【第七章】海王の花嫁篇ⅠーDuelー
イシュガルがプロテアにプロポーズをしてきた。
プロテア本人は勿論、蒼達も完全に固まってしまっていた。
「いやいやいや、どういう事だよ!?ゼウス!!」
「いや、何で僕に聞くんだよ?普通イシュガルに聞くもんじゃ無いの?」
アスディアが自分に問い掛けられるのが予想外であったようで自身の金髪をボリボリと掻いた。
蒼は白黒混じりの髪を弄りながらアスディアに青と黒のオッドアイで見つめた。
「フローフル…そんなに熱い視線を向けないでくれ、興奮するだろ?(*´ω`*)」
「てめぇマジぶっ殺すぞ」
「冗談だよ!冗談!ジョークだよ!全くもう…まぁ、いいや、僕が説明するよ」
アスディアは改まってこほんと言って話し始めた。
「イシュガルはね、子孫を残せないんだよ。イシュガルは特殊な霊力を持っていてそのせいで子を宿せないんだよ。その為に自身の力を人間に馴染ませ、適合した子を花嫁にするという約束をプロテアの先祖とイシュガルがしたのさ」
「つまり…イシュガルドのお家騒動にプロテアが巻き込まれたって事かよ?」
アスディアの話に屍が単刀直入にプロテアの今置かれている状態を口にした。
天草屍は紺色の髪に片目が隠れており、青色の瞳が特徴の青年だ。
「まぁ…そうなるね…どうだろう?プロテアさん、イシュガルの花嫁になってくれないかな?身内ひいきもあるかもしれないけど、イシュガルはいい男だと思うよ?絶対に君を幸せに出来ると思うけどね」
アスディアがプロテアにイシュガルの花嫁になるように勧誘をしてくる。
しかし、そこに水色のセミロングの髪と瞳を持った少女が割って入ってきた。霧宮美浪だ。
「ちょっと待ってください!いきなりそんな…急すぎますよ!」
美浪の言う事も最もだ。
いきなり知らない男に花嫁になってくれと言われても困るだろう。
花嫁になるという事は結婚するという事だ。
結婚はお互いの人生を大きく左右する重要な分岐点だ。そんな大事な事をいきなり言われても戸惑うだろう。
「う~ん、そうかな?僕昔は一度会った女性と即結婚するなんて日常的だったんだけどね~?」
「それはお前だけだ」
「イシュガル?僕は君の味方の筈なのに何で君は僕の発言を否定するのさ?」
「向こうの反応が普通だ。いきなり知らん男に求婚されても戸惑うだろう」
「そう言うもんかな?」
「そう言うもんだ。いいからお前は黙っていろ。さっきから貴様は話をややこしくするだけしといて他は何もしてないだろう。正直、邪魔でしかない」
「ひどい!?」
アスディアはイシュガルの言いように泣きそうになった。
いくら何でもあんまりだとアスディアは思ったがイシュガルはスルーした。
「本当にウチのバカが済まない。それと…いきなりこんな話を言われても戸惑うのは当然だな、済まない」
「アンタ…結構奥手だろ?」
謝るイシュガルに空気の読めてない発言が飛んで来た。
赤い瞳と髪が特徴の男がそう言った。彼はインベル・ヴァレンテ。蒼が神聖ローマにいた頃の友人である。
「そうね…紳士的ではあるけど、どこかぎこちないわね」
薄紫色の御下げの二つ括りの髪に瞳が特徴の少女がそう言った。
彼女の名はアポロ・ローマカイザー。蒼の友人であり、蒼の従姉でもある、神聖ローマ第三皇女だ。
「君達…手厳しい事を言うね」
「そりゃ、あなたみたいなお偉いさんがそんなぎこちなかったら俺たちじゃ無くても驚きますよ」
イシュガルが言うとインベルが言葉を返した。
どうやら、インベルもアポロもアスディアとイシュガルが自身とかなりイメージが違っていたらしくかなり驚いていたようである。
「それにしても…随分デカイ話になって来たね…」
アッシュブロンドと三白眼が特徴の青年がそう呟いた。
彼の名は苗木一夜、彼は今近くにあるマンションである苗木日和を経営している色々とミステリアスな雰囲気を漂わせている青年だ。
「で?お前はどうすんだよ?」
蒼が銀髪赤目の少女に問い質した。
