【第一章】十二支連合帝国篇Ⅷ-アルカディアの氷菓ー
蒼は遂に因縁の相手、赤島英明と対峙する。一進一退の攻防を繰り広げる二人だが、果たして勝者はー?
そして、ボスの部屋へと進む澪たちだが、そこにも十二神将が待ち構えていてー
時神蒼と赤島英明が向かい合う。
「じゃあ、行くぜ…燃やし尽くせ【天照】!」
神器が脇差からコンバットナイフに変わった。そして、コンバットナイフから炎が湧き出ていた。
「熱湯の次は炎かよ…あ~頭が痛くなる…」
蒼が冷や汗を流しながらそう言った。蒼は前にもこの【天照】を目にしている。
刀からは凄まじい炎を纏っていた。刀を構える蒼だがその刀が炎によって溶けそうな勢いで炎は強かった。
「分かってはいたが…激戦になりそうだな…」
蒼がそう言うと赤島はその言葉を否定した。
「いや、一瞬で終わる」
その瞬間、赤島は蒼に接近し【天照】で攻撃を仕掛けた。辛うじて躱す蒼だが炎は躱しきれていない。
「くっ!【氷水天皇】!」
蒼は天使を解放するが炎によって氷が一瞬で溶けた。
「無駄だ…俺とお前では相性が悪い」
赤島がそう言い放ってさらに炎を強めた。
「【炎熱地獄】」
赤島のナイフから炎の刃が発生し、その刃が蒼に直撃した。
「ぐわあああ!」
蒼は炎に吹き飛ばされ、森の近くにある川まで吹き飛ばされた。
「お前じゃ俺には勝てねぇよ天使」
赤島がそう蒼に告げた。
「天使じゃねぇ、はぁ、はぁ、はぁ、時神蒼って名前がある」
蒼が赤島に言うと赤島は意に返さなかった。
「これから死ぬ奴の名前など覚えてどうする?もう終わりだ、消えろ」
赤島が炎を放った。
「霊呪法第二一四番【虚神】」
蒼の周囲に盾が展開され炎から身を守った。
「ほう…」
赤島は感心したように呟いた。
「舐めた真似しやがって…お前…全然本気を出してねぇだろ…言葉の節々まで伝わってくるぜ…てめぇが俺を舐めてるってことがな!」
蒼は怒りの形相を赤島に向けた。
「ならばどうする?」
赤島が質問すると蒼は答えた。
「てめぇをぶっ潰す!それだけだ!霊呪法第二四五番【氷魔蓮刃】!」
蒼が霊呪法を放つ。地面から氷の刃が出てきた。
「下らん」
赤島は【天照】を地面に振って一瞬で氷を溶かした。
「霊呪法第四四四番【水流荒波】!!」
蒼が霊呪法を唱えた瞬間、大量の水が赤島に押し寄せて来た。
「何!?」
赤島は驚きの声を漏らし、【天照】を振った。しかし、水の量が多すぎて【天照】の炎では対処しきれなかった。
「喰らええええええええ!」
蒼が叫びながらそう言った。
水は勢いを増し、赤島を飲み込んだ。そして赤島は水圧によってかなりのダメージを受けていた。
-まさか、こんな霊呪法を使えるとはな…大した奴だ…いや、俺が奴を舐めていたという訳か…
赤島は決心した。本気で戦うことを。
「この程度で勝てるなんて思っちゃいない。これで止めだ!【霰矢】!」
蒼の【氷水天皇】が弓の形を成し、左手で弓を引くと氷の矢が発生した。そして、その矢を水にめがけてはなった。
すると、【水流荒波】によって発生した水は全て凍り付いた。
これで、勝負は決した…はずだった。
しかし、再び炎が発生した。
「なん…だと…?」
炎は更に勢いが強くなっていた。蒼の氷を軽々と溶かし、それどころか川の水まで蒸発していた。
「【天照大御神】。これがこの神器の真の姿だ」
赤島がそう言い放った。
「おいおい…マジかよ…神器はギミック機能が搭載されてるだけで二段解放は無いはずだぞ…」
蒼はそう言った。確かに、神器はギミック機能が存在するがあくまでも形を変化させて戦闘形態を変えるのみだ。霊力が上昇したりするはずが無い。
しかし、あの神器は霊力が一度解放されているにも関わらず、更に霊力が上昇されていたのだ。
赤島は蒼の疑問に答えた。
「言っただろう?真の姿だと「聖天十二神器」っつってもピンキリでな…能力に差は存在する。この神器は「聖天十二神器」の中でも上位に入る。強大な力を常に全開で開放してると霊力の消費が激しいし、周りを巻き込む危険性がある。だから、「仮の名前」を言うことで神器の力をセーブしてたんだよ。【天照大御神】が俺の神器の正式名称だよ」
