【第六章】ヘレトーア進軍篇ⅤーStels of mirrorー
月影慧留は病院で寝込んでいた。
慧留はつい先日、プロテア・イシュガルドと戦い、深手を負ってしまったので病院に入院していたのだが、魔族故に回復が速く、現代の医療が進んでいる為、既にほぼ回復していた。
慧留は黒髪黒目が特徴の凛とした雰囲気を醸し出している少女であるが、別にツンデレというわけでもなく、だからといって、クールな性格でもない、むしろ明るい性格であり、外見と性格にかなりギャップのある少女だ。
慧留は今日、退院する予定だ。そして、これからの戦いの準備を進める。
「蒼たち…大丈夫かな?」
慧留はそう呟いた。
現在、蒼、一夜、美浪、スープレイガ、プロテアの五人が例の浄化作戦の事を調べる為に、ヘレトーアに向かっている。
しかし、相手は四大帝国一つが相手だ。彼らだけでは限界がある。
しかし、今彼らの事を案じてもどうしようもない事も事実だ。それより、今は自身の事を心配すべきである。
慧留がそんな事を考えているとドアからノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
慧留がそう言うと扉は開き、二人の人物が入って来た。
一人はゴスロリと長い黒髪と水色の瞳が特徴の女性であり、もう一人は紺色の髪と瞳で片目が隠れているのが特徴の青年である。
四宮舞と天草屍である。舞は蒼や慧留たちの昔の教師であり、今も一宮高校で教師を続けている。
屍は蒼や慧留たちの仲間であり、現在も同じ大学に通っている。屍も舞もつい先日まで重傷を負って入院していたのだが、慧留より先に退院していた。
彼らの要件はただ一つだ。
「迎えに来たぞ。さっさと行くぞ」
「分かってるよ~」
屍が淡々とそう告げると慧留は立ち上がり、身支度を始めた。
そこまで準備する事も無かったので手短に済ませた。
「身体は大丈夫か?」
「はい、お陰様で」
舞の質問に慧留ははきはきと答えた。
慧留が支度を済ませると屍と舞が先に出ていった。
慧留もそれに続いて出ていった。
それから階段を降り、受付で手続きを済ませた後、彼らは病院から出た。
「久しぶりの外だ…」
慧留がそう呟いた。
三日程しか入院してなかった筈だが、それを久し振りというのか些か疑問である。
「待っていたぞ」
目の前にドラコニキルがいた。
どうやら、慧留たちが来るのを待っていた様だ。
彼はドゥームプロモ・ドラコニキル、黒髪のストレートヘアーと釣り目の白と黒のオッドアイが特徴の青年だ。
彼はUSWの暗殺組織、「アンタレス」のメンバーであり、その幹部である『七魔王』のリーダーでもある。
「ドラコニキル…どうしてこんな所に?」
「迎いに来たんだ。黒宮大志がお前たちを呼んでいる」
ドラコニキルがそう言うと慧留たちの表情が険しくなった。
黒宮がこの状況で慧留たちを呼んでいるという事は何か重要な事があると考えるのが自然である。
「要件は何じゃ?」
「ふー、恐らくまずは常森澪と常森厳陣の治療だろうね。常森厳陣はまだまだ重症のようだし、常森澪は傷自体は回復しているが未だに意識が戻らないようだしね」
ドラコニキルが淡々とそう告げた。
そう、厳陣も澪もイシュガルドとの戦いで重傷を負っている。
この二人はこれからの戦いに必要不可欠である。
「私と四宮先生で二人を治すって事?」
「そうだろうね、では行こうか」
ドラコニキルたちは病院から去って行った。
「どうなってる?」
蒼はそう呟いた。
蒼は先程的と遭遇し、敵を切った筈である。にも関わらず、敵の姿が跡形も無かった。
全く跡形も無いというのもおかしな話だ。恐らく敵はまだいる。
不気味な気配も消えてないので間違いなくどこかに潜伏している。
蒼だけでなく、美浪、一夜、スープレイガ、インベル、プロテアも辺りを見回していた。
「どこにいる!?」
インベルはそう言うが敵はどこにもいない。
