【第六章】ヘレトーア進軍篇ⅩⅤーend of worldー
ヘレトーアとの戦いが終わり一週間が経っていた。
アラルガンドが死亡し、ヘレトーアの上層部もほぼ全滅しており、大神官であるマクヴェスも死亡していた為、国の統括は事実上ルバートが行っていた。
ルバートはこういった事に不慣れであった為、フォルテの助力を借りながら立て直しを行っていた。
蒼たちはヘレトーアに一週間滞在しており、今日、帰る所であった。
「世話になったな、アポロ、ついでにインベル」
「おい、ついでとは何だ?」
「本当ね、この借りは十倍にして返してくれないと困るわ」
「そうかよ…」
蒼はアポロの言葉に顔をしかめた。なお、インベルの言葉は華麗にスルーした。
それに気が付いているのかインベルは釈然としないと言った顔をしていた。
「まぁ、アポロはお前が十二支にいた事を結構前から掴んでたらしいし?心配で十二支にわざわざ来たと思ったらフローフルはヘレトーアに行ってたし?そりゃ、怒るのも無理は…」
インベルがアポロの事を暴露し、アポロはそれを遮ろうとインベルの頭を思いっきり殴った。
「痛って!何すんだよ!?」
「うるさい、虫」
「だから虫って何!?おいおい、フローフルからも何か…」
「お前はとっとと帰れよ、虫」
「お前までそう言うの!?マジ何なの!?お前ら!俺をイビる時だけ団結すんのマジ何なの!?」
インベルは泣きそうな顔でそう言った。
すると、蒼もアポロもインベルで遊ぶのは飽きたのか話題を変えた。
「ルミナスは今、どうしてる?」
「ああ、あいつはとっととローマに戻ったよ。けど、悪いな。俺もアポロもあいつの目的はさっぱりなんだわ」
「そうね、彼女の狙いはイマイチ分からないわ。感情をあまり表に出さない子だしね」
蒼は「そうか」と呟き、頭をボリボリ掻いた。
「ああ、それとな、俺達、暫くの間、十二支にいる事になったから」
「はぁ!?何だよそれ!?どこに住む気だよ!?」
「ああ、それについては問題無いわ。一夜くんとは話をつけてるから」
「いや、聞いて無いんですけど!?」
「まぁ、まぁ、暫くよろしくな、フローフル」
「………ルミナスの命令か?」
「まぁな、監視役だとよ」
「…監視にしてももっと適切な…いや、そりゃ自然にお前らになるか…」
『セラフィム騎士団』で彼の事を最も把握し、且つ止める事が出来るのはインベルとアポロが最も適しているだろう。
彼ら以外に適切な人物はいない事は無いのだが、その人物たちはローマから離れる余裕の無い者たちばかりだ。
「まぁ、俺達もお前と同じ事を思ったさ。俺達三人共、五年前の『ローマ聖戦』の主犯格だったのにわざわざその三人を集結させるのはおかしい…」
「考えられるのは二つね。一つは私たちを集結させてまでフローフルの監視をさせたいのか、あるいは仮に私達三人が反逆しようと意味が無いと考えているのか…」
「…後者な気がしてならねぇ」
アポロの考えに蒼が答えるとインベルもアポロも白い顔をした。
ルミナスは自身が世界で一番偉いと本気で思っており、それが手に取る様に分かる。
「まぁ…何だ…これから世話になるな」
「何言ってんのよ。元から世話になりっぱなしでしょ、あなたは」
「全くだ。お前は俺達の事を考えずに勝手な事ばかりするしな」
「悪かったよ…」
蒼は珍しくアポロとインベルに謝った。
五年前に二人に何も言わずに神聖ローマから逃亡したのは事実だ。
蒼も多少、それに関しては悪いと思っていたようだ。
「十二支連合帝国の新体制USWが衰退し…ヘレトーアも神官と大神官が死亡…ローマは国の統一…ここ数年で色々と動いたわね。まだ…何か起きそうね」
「それでも…俺は…自分の身近な人達を守るだけだ」
蒼は決意する様にそう言った。
蒼のやる事は変わらない。蒼は仲間を守る。ただそれだけだ。
「驚いたな…お前がそんな事を言うなんて…」
「何か文句あんのかよ?」
