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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第一章】十二支連合帝国篇
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【第一章】十二支連合帝国篇Ⅸ-進軍-

 天草屍はとうとう進軍を開始した。蒼は赤島を倒し、慧留と共に先に進むが再び新たな敵と遭遇することに!?

 魔道警察官と「アザミの花」の構成員が島の至る所で戦闘を繰り広げていた。そんな中、突如門が出現した。

「何だあれは?」

 そして現れたのは一人の青年だった。青色の髪をしており、目は片目が隠れていた。そして、不思議な雰囲気がある青年だった。

「私は…「アザミの花」のリーダー、天草屍だ。この戦いを終わらせに来た」

 屍はそう宣言した。そして、その瞬間、神器を手に取った。

 屍の神器は日本刀の形をしていた。その神器で一人の警官の身体を真っ二つにした。

「進めええええええええええええ!!」

 屍が命令すると「アザミの花」の構成員たちの士気が上がった。戦場は一気に「アザミの花」が圧倒するようになった。

 戦場には佐藤もいた。

「ボス自ら来るとは…これはマズいことになった…」

 佐藤はそう呟いた。

「この戦いに勝つのは我々、「アザミの花」だ」

 屍はそう呟いた。


 湊は必死に逃げていた。

 相手が相手だ。どう頑張っても湊では勝てないことは明白だった。

 相手は十二神将の中でも上位の実力者、兎咬審矢だ。相手が悪すぎる。

 兎咬審矢、彼は「アザミの花」の中でも最も顔が世間で知れ渡っている。彼は貴族の生まれであり、兎咬家の一族だった。

 兎咬家は妖怪の隠し神の一族であり、この一族は人間に紛れて暮らしていた。そして、彼らの先祖が金塊を発掘し、瞬く間に貴族としての地位を確立した。

 しかし、十年前とある事件がきっかけで彼らが妖怪の一族であることがバレ、今なお迫害の対象とされている。

「逃げるのか…まったく…腰抜けな奴だ」

 そう言って、兎咬は剣を振った。すると、衝撃波が発生し、湊はそれにふっ飛ばされた。

「私には最強の矛である【天羽アメノハバキリ】と最強の盾である【八咫鏡ヤタノカガミ】がある。この二つの力を使えるのが私の【須佐之男命スサノオノミコト】の力だ」

 【須佐之男命スサノオノミコト】は剣と盾の神器である。【天羽アメノハバキリ】は全てのものを切り裂く魔剣と言われており、【八咫鏡ヤタノカガミ】は全ての攻撃を防いでしまうと言う。

