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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第六章】ヘレトーア進軍篇
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【第六章】ヘレトーア進軍篇Ⅶ-Wheel of Fortune-

 病室で空を見上げている少女がいた。

 瞳は虚ろで悲し気であった。黒髪赤目のロングヘアーでいつもなら髪を一つに括っているのだが、今回は括らずにそのままであった。

 彼女の名は常森澪。イシュガルドの仲間の一人、コランにより、親友であった音峰遥を殺してしまった。

 彼の能力の五感操作の力により澪は誤って遥に攻撃をしてしまい、それが致命傷となり、死んでしまった。

 自身の選択を誤った。もし、自分が敵から逃げていれば遥が死ぬ事は無かったのかもしれない。

 だが、もう遅い。遥はもう、この世にはいない。

 彼女の心に今あるのは限り無い、虚無であった。

 彼女の目に映る世界はとても美しかった。空は青く、憎たらしい程の快晴であった。

 街はビルや家が多く建っており、色鮮やかであった。

 今、彼女の頭には走馬灯の様に今までの事が甦ってきた。

 多くの事があった、遥と初めて出会ったのはもう、十年以上経つ。

 澪は一人だった。特にそれが寂しかったとは当時は思わなかった。

 常森家の娘といだけで色眼鏡で見られていたのも少なからずとも影響していたのだろう。

 だが、遥は怖じ気付かずに澪に話しかけてきた。

 思えばあの時に澪の世界が変わっていった。

 そして、澪の周りは既に一人では無かった。多くの仲間たちに囲まれていた。

 しかし、澪は一番大切であった仲間を、失ってしまった。

 澪は普段は能天気な性格だ。しかし、人には必ず性格の裏表は存在する。

 闇が無い人間など、いないのだ。


「澪さん」


 入ってきたのは慧留であった。慧留だけではなく屍もいた。

 澪は二人の方に振り向いたが依然、生気が無いままであった。


「………」


 屍も何を話せばいいか分からないと言った状態であった。

 屍は仲間の死を何度も見てきた。故に澪の気持ちが分からない訳では無かった。

 しかし、このまま止まっていても結果は変わらない事も知っていた。

 だから、今の澪をこのままにしておく訳には行かなかった。


「すみません、今の私たちにはあなたにどんな声を掛ければいいか、分からないです。けど、待ってますから」


 慧留はそれだけ言い残して去って行った。元々、長居するつもりは無かったらしい。

 次に屍が口を開いた。


「仲間の死は、多分慣れる事は無い。音峰の変わりは…いない。けど、それはお前も同じだ。………さっさと戻って来い」


 屍も去って行った。

 二人はあまり多くの言葉を語っても意味が無い事を分かっていた。

 結局の所、澪がなんとか立ち直るしかないのだ。

 だが、慧留も屍もどうすれば誰かの気持ちを簡単に立ち直らせられるのかは分からない。

 だから、彼等は結局、自分のありのままの気持ちを伝える以外、思い付かなかった。

 だが、澪にとって、彼等が強く、逞しく見えた。


ー成長したんだね、二人共…


 澪はふと、自分だけが立ち止まる事は許されないと思った。

 澪が犯した罪は恐らく、ずっと消えないだろう。だが、ここで止まってしまえばそれこそ遥に顔向け出来ない。

