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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第六章】ヘレトーア進軍篇
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【第六章】ヘレトーア進軍篇ⅩⅠーThe eclipse moonー

 ルバートと厳陣はお互いに鍔ぜり合いが続いた。


「【炎帝爆殺(ナシャート・ラハブ)】」

「【光輝大砲(ダウ・インスカース・カノン)】」


 炎と光の光線が再びぶつかり合う。

 だが、威力は互角の様でお互いダメージは負わなかった。

 ルバートは痺れを切らした様に話した。


「いい加減、本気を出したら?」

「随分、余裕ですね」

「僕は君と本気でやりたいんだよ。君は十二支連合帝国の総帥…イシュガルドの内乱でも多くの戦果を残した天才だ」

「買い被り過ぎですよ。…と私も一つ質問を宜しいですか?」

「? 別に構わないけど?」


 ルバートは訝しげに厳陣を見た。

 ルバートは決して謙遜してる訳でも彼を建てている訳でもない。

 彼は純粋に厳陣を評価している。彼の『二十二式精霊術(アルカナ)』の力は相当なものであり、実際、多くの敵を殲滅した。


「あなたは…何故この浄化作戦に加担を?あなたに利があるとは思えませんが?見た所、この世界に恨みに恨みがあるとも思えません」

「それ、蒼君にも聞かれたな~。君達、結構考え方似てるんじゃない?」

「さぁ?それはどうでしょう?」

「前言撤回。似てないね、蒼君はそんな人を試す様な素振りはしない」

「いや、彼は私に似ているよ。昔のね」

「ふぅ~ん。まぁ、いいや。今回の作戦はまぁ、想像はついてると思うけど神を降ろす事だ。降ろす神はかつて天使だった…ケルビエルだ。僕は、そのケルビエルの力を知りたいんだ」

「成程、知的好奇心か…恐ろしいモノだな。無垢で好奇心の強い人間は」


 厳陣は顔には出さなかったが本気で恐ろしいと感じていた。

 純粋な人間はそれだけでも恐ろしい。常軌を逸した行動をするからだ。

 厳陣が最も恐れる性格とも言える。純粋な心は時間が経つにつれ、消えていく。

 それは現実を知る様になるからだ。にも関わらず、厳陣から見たルバートは純粋そのものだ。

 この手の相手は常識は通用しない。


「人間が最も罪深いとされる欲求は…知識欲だと思うんだよね僕は。食欲?性欲?睡眠欲?可愛いものだよ。知識欲と比べてね。でも…だからこそ、知識欲は素晴らしいモノだと僕は思うんだ」


 ルバートは本気でそう思っているのだろう。

 人間は欲望により、発展して来たと言っても過言では無い。

 何かを手に入れようとする欲望、意思の力と言うべきか…その力で人間は世界を切り開いてきた。

 だが、それと同時にあらゆる秩序を乱しても来ている。故に罪深いのだ。


「僕は魔術の…霊術の全てを知りたい…その為なら世界が壊れようと関係無いね」

「あなたはこの世界がお嫌いなのですか?」

「ううん、大好きだよ。この世界は色々なモノがある。飽きる事の無い玩具箱だよ。けど、それとこれとは別。結局、何を優先させるかだよ。僕は玩具箱を守るより、玩具箱を壊してみる事にした…それだけだよ」