「まさに、無敵の神器という訳か…なら、その矛と盾、どっちが強いんだい?」

 湊は兎咬に問いかけた。

「矛盾か…下らん。そんな事…これから死ぬ貴様に言う必要は無い」

 兎咬は湊の質問に答えなかった。

「霊呪法第十番【影分身ドーブル】」

 湊が霊呪法を唱えると湊の分身が大量に出現した。

「分身か…下らん。【天懺悔アマノザンゲ】」

 兎咬が【天羽アメノハバキリ】を振り上げた瞬間、衝撃波が発生し湊の分身を全て吹き飛ばした。

 しかし、本体はどこにもいなかった。

「式神【青流セイリュウ】!」

 湊は式神を放った。湊は式神を使うことに長けており、その腕は一流だ。

 【青流セイリュウ】は魚の形をした式神であり、体調は一メートル程だ。【青流セイリュウ】が水のブレスを放った。しかしー

「【八咫鏡ヤタノカガミ】」

 兎咬が盾を前にして、水を防いだ。そして、防いだ水が「そのまま」湊に帰ってきた。

「ぐはっ!」

 水がもろに湊に直撃した。湊はそのままふっ飛ばされた。さらに、追い打ちをかけるかの如く兎咬は攻撃をしてきた。

「【十六夜小夜紫雨イザヨイサヨシグレ】」

 兎咬の【天羽アメノハバキリ】から光の棘が飛び出してきた。その棘が湊の身体を貫く。

「っ!!」

 湊は苦悶の表情を浮かべた。そして、身体が倒れたまま動かなくなった。

「終わりか…あっけなかったな。まぁいい、これで終わりだ」

 そう言って、兎咬は湊に止めを刺そうとする。

「ここは…逃げるが勝ち…だな…」

 湊がそう言うと兎咬が「何?」と言った。すると、湊の周りから陣形が見えた。

「どういうことだ?」

 湊が尋ねる。すると、湊は答えた。

「俺の逃亡術だよ…俺は最初から君と戦うつもりは無いよ。逃げることだけを考えていた。そして、逃走してる時から結界を張ってたんだよ」

 湊がそう言うと兎咬は顔をしかめた。

「何だと…」

 湊の身体が消え始めた。

「【瞬身結界しゅんしんけっかい】」

「逃がすか!」

 兎咬が湊に接近し【天羽アメノハバキリ】を振り上げたが、その剣は虚空を切り裂くのみだった。

「そう遠くへは行けないはずだ。奴は結界を使う術者…結界を張るには一概には言えないが…広い場所が好ましいはずだ、逃げたとしたら外か…」

 そう言って兎咬はアジトの外へ向かっていった。



 蒼と慧留はアジトの前まで辿り着いていた。

「ここだな…複数の不気味な気配がする…」

 蒼はそう呟いた。慧留も気配を感じ取ったのか顔を強張らせていた。

「行こう…蒼」

 慧留がそう言った瞬間、アジトの入り口の前に結界陣が現れた。その結界陣が光り出した瞬間、湊が傷だらけの状態で出て来た。

「湊!!」「湊君!?」

 蒼と慧留は湊の前に駆け寄った。湊の傷はかなり深かった。

「ラッキー。時神君と月影さんと合流できるなんて…」

「すぐ治すから!」

 慧留は湊の傷を治療治した。否、厳密には湊が傷を負う前の時間に戻しているのだ。

 「時間回帰」、慧留が持ってる特異な力だ。

「誰にやられた?」

 蒼が湊に尋ねると湊はすぐに答えた。

「「アザミの花」の幹部にやられたよ…相当な使い手だった。俺じゃあ、逃げるのが精一杯だった」

「いや、無事に帰って来ただけよくやったよ、お前は」

 蒼がそう言うと湊と慧留がキョトンとした顔をした。

「何だよ?」

「いや、君が他人を労うなんて思わなかったから…」

 湊がそう言った。慧留も似たようなことを言いたげだった。

「…お前ら俺を何だと思ってたんだよ…今まで」

 蒼が納得のいかないような顔をした。

「まさか…こんなところまでワープ出来るとはな…侮っていたぞ…少年」

 アジトの入り口の前から声が聞こえた。

