【第六章】ヘレトーア進軍篇Ⅵ-LOVERS-
蒼たちは夜の砂漠にいた。
夜の砂漠は非常に冷える。真昼は五十度を容易く超えるが夜はマイナスを超えるほど寒いのだ。
「今度は寒いです~」
「そうか?俺はそんなにだが」
「蒼とインベルだけだよ、そう思うのは」
美浪が寒がっている中、蒼は平気そうであった。蒼だけでなく、インベルもだが。
蒼は氷、インベルは炎を使う天使だ。その為、寒さには耐性がある。だが、一夜、美浪、プロテア、スープレイガはそんな耐性がある筈も無く、かなり寒がっていた。
スープレイガがヘレトーアの人間であるクレシアと対峙してから半日以上経っていた。スープレイガは殆ど傷が癒えていたが、まだ戦えるような状態では無かった。まぁ、明日には復活しているだろうが。
砂漠も一夜の話によればもうすぐで抜け出せるようだ。
「今日はここで一休みしよう」
「こんな砂漠のど真ん中か?大丈夫かよ?」
「大丈夫だよ。今この周辺には人はいない。間違い無いよ」
一夜がパソコンを見せてきた。しかし、蒼たちにはパソコンの示している意味が全く分からなかった。
だが、一夜が言う事なのだから恐らく間違いは無いのだろう。
どうやら、一夜はパソコンを媒介にこの世界の情報を演算し、位置情報やその周辺の情報を入手しているようである。
とても人間が出来るような技では無い。この力の絶大さを理解しているのはプロテアだけだろう。
情報は時として戦い以上に重要なものである。それをこの様なやり方で手に入れるのはやはり常軌を逸しているとしか思えなかった。
「この先を抜ければ「トライデント」に到着するよ」
一夜がそう言うとプロテアは険しい表情をした。
「プロテア?」
「まぁ、プロテアが顔を強張らせるのも無理は無いね。なんせ、トライデントは…イシュガルドがかつていた村だからね。今は、誰もいない廃墟になっているよ」
蒼の疑問に一夜が答えた。
そう、トライデントはイシュガルドが住んでいた村である。
しかし、村はイシュガルド内乱により破壊され、今もなお廃墟になったままである。
人は勿論住んではおらず、たまに物好きな者が立ち寄るくらいである。
「プロテア…大丈夫ですか?」
「問題無いわ。もう、過去の話よ」
心配する美浪であるが、プロテアは気丈に振る舞っていた。
「今日はもう休もう」
一夜がそう言うとインベルが焚き火を炊き始めた。
「済まないね、君たちの手を煩わせる事になってしまって」
白髪オールバックの初老の男性がそう言った。彼の名は常森厳陣、十二支連合帝国の総帥である。
イシュガルドとの戦いで重症を負い、今まで意識不明であった。
現在いるこの場所は病院であり、厳陣以外にも慧留と舞、屍、ドラコニキル、黒宮大志がいた。
慧留と舞が尽力して厳陣を回復させる事に成功したのだ。
「全くですよ。世話が焼けますね」
黒宮は片眼鏡を持ち上げてそう言った。彼は相変わらず執事服を着用していた。
彼は吸血鬼である筈なのだが、とてもその様には見えない。
「澪は…どうなっている?」
「意識は…取り戻したのですが…」
澪の治療も終わっており、意識も取り戻しているのだがまともに話せる様な状態では無かった。
澪もイシュガルドの者たちと戦ったのだが、その時に仲間を一人失った。
その仲間とは音峰遥の事だ。しかも、敵に惑わされたからだとはいえ、澪は直接遥を手に掛けてしまった。
その敵は美浪が倒したのだが、倒した所で遥が生き返る筈もない。
澪は意識を取り戻した後、虚ろな眼で窓の景色を見つめるだけであった。
「もう少し…時間が掛かると思います」
「分かっている。今回、澪は戦いに連れていくつもりは無い。こちらで準備を進める」
