかよ」
蒼は少し照れた表情をしながらそう言った。
「それにしても…資料が多いね~、これは探すのが大変そうだよ」
「そうだな…けどパルテミシア十二神に関する文献は多くは無い。絞り込みはしやすい」
蒼は何冊か文献を見つけた。
慧留も見つけた様で本を棚から取り出した。
「おい、それは俺が先に見つけたやつだぞ」
「いいえ、私よ」
「俺だ」
「私よ」
屍とアポロは睨み合っていた。
「そんなどうでもいい事で喧嘩するのは止めなさい」
「そうだよ!」
薊とくるが睨み合う二人に割って入り、止めた。
「ねぇ?蒼…あれ…大丈夫かな?」
「確かにちょっと気にした方がいいかもしれないな…特にここは図書館だしな…」
図書館はあまり騒いではいけない…これは常識である。
あまり酷い様ならあの二人にある程度は注意していかなければならないなと蒼は思った。
「時神、そろそろ資料が揃ったし、読み込んだ方がいいんじゃねーか?」
「そうだな、じゃあ、各自で資料読んでそれから情報を共有するか」
そう言って各自で資料の読み込みを始めた。
たまたま二手に別れる形となり、蒼とアポロ、慧留とアポロが隣の状態で書物を読み込んでいた。
「なぁ?何でお前、屍とあんなに仲悪いんだよ?」
「特に理由は無いわ。けど、あの男とはソリが合わないのは確かね」
「なんつーか…お前がそこまで他人を嫌うって珍しく無いか?」
「そんな事無いわ。例えばあなた、私、初めて会った時はあなたの事嫌いだったわよ」
「そうかよ…」
蒼はアポロの発言にあまり驚いてはいなかった。
蒼とアポロは初めて会った時はあまり仲が良くなかった。
蒼とアポロが友人と呼べる関係になったのはインベルの存在が大きかったりする。
彼の人当たりの良い正確により、二人は助けられていたのだ。
内心、蒼もアポロもインベルには感謝してるのだが、彼の軽い感じの雰囲気と二人の素直じゃない性格が災いして蒼とアポロがインベルをなじる事が多い。
インベルに対して二人とも確かに友人だとは思っているのだが、やはり言動がウザい事も多い。
しかし、それはインベルも分かっている様でだからこそ、インベルは蒼とアポロに対して友人でいられているのだ。
「…似てるのよ…あなたと屍が」
「あー、成る程な」
「驚かないの?」
「まぁ、俺とあいつは似た者同士っていう自覚はあったからな~」
そう、蒼と屍はお互い似た者同士だと自覚はしている。
その様に感じた事があったのは十二支連合帝国の時だけだったので蒼は忘れていた。
だが、似てるというのは単純に性格が似てるという訳では無い。
むしろ性格は全く違うと言っても良いだろう。
「そう。ねぇ?フローフル、屍は…どんな人なの?」
「そうだな…あいつは俺とは違って周りを巻き込んで仲間を引き込む奴だ。自分の興味を持った事にはとことん追求する…オタク気質な奴でもあるな」
「…あなたと全然違うじゃない」
「そうだな…俺はあいつみたいにオタク気質じゃねーし、あいつの様なカリスマ性も無い」
蒼はそう言った。
しかし、アポロは蒼の言葉を半分だけ心の中で否定した。
ーフローフルは…フローフルにも人を惹き付ける力を持ってる…屍のとは別の力なのは確かだけど
そう、蒼にも人を惹き付ける力がある。
その証拠に一夜、慧留、プロテアなど蒼を中心に集まっている。
屍もその内の一人だ。屍にもカリスマ性があるのは事実だが、蒼にも確かにカリスマ性はある。
「何よりも仲間思いね。誰よりも。誰かを見捨てるなんて事は絶対にしないもの」
蒼とアポロの前に現れたのは薊であった。
「…成る程…ね…納得したわ」
アポロは肩の力を抜き、再び書物の読み込みに戻った。
蒼は今の会話でアポロが何故すっきりした顔をしていたのか分からなかった。
それは薊も同じ様で蒼に尋ねた。
「ねぇ…何でアポロは今ので全部納得した様な顔をしたの?」
「俺に分かる訳ねぇだろ」
「それもそうね」
「そんなアッサリ否定されるのも何かムカつくんだが?」
「どっちなのよ?面倒臭いわね、あなたは」
蒼は薊の言葉に少しムッとした。
そんな姿を見て、アポロは少しだけ笑っていた。