「いや、やっと少しは素直になったなと感心したんだよ。お前、昔はめちゃくちゃツンデレだったからな」
「全くね、男のツンデレなんて誰得よ。やっと少しは脱却出来たみたいね」
「お前ら好き勝手言い過ぎじゃね?」
蒼は根本的な性格は今も昔も変わっていない。
しかし、蒼は素直に仲間を守るなんて言った事は少なくともアポロとインベルの記憶には無い。
「神聖ローマから消えて少しは成長出来たという事ね。まぁ、ほんっっっっっっっのちょびっとだけど」
「なぁ?そこまで溜める必要あったのか?」
蒼はイマイチ釈然としなかった。
しかし、今、アポロとインベルと話していて悪い気はしなかった。
何だかんだ言って、蒼の数少ない友人達だ。
蒼は十二支連合帝国で仲間は多くいるが神聖ローマにおいて友人と呼べる者はインベルとアポロだけだ。
そんな古い友人と普通に話せて蒼自身安心していたのかもしれない。
「つー訳で、帰りも一緒な!フローフル!」
「…しょうがねぇな……」
「らしく無い顔しないの!バカ!」
アポロが蒼の頭を叩くと蒼は悶絶し、それを見ていたインベルはクスクスと笑っていた。
「さてと…一仕事終えたわね」
ここは神聖ローマ天使城の王の間である。
ルミナスは大きな椅子に腰掛けて座った。
「ルミナス陛下」
「ローグヴェルト…留守番お疲れ様」
「いえ、それは問題無いです。それで…神混髏奇は…」
「逃げられたわ…でも問題無いわ。今回の目的であったマクヴェスとアラルガンドを抹殺出来たからね」
今回、ルミナスがヘレトーアに前戦に出たのは髏奇の事では無く、アラルガンドとマクヴェス抹殺が目的であった。
アラルガンドはルミナスの目的を知っており、その目的を阻止しようとしていたのだ。
阻止しようとしていた理由はもし、ルミナスの目的が達成してしまえば、ケルビエルは存在する事が出来なくなってしまうからだ。
「あなたは…一体何を望んでいるのです?」
「そんな事はどうでもいいでしょう?」
ルミナスの考えなどルミナスにしか分からないのだ。いくら考えても無駄な事である。
ルミナスはマクヴェスを抹殺した。しかし、マクヴェスを抹殺したのは個人的な理由である。
それは今、語るべきではない。ルミナスがマクヴェスを殺した訳はいずれ明かされるだろう。
「それよりも…今はこの国の統率を優先すべきね」
神聖ローマは統一された。
しかし、統一されてから日が浅い為、すぐに崩れ去る危険性もある。
その為に国の統率が不可欠である。
「その事なんですが…この国の統率を優先したいなら、何故、アポロとインベルにフローフルの監視を任せたのですか?あの三人はローマ聖戦の主犯格…彼らを集結させるのは危険かと」
「フローフルは「鍵」なのよ。「鍵」を監視するのは当然よ。それに彼の事をよく理解しているのは『セラフィム騎士団』内ではあの二人よ」
「適任なのは分かりますがそうまでする事でしょうか?」
「そうまでするべきだから、監視を付けているのよ。それに…仮にあの三人が再び反逆しても問題無いわ。誰も私を止める事は出来ないもの…」
ローグヴェルトが言う様に、彼等は五年前のローマ聖戦の主犯格達だ。
彼等を集結させるのはルミナスにとって危険な筈だ。そうまでして監視を付ける理由がローグヴェルトには分からない。
ローグヴェルトは蒼とは面識が無い。しかし、ローマ聖戦を起こした張本人である事を知っている。
ローマ聖戦により、ローグヴェルトは一度死んだ。それ故にローグヴェルトは蒼を激しく憎悪している。
「ローグヴェルト…あなたがフローフルを憎んでいるのは知っているけれど…あの子は「鍵」…殺す事は許さないわ」
「分かってます…」
ローグヴェルトは歯軋りしながらそう言った。
ルミナスはそれに気が付いているようだが、これ以上言及しても自身に利は無いと判断し、話を止めた。
「いずれにしても…私の宿願が達成されるまで後少し…フローフル…精々仮初めの時間を楽しみなさい…」