「戦うと決まった訳では…」
「可能性の話だが…残念ながら戦いは避けられないだろう」
屍の指摘を厳陣は冷静に答えた。
相手はヘレトーア。宗教大国でもある。
浄化作戦という計画は恐らく人柱を使う。ヘレトーアは神と交信する為に人柱を使っていた国でもある。
恐らく、今回の件もそれが関係している。
「で?どうします?正直、ヘレトーアの力は未知数です。十二支連合帝国とUSWが組んでもまだ心もと無いですよ?」
「分かっている。だから、神聖ローマとも協力する」
「!? 正気ですか?何か方法があるのですか?」
「今回の件でこの国に『セラフィム騎士団』の者が来たと聞く。恐らく、イシュガルドの事を知っていた。神聖ローマもヘレトーアを警戒していると考えられる」
そう、今回の件で神聖ローマの者も関わっていた。
神聖ローマも浄化作戦の事を掴んでいると考えていいだろう。
だが、問題は、どうコンタクトを取るかだ。
蒼を使う訳にも行かないだろう。彼は神聖ローマから逃亡している身だ。それ以前に彼はヘレトーアに向かっている。
慧留も神聖ローマの者であるが、彼も蒼と同様、逃亡している身だ。あまり当てにはならないだろう。
「連絡は取れない事も無いが…少々面倒じゃの。というか、時間が掛かりすぎるのぉ」
「じゃあ、どうするんだよ!?」
舞の発言に屍は切れ気味にそう言った。
浄化作戦が決行されるまで時間が無い。ここで呑気に相手の連絡待ちなんかしていたら間に合わない。
「お困りの様ね」
「「「「「!?」」」」」
慧留、屍、厳陣、黒宮、舞は驚き、後ろを振り向いた。
そこにいたのは慧留と同じくらいの背丈の少女であった。薄紫の長い髪をお下げの二つ括りと瞳が特徴であり、白い制服を来ていた。
制服には翼の意匠があり、独特な服であった。
「あなたは?」
「私は、アポロ・ローマカイザー。神聖ローマの第三皇女であり、フローフルの友よ」
蒼たちは今、廃墟にいた。
家はボロボロになっており、どんよりとした空気だけが流れていた。
それだけではない。大地はひび割れ、空は常に曇っており、光が射していなかった。
木々も枯れており、死を連想させた。
所々から黒い灰も舞っており、とても生物が住める様な場所では無かった。
「どうなってんだ?ここは…」
蒼はあまりの絶望的な光景に眼を背けたくなる程であった。
「ここが…トライデントよ。五十年前に全てが死んだ場所。死の村」
はっきり言って、USWのネオワシントンより、よっぽど魔界っぽかった。
かつて、ここで戦争があり、様々な人々が死んでいった事を物語っていた。
その凄惨な光景を容易に想像出来てしまうくらい、この場所は地獄の様な場所であった。
ここにかつて人々が住んでいたと言っても誰も信じないだろう。
「ここはかなり広くて場所も似たような場所が多いから迷いやすいわ。私に付いてきて。さっさも抜けるわよ」
プロテアはそう言って、先頭を歩き出した。
どうやらプロテアにとってこの場所は相当なトラウマの様だ。
この場所で多くの者たちが殺しあった。その光景をプロテアは間近に見ているのだ。
それに、当時のプロテアは幼すぎた。戦争を見るような年では無かった。
トラウマになるのも無理は無い事であった。
「それにしても…ここまで酷いなんて…誰も復興作業はしなかったんですね」
「イシュガルドが住んでいた村…それだけで避けられていたしこの有り様だからね。誰もここを復興しようとは思ってないわ。むしろ、イシュガルド内乱の事を忘れさせない為にこの地獄を敢えて残してるとすら思えるわね」
ここは蒼たちが思っていた以上に「重い」場所であったようだ。
ここでどれだけの人々が血を流し、死んでいったのか蒼たちでは想像もつかない。