 声の主は黒髪のぼさぼさ頭でブラウンの瞳を持った青年だった。さらに、神器らしきものも所持していた。

 そう、彼は逃げた湊を追跡してここまで来た、兎咬審矢である。

 その強大な霊圧を前に蒼は絶句した。何故なら、あの赤島とタメ張る程の霊圧を放っていたからだ。

「マジかよ…赤島以外にもまだこんな奴が…」

「ん?赤島を知ってるのか…貴様は……ああ、そうか……君が……」

 兎咬は納得したようにそう言った。

「?俺を知ってるのか?」

「ああ、よく知っているさ。貴様が赤島の言っていた「天使使い」だな。赤島は確か、ここら辺を守備していたはずだが…」

 蒼の質問を兎咬は淡々と答えた。

「赤島は向こうで寝てるぜ…」

 蒼が兎咬にそう答えた。

「なるほど…君が赤島を倒してしまったのか…だとすると厄介だな…まぁ、どうにかなるか…」

 兎咬はそう言って神器を構えた。

「剣と盾の神器か…厄介そうだな…」

 蒼がぽつりと呟く。

「行くぞ!私は赤島のように甘くはないぞ」

 兎咬はそう言って、【天羽アマノハバキリ】を振り上げた。



「まぁ、これで何とかなるかな…」

 美浪は岩陰に隠れて傷を包帯で巻いて応急処置をしていた。破けてしまった服は使える布を身体に巻き付けてどうにかした。

 その分かなり露出は多いが…

「さてと!ほな行くか!」

 そう言って美浪は岩陰から出た。しかし、外に出た瞬間、美浪は絶句した。

「なっ!?」

 美浪の見た光景は魔道警察官が「アザミの花」によって蹂躙されている光景だった。

「ぐああああああ!」

 警察官が「アザミの花」の構成員の神器によって切り裂かれ倒れた。そこら中に警察官の死体があった。

 「アザミの花」の構成員の死体もあったが、明らかに警察の死体が多かった。

「どうしてこんな…」

 美浪は顔を青ざめていた。確かに、「アザミの花」はかなりの組織力を持っているが魔道警察はこの国の最高戦力の一つなのだ。こうも一方的にやられるとは考えずらかった。

「奴を殺せ!奴が敵の頭だ!」

 そんな声が聞こえた。美浪は視線を移した。すると、それらしき人物を美浪は認識した。

 見た目は二十代と言った所か、髪は青色で片目が隠れていた。不思議な雰囲気がある青年だった。

 その青年が神器を使って、警察官を打ち倒していた。「アザミの花」の構成員の誰よりも。

 その男の名は天草屍、「アザミの花」のリーダーだ。

 殺し方は残忍そのもので頭から股を切り裂いたり、上半身と下半身を真っ二つにしたり、両目をくり抜いて殺したりと実にえげつない殺し方をしていた。

 -そういうことかいな…

 美浪は今の状況を把握した。恐らく「アザミの花」のリーダーである屍が戦場に立ち、敵を打ち倒しながら指揮をすることで、部下たちの士気を上げたのだ。

 勿論、屍が敵を大量に打ち倒しているのもあるが、それによる、部下の士気の上昇が最も大きいのだろう。

「ん?この辺りに強い霊気を感じる…そこか!」

 屍はそう言って、美浪に接近し、神器で切り裂こうとした。しかし、美浪はその一撃を寸でのところで躱した。

「やはりただ者ではない…か…」

 屍がそう言うと美浪は恐怖で震えていた。今まで出会った敵とは桁違いの霊圧だった。

「君は…どうやら妖怪のようだね…なぜこんな所に?」

 屍は美浪に尋ねてきた。

「あなたたちを止めるためや」

 美浪はそう答えた。

「君は魔族…私たちの仲間だ。敵同士じゃない!むしろ、仲間だ!何故、人間などに加担する!?」

 屍は美浪に疑問を投げかけた。

「…「アザミの花」が魔族を救うために動いてるってのは…なんとなく分かる…私も人間には散々な目にあわされたこともあるわ…けどな、こんなやり方やったら、何も変えられへん。お前は…間違っとる!私はお前らを止める!」