ルミナスは笑顔でそう言った。しかし、笑顔の筈なのにその顔はとてもとても恐ろしかった。
ローグヴェルトはあまりの恐ろしさに顔をざわつかせてしまった。
ルミナスの笑顔は全てを照らす光だ。彼女の笑顔はあらゆる人々を惹き付けている。
しかし、時折、その笑顔がとてつもなく恐ろしく見える時があるのだ。
それが今の状態だ。今のルミナスには喜び以上に怒りの感情が剥き出しになっていた。
怒りを剥き出しにした笑顔はここまで恐ろしいものに変わるのだ。
ルミナスは蒼に対してただならぬ愛憎を抱いていた。
ルミナスは五年前のあの日から蒼に対してずっとその感情を向けている。
大抵の感情は制御出来るがこの沸き上がる感情だけはルミナスでも制御出来ない。
「あなたは…私だけのモノよ…フローフル…誰にも渡さない…絶対に…」
「世話になったね、ルバート」
「うん、どういたしまして」
一夜が礼を言うとルバートは淡々と返した。
「いきなり国の管理は大変そうだが、頑張ってくれ」
「誰のせいでこうなったと思ってるの?」
一夜が図々しく言うと流石のルバートも苦い顔をした。
元はと言えば蒼たちがこの国に攻め込んだ事により、ルバートがこの国の統治者となったのだ。
ルバートはこういった事は全てアラルガンドや大臣たちに任せっきりだったのでカラッキシである。
「つーか…アラルガンドについては何も思わないのかよ?俺は…アラルガンドを殺したんだぞ?」
蒼がそう言うとルバートは何食わぬ顔で答えた。
「アラルガンドは最終的に自害したんでしょ?それに…僕はアラルガンドが「嫌い」だったからね~。そこまで恨んじゃいないよ……いや訂正、こんな状況に僕を追い込んだんだから少しは恨んでるよ」
ルバートが涙目でそう言うと蒼は少しだけ申し訳ない気持ちになった。
「今回の事は御礼を言わないとね。慧留、プロテア、ありがとう」
「別に礼なんていらないわ」
「そうだよ!そんな…」
「いえ、あなたたちがアラルガンドを倒してくれたお陰で私の仲間たちが死なずに済んだわ…本当にありがとう」
フォルテではアラルガンドを止める事が出来なかった。
しかし、彼等は止めた。フォルテは蒼たちに感謝しているのだ。
「ねぇ?プロテア?ずっと…私と…友達でいてくれる?」
フォルテがプロテアに訪ねた。
するとプロテアは手をフォルテに差し出した。
「当然よ」
「プロテア…!」
フォルテは感極まった様子でプロテアと握手を交わした。
「良かったね、プロテア」
「………!」
プロテアは照れ臭そうにソッポを向いた。
フォルテと慧留はそんなプロテアを見て、おかしくて笑っていた。
「プロテアは…これからどうするの?」
「一夜と常森厳陣に話をつけたわ…だから…暫くは十二支連合帝国で暮らすわ」
「そっか…また遊びに行くね!」
「ええ、待ってるわ」
プロテアとフォルテの話が終わると厳陣と舞がやって来た。
「さぁ、皆帰るよ」
厳陣がそう言うと蒼たちは船に乗って十二支連合帝国へ帰って行った。
「唯一の友達を失わなくて良かったね、フォルテ」
ルバートはそう呟いた。
フォルテはエルフの若き長であるが故に同年代の友達がいなかった。
故にプロテアはフォルテの唯一の友達であったのだ。
「そう言うルバートこそ、友達が出来て良かったわね。あなた、ずっと友達いなかったんだし」
「へへ…そうかもね」
フォルテは皮肉混じりにそう言ったつもりだったがルバートはそのままの意味で捉えた様だ。
フォルテは何だか歯痒い気持ちになった。
ルバートはその癖の強過ぎる性格から今までずっと友達がいなかった。
故に一夜や美浪はルバートの初めての友達なのだ。
「なんかつまらないわ…あなたの反応」
「何だよ…それ…」
ルバートは釈然としないと言った様子でフォルテを見た。
ヘレトーアは事実上崩壊している。これからはこの国を建て直さなければならない。
本当に大変なのはここからなのだ。