 頭では分かっていた。遥が今の澪の状態を望んでいない事を。

 だが、それでも感情がそれを必死で眼を背けていた。


ー失った者は、仲間が埋めてくれる


「!?」


 澪はそんな声が聞こえた。間違い無い、遥の声だ。

 だが、どこにもいない。いや、澪の目の前に遥はいた。

 ピンクの髪にツインテの少女がそこにいた。

 いつも澪の事を支えてくれた少女がそこにいた。

 分かっている、これは澪の心が写している虚像である事は。だが、澪はこの虚像に眼を離す事が出来なかった。


「遥?」

「澪、あなたにはまだ、やる事が残ってるでしょ?皆が…待ってる」

「うん、分かってるよ」

「やっと、らしくなったみたいね。時間掛け過ぎよ」

「数日で立ち直れただけでも褒めてよ…相変わらず…厳しいなぁ……」


 澪は大粒の涙が流れた。今まで圧し殺してきた感情が爆発したのだ。


「私は…あなたを…」

「あたしは大丈夫よ。仲間を、守ってね」

「うん…うん…」


 遥の姿が見えなくなる。

 もう、虚像であっても遥の姿は見れなくなるようだ。だが、もう、大丈夫だ。


「もう!もう誰も死なせない!私の目の前で、誰かを死なせたりしない!!守って見せる!!!」


 澪は涙を流しながら吠えた。

 遥は満足げな顔をしていた。

 思えば、澪にとって遥は姉に近い存在だった。いつもいつも、澪の先を行っていた。

 今回も、先に逝ってしまった。だが、もう迷わない、折れない、挫けない、死なせない。

 澪は立ち上がり、遥の幻影と向かい合った。そして、お互いに最後の言葉を交わした。


「「ありがとう……さようなら」」


 そして、遥の姿は跡形も無く、消えていった。

 澪は今までの事を思い出していた。そう、最初は遥しかいなかった。

 だが、一人、また一人と澪の周りに仲間が増えていった。

 そう、今やもう、澪の命は澪自身だけのモノでもなければ遥だけのモノではない。


「随分止まっちゃったけど、もう大丈夫。けど、もう少し休まないとね」


 澪はそう言って、再びベッドで眠りについた。………呑気な性格は相変わらずであった。







「良いのか?ここで厳陣と黒宮を明けてしまって」

「心配しなくとも、私が残りますよ。厳陣と四宮さんはお気を付けて」


 舞が厳陣と黒宮に訪ねると黒宮が淡々と答えた。


「それにしても、今回はイシュガルドの内乱とは真逆ですね。今度はヘレトーアが世界中の敵となるとは…皮肉ですね」


 黒宮が皮肉を口にした。

 五十年前に起きたイシュガルドの内乱はイシュガルドが四大帝国の総力を上げて殲滅した。

 だが今回はヘレトーアが他の四大帝国とイシュガルドに牙を向けられる事になる。


「今回で決着を着ける。黒宮、頼んだよ」

「あなたの言葉なら従いますよ、厳陣」


 黒宮は厳陣に頭を下げた。

 彼等は今、ヘレトーアに向かう準備をしていた。

 そして、今、彼等は飛行船のある海岸に来ていた。

 外にいたのは今は厳陣、黒宮、舞の三人であった。


「ふー、やれやれ、まったく、面倒な事になった」

「ドラコニキルさんですか。USWはどうなってます?」

「ああ、USWの兵をある程度ヘレトーアに回せそうです。今、USWはヘレトーアに向かいましたよ」


 ドラコニキルは簡単な報告だけした。ドラコニキルもヘレトーアに向かう。

 後、来ていないのは慧留と屍だけだ。


「お待たせしました」


 慧留と屍が走って来た。これで全員揃った。