赤島がそう言うと蒼は冷や汗を垂らしながら言葉を吐いた。
「ようやく本気って訳か…」
「ああ、そうだ。正直、俺はお前の事を舐めていたよ。取るに足らないと、そう思っていた。しかし、その考えは捨てるとするよ。お前は「天使を操る俺たちの最大の敵」だ」
赤島はそう宣言した。
「こっからが本番だな…」
蒼が言うと赤島が叫びながら近づいた。
「行くぞ!時神蒼!」
赤島は神器を振り下ろした。形状に変化は無い。コンバットナイフのままだ。
だが、炎の強さが段違いだった。切り裂いた地面がドロドロに溶けていた。
「まじかよ…ヤバすぎだろ!霊呪法第六四番【瞬天歩】!」
赤島から距離を取ったが赤島はすぐに追撃をした。
「【獄炎龍】!」
龍の形をした炎が蒼に襲い掛かる。
「霊呪法第五二〇番【三重虚神】!」
蒼の周りに巨大な盾が三重に展開されるが、その盾が一瞬で溶けた。
「ぐわあああああああ!!」
炎をもろに受けた蒼は悶絶した。
「【業火ノ太刀】!」
さらに赤島は接近し、神器の形状をコンバットナイフから太刀に変形させ、その業火の太刀で蒼を切り裂いた。
蒼の身体は燃え上がった。蒼は激しく悲鳴を上げた。
「ぐああああああああああああ!!」
慧留は遠くから見ていたが、来たところで何もならないことは分かっていた。
「蒼…」
慧留が呟くが状況はかなり悪い。あの蒼が押されているどころか絶体絶命なのである。
「降参しろ…そうすれば命だけは助けてやる。つっても…答えられないか…」
赤島が蒼にそう告げた。
しかし、蒼は赤島の情けを拒否した。
「誰が…てめぇ…の…情けなんぞ聞くか!俺は負けねぇ!」
赤島はそのまま黙って去っていった。
「その炎は対象を燃やし尽くすまで消えない。じゃあな、時神蒼」
そう言って赤島は去っていった。しかしー
-仕方ねぇ、こっちも「アレ」やるか…
蒼は「奥の手」を使うことにした。
「【第二解放】」
蒼を包んでいた炎が完全に消えた。否、厳密には凍り付いていた。
-炎が凍り付いただと…?
赤島は驚きの表情と共に後ろを振り向き、再び蒼に視線を向けた。
「なっ!?」
赤島は蒼の姿を見て驚いていた。
今の蒼は純白の衣を羽織っており、氷の翼を右肩にだけ生やしていた。
髪の色も真っ白になっており、瞳の色はサファイアの様な美しい瞳をしていた。
赤島は恐れおののいた。
「【アルカディアの氷菓】」
蒼は「天使」の名を発した。
「何だよ…そりゃあ…」
赤島は蒼に質問をした。
「【第二解放】。「天使」の二段階目の解放だ。全ての「天使」は二段階の解放が可能なんだよ…そして、二段階目の解放時は所有者に合わせた固有の能力が発現する」
蒼が赤島の質問を答えると赤島が皮肉を言い出した。
「俺には本気を出せとか言っときながら、お前は手を抜いてたってことかよ…」
「俺のこの力は未完成なんだよ…見ろよ、俺の翼、隻翼だろ?「天使翼」が片方しか生えてないんだよ。だから、この力は使いたくなかったんだよ。制御しきる自信が無かったから。だが、ここまで追い込まれちゃあ力を限界まで引き出すしかねぇ。苦肉の策さ」
蒼はそう言い放った。
「ならば、ここですべて押し潰すまでだ!」
赤島は再び【天照大御神】を解放した。
「【業火ノ太刀】!」
赤島は再び太刀の形に神器を変形させて蒼を切り付けた。しかしー
「悪りーな。その程度の炎じゃすぐ凍り付く」
蒼がそう言いながら左手で赤島の攻撃を受け止めた。すると、神器【天照大御神】が完全に凍結していた。
「馬鹿な…」
赤島は一旦距離を取った。赤島の神器は今、完全に凍り付いていた。しかし、蒼から離れた瞬間、炎が戻り、【天照大御神】に再び炎が灯った。
「俺の身体から発してる冷機はあまりにも強すぎて、俺の身体も一部凍結してるんだよ。その神器の炎では俺は倒せない」