美浪は近くにあった家から腐臭がしたので気になって家の中を覗き見した。するとそこには子供を抱きながら串刺しにされ、子供ごと死んでいる親子の姿があった。
それを見てしまった美浪は少し動揺してしまった。
「な!?」
「珍しい事でもないわ。ここは所々に死体があるわ。そのまま残されてるわ。しかも、この先はもっと多くの死体が転がっているわ。腐臭もきつくなっていくわ」
確かに死体の臭いがきつくなっていっていた。蒼たちにも分かるくらいにはきつくなっていた。というより、吐きそうなくらい腐臭が強かった。
本当にここには誰も何もせずに戦争の後をそのまま残しているようだ。
「ねぇ?何が文明や文化を滅ぼすと思う?」
唐突にプロテアが蒼たちに訪ねてきた。
プロテアが自分から話しかけて来るのは珍しい事であった。
「あ?んなもん、圧倒的な力に決まってんだろ?核とかな」
スープレイガがそう答えるが、美浪や一夜も似たような事を考えていたようだ。
だが、蒼とインベルは違っていた。
「それは違うなスープレイガ」
「んだと?」
スープレイガの答えをインベルは真っ向から否定した。
「「嗅ぎ付ける事」だな」
「そうよ」
蒼が答えを口にするとプロテアは正解だと言った。そして、そのまま続けた。
「嗅ぎ付ける事でいつも破壊をもたらす。父はいつもそう言っていたわ。イシュガルドにしてもそう、イシュガルドの特異な力をヘレトーアたちは嗅ぎ付けた。だから迫害された。今回もそうよ、私たちが今、ヘレトーアに向かっているのはヘレトーアの計画を嗅ぎ付けたからよ」
そう、いつだって戦争や争いが起こるのはどちらかが相手の驚異を嗅ぎ付けた時だ。
それにより、殺し合い、そして死んで行く。それにより、多くの人が悲しみ、不幸になる。
だが、皮肉な事に争いは悪い事ばかりではない。
殺し合い、自身の平穏を望むが故に人々は科学を発展させた、便利な物を作っていった。
争いがあるが故に色々な文明や科学が発展してきた事もまた事実なのだ。
今、この世界にあるあらゆる物や兵器は過去の多くの人間や魔族の犠牲の上で成り立っているのだ。
奥に進むと当たり前のように道端に死体があった。
「これは…」
流石に一夜たちも顔を強張らせていた。スープレイガですら表情に変化があり、かなり不気味がっていた。
しかし、蒼、インベル、プロテアの三人は表情を一つも変えていなかった。
「これを見てもあなたたちは表情一つ変えないのね」
「まぁな」
「俺たちは慣れてるからな~、こういう光景は慣れて全く特はしないけど」
蒼とインベルも思う所はあるのだろうがそれをわざわざ顔には出さなかった。
プロテアは何となく、蒼やインベルも似たような体験をしたんだと思った。
だが、二人の過去の事を聞くのは悪い気がしたのでプロテアは聞かなかった。
「ここが…そうか」
「ええ、私も来るのは初めてね」
そこにあったのは巨大な磔であった。磔の真下には火をつける為の薪があった。ここが人柱を殺す為の場所である様だ。
方法は簡単だ。磔に人柱を張り付け、火を着ける。そうすれば磔は燃え盛り、人柱を焼き殺す。それだけで儀式は終わりだ。
この磔は燃えても消えない特殊な素材で出来ているようだ。恐らくここで多くの人々が死んでいった。
「プロテアは来た事ないのか?」
「ええ、ここは本来、立ち入り禁止区よ。今は関係ないけど」
蒼の質問にプロテアは答えた。
どうやら、ここは誰でも入れるような場所では無かったようだ。確かに周りを見てみれば柵らしきもので封鎖されていた形跡がある。
だが、戦争で柵が壊されてしまっていた様だ。
「イシュガルドが滅んだ後もここに来る事は無かったのかい?」
