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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第六章】ヘレトーア進軍篇
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【第六章】ヘレトーア進軍篇ⅨーDusk skyー

 フォルテは『精霊城(ラウフ・カルス)』の一番奥の部屋に向かっていた。

 奥には礼拝堂があり、そこにフォルテは召集を掛けられたのだ。


「来たか、フォルテ…」

「お久し振りです、アラルガンド様。ルバート様も」

「うん、お久さ」


 アラルガンドがフォルテに気が付き、ルバートは間の抜けた挨拶をした。


「さて、これより『浄化作戦』を決行する」

「随分急ですね」

「時間が無くなってしまったからな。早急に行う」


 アラルガンドがそう言うとフォルテは意外そうな顔をした。


「時間が無くなったってどういう事?」

「…間も無く、十二支連合帝国、USW、そして…神聖ローマが攻め込んで来る。『浄化作戦』を嗅ぎ付けた様だ」

「一体…どこで…」

「考えられるのはいくつかあるが…あの男だろう」

神混髏奇(こうまるく)…」

「…だけでは無いだろうが…まぁそうだろうな」


 神混髏奇についてはヘレトーアも把握していた。

 しかし、彼は逃げ足が速く、情報を残すなどのヘマをしない為、ヘレトーアも彼を対処しきれていなかった。

 だが、アラルガンドはこうなる事は想定内であった。何故なら、彼はイシュガルドの内乱を起こすきっかけとなった人物でもある。

 アラルガンドはその事に気が付き、始末しようとした事があったが、彼の得体の知れない力により、逃亡され、それ以来、アラルガンドは彼とは接触していない。


「作戦終了後、神混髏奇は早急に処理する。始めるぞ」


 アラルガンドが長剣を抜き、壇上へと突き刺した。

 そして、アラルガンドとルバートとフォルテは剣を三角形の陣形になるようにそれぞれの配置に着いた。


「本来ならイシュガルド人を人柱を使うべきだが…フォルテでも十分代わりになる」


 アラルガンドはそう言って、術式を組み込んだ。

 そして、アラルガンド、ルバート、フォルテの霊力が長剣に集まった。

 やがて、長剣、ケルビエルは光輝いた。

 本来ならイシュガルドの人間を人柱にする方がいいのだ。だが、イシュガルドであれば誰でもいいという訳では無く、ケルビエルの力に耐えられる者で無くてはならない。

 しかし、大半のイシュガルド人がイシュガルドの内乱により、殲滅され、ケルビエルの力に耐性のあるイシュガルド人はいなかった。

 やがて、光は失われ、儀式は終えた。


「これで、儀式は終了だ。だが、不完全な儀式だ。発動するには後、二日掛かる。それまでここに近付かせなければ我々の勝利だ」


 アラルガンドは長剣を取りそう言った。

 先程の術は以前行った術に更に踏み込んだ術式を組み込んだだけに過ぎない。

 故に以前の様に人柱が死ぬ事は無い。しかし、発動する時期を速めてしまった為、術は発動せず、発動するには時間が掛かる。

 それでも予定より速く、ケルビエルを復活させる事が出来る。


「この場所さへ守れれば私たちの勝利だ。ヘレトーア全軍をここに投入する。全面戦争だ」

「かつてのイシュガルドはこんな気持ちだったんだろうね。かつてはこちらが四大帝国を率いてイシュガルドを殲滅したのに…皮肉だね」


 ルバートは皮肉混じりにそう言った。

 かつてのイシュガルド達もこの様な心情であったのだろうかとルバートは考えたが今更そんな事を考えても仕方の無い事だ。


「恐らく明日には総攻撃を仕掛けて来るだろう。事前にこの戦いの為に準備を進めていた様だ」


 アラルガンドはそう言った。

 十二支連合帝国だけで無く、神聖ローマ、USWもヘレトーアに対して懐疑的に見ていた様だ。

 イシュガルドの内乱の時点でこの様な状況に陥る事は想定していた。内乱を鎮める為に他国を投入するなど、懐疑的にみられても仕方のない事だ。

 アラルガンドはそれを承知の上でイシュガルドを殲滅した。

 アラルガンドがイシュガルドを殲滅した事に理由がある。

 それは人柱だ。イシュガルドを生け捕りにし、人柱に使うつもりであった。しかし、イシュガルドの抵抗が予想以上に激しかった上に彼らは軍に仲間を殺された事で完全に冷静さを失っており話し合いの余地すらなかった。