彼女の名はプロテア・イシュガルド、今、目の前にいる男、イシュガルに今まさに求婚されている所である。
「………」
プロテアはさっきから一言も喋っていなかった。
そして、困った様な顔をしていた。
イシュガルと結婚する事に迷っている…訳では無い事は蒼は何となく察した。
そして、プロテアが今思っている事が少しだけ分かった気がする。
なら、蒼が取る行動は一つである。
「断るぜ」
蒼はそう呟いた。
そう、蒼はプロテアの思っている事全ては分からない。だが、これだけは分かる。
プロテアはイシュガルと婚約する事を拒んでいる。
蒼は何故かそんな気がしたのだ。
「蒼!?」
黒髪黒目の凛とした雰囲気を持った少女が蒼の名を呼んだ。
彼女は月影慧留、蒼の仲間である。
どうやら、慧留は蒼の突然な行動に驚いた様だ。
まぁ、パルテミシア十二神である二人を前に堂々と割って入れば誰でも驚くというものだ。
「いやいやいや、何で君が断るのさ?イシュガルが聞いてるのはプロテアさんで…」
「だからお前は黙れ」
イシュガルはアスディアに結構強めの拳骨をお見舞いした。
「あだ!」
アスディアは悶絶して再び踞った。
そして、イシュガルは蒼とプロテアを見た。
「そうか…どうやら、貴様の主張は間違ってはいないようだな、時神蒼」
イシュガルがプロテアを見ながらそう言った。
プロテアは蒼が止めてくれて安心している様に見えた。
どうやら、蒼の取った行動は間違ってはいなかったようだ。
「なら、仕方無い。俺は一先ず今回は引き下がらざるを得ない様だな。俺はアスディアの様に女性を拐う様な甲斐性も無いしな。だが…」
イシュガルは右手の手袋を取り、蒼に投げ付けた。
手袋は蒼の胸元に当たり、そのまま地面に落ちた。
それを見た他の人達は愕然とした。しかし、アスディアだけは楽しそうに見ていた。
「決闘だ、時神蒼」
イシュガルがそう告げると蒼は手袋を拾い、イシュガルに投げ返した。
「ああ、上等だ!」
「ふっ…俺の事を知っていながら挑もうとはな。肝が据わっているのか、あるいはただのバカなのか…」
「カンケーねーよ…俺は仲間の為に…戦う!」
「そうか……決闘は一週間後、場所は前日に連絡する」
イシュガルがそう言うと蒼は冷や汗をかきながらコクりと頷いた。
他の者達は驚きのあまり愕然としていたが、ただ一人、今の光景を楽しげに見ていた者がいた。
「ふふ…面白くなってきた☆(^o^)v」
アスディアはそう呟いた。
蒼達は一夜の家に来ていた。
そして、皆は部屋に入った。相変わらず豪邸の様な広さの部屋であった。全員、適当な場所に座っていた。
「所で…蒼…あのイシュガルと決闘する事になってしまったけど…勝算はあるのかい?」
一夜がそう訪ねると蒼はビクッと肩を震わせ、
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!やっちまったああああああああああああああああああああ!!!!!」
蒼は両手を頭に当てながらそう叫んだ。
そんなデカイ声が部屋どころか一夜の家中に響き渡った。
いきなりデカイ声を出すもんだから他の者達が驚いていた。
「蒼!?」
慧留は蒼の名を呼ぶが蒼は力尽きたかの様に身体の力を抜いた。
「最悪だああああ…何で俺は喧嘩をオーケーしちまったんだ…勝てる訳無いだろ…」
蒼は絶望した表情でそう呟いた。
「そんな…蒼は今までで国を相手に戦って…勝ってきたじゃないですか!それなのに?」
美浪が蒼にそう言うが蒼は溜め息混じりに答えた。
「イシュガルは…というか、パルテミシア十二神は一人一人がこの世界を破壊出来る程の力を持ってる…中でもイシュガルは大地と海を自在に操る事が出来る…パルテミシア十二神の中でゼウスに次ぐナンバーツーだ。つまり、この世界で二番目に強い奴なんだぞ…無理ゲーだ…」
蒼は饒舌に自身の置かれてる状況がヤバイ事を伝えた。
「まぁ…パルテミシア十二神が全員が全員、イシュガル程ヤバイ訳じゃ無いけどね…パルテミシア十二神にも序列があるみたいだし。けど、今生き残ってる六人は皆とてつもなく強いらしいわ」