「正に狂気…ですね」

「うん、そうかもしれないね」


 厳陣はやはり、ルバートの言葉を理解出来そうにない。

 分かっているのは彼は純粋である事くらいだ。


「君のもう一つのアルカナ…【狂月光(ザ・ルナティック)】は僕には効かない。僕の精神は二つある。僕を幻術に落としてもすぐに解除出来る」

「どうやら、その様ですね」


 厳陣は既に【狂月光(ザ・ルナティック)】を発動させていた。

 【狂月光(ザ・ルナティック)】は月を赤く見せ、その月を見た者を無差別に幻術に嵌め殺す『二十二式精霊術(アルカナ)』だ。

 だが、ルバートには自身の精神以外にグノウェーを宿している為、幻術に嵌まってもグノウェーが自動的に解除してしまう。


「さぁ!行くよ!」


 ルバートが叫ぶとグノウェーは咆哮を上げ、再び光属性の砲撃(ブレス)を放った。

 あまりの攻撃範囲に厳陣は攻撃を回避しきれず、吹き飛んでしまった。

 ルバートは吹き飛んだ厳陣を追い掛けて行った。


「ぐっ…」


 厳陣は身体中から鮮血が流れていた。

 先程の攻撃でかなりダメージを受けていたのだ。


「終わりだね。もう少しくらい楽しませてくれると期待してたけど…もう、終わりだね」


 ルバートは心底落胆した様にそう言った。

 ルバートは戦えなくなった相手、自身の興味から外れてしまった相手にはとことん無頓着だ。

 厳陣はもう、ルバートの興味から外れていたのだ。


「お見苦しい所、すみません。ですが、ご安心を。落胆などさせませんよ」


 厳陣はそう言って、エネルギー弾をルバート目掛けて発射した。

 しかし、ルバート相手に通用する筈も無く、再びルバートは光の光線を発射した。


「もう飽きたよ、【光輝大砲(ダウ・インスカース・カノン)】!」

「【月蝕封殺(ソーマ・ラーフ)】」


 ルバートが放った攻撃は厳陣に当たる事は無かった。

 ルバートの放った一撃は月へと向かっていた。


「な…何だい?これは…」

「月蝕はご存じですか?」

「月が欠ける現象だろ?それが何なのさ」


 ルバートはざっくりとした説明でそう言った。

 ルバートの言ってる事は間違ってはいない。

 月蝕とは地球が太陽と月の間に入り込み、地球の影に月が掛かり月が欠けて見える現象だ。

 だが、分からない。何故、ルバートは月蝕の話などを今するのか。


「私の扱う能力は【太陽】と【月】を冠する力だ。だから私は月蝕を司る力も扱える…ガハッ……!」


 厳陣は血を吐きながらそう言った。

 ルバートの…いや、グノウェーの一撃はそれほどまでに強力であったという事だ。


「あなたの力が全開では私に勝ち目はありません。ですので…『封印』させて頂きます」

「何だって?」

「私の【狂月光(ザ・ルナティック)】の【月蝕封殺(ソーマ・ラーフ)】の能力は…指定した相手の能力を封印する」

「な…!?」


 月と太陽には膨大なエネルギーがある。

 月は幻惑と封印の力を司ると言われており、厳陣はその力を導いていただけに過ぎない。

 月の力を利用してグノウェーを封印する。それが厳陣の狙いだ。

 月から無数の黒い鎖が飛び出してきた。鎖はグノウェーを縛り付け、拘束した。


【ぐおおおおおおおおおおお!!!!!】

「バカな!?動けない!?」

「いくら神でも月の力に逆らうのは容易では無いでしょう」


 厳陣の【月蝕封殺(ソーマ・ラーフ)】はグノウェーの力を完全に抑え付けていた。

 ただ抑え付けているだけでなく、霊力まで完全に封じていた。

 グノウェーの身体が徐々に縮んでいた。