「さて、では御武運を」

「ちょっと待った~」


「「「「「「!?」」」」」」


 聞き覚えのある声に驚き、慧留たちは声の方向に振り向いた。

 声の主がいた場所は飛行船の前にいた。


「澪さん!?」

「うん、あたしだよ~。いや~、えるるん、シカ君も心配掛けたね~。もう、大丈夫だよ~」

「澪…」

「伯父様、あたしも連れていって下さい。お願いします」


 澪が厳陣に深く頭を下げた。


「何を言って…」

「分かった」

「厳陣!?」

「大丈夫なのだな?」

「はい」


 厳陣は吹っ切れた澪を見て、大丈夫と判断したようだ。

 黒宮はかなり心配そうであったが。


「おかえりなさい、澪さん」

「うん、ゴメンね。もう大丈夫だよ!」

「はっ!タフなんだかそうじゃねーだか…」


 慧留は嬉しそうに、屍は呆れた様子であった。

 慧留も屍も澪が元に戻った様で安心していた。


「いつまで待たせるのよ!?」


 飛行船から一人の人影が現れた。


「アポロさんですか」

「え?え?この子誰?」

「私はアポロ・ローマカイザー!『セラフィム騎士団』よ!」

「へぇ~、よろしくね、アポロン!」

「変な渾名着けんな!!」


 アポロは澪の変な渾名に異議を唱えたが澪はまったく気にしなかった。


「というか、ローマカイザーってアオチーと同じ名字だね」

「アオチー?…もしかして、フローフルの事?まぁ、フローフルとは従姉よ」


 前皇帝であるヤハベラ・デラ・ローマカイザーには三人兄弟がおり、アポロはその三兄弟の末っ子であるアルマ・ローマカイザーの娘である。

 年は蒼と同年代であり、インベルと三人でつるむ事が多かった。

 実際、第三皇女とは呼ばれてはいるが正直、お飾りに過ぎない。

 現在は『セラフィム騎士団』として活動している。


「アオチーとは…友達?」

「まぁ、そうね。ここにいるって知って探しに行ったんだけど居場所を突き止めてここに来た時にはちょうどヘレトーアに行った後だったのよ…まったく、私に何の声も無しに出ていって…」


 どうやら、アポロは蒼の事を相当心配していたようだ。

 蒼にも昔は友達がいたんだなと澪は思った。

 蒼は昔の事はあまり…というか、全く話さなかったのでボッチなのかと思っていたがそんな事は無かったようだ。


「まぁ、いいわ。ルミナスにはもう連絡は取ったし」


 アポロは既に手を回していたようだ。

 流石は若くても『セラフィム騎士団』の一人である。対応が非常に速い。


「では、行こうか」


 厳陣がそう言うと慧留たちは飛行船に乗った。そして、すぐ近くにある部屋に向かった。

 飛行船には多くの十二支連合帝国の魔道警察官がいる。

 慧留たちは飛行船の操縦室に到着した。

 下には世界地図が書かれていた。更に正面には窓ガラスがあり、その手前に霊力の制御クリスタルがあった。


「あの…アポロさん」

「あなたは確か、エル・マクガヴェイン?」

「私の事、覚えてたんですか?」

「まぁね、自分の兵隊の名前くらい覚えてるわ。確かあなたは四年前に逃亡してたわね」


 そう、今から四年前に慧留は神聖ローマから逃亡した。

 四年前の内乱鎮圧で友を失い、そして国を捨てて逃げた。

 慧留のその時の指揮官がアポロであった。


「怒って無いんですか?」

「怒るも何も…あんな辛い思いをしていれば逃げたくもなるでしょう。私は咎めたりはしないわ。むしろ、感謝しないといけないわね。フローフルがあなたに随分世話になったみたいだからね」