「中でもイシュガルは大地と海を自在に操る…要はイシュガルと戦うって事はこの世界の海と大地そのものと戦うって事だ」
アポロとインベルは蒼の置かれてる状況のヤバさを更に事細かく説明する。
蒼はますます顔色が悪くなっていっているのが分かる。
それにしても、イシュガルの前だと勇ましく振る舞っていながらの今のこのヘタレっぷりは呆れたモノである。
「けど、喧嘩を買っちまった以上、受けるしかねぇだろ。心配するな、骨は拾ってやる」
「てめぇ…他人事だと思ってんだろ?」
屍の無神経な言いように蒼はキレそうであった。
「お前がその場のノリで決闘を承諾したのが悪いんだろ?自業自得だ」
「くっ…」
屍に正論を突かれ、蒼は言葉が出なかった。
「ごめんなさい…私のせいで…」
先程まで無口であったプロテアも漸く口を開いた。
「プロテア…君は…君の気持ちはどうなの?」
慧留がプロテアに問い掛ける。
そう、これが一番大事なのだ。さっきの求婚も断ったのはプロテアでは無く、蒼だ。
慧留はプロテアの気持ちを確認しておきたかったのだ。
「私は…私は…どうせ結婚するなら…私が好きになった人がいい。だから…私は出来ればイシュガルとは結婚したく無いわ」
「さっきもそう言えば良かったのに」
「ごめんなさい…突然の事で言葉が出なかったの」
屍がプロテアに言うとプロテアは少し凹んでいた。
「なら良かった」
「え?」
蒼がそう言うとプロテアは思わず声を上げた。
「いや~、俺も確証が無かったからさ。俺の勝手な思い込みでお前の幸せの邪魔をしたかもしれないって思ってたから…なら、尚更引く訳には行かないな」
蒼は開き直った様にそう言った。
先程までのヘタレっぷりが嘘の様に悠然とした表情をしていた。
「因みに…フローフル、プロテアがさっきの事と真逆の事を言っていたらどうするつもりだったの?」
「それは勿論イシュガルに土下座して謝ろうと思ってた」
アポロの質問に何の迷いも無く答えた。やはり、ヘタレのままだった。
「…ありがとう…フローフル…それと…ごめんなさい」
「気にすんな、そもそも決闘に応じたのは俺だしな」
蒼はプロテアをフォローすると開き直った様に顔を上げた。
「で?どうするんだい?結局蒼のメンタルが回復しただけで事態は何も変化してないよ?」
「ここは、あれだろ?修行して強くなるっていう王道的展開だろ?」
「後、一週間しかねぇんだ…修行なんかしてる余裕はねぇよ…しかもイシュガル相手じゃ、ちょっと修行したくらいじゃ意味ねぇよ…」
一夜の問い掛けに屍が答えるが蒼は屍の言葉をこれでもかというくらい否定した。
まぁ、確かに一週間程度で鍛えた所で相手は世界を滅ぼす程の力を持つ神だ。
正直、あまり意味があるように思えないのも事実である。
「ならどうするんですか?」
「あいつの事を探るしかねぇだろ…それとパルテミシア十二神の事を探る」
「そうね、それで彼の弱点を見つけるぐらいしかやれる事は無さそうね」
「何かカッコ悪い気もするが…それが一番現実的だな。けどどうする?パルテミシア十二神の文献なんか数える位しか無いぞ」
美浪の問い掛けに蒼が答え、それにアポロとインベルが賛同した。
しかし、パルテミシア十二神の文献は非常に少なく、調べるのが恐らくかなり大変である。
そもそもパルテミシア十二神は存在自体が伝説とされており、信憑性の薄い文献が殆どである。
「それでもやるしかねぇ…つー訳で一夜、お前が活躍出来るかどうかで俺が生きるか死ぬかが決まる」
「いや、何で僕にそんなプレッシャー与えるの!?それにあくまでも決闘なんだから命までは取らないでしょ流石に!」
一夜は突然蒼にプレッシャーを与えられ堪らず叫んだ。
いきなり他人の命が自分が握ってるなんて言われればそういう反応もするだろう。
「相手は世界そのものだ。向こうがそのつもりが無くても俺がそれに耐えられずに死ぬ可能性もあるだろ?」
「そんな相手に何で決闘を引き受けたんだよ!?マジで!?」