蒼がそう告げると赤島は抵抗を続けた。
「炎が通じない氷など存在しない!【獄炎龍】!」
赤島が龍の形をした炎を顕現させ、蒼めがけて放った。
「【氷神滅却】」
蒼がそう言った瞬間、蒼の翼から猛吹雪が発生した。そして、龍の形をした炎は一瞬で凍り付き消滅した。さらには周囲の森も凍り付いていた。
更には、赤島の神器、【天照大御神】までもが完全に凍り付いていた。
「そんな…馬鹿な!?」
赤島は顔面蒼白になりながらそう言った。再び霊力を込め、神器に炎を灯そうとするが、今度は全く炎が発生しない。神器の機能が完全に停止していた。
絶望的な力の差に赤島は再び蒼に恐怖した。
-この俺が…負ける…?
赤島が走馬灯のように過去を振り返っていた。そして、赤島は過去の事を思い出していた。
今から十一年前に遡る。
赤島は茨城童子の子孫だった。
茨城童子は千年以上生きていたと言われる妖怪であるが、今はもう、人間たちによって退治されていた。
赤島は茨城童子の子孫でありながら、幼少期から穏やかな心を持っていた。争いを好まず、平和を求めていた。
しかし、この十二支連合帝国は魔族に対する迫害が頻繁にこの頃からすでに起こっていた。赤島も人間たちからひどい仕打ちを受けてきた。家族が全員殺され、さらには友人まで殺された。
さらに、自身も魔道警察に追い込まれていった。警察は十人がかりで襲っていた。当時まだ十も満たない年であった赤島はなす術があるはずもなかった。
茨城童子の血を引いているだけあって、そこら辺の魔族や妖怪よりも強かったが、相手はそれらを取り締まるスペシャリスト、勝てるはずもなかった。
「ここまでか…つまらない人生だったな…」
赤島はそう呟いた。そう、赤島は死を覚悟していた。
しかし、赤島にとって予期せぬことが起こった。突然赤島の前に一人の少年と一人の少女が現れたのだ。
「何だ貴様は!」
警察官が尋ねる。しかし、相手は何も答えず、警察官の腹を素手で殴りつけた。
「がはっ!」
殴られた警察官は悶絶し倒れたが、他の警察官が襲い掛かる。
もう一人の少女が襲い掛かった警察官に咬みついた。すると、咬みつかれた警察官は血を吐き、倒れた。
「何だ!?貴様らは!!」
他の警察官が動揺すると、少年が口を開けた。
「俺たちはお前ら人間に報復をする者だ」
そう言って少年は両手を地面に付けた。その瞬間、地面から巨大な樹木が生え、その樹木が他の警察官の胴体を突き刺した。
「うわああああああああ!!」
警察官は全員絶命した。
「お前たちは…」
赤島が尋ねる。すると、少年は答えた。
「俺は天草屍。この世界を変える者さ!一緒に行こう!」
屍はそう言って、赤島に手を伸ばす。赤島は屍の「何か」に惹かれたのだ。
「ああ、俺は赤島英明だ。ついて行くよ…あんたらに」
そう言って、赤島は屍の手を取った。
そしてこの時、赤島は誓ったのだ。必ず、自分の主、天草屍を守ると。何があっても…
「そうだ…俺は!負ける訳にはいかんのだ!!!!」
赤島は再び神器【天照大御神】に霊力を込めた。すると、炎が灯り、今までとは比べ物にならないほどの業火を纏っていた。
「まさか…ここに来てさらに炎が強くなんのかよ…まったく…嫌になるな…」
蒼は表情を歪ませながらそう呟いた。
蒼の氷は生半可な炎では決して溶けない。その氷を解いて見せた赤島は莫大な霊力と精神力を持っていることが分かる。
「俺は、あの男の為に!負けられぬのだああああああああああああ!!!!」
赤島は蒼に突進をした。蒼は【氷水天皇】を構えた。
そして、赤島の神器と蒼の天使がぶつかる。力はほぼ互角だった。
「何!?この距離でも炎が灯り続けてるだと!?」
蒼は驚きの声を上げた。赤島の炎が想定以上に大きくなっていたのだ。
「これで終わりだ!【業火ノ太刀・極】!」
赤島は今までの中で最大の一撃を放った。神器は太刀の形になった。しかし、今まで使っていた【業火ノ太刀】とは太刀の形が違っていた。
