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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第六章】ヘレトーア進軍篇
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【第六章】ヘレトーア進軍篇ⅩⅡーTwo Justiceー

 蒼はコモドを撃破し、アラルガンドに刃を向けた。

 アラルガンドは蒼の怒りの形相を見ても全く反応を示さなかった。


「変わらんな。その鬼の様な目は。全く…エリシアも嘆いている事だろう。折角拾った命を、ここで散らすのだからな」


 アラルガンドはそう言って、蒼に殴り付けた。

 蒼は黒い刀、【黒時皇帝(ザフキエル)】でアラルガンドの攻撃を防いだ。


「エリシアの『天使(エンゲリアス)』か…」

「うるせぇ!【黒刃葬破(シュバルツ・シュベート)】!」


 蒼は黒い衝撃波を放った。

 しかし、アラルガンドはその攻撃も片手で防いだ。


「貴様如きがこの私を倒せると思うな!」


 アラルガンドは蒼に殴り付けた。蒼は【氷水天皇(ザドキエル)】と【黒時皇帝(ザフキエル)】で攻撃を防ぐがそのまま吹き飛ばされてしまった。


「ぐっ…【第二解放(エンゲルアルビオン)】!!」


 蒼は【氷水天皇(ザドキエル)】と【黒時皇帝(ザフキエル)】二つの【第二解放(エンゲルアルビオン)】を同時に発動させた。

 右側が【氷水天皇(ザドキエル)】、左側が【黒時皇帝(ザフキエル)】の特徴が見られており、頭上にあった輪っかは消えており、髪は灰色になっていた。


「そうか…二つの『天使(エンゲリアス)』を融合させたのか…だが、まだまだ不完全だな」


 アラルガンドはあまり驚いていない様に見えた。

 蒼はこの力を使うのは三年振りだ。この力は膨大な霊力を消耗するのとまだまだ扱いきれていなかった為、使わずにいたのだ。

 だが、アラルガンドは強い。この力を使わなければ勝機は無い。


「うおおおおおおおおお!!!!」

「二つの力を掛けたとして、二倍になると思うな。【絶対正義(ザ・ジャスティス)】!」


 アラルガンドは『二十二式精霊術(アルカナ)』を発動させた。

 すると、アラルガンドは蒼の攻撃を回避した。そして、すれ違い様に蒼の腹部に打撃を叩き込んだ。


「がっ!?」


 蒼はアラルガンドに斬り掛かろうとするが、アラルガンドは蒼の攻撃を全て回避した。


「【時間停止(クロノデザイン)】!」


 世界が蒼以外の全てが白黒(モノクロ)へと変わった。

 蒼以外の全ての時間が停止しているのだ。蒼は数秒だけ時間を止める事が出来る。これは【黒時皇帝(ザフキエル)】の能力である。

 蒼はアラルガンドの首に斬り掛かる。


「終わりだ!」


「甘いな」


 アラルガンドは蒼の攻撃をいつの間に抜いたのか金色の長剣で蒼の攻撃を受け止めた。


「!?」

「時間を止める能力…やはり、エリシアの力を使える様だな。だが、時間を止めて相手を攻撃出来るからといって油断しすぎだな」


 アラルガンドは蒼の攻撃を一度も受けていない。完全に蒼の動きを読み切っている。

 アラルガンドは蒼に斬り刻んだ。蒼の身体から鮮血が飛び散る。


「ぐっ!?」

「脆いな」


 蒼はアラルガンドに攻撃を与えるが全て悉く回避されてしまう。

 アラルガンドの【絶対正義(ザ・ジャスティス)】の能力は超反射及び、霊力の収束である。

