【第六章】ヘレトーア進軍篇ⅩⅢーVings goldexー
ドラコニキルはラピドと交戦をしていた。
しかし、戦局はドラコニキルが押されていた。
仮にもドラコニキルはUSWの中でも屈指の実力者だ。そんな彼が押されているという事は彼女はかなりの手練れという事になる。
「ふー、厄介だな」
「USWの力ってこんなモノなの?何か拍子抜けね」
ラピドは呆れたようにそう呟いた。
どうやら、ラピドはドラコニキルの実力が思った以上に期待外れで呆れていた様だ。
しかし、ドラコニキルはラピドのそんな態度に一々反応する事も無く、淡々と答えた。
「ご期待に添えずに申し訳無いね」
「ま!私の【暴挙女帝】の前だと無理も無いけどね」
ラピドの『二十二式精霊術』である【暴挙女帝】の能力は支配権の強奪だ。
この世界は殆どの者は何かに支配されて生きている。
民衆は王に、月は太陽に、家畜は人間に支配されている。
この【暴挙女帝】は自身の武器に貫いた対象を支配権に置く事が出来る。
それにより、ドラコニキルは左手を負傷した。その負傷した手がドラコニキルの首を絞めようとしていた。
ドラコニキルは瞬時に左手の筋肉を切り裂き、行動不能にした。
常人がこの様な暴挙に出れる筈が無い。ドラコニキルは狂気の一歩先を行っているとしか…少なくともラピドの目にはそう見えた。
実際、ドラコニキルの左手はまったく動かせない状態にあり、出血量もかなり酷い。
「まさか、支配から逃れる為に自身の左手の筋肉を斬っちゃうなんてね…相当な精神力ね。普通なら出来ないわそんな事」
「一応、褒められてるのかな?」
「呆れてるのよ」
「そうか、まぁ、どちらでも良いがな」
ドラコニキルはそう言って、ラピドのうしろを取った。
悪魔が使う高速移動、【神速】だ。
ドラコニキルはラピドに斬り掛かる。しかし、ラピドはドラコニキルの動きを見切っており、ドラコニキルの剣を防いだ。
今度はラピドがドラコニキルに攻撃を加えた。一撃は大した事は無いのだが、何せ、一度でも攻撃を喰らえばその部位は完全にラピドに支配されてしまう。攻撃を貰う訳にはいかない。
ドラコニキルは手から黒い光線を放った。【黒閃光】だ。
しかし、ラピドは槍で光線を防ぎ、逆に攻撃を返した。
【黒閃光】はドラコニキルに襲い掛かる。
ドラコニキルは攻撃を回避するが、動きを読まれ、回避したすぐ隣にラピドが槍を構えていた。
ドラコニキルは跳躍して回避しようとしたが左足に攻撃が当たってしまった。
ドラコニキルはラピドと距離を取ったが左足がラピドの方へと勝手に動き出した。
ラピドの能力によりドラコニキルの左足が彼女に支配されてしまったのだ。
それに気が付いたドラコニキルは即座に左足の腱を切り裂いた。
いくら支配されているとはいえ、動けなくしてしまえばどうしようもない。
しかし、それはドラコニキルの動きが制限されてしまう事も意味し、決して有利とは言えない。むしろ、動きが制限されるドラコニキルの方が圧倒的に分が悪い。
更にもう一つ厄介な事がある。それはー
「どうやら、生物で無くとも支配出来る様だな」
「別に生き物以外は操れないなんて言った覚えは無いけど?」
そう、先程の【黒閃光】はラピドが支配してドラコニキルに返したのだ。
生物以外にも…というより、槍で突き刺したモノは何でも操れる様だ。
思っていたより厄介で面倒な能力だ。
ドラコニキルはこういった面倒な能力を持つ相手が一番嫌いなのだ。
理由は何と言っても面倒だから。面倒な事が起きれば自身の平穏を乱されてしまう。
ドラコニキルはそれがどんな事よりも耐え難いモノなのだ。
「まぁ、その槍で攻撃を当てなければ意味が無い…なら、話は速い」
「何をするつもり?」
ラピドは身構えた。
ラピドもドラコニキルの雰囲気が変化した事に気が付いたのだろう。