太刀は更に鋭く鋭利になっており、炎は更に増大し、炎の色が薄オレンジから真っ赤になっていた。
蒼によって作り出された周囲の氷が一瞬で溶けた。さらに、蒼自身も炎の余波で身体にダメージを受けていた。
辛うじて、天使で神器の一撃を受けていたがこのままではやられるのは間違いなく蒼の方であった。
「【氷神滅却】!」
蒼は再びさっきの技を使った。「氷の翼」から吹雪が放たれた。そして、蒼の周りから氷の花が出現した。その花が、赤島に襲い掛かる。
さらに、蒼の【氷水天皇】からも吹雪が発生した。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
蒼は力を振り絞り、赤島とぶつかった。そして、赤島の神器【天照大御神】が砕け散り、赤島は蒼の天使【氷水天皇】に切り裂かれた。
-くそっ!俺の負けか…
赤島の身体は吹き飛ばされ、そして、凍り付いた。
-ここは…あの世か…くそ…が…
赤島は目が覚めた。赤島の目に映ったのは少女の姿だった。
「ど…どうも…」
そう言ったのは赤島を治療していた慧留だった。
「なっ!?何で俺の傷を治してるんだお前は!」
赤島はたまらず叫んだ。無理もない、敵に治療をされていたらそりゃ驚く。
「ウルせーぞ…耳に響くだろうが…心配すんな、ちゃんと治る」
蒼は赤島にそう告げた。
「違う!俺が聞きたいのはどうして敵である俺を治してんだって聞いてんだよ!」
赤島は蒼にそう質問した。
「いや、別に俺はお前を倒すことが目的であって殺すことじゃないしな。無駄に相手を殺したりしねーよ、俺は」
蒼は淡々とそう答えた。蒼の傷は完治しているようだった。
「くそっ!敵に情けを掛けられるとは…とんだ恥だ!」
赤島はそう呟いた。
「なんだよ…素直に礼も言えねぇのかよてめぇは。言っとくけど、さっきまではお前も俺に情けをかけてたからな。つまりはそういうことだ。後、お前の神器は粉々にしちまったから俺を倒せるなんて思うなよ」
蒼はそう赤島に言った。確かに神器は粉々になっていた。修復は不可能だろう。
「終わったよ」
慧留がそう言った。どうやら治療が終わったようだ。
赤島は身体を自由に動かせるようになっていた。しかし、ダメージは抜けきっていない。
「よっし!じゃあ、お前らの目的を話してもらおうか」
蒼はそう言った。無益に相手を殺さない性分…それは本当の事だが蒼は最初から赤島に情報を得るつもりだったのだ。
「そう来ると思ったぜ。けど、悪いな…お前に話せることはない。俺はボスについて行ってるだけだ。もし、目的を聞きたいんだったらボスに直接聞きな」
赤島がそう言うと蒼はあっさり去ろうとしていた。
「蒼?もう行くの?」
慧留が蒼に問いかける。
「ああ、赤島から得られる情報が無い以上、ボスさんに直接聞くしかないだろ?行くぞ」
蒼が歩き出したが赤島がそれを止めた。
「待て!本当に俺を放置するのかよ!そこは無理にでも情報を吐かせるとこだろう!なぜ俺に何もしない!」
「拷問は趣味じゃねーんだよ。誰にだって…言いたくないことも…あんだろ…俺はそういうの…好きじゃねぇんだよ。それに、俺はお前が悪い奴には見えない。だから、このまま大人しくしてろ」
そう言って蒼と慧留は去っていった。
-ふっ…完全に俺の負けだ…
赤島はそう胸中で呟いた。
「行くよ。【月読尊】」
狂はいきなり神器を解放した。神器【月読尊】は狂の頭の後ろに浮かんでいる鉄でできた月輪型の神器だ。
神器は月光のような光を放っており、神々しさを感じる。
「それがあなたの神器ね。正直、これまでの神器とは違うみたいね」
遥はそう呟いた。
「うん。くるの神器は強いよ。じゃあ、行くよ!」
狂は神器に手を当てた。その瞬間、神器から光が放たれた。
遥はその光を受け止めるのではなく躱した。あの光は遥にとって何か違和感があった。
「勘がいいね。けど、防げないよ!」
狂がそう言うと光はアジトにあった無数の鏡によって乱反射し、遥を捕らえた。するとその瞬間、遥の身体が溶けだした。