「じゃあ、行こうか」
「そうだね」
フォルテとルバートはその場から去っていった。
「さてと…時神…お前には聞きたい事が今回で山程出来たぞ」
「………」
屍がそう言うと蒼は気まずそうな顔をした。
蒼達はヘレトーアから十二支連合帝国に帰る為の船の中にいた。
「これには僕も同意だね。蒼…僕は君の事情は大体把握してはいたがあのアラルガンドと因縁があったのは初耳だったからね」
「それに関しては俺自身も知らなかったんだよ!……まぁ、確かに一夜にも言ってない事は結構あるけど…」
蒼は言い訳をしていたが何というか…見ていて見苦しかった。
「因みに…一夜はどこまで知ってるのかしら?」
「蒼がローマ聖戦から逃げて来た事までは知っているよ。だが、君達二人も主犯格というのは初耳だったね?蒼?」
「う…」
一夜はアポロの質問を蒼を睨み付けながら答えた。
一夜は蒼の大まかな事情は聞いてはいたのだがそれ以上は聞いてはいなかった。
蒼に友人が神聖ローマにもいた事も一夜は全く知らなかった。
ましてやその三人でローマに戦争を吹っ掛けていたなど知ろう筈も無かった。
「蒼…話して…くれるんだよね?」
慧留は蒼を見つめながらそう言った。
慧留は蒼と同様、戦争から逃げて来た。しかし、彼女が逃げた戦争は蒼達が起こしたローマ聖戦から逃げてきたのだ。
慧留はあの戦争のせいで友を失い、様々なトラウマを抱える結果となった。
「…悪い……今は…まだ話せねぇんだ…」
「どうして!?」
「話せないんだよ…今は…時間が掛かるし…それになにより…俺の心の準備が出来てねぇ…」
「そうだな…そんなさらっと話せる内容でも無いしな…」
「でもフローフルの場合はダラダラ時間が経つだけで話さないかもしれないわよ」
プロテアがそう言うと蒼とインベルとアポロは露骨に嫌そうな顔をした。
しかし、しばらくして蒼ははぁと溜め息を吐いた後、決心した様にこう言った。
「分かった…一週間後…話すよ…一夜の家で…」
「分かった…」
蒼がそう言うと慧留は納得したようだ。
慧留が納得した以上、一夜たちがそれ以上言及する事も無かった。
「けど…ちゃんと話して貰うからね」
「ああ、分かってるよ…」
蒼はもう、慧留達に自分の事を隠し通せるとは思ってはいない。
それに、蒼達の過ちで慧留を巻き込んだとなれば蒼も話さない訳には行かなかった。
「それにしても…フローフルはあなた達に何も話して無かったのね…まぁ、フローフルはチキンだから仕方無いわね」
「それ、お前が俺と同じ立場になった時も言えるのかよ?」
「…少なくとも私はあなたよりチキンじゃないわ」
「いや、答えになってないからなそれ」
「うるさいわね」
「いや、うるさくねぇよ!」
「二人とも止めろ!面倒臭い!」
蒼とアポロの言い合いにインベルが割って入った。
しかし、今回は蒼もアポロもインベルに対して何も言わず、押し黙った。
「所で…蒼とアポロさんはどういった関係なんですか?名字が一緒ですけど…」
美浪は自身が感じていた疑問を蒼とアポロに問い質した。
「ああ、そう言えば言って無かったわね。私はルミナスと蒼の父親…その弟の子どもよ。要は私はフローフルの従姉ね。私の方が一つ年上だし」
「そう…だったんですね…」
「でもよ、お前らなんか親しげだな。俺の偏見だが、そう言う皇族の関係ってギクシャクしたイメージがあるんだが?」
アポロが美浪の質問に淡々と答えると屍がまた別の質問をアポロに飛ばした。
屍の言う通り、後継者争いなどで兄弟や従姉の確執がある事は少なくない。
なので、蒼とアポロが親しげなのに屍は違和感を覚えていたのだろう。
「俺たちは年が近いしな。それに俺は第四王子だし、アポロは第三皇女だからな…ぶっちやけ、この肩書きはお飾りだ。権力自体は両方ともメチャクチャ弱いからそもそも確執なんて無かったな」
「そうね、武力ならともかく権力は雀の涙ね。私もフローフルも。まぁ、フローフルは武力も権力も最底辺だけど」