流石にセクラム教の精鋭というだけあり、相手の変化にも機敏に反応出来る様だ。
「その槍を力尽くで破壊するだけだ。怒り狂え、【黒龍魔王】」
ドラコニキルは【悪魔解放】を発動。
黒い炎がドラコニキルを包み、やがて姿を表した。
全身白い服に覆われており、服には巨大な十字架の紋様があった。
手足は両方共黒ずんでおり、頭にはドラゴンの骸骨を被っており、瞳はあかくそまっていた。
背中にはドラゴンの翼が生えており、髪の長さは短くなっていた。
とてつもない魔力の本流がラピドに襲い掛かる。
ラピドはあまりの魔力に少し仰け反った。
「凄い魔力ね…」
「お褒めに預り光栄だ」
ドラコニキルは右手に黒い長剣、【ペンドラゴン】を生成した。
そして、ドラコニキルはラピドに向かって長剣を降り下ろした。
ラピドは悪寒を覚え、ドラコニキルの攻撃を回避した。
すると、ラピドがいた場所は黒い炎により燃え盛り、跡形も無くなっていた。
ドラコニキルの操る黒い炎は対象を全てを燃やし尽くすまで消えない業火の炎だ。
ドラコニキルの炎を喰らえば待っているのは死のみだ。
しかも、ドラコニキルの炎は闇属性も練り込まれている特別な炎であり、生半可な水属性では消す所か逆に炎に呑まれてしまう危険な炎でもある。
蒼の場合は水属性と光属性を同時に使う事によってドラコニキルの炎を消し去っていた。
ラピドはドラコニキルの炎に恐れを抱いた。
無理もあるまい。一度でも黒炎に触れれば影も形も残らない程燃やし尽くされるのだ。恐怖するのは当然と言える。
「う…うあああああああああ!!!!」
しかし、ラピドは大声で叫ぶ事で恐怖を吹き飛ばし、ドラコニキルに襲い掛かった。
狙うは頭。頭さえ支配すれば支配は全身に至る。一撃必殺を持っているのは何もドラコニキルだけでは無いのだ。
「やはりな…そう来ると分かっていた」
ドラコニキルはラピドの槍を【ペンドラゴン】で防いだ。
そして、槍を【ペンドラゴン】により、切り裂いた。
槍は黒炎により粉々に燃え散った。もはや、勝負は着いている。
ドラコニキルは【悪魔解放】を解除した。
最早、【黒龍魔王】の力を使う必要が無い。これ以上無駄に魔力を消耗させる訳には行かなかった。
「どうゆう…」
「勝負はもう着いた。これ以上は無駄な魔力の消耗は避けたい。俺の【悪魔解放】は燃費が悪いからな」
ドラコニキルの【悪魔解放】はその圧倒的力ゆえに消費魔力も絶大であり、長時間使用を続けるとすぐに魔力切れを起こす。
故にドラコニキルは露骨に勝負を着いている時は【悪魔解放】を解除する様にしている。
「まだよ…まだ…終わっていないわ!」
「ふー、分からないな…何故そこまでする?」
「私はセクラム教徒だ!神の正義の為、ここで退く訳には行かない!」
「成る程…狂信者か…」
ドラコニキルは納得がいったように呟いた。
一つの宗教を過剰に信じ込む…いや、もっと言ってしまえば依存してしまう事がある。宗教ではよくある事だ。
そう言った人物たちは信仰の為なら自身の命すら執着しなくなる。
自身の命すら惜しまず、特攻する者…そういう人間が一番面倒なのだ。
「黙れ!この世界は汚れきっている!今すぐ浄化しなくてはならないのだ!」
「それが…この世界を消す事だと?」
「そうだ!」
ドラコニキルはラピドの言葉に呆れて溜め息を吐いた。
「何がおかしい!?」
「別に…ただ、俺は貴様が哀れに思っただけだ。戯れ言だ…この世界は初めから穢れている。本当に純粋なモノなど、存在しない!」
「黙れ!貴様には分から無いわ!最初から穢れているお前たち悪魔にはな!」
ドラコニキルはこの世界には純粋なモノなど存在しないと確信している。
真に穢れを知らない者はこの世界には生きてはいけないのだ。