「何笑ってんだよ?」
「フローフルにもちゃんと友達が出来てて嬉しく思ったのよ。ローマでは私とインベルしか友達がいなかったから十二支連合帝国ではボッチになってないか心配だったのよ?」
「お前も似たようなもんだろふざけんな」
蒼がそう言うとアポロも薊も笑っていた。
一方、慧留と屍は黙々と書物を読み進めていた。
「屍?」
読み疲れた慧留が屍に声をかけた。
しかし、屍は集中している様で慧留の声が一切聞こえていないようだ。
屍は一度何かを調べ始めるとそれに没頭する。科学者気質な所がある。
まぁ、あらゆる物を錬成して戦う錬金術師はある意味、科学者なので屍のその能力は錬金術を扱う上でかなり重要であったりする。
「凄い集中力だね…何か怖いよ…」
後ろからくるがやって来て慧留に話し掛けて来た。
「くる…」
「昔からそうなんだ~。屍ちゃん、集中すると誰の話も聞かないから」
「へぇ~」
慧留は屍といるのは三年程になるがまだまだ知らない一面があるんだなと思った。
屍だけでは無い。蒼や一夜も慧留の知らない一面があって、慧留はその一面の一部しか見てるに過ぎない。
人は誰でもあらゆる一面を持っているものである。
「ねぇ、慧留とあのアポロって人は知り合いなの?」
「昔から知ってる人ではあるけどあまり話した事は無いかな?」
慧留が神聖ローマにいた頃は慧留はセラフィム騎士団の傘下騎士団の衛生兵であった。
慧留がいた騎士団の統括者がアポロであり、その時から顔合わせはした事があるものの、直接話した事はヘレトーアの一件まで一度も無かった。
「へぇ~、何か屍ちゃんと仲悪そうだったからさ~。まぁ、悪い人には見えなかったけど…」
「うん、多分悪い人じゃ無いよ。あの人は…それは確かだね。何たって自分が統括してる兵士の名前を全員覚えてるからね。情は厚い人だと思うよ…素直じゃない人だと思うけど」
慧留はアポロの事はあまりよく知らない。
神聖ローマにいた頃も面識はあったものの話す事など殆ど無かった。
しかし、慧留はアポロが悪人である様には思えなかった。
部下の名前を末端まで全員覚えてる限り彼女の情の厚さが伺えるし何より蒼の数少ない友人である。
それだけでアポロが悪人では無いと思えるには十分では無いかと慧留は思った。
「ツンデレって性格的に損してるよね~」
「あ~、それは少し分かるかも…面倒臭いよね…ツンデレって」
「全くだ。何が本音なのかさっぱり分からんしな」
「あ、屍話聞いてたんだ」
「聞いてちゃ悪いのか?」
「いや、そう言う訳じゃ無いけど」
どうやら屍は一通り書物を読み終えていた様で慧留とくるの話を聞いていた様だ。
「あれだけの量があったのによくそんなに速く読めるね~」
「いや、研究に速読は基本だろ」
「へぇ~、そうなんだ」
「いや、無いからそんな基本」
屍の言葉を真に受けたくるに慧留が突っ込みを入れた。
まぁ、確かに速読出来たら便利だが絶対に必要な能力では無い。
「つか、お前ら雑談ばかりしゃねーか。ちゃんと調べてんのか?」
「いやいや、流石に屍程じゃ無いけどちゃんと本を読み進めているよ」
慧留は屍程では無いが確かに本を読み込んではいた様だ。
「それにしても…三年前まではロクに平仮名も読めなかった奴が成長したもんだな」
「ははは…それはどうも」
慧留はこの十二支連合帝国に来たばかりの時は漢字は愚か平仮名すらロクに読めなかった。
今はそれなりに勉強して読める様にはなった。
「くるもせめて今の月影くらいになってくれればなぁ…」
「くる一応大学行ってるんだけど…」
「お前成績滅茶苦茶悪いらしいじゃねーか聞いてるぞ薊に…」
「う…」
慧留の場合はこの国に慣れていなかったというだけで決して頭は悪い方では無かった。
むしろ、たった三年でここまで学力がつく辺りむしろ、頭脳明晰の部類に入るだろう。
その一方でくるは頭があまり良くなく、要領も悪い為か辛うじて大学には通えてはいるものの成績はよろしくない様だ。
「で…でも大事なのは実技だし?」
「いくら実技が出来てもある程度の知識は必要だろう?言い訳にもならない」