 それにより、イシュガルド殲滅を決行した。この時にイシュガルドを生け捕りにしようとしたが、十二支連合帝国の閻魔弦地の介入により、失敗に終わった。

 他国を投入したツケが来ていたのだ。しかし、他国の協力無くしては当時のヘレトーアはイシュガルドと共倒れする可能性があった為、そうなるよりはよほどマシな結果であった。

 イシュガルドはその特異性ゆえに疎まれており、アラルガンドはそれに気が付いていた。だが、アラルガンドはイシュガルドに対して何もしなかった。

 アラルガンド一人で何かしたところで結果は変わらないからだ。人は一度、認識したものを改める事が中々出来ない。

 イシュガルドは自分たちとは違う、危険だ、そんなイメージが一度つくともうそこからは迫害や差別が発生する。

 アラルガンド一人がどうにか出来る問題では無かったし、アラルガンドにとってはイシュガルドの命運など知った事では無かった。

 そう、アラルガンドは己が信じた神さえ蘇れば、それでいいのだ。


「アラルガンド様、ご報告が」

「何だ?」

「予想通り、侵入者がいました。十二支連合帝国から四名、USW、神聖ローマから一人づつ侵入していました」

「そうか、ならその六名は率先して片付けるべきだな…場所は?」

「ここからそう遠くありません。恐らく、明日にはここに来るものと思われます」


 アラルガンドはフォルテの報告を聞き、顎に手を当てた。

 結界を通り抜け、ここに来る者たちがいる。それは把握していた。なら、取るべき行動は一つである。


「今の内に奴らを叩く。ルバート」

「僕が行くんだね。分かったよ~」


 ルバートは軽い返事をした。

 ルバートは間の抜けた感じでそう言った。


「遊んでいた分、きっちり働いてもらうぞ」

「ガス抜きも必要だと思うんだけどな~。まぁ、いいや。今すぐ向かえばいいんだね?」

「ああ、たった六名でここに乗り込んで来る様な奴らだ。一人一人の戦闘力は相当高い筈だ。ここで奴らを倒せば、奴らの士気も落とせる」


 部隊や兵隊の主力が潰されれば、誰でも戦意をくじかれるものである。

 それは今回の戦いも例外では無い。要は、先手必勝。先に主力部隊を潰した方が勝つ。


「それはいいけど、敵の情報を教えてくれないとね。後、僕一人じゃ流石に怖いんで何人か連れて行くね」

「好きにしろ」


 アラルガンドがルバートの要求を了承し、そして、ルバートはフォルテに近付いた。


「敵の事を頭で思い浮かべてみて」

「分かりました」


 ルバートはそのままフォルテの頭を手で触った。

 ルバートは相手の頭の中を探っているのだ。要するにフォルテの記憶を覗いているのだ。

 フォルテの頭から得た情報は白黒頭のオッドアイの黒い服を着た青年、銀髪ロングの赤目の黒い服とロングスカートを履いている少女、アッシュブロンドとアッシュブロンドの髪と吊り上がった瞳、眼鏡に灰色のラフな服装の青年、金髪のリーゼントと瞳、黒い軍服を着ておりどこか不良じみた青年、水色のセミロングと瞳を持ち、水色の服を着ている可憐な少女、そして、赤い短めの髪に瞳、白を基調とした赤い服を着た青年の姿があった。