純粋な者は簡単に汚される。そして、やがて、死ぬ。
ドラコニキルはそんな人達を多く見てきた。だからこそ、ドラコニキルは確信している。
厳然たる事実が現実を物語っていたのだ。
しかし、ラピドはラピドでセクラム教により救われている。
ラピドは孤児であり、身寄りの無い自分をアラルガンドを始めとしたセクラム教に迎え入れられた。
そして、そこで穢れた愚かな人間や魔族たちも多く見てきた。その末路も。
ラピドが見てきたモノ、ドラコニキルが見てきたモノは別物なのだ。
故にどちらも事実であり間違っておらずどちらも真実なのだ。
「やれやれ…面倒だな」
ドラコニキルは再び長剣を構えた。
ラピドはドラコニキルに突っ込んで行った。そして、手からエネルギー弾を放ったがドラコニキルはそれを長剣で斬り飛ばし、ラピドの身体を切り裂いた。
「ぐっ…」
ラピドはそのまま倒れた。
「ふー、面倒な相手だったが…本当に面倒なのはこれからか…」
ドラコニキルは既に多くの敵に囲まれていた。
いくらドラコニキルが強いとはいえ、数が多ければ苦戦もする。
それにドラコニキルは左手足の腱を切っている為、思うように身体を動かせない。
本来、【悪魔解放】は解放すれば傷は回復するのだが、今回は回復していなかった。
ラピドの『二十二式精霊術』はそれ程までに強力な力であった、という事だろう。
敵兵がドラコニキルに襲い掛かる。
しかし、突然赤い炎が敵兵達を襲った。ドラコニキルは呆気に取られていた。
「何だ?」
現れたのは巨大な赤い銃を持っている赤い髪と瞳が特徴な男であった。
更に背中には赤い霊力の翼が展開されており、まるで天使の様であった。
「大丈夫か?アンタ?」
赤い髪の男がそう言うとドラコニキルは「問題無い」と短く答えた。
「貴様、その格好…『セラフィム騎士団』か?」
「ああ、インベルだ。宜しくな」
「…ドラコニキルだ」
「へぇ?アンタが?そいつは心強いな」
「あまり期待しないでくれ。見ての通り、重症なんで」
「そうかよ!」
インベルとドラコニキルは敵にそのまま突っ込んで行った。
ここはヘレトーアの平地。大地には切り裂かれた空中艦があった。
空中艦は爆発し、燃え盛っていた。その空中艦からマクヴェスたちはどうにか脱出していた。
「くっ…何という事だ!こんな…こんな事が……!」
「我々の計画が…世界を支配するという計画がこんな所で…」
「実験体は無事なのか!?」
「問題ありません。サンプルは別の場所へ移動させ…」
アントがそう言うと後ろから悪寒が走った。
アントはヘレトーアの副大臣であり、四大帝国会議にもいた。
「無駄よ。あなたたちの実験施設は全て破壊したわ」
現れたのは白い軍服を着た女性であった。ルミナスだ。
ルミナスを見るやデミウルゴス達が恐れ戦いた。
「どういう…」
「あなたたちは裏で神を複製する実験を行っていたみたいね。多くの人達を実験に使っていた様ね。その為に今回の計画に乗った。ケルビエルという神を研究する為に」
ルミナスはマクヴェス達を睨み付けた。
「何だ?その眼は?」
「気に入らないわ、あなたたちは」
「何が言いたい?」
「自分を汚さず、他人を実験体にし、何もリスクを負わない…あなたたちのやり方がよ」
「効率的に行っているだけだ…」
「狂気の一歩上へと行く事が出来ないあなたたち如きがふざけた事を言うのね?」
「危険を避け、進んで行くのは当然の事だ!」
マクヴェスはルミナスと口論を続ける。
ルミナスは別にマクヴェスのやろうとしている事自体はそこまで否定している訳では無い。
気に入らないのはそのやり方だ。ルミナスも一国の陛下である以上、部下を捨て駒にする事もある。
ルミナスは自身の危険を咲けてまで部下を犠牲にした事は一度も無い。
ましてやマクヴェス達のように自身の野望の為だけの為に国民を利用するなどという蛮行は絶対にしない。