 美浪はそう、宣言した。

「………残念だよ……私たちに歯向かうということは、死を意味するよ…出来れば同族を殺すのは嫌だったが…仕方ない…君には…死んでもらう!」

 屍は涙しながら美浪に切りかかってきた。

 美浪は屍と戦闘を始めた。



 一夜と澪はアジトの最深部の近くまで来ていた。

 ここまで来る途中、ブービートラップや仕掛けなどが色々あったが、一夜がアジトの構造をすべて把握していたため、全て無意味だった。

「ここが奥の部屋だね~?」

 澪がそう一夜に聞くと一夜は「間違いないよ」と言った。

 そして、澪は扉を霊圧だけで吹き飛ばした。すると、奥に大きな玉座があり、そこに、一人の女性が座っていた。

 その女性は紫色の髪をしており、髪の長さはセミロング程度だろうか…そして、蛇の様な目が特徴的だった。体格は澪とほぼ同程度だった。

「よくここまで来たわね…」

 女はそう答えた。

「君が「アザミの花」のリーダーかい?」

 一夜が聞くと女は首を縦に振った。

「いかにも、私が「アザミの花」のリーダー、蛇姫薊へびひめあざみよ」

 薊がそう答える。

「自分の名前を組織の名前にするなんてベタな発想だね。まぁ、君を倒せば戦いは終わるね」

「終わるといいわね…私を殺して…終われば…ね」

 薊はそう言って神器を取り出した。神器は杖の様な神器だった。

「【伊弉冉舞姫イザナミノマイヒメ】」

 すると、神器が傘のように変化した。

「来るね…」

 澪は戦闘態勢に入った。



 兎咬と蒼の激闘は続いていた。慧留は隙をついて、湊を連れて、蒼から遠く離れた。

 そして、湊の傷を治していた。

 湊の剣、【天羽アメノハバキリ】と蒼の刀【氷水天皇ザドキエル】がぶつかり合う。

「【ハイリッヒレーゲン】!」

 空から光の雨が降ってきた。しかし、兎咬の盾、【八咫鏡ヤタノカガミ】により、完全に防がれてしまった。

 しかも、【八咫鏡ヤタノカガミ】はその鏡で受けたダメージをそのまま相手に跳ね返す。

 蒼は自ら放った【聖雨ハイリッヒレーゲン】を【八咫鏡ヤタノカガミ】によって返され、直撃した。

「がはっ!」

「私には最強の矛と盾がある!貴様ごときがどうこうできる代物ではない!」

 兎咬は蒼にそう言い放った。

 -最強の矛と盾か…両方厄介だが…やっぱ盾の方が面倒だな…攻撃が喰らわないどころか跳ね返った来るとは…まさか、自分の技を受けることになるとはな…

 蒼は表情を曇らせていた。

「やはり、盾をどうにかしねぇと…」

 蒼はそう言って兎咬に突っ込んでいった。

「【王剣誘オウケンノイザナイ】」

 兎咬の剣、【天羽アメノハバキリ】が紫色に輝き、長さが拡張していた。およそ、三メートルほどの長さになっていた。

 その剣が蒼に襲い掛かる。

「ぬうおおおおおおおおおおおおお!」

 蒼はその剣によって、吹き飛ばされてしまった。

「クソ!攻守ともに隙がねぇ!メチャクチャやりずれぇ!」

 蒼は苦言を漏らした。そう、【須佐之男命スサノオノミコト】の厄介な所は攻守ともに安定した力があることである。

 攻撃は【天羽アメノハバキリ】、防御は【八咫鏡ヤタノカガミ】がある。神器の中でも非常にバランスが取れた神器なのだ。

 赤島の【天照大御神アマテラスオオミカミ】や狂の【月読尊ツクヨミノミコト】のような派手且つ、強大な破壊力は無いものの、これらの神器と違い、非常に安定した戦いができる。