「あっ…え~、この子たち…」

「何か?」

「ううん、何でも無いよ~」


 ルバートは気まずげにそう呟いた。

 ルバートは彼らに見覚えがあった…というより、つい最近会った事がある。

 そう、ルバートは最近、セティアという町にあるホストクラブに遊びに行った事がある。

 完全に暇潰しの予定だったのだが、その時に彼らと会った。しかも、ルバートはノリノリで彼らと談笑していた。

 そんな事をこの場で言える筈も無い。バレたら面倒な事になる事必至である。


「じゃ…じゃあ、そう言う事で~」


 ルバートは礼拝堂(チャペル)から早々に出て行った。


「ルバート様…何かおかしく無いですか?」

「奴がおかしいのはいつもの事だ」


 アラルガンドとルバートは結構長い付き合いなのだが、アラルガンドはルバートの考えが全く分からなかった。

 今も彼女が何を考えているかさっぱり分からない。

 だが、アラルガンドの計画には協力的な為、それ以上深く踏み込まないようにしていた。


「アラルガンド様、計画が成功した暁には…分かってますよね?」

「ああ、エルフの無事は保証しよう」


 そう、それがアラルガンドとフォルテが交わした密約である。

 フォルテは妖精族エルフの若き族長でもある。妖精族エルフたちを守らなければならない。

 だが、アラルガンド率いるヘレトーアは妖精族エルフたちが反旗を翻した所で結果は見えていた。

 フォルテは立場的にセイント教徒であるが妖精族エルフ全員がセイント教という訳では無い。ヘレトーアは宗教大国ではあるがどの宗教にも属していない所謂、無宗教の者も大勢いる。