「ええ、私は…いえ、私たちは、ここを離れた森で静かに暮らしていたわ。力も付けた。そんな時、コランが表れたわ」
「コラン…」
プロテアがコランの名を口にした瞬間、美浪の目つきが変わった。
コランは蒼たちの仲間である遥を殺している。蒼たちにとっては仇敵と言える存在だ。
だが、コランは美浪が倒した。仇は取ったのだ。だが、コランは神混髏奇の作り出した人形である。
蒼たちは本当の意味で仇を取っていなかったのだ。
「コランは当時から何を考えてるか分からなくて、奇妙な男だった…けど、私たちの師匠だった。私たちは、コランが親代わりだった」
プロテアの話を黙って聞いていた。
だが、イシュガルド内乱を生み出したのも髏奇だ。髏奇はヘレトーアの軍人に化けてプロテアの弟であるイデス・イシュガルドを殺害した。
それをきっかけに世界を巻き込んだヘレトーア史上、最大の戦争であるイシュガルド内乱が勃発した。
この戦争は最早戦争と呼べるようなものでは無かった。イシュガルドが一方的に殲滅されたただの虐殺であった。
この戦争で心に傷を負い、軍人を辞めた者も多く、多くの人たちの心に傷を残した大戦争であった。
厳陣や黒宮、舞もこの戦争に参加しており、彼らにとってもこの戦争は大きな影響を受けた。
皮肉にも彼らは自分たちの仇に親代わりとして育てられていたという事になる。
「私は、コランの事は恨んで無いわ。私たちを育ててくれた事は事実よ。けど、神混髏奇…あの男は絶対に許さない…」
どうやらプロテアはコランと髏奇は別人として考えているようだ。
だが、蒼、一夜、美浪にとってはコランも髏奇も同じだ。
境遇が違うというだけでこんなにも一人の人物に対する見方が変わる。
自分の国では自国を救った英雄と呼ばれていたとしても他国から見たその英雄はただの暴君だ。この様に人によって同じ人物に対しての見方は大きく変化するものである。
「皆、止まってくれ。磔の後ろに、誰かいる」
一夜がそう言うと確かに磔の後ろには人影があった。胡桃色の長い髪と大きな瞳が特徴の少女であった。
更に灰色の宗教服を着ていた。間違い無くヘレトーアの者だ。
少女はニコニコしながらこちらに向かって歩いて来た。
「久しぶりね、プロテア」
「…そうね、久しぶりね、フォルテ」
その女性はかつて、五十年前のプロテアの友人であり、セイント教の者、フォルテであった。
彼女は五十年経っているというのに若々しい姿を保っていた。
人間であれば、こんな事は普通ありえない。だとすると、考えらる事は三つ。一つは実はフォルテがイシュガルド人である事である。
イシュガルド人は普通の人間より成長の速度が遅い為、五十年経っても若々しい姿のままである。実際、プロテアがそうだ。
二つ目に考えられる事は何らかの方法で後天的に老化を防いでいる事である。魔術や霊術を用いた方法であれば、不可能では無い筈だ。
そして、三つ目はー
「あなた、やっぱり人間じゃ無かったのね」
「気付いてたんだ。いつから?」
「最初からよ。あなた、人間のフリをしてたわね」
「イシュガルドと違って、セイント教もセクラム教も魔族は多くいるわ。で?私が何の魔族かも分かってるの?」
「あなたはエルフね。ヘレトーアでは珍しくもなんとも無い、イシュガルドと同様、精霊を操る魔族」
「ご名答。流石ね、プロテア!あなたの様な人間を勘がいいっていうのね」
エルフとは簡単に言えばイシュガルドと同様、精霊の力を使う種族であり、高い知性と長寿性を併せ持っている魔族の事である。
ヘレトーアでは最も多い魔族であり、ヘレトーアの人間とは共生関係にある。