「いえそんな…私は…蒼に助けられてばかりですよ…」


 慧留がそう言うとアポロは嬉しさ半分、憎らしさ半分といった顔をした。

 慧留はそんなアポロを訝しげに見つめたがアポロは気にしなかった。


「でも意外だったわ、フローフルは結構無愛想だから人は寄って来なかったのに」

「まぁ、私は襲われてる所を助けて貰ったのが出会いのきっかけですので…」

「ふぅ~ん、そうなんだ。ま、二人がどういう風に出会ったとかどうでもいいけどね」


 またアポロは不機嫌そうな顔をした。

 どうも慧留は彼女の真意が読めなかった。


「つか、どうやって時神の居場所を知ったんだよ?」

「前の四大神の騒動で知ったわ。この国の観光にたまたま来てたのよ」

「何でこの国にいたんだよ?」

「観光よ観光。私、他国に行った事あんまりなかったし」

「本当かよ?」

「あまり下らない事を気にしてるとロクな事無いわよ」


 屍は露骨にアポロを疑っていた。まぁ、無理も無い事かもしれないが。


「えっと…」


 慧留が二人の険悪な空気に耐えかね、思わず声を出してしまったが別に状況が変わることは無かった。


「あなた、屍君よね?アザミの花の」

「それが何だ?」

「………いえ、何でもないわ」


 アポロはそう言って、屍と慧留の前に去って行った。


「何だ…?あいつは…?変な奴だな」


 屍はそう呟いた。

 二人は結構険悪な感じであった。だが何故だろう、慧留は二人がただただ険悪なだけでは無い感じもした。


「確かに、少し浮世離れした感じはあるかも?」

「何で疑問系なんだよ?」

「さぁ、何でだろ?」

「お前も大概だな」

「それはお互い様だよ」

「抜かせ…」


 慧留と屍は普通では有り得ないような事を体感してきている。それは普通の神経では耐えれるようなモノではない。

 おかしいのはお互い様かもしれない。


「蒼たちは…大丈夫かな?」

「あいつは…負けねぇよ」

「うん、そうだね」


 慧留と屍の話が終えると飛行船が空中に浮遊していた。

 そして、凄まじい速度でヘレトーアへと飛んでいったのであった。









 プロテアとフォルテは互いを睨み合っていた。

 ここはヘレトーアの村の一つ、トライデントだ。

 ここはかつてイシュガルドが住んでいた村であったが今はそんな光景など見る影も無くなっていた。

 空は常に曇天で家や建物は消し飛んでいたり崩れ去っていた。

 中には死体が無数に転がっている場所すらあり腐臭もかなりきつかった。

 蒼、一夜、美浪、スープレイガ、インベルはフォルテの操っている怨霊と戦っていた。

 フォルテの扱う二十二式精霊術(アルカナ)、【恋人(ザ・ラバーズ)】の力によりここにいる怨霊たちを操る能力がある。

 この力により蒼たちはかなり消耗していた。

 相手が怨霊である為、敵は有り得ない程にタフである。

 それでも天使の力を持つ蒼とインベルは浄化能力が備わっている為、簡単に浄化させられるが何せ数が多い。

 いや、厳密には倒しても倒しても涌き出てくるのだ。それに一夜、美浪、スープレイガは一体倒すだけでかなりの時間を要していた。


「ヤバイな…浄化してもキリがねぇ…」

「ああ、俺たち程度の浄化能力じゃここら一体の怨霊を浄化しきれねぇ…くそ!こんな時に「アポロがいれば」…」


 インベルが弱音を吐き始め、蒼は無い物ねだりをしていた。

 それ程までに敵の数が多い。【第二解放(エンゲルアルビオン)】を使いたい所だが、敵の数が多すぎる為、霊力の消費を速め、倒しきる前に体力が尽きてしまう危険がある。

 迂闊に切り札を使う事は出来ないのだ。


「プロテアが本体を倒すしか…無いようだね!」


 霊呪法を使いながら一夜はそう言った。一夜はかなり霊力を消耗していた。

 それは美浪とスープレイガも同じであった。


「実際、ほぼ蒼とインベルがどうにか切り盛りしてる状態ですからね」

「くそ!メンドクセェ能力だな…」


 美浪とスープレイガもフラストレーションがかなり溜まっている様だ。

 無理も無い、全容が分からない無数の敵にひたすら襲われれば誰でもそうなる。

 戦いで最も恐ろしいのは圧倒的強さでは無い、数の暴力だ。

 どんなに強くてもその者が倒せる数には限界がある。無数を一人で相手するのは不可能である。

 どんなに途方も無く強い相手でも数のごり押しで何とかなってしまうものである。

 このままでは蒼たちは体力が尽きてしまう。その前にプロテアが一刻も速く本体であるフォルテを倒さなければならない。

 幸い、プロテアは自身の力で怨霊をある程度無視してフォルテと戦えている。


「ふぅ~、向こうは結構頑張ってるみたいね~。なら、さっさと終わらせないとね」


 フォルテは笑顔でそう言った。その笑顔がとても可憐でプロテアにとっては眩しかった。


「戦いの中で笑顔を浮かばるなんて、余裕ね」

「いいえ、これはせめてもの慈悲よ」


 フォルテはそう言って、空中に浮遊した。

 そして、フォルテの頭上から炎が、左手からは水が、左足からは雷が、右足からは土が、右手からは風が発生し、その五つの属性が一つとなり、頭上に白いリングが出現しそれと同時に背中から透明のの翼が出現した。