 この計画が達成されれば、恐らくこの世界の大半の人間や魔族が消え去るだろう。

 だから、フォルテは妖精族エルフを救う為にこの計画に協力している。


「では、私もここで」

「ああ、ご苦労だったな」


 フォルテはアラルガンドの前から去って行った。

 アラルガンドはイシュガルドの代わりにフォルテを人柱として利用した。

 イシュガルドとエルフの体構造は非常に似ている為、代わりになる事が出来たのである。


「ケルビエル…もう少しだ…もう少しで…」


 アラルガンドはそう呟いた。

 アラルガンドはそれと同時にある事を思い出していた。

 それは、一人の女性の事を思い出していた。その者は神だった。正真正銘の神であった。

 しかし、彼女は全てを裏切り、そして、死ぬ事となった。

 いや、厳密には少し違う。彼女が裏切ったのは…この世界だ。世界を裏切り、国を裏切った…だが、自分自身を裏切る事は決してしなかった。

 そして、己を貫き続けた結果、死んだのだ。

 アラルガンドは過去を思い出していた。

 牢獄でアラルガンドと女性は会話をしていた。


『貴様は、ここで死ぬ。天により、貴様は裁かれるのだ』

『天によるお裁き…ですか…中々洒落てますね』

『バカも休み休み言え。何故だ?何故貴様は…』

『新しい…種を…希望の種を見つけたの。それに、賭けて見たくなったの』


 アラルガンドは女性の顔を見た。彼女は…笑っていた。新しい希望を見つけたような、そんな笑顔だ。

 アラルガンドには理解出来なかった。彼女が何故、こんな顔が出来るのかを。


『そうか…残念だ。貴様は最後の最後まで私を裏切り続けるのだな』

『あなたからすれば、そうなるわね。けど、私は裏切ったつもりは無いわ。少なくとも、自分自身には…これが…私の見つけた、答え…』


 アラルガンドは女性を睨み付けた。やはり、分からない。

 どうやら、彼女は長い時を経て、心変わりしてしまったようだ。

 心と言うモノは常に移ろい、変わるモノ。アラルガンドが変わらなかっただけで、彼女が変わったのは必然という事だろう。


『貴様が追い求めていた結果が…「アレ」だというのか?』

『ええ、とは言え、まだ今はちっぽけなモノです。でも、私は感じるの。やがては大きな闇となってあの強すぎる光を打ち消せると』

『光の道に進む者が闇を支持するか…滑稽だな』

『光は必ずしも正しいものではありませんよ。光だけでは、生きてはいけないのです。闇もまた、必要なのですよ』


 そう、光と闇は表裏一体であり、合わせ鏡である。闇はマイナスなイメージを持たれ勝ちだが、闇は穏やかな眠りを誘う。

 光が全てのモノにエネルギーを与えるモノであるのならば、闇は心を休ませるモノである。

 永遠など存在しない。光ばかりに傾いてしまえば、大抵の者たちはその身を滅ぼす。

 だからこそ、必要なのだ。その強すぎる光に対抗する、強い闇が。


『貴様には失望した。ここで死ね…「エリス」』

『………』


 アラルガンドがそう言うと女性…エリスはそのまま大人しく牢に籠っていた。

 その後、アラルガンドはエリスの希望とやらを完全にへし折った。だが、それ度も尚、エリスは笑い続けた。

 結局、アラルガンドはエリスの言葉の意味が分からなかった。

 過去の事を少し振り返った現実に戻り、アラルガンドは再び、礼拝堂を見つめた。そう、ここはアラルガンドが望んだ、五百年にも及ぶ宿願が達成される場所なのだ。

 全ては…ケルビエル復活の為に。その復活によってこの世界が崩壊しようと、それは最早、アラルガンドにとっては知った事では無い。

 アラルガンドにとってケルビエル復活が全てだ。それ以外はどうでもいい。全てを終わらせる時が来たのだ。