「う…これでも頑張ってるのに…」
「お前がお前なりに努力してるのは知っている。だからこそだ」
「分かったよ…」
くるが拗ねた様にそう呟いた。
慧留はそんな二人の姿を微笑ましげに見ていた。二人はまるで兄妹の様だ。
「二人とも…兄妹のみたいだね」
「ふ…出来ればもっと賢い妹がいいな…」
「何だよそれー!?」
屍が照れ臭そうに言うとくるが溜まらず叫んだ。
屍なりの照れ隠しである事は慧留にも…そして、くるにも容易に理解出来た。
「そんな事より…そろそろ時間だ」
屍がそう言うと蒼達がこちらに向かっている事が分かった。
「さてと…話をまとめるぞ。その前にそれぞれ調べた事を順に言っていこう」
屍が司会を始めた。この中で一夜がいない中、まとめ役にふさわしいのは屍であろう。
それは他の者達も理解している様でアポロも珍しく屍の言う事を素直に聞いていた。
「じゃあ、まずは俺からだな」
蒼はそう言って、自身の調べた内容のせつめいを始めた。
「イシュガルについて新たに分かった事は主に二つ。一つはイシュガルは身体が土と水で出来ていてイシュガルと同じ土と水で構成されている者以外は子を成せない。その為に力に順応出来る者を待っていた…それがプロテアって訳だな」
「じゃあ、プロテアはイシュガルと同じ身体になったって事か?」
「多分違う。あくまで順応出来る様になったってだけだ」
「成る程な…」
イシュガルは通常、魔族や人間に限らず身体は魂と魄で構成されている。
これはパルテミシア十二神とて例外では無い。
しかし、イシュガルのみ、身体が水と土で構成されており、子を成す事が出来ない。
イシュガルはかつて、一人の人間と契約を交わした。その契約が正にイシュガルに子を成せる人間を造る事。
それに選ばれたのがプロテアという訳だ。
「て言っても、土と水で出来てる様には見えなかったけど?」
「まぁ、そこは流石神と言ったとこだな。見た目はほぼ人間と変わらねぇ…」
「で?二つ目は?」
「イシュガルには…いや、パルテミシア十二神には神具と呼ばれる武器を持ってる。んで、イシュガルが使う武器はトライデント、イシュガルドが住んでいた村もこのトライデントが名前の由来みたいだな」
「そのトライデントはどんな能力を持ってるの?」
薊が蒼に尋ねる。しかし、蒼は顔を強ばらせながら、
「分からない…イシュガルだけじゃねぇ…他の十二神の神具の能力も全く分からねぇ…」
そう、蒼は肝心な事は何一つ解明出来なかった。
パルテミシア十二神は自身が扱う武器、神具を持っている。
しかし、蒼の調べた資料にはそれにまつわる情報がほぼ皆無であった。
「それで全部か?」
「ああ…」
「次は私だね!……とは言っても蒼に殆ど言われたんだ…」
「そうか…本当に全部時神に言われたのか?」
「ううん…でもこれは…イシュガルには直接関係は無いんだ…」
「それでもいい。こういう事は些細な情報でも包み隠さず共有するべきだ」
屍はそう断言した。
そう、直接関係の無い情報だとしてもそれが重要な情報に成り得る場合もある。
屍がそう言うと慧留は答えた。
「うん、どうやら、パルテミシア十二神は元々は十三人だったみたい。けど、何らかの出来事があって十二人になって、それから戦争や戦いで数を減らしたみたい」
「今、パルテミシア十二神が何体いるかは?」
「そこまでは…」
「それ以外は?」
「ごめん、本当にもう無いです…」
「そうか…」
慧留がそう言うと再び沈黙が戻った。
「じゃあ、気を取り直して、次は私ね」
「ああ、頼む」
アポロが宣言すると屍が返事を返した。
そしてアポロが話し始めた。
「イシュガルは十二神の中でも深く人間に関わっていたそうよ。そして、人間に未知の力を与えた。これが恐らく『二十二式精霊術』ね」
「他には?」
「ごめんなさい。他にめぼしい情報は無かったわ」
「そうか…」
蒼がアポロにもっと詳しく話を聞こうと思ったがどうやらアポロはそこまで情報は得られなかった様だ。
アポロは情報収集はあまり得意な方では無い。頭はいいのだが、どうも調べるのは苦手の様だ。
