【第六章】ヘレトーア進軍篇ⅩⅣー死神ー
慧留とプロテアはフォルテと交戦していた。
慧留は既に【悪魔解放】を発動させていた。
プロテアもポセイドンの鱗を不完全ながら発動させていた。
「君たちは…どうしてそこまで戦おうとするの?」
フォルテが問い掛けて来た。
慧留とプロテアはその事に疑問を感じた。
「あなたには…その理由があるというの?」
「ええ、あるわ。どうしても…成さねばならないの。何かを得る為には、何かを捨てなければならない。私は自分の守りたいモノを守る為にあなたたちを倒す」
フォルテはそう、答えた。
フォルテの言う事は間違ってはいないのだろう。
実際、何かを手に入れる為には何かを犠牲にする。
戦争に勝利をしたければ兵士を犠牲に、何かを購入する為に金を使う、何かを掴む為には努力と時間が必要だ。
犠牲と表現されていないだけで何かを得るには何かを失っている事には変わりは無い。
等価交換は錬金術の基本ではあるが、果たして、これらの事は…いや、世界の全ては…本当に等価交換で成り立っているのだろうか?
答えは否、成り立っているとは言えない。割に合っていないのだ。
その最たる例が戦争だろう。戦争をすれば多くの死体が生まれる。
しかし、その死体に見合う対価が得られる事はまず無い。何故なら、得るモノより喪うモノの方が遥かに多いからだ。
フォルテは自分の種族を守る為にアラルガンドに協力している。
アラルガンドのやろうとしている事は世界を壊す事になるというのに。
つまり、端的に言えば、フォルテは種族の存続の為に世界を対価としているのだ。
これが割に合っていると言える者はまずいないだろう。
しかし、フォルテにとっては重要な事であり、絶対なのだ。
「自分達さえ無事なら他はどうでもいいって事?」
「…ええ、そうよ」
フォルテは一瞬迷いながらもそう断言した。
「身勝手ね。まぁ、そう言う身勝手な人間が世界を切り拓いて来たのも事実…ね…」
「でも、あなたは本当にそれを望んでいるの?…迷いがある様にも見えたけど…」
慧留はフォルテの迷いを見逃さなかった。
どうも、慧留はフォルテを冷徹な悪い人には見えなかった。
「迷いなんて無い!私は…私は…!」
「………」
フォルテが叫ぶとプロテアもフォルテに何かを感じた様だ。
二人はフォルテが未だに迷っている事は間違いないと判断した。
そう、判断せざるを得なかった。今のフォルテは明らかに不安定であった。
霊力の流れも僅かながら乱れている。しかし、フォルテはその状態でも戦う事を止める気は無さそうであった。
「私が聞いてるのは…あなたたちにこの世界を守る程の理由があるかどうかよ」
フォルテは冷静さを取り戻し、二人に問う。
「私は…特に無いよ。あなたみたいに大きいモノを背負っている訳じゃ無いし…でもね、私は見てきたんだ。この間違ってる世界でも前を向いて生きようとしてる人たちがいるのを。その人達を無視したくないんだ。それが…私の戦う理由だよ。あなたと比べたら弱い理由なのかもしれないけど、私はその為に戦うよ」
慧留はそう答えた。
そう、慧留もかつては世界を変えようとした事があった。この世界の仕組みを知り、間違っていると思い、変えようとした。
しかし、慧留は蒼と関わり、そして、色んな人達との関わりを経て前を向いて歩き続けている人達を見てきた。
その人達を犠牲にしてまで世界を無秩序に壊すべきじゃないと思った。
だからこそ、ヘレトーアと戦っているのだ。
「私は…最初は復讐だけが目的だったわ。そう、あなたに負けるまでは…少なくともそうだったわ。けどね、それが間違いだと気付かされたわ。そのきっかけを作ったのはあなたよ。だから、私は私に託して託して行ってくれた人達の為に…そして、あなたの為に戦うわ」
プロテアは慧留に負けてから復讐心を捨てたつもりであったがやはり残ってはいたようだ。