 空想上でよく見るエルフの羽そのものであった。


「【精霊環神(イラ・ラウダリア)】」

「そんな…何て…霊力…」

「確かにプロテアは天才だよ。それは認めるわ、けど、私は…今存在するエルフの誰よりも強い」


 そう、フォルテはセイント教の者でありながら、ヘレトーアに住むエルフたちの若き長でもある。

 彼女の戦闘力はヘレトーアの中でもトップクラスである。

 プロテアはあまりの霊圧に恐怖していた。

 プロテアは恐怖を棄てた筈だった。しかし、今のフォルテの姿と霊圧により、完全に恐怖を思い出してしまった。


「「「「「!?」」」」」


 蒼たちもこの出鱈目な霊圧に気が付いたようだ。


「何だよ…これ…!?」

「…正直、ヤバイね」

「この霊圧、蒼とインベルを足したくらいじゃ…」

「ハッ!馬鹿か!もしそうならどんだけマシだったか…」

「俺とインベル二人分の霊圧だ?冗談きついぜ…俺たちの霊圧なんか比べものにならねぇよ…それこそ、俺たち六人が束になってかかった所で、勝てるか分からねぇぞ…これ…」


 そう、フォルテの今の力はそれ程桁が違っていた。

 断言出来る、蒼たちが今まで見てきた敵の中でもダントツで一番強い。

 そもそも霊力の質が桁違いだ。これ程洗礼された透き通った霊圧は感じた事が無かった。

 好戦的なスープレイガですらこの霊圧を前に怯んでいた。それだけでもどれだけヤバイかを物語っていた。


「私の【精霊環神(イラ・ラウダリア)】は五大属性を一つに練り合わせてプリズム属性を作る事が出来る」


 複数の属性を練り合わせて、新たな属性を発現させる能力を霊魔結合(れいまけつごう)と呼ぶ。

 だが、基本的に混ぜ合わせるのは二種類である事が多く、五種類混ぜ合わせる事が出来る者など少なくとも蒼は聞いた事が無かった。


霊魔結合(れいまけつごう)は僕も初めて見たよ…そもそも使える者が稀だからね」


 霊魔結合(れいまけつごう)はそもそも扱える者が非常に少なく、人間で使えた者は蒼たちが知る限りいない。

 三大皇族ですら使用出来る者は限られていた。


「!? くそ!こっちはこっちで気が抜けねぇな!」


 スープレイガが煩わしそうにそう言った。

 さっき蒼が言った通り、はっきり言って単純な霊力量だとプロテアは一人ではまず歯が立たない。

 だが【恋人(ザ・ラバーズ)】の効果は持続している。

 二つの『二十二式精霊術(アルカナ)』を使っていてもこの霊圧は正直、出鱈目と言わざるを得ない。


「行くよ…プロテア…」


 フォルテが手を掲げると虚空から虹色の光線が放たれた。

 プロテアは【審判時神(イラ・ハカム)】の時間加速能力である、【時空神速(ワクターサアリア)】により光線を回避した。

 地面に虹色の光線が着弾しただけで地面に巨大なクレーターが出来ていた。

 もし回避していなかったらプロテアの身体は消し炭になっていただろう。


「時間の加速…厄介だね。私の【虹滅光(カウス・コーザー)】を回避するなんてね。けど、これならどう?【無限虹滅光(ラー・カウス・コーザー)】」


 フォルテの目の前に無数の虹の光線がチャージされていた。これを一斉に発射されるのは不味い。

 そう思ってる間にも虹の光線は無数に発射された。

 プロテアは時間の加速と減速を同時に行った。


「【時空神速(ワクターサアリア)】!【時空減衰(ワクトレイン)】!」


 フォルテの動きが、虹の光線の速度も減速していた。

 そして、プロテアの動きは加速し、一瞬でフォルテの後ろに回り込んだ。


「これで…終わりよ!」


 そして、プロテアはフォルテに斬りかかった。しかしー


「うん、終わりだよ。君がね」


 フォルテがそう言うとプロテアの背中に無数の虹の光線が直撃した。


「がはっ!!」


 プロテアは口から血を吐き出した。

 そして、フォルテはプロテアから離れた。

 すると、プロテアの身体が光出し、プロテアの周囲に霊力の奔流が襲い掛かった。

 焼ける様な痛み、水に沈められたかの様な息苦しさ、風に身体を切り裂かれた様な痛み、雷に打たれたかの様に身体が痺れ、そして、大地に押し潰されたかの様な重力が一斉にプロテアに襲い掛かった。