「じゃあ、最後は俺だな…とは言っても、俺の得た情報はお前らが言ったので大体言われた。だから、俺のは付け足しになる」
屍はそう言って話を進めた。
「まず、イシュガルはポセイドンと呼ばれる海と大地の神だ。時神が言っていた神具、トライデントはこの世界の大地と海を自在に操る事が出来るチート能力だそうだ。それだけでなく、イシュガルはそれを扱うだけの馬鹿力も持っている様で攻守共に隙が無い奴だそうだ」
「げ…」
屍の説明に蒼は気が滅入りそうになった。
大地と海を自在に操る事は知っていたがそれを扱うだけの膂力も持っているというのだ。
攻撃の隙を突く事はあまり期待出来そうに無い。
「それと、月影のだが、パルテミシア十二神はいずれもこの千年間で起こった大きな大戦前後で亡くなってるみたいだ。ヒューマニックリベルオン、天使大戦、第三次世界大戦前後でパルテミシア十二神は亡くなってるみたいだな」
「大戦で亡くなってる…これは何かあるかもしれないわね」
「アポロと同じ意見なのは癪だがまぁ、間違い無いだろうな」
「私と同じ意見で癪ってのはどう言う事よ?」
「二人とも今は止めろ」
屍とアポロがまた喧嘩しそうになったので蒼が止めた。
そう、パルテミシア十二神はこの混沌の世界が生まれてからの千年間に起こった大戦前後で死亡しているという特徴がある。
これは偶然か?いや、偶然と考える方が不自然だろう。
恐らく、これには何らかの理由がある。だが、しかし、これに関してはイシュガルには直接結び付く事では無い為、これについて調べるのはまだ先の事になりそうだ。
屍とアポロは蒼の制止で事なきを得、屍は気を取り直して話を戻した。
「そして、アポロの話。イシュガルは人間に深い関わりを持っていた。確かにその通りだ。パルテミシア十二神の中で奴は特に人間と関わりを持っていた。だが、厳密には人間とではなく、この世界に存在する人間、魔族全てだ。奴はこの世界を守護する役目をおっているらしい」
パルテミシア十二神はそれぞれ役割を持っており、その中でもイシュガルは現世を守護する役目を持っている。
「現世を守る人が喧嘩売るなんて世話無いね」
くるがさらっと正論を呟いた。
普段は馬鹿の癖にこう言う所は確信を突くくるであった。
「まぁ、俺はそんな感じだ」
「う~ん。かなり収穫はあったけど…どれも後一歩足りない感じだな」
「そうだね、結局分かったのはイシュガルがプロテアを狙うかとイシュガルが使う武器の名前だけだしね」
この短時間で相当上方を集められたがそれでも決定打になるモノは無かった。
しかし、まったくの無駄という事も無い。
「…一夜抜きでここまでやれれば十分だろ…俺達じゃあ、これが限界だ」
「そうだな…とは言ってな時神。これはお前の蒔いた種だぞ?お前が一番呑気でどうするんだよ?」
「うるせーよ!何でも俺のせいにするな!連帯責任だろ!?こういうのは!?」
「フローフルの愚行はいつもの事よ。もう私は慣れっこよ。それでも迷惑極まりないけどね。連帯責任ね。ええ、その通りね。それなのにフローフルにばかり責任を押し付けるのはどうかと思うわ屍」
「お前はイチイチ勘に障る奴だな!?」
「それはこっちの台詞よ」
再びアポロと屍が喧嘩を始めようとしていたので蒼と慧留で身を挺して二人を止めた。
「二人ともいい加減にして!」
「ったく、二人ともドが過ぎるぞ!」
全くこの二人は何故こうも喧嘩するのか…
いくら何でも酷すぎである。
「で?今日はもうこれで終わる?」
「そうだな、今日はここまでにした方がいいかもな。薊もくるもありがとう」
「礼を言われる程でも無いわ」
「そうだよ!困った時はお互い様なんだから!」
屍が薊とくるに礼を言うと二人とも嬉しそうにしていた。
久々に屍と会えた事が嬉しかったのだろう。
「お前らが元気にやってるみたいで安心したわ。大学は俺達と別々に暮らすって言った時はどうなる事かと思ったが…」
そう、薊とくるも元は蒼達と同じマンションに住んでいたのだ。
それをいきなり大学に入ったらそこの大学の寮に住むと言い出したので蒼達は少なからず心配はしていたのだ。