ヘレトーアに来たのも復讐が全く絡んでいなかったのかと言うと嘘になる。
だが、フォルテに負け、そして、故郷で自身の事を見つめ直して漸くプロテアは一つの答えに辿り着いた。
そう、残していってくれた人達…自身に託してくれた人達の為に戦い、そして幸せを掴み取るという覚悟を。
「私達はあなたみたいに大層な大義名分は無いよ。けどね…」
「私達はあなたに絶対に負けない」
慧留とプロテアはそう答えた。
フォルテは二人の戦う動機が余りにも弱いモノだと感じた。
しかし、反面、強い覚悟を感じさせられた。
この二人は本物だ。そう判断するには十分であった。
「少し…あなたたちを見くびり過ぎていたみたいだね。そこまでの覚悟があるのなら退けって言う方が失礼だね」
プロテアは霊力を全開にした。
とうとう、フォルテは本気で戦う事を決めたようだ。
フォルテは正直、彼等に本気で戦うには値しないと考えていた。
自身より大きな目的が無いと判断したからだ。
しかし、彼等の目的は弱いモノではあったが、それを覆す程の覚悟が感じ取れた。
フォルテが全力で叩き潰すには十分だ。いや、恐らく全開で挑まなければフォルテが負ける。フォルテはそう判断したのだ。
「【精霊の虹】」
フォルテは虹色の和服の姿となり、翼は完全に消滅していた。
フォルテは手を掲げるとフォルテの周囲に無数のエネルギーの空間が出現した。
そして、その空間から虹の光線が無数に発射された。
「【無限虹色彩】」
プロテアは【審判時神】の時間の加速と減速で攻撃を回避し、慧留は時間の巻き戻しでフォルテの攻撃を発動する前の時間を戻した。
しかし、余りにも数が多すぎる。慧留は過去改変の力でフォルテの攻撃を消し去ろうとしたが質量が多過ぎて出来ず、プロテアもフォルテの攻撃の乱射により、フォルテに近付く事すら出来ない。
やがて!二人は攻撃が命中し、無数の虹の滅光に襲われた。
「ぐああああああああ!!」
「ぐぅううう!!!」
フォルテは二人に問う。攻撃が命中したにも関わらず攻撃を止めなかった。
完全に霊力が消え去るまで攻撃を続けるつもりであった。
フォルテの攻撃は凄まじく、『精霊城』が完全に木っ端微塵になっていた。
周辺で戦っていた者達もフォルテの敵味方関係無く乱射する攻撃により、『精霊城』から退避していた。
やがて、プロテアと慧留の霊力が完全に消え去ったのを感じ、攻撃が止んだ。
「これで…終わりだよ…」
先程の攻撃により、フォルテもかなり霊力を消耗していた。
奥の手を使ったのは久し振りだったからというのもあるのかもしれないが。
フォルテは地上に降り、息を吐いた。次の瞬間、悪寒が走った。
倒れていたのは…慧留だけだあった。
「!?」
フォルテは後ろを振り返った。
その瞬間ー
「が…」
「【鉄王魔剣】」
プロテアはフォルテの身体を無数に切り刻んだ。
フォルテは時間の減速により、身体の動きが鈍っており、プロテア自身は時間の加速により攻撃が速く尚且つ、攻撃力が上昇していた。
フォルテはプロテアの攻撃により吹き飛ばされ、プロテアは更に攻撃を加え、右手足をプロテアにより切断された。
「な…ん…で…?」
「慧留!」
プロテアは急いで慧留の元へと駆け寄った。
霊力が完全に消えており、死んでいる可能性が高い。
全身に大穴が空いており、幸い急所は避けられている。しかし、彼女の生存は絶望的であった。
「どうすれば…」
「お困りの様ね」
薄紫色のお下げの長い髪と瞳が特徴の白を基調とした軍服を着ている少女であった。
「あなたは…」
「説明は後ね。その子を治すんでしょ?死なれては困るのよ。借りもあるしね」
少女は銃を取り出した。
「【死滅天使】」
銃は銃剣に変わり、そして、少女…アポロは銃弾を放った。
すると、慧留の身体から傷は消え、霊力も安全値へと戻っていた。
「これは…」