 相手の動きより一瞬速く反応し、攻撃を防ぎ切っている。蒼の攻撃を【時間停止(クロノデザイン)】解除直後にアラルガンドは蒼の攻撃に反応し、攻撃を防いだのだ。

 アラルガンドの素手による攻撃が強力なのも【絶対正義(ザ・ジャスティス)】の能力でアラルガンドの身体の霊力を収束させ、それを蒼にぶつけているからだ。

 人間の反射神経の限界を明らかに越えていた。蒼の二刀流をアラルガンドは鮮やかに回避し、その隙を突き、蒼に剣を斬り突けた。


「がはっ!?」

「これで終わりだ。【十三式死神(ザ・デスサーティン)】」


 アラルガンドは蒼の身体を再び切り裂いた。すると、蒼の傷口から霊力が漏れ出していた。


「があああああああああああああ!!!!」


 【十三式死神(ザ・デスサーティン)】の能力は斬った者の霊力、及び魔力を発散させる能力だ。

 この『二十二式精霊術(アルカナ)』発動中に斬られれば霊力及び魔力は消失する。

 アラルガンドは蒼の身体から発散された霊力を【絶対正義(ザ・ジャスティス)】の能力で吸収し、金色の長剣に自分の霊力と共に収束させた。


「【正義の鉄槌(アダーラ・イラベーラ)】」


 アラルガンドは蒼に極大な一撃を放った。

 蒼は礼拝堂の壁まで吹き飛ばされてしまった。


「がっはっ…」


 蒼は全身から鮮血が流れていた。とても動ける様な身体では無い。

 【第二解放(エンゲルアルビオン)】は既に強制解除されている。

 蒼はもう戦える様な身体では無いのは明白である。

 更に、【十三式死神(ザ・デスサーティン)】により、霊力を大量に奪い取られ、最早、霊呪法の一つも出せはしない。

 アラルガンドは蒼を哀れむ様に見ていた。


「哀れな男だ。貴様は結局、何も守れはしない」


「フローフル!?」

「蒼!?」

「時神!?」


 蒼がやられた事を知ったプロテア、慧留、屍が思わず蒼の名を呼んだ。

 しかし、蒼は顔を上げるのがやっとであり、とても戦える様な状態では無い。


「貴様は何故、ここまで来た?全てを奪われ守る者も全て失った貴様が…まぁ、いい。これから死ぬ男の事を聞いてもどうしようも無い事だ」


 アラルガンドは蒼に問い掛けるがそれが無意味と思うと話を途中で切った。

 アラルガンドはやはり、分からなかった。何を蒼をここまで動かしたのか…

 五年前、アラルガンドは確かに蒼を「殺した」。

 完全に心をへし折った筈だ。にも関わらず、再び立ち上がりアラルガンドに刃を向けた。

 やはり、蒼を生かしたのは間違いであった。あの時、命を奪っておくべきであった。


「だがまぁ、【十三式死神(ザ・デスサーティン)】に斬られた者に待っているのは死のみだ。貴様はこのまま死ね」


 アラルガンドがそう言うと後ろから人が現れた。どうやら、伝令役の様だ。

 アラルガンドの耳に手を当てアラルガンドは話を聞き終えると「分かった」と返事をした。


「氷騎士、貴様はここで力尽きて死ね。私はやらねばならん事があるのでな」


 やがて礼拝堂からヘレトーアの軍達が現れた。

 恐らく、トライデントから戻って来たヘレトーア側の増援だろう。

 多勢に無勢とはこの事である。万を越える兵隊がいる中、蒼たちはたったの五人で内一人が戦闘不能状態である。


「ふー、不味いな。いくらなんでも数が多すぎる」

「キリがねぇぞ…」


 ドラコニキルと屍が顔をしかめる。

 プロテアと慧留もかなり動揺していた。

 プロテアは蒼の元へと向かおうとするがフォルテが行く手を阻む。


「退いて!」