薊とくるはこの国の学生生活に不慣れであったので心配していたのだがその心配も杞憂であったようだ。
「あなたに心配されるなんて私たちもまだまだね」
「そうだね!」
「どう言う事だよ…」
薊とくるは蒼に心配されるなんて失敬なと言いたげな顔でそう言った。
「確かに時神に心配されるのはちょっとな…一番危なっかしい奴に言われても説得力ねぇし」
「そうね、こればっかりは屍達の言う通り過ぎて草も生えないわね」
「てめぇら…」
「まぁ、まぁ、蒼…本当の事だし」
「お前ら揃いも揃って何なんだよ…」
蒼は他の四人に言われたい放題であった。
まぁ、確かにこの中で一番危なっかしいのは蒼である事には違いなかった。
今回の件でも蒼がやらかしたせいでこうなった訳だし。
「じゃあ、今日はこれで解散だな」
「ああ」
そう言って五人はそれぞれ帰りの支度を始めた。
「さてさてさてさ~~て。面白い事になって来たぞよ~」
十二支連合帝国のとあるビルの屋上で誰かがそう呟いた。
彼の名は神混髏奇。この世界に混沌をもたらそうとする存在である。
本当は彼の神混髏奇という名は偽りの名であり、本当の名前があるがそれはここではまだ語られる事は無い。
黄色の髪と赤と黄色のオッドアイ、右頬に黒い涙のペイントが付いており、派手なピエロ衣装を着ていた。
彼の姿は正にピエロのそれであった。
「パルテミシア十二神がまさかこんな事で重い腰を下ろすなんてねぇ…こりゃあ、楽しみだ♪ウホッ、いい展開♂」
髏奇は訳の分からないテンションでそう言った。
それほど彼は今、ワクワクしている。
パルテミシア十二神は基本的にはこちらの世界に干渉する事は出来ない。
何故なら、彼らの役割は世界の調和を乱した時にその調和を取り戻す時にしか動く事が許されないからだ。
「だが、彼等の重い腰を下ろすにはいくつか方法がある。その内の一つが決闘。パルテミシア十二神から申し込んだ決闘を相手が了承する事で戦いが成立する。ふふふ…時神蒼は実に面白い…いや、フローフル・キー・ローマカイザー…二つのカイザーの名を持つ傲慢な男…」
髏奇はそう呟いた。
髏奇は今の平穏なこの世界に飽き飽きしていた。昔と違い大きな争いが無くなったからだ。
髏奇は多くの戦争を体験し、そして、見てきた。戦いは…争いはいい刺激になる。
そして、それを第三者として傍観する事が髏奇にとっては非常に楽しかった。
今でも小さな争いはあるがそれでもやはり退屈であった。
しかし、そんな髏奇はいい最近になっておもちゃを見つけた。
イシュガルドというおもちゃが無くなって退屈していたその時、彼は見つけた。
ルミナスだ。ルミナス・アークキエル・ローマカイザー…彼女はこの世界に変革をもたらす。
髏奇はそう感じていた。そして、実際、ルミナスはローマを統一した。
前に起こったヘレトーアの一件もルミナスは大いに戦果を上げ、敵を蹂躙した。
ルミナスがもっと本気になっていればもっと速くカタが着いただろう。
「僕はね、君にはあまり興味無かったんだ…時神蒼…けど君はルミナスにとって重要な「鍵」であり、そしてイシュガルの重い腰を下ろした…少しばかり興味が出てきたよ」
髏奇は蒼の事を初めはルミナスの「鍵」としか見ていなかった。
しかし、ヘレトーアであのアラルガンドを倒し、そして今回、イシュガルと決闘する運びとなった。
「僕も見に行こう…まぁ、彼等にバレない様、細心の注意を払わないと行けないけどね」
相手はパルテミシア十二神だ。
いくら幻術に優れている髏奇であろうと見つからない様にするのは難しいだろう。
だが、髏奇には策がある。そう、髏奇にしか持たない策が…
「僕はね、この世界で最も崇高な存在なんだ…パルテミシア十二神の様に何か起こらないと何も出来ない置物じゃあ、無いんだよ!」
髏奇の周囲に魔法陣が出現した。
その魔法陣はやがて光輝き、髏奇を照らした。
魔法陣の光に照らされている髏奇はそれはまるで魔王の様であった。
「僕は全てを創る事が出来る…文字通りね…」
そう言って髏奇は高らかに嗤った。嗤い続けた。
To be continued