 やがてグノウェーは完全に消え、ルバートの中に戻っていった。

 ルバートは元の姿に戻っていた。


「やられたよ…」


 ルバートは感心した様にそう言った。

 ルバートはグノウェーの力を完全に封印されていた。

 これこそ、【月蝕封殺(ソーマ・ラーフ)】の能力だ。

 【月蝕封殺(ソーマ・ラーフ)】は月の封印の力を利用した恐るべき能力であるがこの封印術は夜の時しか使えないモノである。

 但し能力は永続的に続き、何らかの方法で封印を解除しない限りこの封印術は解けることが無い。

 この封印術はとある一つの条件さえ満たしていれば発動可能である。

 それは満月である時だ。【狂月光(ザ・ルナティック)】の幻術は満月で無くとも使えるが【月蝕封殺(ソーマ・ラーフ)】は満月の…それも新月の時しか使えない。

 つまり、この力は月に一度しか使えない代物なのだ。


「だが、君はそれを意図的に行った。この日を狙っていたんだね」

「さぁ?どうですかな?」

「強かだね…」


 そう、厳陣は最初から正面からヘレトーアと戦うつもりなど無かった。

 この日になるまでヘレトーアに攻め込まなかったのはこの力を十全に使えるようにする為であった。


「まぁ、いいさ。この封印術は時間を掛けてゆっくりと解くとするよ。幸い、封印したのはグノウェーだけだし、僕のアルカナはまだ健在だ!」

「ええ、ですが、勝ち目ゼロからかなり引き上げる事が出来ました。あのまま戦っていたら私が負けていたでしょう。こうする他無かった」


 相手は神だ。その神に一人の人間が突っ込んだ所で勝ち目など無い。

 だから、封印して使えなくするしか無かった。


「【天雷(ラアド・ラエド)】!」


 無数の雷が厳陣に襲い掛かる。やはり、グノウェーを封じただけで勝てる程ルバートは甘い相手では無い。

 しかし、力は確実に弱まっている。ここで確実に仕留める。


「【狂月光(ザ・ルナティック)】」


 ルバートは赤くなった月を見てしまった。

 この赤い月を見てしまったら幻術に嵌まり、目と口から血を吐きながら生き絶える。

 ルバートの身体が動かなくなった。


「【水神旋風(アクアネリアム)】」


 大量の水と風が厳陣に襲い掛かる。

 厳陣は水圧と風圧により、遠くに吹き飛ばされてしまった。

 ルバートは【狂月光(ザ・ルナティック)】を解除したのだ。

 本来、幻術は大半は光属性に分類されるのだが、厳陣の使う【狂月光(ザ・ルナティック)】は特別であり、闇属性攻撃だ。

 闇属性の弱点は光属性。ルバートは光属性を使い、強制的に厳陣の幻術を解いたのだ。

 しかし、厳陣の幻術は強力であり、それを解くのは容易では無い。

 やはり、ルバートはグノウェーの力を使わずとも相当高い能力を持っている。


「水か…厄介だな…」


 ルバートはあらゆる属性攻撃で厳陣の技を押さえ込んでいる。このままでは埒が開かない。

 特に厳陣が得意としている火属性と闇属性が押さえ込まれている。

 術勝負では間違いなくルバートに軍配が上がる。

 つまり、このままでは厳陣は確実に負ける。


「グノウェーを封じ込めば何とかなると思ったのかい?舐められたモノだよ」

「ええ、正直、グノウェーさえどうにかすれば何とかなると思っていました。あなたを少々見くびり過ぎましたね」

「ま、僕のグノウェーの力を封印して使えなくした所は本当に見事だったよ。それだけでも君は良くやったよ。けど、ここまでだよ!【火炎花火(フオ・シャオ)】!【風魔之一撃(パラム・パラム)】!」