 アラルガンドは五百年前から、何も変わっていない。何も揺らいでいない。だからこそ、今日まで道を真っ直ぐに進み続けた。

 やがて、アラルガンドは礼拝堂チャペルを出た。








「もう、ヘレトーアまで着いたのか…速いな…」


 屍は感心したようにそう言った。

 今、屍は飛行船の中にいる。屍だけでは無い、慧留、舞、厳陣、澪、アポロもそこにいた。

 現在、ヘレトーアに到着した所だ。

 現在、日は傾きかけており、夕方であった。


「このまま突っ切るわ」

「え!?大丈夫なんですか!?」

「大丈夫よ。この飛行船には不可視能力インビンジブルが作動してるし。このまま『精霊城(ラウフ・カルス)』に突撃よ!」


 慧留の問いにアポロは冷静に答えた。

 この船には不可視能力(インビンジブル)が作動している為、一般人に見られることは無い。

 だからこそ、このまま攻め込むという魂胆だ。相手は四大帝国だ。何も考えずにいるとは思えない。速いに越したことは無いのだ。


「アオチーたちもどうなってるか気になるしね~」

「そうだね、無事だといいんですけど」

「無事に決まってんだろ?あいつらが早々やられてたまるかよ」

「シカちゃんはヤケにアオチーの肩を持つね」

「あいつは…俺に勝ったんだ…やられたら、俺が弱ぇみてぇじゃねーかよ…」

「素直じゃ無いね~」

「うるさい!」


 からかうように澪が言うと屍は顔を赤くした。

 屍の言った事も嘘では無いのだろうが、一番の理由はそこでは無い。

 澪は屍のそう言った所も分かっていたのでわざと意地の悪い言い方をしたのだ。


「他人をからかえるぐらいには元気になったみたいだな、常森」

「お陰様でね」


 澪はいつも通りの平常運転であった。これが良いのか悪いのか…屍は少し迷いそうになる。

 とは言え、いつも通りなのは良い事なのだろう。


「いずれにしても可能であれば、時神君たちと合流したい所だな」

「そうですね」


 慧留も蒼たちと合流した方が良いだろうと考えた。


「しっかし、分かんねぇな。ヘレトーアは何でそこまでして神を降ろそうとしてんだ?」

「それが分かれば少しは楽だったでしょうね」


 屍の疑問にアポロが呆れたようにそう返した。

 相手の考えや動機が少しでも分かれば大分マシである。

 しかし彼らはヘレトーアの事をあまり多くは知らない。イシュガルドの内乱に参加していた厳陣や黒宮、舞もあまり多くは知らないのだ。


「この戦いでイシュガルドの因縁に決着が着くといいんですけどね」

「それは無理じゃろ」

「え?」

「フィクションの世界ならまだしも、因縁の決着がこの戦一つで終われば妾たちも苦労は無い。むしろ、本当に厄介なのは戦が終わってからじゃぞ」


 慧留の言葉を舞はあっさりと否定した。

 戦争は多くの人々を死ぬ。それによる怒りや悲しみ、恨みは計り知れないものがある。例え戦が終わったとしてもそれらが消える事は無い。

 それらの感情は再び戦いを生み出す。正に憎しみの連鎖である。

 戦争にどちらが正しい…なんて単純な事は無い。どっちも正義でどっちも悪なのだ。


「そうだな、失った者は戻っては来ない。戦争とはどちらかの全てを奪い去る行為だ。勝てば官軍負ければ賊軍という訳だ」

「そんな…」

「戦争なんて大体そんなもんよね。神聖ローマだって国が安定するまではずっとそうだったし」


 神聖ローマは三年前までは内乱が多く、国の治安としては四大帝国の中でも最悪であったが、今では完全に国を統一しており、神聖ローマ帝国からローマ合衆国へと改名し、ルミナス・アークキエル・ローマカイザーが統治している。