「霊力を媒介に傷を治したのよ。傷口を防いだだけだから危険なのには変わり無いけど取り敢えずこれで死にはしないわ」
「あなたといい、四宮舞といい、銃で相手を撃ち抜かないと治療出来ないの?」
「随分な言い様ね…あなた…」
「でも感謝するわ。ありがとう」
「いきなり素直に礼を言われても…」
プロテアが礼を言うとアポロは照れ臭そうにしていた。
フォルテは意識を完全に失っていた。
慧留はプロテアを過去改変の力によりプロテアの過去を改変し、フォルテの後ろにいた事にしたのだ。
それにより、プロテアはフォルテの後ろを取り、不意を突く事が出来た。
プロテアは慧留の力により過去を改変されていたので霊力が一時的に消えていただけであった。
しかし、その変わり、慧留自身が完全に無防備になり、フォルテの攻撃をモロに受けてしまったのだ。
「ここ一帯は敵味方関係無くかなり削れてるわね。フォルテ・セイント…化け物ね」
アポロは神聖ローマの精鋭部隊である『セラフィム騎士団』の一人だ。
そのアポロに化け物と言わせた彼女の実力は相当なモノである。
実際、フォルテの霊力は群を抜いており、蒼達も恐怖する程であった。
「どうやら、あなたも限界みたいね、プロテア・イシュガルド」
アポロがそう言うとプロテアは両膝を付いて倒れた。
「う…」
プロテアはフォルテとの戦いで慧留同様、限界を迎えていた。
「まぁ、安心して。私が…この戦争を終わらせるから」
アポロがそう言うと後ろから足音が聞こえてきた。
やって来たのはインベルであった。
「あなたは…確かドラコニキルと一緒に戦ってたわよね?」
「一段落したからこっちに来たんだよ。…行くんだろ?フローフルの所に」
「当然よ、あいつは…私がいないと何を仕出かすか分かんないから…」
「あの…それは俺の台詞なんですけど…お前とアポロが何を仕出かすか…俺の方が不安でしょうがないんですが…」
「あなたは黙りなさい。……このバカが…」
「いい悪口が思い付かなかったらって適当な悪口を言うのは止めてくれませんかね!?」
インベルがそう言うとインベルの頬に銃弾が通り過ぎた。
少しでも立場が悪くなると銃弾をぶっ放すのは止めて欲しいとインベルは思った。
蒼と言い、アポロと言い、いい言葉が思い付かない癖に子供っぽい悪口を言うのは止めて欲しいとインベルは思った。
「うるさいわね。置いていくわよ、虫」
「虫!?虫って何!?もっとマシな言葉は無いの!?」
「じゃあ、ゴキブ…」
「それ以上はいけない」
何だかコントをやっている様にしか見えないのだが、インベルはこの不毛な言い争いは止めようと思った。
ぶっちゃけ、アポロは物凄く頑固であり、引き下がらない。蒼以上と言ってもいい。
蒼だけでも面倒なのにアポロはそれ以上に面倒だ。争いを好まないわりかし平和主義なインベルからすれば口喧嘩ですら不毛なのだ。
しかし、いくらインベルでも余りにも度が過ぎると怒る。
「じゃあ、行きましょうか」
アポロとインベルは蒼の元へと向かったのであった。
「炎者に…闇聖女か…」
アラルガンドがそれぞれの渾名を口にした。
炎者はインベルの事であり、闇聖女はアポロの事だ。
蒼と舞は何とか立ち上がっていた。
「あなたは霊力の回復!」
アポロが蒼の周囲に銃弾を打ち、そこから紫のオーラが発生し、蒼の霊力を一瞬で回復させた。
「助かったぜ…サンキュー」
「ええ、これで借り二つね」
「…礼を言った俺がバカだった」
「てか、さっき会ったばっかりだから何か展開的に燃えるべきなんだろうけどちょっと台無しだよな」
「お前は黙れインベル」
「全くね、あなたがいるだけでテンション下がるからここから消えてくれないかしら?」
「お前らマジで何なの?」
蒼とアポロのあんまりな言い分にインベルもいい加減切れそうであった。
まぁ、昔からこんな感じではあったのだが、彼等のインベルに対する手厳しさが増しているのは気のせいだろうか?