周囲を見回したがそれらしき人物はいなかった。先程の男の素顔は見えなかった。分かっているのは身体の色が褐色であることぐらいである。
「な!?」
声を上げたのはスープレイガだった。
スープレイガの足元から砂地獄が出現し、スープレイガは地面に吸い込まれていった。
「スープレイガさん!」
スープレイガの一番近くにいた美浪が手を伸ばすが僅かに手が届かず、スープレイガは砂地獄に飲み込まれてしまった。
他の五人が唖然とした。まさかいきなりスープレイガが砂地獄に引きずり込まれるとは。
「これは厄介だね」
「スープレイガの魔力を全く感知出来ねぇ!」
蒼がスープレイガの魔力を探ったが全く感知できなかった。
他の者たちも同様であったようだ。
「スープレイガは死んだのか!?」
「それは分からない」
インベルの問いに一夜が苦い顔をしてそう言った。
確かにスープレイガは砂地獄に飲み込まれ、魔力が完全に消失したが、まだ、死んだとは断定できないもだ。
しかし、探す手段が無いというのも事実だ。
「こうなったら、私の【審判時神】で…」
「いや、まだその力は使うべきでは無いよ、プロテア、その力、君自身にも相当なリスクがある筈だ」
プロテアの提案に一夜は反対した。
プロテアの『二十二式精霊術』は二つ使用出来る。
一つ目は【鉄征神】と言い、その名の通り、鉄を操る『二十二式精霊術』であり、特殊な能力が多い『二十二式精霊術』の中でもかなり単純な能力だ。
二つ目は先程、プロテア自身が言っていた【審判時神】であり、時間の加速と減速両方を行う事が出来る『二十二式精霊術』らしい非常に特殊な能力である。
自身の速力を上げ、相手を減速させる事が出来る為、非常に強力な能力であるが、この『二十二式精霊術』の真骨頂はそこでは無い。
この『二十二式精霊術』は加速と減速を最大レベルまで行う事で自身の時間を「超越」し、過去や未来へ移動する、要は時渡りの能力なのだ。
しかし、無論この能力にも欠点は存在し、加速と減速を同時に行う為、霊力の消費が非常に激しい。その為、乱発すればすぐにガス欠を起こすし、使い過ぎれば、時間を操作する為、急激な時間変化に身体がついていけなくなり身体にも負担が掛ってしまう。
それに、時間移動は過去か未来に渡るかは分からず、ランダムの為、自身の望む時間に移動する事が出来ないという問題もある。
「なら、どうすれば…」
「僕が探す。試してみたい事があるんだ」
一夜はそう言ってパソコンをリュックから取り出した。
「どこだ?ここは…」
スープレイガはそう呟いた。
ここは真っ暗な空間であった。どこを見ても真っ暗であり、目のやり場に困った。
スープレイガは少し歩くがいつまで歩いても黒い空間から抜け出す事は出来なかった。
「確か、俺は地面に引きずり込まれて…」
スープレイガは自身に起こった事を思い出していた。
そう、突然敵が現れたかと思ったら消え、そして、スープレイガはそのまま地面に引きずり込まれてしまったのだ。
恐らく、敵の能力である。どうやら、スープレイガを狙ったらしい。
「面白ぇ…やっと戦える訳か」
スープレイガは笑いながらそう言った。
そもそも、スープレイガが蒼たちに同行したのはてっとり速くヘレトーアを潰したかったからだ。
そのヘレトーアが仕掛けてきた。しかも、スープレイガを狙って。
「随分と余裕だな。スープレイガ・レオンジャック」
「誰だ!?」
虚空から声が聞こえた。
スープレイガは叫ぶが返事は無い。
「ここは私が造り出した空間だ。私の【悪魔神】の力でな」
「この霊力の感じ…まさか…」
どうやら、スープレイガは敵の造り出した空間に閉じ込められてしまったようだ。
ここから抜け出すには本体を見つけ出し、倒すしかないだろう。
だが、この暗闇だ。視界は相当悪い。
取り合えずスープレイガは辺りを見回しながら走り回った。