ファンタジーなどでよく見るエルフと違ってこちらのエルフは見た目は人間とまったく大差無い姿であり、耳も不自然にとんがったりはしていない為、見分けるのが非常に難しい。
人間との違いは体内に精霊回廊と呼ばれる精霊を蓄える器官が在るか無いかの違いであるが、イシュガルド人も体内に精霊回廊を宿している為、イシュガルド人とエルフの判別は非常に難しく困難だ。
「あなたの身体には精霊回廊があった。それに、あなたの精霊回廊の「色」は…緑色だった」
「五十年前の時点でそこまで見抜いてたなんて…勘がいいというより…天才、って言った方が良いわね」
実はイシュガルド人の持っている精霊回廊とエルフが持っている精霊回廊は霊視した時に色が異なっており、イシュガルド人の精霊回廊は青色に対し、エルフの持つ精霊回廊は緑色なのだ。
プロテアは五十年前の時点で相手の霊力や魔力を視認する事が出来ていた。
プロテアは五十年前の時点で既に彼女がエルフである事に気が付いていた。
「で?あなたはここで何をしていたの?」
「ああ、それは祈りを捧げていたのよ。哀れよね、何の罪も無いのに人柱としてここで殺されてしまった」
「………」
「あなたたち、ヘレトーアは今、国との外交を絶縁してる筈なのだけれど…何故来たの?」
「丁度いいわ。見た所、あなたはヘレトーア側の人間みたいだし。一つ聞いていいかしら?浄化作戦の本当の目的は何なのかしら?」
プロテアが尋ねるとフォルテの今までの柔和な感じが消え去っていた。
そして、フォルテはプロテアと向かい合う形で立っていた。
「どこまで知ってるの?」
「神を降ろして世界を消す…という所までは知ってるわ」
「…そう、現状、まだそこまでしかつかめていない訳ね」
「やっぱり、他に何か目的があるのね」
「一つ、勘違いしてるわね。アラルガンド様の目的は世界を消す事では無いわ。神を降ろす事自体が目的なのよ。まぁ、それをする事で世界が滅びる訳だからあなたたちからすれば同じね」
「何で…アラルガンドの計画に賛同するの?彼は世界を滅ぼそうとしているのよ!?」
「破壊と創造は表裏一体なのよ。両方とも必要な要素なの。行き過ぎた進化のアポトーシス。それが今回の浄化作戦なの。一度全てをリセットする」
フォルテはどうやらプロテアが想像していた以上に浮世離れした人物であった様だ。真意が全く掴めない。
だが、フォルテの言っている事は事実だ。想像と破壊は対となる概念である。
新たなモノが創られ、そして壊れる。これが循環しているのがこの世界である。
破壊する事はこの世界のバランスを保つ為に必要な概念でもあるのだ。だが、それを簡単に受け入れているフォルテの真意が分からない。
「浄化作戦を止める事が間違いだというの?」
「あなたたちの行いを間違いとは言わないわ。結局、どっちが正しいかなんて、分からないんだし。けど、私はこの世界をリセットする必要があると思うわ。今が、その時よ」
「それが全てを失う事になるとしても?」
「私は…空っぽだから…私は…」
フォルテは作り笑いをしながらそう言った。
プロテアは彼女の言葉の意味が分からなかった。
「どういう事?」
「あなたには…分からないわ。【恋人】」
フォルテが両手を上げると地面から黒い影が多く出現した。
これはフォルテの『二十二式精霊術』、【恋人】の能力は死者操作である。
自身の周辺に残留している怨念を操作し、操る能力である。怨念が強ければ強いほど、力は大きくなる。
ここは【恋人】の力を最大限に発揮できる場所でもある。
「これは…」
「踊れ、闇に惑いし哀れな死者たちよ」
フォルテがそう言うと影たちが蒼たちに襲い掛かって来た。
影の数は数百以上いる。蒼たちは迎撃に入った。
「【氷水天皇】!」