いや、インベルは気のせいという事にした。というか、そう思わないとメンタルが持ちそうに無い。
「貴様ら三人が並ぶと、あの時を思い出すな…貴様らが罪を犯したあの日を」
アラルガンドが皮肉混じりにそう言った。
すると、蒼とインベルとアポロはアラルガンドに睨み付けた。
「まさか、あなたがヘレトーア最強と謳われていた死神とはね。正直、驚いたわね。てっきり、ルミナスが雇った傭兵辺りだと思っていたわ」
どうやら、アポロもインベルも蒼と同様、アラルガンドがあの時の男であった事は知らなかった様だ。
「アンタも似たようなもんだろ?世界を破壊してまで天使を甦らせようとしている。むしろ世界ぶっ壊そうとしてるアンタの方がよっぽど性質悪いぜ」
「天使などでは無い…神だ。貴様らと一緒にするな」
アラルガンドが初めて怒りを露にしていた。
そこまでインベルの発言が感に障ったらしい。
蒼たちは身構えた。アポロもインベルも…アラルガンドと戦った事がある。
しかし、結果は惨敗に終わっており、恐らく一人一人で挑んでも結果は同じであろう。
なら、ここは四人掛かりで戦うしかない。
「死ぬ覚悟はいいな?」
アラルガンドが問い掛ける。
「死ぬつもりは無ぇよ。バカが」
「愚問ね、死ぬのはあなたよ」
「俺はもう、折れない。お前を…お前だけは…倒す!」
インベル、アポロ、蒼がそれぞれ口にすると舞がアラルガンドに銃を発砲した。
アラルガンドは銃弾を空中で回避した。すると、既に舞が【戦神】の力を帯びた銃弾を放っていた。
銃弾が爆発したが、アラルガンドは逃げ切っていた。
しかし、アラルガンドの後ろには既に蒼とインベルが後ろを取っていた。
「【天使強化】!」
アポロは蒼とインベルの周囲に銃弾を放ち、そこから紫のオーラが出現し、二人の強化をした。
蒼とインベルがアラルガンドに斬り掛かる。
「【氷魔天刀】!」
「【炎天血剣】!」
流石のアラルガンドも回避は不可能。
アラルガンドは長剣で二人の攻撃を防いだ。
しかし、二人のパワーが凄まじく、そのまま吹き飛ばされてしまった。
「【豊神】!」
舞が蒼とインベルの上から突然現れ、銃弾を発砲した。
アラルガンドはその一撃は回避し、銃弾は屋根に着弾した。しかし、着弾した弾がいっしゅんで樹木へと変化し、アラルガンドを縛り上げた。
「!?」
ロノは植物の能力であり、着弾した先には植物が増殖する。
生物に当たればその生物の生命力を奪い成長する恐ろしい能力である。
アラルガンドは不意を突かれて驚いていた。しかし、驚いている時間は少なくともアラルガンドには無い。
「今じゃ!ガキ共!!」
舞が叫ぶと蒼とインベルとアポロは極大の攻撃を仕掛けた。
「【時間弓】!」
「【銃形態】!」
「【死滅銃撃】!」
蒼の【黒時皇帝】が弓へと変化し、インベルの【赤竜天王】が大剣から銃に変形した。
アポロは【死滅天使】から紫色の銃弾を乱射した。
するとアラルガンドの回りにポイントマーカーの様なモノが出現した。
「【氷天矢】!」
「【極大砲撃】!」
蒼は黒い弓を介して氷の矢を放った。氷の矢は黒い霊力をまとい、加速していった。
氷の矢に【黒時皇帝】の力を帯びている為、時間が加速しているのだ。
インベルは炎の砲撃を放った。
そして、アポロはポイントマーカー目掛けて銃弾を放った。
蒼達の攻撃はポイントマーカーに吸い込まれていき、その攻撃が全てアラルガンドに命中した。
「がっ…!?ぐっ…!?」
アラルガンドは悶絶した。しかし、すぐさま、長剣で自身を縛っていた樹木を切り裂いた。