 風属性を組み込んだ炎が厳陣に襲い掛かる。

 恐らく今の【炎帝爆殺(ナシャート・ラハブ)】の出力ではあの炎を消せない。


「終わりだよ!常森厳陣!」


 炎は爆発し、厳陣もろとも吹き飛ばした。

 恐らく、厳陣の五体は残らず木っ端微塵となっているだろう。


「ふふふ…僕の勝ちだよ…常森厳陣…」


 ルバートがそう呟いた瞬間、背後から突然悪寒が走った。


 後ろを見るとそこには厳陣がいた。


「な!?」


 厳陣はルバートを殴り飛ばした。


「がっ!?」


 厳陣は【瞬天歩(しゅんてんぽ)】でルバートの攻撃を回避していたのだ。

 厳陣はルバートに再び肉薄した。


「霊呪法第四百六番【四肢蘭風(ししらんぷう)】」


 厳陣の両手足から風が宿った。

 【四肢蘭風(ししらんぷう)】とは両手足に風をまとわせ自身を強化する霊呪法だ。

 ルバートは厳陣と同じように【四肢蘭風(ししらんぷう)】を発動させた。

 しかし、ルバートは厳陣に一方的に殴られるのみであった。


「がっ…ぐっ…」

「あなたは霊術に頼り過ぎるあまり、体術は不得手の様ですね」


 ルバートは魔術や霊術に特化している。言い換えればそれ以外はそれほどでも無いという事だ。

 ルバートは体力はそれなりにある。何故なら、魔術は土台となる身体作りが不可欠だからだ。

 どれだけ高い魔力や魔術の知恵を持っていたとしても土台となる体力が無ければ意味が無い。

 故にルバートは身体能力はそれなりにある。しかし、それだけだ。

 ルバートは肉弾戦を全くと言っていい程した事が無い。そうしなくても魔術や霊術だけでどうにかなったからだ。

 しかし、今、厳陣はルバートに接近戦を持ち掛け、圧倒している。

 ルバートは身体中を殴られていた。恐らく何ヵ所かは折れていた。

 それでも気絶せずに済んでいるのはルバートの体力があるからだと言える。


「ぐっ…ガハッ…」


 しかし、ルバートはとうとう両膝を地面に付けてしまった。

 霊術を使おうにも発動する前に厳陣に攻撃されるしそれ以前にルバートの霊術は強大な為、こんな至近距離から術を使えばルバートも只では済まなかった。

 ルバートは距離を取ろうとするも厳陣はそれを許さなかった。

 厳陣はルバートに拳と足を叩き込み、ルバートを吹き飛ばした。

 ルバートはそのまま意識を失った。厳陣の勝ちである。


「やはり…楽では無いな…」


 厳陣はそう言って、この場から離れていった。

 向こうはまだ戦いが続いている。すぐにでも増援に行かなくてはならない。


「間に合ってくれよ…」


 厳陣はそう呟いた。






 蒼と屍とドラコニキルとプロテアは走っていた。

 『精霊城(ラウフ・カルス)』は全体的に灰色の塗装をしており、中は迷路の様に入り組んでいた。

 しかし、蒼たちは霊圧の強い場所を探知し、向かっていた。

 霊圧の強さは想像を越えており、しかも更に上昇していた。


「何なんだよ…この霊圧…」

「ふー、どうやら、かなりまずい状況の様だな」


 蒼が驚き、ドラコニキルが冷静に呟いていた。

 徐々に強まる霊圧…これはハッキリ言って異常である。

 屍もプロテアもかなり緊迫した表情をしていた。


「もう少しで礼拝堂に辿り着く筈よ」

「とっととケリ着けに行くぞ!」


 プロテアがそう言うと屍は気合いを入れていた。

 ドラコニキルはそんな蒼たちを感心半分、呆れ半分と言った感じで見ていた。

 ドラコニキルは蒼たちを不思議な奴等だと思っていた。

 だが、何故、そう思うのかは分からない。興味深くはあるが今はそんな事を考えている時間は無い。

 やがて、目の前に大きな扉があった。

 蒼は刀を抜き、扉を切り裂いた。すると、扉の先から眩しい光が降り注いだ。

 蒼たちは一瞬怯むがすぐに中に入っていった。


「これは…」


 辺りは相変わらず灰色の塗装であったが、目の前には独特の絵が描かれたガラスがあった。

 上にはバルコニーがあり、正に教会であった。

 そう、ここは礼拝堂だ。この『精霊城(ラウフ・カルス)』の最も重要な場所である。


「ここが…礼拝堂…か…」


 屍もこの礼拝堂の異質な雰囲気に圧倒されていた。それはドラコニキルやプロテアも同じである様だ。