一夜は蒼の行き当たりばったり振りに怒鳴らずにはいられなかった。
何でそんな相手にその場のノリで引き受けたのか…
「ここでグチグチ言ってても仕方無いでしょ?もう、この際、フローフルのバカっ振りをなじるのは止めましょう」
「お前はさらっとディすんな」
アポロが息を吐くように蒼をディすると蒼は言い返した。
「つっても、フローフル。今回のお前の行動は仕方がない部分もあったが、愚行でしかねぇぞ」
「そんなモン分かってんだよ!チクショウ!もういいだろ!?」
「分かった分かった…」
蒼がヤケクソになるとインベルは流石に可哀想に思ったのか大人しく引き下がった。
起こってしまった事をグチグチいつまでも言っていても無意味だ。
これからの事を考えねばならないだろう。
「僕は取り合えず独自で調べてみるよ…でも君達も可能な限り情報収集はする事。いいね?」
「言われなくても分かってる。このバカをイビるのはそれが終わってからだ」
「おい屍てめぇマジでいい加減にしろよ…」
屍の物言いに蒼はキレそうになりながら、言ったが屍は華麗にスルーした。
「では、各人情報収集を始めよう。三日後に再びここに集まろう」
一夜が皆をまとめ、そう言うと他の七人もコクりと頷いた。
「それで?俺達の昔話についてはどうする?」
インベルが唐突にそう言い出したが一夜は冷静な口調でその答えを返した。
「残念だが…今はそれ所では無くなってしまった。この一件が解決した時にまた話して貰うよ」
一夜がそう言うと皆は納得した様だ。
「蒼、ちゃんと話してね。今じゃ無くていいから」
「ああ、約束は守る」
慧留がそう言うと蒼は返事を返した。
今は状況が状況なので蒼達の昔話をしている場合では無くなってしまった。
今は後回しにするしかない。そもそも今回の決闘は何の冗談でも無く、蒼の命に関わるかもしれない程ヤバイ決闘なのだ。
今はそちらを優先するべきである。
「フローフル…どうして…私の為に…そこまで?」
「理由なんてねぇよ。お前の為だ。それ以上の理由はいらないだろ」
「そうだよ!プロテアは仲間なんだから」
「そうだね。困った時はお互い様さ」
「それに無理矢理結婚はどうかと思いますしね」
「ま、このままお前がどっか行かれるのも癪だしな」
プロテアが問い掛けると蒼、慧留、一夜、美浪、屍はそれぞれ答えた。
何だかんだ言って、皆気持ちは同じである。
「相変わらずだな…フローフルは…」
「いえ、少し違うわね。昔のフローフルはこんな他力本願な人じゃ無かったわ。何でも一人でやろうとしてたわ。ほんのちょびっとは成長したみたいね」
「お前らの発言のせいで全部台無しなんだが?」
「何を言ってるのよ?私達はあなたが相変わらずバカな所は変わらないけど少しは成長したんだなって言ってるだけよ」
「そうだぞ?フローフル、お前はボッチに慣れすぎて一人で何でもやる節があったけど他人を頼る事を覚えてくれて偉いと俺達は感心しててだな…」
「取り合えずインベルは死ね」
「何で俺だけ!?」
インベルは釈然としないと言った様子だったが蒼は無視した。
アポロに助け船を出して貰おうとアポロを見たがアポロも蒼同様インベルをスルーした。
「マジで俺の扱い悪過ぎませんかね?」
「気のせいだ。いつもと変わってない」
「そうよ、あんまり気にし過ぎると禿げるわよ」
「誰のせいだ!誰の!?」
蒼とアポロの滅茶苦茶な言い様にインベルは釈然としないと言った様子であったが蒼もアポロもインベルをスルーした。
「言っておくが、僕の情報網も万能じゃない。限界がある事は覚悟しておいてくれよ。まぁ、やれるだけやるけどね」
「ああ、いつも済まないな。一夜」
「何だい?君にしては随分素直だね」
「最後になるかもしれないんだ。最後くらい素直になってもいいだろ」
「だから縁起でも無い事を言うのは止めてくれないかな!?」
一夜が再び堪らず叫ぶ。
「骨は拾ってやる気にするな」
「屍、お前のそれ、二回目だぞ。同じネタを何回も使うとか頭悪いぞ」