「あなたの相手は私でしょ?私を倒してからにしないと」

「うるさい!退きなさい!!」


 プロテアは声を荒げるがフォルテはプロテアを通さない。

 慧留も蒼の元へと向かおうとするもこれまた、プロテアに阻まれる。


「助けに行かせないよ」


 虹のレーザーが慧留たちに降り注ぐ。


「くっ!」

「がっ!」

「諦めなさい。もう、終わりだよ。終わりなんだよ」


 慧留とプロテアは地に膝を付いた。

 アラルガンドは勝利を確信し、この礼拝堂から離れて行っていた。

 蒼は身体を動かそうとするが身体が思うように動かない。

 そうしている内にアラルガンドはどんどん蒼から遠退いて行った。


「待…て…」


 蒼は声を絞り出した。


「待ちやがれえええええええええええええええええええ!!!!!!」


 蒼は大声で叫んだ。しかし、アラルガンドは後ろを振り向く事すら無く、礼拝堂から出て行こうとしていた。

 蒼は口から血を吐き、既に意識を失いかけていた。


ーくそっ!!動け…動いてくれ!!!


 蒼は身体に力を込めるも動けない。

 仮に動けたとしても蒼は霊力が完全に切れている。アラルガンドにやられに行くだけだ。

 しかし、それでも蒼は止まる気は無かった。

 ここで止まれば前と…五年前と同じだ。何も出来ず、何も守れなかったあの時と何も変わらない。


「ぬおおおおおおおお!!!!」


 蒼は必死で立ち上がろうとする。

 そして、どうにか立ち上がる事に成功した。しかしー



「がっ…」



 蒼は何者かに銃弾を心臓に打たれ、倒れた。

 蒼の身体から血溜まりが出来ていた。身体が動く様子も無い。完全に絶命している様であった。


「蒼!!」

「フローフル!!」

「時神!!」


 プロテアは【審判時神(イラ・ハカム)】の力で自身の時を加速させ、蒼の元へと向かった。

 一方、慧留はフォルテにより行く手を阻まれていた。

 屍も向かおうとするが敵が多すぎて近付く事すらままならない。


「君だけは行かせないよ。君の能力は厄介だからね」

「退いてよ……ねぇ…そこを退いてよ!!!」


 慧留は泣きながらフォルテに訴え掛ける様にそう言った。

 だが、フォルテは当然ながら聞く耳を持たなかった。


「戦場では必ず仲間は死ぬ。それはあなたも分かっているでしょう?」

「それは…」

「時神蒼がいれば戦いに犠牲が出なかった?だからあなたは戦争の恐ろしさを忘れていたのかな?」

「そんな事!」

「なら何故、あなたは泣いているの?戦場で涙を流すなんて愚の骨頂だよ!!」


 フォルテは虹の光線を慧留にぶつけた。

 巻き戻しが間に合わず慧留は攻撃を受けてしまう。それでも時間をある程度巻き戻していたので威力は抑えられたが慧留は壁まで吹き飛ばされてしまった。


「ぐっ!?」

「終わりかな?私も守らなければならないモノがあるからね。悪く…思わないでね」


 フォルテにはこのヘレトーアにいるエルフたちを守らなければならない。

 その為にもこの戦いに勝たねばならない。

 何かを守る為に何かを奪わなければならない。守る為に戦う。ジレンマもいい所である。

 フォルテとてこんな戦いは望んでいない。しかし、こうするしか…無いのだ。


「フローフル!!しっかりして!!フローフル!!!」


 プロテアは倒れた蒼に必死に呼び掛けた。しかし、蒼は動く気配が全く無い。


ー嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで!!!