「おい、最後のは余計だ」
「…否定はしないんだね…」
蒼とアポロは…特に蒼は四人いる中でも末っ子である。
権力が弱いのは想像に難くない。
「事実だしな…俺は四人の中で一番弱い…権力も…武力も…」
「いずれにしても、この状況じゃあ、話さざるを得ないわね…でも、私達も全てを知ってる訳じゃ無いわ…答えられるだけの事は答えるつもりだけどね…」
「それで構わないよ。とにかく、包み隠さず、君達の事を話してくれれば…」
「ああ…」
蒼はそう呟き、皆はそれで納得した。
あれから一週間経過し、蒼は自身の家から出ていった。
それと同じタイミングでプロテアと慧留が隣の窓から出てきた。
蒼達はあれから十二支連合帝国に戻り、それぞれの家に帰り、何事も無く、一週間が経過した。
一夜の家で蒼達が引き起こしたローマ聖戦の事を話すべく蒼達は一夜の家に向かおうとしていたのだ。
プロテアは慧留の隣の部屋に住む事になった。つまり、プロテアも晴れてこの苗木日和の住人になった訳だ。
蒼達は階段を降りるとそこには先に待っていた美浪、屍、そしてプロテアと共に新しくこのマンションに済む事になったインベルとアポロがいた。
「蒼、プロテア、慧留、お早う」
美浪が挨拶をすると蒼達は「お早う」とだけ返した。
「どうした?時神…?テンション低いぞ…?」
「ハイテンションで話す内容じゃねーんだよ」
「てっきり、話すのが恐くなったんじゃねーかって心配してたんだよ」
「安心しろ…ちゃんと話す」
「まぁ、そんな心配はしなくていーぜ」
「ええ、約束は守るわ」
屍の心配を蒼とインベルとアポロは否定した。
そう、蒼達はもう、隠すつもりもない。
話す時が来たのだ。蒼達は一夜の家に向かおうとするがその一夜が蒼達の所へやって来ていた。
「いや、何でお前が来るんだよ一夜…」
「一応、迎えに来た。逃げられては困るからね」
一夜は不気味に笑いながらそう言った。
「だから…逃げる気は無いって言ってるだろ?どいつもこいつも俺をどんだけ信用して無いんだよ…そもそも一夜の家を選んだのは大人数になるから一夜の家の方が都合がいいって理由だしな」
「まぁ、それは分かるんだけどね。いや、蒼は大事な話程、遠ざけようとする傾向があるからね」
「う…」
「そうだな…しかもフローフルは何も告げずにどっか行くし」
「挙げ句心配ばかり掛けさせる迷惑な奴だったわね」
「インベル、アポロ…お前らはどっちの味方なの?」
「基本的にはお前の味方だが…こればかりは擁護出来ないな」
「事実を言ったまでよ。認めなさい」
蒼はインベルとアポロに諭され、少し押し黙った。
まぁ、一夜とインベルとアポロの言っている事は紛れも無い事実であるのは確かだ。
蒼は言わなければいけない事を言わずにどっかに行ってしまったり一人で抱え込むきらいがある。
それは慧留たちも理解しているからこそここまで神経質になっていると言える。
「では、行こうか」
一夜がそう言うと皆はコクりと頷いた。しかしー
「待て」
そんな声が聞こえた。
蒼は声のする場所を一速く察知した。
「向こうだ!」
蒼はうしろに指を向けた。
そこにいたのは一人の人影であった。
見た目は茶髪で普通の髪の長さであり、青白い瞳と航海士を思わせる白い服を来ていた。
蒼達は身構えた。そう、彼の霊圧は…尋常では無かった。
それこそ、蒼が知る限り彼以上の霊圧を持つ者は…一人だけである。
「てめぇ…は…」
「貴様が時神蒼か…アスディアが言っていた…」
「!? てめぇ…ゼウスを知ってるのか!?」
「知ってるも何も…アスディアは俺の弟だ」
「な!?…て事は…パルテミシア十二神か!?」
「「「「「「「!?」」」」」」」
蒼の言葉に他の七人が驚いた。
パルテミシア十二神…この世界で最上位の神々たちであり、世界最強の存在でもある。
そして、彼らは『世界宮殿』の守護神でもある。