索敵されないようにする為のものだったが無意味であったようだ。
「無駄だ」
男がそう言うとスープレイガの地面から黒い光線が発射された。
スープレイガはどうにか紙一重で回避したが上からも黒い光線が発射された。
これには見覚えがあった。これはー
「【黒閃光】…」
そう、地面や上から放たれたのは【黒閃光】だ。
しかし、おかしい。【黒閃光】は悪魔にしか使えない筈である。それにも関わらず彼は【黒閃光】を使用していた。
「私はこの空間に引きずり込んだ者の力を模倣出来る。つまり、私は貴様そのものだ」
「何だ…そりゃ?」
そして、目の前に現れたのはスープレイガ自身である。
「能力だけでなく姿形まで同じとはな。まるでドッペルゲンガーにでも出くわしたみたいだな…」
スープレイガは顔を引き吊らせながらそう言った。
相手がよりにもよって自分自身とは…嫌な演出である。
スープレイガは剣を抜き、自分自身に切りかかった。相手も同じ動作でスープレイガに切りかかった。
「私はクレシアだ。よろしくな!スープレイガ・レオンジャック!」
「ちぃ!」
剣が交わる。案の定、力は互角であった。
しかし、幸いにも相手の思考までは模倣されてはいないようで、全く同じ動きというわけでは無かった。
これならまだスープレイガに勝ち目はある。
「…とでも思ったか?【光刃刀】!」
「!?」
クレシアの剣から光の刃が放たれ、スープレイガに直撃した。
スープレイガは額から血を流していた。完全に不意を突かれた。
「野郎…」
「貴様の力は完全に模倣してると言っただろう?勿論、貴様の【悪魔解放】もな」
「………」
クレシアは不気味な笑みを浮かべながらそう言った。
力を完全に模倣されている以上、いくら思考までも模倣されていないとは言え、同じ力である以上、自分自身と戦っているのと変わらないのだ。
これはかなり面倒である。手の内をお互いに知り尽くしている以上、小細工は通用しない単純な読み合いになる。
「行くぞ!」
剣が交わる。攻めぎ合いが続くが押されていたのはスープレイガの方であった。
相手は同じ敵と戦う事になれていた。能力が能力なので当然であるがスープレイガはかなりストレスが溜まっていた。
この状況を打破する有効な手段が思い付かなかった。スープレイガ自体、あまり考えるのは好きではないので当然だ。
「ウザってぇな!」
スープレイガはクレシアの剣を思いっきり弾き返した。
このままでは埒が開かない。一気に勝負を決める。
スープレイガは剣を上に上げた。すると、相手も剣を上に上げた。
「「煌々と照らせ!【黄金汪魔】!」」
スープレイガとクレシアは【悪魔解放】を発動した。
体中には金色の薄い鎧が纏われており、四肢は鋭利な刃物のような鋭い爪が生えていた。
さらに、髪は伸びており、地面に髪が付きそうな勢いであった。頭には金色の王冠の様なものがついていており、牙も生えていた。更には尻尾が生えていた。
「やっぱり同じ姿かよ…」
「そういう事だ」
そう、二人は全く同じ姿をしていたのだ。
どうやら本当にクレシアはスープレイガの【悪魔解放】を模倣しているようであった。
スープレイガとクレシアは全く同じタイミングで地面を蹴った。そして、拳を交えた。
スープレイガの【悪魔解放】は主に体術を使用する。
単純な殴り合いになるのは必然である。
「【光刃刀】!」
スープレイガは両手足から光の刃を飛ばした。一発一発が解放前の【光刃刀】の数十倍の威力を誇る。
クレシアも同様に【光刃刀】を繰り出した。
力はほぼ互角であったが、クレシアが押していた。
「くっ!」
スープレイガは少しダメージを受けていた。
更に、クレシアは回し蹴りをし、スープレイガの顔面に蹴りを入れ、スープレイガを吹き飛ばした。
完全にクレシアが押していた。スープレイガは一方的にやられていた。
「この程度か?」
「抜かせ!」
スープレイガの発言が強がりにしか聞こえなかった。