 【須佐之男命スサノオノミコト】は【天照大御神アマテラスオオミカミ】や【月読尊ツクヨミノミコト】と対等の力を持つ神器である。弱いはずが無い。

 まさに、用心深い兎咬に相応しい神器である。

「この程度か…」

 兎咬は呆れたように呟いた。

「何…だと…」

 蒼の身体はかなりガタが来ていた。いくら傷が回復しようとも、十二神将と三連戦しているのだ。体力が限界に近付いていた。

 慧留は身体の傷は治せても、霊力や体力までは回復させられないという欠点も存在する。

 さらに、先ほどの一撃で蒼自身かなりのダメージを受けていた。

「この程度の相手に…赤島は負けたのか…まったくあいつは…甘い男だ」

 兎咬はそう言いながら蒼を見渡していた。


「これで何とか治ったよ」

 慧留はたった今、湊の治療を終えた。

「ありがとう、月影さん。助かったよ…」

 そう言って湊は蒼の元へ向かった。

「ちょっ…どこに行くの?湊君?」

 慧留が湊に尋ねる。

「蒼を助けに行く。蒼は限界が近い。俺も加勢しないと…」

 湊がそう言うと慧留はすぐに納得した。

「そうだね!そうした方がいいよね。蒼は大分無茶してるし…」

 慧留がそう言うと湊は驚いた表情をした。

「てっきり、俺じゃ役に立たないとか言うと思ったけど…」

 湊がそう言うと慧留はそれを否定した。

「ううん、そんなことないよ。私も、蒼もあなたのことを認めてるよ。最初からね、だから、蒼をお願いします」

 慧留がそう言うと湊が「分かった」と言って蒼の元へ走り出した。慧留は湊の後姿を見守っていた。


 -クソ!【白天世界エンゲルアルビオン】を使うか?どうする?

 蒼は【白天世界エンゲルアルビオン】を使用するかを戸惑っていた。あの力は天使の二段階目の解放であり、莫大な力を得ることが可能である。

 赤島との戦いでその力を見せている。しかし、【白天世界エンゲルアルビオン】は使用すると莫大な霊力を消費する。さらに、蒼自身、あの力を制御しきれていないのだ。

 体力を消耗しきっている今の状態で使うのはかなりリスキーなのである。

「これで…終わりだ」

 兎咬が【天羽アメノハバキリ】を振るった。しかし、その瞬間兎咬の後ろから霊呪法が放たれていた。

「霊呪法第一二三番【九龍尖くりゅうせん】」

 霊力の針が兎咬に襲い掛かる至近距離で尚且つ後ろからの攻撃だった為、兎咬は湊の攻撃を防ぎきれずに纏っていた霊力の鎧を剥がされ、ダメージを受けた。

「くっ!」

 兎咬は苦悶の声を上げた。兎咬は【須佐之男命スサノオノミコト】を操っている時、霊力の鎧が顕現されるがあくまでも飾りに過ぎない。

 鎧自体の防御能力は低い、何故なら、防御性能がほぼ【八咫鏡ヤタノカガミ】にあるからだ。

「湊…」

「俺も戦うよ」

 蒼が湊の名を呼ぶとそう答えた。

「なるほど…どうやら私は君たちを甘く見ていたようだ…これでも気を抜いていなかったつもりだったのだがな…」

 兎咬がそう言うと二人は身構えた。

「どうする?奴の鏡はどんな攻撃も跳ね返してしまうぞ…」

 蒼が焦っている様子に対して湊は冷静だった。

「分かってる…けど、奴の盾は守れる範囲が決まっている。そこを突けば…」

 湊は先ほどの霊呪法で兎咬の【八咫鏡ヤタノカガミ】は兎咬を百八十度全てを守れないことを証明した。

 先ほど湊が放った霊呪法は単純な不意打ちだけではなく、そういった意味もあったのだ。

「だが、どうする?」

 蒼が尋ねると湊はすぐに答えた。

「蒼はしばらくの間、あいつを引き付けて」

「…分かった」

 蒼は湊の真意は分からなかったが湊の言うことに従うことにした。

 湊は頭脳明晰の秀才だ。単純な戦闘力は他の生徒会メンバーよりはるかに劣るが、知略と戦略を練った巧妙な戦いが出来るのは生徒会の中では湊だけである。

 蒼は湊を信じることにした。蒼は兎咬に真っ向勝負を仕掛けた。

 しかし、兎咬は蒼の攻撃を軽々と受け流した。

「その程度か!」

「うるせぇ!」

 そう言って蒼は兎咬と剣の応酬を繰り広げた。


 湊は隠形を使いながら、陣形を作っていた。

 湊は隠形を使うのがかなり上手い。文句なしの一流である。実際、兎咬にも気配を悟られること無く、背後に近づき、霊呪法を放っていたのだから。

 湊の作る陣形は基本的には式神の力を媒介にして扱う、非常に強力な陣形術だが、発動に時間が掛かるという大きなデメリットが存在する。その為、湊は一個人で戦う戦闘にはあまり向いていない。