「うわあああああああ!!」
遥は絶叫を上げた。しかし、遥は違和感にすぐに気づいた。そう、「現実」とは違う何かを感じたのだ。
-この力…もしかして幻術。
遥はそれに気づくと、霊呪法を唱えた。
「霊呪法第五〇番【内衝破】!」
すると、遥の身体の内側から霊力が放たれた。【内衝破】は身体の内側から霊力を放つ技である。
幻術は視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚の五感に作用して嵌める術である。この術を受けると主に幻覚を見せられたり、相手の行動を縛ったりすることが出来る。
幻術は一見、強力な術だが欠点がいくつか存在する。
主に一つ目が幻術には嵌めるための条件があり、それを満たせなかったら嵌めることが出来ない。
二つ目は幻術は脳に作用する術の為、霊力や魔力などで脳を刺激すれば大概の幻術は溶ける。
遥が放った霊呪法により、幻術は解かれた。そして、遥は元の世界に戻った。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
しかし、遥はかなり息を切らしていた。それほど、【月読尊】が見せた幻術が強力であったことを意味していた。
「やるね…【月読尊】をこんなにあっさり破られたのは初めてだよ」
狂は驚きの表情をしていた。
「あなたの幻術は…その光を直接見た者を幻術に嵌めるみたいね。つまり、視覚に訴えて嵌める幻術…ならば…」
遥がそう言うと眼鏡を取り出し、それを掛けた。勿論、魔力をカットする特殊な眼鏡だ。
「魔力をカットする特殊な眼鏡か…その程度で【月読尊】を防げると思っているの?」
そう言うと狂は【月読尊】の光を放った。
「【蛾餓威亜】」
狂が神器の力を解放する。すると、光がさらに強くなり、その光が遥を追いかける。
躱し続ける遥だが、このままではすぐに光を見てしまう。
「霊呪法第二九九番【風落とし】!」
遥が霊呪法を唱えると遥の周囲に風が生まれた。しかし、その瞬間、光が遥に直撃した。
魔力カットの眼鏡がまるで意味をなしていなかった。
「うああああああああああああああああああああ!!!」
遥は絶叫をした。
「あなたが壊れるまで…この光は閉じない」
狂はそう呟いた。
「うあああああああ!」
湊は敵兵士に追いかけまわされていた。そのせいで遥と完全に別れてしまっていた。
敵は神器【草薙剣】を全員が所持していた。まともにやりあったら湊に勝ち目はない。
「隠形!」
湊は姿を消した。
「どこに行った?」
兵士たちは探し回る。
隠形…それは霊力や自身の姿を完全に消し、身を潜める能力だ。主に敵の偵察に使われる術である。
「今のうちに…」
湊はそう言って結界陣を作った。
「【土砂崩し】!」
そう言うと兵士の地面が崩れ去り、落下した。
「うわああああああ!」「なんだこれは!」「がああああ!」
この他にも悲鳴は聞こえた。かなりの深さまで落下していた。しかも、【草薙剣】の殺傷能力が災いし落下の影響で味方同士で神器によってダメージを受けていた。
「これで何とかなったかな…」
そう言って湊は隠形を解いた。しかしー
「驚いたな。まさかここまで来ていたとは…」
湊はその声を聞いて身震いした。何故なら声の先から強大な霊力を感じるからだ。
「君…は…?」
湊が尋ねる。
「私は兎咬審矢。十二神将の一人だ」
湊は顔が青ざめた。
「うそ…でしょ…?こんな奴と会っちゃうなんて…」
「侵入者は排除する…私は赤島のようには甘くない。全力で終わらせる」
兎咬は神器を取り出した。小さい刀と盾の神器だった。
「【須佐之男之命】」
兎咬が神器を解放する。すると、剣が標準サイズに変化し、盾が鏡のように変化した。そして、兎咬の身体には霊力で出来た甲冑で身を包んでいた。
「やばい…死んだかも…俺…」
蒼は目の前の敵の力の前に圧倒されていた。
-ここは…どこ…?