「…!スープレイガ!」


 ドラコニキルが大声を上げると蒼たちは首を何者かに掴まれているスープレイガを発見した。

 全身を切り刻まれている。間違いなく重症だ。

 スープレイガの首を掴んでいる者は光により、顔が良く見えない。

 だが、灰色の宗教服を着ているのははっきり分かった。

 間違いない、恐らくヘレトーアの神官である。


「ほう…もう来たのか。思ったより速かったな」


 男がスープレイガをドラコニキルの前に放り投げた。


「スープレイガ!」


 ドラコニキルはスープレイガの元に駆け込んだ。


「無駄だ。意識は無い。速く何とかしないと死ぬぞ」

「!」


 蒼は露になった男の顔を見た。

 男は青色の長い髪と瞳をしていた。目は睫毛が長くつり目であった。

 蒼は今までにないくらい驚愕の表情をしていた。


「て…てめぇは……!!」

「久しいな、氷騎士」


 蒼は男の事を知っていた。





 ルバートは目を覚ました。しかし、立ち上がる事が出来なかった。

 ルバートは何があったのかを思い出した。


「そうか…僕は常森厳陣にやられて…」


 今思い起こすだけでも頭が痛くなる。

 魔術では間違いなくルバートは厳陣に勝っていた。だが、厳陣はルバートの苦手の体術で対応してきた為、ルバートは成す術も無くやられてしまった。

 それだけではない、そもそもグノウェーの力を封じられていなければ勝てた筈なのだ。

 そう、あくまで力はルバートの方が上であった。にも関わらず、負けた。


「いや~、僕もまだまだだな~。どうやら、少し驕っていたみたいだ」


 ルバートは今まで自身の魔が絶対だと思っていた。

 自身の探究心が全てを可能にすると思っていた。

 魔の研究を第一に考え、そして、今回の計画にも賛同した。

 だが、この世界を手放すのはどうやら速すぎた様だ。

 ルバートの知らないモノ、知らなければならない事が山程ある。

 ルバートはそんな事を考えているととある一つの事を思い出した。


「あ……思い出した…あの時の…『ローマ聖戦』の…」


 ルバートは蒼と会った事がある。

 しかし、あの時の蒼は酷く暗い顔をしており、両手を手錠で繋がれていた。

 そんな人物が何故…


「考えても仕方ないな」


 ルバートは再び、目を閉じた。





 蒼は白色の服を着ていた。所々に水色の意匠が施されていた軍服てあった。

 蒼は次々と敵を斬り倒して行った。

 その様は正に鬼であり、鬼神であった。

 蒼は戦場を掛けていった。仲間と共に…いや、厳密にはインベルとアポロと共に。

 蒼は目の前に神聖ローマの軍服とは違う服装をしていた男に会った。

 その男は蒼の事をずっと見ていた。


 蒼は男の事を覚えていた。

 蒼は記憶の中から抜け出し、再び現代へと戻った。


「てめぇは…あの時の…!」

「フローフル?」


 蒼は怒りの形相へと変わっていた。

 プロテアは訝しげに蒼を見ていた。


「貴様の剣は…あの時折った筈なんだがなぁ…何故、折れた剣で私の前に立っている?氷騎士?まさか、貴様、また私に殺されに来たのか?」

「うるせぇ!!!黙ってろ!!!!」


 蒼はアラルガンドの言葉に過剰に反応していた。


「どういう事だ!?時神!あいつの事を知ってるのか?」

「そうか…貴様らはその男の事を何も知らないのだな。その男は天に背いた大罪人だ。五年前の…神聖ローマで起こった大戦争、『ローマ聖戦』を引き起こした張本人だ」

「「「!?」」」


 プロテアと屍とドラコニキルは驚愕の表情をしていた。

 『ローマ聖戦』とは今から五年前に神聖ローマ内で起こった内乱である。

 『セラフィム騎士団』のメンバーが神聖ローマに内乱を起こした大規模内乱だ。

 ここ最近のローマの内乱の中でも断トツで規模の大きい内乱であり、多くの死者を出した。

 内乱を起こした『セラフィム騎士団』のメンバーであり、『ローマ聖戦』の首謀者であった氷騎士は『セラフィム騎士団』を脱退、表向きは処刑された…という話であった。


「まさか…まだ私に歯向かう力が残っていたとはな…あれだけの者達を無駄に死に至らしめ、その犠牲を無駄にし、守りたい者もロクに守れなかった貴様が…よくもオメオメと…」