 今でも神聖ローマという呼び名自体は変わっていないが、神聖ローマが新体制となったことを証明するには十分であった。

 今では四大帝国で最も治安が安定していると言ってもいい。USWが衰退した今、間違い無く軍事力は最強クラスである。


「神聖ローマの内乱を収めたルミナスって奴は相当凄いんだな。どんな奴なんだよ」


 屍は少し気になった。

 長きに渡る内乱を沈めた人物だ。どのような人物かは気になる所であった。


「私もルミナスって皇帝がどんな人かは知らないんですよね~。あの人、殆ど表舞台に姿を出さなかった人ですから」


 慧留はそう言った。

 そう、ルミナスは決して表舞台には姿を現さない人物であった。

 それ故に『セラフィム騎士団』や国の上層部以外はあまりルミナスの顔を見た者は少ないのだ。


「浮世離れしてる人ね。一言で言うなら。何を考えてるかも読めなくて真意も謎。けど何故か人が集まる。そんな人かな」


 アポロはそう言った。

 ルミナスは自身の真意を相手に伝えるなんて事はしない。だが、何故か彼女の周りには人が集まる。

 それは彼女が得意な存在であるという事を意味している。


「まぁ、只者じゃないって事は分かった」

「そんなの最初から分かってるでしょ?馬鹿なの、あなた?」

「何だと?」

「二人共喧嘩は止めてよ~」


 どうも屍とアポロは仲が悪い様だ。

 二人はお互いを睨み合っている。何故この二人は始めて会った筈なのにこんなに仲が悪いのだろうか…慧留は疑問で仕方なかった。


「やっぱりあなた、気に入らないわ」

「奇遇だな、俺もだ。初めて会った時からなんかお前は気に入らねぇ」

「何で会って間もないのにこんなに二人の仲が悪いの~?」


 澪も流石に二人の仲の悪さが意味不明だったのかそんな声を上げた。

 会って間もない相手にここまでお互い嫌悪感を覚えるのも珍しいだろう。


「まぁ、仲が良ければいいと言うモノでも無いじゃろ…じゃが二人共、戦闘中に仲の悪さで悪化させるなよ?」

「「分かってるよ(わ)!」」

「ふふ…そう言う所は息ピッタリだね…」


 舞がそう言うと屍とアポロが叫び交じりに同意した。

 仲が悪いわりに異様に息があってる二人を見て澪は笑いそうになった。


「では、皆仲良くできる事を確認した上で作戦を伝えるぞ」

「この状況で仲が良い様に見えるんならお前の目は腐ってんな」

「そればっかりは屍の意見に同意過ぎて草生えるわね、眼科行ったら」

「どうしよう四宮君、私は心が折れそうだ」

「まぁ、貴様のその言い方は火に油を注ぐ行為だしのう…」


 こういう時だけ一致団結するのは止めて貰いたいなと厳陣は思った。

 舞はただ呆れるしかなかった。

 そして、この様子を目にした慧留と澪は同じタイミングでこう言った。


「「君たち本当は仲いいでしょ?」」








「さてと…準備は出来たね」

「ああ、『精霊城(ラウフ・カルス)』まで後少しだ」


 一夜が皆に確認を促すと蒼は返事をし、他の三人もコクリと頷いた。

 蒼たちが今いる町はトライデント、イシュガルドがかつて住んでいた町であり、今はもう廃墟となっていた。

 トライデントから『精霊城(ラウフ・カルス)』まではもう目と鼻の先である。数時間ほど歩けば辿り着くだろう。


「プロテアの墓参りも終わった事だしな」

「ええ、そうね」


 インベルの言葉にプロテアは淡々と答えた。

 先日、プロテアたちは家族の墓参りをしていた。そして、プロテアはようやく、新しい道に進む事を決めたのだ。


「じゃ、とっとと行くか!」


 蒼たちは先に進もうとした。だが、一夜が蒼たちを静止した。


「!? ちょっと待ってくれ!近くに生体反応が数百程ある!」


 一夜はパソコンを見ながらそう言った。

 一夜は周辺の生体情報をパソコンを通じて確認していたのだ。

 確かに霊力を探ってみると霊圧を感じる。一夜が言った通り、数百人いる様だ。


「一先ずは見つからないように移動しよう。無駄な消耗戦は避けるべきだ」


 一夜がそう言うと皆はコクリと頷いた。

 そして、廃墟を利用してそれぞれ別々の場所に隠れながら移動した。

 やがて、数百人ほどの軍隊がやって来た。全員灰色の軍服を着ていた。

 中でも高い霊圧を持っているのは先陣を切っている三人だ。

 一人は茶色の髪と瞳をしており、三白眼が特徴の男性であり、二人目は瑠璃色の長い髪と瞳、猫目が特徴の少女であった。

 そして三人目…恐らく今いる部隊の中で断トツで高い霊圧を有していた。赤黒い髪と大きな瞳が特徴の吸血鬼を思わせるような人物だ。服は灰色の宗教服であり、髪は短めで中性的な容姿をしていた。