アラルガンドは全身から鮮血が迸っていた。
かなりの攻撃を加えたつもりだが、アラルガンドはまだ倒れる様子が無い。
アラルガンドは高速でアポロに肉薄し、アポロを切り裂いた。
「!?」
アラルガンドは【十三式死神】の力により霊力を抜かれてしまった。
「くぅ……!?」
そして、アラルガンドはアポロに霊力の衝撃波を放ち、アポロを吹き飛ばした。
「きゃあ!!」
アポロはそのまま気を失ってしまった。
次に、アラルガンドは舞に狙いを定め、肉薄した。
舞は【戦神】の力で爆発する弾を撃ちまくったがアラルガンドはそれを全て回避しては切り裂いて防いでいた。
爆発をも切り裂くその無双振りには舞は流石に驚かずにはいられなかった。
舞は距離を取ろうとするもアラルガンドの動きが速過ぎて逃げる隙を与えなかった。
舞はアポロと同様、アラルガンドに切り裂かれ、【十三式死神】により、霊力を抜き取られてしまった。
「くっ!?」
アラルガンドは舞を吹き飛ばした。
舞は意識は残っているものの、最早、身体を動かす事は出来ない。
アラルガンドは今度は蒼に狙いを定めた。それに気が付いた蒼は【黒時皇帝】を刀の形に戻し、インベルは銃形態から剣に戻した。
そして、アラルガンドの一撃を防いだが、あまりのパワーに二人は吹き飛ばされてしまった。
あれだけの攻撃を加えているにも関わらずここまで動けるアラルガンドは正に化け物と言っても刺し支えないだろう。
アポロが戦闘不能になっている為、次【十三式死神】の攻撃を受ければ蒼たちの負けだ。
「貴様らは…ここで倒す…!」
アラルガンドも流石に限界が近い様だ。だが、その限界が来る前にアラルガンドは蒼とインベルを仕留めるだろう。
蒼とインベルに考える時間など残されてはいない。
アラルガンドは蒼とインベルに再び襲い掛かった。
「【正義の鉄槌】」
アラルガンドは【絶対正義】の力で周囲の霊力を収束し、蒼とインベルに放った。
蒼とインベルはそれぞれ、【氷魔天刀】、【炎天血剣】でアラルガンドの攻撃を防ごうとしたが、これまた防ぎきれずに吹き飛ばされてしまった。
アラルガンドは蒼に長剣で切り裂こうとした。しかし、インベルが蒼を庇った。
アラルガンドに斬られたインベルは【十三式死神】の一撃【死神の裁き】により、霊力を抜き取られた。
「ぐあああ!」
「死ね!」
アラルガンドはインベルを連続で切り裂き、吹き飛ばした。
インベルは完全に意識を失った。
「残るは貴様一人だ!氷騎士!!」
アラルガンドは蒼に攻撃を仕掛けた。
しかし、蒼は長剣による攻撃を防いでいた。
蒼は刀を二つ持っている為、手数の差とアラルガンドのダメージにより、長剣による攻撃はどうにか防げている。
しかし、アラルガンドは素手で蒼を殴り付け、蒼の脇腹を貫通した。
「がはっ!?」
蒼はアラルガンドを切り裂こうとするが、【氷水天皇】による攻撃は長剣に防がれた。
しかし、【黒時皇帝】による攻撃はアラルガンドの右肩をバッサリと切り裂いた。
「っ…!」
アラルガンドは蒼を蹴り飛ばし、空中へと追いやった。
蒼は空中で何とか体勢を立て直したのだが、すぐにアラルガンドが接近し、長剣により切り裂かれた。
【死神の裁き】により蒼の霊力が抜かれていく。
蒼は空中から落下していた。
「がっ!?」
アラルガンドは長剣に周囲の霊力を収束させ、最後の一撃をゼロ距離で放つつもりだ。
「終わりだ!氷騎士!!!」
ーまだだ…まだ…終わってねぇ!俺の身体はまだ動く!