「パルテミシア十二神って前に会ったガルデアと同じか!?」
「ああ…」
屍の問いに蒼は答えた。
すると男は意外な反応をした。
「!? ガルデアにも会っているのか…なら、話は速いな」
そう言って男は改まって自身の名を口にした。
「俺の名はイシュガル・ポセイドン・パルテミシア。パルテノス第二権力者だ」
「アンタが…海と大地の神…ポセイドンか…」
「俺の事も知っているのか?博識だな、時神蒼」
「アンタの弟が色々教えてくれたんでね」
「アスディアは口が軽いからな…まぁ、そうか…」
「で?そんなお偉いさんが何でこんな所に?」
蒼はそれが気になっていた。
パルテミシア十二神はこの世界の別の空間にある『世界宮殿』を守護している。
こんな所に来るような相手では無い。
「まぁ、俺の役目は現世…つまりこの世界を見守る事なんだが…今回は少し事情があってな」
イシュガルが少し堅苦しい言動でそう言った。
どうやら、根暗そうなガルデアや逆に明る過ぎるアスディアとも違う気質の様だ。
「事情?」
「ああ、それは…」
「イシュガル~!こんな所にいたんだね!\(^^)/」
現れたのは金髪の長い髪を三つ編みに括っている男性であった。
白い瞳と白金の宗教服を着ている陽気な美青年であった。
「てめえ…アスディア!?」
「あ!フローフル!!会いたかった~~!(^o^)v」
アスディアが蒼に抱き付いて来たが蒼はそれを華麗にスルーした。
そしてアスディアはそのまま地面に転倒してしまった。
「フローフル!僕と君の久々の再会なのに!?何故僕の熱い熱い抱擁を避けるのさ!?」
「野郎に抱き付かれて喜ぶ男がいるか!?」
「少なくとも僕は喜ぶよ!」
「じゃあてめぇだけだ!」
「君のその発言は世界のゲイとレズを否定してるのと同じだよ!」
「話が極端なんだよ!?」
蒼とアスディアが言い合っていた。
どうもこの二人は案外親しげであると屍達は思った。
しかし、慧留だけはアスディアに対して少し思う所があるようだ。
「この人が…アスディア…パルテミシアのリーダー…」
慧留はかつて『世界宮殿』を破壊しようとした事があった。
『世界宮殿』は世界の運命を操作するという理不尽な力を持っており、慧留はその力が許せなかった。
だからこそ、破壊を試みたのだが、蒼達の説得により思い留まった。
「君達が…フローフルの友人だね…僕はアスディア…アスディア・ゼウス・パルテミシア、よろしく」
アスディアが爽やかな笑顔でそう言った。
「アスディア!何故、貴様がここにいる!?」
「いや、だって、面白そうだったからね。君の花嫁を間近に見ておきたかったのさ。それに…フローフルに会いたかったしね!」
アスディアがウインクすると蒼はドン引きして仰け反った。
「相変わらずだな…ゼウス…」
「僕の事はアスディアって呼んでよ~!他人行儀だよ~!」
「ちゃんと名前で呼ばれたいんなら慎みを持て!」
「いや、僕なんか紳士の塊だよ~?」
「よくもまぁ、そんな事を言えたなマジで」
「あなたが…ゼウスですね…」
蒼とアスディアが話していると二人の間に慧留が割って入った。
「ああ、そうだけど?それにしても君、可愛いね。今度僕と是非…」
「止めろバカ」
アスディアの頭をイシュガルが軽く叩いた。
アスディアはイシュガルの一発が意外と堪えたらしく地面に踞っていた。
「何をするんだよ!?イシュガル!?」
「いや、それはこっちのセリフだから。お前は無闇に現世の人間を持ち帰るのは止めろ。俺が面倒なんだよ…」
「そんな堅い事言わなくても…」
アスディアが抗議しようとするとイシュガルは真顔でアスディアを見つめた。
見つめているだけなのに妙に殺気だっており、アスディアは黙り込んだ。
「ウチのバカが済まんな」
「いえ…そんな事は…」
「所で…君は?見た所、堕天してるようだが…」
「え!?堕天!?て事は君が月影慧留?堕天した魔力は三年前に感知したけど…こんな少女とはね~」