 間違い無い、ルバート・セイントだ。そして恐らく彼らが来た目的は一つである。


ー僕たちを潰しに来たね。やれやれ…厄介だ。


 想定していなかった訳では無いが、ルバートが敵に回っている。

 昨日の敵は今日の友ということわざがあるが、これでは昨日の友は今日の敵である。

 一夜たちはここから離れようとしていた。無論、蒼たちは霊圧を完全に消していた。


「う~ん、隠れても無駄だよ?そこにいるのは分かってるんだからさ~。一丁前に霊圧消して分散しても意味無いよ~。しかも慣れて無いんでしょ~、気配消すの」


 ルバートはそう言った。確かに蒼たちは霊圧を消す事も気配を消す事にも慣れていなかった。

 この様な状況になれば気配を完全に消すのは才能以上に「慣れ」が必要だ。蒼たちはその「慣れ」が決定的に足りていなかった。


「というより、気配は五つだね。一人足りない…仲間割れでもしたのかい?」


 ルバートはどうやら完全に気が付いている様だ。

 ここまでバレてしまっていては隠れた所で無駄であろう。


「【魔術師ザ・マジシャン】」


 ルバートは掌から炎の塊を出現させ、それを一番近くにあった廃墟に放り投げた。


「!?」


 廃墟は一瞬で炎によって燃え去った。

 廃墟から出て来たのは蒼であった。蒼は咄嗟に攻撃を回避したので無傷であった。


「久しぶり…という程でも無いね、時神蒼君」


 ルバートは薄ら笑いを浮かべながらそう言った。

 彼女の薄ら笑いが不気味でしょうがなかった。


「蒼!大丈夫かい!?」


 すぐに一夜たちは蒼の前に現れた。

 こうなってしまっては隠れた所で無意味だ。一夜たちはここを逃げ切る事は不可能と判断し、蒼の前に集まった。


「やっぱり一人足りない…スープレイガ君は?」

「お前には関係ねぇな」

「冷たいな~、インベル君は。一夜君も美浪君もプロテア君も怖い顔だね。って当たり前か」


 ルバートはかなりフランクに話していた。

 どうやらルバートは慣れてる相手に対しては砕けた態度で話せるらしい。…コミュ障の典型例である。


「ルバート様、彼らの事を知ってるのですか?随分親し気ですが…」

「細かい事は気にしないで作業に集中してさっさと攻撃準備に入りなさい速くしなさいそうしなさい」


 ルバートは明らかに焦っていた。

 茶髪の男はルバートの言動を明らかに怪しんでいた。


「まぁ、今はその事について言及するのは後回しですね」

「コモド君、細かい事を気にしていると老けるよ?」


 ルバートは茶髪の男、コモドにそう言った。

 彼はコモド・セクラム。セクラム教の人間だ。


「まぁ、ルバート様ももう少しは隠し方を上手くした方が良いっスよ~。バレバレ…」

「ラピドも黙ってて」


 ルバートは瑠璃色の髪の女性、ラピド・セクラムにそう言った。

 彼女もコモド同様、セクラム教の人間だ。

 彼女たちがここに来た理由は聞くまでも無い。


「本格的に僕らを殲滅しに来た…という訳か」

「そういう訳。君たちに恨みは無いけど…ここで消えてもらうよ」

「分からないな。君は何故、アラルガンドに協力する?」

「アラルガンドの事も知ってるんだ…なら話は速いね。僕はね魔術や霊術が大好きなのさ」


 ルバートは一夜の質問に対し、子供の様な無邪気な顔を浮かべてそう言った。

 一夜はルバートの言葉の意味が分からなかった。それが何故、アラルガンドの計画に協力する理由になるのかが分からないのだ。


「どういう事だい?」

「僕は今回の神降ろし…それがどの様なものか…そして、どの様な事が起こるか…とてもとてもとても気になるんだよ…僕はあらゆる魔を極めたけどそれでも魔は不思議な事がたくさんあって僕を飽きさせない…要するに僕は自分の知的好奇心で動いてるだけだよ」

「分かっている筈だ…それが世界を壊す事になるという事を…」


 蒼はルバートにそう言った。

 神降ろし…特にアラルガンドが行おうとしている神降ろしはそこら辺の神降ろしとは規模が違い過ぎる。

 世界を破壊する危険すらある途方も無い代物だ。


「だから何?」

「何だと…?」

「僕は魔術や霊術を知る事が出来れば…極める事が出来れば…世界がどうなろうと知ったこっちゃ無い。僕は霊術や魔術の事を探求出来ればそれでいいんだよ。他はどうでもいい。所詮、世界なんてただの箱。その箱が消えるくらいで何をそんなに…僕には分からないよ」

「な…!?」


 蒼は…いや、蒼たちは勘違いしていた。

 ルバートはこの世界自体が好きな訳では無い。この世界の「魔」だけが好きなのだ。

 蒼はルバートの狂気的な思想に恐怖を覚えた。

 彼女は単なる知的好奇心で動いているだけだ。純粋な思想や目的だけで動いている。

 そう、彼女は…ルバートは「純粋」なのだ。純粋ゆえに、恐ろしい。


「僕は神降ろしを見たい。そして、それでどうなるのか?どうすれば「魔」を極める事が出来るのか…」

「それで、俺たちを排除すると?とんだ狂者だ。いや、愚者と言うべきか…」


 インベルは皮肉混じりにそう言った。

 そう、強者とはいつだって迷い無く純粋にまっすぐに突き進み続ける愚者である。

 ルバートはそれだけの狂気とも言える思想を持っている。

 先程の魔術でそれを証明している。凄まじい破壊力である。


「僕の【魔術師(ザ・マジシャン)】は魔の力。魔術、魔法の力を使う。特殊な能力は特に無いよ」


 ルバートはそう言って、右手を上げた。そうすると、地面から無数の間欠泉が出てきた。

 蒼たちはどうにか、回避するが空から無数よ落雷が降ってきた。

 水は電気を通す。このままでは不味い。


「【第二解放(エンゲルアルビオン)】!」


 蒼は【第二解放(エンゲルアルビオン)】を発動させた。

 白い衣に白い髪、瞳はサファイアのように蒼く、双翼は巨大で水色の翼が、刀はより鋭利になっており、頭上には五角形の輪っかがあった。

 蒼はルバートが発生させた無数の間欠泉と落雷を「全て凍らせた」のだ。

 これには流石にルバートも驚いた。


「へぇ~、凄いね。僕の魔法をこうも簡単に…凍らせるなんて…それが天使の使う【第二解放(エンゲルアルビオン)】…」


 ルバートは興奮気味にそう言った。

 初めて見る力に京見を示しているのだろう。

 蒼は正直、ルバートの感覚は分からなかった。

 蒼の場合は未知の力に遭遇すると恐怖するし警戒もするだろう。

 だが、彼女にはそれが一切無く、むしろ目を輝かせている。


「さぁ…まだまだそんなものじゃ無いんだろ?来なよ、時神蒼君」


 ルバートはニヤリと笑い、蒼を見た。





To be continued

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