遥がいた場所は骸骨だらけの場所だった。空気は異様に重苦しく、景色は紫の霧が立ち込めており、よく見えなかったが、不気味な場所にいるということは変わりない。
「あたし…何でこんなところに?そもそも…何してたんだっけ?」
遥はそう呟いた。そう、遥は何故ここにいるか分かっていなかったのだ。
遥は御登狂の神器、【月読尊】によって、幻術に嵌ってしまったのだ。
つまり、ここは狂によってつくられた世界なのである。しかし、幻術に掛かっていることを認識させないどころか、本人の記憶の一部を欠損させる【月読尊】は相当強力な幻術なのである。
「取り敢えず、適当に進むしかないわね」
遥が歩き出した瞬間、骸骨が動き出し、遥に襲い掛かった。
「何よ!?これ!?」
遥は驚き、骸骨を振り払った。その瞬間、振り払った左腕が崩れ落ちた。
「うああああああああああああ!!!」
遥は驚きの声を上げた。しかし、再び左腕を見ると、腕は戻っていた。
「はぁ、はぁ、何よ…あれ…」
遥は驚くがそれだけでは終わらない。遥の目に映っていた景色がいきなり変わった。
今度は何もない黒い空間にいた。そして、遥は十字架の処刑台に張り付けられていた。
「なっ!?」
そして、下から炎が現れ、遥の身体を焼いた。さらに、骸骨がナイフで遥の身体を突き刺した。
腹、左足、右腕、右足、左腕、心臓、肺の順番で突き刺した。
「あああああああああああああああああ!!!!」
遥は叫びを上げた。いつまでも…
「あああああああああああああああああ!!!!」
遥は光の中で悲鳴を上げていた。やがて、身体をピクピクと小刻みをし出した。
「意外としぶとかったね。けど…もう終わりだね」
狂は【月読尊】から放たれた光を解いた。すると、遥は地面に落下し、口から涎を垂らして倒れた。
さらに、目は光を失っており、死んだ魚のような目をしていた。
狂は遥に近づき、遥のいる前で立ち止った。
「はぁ~~~~~~~、かわいい~~~~~~~~~」
狂はそう呟いた。狂は幻術に掛かり、堕ちた人間の顔を見るのが大好きなのである。
今まで、幻術にかけた人間は部屋に保管されており、暇な時はその人間で遊んでいた。
「かわいい。今まで幻術に嵌めた人間の中で一番かわいい。くるのコレクションにしよう。何して遊ぼうかな~」
狂は恍惚な顔をしながらそう言った。
次の瞬間、狂の身体全身から血が噴き出した。
「何…?これ…??」
狂はすぐさま後ろに後退した。すると、ヨロヨロになりながら遥が立ち上がった。
「はぁ、はぁ…後、一歩遅れてたら、マジでショック死するとこだったわ…恐ろしい神器ね」
遥がそう言うと狂は未だに驚いている様子だった。
「何で…死んで無いの?くるの【月読尊】は幻術に掛かった事さえ気付かずに死ぬはずなのに…」
「簡単な事よ…幻術は…脳に…訴えて嵌める術…ならば…脳の機能を…一瞬、停止…させればいい…あたしの【サウンドストップ】で…身体の機能を停止させ…「仮死状態」にしたのよ」
遥は幻術に掛かる直前音の振動で身体を包んだ。しかし、それは光から身を守る為ではなく自身の身体に音の振動を与えることで一時的に身体の機能をストップさせたのだ。
老人が歩いていて目の前に突然自転車が目の前を通ると発作を起こし、ショック死する事がある。それと同じ原理である。
「じゃあ…くるの身体が切り刻まれた理由は?」
狂は更に質問を続けた。
「あたしがあなたの攻撃を躱してる時に設置した霊呪法よ。霊呪法第二九九番【風落とし】。時間差で発動する、トラップ型の霊呪法よ」