マクヴェスは世界を自分一人の物にする為に多くの人々を実験体として使っている。
その癖、自分自身の事は一人胡座を掻いて、保身的である。
ルミナスは何か大きな事を達成する為には自身も犠牲になる者達と同等のリスクを追わなければならないという考えがある。
故にマクヴェスのやり方に怒りを隠さなかった。
「いずれ世界を収める者の為に犠牲になるのだ。奴等とて本望だろ。むしろ、光栄であろうな。私の為に犠牲になるとは、名誉ある事だぞ」
「誰がクソ共の犠牲になって喜ぶ奴がいるのよ」
「四大帝国の一国の陛下ともあろう御方が随分な口の聞き方だな」
「クソ共にはこれで十分よ」
「それで?私をここで殺すのですかな?」
「悪いけど、逃げ切れるとは思わないでね?」
「ふっ!一人でノコノコ現れた事、後悔するがいい!死ぬのは貴様だ!」
「!」
ルミナスは辺りを見回した。すると、デミウルゴスやアントを始めとした大臣たちがルミナスを包囲していた。
そして、マクヴェスが手をかざすとルミナスの周囲に結界が展開された。
その結界は徐々に縮んでいっていた。このままではルミナスは結界に押し潰されてしまう。
ルミナスは霊呪法【雷刀千本花】を放つが結界はビクともしなかった。
「バカめ!この結界は霊力、魔力による攻撃を完全遮断する!貴様はここで押し潰れて消えろ!」
「そうね、どうやらこれは私では解けそうに無いわね」
ルミナスは溜め息を吐きながらそう呟いた。
だが、その割にはルミナスはかなり冷静であった。
「随分と余裕だな。貴様はこれから死ぬというのに」
「この結界、内側からはとても強力だけど…外側はどうかしら?」
「何がいいたい?」
「この私が何も策を練っていないと?」
ルミナスが不敵な笑みを浮かべた。
「ぐぎゃあ!!」
「!? 何事だ!」
アントが突如、悶絶した。
アントは腹を抉られており、そこから鮮血が流れていた。即死である。
マクヴェスは気配を察知し、夜空を見上げた。
「な!?何だ!?あれは…!」
空にいたのは金色の塗装が施された四足の足を持つ獣であった。
しかし、見た目はメカニックであり、恐らく自然の生物では無い。
かなりの巨体で恐らく五メートルは有に越えている。
「ヴィングスゴルデクス」
ルミナスが金色の馬の名を呼ぶとヴィングスゴルデクスは咆哮を上げ、今度は一瞬でデミウルゴスの元へと近づき、デミウルゴスを蹴り殺した。
デミウルゴスの頭は吹き飛びこれまた即死である。デミウルゴスの五体はピクピクと痙攣していた。
「ひぃ!?」
大臣の一人が悲鳴を上げた。
マクヴェスも流石に表情を曇らせていた。嫌、全く想定していなかった訳では無い。だが、こうも簡単に結界を解かれるとは思っても見なかった。
マクヴェスの想定も想像も遥かに越えていた。
二人死んだ事により、結界は解除された。
この結界はルミナスですら内側からでは破る事が出来ない結界ではあるが、外が完全に無防備な上にこの結界を張るだけで相当な霊力を消耗する為、複数人で結界を張る必要があり、勿論結界を張る人間が殺されてしまえば結界は解除されてしまう。
「威勢の割には随分呆気なかったわね」
ルミナスはそう言って、ヴィングスゴルデクスに乗馬した。
すると、ヴィングスゴルデクスは光輝いた。すると、ヴィングスゴルデクスは更に巨大化し、ヴィングスゴルデクスの身体中から、ミサイルが出現した。
「これで終わりよ」
ルミナスはヴィングスゴルデクスの背中のスイッチを押すとミサイルは無造作に飛び出し、マクヴェスたちに襲い掛かった。
ミサイルは全弾爆発し、火柱が発生した。
一発一発の威力が段違いであり、その光景は焼け野原という表現では生易しい程の凄惨な光景であった。
「ぐああああああああ!!!!」