「黙れ!!貴様は…貴様だけは……!!!俺が倒す!!!!」


 蒼は二本の刀を抜き、アラルガンドに接近した。

 しかし、何者かに行く手を阻まれた。


「!?」


 その正体はフォルテであった。

 フォルテが蒼の攻撃を魔術で不正だ。


「あのまま逃げていれば良かったのにね…今度こそ本当に殺すよ」


 フォルテはそう言いながら両手を左右に広げた。


「【恋人(ザ・ラバーズ)】」


 フォルテは死霊達を召喚した。

 【恋人(ザ・ラバーズ)】は死霊を甦らせ使役する能力だ。

 【恋人(ザ・ラバーズ)】は土地の怨念の強さによって数と強さが変動する。

 以前のトライデントの時程の力は無い。しかし、数が多い事には変わり無い為、厄介な能力である。


「ちぃ!」


 蒼は死霊を薙ぎ倒していった。しかし、数が多いのでアラルガンドまでに辿り着けずにいた。

 屍、ドラコニキル、プロテア、ドラコニキルも死霊を倒して行っていたがやはり数が多く厄介である。


「悪いけど、今回は本気で行くよ。【精霊環神(イラ・ラウダリア)】」


 フォルテが火、水、雷、土、風の五つの属性を融合させプリズム属性を発生させた。

 更にフォルテの背中にはエルフの翼が生え、頭に白い輪っかが付いていた。

 そして、虹の光線が蒼たちに降りかかる。


「【世界逆流(レイウェルティ)】」


 虹の光線が瞬く間に消滅した。


「何?これ…?」


 フォルテは少なからず動揺していた。

 フォルテが放ったプリズム属性を完全に消滅させたのだ。


「私も戦うよ」


 現れたのは慧留であった。


「向こうはどうなった?」

「私だけ先に向かったんだよ」


 ドラコニキルの問いに慧留はそう答えた。

 どうやら、蒼たちの危機を察知しここまで来たようだ。


「貴様…エル・マクガウェインか…」

「何で…私の事を…」

「ふふふ…」


 慧留がアラルガンドに訪ねる、するとアラルガンドはあまりの可笑しさに笑いを堪えきれなかった。


「ははははははははははははは!…全く…運命とは気紛れだな…そうか…貴様…氷騎士の仲間か…」

「氷騎士?もしかして蒼の事?何か知ってるの?」


 慧留はアラルガンドを訝しげに見ながら問い掛けた。

 アラルガンドは笑うのを止め、そして、慧留の問い掛けに答えた。


「『ローマ聖戦』…」

「!?」


 慧留はその単語を聞いた瞬間、目を見開いた。


「貴様の仲間も大勢死んだ筈だ?そうだな?エル・マクガウェイン」

「だから…何?…それが何の関係が…」

「あの戦争を起こした張本人が…貴様の隣にいるという事だ。そう!お前の仇がな!」


 アラルガンドはそう言うと、慧留は隣にいた蒼の方を見た。

 だが、慧留はまだアラルガンドの言わんとしている事が分かっていない様だ。


「『ローマ聖戦』…あの戦争を引き起こしたのは氷騎士…フローフル・ローマカイザーだ」

「嘘……」


 慧留は蒼を見詰めた。

 慧留の考えている事が蒼にも分かった。慧留は否定して欲しいのだ。蒼が戦争を仕掛けた事を。

 だが、蒼は慧留に嘘を吐く事が出来なかった。


「…本当だ…俺は五年前、神聖ローマに内乱を仕掛けた。俺が…あの戦争を引き起こしたんだ……」


 慧留は顔面蒼白になっていた。

 蒼は慧留が神聖ローマの内乱から逃亡した事は知っていた。そして、内乱により親友が死んでしまった事も。

 だが、あの戦争がローマ聖戦の時だとは蒼も知らなかった。


「どうして…どうしてなの!?蒼!!何で…戦争なんか起こしたの!?何で…」


 慧留は蒼に問い掛けた。

 慧留は蒼も自身と同じ平和を愛する人物だと思っていた。

 なのに、ローマの歴史に残る様な大戦争を仕掛けたと聞いたら慧留も蒼に対して思う所はある。


「それは…」


 蒼は慧留の問い掛けに対して口ごもってしまった。

 上手く伝えられない。伝えたいのに伝えられない。何故なら、蒼があの戦争を仕掛けたのは非常に利己的な理由であるからだ。


「その男は…天に背いた一人の背徳者を守る為にその男は何人もの命を犠牲にした。挙げ句の果てに守りたかった者すらも守れなかった。貴様の親友を殺したのはその男の様なものだ」