「【神掛】!」
「霊呪法第三六七番【雷刀千本花】!」
「【光刃刀】!」
「【赤竜天皇】!」
蒼は水色の刀【氷水天皇】で、美浪は身体に神を宿し霊力の鎧を作り、一夜は霊呪法で、スープレイガは剣で、インベルは赤い剣【赤竜天皇】で応戦した。
しかし、影の力は凄まじく、蒼たちを通さない。
プロテアは【審判時神】の力で自身の時を加速させ、フォルテに肉薄した。
更にプロテアのもう一つの『二十二式精霊術』、【鉄征神】の力で右手に鉄の剣、【鉄王剣】を顕現させた。
「はぁ!」
プロテアはフォルテに斬りかかった。しかし、フォルテはプロテアの剣を片手で受け止めた。
「!?」
「終わり?」
フォルテは左手をプロテアの顔に寄せた。
すると、フォルテの左手から空気方が発射された。
「!?」
プロテアは咄嗟に右手から剣を手放し、左手から【鉄王剣】を顕現させ、防御した。
しかし、フォルテの放った攻撃があまりにも強すぎてガードしきれず、身体のあちこちに切り傷が出来ていた。
「風の力も操れるなんてね…」
「私…一応「五大属性」は全て扱えるよ。「二極属性」と「派生属性」は無理だけど」
フォルテの言う五大属性とは火、水、雷、土、風の五種類の属性の事を言う。魔族、人間に関わらず、大体の者がこの中の五つのどれかが属性の適性がある。
因みにこれらは相性の関係もはっきりしており、火は水に弱く、水は雷に弱く、雷は土に弱く、土は風に弱く、風は炎に弱い傾向にある。
あくまでも傾向があるだけであり、能力次第でこれらの相性を覆す事も可能である。
しかし、この五つの属性に当てはまらない者も存在する。そういった者は大概二極属性に属している。
二極属性とはその名の通り二つの対立している属性の事であり光属性と闇属性がある。
この二つの属性は互いが有効な属性であり、逆に互いが弱点でもある。つまり、光属性の弱点は闇属性であり、闇属性の弱点もまた、光属性なのである。
大まかな属性はこの七つが全てでありこの七つの属性の総称を七元属性と言う。この七つ以外にも多くの属性が存在する。
それは蒼が主に使っている氷属性やプロテアが使っている鋼属性がそうだ。
これらの属性は派生属性と呼ばれており、七つの属性を派生している属性である。基本的に七元属性以外の属性はこの派生属性に属する。
蒼の使う氷属性は水属性の派生属性であり、プロテアが使う鋼属性は土属性の派生属性である。属性を派生した事により、弱点が変わる事もあり、氷属性は派生元である火属性に弱い傾向にある。
七元属性は使えないが派生属性は使えるといった者も珍しくない。
「私の邪魔をするの?」
「うん、私はこの世界の秩序の為に戦う。それが私の役目」
「意味が分からないわね」
昔から何を考えているか分からない奴だった。だが、今になってますます彼女の事が分からなくなった。
だが、一つ言える事がある。フォルテは強い。生半可な気持ちで戦えば返り討ちは必至だろう。
「私の【恋人】は周囲の怨念が強ければ強いほど力を発揮し、逆に怨念が小さければ力は発揮されない。そういう環境によって左右される能力だから、私自身、霊力の消耗は少ないわ」
フォルテはそう言って手から炎を発射させた。
プロテアの属性である鋼属性は炎属性に弱い傾向にある。フォルテはそれを利用して攻撃を仕掛けたのだ。
だが、プロテアは炎を回避し、フォルテの後ろに回り込んだ。
いくら弱点属性で攻撃してきたからとはいえ、当たらなければ意味が無いのだ。
プロテアは剣でフォルテに攻撃を仕掛けた。
「!?」
フォルテはプロテアの攻撃を躱そうとするが動きが鈍くなっていた。