「ぎゃあああああ!!!」
「ああああああああ!!!!」
様々な断末魔が聞こえる。
しかし、ルミナスは容赦無くミサイルを発射した。
勿論、このミサイルはただのミサイルでは無い。このミサイルは特殊な霊力が練り込まれており、殺傷能力が極めて高い危険な代物だ。
「いい試運転になったわ」
ルミナスはそう呟いた。
ヴィングスゴルデクス、これは神聖ローマが制作した魔道兵器だ。
神の…原材料には万物の古鍵である『シュトラール』を使用している。
『シュトラール』は十二支連合帝国にあった物と神聖ローマにあった物をと二つ所持している。
この『シュトラール』の成分を複製し、それを使用する事で完成させたのがこのヴィングスゴルデクスである。
このヴィングスゴルデクス以外にも何体か似たような機体が製造されている。
「これで随分スッキリしたわね」
ルミナスはそう言う。実際、先程のミサイルの乱射で殆どのヘレトーアの大臣達が死滅した。残っているのはマクヴェスだけだ。
マクヴェスは光速移動でこの場から去っていた。空中を飛行しており、逃げ足は速く、既に五十キロ以上離れていた。
「逃がさないわ」
ヴィングスゴルデクスは大地に足を着け、そして、超高速で移動した。
物凄い速度でマクヴェスに迫る。
「速い!?しかし…先程、大量の地雷を仕掛けて置いた。追い付くのは不可能だ!」
マクヴェスがそう言うと早速、ヴィングスゴルデクスは地雷を踏み、爆発した。
爆発はかなりのモノでとてもすぐに仕掛けたモノとは思えない程の破壊力であった。
腐っても大神官、実力は本物という訳だ。
「これで終わ…り……」
マクヴェスは勝ち誇ろうとしたが途中で止めた。
何故なら、ヴィングスゴルデクスはまったくの無傷であったからだ。
「バカな!?何故…無傷なのだ!?」
倒せないならまだ分かる。だが、無傷だ。
そして、マクヴェスは理解してしまった。何故、ヴィングスゴルデクスが無傷なのかを。
「まさか…地雷が爆発するより速く移動できるのか!?」
そう、ヴィングスゴルデクスのもっとも恐ろしいのは破壊力でも防御力でもない。
その機動力だ。ヴィングスゴルデクスの最高時速は1200キロ以上だ。
そのあまりの速さのせいで地雷が爆発する前に逃げ切る事が出来るという意味不明な動きが出来るのだ。
一見、これだけの速さと破壊力がある為、使いやすい様に見えるが実際は真逆である。
あまりに光速で移動する為、搭乗者の判断力や洞察力、速度に耐えうる肉体がなければならないなど使い手を選ぶ代物である。
並の者がこれに乗ればそれだけで命を落としかねない。
ルミナスだからこそ、このヴィングスゴルデクスを使いこなす事が出来るのだ。
マクヴェスも相当な速さで移動しているが既にヴィングスゴルデクスはマクヴェスのうしろを捉えている。
「【縛十光輪】」
そして、ルミナスは霊呪法、【縛十光輪】を放ち、マクヴェスを捉え、地上に叩き落とした。
【縛十光輪】はルミナスの得意な霊呪法の一つであり、相当な拘束力を持つ。
逃げてから僅か十五秒の出来事だ。マクヴェスは【縛十光輪】を振りほどこうとするがルミナスの【縛十光輪】は強力でありマクヴェスではまるで歯が立たなかった。
ヴィングスゴルデクスは普通の馬のサイズになっていた。このサイズが本来のヴィングスゴルデクスの大きさなのだろう。
「ぐっ…おのれ…!」
「無様ね。肥え太った豚の末路ね」
ルミナスはヴィングスゴルデクスの上からマクヴェスを見下ろしていた。
そして、ルミナスは背中に差していた長剣を抜き、マクヴェスに向けた。
「あっ…くっ…私を…殺すのか?」
「ええ、あなたは私にとって害でしか無いわ。五年前は随分…世話になったわね。あなたさえいなければ…今頃…私のモノになっていたのに…」
ルミナスはマクヴェスに殺意の眼を向けた。