蒼は身体を無理矢理動かしていた。
神聖ローマのとある土地。そこにいたのは手足を縛り付けられている蒼と両手を縛られて何者かに連行されている女性であった。
蒼は叫び続けた。そして、女性は口を開いた。
『フローフル、後の事は頼んだわ。大丈夫、私は、すぐに戻って来るから。あなたは…アポロを…インベルを…ルミナスを頼むね』
蒼は女性の…エリシアの顔を見て、眼を見開きながら彼女を見た。
そして、エリシアは再び、あの言葉を口にした。
『あなたは仲間を守りなさい。約束よ?』
蒼はその言葉を聞き、再び、絶叫を上げた。
アラルガンドは蒼に最後の一撃を放とうとしていた。
しかし、アラルガンドは蒼の表情を見て、驚愕していた。何故ならー
ー何故…笑っている!?
そう、蒼は笑っていた。
今、死にかけているこの状況で彼は笑っていたのだ。
「ああ、分かってるぜ。【メシア】あああああああああああああああああ!!!!」
蒼は【氷水天皇】と【黒時皇帝】の【第二解放】を同時に発動させた。
蒼は右半分には【アルカディアの氷菓】、左半分に【ワルプルギスの夜】を発動させていた。
しかし、いつもの同時解放とは少しずつ異なっていた。
蒼の背中には黒い翼と氷の翼以外に黒い樹木の様なモノが飛び出していた。
これが何なのかは蒼にも分からないがとにかく今は突っ込むしか無いのだ。
蒼は二本の刀でアラルガンドに切りかかった。
「【氷魔天刀】!【時空覇王剣】!」
アラルガンドは長剣で蒼の二本の刀とぶつかった。
すると、蒼の刀のみが砕け散った。二本共砕け散ってしまった。
アラルガンドは空いている左手で蒼の腹を貫いた。
「がっ!?」
蒼はアラルガンドの左手を抑えつけた。そして、蒼とアラルガンドの位地が逆転し、蒼が上になりアラルガンドが下になっていた。
「!?」
「認めるよ…アラルガンド…俺の…負けだ……けどな…死ぬのはてめぇだけだ!」
蒼は自身の翼を使って刀の位置を操作していた。
そして、地面には先程折れた二本の刀が突き刺さっていた。
「!?」
アラルガンドは抵抗するが蒼が力強く抑えつけている為、動けない。
蒼はニヤリと笑みを溢し、
「あばよ…アラルガンド・セクラム…!」
「貴様ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
アラルガンドはこの戦いで初めて絶叫を上げた。
アラルガンドと蒼は地面に落下し、蒼はアラルガンドが地面に落ちた瞬間、反動で空中に吹き飛び、アラルガンドから少し距離のある場所に落ちた。
「ぐっ…」
蒼は立ち上がろうとするも身体を起こす事が出来なかった。
流石に蒼もすっからかんである。これ以上来られたらもう、終わりだ。
しかし、蒼の思い虚しくアラルガンドは再び立ち上がろうとしていた。
「嘘…だ…ろ…?」
アラルガンドは先程から凄まじい猛攻を受けた筈だ。
先程の蒼の攻撃で心臓と肺を貫かれていた。にも関わらず、また立ち上がった。
とても人間のしぶとさでは無い。どころか魔族ですらこんなしぶとい者はそうはいない。
「がっ…は…う……!?」
アラルガンドは長剣を地面に突き立て、そのまま吐血した。
しかし、アラルガンドは長剣を杖代わりに蒼の元へと近付いて来る。
蒼は逃げようとしたが、身体が一歩も動いてくれない。
霊力も完全に尽きている為、霊呪法も使えない。『天使』は二本とも折れている。
今の蒼は反撃どころかここから動く事すら出来ない。
「くっ…そ……が……!」
アラルガンドは既に蒼の眼前へと迫っていた。
アラルガンドは蒼に剣を突き立てようとする。
「!?」
しかし、アラルガンドが蒼を攻撃する事は無かった。
そして、アラルガンドはニヤリと笑みを浮かべた。
「ふ…ここまでか……」