「がっ…は…」


 あまりの激痛で叫び声すら上がらなかった。

 プロテアは空中から落下し、大地に伏した。


「一発一発が身体を木っ端微塵にするぐらいの破壊力はあるのに…よく形が残ったものだね」


 フォルテはそう口にした。

 フォルテの【虹滅光(カウス・コーザー)】はフォルテの意思により追尾(ホーミング)させる事が可能だ。

 そして、五大属性全ての力が集束されている為、五つの属性を同時に喰らったのと同じだ。

 フォルテが言っていた事は何の冗談でもなく、普通は一発当たっただけで影も形も残らず消え去るのだ。


「プロテア!」


 蒼が叫ぶが無情にも【恋人(ザ・ラバーズ)】の効果も続いている。

 このままでは蒼たちは為す術も無く全滅してしまうだろう。

 プロテアも全身から夥しい程の血が流れていた。恐らく内蔵の殆どがやられてる上に骨も殆ど砕けているだろう。

 正直、生きているとはとても思えなかった。


「後はあなたたちだね、新しい秩序の為に…この世界は一度、滅びる…」


 フォルテはそう言って、蒼たちの方へと歩いて行った。

 翼を羽ばたかせ、高速で間合いを詰め、美浪を吹き飛ばした。


「がっ!」


 霊圧だけでは無い。身体能力も相当高い。


「美浪!」


「終わりだよ、【虹光流星(クザーハ・シハーブ)】」


 フォルテは上空に虹色の玉を放った。

 するとその虹色の玉は弾けて無数の流れ星となって襲い掛かった。

 流れ星はトライデント全体に注がれ全てを破壊した。


「がっ…」

「くっ…」


 蒼とインベルは無事だったがスープレイガ、美浪、一夜は意識を失っていた。

 蒼とインベルもかなりボロボロであった。

 ただでさえ、先程の怨霊たちとの戦いで消耗していたのだ。

 むしろ、気絶で済んでいたのが奇跡である。

 先程の虹色の流星によりただでさえ、破壊されまくっていた街は更に凄惨な状態になっていた。

 だが、村中に転がっていた死体はほぼ全て、跡形も無く消滅していた。

 これは、フォルテのせめてもの慈悲なのかもしれなかった。


「少し舐め過ぎだったかな?天使が二人…か…まぁ、余裕ね」


 フォルテはそう言って、蒼とインベルに近付いた。

 完全に誤算であった。まさか、ヘレトーアにこんな化け物がいたとは。

 蒼とインベルは既に【第二解放(エンゲルアルビオン)】を発動させていたが、正直、勝てる気がしなかった。

 このまま戦えば、間違いなく二人はフォルテに完膚無きまでに叩き潰されるだろう。


「くそが……」


 インベルは力無くそう言った。


「!!!」


 フォルテは途中で足を止め、プロテアの方を見た。

 一瞬、プロテアの霊圧が跳ね上がった気がしたのだ。

 だが、プロテアは気絶したままだ。あまりに一瞬の事だったので恐らく気のせいだろうと思い、フォルテは再び蒼とインベルの方へと振り向いた。

 すると、フォルテは霊圧以上にとんでも無い殺気に襲われた。

 再び後ろを振り向くと倒れていた筈のプロテアが目の前にいたのだ。


「な!?」


 フォルテは気が付くのが一瞬遅れ、プロテアに身体を剣で切られた。

 切られた場所からは多量の血が流れた。


「一体…どうなって…」


 フォルテはプロテアから少し離れた。

 蒼とインベルはあまりに衝撃的な状況に動けずにいた。

 プロテアが目を覚ました。有り得ない、目を覚ますどころか動く事すら出来ない状態であった筈だ。


「あ…う………」


 プロテアは下を向いていた顔を上げた。


「「「!?」」」


 フォルテは勿論、味方である蒼とインベルすらも驚いた。

 左目が赤黒く染まっており、右側の額に鉄の角が生えていた。

 更に身体中に魚の鱗の様な紋様が浮かんでおり、とても人とは思えない姿をしていた。


「…ポセイドンの鱗…まさか…プロテアが…」

「ポセイドンの鱗だと!?」

「プロテアが…ポセイドンだというのか!?」


 フォルテがそう口にすると蒼とインベルは動揺を隠せなかった。

 ポセイドンの鱗…それはその名の通り、パルテミシア十二神の一人であるポセイドンが持っているとされる鱗である。

 ポセイドンとは海の神と言われている。勘違いされがちがだが、大地を操る事も可能な為、厳密には地の神という表現が適切かもしれない。


「それは無いね。彼女は人間だよ、正真正銘ね。ただ、イシュガルドの崇める神は…ただの神では無いけどね」

「どういう事だ!?」

「イシュガルドが崇めていたとされるダーラマランは偽りの名前…本当の名前は…イシュガル・ポセイドン・パルテミシア…そう、イシュガルドが崇めている本当の神はパルテミシアの一人であるポセイドンなんだよ」