ルミナスはどうやら、マクヴェスに個人的な恨みがあるようだ。
しかし、マクヴェスはルミナスが自身を恨んでいる理由など分かる筈も無い。
「どういう事だ!」
マクヴェスが訪ねるとルミナスは淡々と答えた。
すると、マクヴェスは顔を青冷めていた。
「貴様…気でも狂ってるんじゃ無いのか?正気じゃない…そんな…理由で…」
「何が…そんな理由なのかしら?私にとっては重要な事よ。私は欲しいのあの子の全てを。私はあの子の為なら何でもするわ。あの子が手に入るなら。私はね、別にあの子と一緒に入られれば何でもいいの。友達でも恋人でも仲間でも部下でも上司でも兄弟でも何でもいいの。一緒にいられれば…それで…でもあなたはそれを破壊した。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。あなたは絶対に許さない。だからあなたには死んで貰わないといけないわ。だからあなたの全てを徹底的に壊してからあなたを殺す。あなたの築き上げて来たもの全てを葬り去ってから殺して上げるわ。そして、あなたの関係のある人物を全て皆殺しにさせて貰ったわ」
「何…だと…」
「あなたの妻も、息子も…全て殺したわ。そして、あなたが何より大事にしていた…金も地位も財産も全て奪ってやったわ。あなたはここから仮に生き延びたとしてもあなたの悪事は全て公になっているわ。どの道あなたはもう、死んでいるのよ?」
「な…」
ルミナスはそう吐き捨てた。
そして、どこから出したのかその殺した妻と子供をマクヴェスの前に放り込んだ。
そう、ルミナスはここに来る前にマクヴェスの関わりのある人間を全員殺し、そして、全世界にマクヴェスの悪事を漏洩させていたのだ。
これにより、マクヴェスは社会的に死んだも同然であり、マクヴェスはルミナスに全てを奪われた…という事になる。
「貴様…ふざけるな!貴様のやっている事は悪魔の所業だ!何が天使だ!貴様はただの独裁者…魔王では無いか!」
「私は天使では無いわ。人間と天使の中間の存在…ハーフエンジェルよ。私はね、自身を傷付けた者の全てを奪ってから殺さないと気が済まないのよ。だから、あなたの全てを奪った…そして、あなたはここで死ぬ」
ルミナスがそう言うとマクヴェスはルミナスを蔑む眼で見た。
マクヴェスはルミナスの底を知れた気がしたからだ。
「ふ…一国の陛下が…まるでガキだな…貴様を魔王などと表現したが間違いだった様だ。貴様は…ただの小者…」
マクヴェスが言葉を発しきる前にルミナスはマクヴェスの胴体を【白神天使】により真っ二つに引き裂いた。
「減らず口が減らないわね…まぁ、あなたはその小者に殺された小者以下だけど」
マクヴェスはそのまま生き絶えた。
マクヴェスは所詮、人間でしかない。身体を真っ二つにされれば即死は避けられない。
ルミナスは『精霊城』の方を見た。
恐らく、今でも蒼たちは戦っているのだろう。ルミナスはそう思った。
ルミナスは『精霊城』へと向かおうとした。
「……そこにいるのは誰かしら?」
ルミナスは手からエネルギー弾を放った。
するとルミナスの目の前に人影が現れた。黄色い髪に赤と黄色のオッドアイ、そして、右頬に黒色の雫のペイントが付いていた。
そして、ピエロを思わせる奇抜な衣装を着ていた。
「ああ、あなたね」
「お久し振りですね、ルミナス陛下。しかし驚きました。私の気配を察知するなんて…」
「それはどうも。で?何の様かしら?わざわざ殺されに来たのかしら?」
「いえいえ、今回はあなたの新しい兵器を見に来ただけですよ。成る程…『シュトラール』を原材料に使ってるんですか?それに燃料には『セラフブレン』を使用してるんですね~。いや~興味深い…」