「お前、人が心配してんのに何だその態度は?」
「心配してる人間はそんな人に冷たくしねぇよ」
蒼は溜め息を吐きながらそう吐き捨てた。
これから先の事を考えると頭が痛くなる。
「じゃあ、各自解散にしようか…」
一夜はくたびれた顔でそう言った。
何だか最近、蒼の勝手な行動の尻拭いばかりされている気がする。
昔は蒼の奔放振りを見ているのを楽しんでいる事が多かったが今は事態がデカくなり過ぎる事が多い為、一夜は蒼の行動にヒヤヒヤする事が多くなっていっていた。
今まではそれで何とかなったがこれがいつまでも続く筈も無いと一夜は考えていた。
とは言え、蒼の行動により、事態を打破出来た事も多い事も事実なので一概に彼の行動を否定する事も出来ない。
一夜は自分の事を傍観者の様な立ち位置だと思っていた。
しかし、最近は蒼に振り回される事が多く、どうもそういった立ち位置では無くなっているようだ。
一夜は蒼と慧留を最初に導きを与えた人物だ。
だからこそ、一夜は一番身近に二人を見続けており、そして、共に戦って来た。
一夜はこれからも蒼や慧留たちとこの様な時間を過ごすのだろう。
だが、一夜は彼等と共にいて、苦労させられる事はあるが、苦であると感じた事はあまり無かった。
彼等と共にいたい、一夜はそう思っている。その為にも今のこのマズイ状況をどうにかしなければならない。
一夜は皆が部屋から出ていくとノートパソコンを開き、検索を始めた。
ここは現世とは別の空間。イシュガルが普段いる空間だ。
この空間から現世、つまり、世界を見続けている。
アスディア、イシュガル、ガルデアの三兄弟は『世界宮殿』、現世、冥界をそれぞれ守る役割を担っている。
かつて十三人いたパルテミシア十二神…いや、厳密にはかつては十三人の予定であったが、訳あって十二人になりパルテミシア十二神という名になった。
残りの九人の神々にも役割はあったのだが、約半数は死亡し、現在は六名しか生き残りがいない。
五百年前、ヒューマニックリベリオンが起こる前、最初に死んだ十二神がいた。
ヘスティアと呼ばれる神だ。彼女は祈りを司る神であり、寿命で死を迎えた。
今から二百年前に起こった天使大戦は最も多くの十二神が死んだ。
四人死に、死んだのはアフロディテ、アルテミス、ヘパイトスの三名だ。
そして、第三次世界大戦はヘラとアレスの二人が死んだ。アスディア、イシュガル、ガルデア以外に生きているのは三人だけであり、アポロン、ヘルメス、デメテルがそうだ。
「聞いたぞ?決闘をするんだってな?」
現れたのは銀色の短髪と瞳、右耳に複数のピアスを着けている男だった。
彼はアウス・ヘルメス・パルテミシア。パルテミシア十二神の生き残りの一人で錬金術を司る神だ。
「全く…アスディアの奴…」
「いやいや、これはアスディアの判断が正しいよ!」
現れたのは瑠璃色のセミロングと瞳を持った中肉中背の少女であった。
彼女はランクル・デメテル・パルテミシア。豊穣を司る神である。
「全く…貴様は…相手はハーフエンジェルだろう?何を考えている?」
銅色の長い髪と瞳を持ち、中性的な容姿をしていた。
彼女はジェネミ・アポロン・パルテミシア。予言を司る神である。
「いや~、こうして全員揃うのはいつ振りだろうね?」
アスディアが呑気そうにやって来た。
「ガルデアがいないぞ?アスディア…」
「ああ、彼は「ちゃんといるよ」」
アスディアが指を差した先には人形の黒い塊があった。
「成る程…思念体か…」
思念体とはその名の通り、思念が具現化したものであり、思念の力で自身の分身体を造る能力だ。
「ガルデア…思念体で来るのはいいが、せめて君の姿をした思念体を作ってくれ」
『精巧な思念体を使うより、こちらの方が霊力の消耗を抑えられるからな。貴様の下らない召集の為に霊力を無駄に使えるか』
「何で君はそんなに僕に対して冷たいの!?ガルデア!?」
『で?俺達を呼び出した要件はイシュガルとあのハーフエンジェルが決闘をするから…という事でいいのか?イシュガル?』