 イシュガルドの宗教神がポセイドン…それはイシュガルドの人間ですら知っている者は多くなかった。

 だが、それでもやはり蒼もインベルも納得出来なかった。


「いくらイシュガルドだからって…ポセイドンの力が発動するなんて…」

「イシュガルド教にはポセイドンの力が皆に宿っている。力に目覚めない人間が大半…というより、今まで力が覚醒した者はいなかった…」


 プロテアは右手から新たな武器を造り出した。

 いつもの様な剣では無く、三叉鎗であった。

 ポセイドンは三叉鎗を使い、戦っていたと言う。トライデントというこの村の名前の由来でもある。


「!!」


 一瞬でプロテアはフォルテに接近し、三叉鎗で攻撃をしてきた。

 フォルテはプロテアの攻撃を回避した。しかし、プロテアの動きが非常に速く次は回避出来そうに無い。

 フォルテは空中に浮遊し虹の光線を無数に発射した。

 しかし、プロテアは虹の光線を回避した。虹の光線はプロテアを追尾(ホーミング)したがプロテアも無数の鉄の剣が出現し虹の光線に当てた。

 虹の光線と鉄の剣が衝突した。


「………」


 フォルテは冷や汗をかいていた。

 プロテアの身体の鱗がますます濃くなっていく。

 プロテアが三叉鎗を地面に突き立てた。すると、大地が裂け、裂け目から無数の鉄の針が飛び出してきた。


「くっ…!?」


 フォルテは虹の光線を放ち、攻撃を防いだが数が多すぎて防ぎきれなかった。

 フォルテの身体中に鉄の針が突き刺さっており、血が出ていた。

 プロテアは大地を蹴り、フォルテのいる空中まで距離を詰めた。

 そして、プロテアはフォルテの身体を一刀両断だした。


「くっ…」


 フォルテは断末魔を上げた。しかし、身体が突如発光し、フォルテの身体が消え去った。

 そして、虹色の光がプロテアを包み、動きを封じた。


「!?」


 プロテアはとてつもない痺れに襲われ身体が動かなかった。

 これは【虹霞(カウス・ダバーブ)】であり、フォルテの造り出した分身である。

 バレにくく非常に優れた分身であり、分身を壊したらプリズム属性の力で相手を拘束する。


「【虹滅光(カウス・コーザー)】」


 フォルテはプロテアの眼前に立ち、虹の光線を放った。

 プロテアは吹き飛ばされ、大地に叩きつけられた。


「はぁ…はぁ…」


 フォルテは息切れを起こしていた。

 不意打ちさえ喰らわなければこんなに苦戦する事は無かったかもしれない。

 フォルテに限らずエルフは類い稀なる霊力を有しているが、その逆に体力が非常に低く、少しダメージを追っただけで息切れを起こしてしまう。

 フォルテはプロテアに不意打ちでダメージを受けた為、かなり消耗していた。

 だが、今の状態でも蒼とインベルを倒すには十分である。


「くっ…がっ……!」

「!? まだ…生きてる…」


 フォルテは少なからず動揺していた。

 プロテアは見た限り傷が殆ど塞がっていた。

 恐らくポセイドンの鱗が解けた時に超速再生が発動したのだろう。それにより、傷が殆ど塞がっていたのだ。

 しかし、体力と霊力がほぼゼロの為、身体を動かす事すら出来ない。


「プロテア!」


 蒼とインベルがプロテアの元に駆け寄った。

 フォルテは更に霊圧が上昇していた。これでもまだ本気で無い可能性すらある。


「これで…終わらせる…」





To be continued

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