 むしろ、湊が本当に真価を発揮するのは味方のサポートや集団戦の時である。

 湊は陣形を作りながらちょくちょく蒼の様子を見ていた。

 -時神君はすごいな…あんな奴と対等に戦えるなんて…

 湊は胸中でそう呟いた。湊は澪や遥、蒼や美浪の様な高い戦闘力は持っていないし、慧留のような特異な力を持っているわけではない。

 彼らに対して劣等感を持っていないかと言われたら嘘になる。実際、それで悩んだ時もあった。

 自分では足手まといになるのではないかと…

 しかし、湊を生徒会に推薦した常守澪は湊の真価に気付いていた。

『俺…本当にここにいてもいいんでしょうか?俺じゃあ足手まといに…』

 湊は澪にそう言ったが澪はそれを否定した。

『ううん、確かに単純な戦いになると君は弱いと思うよ。けど、君は頭を使った、戦術や知力と言った戦いに関しては誰より優れてる。集団戦においてそれはとても大事になる。そして、そんな戦いが出来るのは生徒会の中では君だけだ。皆君の事を認めているわ』

 湊はそんなことを思い出していた。澪だけじゃない。他の皆も湊の事を認めているのだ。

 さっきほど遥も湊を信用してるからこそ、自分と共に残るように言い、任せたのだ。

 銀一山しろがねいちざんとの戦いの時でも美浪は湊の事を信じてくれた。

 先ほどの慧留も湊の力を信じていた。そして先ほど、蒼も湊に任せてくれた。

「俺は…必ず勝つ!」

 湊は陣形を完成させた。


「ぐわっ!」

 蒼の斬撃を兎咬は【八咫鏡ヤタノカガミ】で防ぎ、その斬撃を蒼に跳ね返した。

「ぐっ…」

 蒼は既に満身創痍だった。

 兎咬はゆっくりと近づく。すると、あることに気付いた。

 -あの少年はどこだ-?

 しかし、気付いた時にはもう遅かった。周囲には巨大な陣形が貼られていた。

「この私が敵の存在を忘れるだと?そんな馬鹿な…」

「昔から…どうも忘れられやすいんだよな~、俺」

 兎咬が焦りの表情をしていると湊はそう呟いた。

「【雷帝陣】と【水展陣】…地面と上空に二つの結界陣を仕込んだ。防げるかな?」

 湊がそう言うと地面から大量の水が飛び出してきた。兎咬はその水で上空に押し上げられるが、【八咫鏡ヤタノカガミ】で水を防いだ。しかし、上空から雷が落ちてきていた。

「くっ!」

 兎咬は【八咫鏡ヤタノカガミ】を上空に向け、先ほど受けた水を反射して返した。しかし、その瞬間、兎咬の横から蒼が襲い掛かっていた。

 しかし、兎咬は蒼のいる方向に向きを変え、【天羽アメノハバキリ】で蒼を迎撃した。

「【王剣誘オウケンノイザナイ】!」

 兎咬は蒼を吹き飛ばし、一安心したがそれが命取りとなった。

 兎咬の後ろに湊がいた。

「霊呪法第三二一番【風太刀鎗かざたちのやり】!」

 湊は霊呪法を唱えた。その瞬間風の巨大な鎗が兎咬の胴体を貫いた。

「がはっ!」

 兎咬は吐血したが、それだけでは終わらない。

「まだ終わらんんんんんんんんん!」

 そう言って、【天羽アメノハバキリ】で湊の身体を切り裂いた。

「かっ…」

 湊はそのまま吹き飛ばされた。兎咬はそのまま自由落下した。


「くっ…湊は…」

 そう言って蒼は湊が落ちていった方向に進んでいた。すると、その先には兎咬が倒れていた。

 腹に風穴が空いており、さらに落下の衝撃で深刻なダメージを受けていた。

 しかし、蒼にとっては湊を優先しなければならなかった。先程、湊は空中で兎咬にダメージを与えた後、兎咬が悪あがきをして、湊に【天羽アメノハバキリ】で致命傷を与えた。そして、湊はそのまま落下してしまったのだ。