「フローフル!!起きて!!フローフル!!!」


 プロテアは蒼以外視界に写っていなかった。

 プロテアにとって蒼は自身を救ってくれた光であり恩人であり、希望なのだ。

 それを失うという事は再びプロテアは絶望へと叩き落とされる事を意味するのだ。


「!? プロテア!!!後ろ!!!」


 慧留がプロテアに向かって叫んだ。

 プロテアは慧留の声に反応し、後ろを見たが既に兵隊がプロテアに斬り掛かろうとしていた。

 プロテアが気付いた時にはもう遅い。斬られる。

 プロテアは目を閉じた。しかし、何も起こらなかった。プロテアは目を見開いた。

 そこにあったのは脇腹を刀で何者かに貫かれていた兵隊であった。


「え?」


 プロテアはその刀が後ろから伸びている事に気が付いた。

 プロテアは後ろを見た。すると、蒼が後ろから【氷水天皇(ザドキエル)】でヘレトーアの兵隊を突き刺していたのだ。

 やがて、兵隊は凍り付き、砕け、そのまま兵隊は倒れた。


「フロー…フル…」


 蒼は立ち上がった。

 よく見たら身体中の傷が消えていた。それどころか霊圧が上がっているとすら思えた。


「間に合ったみたいじゃな」


 プロテアは声の方へと振り向いた。

 そこにいたのは四宮舞であった。舞の後ろには十二支連合帝国の兵隊たちも来ていた。

 そこには赤島英明、兎神審矢、御戸狂、蛇姫薊もいた。


「薊、くる、審矢、英明!」

「屍さん…無事でしたか!」

「やれやれだな」

「蒼ちゃん、大丈夫?」

「屍…」


 兎神、赤島、くる、薊はそれぞれ呟いていた。


「どうも~、『セラフィム騎士団』のお通りだよ~」


 十二支連合帝国の兵隊以外に白装束や白を基調とした甲冑をを着た兵隊たちもいた。

 『セラフィム騎士団』だ。蒼がよく知る人物がそこにはいた。


「四宮さん…ミルフィーユ…」

「!? あの女が…ミルフィーユ…」


 蒼が二人の名を呼ぶとプロテアはミルフィーユの方を見た。

 オレンジ色のミディアムパーマの髪と瞳が特徴の活発そうな少女の様な見た目であった。

 ミルフィーユはかつて、イシュガルドの生き残りを見逃した事がある。

 だが、彼女がイシュガルドを見逃したのは憐れみとか慈悲の心とかそういうのでは無く、自分を殺しに来てくれる事を期待していたのだ。

 ミルフィーユは『セラフィム騎士団』屈指の戦闘狂であり、その為ならどんな事でもする。

 但し、殺し合いが好きという訳ではないので無益な殺生を好まない慈悲深い一面もあるにはあるが、戦闘狂のイメージが強すぎてミルフィーユは『セラフィム騎士団』の中でも危険人物とされている。