 アラルガンドは慧留と蒼を見据えながらそう言った。

 蒼は何も言えなかった。その蒼の反応が慧留を余計に焚き付けてしまった。


「その男は…ただの大罪人だ」

「蒼…どうして…何も答えてくれないの?ねぇ!蒼!!!」


 慧留は叫んだ。慧留の戦争に対するトラウマを植え付けてしまった遠因は蒼にあった。

 そんな事実を知れば慧留も流石に動揺を隠せない。

 蒼は慧留の顔を見るが何も言えなかった。

 いや、何かを話そうとしても言葉が出ない。何故、慧留の過去を知った時点でこの様な事態を想定しなかったのかと蒼は深く後悔した。

 最悪のタイミング、状況で慧留と蒼の過去が判明しまった。

 もし、この状況で無ければ、冷静な状況であれば慧留も恐らく今程蒼に怒鳴りつける事も無かっただろう。

 だが、状況が状況だし、慧留にとってのトラウマが自身の命の恩人であり友人である蒼にあると唐突に言われれば冷静な判断など出来よう筈も無かった。


「貴様は…あの時に死んだのだ。貴様にとっては…エリスの命以外はどうでも良かった。そうだろう?だから最後まで抵抗を止めなかった。仮にもう少し速く降伏していればエル・マクガウェインの友は死ぬ事が無かったかもしれない。結局貴様は…自身の安らぎさえあれば他はどうでも良かったという訳だ」