クレシアは更に攻撃を続ける。
どうやらクレシアは模倣した能力を瞬時に使いこなせるようだ。
クレシアは多くの者たちの技や力を模倣している為、相手の動きを予測する事に非常に長けているのだ。
それにより、スープレイガの能力を使いこなすだけでなく、スープレイガの動きや癖を完全に読み切っているのだ。
スープレイガは右手でパンチを繰り出すがクレシアは動きを完全に読んでおり、スープレイガの攻撃を躱し、逆にスープレイガに右フックを脇腹お見舞いした。
「が!」
スープレイガは血を吐き吹き飛ばされた。
クレシアははまだまだ余裕と言った表情をしていた。圧倒的にクレシアが押していた。
「この霊圧の感じ…更に精霊の力…お前…イシュガルドだな…」
スープレイガが立ち上がりながらそう言った。
イシュガルドの霊力は人間の中でも特異な霊圧を有している。そして、精霊はこの世界中に存在する情報体である。
その精霊を操る際に術者の周囲に霊力の塊が散布しているのだ。この霊力の塊の集団は眼に魔力や霊力を集中する事で見る事が出来る。
「? だから何だ?そうだ、私はイシュガルドの人間だ」
「イシュガルドはヘレトーアに殲滅させられたんだろ?何でてめぇはヘレトーアに味方をしている?」
「俺はイシュガルドから抜け出した人間だ。私はイシュガルドの風習が好きでは無かったのでね」
「風習?」
「イシュガルドには人柱の風習が存在した。まぁ、第三次大戦終結頃は廃止されていたそうだがな」
クレシアの言う人柱とはイシュガルドには『二十二式精霊術』を使える人間を町の中央に縛り付け、焼き殺し、人柱とする風習があった。
人柱にする事により、街を神が守ってくれると考えていたのだ。しかし、根拠が無い風説であったし、その頃は民の者たちの風習の反対意思も強くなっていた為、プロテアの父、ジャイアが完全に人柱の制度は撤廃させた。
だが、クレシアはその頃、人柱に選ばれていた。それに反抗し、クレシアの両親がクレシアを逃がした。
しかし、クレシアの両親はそれによりイシュガルドに殺され、クレシアはイシュガルドに憎悪を抱いた。 やがて、クレシアはヘレトーアに行き、アラルガンドに認めてもらい、イシュガルドのヘレトーア軍人となった。
勿論、彼はイシュガルド殲滅にも加担していた。
「成程な…イシュガルドにそんな風習があったんだな…イシュガルドも一枚岩じゃ無かった訳だ」
「一枚岩な組織など存在しないさ」
「違いないな。ふぅ~、これで心置きなくお前を殺れるぜ」
「その言い方だと、今までは本気を出せていないと言っているように聞こえるのだが?」
「さぁ?どうだろうな」
スープレイガがニヤリと嗤った。
スープレイガはクレシアに対する同情など一切無かった。するだけ無駄であるしスープレイガにとってはクレシアの今の心情などどうでもいいのだ。
大事なのは何故、ヘレトーアの敵である筈のイシュガルドがヘレトーア側に協力しているのか、それを知る事こそがスープレイガにとって重要なのだ。
恐らく、クレシア以外にも似たような者は何人かいるのだろう。だが、スープレイガは確信していた。ヘレトーアもかつてのイシュガルドと同じ穴の狢だという事を。
ヘレトーアは宗教大国だ。人柱は神に供物を与える事と同義である。ヘレトーア側がそれをやっていても何ら不思議では無い。人柱は昔から人間が神とコンタクトを取る単純かつ適切な方法は人柱を使う事だ。
ただし、やり方を間違っていたり、既に存在しない神に対してやっても無意味であるが、実際、人柱を使って神と交信したというケースもある。
しかし、人柱は非常にリスクが高い交信方法でもある。人柱の怨念があまりにも強すぎた場合、その怨念が恨みの相手に襲い掛かり、最悪の場合、街一つ消し去る危険性すらある。
実際、その様なケースがヘレトーア内でも起こっていた為、これを危惧してイシュガルドは人柱の制度を止めたのだ。無論、それだけが理由では無い。