「僕をスルーしないでよ!?」
「召集したのはアスディアだがな」
『まぁ、パルテミシア十二神の一人が決闘するとなれば全員を召集せざるを得ないか』
「あの…僕がいない所で話を進めるのは止めてくれないかな?」
『なら、話せ』
「君がスルーしたんだよね!?」
アスディアは泣きそうになりながらそう言った。
ガルデアはアスディアに対する態度が相当にぞんざいであるようだ。
他の四人は呆れながら彼等二人のやり取りを見ていた。
「それで?いつ決闘するんだよ?」
アウスが興味津々な様子で聞いてきた。
彼はお祭りやこういった「面白そうな事」が大好きなのだ。
この様な性格である為、アスディアとは最もウマが合う人物であると言える。
「一週間後だよ。君達も見物人として見に来て貰いたいんだ。そして、いざという時のストッパーとしてね」
アスディアが流暢にそう言った。
そう、アスディアが彼等を召集したのは決闘の見物人になって貰うのと蒼とイシュガルのストッパーになって貰う事だ。
どちらかの命に関わる様な事態になった時にそのストッパーになって貰おうという理由があった。
「まぁ、イシュガルは熱くなりやすい所があるからね?フローフルを殺しちゃうかもしれないから僕ら五人で安全に止めようという訳さ」
「………」
アスディアがそう言うとイシュガルは何も言い返さなかった。
確かにアスディアの言う通り、イシュガルには熱くなりやすい所があり、今回の決闘もイシュガル自身が熱くなってしまったのが原因で衝動的にやってしまったというのが大きい。
「えっと…今からでも決闘取り消せば?多分向こうもそう望んでるよ?」
「そんな事出来るか!一度売ってしまった喧嘩をこちらから拒否するなど…!」
ランクルの提案をイシュガルは一蹴した。
やはりイシュガルはやらかした事は自覚している様だが悪いとは思っていない様だ。
「まぁ、イシュガルの性格上、途中で止めるという選択肢は無いな。全く…パルテミシア十二神の第二権力者でありながら妙な所で子供だな貴様は」
「性分なんだ…仕方が無いだろう」
「うんうん、だけど君のその破天荒な行動で僕がわざわざ全員召集する羽目になった事は忘れないでくれよ?」
「アスディアの場合は楽しんでたろ」
『そうだな、その場にいたのならアスディアを力尽くで止める事も出来た。それをやらなかった貴様に文句を言う筋合いは無いな』
「どうしよう…ガルデアの言葉が正論過ぎて返す言葉も無いんだけど…?てか、ガルデア冷た過ぎませんかね!?マジで!?」
アスディアは溜め息を吐いた。
アスディアは何故ここまでガルデアに酷い扱いをされているのかを未だに理解出来ない。
「まぁ、アスディア以外の四人には悪いとは思っている」
「あれ?何で僕だけ省いたの?」
『察しろバカめ』
「僕マジで職務放棄するけどいい?」
『その心配は要らない。貴様が『世界宮殿』の守護を放棄すればどうなるか…貴様は分からない訳では無いだろう?』
「僕が職務放棄出来ない事を分かった上で僕にこんな扱いするのは酷くないかな?」
『貴様の普段の行いを考えれば至極当然だ』
「ぐぬ~、最近は女漁りも男漁りもしてないのに~」
「いや、それは当たり前だからね?セレナーデがいなくなった途端に男漁りも女漁りも止めるなんて…皮肉だね~」
ランクルが淡々とそう言った。
そう、アスディアはセレナーデが死んでからは現世の男女を誘惑する事が無くなったのだ。
ランクルが言っているセレナーデとはセレナーデ・ヘラ・パルテミシアの事であり、愛を司る女神である。
セレナーデはアスディアの妻でもあったのだが、アスディアの浮気性に日々頭を抱えており、アスディアが浮気する度に彼に怒鳴り散らしたり制裁を与えたものだ。
因みにセレナーデが浮気に走った事は一度も無かったりする。
「余計な事は言わないでよ、ランクル」
アスディアは少し表情を曇らせながらランクルにそう言った。
アスディアにしては珍しく暗い顔をしていた。