『セラフブレン』とはこの世界に存在する三大エネルギー源の一つであり、残り二つは『デモンソウル』と『ギアグリセリン』だ。
中でも『セラフブレン』は持続性に優れ、少量でもかなりの長期使用が可能である。更にこの『セラフブレン』は魔族や人間…特に悪魔に対して有毒であり、攻撃にも使用出来る。
一方で『デモンソウル』は馬力に優れ、兵器の能力を向上させる事が出来る。更にこの燃料も『セラフブレン』同様毒性があり、天使に対しては特に猛毒である。USWが所有している『機械魔兵』もこの『デモンソウル』が燃料として使用されている。
そして、最後の『ギアグリセリン』は持続性、馬力とバランス良く優れ、持続性は『セラフブレン』に、馬力は『デモンソウル』に劣るものの、『セラフブレン』以上の馬力、『デモンソウル』以上の持続性がある為、最も安定していると言える。二つの燃料と違い、『ギアグリセリン』には毒性は無い。十二支連合帝国が所有している『神騎兵』がこの『ギアグリセリン』が燃料として使われている。
「先程も見ていましたが!このヴィングスゴルデクスの機動力!殲滅力!を生かすには『セラフブレン』を使用するのが最適という…訳ですね!!」
「随分とふざけた喋り方をするのね」
「僕は大大大真面目なのですが!君には僕の真面目さが伝わらない様ですね~」
「世界に混沌をもたらしたいだけの狂人がよくもまぁそんな事を言えたモノね」
ルミナスはこの男を知っていた。
神混髏奇、それがこの男の名だ。
つい先日、蒼により眼を潰されていたが回復していた。
ルミナスは知っている。この名が彼の本当の名では無い事を。だが、ルミナスにとってはそんな事はどうでもいい事だ。
「そういう君も…僕と対して変わらないよ?」
「…それはどうかしらね?」
「怒った?」
「別に?」
「悪かったよ。ああ、そう言えば、「彼」にあったよ」
「私に言ってどうするのよ?」
「いや、君は彼の事を随分と執着していたみたいだからね。僕も気になったのさ。それに…神と…それもあのアスディアと交信したとなると僕も興味が湧くさ」
髏奇はおどけた様にそう言っていた。
ルミナスは髏奇のふざけた喋り方に若干イラついていたが、会うといつもこんな感じなのであまり気にしない事にした。
「今日の君、少々短気過ぎない?短気は損気だよ?」
「黙りなさい」
「まぁ、いいや。僕はここでトンズラさせてもらうよ」
「逃がすと思ってるの?」
「前会った時もそうだったけど、何で僕に会った瞬間から僕を殺そうとするのさ?物騒だよ?」
「あなたの様な物騒な存在を消す。あなたは危険な存在よ。理由はそれだけで十分よ」
ルミナスは【白神天使】を伸ばし、髏奇に斬り掛かった。
しかし、髏奇は無駄無くルミナスの攻撃を回避した。
髏奇はおっかなそうな顔をしてルミナスから離れていった。
「今日は戦いに来たんじゃ無いんだよー。じゃあああねええええええ」
髏奇はダッシュで逃げていった。
更に幻術で姿を眩ませ、ルミナスを錯乱させた。
ルミナスは一瞬で幻術を解いたがそこにはもう、髏奇はいなかった。
ヴィングスゴルデクスがあれば、髏奇を追跡する事も出来るのだが、今はまだ、
「その時では無いわ。けど…神混髏奇…あなたはいずれ…」
「はああああああ!!!!」
蒼はアラルガンドに斬り掛かった。
しかし、アラルガンドは蒼の剣を悉く防いでいた。
舞が隙を突いて、銃弾を放つが、アラルガンドは後ろにも目があるかの様に攻撃を回避していた。
そう、蒼が不意打ちをかましてから蒼と舞は一度たりともアラルガンドに攻撃を当てられていなかった。
「無駄だ」
アラルガンドは蒼に攻撃を加えた。
蒼は左肩を斬り裂かれた。蒼は怯むが蒼はアラルガンドに剣を振るった。
アラルガンドは攻撃を避け、更に舞が放った銃弾も再び回避した。
「霊呪法第三六八番【篝焔】!」