アスディアが呑気そうにそう言った。
「堕天してるって分かってるのに私を野放しにしていいんですか?邪魔な筈ですよね?あなたたちにとって堕天使は」
「いやいや、そうでもないよ?だって今の君は僕達を襲う事もしていなければ『世界宮殿』に手を出してもいない。なら、僕達に君を邪魔と思う理由は見当たらない」
「「かつては」手を出そうとしました」
「けど、思い留まってくれたんだろう?ならばいいさ」
アスディアは笑顔で慧留にそう言った。
慧留はアスディアが悪人には見えなかった。むしろ、性癖を覗けば比較的まともな人物であるように思えた。
「あなた達は…何で『世界宮殿』を守ろうとするんですか?」
「『世界宮殿』が無ければこの世界は形を保てず崩壊する…『世界宮殿』は楔なんだよ」
「それでも…!」
「君は…ガルデアと似てるね…」
「ガル…デア…?」
「ああ、僕達の兄だよ。彼も最初は君と同じ事を言っていたよ。この世界はおかしい、間違っているとね。まぁ、今は納得してるみたいだけどね」
「あなた達は…何とも思わないんですか?」
「う~ん。それが役目だしね~。おかしいと言えばおかしい。けど、それが使命だから僕は割りと割り切ってるかな?小を殺し大を生かす。これは『世界宮殿』が出来る前からずっとやって来た事だよ?特に…人間はね」
アスディアは先程までの陽気な表情では無く、珍しく真面目な顔で話していた。
アスディア自身にも恐らく、思う所はあるのだろう。
それは蒼にも察しはついていた。
「…君は君のやり方でこの世界を見ていけばいい。世界を変えればいいってもんでもない。案外、この世界も悪くは無いと思える…かもしれないしな」
イシュガルが他人事の様にそう言うが慧留はやはり理解はしているが納得はしていないようであった。
「まぁ、すぐには難しいかもしれないね。けど、君にも分かる時が来るよ」
「子供扱いしないで下さい」
「僕からすればここにいる皆は子供さ。何せ僕は千年以上生きてるんだから」
アスディアはどや顔でそう言った。
さっきまでの真面目な雰囲気が一気に崩れた。
「で?お前らは何でこんな所に?」
「ああ、ああ、そうだった、そうだった。イシュガル」
「いや、大体お前がシャシャリ出て来るからややこしくなったんだろうが…まぁ、いい」
イシュガルが一呼吸置いて、そして告げた。
「プロテア・イシュガルド…単刀直入に言う…俺の花嫁になってくれ」
イシュガルがそう言うと周囲の空気は完全に固まった。
アスディアはそれを愉快そうに見つめていた。
To be continued
第六章ヘレトーア進軍篇は以上となります。次から新編突入です。着々と終わりへと近付いていますね。というか蒼の過去って結構謎が多かったんですけどやっと少し触れられました。蒼の過去はいずれ語られる事でしょう。
ヘレトーアは今まで全く出てこなかったんですけど今までの敵の中で最大勢力となりました。因みにヘレトーアの敵達の大半が音楽記号に関する名前が付けられてます。
ヘレトーア関連では蒼はあまり活躍出来なかったですね、主人公なのに。一応、これでも蒼の力は作中でも強い方なんですよ。ただ、彼と戦う相手がチート級の強い奴等ばっかりなので妙に苦戦する描写が多いです。でも蒼は最終的に勝ってる事があれば殆どです(明確な負け描写はルミナス戦くらい)。
今章のラスボスであるアラルガンドは作中最強クラスの実力で今までのどのボスキャラより強いです。多分彼より強いキャラはこれから先そんなに多く出ません(多分多くても五人ぐらい)。
四大帝国を主軸にして進んでいるこの物語ですが、内三国やったんですよね~、速いです。最後の国である神聖ローマもいずれやります(いつになるか分からないですが)。
まだまだ回収してない話もありますのでこれからドンドンやっていきます。三章で話の半分をやったとは何だったのか。
それではまたお会いしましょう!