遥がそう答えたが狂は再び、【月読尊】に光を灯し、遥にぶつけようとしていた。
「でも、流石にもう一回幻術を掛ければあなたは壊れる!これで終わりだよ!」
光が遥に飛んでいく。しかし、遥はその攻撃を躱した。
「【瞬天歩】」
遥は攻撃を躱し、狂に接近した。遥の咄嗟の行動で狂は反応が遅れた。
そして、遥は狂の耳元に自身の指をパチンと鳴らした。
「【騒音指鳴】」
すると、巨大な振動はとなり、狂の鼓膜を粉砕した。
「あっ…」
狂はあまりの爆音に耐えられずそのまま気絶した。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
遥は息を切らしていた。直接ダメージを追っていないが、幻術による精神攻撃と仮死状態になった反動でかなり精神にダメージを受けていた。
-後は…頼んだわよ…皆…
遥は限界が訪れ、その場に倒れた。
狂は悪夢を見せる妖怪だった。そのせいで周囲の皆に気味悪がられた。
家族はおらず、たった一人で生きて来た。ずっと、一人だった。
そんな時、三人の少年と一人の少女が今日の前にやって来た。
「一人は…寂しいよね…でも、安心してくれ…俺たちは君を見捨てたりしない。君は…俺と…俺たちと同じなんだから」
一人の少年がそう言った。その少年は狂にとって、一筋の光に見えた。今まで、自分に対して誰も振り向いてくれなかったのにこの少年は自分の事を見てくれた。
狂にとってそれはとても嬉しいことだった。
「あなたは…くると一緒にいてくれるの…?」
狂はそう言った。
「勿論だよ。僕たちは皆、仲間なんだから!」
少年は…天草屍はそう答えた。そして、屍が「ついてきて」と言い、他の三人を引き連れて歩き出した。
狂は彼らの背中について行った。
-この人なら…この世界を変えてくれる。
狂はそう思ったのである。
「狂…」
屍はそう呟いた。屍は他の十二神将の状況を把握していた。そして、残りの十二神将が自分を含めて後三人しかいないことも。
「薊…審矢…頼んだぞ…俺は…これから警察どもを根絶やしにする」
屍は両手を重ね、その後地面に両手を置いた。すると、門が現れた。
「錬金術」…それが屍の持っている力だ。「錬金術」とは平たく言えば物質変換である。
岩を金属に変えたり、空気を火に変えたりすることが出来る。ただ、屍の使う錬金術はケタが違った。
屍の錬金術は沼地を花畑に変えたり、今、実行したように指定した場所を繋ぐ門を錬成できる。
錬金術は基本的には等価交換である。しかし、技術によっては錬金における代償を少なくすることが出来る。
天草屍がその最たる例であろう。
「俺は…全てを変える。その為に力をつけてきた。その為に「アザミの花」を作った」
屍はそう呟いた。そう、屍は人間を力によって支配するためにこの「アザミの花」を組織した。自分たちの理想郷を作るために。
屍は力が全てだと悟った。強大な力を使う者こそこの世界を統べることが出来るのだと、そう悟ったのだ。
屍は人間に絶望していた。人は「奪うことしか出来ない」。屍はそれを知ってしまったのだ。
屍は門をくぐった。この戦いを終わらせるために。
To Be continued
フェアレーターノアール第八話投稿しました!今回は遂に赤島との決戦でしたね。気合入れて書きました。描いていて楽しかったっす。蒼君も活躍したしね!
う~ん、これだけキャラがいるから、短編も書きたいんですよね~。いくつかは内容が浮かんでいて暇があればかけたらいいなと思います。
それでは!