 プロテアは舞とミルフィーユの計らいでイシュガルドの内乱を生き残ったと言っても過言では無く、複雑な関係とも言える。


「フローフルと…隣の可愛い子ちゃんはもしかしてプロテアかな?」


 ミルフィーユがふざけ半分にそう言った。

 ミルフィーユとプロテアが直接対面するのは五十年振りだ。しかもその時はプロテアは意識が無かった。

 プロテアからすればミルフィーユは初めて会う様なモノだ。


「ミルフィ…何でここに…つか、何で四宮さんと…」

「ま、神聖ローマも、今回のヘレトーアは見逃せないって事だね。今回は大将様もお連れしてるしね」


 ミルフィーユが蒼に向けてそう言った。どうも蒼はミルフィーユの言葉の意味が分からなかった。


「フローフルの霊力と傷が回復してるのはあなたの仕業ね、四宮舞」

「そう言う事じゃ」


 舞は四体の神と契約をしており、その内の一体は生命を司る神、「カネ」がおり、その「カネ」の能力は回復能力。

 単純な回復だけでなく、霊力の回復も更に直した相手の全開以上の力を出させる事も出来る。

 欠点としては回復能力が高過ぎて、使いすぎると過剰回復で対象の身体を壊す危険性がある事だ。


「さぁ、終わらせましょう」


 蒼の後ろから声が聞こえた。蒼にとってはとても聞き覚えのある声であった。

 白の長い髪に黒い瞳、白を基調とした白金の意匠が特徴の軍服を着ていた。


「ルミナス…」


 アラルガンドがルミナスの名を呼んだ。

 アラルガンドはルミナスを忌々しげに見ていた。


「久し振りね、アラルガンド。元気してた?」

「この状況でよくそんな事を言えたモノだな」

「そうね、あなたはもう、終わりよ。あなたの計画は私にとっては邪魔にしかならないもの。五年前は利害の一致で協力したに過ぎないしね」

「………」


 ルミナスとアラルガンドはお互いを見つめていた。

 二人が直接会うのは五年振りだ。

 お互い、殺気と余裕が入り交じっている様な視線であった。


「フローフルも久し振りね。会いたかったわ」

「てめぇ…何でここに…」

「あなたに会いに来た…ではダメかしら?」

「ふざけてんのか?」

「本当よ」


 蒼はルミナスを睨み付けた。

 ルミナスはそんな蒼を悠然と見つめていた。

 見た所、嘘を吐いている様には見えなかった。だが、他にも目的があるのは明らかであった。


「ふっ…まずは貴様からだ、ルミナス。そして、貴様を仕留めた後は氷騎士、再び貴様の剣を折ってくれる」


 アラルガンドはそう言ってルミナスに斬り掛かった。

 ルミナスは白色の長剣を取り出し、攻撃を防ぎ、上空へと飛び、礼拝堂の壁を突き破った。

 アラルガンドはルミナスを追い掛けて行った。


「待て!」


 蒼も上空へと飛ぼうとしたが何者かにそれを阻まれてしまった。

 瑠璃色の髪をした灰色の宗教服を着た少女が蒼の行く手を阻んだ、アラルガンドの仲間であるコモド・セクラムだ。

 彼女は独特の形をした槍を持っていた。


「くそ!また新手か!」

「悪いけど、通さないわよ」


 蒼は舌打ちをする。


「速く行け、時神蒼」


 ドラコニキルがコモドに刃を向けた。

 コモドは槍で彼の攻撃を凌いだ。


「ドラコニキル!」

「ここは俺がやる。貴様はあの男と戦いたい様だしな。……これで貴様に貸し借り無しだ」

「俺がいつお前に借りを作ったんだよ」

「いいから行け」


 ドラコニキルに言われると蒼は何も言わずに礼拝堂から出て行った。


「さて…俺が相手になってやる」

「へぇ~、あのドラコニキルと手合わせ出来るなんて光栄ですね」