蒼は地面に両手を置くと炎が出現した。
アラルガンドは難なく攻撃を回避する。だが、蒼はそんな事は計算の内だ。
「【氷魔天刀】!」
蒼は氷の刃の衝撃波を放った。すると、先程発生させた炎とぶつかり、急激な温度変化により、霧が発生し、アラルガンドの視界を奪う。
「目眩ましか?子供騙しだな」
アラルガンドは後ろから発射された銃弾を長剣で防いだ。
「【氷魔連刃】」
アラルガンドの地面から氷の刃が出現した。
「!?」
煙から人影が接近して来るのが分かった。
アラルガンドはその人影を切り裂いた。しかし、煙は晴れ、そこにあったのは虚空のみであった。
「【時空覇王剣】!」
蒼は【黒時皇帝】の【第二解放】、【ワルプルギスの夜】に切り替えた。
黒い刃がアラルガンドの身体を切り裂く。
「ぐぅ!?」
更に舞がアラルガンドに追撃をする。
「【戦神】!【爆炎之銃弾】!」
「【時間加速】!」
蒼はアラルガンドから離れた。その瞬間、舞が放った銃弾がアラルガンドに直撃し、そして爆発した。
アラルガンドは霊力だけで相手を探知する事が不得手のようだ。
アラルガンドは気配、視力だけで相手を察知する事に長けている。
故に蒼の時間操作も効かなかった。だが、眼と気配で敵を索敵に慣れている為、視界を奪われるとアラルガンドの能力が大幅にダウンする。
「貴様にしては小賢しい真似をするな…」
「褒め言葉として受け取っとくぜ」
蒼は皮肉混じりにそう言った。
アラルガンドは見た所、かなりのダメージを受けていた。しかし、アラルガンドはまだまだ戦えそうであった。
「同じ手は通用せんぞ」
蒼は再び、【篝焔】を放ち、【氷魔天刀】を同時に放ち、目眩ましをする。
蒼はアラルガンドの後ろに【時空覇王剣】を放とうとするが、
「何度も言わせるな」
アラルガンドは蒼の虚像を無視し、蒼の黒刀を鷲掴みした。
「!?」
舞もアラルガンドに【戦神】銃弾を打ち込むが、咄嗟に蒼を盾にし、攻撃を防いだ。
蒼は舞の爆発の銃弾をモロに受けた。
「がっ!?」
「【十三式死神】」
蒼はアラルガンドに再び斬られた。
すると、蒼の身体から霊力が漏れ出した。
【十三式死神】の能力だ。
「ぐあああああああ!!!」
更にアラルガンドは【絶対正義】の力で蒼の漏れ出した霊力を収束し、一気に解き放った。
「【正義の鉄槌】」
蒼は勿論の事、その攻撃は舞も巻き込んだ。
周囲には霊力の奔流が渦巻いていた。
「まだ…立つのか…」
「はぁ…はぁ…」
「くっ……」
「まぁ…後一撃で貴様らは死ぬ。消えろ、正義の名の元に」
アラルガンドは金色の長剣に霊力を収束させた。
蒼と舞は最早、あの攻撃を回避する事は出来ない。
「くっ…そ…」
やはりアラルガンドは別次元の強さを持っていた。
舞と二人掛かりでも傷を負わせるだけで手一杯だ。
「終わりだ。氷騎士、四宮舞」
アラルガンドは霊力の衝撃波を放った。
今までで恐らく最大の破壊力だ。
駄目だ、回避しきれない。
「【天使強化】!」
「【炎魂砲撃】!」
極大の炎の塊が蒼と舞を守った。
「これは…」
蒼はあの技に見覚えがあった。
そう、これはインベルが【第二解放】状態の時のみ扱える技である巨大な炎の大砲、【炎魂砲撃】だ。
だが、蒼の知っている【炎魂砲撃】とは威力が段違いであった。
恐らく、威力強化の術が施されている。
蒼にはもう一つ、心当たりがあった。霊力を強化する力を持つ者がいる。
それはアポロの使う天使、【死滅天使】だ。
【死滅天使】は自身の領域内にいる味方の霊力を強化する事が出来る。
「随分手こずってんな…フローフル」
「しょうがないから手伝って上げるわ」
「誰が手伝えっつった」
蒼は溜め息混じりで二人の名を呼んだ。
「インベル、アポロ」
そう、先程再開したばかりの…心強い蒼の友達の名を。