「違う…違う!!!!」


 アラルガンドの言葉を蒼は否定した。


「何が違うと言うのだ?貴様は仲間を捨て駒程度にしか考えてなかった。それの何が違う!」

「俺は…俺は…今はもう…あの時の俺とは違う!俺は…!自分の信念の為に戦ってんだよ!!エリスの為じゃなく…自分の守りたい者の為にだ!!」


 蒼はアラルガンドにそう言った。

 すると、慧留は蒼の言葉を聞き、冷静さを取り戻した様だ。


「蒼…」

「悪い…慧留…また…今度…全部話す。絶対にだ」


 蒼は慧留を見てそう言った。

 慧留も状況を理解し、蒼の言葉に同意した。

 そう、話は戦いが終わった後でも出来る。


「フォルテ…トライデントにいる兵たちをここに呼び戻せ」

「分かりました」


 そう言って、フォルテは空に炎の玉を五発程打ち上げた。

 礼拝堂に大穴が空き、炎は空へと登っていった。




「戻れ…か…」


 フォルテの信号に気が着いたトライデントにいたラピドとコモドがそれに気が付き、撤退を促した。


「皆!『精霊城(ラウフ・カルス)』に戻れ!」


 コモドがそう言うと兵たちは一目散に『精霊城(ラウフ・カルス)』の方へと撤退して行った。


「どうなってる?」

「恐らく、敵さんが指示したんでしょうよ」


 疑問を抱くインベルにアポロが淡々と答えた。


「俺たちもさっさと行きたい所だが…」

「その前に治療するわ!常森厳陣が戻って来るのを待ちたいけどそんな時間は無いから体勢を立て直してすぐに私達も『精霊城(ラウフ・カルス)』に向かうわよ」


 十二支連合帝国軍は厳陣がルバートとの戦いで離れてしまった為、代わりにアポロが指揮を取っていた。


「まぁ、ここまでは計算の内よ。まだまだこれからなんだから!」


 アポロはそう呟いた。





「完了しました。トライデントにいるヘレトーア軍はこちらに向かっています」

「ご苦労。では、始めるか…全面戦争だ」


 アラルガンドがそう言うと死霊達が再び襲い掛かった。

 更にどうやら、事前にこの礼拝堂にも敵を多く配置していた様で、多くのヘレトーアの兵たちが蒼たちに襲い掛かる。

 蒼たちは敵を次々と倒して行った。

 プロテアは【審判時神(イラ・ハカム)】の力で時間を加速させ、フォルテに肉薄した。


「フォルテえええええええ!!!!」

「あなたもしつこいわね」


 フォルテは虹の光線をプロテアに放った。

 しかし、プロテアはフォルテの【鉄王剣(ハディード・サイカ)】で攻撃を防いだ。


「え?」


 今までのプロテアなら防げる筈の無い攻撃だ。

 その為、フォルテはかなり驚いていた。

 フォルテはプロテアの顔をよく見た。


「……」


 フォルテは押し黙った。

 何故なら、プロテアの顔に鱗が出現していたからだ。


「ポセイドンの鱗…ね…まだまだ扱い切れていないみたいだけど?」

「それでも、あなたは無茶をしなければ勝てない。けど、今度は絶対にこの力に溺れない!」


 プロテアはぶっつけ本番でこの力を封じられて使ったがまだまだ扱い切れていない。

 だが、暴走はしなかった。今はそれで良しとするしかない。


「なら、もう一発防いで見てよ!」


 フォルテは虹の光線を再び放った。

 プロテアは攻撃を防ごうとした。しかし、その前に虹の光線は消え去った。


「私もいる事を忘れないでよね!」


 慧留がそう言うとフォルテは慧留を睨み付けた。


「あなたのその力…厄介だね…その打ち消す能力は」


 慧留の能力は時間の巻き戻しだ。

 どうやら、フォルテは慧留の能力を技を打ち消す能力だと思っている様だ。

 能力が能力なのでそう誤認するのも無理は無い事だ。


「プロテア!行くよ!」

「ええ!」


 慧留とプロテアはフォルテに挑んで行った。

 一方、屍とドラコニキルは敵兵と戦っており、蒼はアラルガンドの元へと突っ込んで行った。しかしー


「アラルガンド様の元へは行かせん!」


 茶髪の髪と瞳の男が蒼の行く手を阻んだ。蒼の刀を素手で受け止めた。


「な!?」

「はぁ!」


 茶髪の男は蒼を衝撃波で吹き飛ばした。


「コモドか…」

「はい、ラピドもすぐにやって来ます」

「そうか」


 アラルガンドは悠然として蒼を見つめた。蒼はそれが安い挑発である事には気付いていたが、それでも蒼の怒りは止まらない。


「邪魔だ…退け!!!」

「退きはしないさ!【塔転落(ザ・タワー)】!」


 コモドは『二十二式精霊術(アルカナ)』を発動。

 蒼はコモドに再び吹き飛ばされてしまった。

 コモドが左手を前に出すと蒼の身体がコモドに引き寄せられた。


「くっ!?」


 コモドは落ちていた槍を自分の右手に引き寄せ、そのまま蒼の方へと向けた。

 コモドの【塔転落(ザ・タワー)】の能力は引力と斥力を操る能力だ。

 先程蒼を吹き飛ばしたのは斥力の力であり、今使っている引き寄せる能力は引力を使っている。


「このまま心臓へと一突き…終わりだ」

「舐めるな!【氷零双翼刃(ひょうれいそうよくじん)】!」


 蒼は氷の刃翼を発生させコモドに攻撃を仕掛けた。

 コモドは完全に虚を突かれた。引き寄せられていたり引き離されている状態では身体を動かせない。

 なので、コモドは完全に油断していた。蒼はそれを逃さない。


「最後まで舐めて掛からなかったらもう少しマトモな勝負が出来たかもな。俺が勝つのは変わんねぇがな」


 蒼はそう言って、【氷水天皇(ザドキエル)】でコモドの身体を切り裂いた。

 更に最後の止めの一撃を放った。


「【氷魔天刀(シュネー・デーゲン)】!」


 蒼はコモドを吹き飛ばした。

 コモドは蒼の一撃により氷付けにされた。やがて、その氷は砕け散り、コモドはそのまま倒れた。


「馬鹿…な…」


 勝負は一瞬で終わった。

 コモドはそのまま気絶した。

 蒼はアラルガンドに狙いを定め、【瞬天歩(しゅんてんぽ)】でアラルガンドに距離を詰め、アラルガンドの顔面に刀を突き刺した。

 しかし、アラルガンドは蒼の一撃を軽く顔を横に回避した。


「てめぇは…俺が倒す!」

「………」



 アラルガンドは蒼を悠然と見つめていた。

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