「ふー、俺の事を知っているのか?」

「そりゃあね、USWの有名人だし」

「そうか、それでは精々、ご期待に添える様、頑張るさ!」


 ドラコニキルはそう言って、コモドに刃を向けた。





 蒼は一人で走っていた。

 すると、後ろから気配を感じ、蒼は足を止めた。


「四宮さん!」

「先生と呼べ。妾も行くぞ」

「な!?あいつは俺一人で…」

「バカな事を言うな。あやつは貴様一人では手に余る。はっきり言って妾が加勢した所で勝てるか分からんぞ」


 舞は冷静な口調でそう言った。

 確かに蒼一人では手も足も出なかった。五年前も同様だ。

 このまま一人で行っても恐らくさっきと同じだ。

 なら舞がいた方が勝率は上がる。

 しかし、舞と蒼の二人掛かりですら勝てるか分からない様である。


「…分かった」

「素直でよろしい」


 蒼は舞の言葉に従う他無かった。

 正直、蒼はアラルガンドに勝てる気がしなかった。

 それは分かっていた。だが、これは蒼は一人で勝たなくてはならない。そう思っていた。

 しかし、これは戦争だ。意地だのプライドだので戦局を悪化させる訳にはいかなかった。

 蒼と舞はアラルガンドとルミナスのいる場所まで向かって行った。





「貴様とこうして刃を交えるのは初めてか」

「そうね、けど勝負は見えているわ。私の勝ちよ」

「大した自信だ。確かに貴様は私を倒しうる可能性を秘めている。それは認めよう。だが、今の貴様では私には勝てぬ」

「あら?やってみないと分からないわよ?」

「その言葉、そっくりそのまま返す」

「このままでは埒が開かないわね。いいわ、さっさとやりましょう」


 ルミナスがそう言うと上空から巨大な戦艦が降りて来た。


「あれは?」

「アラルガンド!さっさと我々を逃がせ!」


 現れたのはデミウルゴスだ。デミウルゴスだけでは無い。

 デミウルゴスの後ろには白い髭を生やした老人もいた。

 そう、彼こそこのヘレトーアの大神官、マクヴェス・ヘレトーア。このヘレトーアを統治している表向きの王だ。


「我々には危険を及ばない様にして頂きたいですな、アラルガンド」

「申し訳ありません。あなた方はこの戦艦に乗り、速やかに退避を」


 アラルガンドはそう言ってマクヴェス達を誘導した。

 アラルガンドは計画が失敗した時の保険の為に彼等を生かしている。

 計画が完了した時にはここにいる肥え太った老害共を始末するつもりでいる。

 何故なら、彼等は計画を成功させる為に用意した駒だ。計画が完了すれば用済みだ。生かす価値など無い。

 ルミナスはアラルガンドの隙を突き、アラルガンドに攻撃を仕掛けた。

 しかし、アラルガンドに不意討ちは何も意味が無く、アラルガンドはルミナスの剣を防いだ。


「やっぱり、不意討ちはダメね」

「そう言う事だ」


 ルミナスは狙いを変え、巨大な飛行船に攻撃を仕掛けた。

 彼等に逃げられれば後々厄介な事になるのは目に見えている。早急に排除した方がいい。

 しかし、アラルガンドはそれもお見通しの様でルミナスの攻撃を完全に防いでいた。

 飛行船はやがて空を飛び、ゆっくりと浮遊していった。


「ねぇ?あなたは何がしたいの?あなたは閻魔の様に利己的な欲望がある訳でも、クリフォトの様に世界に変革をもたらしたい訳でもない。ケルビエルを復活させてあなたはその先の事を一切、考えていないわ。表向きにはこの世界を一からやり直すとか謳っているんでしょうけど、あなたの場合はケルビエルを復活させて終わり。それに意味があるの?」