「無事でいてくれ!」

 蒼はフラフラになりながら歩いていた。そして、湊の元に辿り着くがそこにはすでに慧留がいた。

「慧…留…」

 蒼はそう呟いた。

 慧留は気絶してる湊の治療をしていた。命に別状は無さそうだった。

「湊君のケガは治ったよ。次は蒼だね」

 慧留はそう言って蒼の傷の手当てを始めた。



 兎咬審矢は幼少の頃は裕福な暮らしをしていた。人間の友達もたくさんいた。

 そう、十年前までは…

 兎咬家は隠し神の一族だった。表では貴族として、裏では妖怪としての仕事をしていた。

 隠し神は子どもをさらう妖怪である。夕刻まで遊んでいる子どもをさらう。

 そうすることで、子どもたちに恐怖を与えることでその恐怖を養分としてきた。

 妖怪の大半は生物の恐怖心を養分としているものが大半であり、隠し神も例外ではなかった。

 しかし、兎咬家は隠し神の一族の中でもかなりの穏健派であり、子どもをさらうことなど滅多になかったし、さらった子供は数日後には元の場所へと返していた。

 兎咬家は人と共に生きることを望んでいたのだ。

 だが、兎咬の父が子どもをさらっている所を魔道警察に目撃されてしまったのだ。その後、あえなく兎咬の両親は捕まり、魔道警察署に送られた。

 現在も兎咬の両親は魔道刑務所の牢屋にいる。

 その後、兎咬家は没落し、兎咬は家族を失った。それだけでなく、周囲の人間にも兎咬のことが知れ渡り、完全に見放された。

 それどころか、かつての友人たちに迫害されることすらあった。そして、兎咬の居場所は失ってしまっていた。

 兎咬は自身の運命を呪った。なぜ自分がこんな目に合わなければならないのだと。

 兎咬はフラフラになりながら街を歩いていた。

 そんな時、天草屍はやって来た。

「可哀想に…人間たちにひどいことをされてきたんだね…なぁ、俺たちと来ないか?」

 屍は兎咬を勧誘した。

「………」

 兎咬は無言で屍を睨み付けていた。兎咬は家族や友人、周囲の人たちを信じていた。なのに、自分が妖怪だと分かった瞬間、他の者たちは兎咬を裏切った。

 兎咬は屍の事を信じられずにいた。また…裏切られるのではないかと、そう思ったのだ。

「俺たちはある組織を立ち上げたんだ。「アザミの花」、それが俺の作った組織だ。この組織は人間に報復し、魔族は絶対的な力があると人間共に分からせてやるために作った組織だ。力で民衆を支配するんだ。そうすれば君の望みも叶うよ」

 屍がそう言うと兎咬の表情が変わった。屍は兎咬の事を見透かしていたのだ。

 兎咬は自身の運命を呪った。そう、兎咬は分からせてやりたかったのだ。「自分が選ばれし者」だということを。

 兎咬は力を見せれば自分の言うことを聞く、裏切らなくなる。屍の言葉を聞き、そう思ったのだ。

 兎咬は屍について行った。自身の力を証明するために。



「そう、私たち「アザミの花」は皆それぞれの思惑があり、その上で動いているのよ。だけど、皆共通している絶対の理念がある。それは人間に対する「報復」よ」

 薊はそう言い放った。一夜は無言なのに対して澪は口を開いた。

「うん。君たちの言いたいことは分かったよ。けど、君たちのやってることははっきり言って「傲慢」だよ。気に入らないことがあれば、力でねじ伏せる…そんな傲慢な人間と変わらないわ」