プロテアの父、ジャイアは最初から人柱の制度を廃止しようとしていた。イシュガルドの人々は中々納得してくれなかったが先に言った事件がヘレトーア内で起こった為、ジャイア以外のイシュガルド人は人柱廃止に了承したのだ。
「貴様の動きは見切ってる!私はヘレトーアの正義の為に戦う!」
「ヘレトーアが絶対的な正義って事か?」
「そうだ!」
「ヘレトーアがイシュガルドと同じような事をしていてもか?」
「それは無い!ヘレトーアこそが、我々が正義だ!」
クレシアはそう断言した。クレシアはアラルガンドに救われた。彼がいなければクレシアは野垂れ死んでいただろう。
クレシアはヘレトーアこそが正義であると信じている。自身を救ってくれたヘレトーアを。
「そうか、まぁ、何を信じるかは人それぞれだからな。俺には関係無ぇな」
スープレイガはそう言った。スープレイガは神など、正義など信じてはいない。
何故なら正義とは曖昧なものだから。その人によって無限に変化するものだから。それだけでは無い、時代の流れやその場の空気やノリなんかでも正義は変わる。
だからスープレイガは正義など信じない。神も同様だ。この世界が気まぐれであるように神も気まぐれだ。
神を信じればみんな救われるなら、皆幸せだし、不幸な事など起きない。神にすがった所で自身が何とかしなければ意味が無い。
そう、スープレイガが信じる唯一絶対の正義、それは己自身であり、自身を支配しようとする者を叩き潰し最強となる事。それこそがスープレイガの絶対的正義だ。
「これで終わらせる!【光速魔爪】」
クレシアは両手足に光の爪を出現させ、姿が掻き消えた。
【光速魔捜】は両手足に光の爪を展開させ、超光速で移動し、相手を叩き潰す技だ。
文字通り、スープレイガの必殺技である。スープレイガは辺りを見回したがクレシアの動きが速過ぎて目では終えなかった。
クレシアがスープレイガに襲い掛かる。スープレイガは辛うじてクレシアの攻撃を受け止めた。スープレイガは全身にダメージを負っていた。
クレシアはスープレイガの死角に入り込んだ。これで止めだ。
-終わりだ!
クレシアがスープレイガの頭に爪を突き立てた。
「こんなもんかよ?」
「!?」
スープレイガは後ろを振り返りクレシアの右手を掴んでいた。
クレシアは今起こっている状況が理解できなかった。
「お前が俺の動きを先読み出来るって事は俺も同じ事が出来るとも言える。それにな…」
スープレイガはクレシアを睨み付け、話を続けた。
「俺の力は俺のもんだ。てめぇ如きが扱えるか!」
スープレイガは右手に【光刃刀】を出現させ、クレシアを切り裂いた。
クレシアの身体から血が迸る。
「な!?」
クレシアはスープレイガの左手を振り解き、距離を取った。さっきの一撃でかなりのダメージを負っていた。
クレシアの足元に血だまりが出来ていた。
「人の力をパクるだけ。他人の正義に縋るだけ。だからてめぇは弱ぇんだよ!」
「何だと…!」
「事実だろ?お前の話を聞く限りじゃ、お前は自分の足で歩いてねぇだろ!誰かに助けてもらって!縋って!奪って!誰かの脛かじって生きてるだけだろ!」
スープレイガはそう言った。そう、スープレイガはクレシアが気に入らなかった。
何故ならクレシアは縋っているだけだからだ。自分の足で歩いていない。他人の力を模倣してそれを自身の力と思いあがっていた。
アラルガンドの正義に縋っていた。そう、クレシアが口にしたのはアラルガンドの正義であって自分の正義では無い。
他人の事しか信じられない者は、他人に縋るだけの者は非常に脆く、弱いものだ。
「私は!ヘレトーアの為に戦っているんだ!貴様に何が分かる!」
「んなもん知るか!知りたくも無ぇ!てめぇみてぇに醜く生きてる人間の事なんざな!」
スープレイガは一人で今まで歩んできた。一人で戦い続けた。