 ルミナスはずっとアラルガンドに疑問を持っていた。

 彼の目的は知っていた。彼の過去も。しかし、ルミナスには理解出来なかった。

 彼はケルビエルを復活させる事のみが目的であり、他の事は考えていない。

 愛する者を復活させる為だけに世界を巻き込み、こんな馬鹿げている事をやろうとしていたのだ。


「意味か…無いだろうな、私以外には。だが、私にとっては意味がある。私がそれを望んでいるのだ。ケルビエルの復活を」


 アラルガンドが望んでいる。

 それを聞いた途端、ルミナスは納得したように笑みを浮かべた。


「どうやら、私とあなたは同じ穴の狢の様ね。成程、理解出来たわ。出来た上で言わせて貰うわ。あなたの好きにはさせない」

「貴様の答えなど聞いていない」

「あなたの目的が達成されれば私のやりたい事が私の生きている内に出来なくなるわ。悪いけど…「私の」世界は消させないわ」


 ルミナスはアラルガンドにそう言った。


「「私の」世界…か…相変わらず傲慢な女だな貴様は。だが、その傲慢さが貴様の力の根源という訳か」

「そんな大層なモノじゃないわ。言ったでしょ?あなたと私はそうは変わらないって」


 ルミナスは悟った様にそう言った。

 ルミナスは昔から、たった一つの願いの為だけに生きている。

 アラルガンドと何ら変わらない。


「あなたは…随分と私を過大評価してるみたいね。そして、フローフルを過小評価している」

「貴様といい、エリシアといい、分からんな。何故あの男をそこまで買い被る。私には理解出来んな」


 アラルガンドは分からなかった。

 エリシアが、ルミナスが、何故そこまで蒼に目を付けていたのかを。

 アラルガンドにとって蒼はただの愚者だ。

 何一つ守れない、力も無い、ただの愚者だ。


「別に買い被って無いわ。本当の事よ。彼には世界を変える程の力がある。今はまだ、本当の力を出せていないだけ。まぁ、あなたはフローフルの力を見る前にこの世を去る事になるでしょうけど」

「何だと?」

「あなたはここで死ぬ。これは決定事項よ。覆る事は絶対に無い」

「貴様が私を殺すと?」

「それは違うわね」

「何だと?まさかこの私が氷騎士に殺されるというのか?」

「さぁ?どうかしらね、少なくとも、私では無いわ。私が手を下すまでも無く、あなたは勝手に死んでいくわ」

「どういう事だ?」

「次期に分かるわ」


 ルミナスは意味深にそう言った。

 ルミナスは全てを見通しているかの様な口振りであった。

 それがアラルガンドを逆撫でした。


「気に食わんな。貴様のその何でも見透かしている様な口振りは」

「別に、見透かしているとか見透かしてないとかそう言うのでは無いわ。ただ私は厳然たる事実を言っているに過ぎないもの」

「もういい。お喋りは終わりだ」


 アラルガンドはそう言ってルミナスに接近した。


「【氷魔連刃(ひょうまれんじん)】」


 アラルガンドの地面から氷の刃が出現した。

 アラルガンドは氷の刃を透かさず回避した。


「氷騎士が得意としていた霊呪法か。そう言えば貴様もハーフエンジェルだったか…」


 ルミナスは蒼と同じハーフエンジェルだ。

 それにより、天使が使用する詠唱術である『聖歌(ヴィーゲンリート)』は使用出来ない代わりに霊呪法は使う事が出来る。

 特にルミナスは霊呪法の達人と言われており全ての霊呪法を扱う事が出来る。


「【縛十光輪(ばくじゅうこうりん)】」


 光の縄がアラルガンドを拘束する。

 【縛十光輪(ばくじゅうこうりん)】はルミナスが霊呪法の中でも特に得意としている霊呪法だ。

 アラルガンドも流石にこれは回避する事が出来なかった。

 ルミナスは長剣でアラルガンドに斬り掛かる。

 しかし、アラルガンドは力尽くで【縛十光輪(ばくじゅうこうりん)】を振りほどき、ルミナスの剣を自身の剣で防いだ。


「【十三式死神(ザ・デスサーティーン)】!」


 ルミナスはアラルガンドの剣を全て回避し、アラルガンドの顔に蹴りを入れた。

 アラルガンドはそのまま吹き飛ばされたが、体勢を立て直し、ルミナスに向かって行った。


「霊呪法第九十九番【白天撃(アルブス・クリシス)】」


 白い巨大な槍がアラルガンドに襲い掛かる。

 あまりの霊力の奔流にアラルガンドは流石に表情が変わり、攻撃を防ぐのでは無く、回避した。

 だが、ルミナスは左手にも先程の白い巨大な槍を生成しており、それをアラルガンドに飛ばした。


ー馬鹿な!?九百番台の霊呪法を連続で!?