「あなたには分からないでしょうね…今まで平和にのうのうと生きてきたあなたたちには!」

 薊はそう言って神器【伊弉冉舞姫イザナミノマイヒメ】で、澪を殴りつけた。

 澪はそれを片手で受け止めた。しかし、【伊弉冉舞姫イザナミノマイヒメ】から針が飛び出した。

 澪の右手から血が出た。そして、その血が神器に薊の神器に飛び散った。

 薊は神器に付いた血を舐めた。すると、澪が倒れだした。

「澪君!」

 一夜が声をかけるが一夜は澪に近づこうとはしなかった。近づいても何の役にも立たないことを理解しているからだ。

「何…?これ…」

「私の神器の能力よ…このまま殺してあげる…」

 薊の神器、【伊弉冉舞姫イザナミノマイヒメ】は致死量を操る能力だ。

 どの物質も実は有毒で摂取を続けていると死に至る。そのデッドラインを致死量と言う。水は十リットル、コーヒーなどに含まれるカフェインの致死量は一万ミリグラムと言われているようにどの物質にも致死量が存在する。

 薊の神器【伊弉冉舞姫イザナミノマイヒメ】は指定したものを取り込むことで相手の致死量を下げることが出来る。

 例えば先程、澪の血を薊は神器を介して取り込んだ。これにより、薊は澪の血の致死量が大幅に下げたのだ。

「後、五分程であなたは死ぬわ。生憎、私は相手を即死させるほどの力は無い。けど、打ち破るすべもないわ!」

 薊は高らかにそう宣言した。

「あなたは…いつ…あたしに…こんな攻撃を…したかな?」

 澪は息絶え絶えになりながら薊に質問をした。

「答える訳ないじゃない…敵同士よ…私たち」

 薊はそう言った。

 -なら、自分でどうにかするしかないか…まぁ、この手の能力だし、喋るはず無いか…

 澪は自身の体構造の解析を始めた。澪は自身の身体の状態を解析する能力を有している。

 そして、驚愕の表情を浮かべた。

 -何これ…あたしの血が毒に変わってる…考えられるとしたら…にわかには信じられないけど…致死量を操作する能力…厄介な力ね。

 澪は相手の能力を分析し、当てて見せた。湊程では無いにしても、澪は明晰な頭脳を持っている。特に、自身の状況判断能力は非常に高い。

 -あたしの力じゃ毒を解除することは出来ない。五分以内に戦闘を終わらせるには絶対条件…じゃないとあたし死ぬし…

「【星接続スターギブス】」

 澪は身体を強制的に動かし、薊に素手で攻撃をした。

「なっ!?なぜ動けるの!?」

 薊は疑問に思いながらも澪の攻撃を神器で受け止めた。

 【星接続スターギブス】は動けない身体を一定時間強制的に動かす技である。常守澪は太古も時代に封印された古代魔法【天星魔法】の使い手である。

 薊の能力は非常に強力だ。短期決戦が望ましい。と言うより、五分以内に片を付けないと澪が自身の血で作り出された毒で死んでしまう。

「これで…終わらせてもらうよ!【星混沌旋風スターカオスストリーム】!」

 澪の右手から惑星を模ったエネルギー弾が放たれた。そして、そのエネルギー弾が薊の腹部を貫いた。

 更に澪は追い打ちをかけるように【星混沌旋風スターカオスストリーム】を連射し、薊の身体を貫いた。

「ぐあっ…」

 薊はあえなく倒れた。これで勝負は決したかに思えた。しかしー

「ぐっ…毒が…さらに強く…それに…神器が解放されてるまま…」

 澪は苦悶の表情を浮かべた。そして、薊は立ち上がった。

「私は負けない…絶対に…」

 薊の身体に開いていた風穴が、みるみると治癒していく。

「…!」

 澪の顔が驚愕の表情に変わった。

「もう…その攻撃は喰らわないわ…」

 薊が余裕そうな顔でそう言った。

 フェアレーターノアール第九話を投稿しました。あと少しでこの章も終わりです。これからどんどんキャラが増えていきます…覚えられるかな…

 今回は湊君が活躍する話でしたね。彼は個人戦は苦手で集団戦が得意なキャラとして書いています。まぁ、その分他の子たちより苦労が絶えないキャラでもありますね。そんな彼の活躍を見てくれていたなら幸いです。

 さぁ、澪さんがピンチですがここからどう巻き返すのか?次にお会いしましょう!

 それでは!

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