「本題に戻ろう。つまり、私達は一週間後にイシュガルの決闘を監視すればいいのだな?」
ジェネミがアスディアに訪ねるとアスディアはいつもの明るげな表情を取り戻し答えた。
「うん、そう言う事。という訳で皆よろしくm(__)m」
「場所はどこでやんだよ?」
アウスがが訪ねるとイシュガルが答えた。
「それは…ここでやる。この現世の裏側の世界で」
そう、この世界はイシュガルが作り出した世界であり、現世の影により構成されているのだ。
この世界は現世に存在する世界でありながら隣り合わせに存在しているが故に誰も気が付く事は無い世界だ。
「確かにここでなら君の力もフローフルの力も十全に使えるだろうね。けど、どうやって彼等を連れていくつもりだい?」
「それはもう考えてある。だが、それが完了するには一週間掛かる」
「成る程…それで一週間後にしたのか」
「ああ」
「へへ…何だか面白くなってきたな」
『俺は全くもって楽しくない。これ以上面倒事を増やすな』
アスディアとイシュガルが会話しているとアウスがワクワクしたような表情をしていたのに対し、ガルデアは非常に面倒臭そうにしていた。
ガルデアは冥界を統治するのに結構忙しかったりする。
少なくとも殆ど誰も来る事が無い『世界宮殿』や『世界宮殿』により、安定している現世と違い、冥界は死者が多く集う場所であるし非常に不安定な世界でもある。
それにより、冥界を安定させ、尚且つ死者達を監視する為にはガルデアが必要不可欠なのだ。
冥界はアザゼルを初めとした悪人がいる場所であり、人間が持っている地獄のイメージとはかけ離れている。
まず、冥界は冥界から抜け出そうとしない限りは自由だし何かしらの苦しみを味わされる事も無い。
「冥界は三つの世界の中でも統治が大変だもんね~。まぁ、何でそんな大事な管理を決めるのにくじ引きで決めたのかは意味不明だけどね」
『全くだ…あの時の俺をぶん殴ってやりたい』
「まぁ、まぁ、今は世界の話は一旦置こう。今は一週間後のイシュガルの決闘だ。まぁ、そう言う訳だから皆、頼むよ」
「おう!」
「仕方ないね~」
「了解した」
『まぁ、取り敢えずこの件が片付いたらイシュガルとアスディアは説教だな』
アスディアが言うとアウス、ランクル、ジェネミ、ガルデアが返事を返した。
…ガルデアの言葉はアスディアもイシュガルも聞かなかった事にした。
ガルデアは一応、第三権力者という立ち位置ではあり、地位的にはイシュガルやアスディアより下なのだが、それ以前にガルデアはイシュガルとアスディアの兄でもある。
ガルデアの兄としての威厳は権力や地位などお構い無しに踏み潰す。
故にアスディアもイシュガルもガルデアには頭が上がらない。
アスディアもイシュガルもガルデアにだけはやはりこの事はひた隠すべきだと思った。
『貴様等の考えている事など分かるぞ?俺から逃げ切れると思うなよ?』
ガルデアがそう言うとアスディアとイシュガルはビクッと肩を震わせた。
ガルデアはかなり苛立っているのが分かった。
ガルデアは冥界の統治をかなり面倒臭がっている上に厄介事を嫌う傾向にある。
但し、ガルデアの場合はその手腕で大概の厄介事は簡単に片付くのでそこまで面倒だとは感じてはいない。
厄介なのはパルテミシア関連の…特に自身の弟たちであるアスディアとイシュガルの厄介事だ。
彼等の厄介事は実に面倒な事ばかりであり、ガルデアの悩みの種であった。
「イシュガル…僕、ガルデアの事嫌いになりそうだよ…」
「アスディアはガルデアに説教されるたんびにそれ言ってるけど結局嫌いにはなってないだろ…まぁ…俺もだが…」
アスディアとイシュガルは大きな溜め息を吐いたのであった。
To be continued
第七章スタートしました。今回は今まであまり描かれなかったパルテミシア十二神について触れています。今回はあまり話は進まない予定(?)です。予定ではこれが終わったら残り四章でこの話も終わります。思っていたより長くなってしまいとても驚いてます。
それではまたお会いしましょう!