プロテアの【審判時神】は時間の加速以外にも減速が使用出来、同時に使う事も出来る。霊力の消耗も激しく多様は出来ない為、使いどころが重要である。
フォルテは攻撃を躱しきれず、攻撃を受けた。
「流石ね、けど…まだまだね!」
フォルテは黒い影を出現させた。
【恋人】の力で出現させた死人の魂だ。しかし、プロテアは死人の攻撃を回避し、フォルテに詰め寄り、フォルテに斬撃を与えた。
フォルテはどうにか右手で剣を受け止める事が出来たが、プロテアは即座に剣を放し、左手から剣を出現させ、地面に突き立てた。
「【鉄連鎖針】!」
地面から鉄の針が無数に発生し、フォルテに襲い掛かる。フォルテは【鉄連鎖針】を回避しきれず、身体のあちこちを貫かれた。
しかし、フォルテは即座に鉄の針から脱出し、上空に飛び、口から炎の咆撃を放ち、無数の鉄の針を消し去った。
プロテアは【審判時神】の能力で自身の時を加速しフォルテに詰め寄って来る。
フォルテの【恋人】は周囲の死人の怨念を操作する。言わば、多くの兵隊を量産する能力と言える。故に集団戦では非常に有用な能力である。
実際、蒼たちを消耗させており、総合的に見たらフォルテが押していると言える。
だが、捜査しているのがフォルテである以上、フォルテがやられればお終いである。
プロテアはフォルテに優勢な状態である。【恋人】は【審判時神】との相性が良くない。
高速で相手を無視して本体のみを攻撃出来るプロテアは術者であるフォルテを狙い撃ちにしている。
このままではプロテアがフォルテを倒してそれで終わりだろう。
しかし、フォルテは負ける訳にはいかなかった。浄化作戦の成功の為にも。
「ねぇ、プロテア?愛って、恋って何なのかな?」
「いきなり何を言い出すのよ?降参って事でいいのかしら?」
「単純に聞きたいだけ。恋をすれば人は変わる。けど、その恋とは何なのかしらね?」
「哲学に付き合っている暇は無いわね」
「私は、こう思うのよね。恋って愛って、ただの思い込みだってね」
「……」
「人は思い込みの中で生きてる。自分の価値観も全て、思い込みで生きてる。それが本当は間違っていたとしても、それを否定出来ない。それをすれば自分を否定する事になるから」
「何が言いたいのよ?」
「愛も恋も全て思い込みなら、本当は存在しないんじゃないかな?淡く儚く、消えていくものなんじゃないかな?だから、この世界にいる者たちは皆、空っぽなんだと思うわ」
フォルテがそう言った。
愛や恋は思い込み、それはある意味、真実と言える。
誰かを思う心は自身の思考から来るものだ。それが本当の気持ちかどうかなんて自分にしか分からない。
だが、その自分にしか分からない感情すらも時として見失い、分からなくなる事もある。簡単に揺らぐ、こうなってしまえばもう、誰にも分からない。
だからこそ、それを見失わないように自身に言い聞かせる。それがやがて、思い込みとなっていく。
そう、この世界にいる者は皆、空っぽなのだ。
「空っぽだから、滅びるべきだと言うの?」
「少し違うよ。空っぽだからこそ、お互いに身を寄せ合い、空っぽを埋める。そうする事で居場所が出来る。その居場所を守る為にお互い争う、死んでいく。このあるがままのサイクルを繰り替える事が、正しい事だと私は考えているわ。なのに、人や魔族はその世界の法則に背き、不条理を守ろうとしている。だから、一度、リセットするべきなのよ」
プロテアはフォルテに言い返す事が出来なかった。何故なら、フォルテを言い返す言葉が今のプロテアには思いつかなかったからだ。
フォルテは溜め息を吐き、そして、再び、プロテアを見据えた。
「だから、あなたたちはここで終わらせるわ」
To be continued