 これは流石に回避は不可能である。

 アラルガンドは長剣で攻撃を防いだ。

 しかし、刃と槍が触れた瞬間、白い槍は爆発を起こした。

 【白天撃(アルブス・クリシス)】は触れた瞬間に破滅の光を撒き散らす死の霊呪法であり、ルミナスの得意な霊呪法の一つだ。

 いくらアラルガンドでも九百番台の霊呪法を喰らえばただでは済まない。

 やがて、土煙は消え、アラルガンドが現れた。

 しかし、傷は殆ど負ってはいなかった。身体中に所々傷がある程度だ。

 九百番台の霊呪法をまともに喰らってあの傷とは流石はヘレトーアの死神と言った所か。


「九百番台の霊呪法を連続で放ったのは驚いたが、この程度では私は倒せんぞ」

「そうみたいね。でも、驚いたわ。今の一撃はそれなりの破壊力の筈だけど」


 ルミナスは皮肉混じりにそう言った。

 実際、【白天撃(アルブス・クリシス)】は小さな城くらいならば一撃で破壊出来る程の破壊力がある。

 それを受けても大したダメージになっていないのだからルミナスが驚くのも自然と言える。


「けど、もうあなたと相手をしている時間が無くなってしまったわ。悪いけど、あの豚共を逃がす訳には行かないわ」


 そう言って、ルミナスは長剣を掲げた。

 マクヴェス達が乗っている戦艦は既に二キロ程、移動している。

 ここから攻撃を加えるのは困難だ。しかし、ルミナスは本気で戦艦を撃破しようとしていた。


「させぬ!」


 アラルガンドがルミナスの攻撃を止めようとする。


「私にかまう暇があるんなら、後ろ、見た方がいいわよ」


 ルミナスが言ったのと同時にアラルガンドの後ろから殺気を感じた。

 アラルガンドは振り向いたが遅かった。

 刀で思いっきりアラルガンドは斬りつけられ、アラルガンドは吹っ飛ばされた。

 アラルガンドに一撃を加えたのは蒼であった。


「【白神天使(メタトロン)】」


 ルミナスが自身の天使の名を呼ぶと白い長剣はぐんぐんと伸びた。

 そして、白い長剣は空中艦がいる所まで伸び、ルミナスが剣を下に下ろした。

 すると空中艦は真っ二つに切り裂かれ、爆発した。

 ルミナスの『天使(エンゲリアス)』である【白神天使(メタトロン)】の能力は剣を伸縮する能力だ。

 剣を伸ばしたり縮めたりする為、不意を突いたり、先程の様に遠く離れている空中艦を切り裂く事が出来る。

 出力次第では巨大な空母すら引き裂く事が可能である。


「氷騎士…貴様…」


 アラルガンドは左肩を蒼にばっさり切られていた。しかも先程の衝撃で吹き飛ばされ頭を強打した為、頭からも血が出ていた。

 蒼はというと最初から【氷水天皇(ザドキエル)】の【第二解放(エンゲルアルビオン)】を発動させていた。


「やっと…一撃与えれたぜ…」


 蒼は苦し紛れにそう言った。

 実際、さっきのはラッキーだった。アラルガンドがルミナスに意識が集中していたからこそ突けた隙だ。


「くっ!?」


 アラルガンドは立ち眩みを起こしていた。

 先程の一撃はそれなりに効いている様だ。


「どうやら、結構効いてるみたいだな…」

「その様だ…」

「ハッ…余裕じゃねーかよ?」

「安い挑発のつもりか?そんなモノに乗るか…」

「そうかよ…だがな、今度こそ…勝つ!」

「貴様には無理だ。氷騎士」


 蒼はアラルガンドを挑発するが、アラルガンドは流石に乗ってはくれない。

 アラルガンドはヘレトーアの死神と呼ばれている。

 彼と戦った者には死が待っている。ヘレトーア最強の戦士なのだ。

 蒼は五年前も…そして、ついさっきもアラルガンドに完膚無きまでに叩き潰された。

 しかし、今度こそ、負ける訳にはいかない。


「俺は…お前にはもう負けない!もう、誰も死なせねぇ!」

「まだ、吠えるか!氷騎士!貴様にはもう、守る者など無いのだ!」


 アラルガンドは蒼に向かって行った。そして、蒼はアラルガンドと戦いを始めた。





To be continued

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