アラルガンドは諦めた様にそう呟いた。
「まさか…ルミナスでは無く、貴様に…いや、貴様らに殺される事になるとはな…」
アラルガンドはそう言って長剣を自身の心臓に突き刺した。
「な!?」
蒼はアラルガンドの突然の行動に驚いた。
少なくとも、蒼には彼の行動が理解出来なかった。
「氷騎士…いや、フローフル・ローマカイザー…貴様はいずれ……」
アラルガンドが何かを言い終える前にアラルガンドの身体は完全に消滅していた。
残されていたのは輝く金色の長剣のみであった。
蒼はアラルガンドの尋常じゃない精神力に恐怖を感じていた。
復讐心や使命感を軽く塗り潰す程の圧倒的恐怖。アラルガンドにはそれほどの見えない圧力があった。
ヘレトーア最強の死神と謳われた男は最後は自害する形で死んでいった。
四人掛かりで挑んだが結局アラルガンドを倒す事は出来なかった。
今回の戦いも事実上、蒼達の負けだ。それに、アラルガンドの力は五年前に会った時より確実に衰えていた。
つまり、力が弱った状態ですら蒼達を終始圧倒していたのだ。
全盛期の彼の力はもっと強大であった筈だ。
だが、どうにか蒼は生き残った。形はどうあれ、アラルガンドが死に、蒼が生きている。生き残った方の勝ちだ。
「……くそ…勝ち逃げされた…か…」
蒼はそのまま意識を失った。
蒼は暗い空間にいた。
そこで二人の女性が立っていた。
「【黒時皇帝】…【氷水天皇】…」
「もう…限界ね」
氷水天皇がそう呟いた。
「どういう…事だ…?」
蒼は彼女の言っている事が出来なかった。理解出来なかった。
「余達の力ではお主の力を抑え込むのは限界…という事じゃ」
「俺の…力…」
「『天使』の二本同時解放だけならまだしも、お主はアラルガンドの戦いの中で《特異点》としての力の殻を破ってしまった」
「《特異点》?何だよ?それ…」
「いずれ、分かるわ。私達ではそれを説明する事は出来ない。……ついにこの時が来てしまったわね…」
氷水天皇は名残惜しそうにそう呟いた。
蒼はどういう事かを聞こうとしたががっ!黒時皇帝が答えた。
「お別れよ。私達は完全にあなたと一体化して、私達は消滅する」
「は!?どういう事だよ!?何で…」
「あなたの力を暴走させない為よ」
「意味が分かんねぇよ!ちゃんと説明しろ!」
「もう、時間が無いわ。このままでは私達だけでなく、あなたの自我も完全に消滅する。そしたらどうなるか分からないわ」
蒼は二人の言葉の意味が全く分からなかった。
無理もない、いきなり長年共にしてきた相棒が突然消えるなどと言い出したら動揺もするだろう。
蒼には二人に聞きたい事が山程あったが、どうやら、そんな事を話している時間は無いようだ。
「別に…余は悲しくなんか無い。むしろ、貴様と別れる事が出来てせいせする!」
「そうかよ…でも…俺は寂しいぞ…」
「!?」
蒼がそう言うと黒時皇帝は泣きそうな顔をしていた。
「私も少し名残惜しいわ。あなたの整腸を、もう、見れなくなるのだから」
「いや、そんなに見たいなら…ずっと見てればいいだろ」
「ふふ…出来たら…ね…」
蒼はそう、言った。蒼は信じている。これが最後にならない事を。
ずっと共にしてきた相棒たちを信じている。
正直、蒼は全く納得していない。今のこの状況に納得出来ないのだ。
でも、何となく分かる。このままだと駄目だという事を。だから、蒼も覚悟を決めなければならない。
「ありがとな、【氷水天皇】、【黒時皇帝】」
「ええ、さようなら」
「じ…じゃあね!」
氷水天皇と黒時皇帝の身体が完全に消滅した。
「さよならなんて言わねぇよ。また、会うんだからな」
蒼はそう呟いた。
突然な別れの筈なのに蒼は驚く程、冷静であった。
To be continued