誰かに縋ったり祈ったりなど、一度もしてこなかった。
別にスープレイガにとっては誰が何を祈ろうが縋ろうが知った事では無いのでそれ自体は気に喰わないなどという事は無い。
だが、クレシアは祈って縋っている自分に酔っている。これはスープレイガにとって非常に気に入らない事だ。
自分を信じる事が、語る事が出来ない者はいつまで経っても弱く、脆いのだ。
「黙れ!」
クレシアの姿が再び掻き消えた。そして、スープレイガに攻撃を仕掛けるがスープレイガは悉く、クレシアの動きを読み、【光刃刀】のみで攻撃を防ぎきっていた。
スープレイガはやがて溜め息を吐き、遂には【悪魔解放】を解いてしまった。
-模倣する相手か…面白い能力かと思ったが…飽きたな。術者がクソザコじゃあな…
スープレイガは剣を構え、眼を閉じた。
眼で追っても意味が無い。感覚を研ぎ澄ませ動きを見切る。
クレシアはスープレイガに攻撃を繰り出した。右足と左手の爪で攻撃をしてきた。
スープレイガは攻撃を躱し、すれ違い様にクレシアの胸を切り裂いた。
「馬鹿な!?」
「だから言っただろ?お前じゃ俺には勝てねぇ」
スープレイガは【悪魔解放】を解いている状態にも関わらず、クレシアの動きを完全に読み切っている。
更に、攻撃を加えてダメージまでも与えている。今のスープレイガは魔力と身体能力はクレシアに遥かに劣るというのに逆にスープレイガはクレシアを圧倒していた。
「く…クソ!」
クレシアはスープレイガに攻撃を続けるが明らかに動きが鈍っていた。血を流し過ぎた。そのせいで動きが鈍っている。
スープレイガもかなりの深手を負っているがそれでもクレシアの動きに対応出来るだけの体力は残っていた。
総合的に見て、スープレイガがクレシアを完全に圧倒している。
スープレイガが【悪魔解放】を解いたという事は使うまでも無く倒せる事を確信したという事だ。
「どした?動きが鈍くなってんぞ?」
「舐め…やがって…!」
クレシアは攻撃を止めなかったが攻撃がスープレイガに全く当たらなかった。
逆にスープレイガの剣は確実にクレシアを捕えていた。
「終わりだ。【光刃刀】」
スープレイガはクレシアの左肩をバッサリと切り裂いた。その瞬間、クレシアから鮮血が噴き出した。
クレシアは虚ろな目をしていた。その時、クレシアが何を思っていたのか、スープレイガにとってどうでも良かった。
「くそ…」
クレシアはそう言いながら、倒れた。
「ここの地形の構造は把握した。後は…」
一夜はそう言いながらパソコンを操作していた。
一夜はパソコンでここの地形を把握していたのだ。パソコンを媒介とし、この地形の情報を収集していたのだ。
どう考えてもパソコンが出来るような事では無い。
一夜のやっている事のヤバさを唯一理解していたプロテアは驚愕のあまり顔を強張らせていた。
「あなた…本当にただの人間なの?」
「どうかな?っと…見つけた!あそこに「歪み」があるよ」
一夜が指さした方に蒼たちは向かった。見た所、何も無いようだが。
「本当にここにスープレイガはいるのか?」
「いるかどうかは分からないけど、ここに空間の歪みがあるのは確かだよ」
一夜はそう言って地面に触れた。すると、地面がひび割れ、黒い空間が出現した。
「これは!?」
「恐らく、スープレイガはこれに引きずり込まれたんだろう」
一夜がそう言った。
一夜がやった事はただの情報収集などでは無い。そんな領域の話では無い。まるで、一夜そのものがこの地球と繋がっているようであるとプロテアは思った。
プロテアがそう考えているうちに黒い歪みから二つの影が出現した。その影は姿を変え、人の形となっていた。
「スープレイガ!無事だったか!」
「ああ」
スープレイガは立ち上がった。見た所かなりの深手を負っていた。もう一人の男は銀髪の短頭であり、褐色の肌の男であった。
恐らく、この男が蒼たちを襲撃し、スープレイガを別の空間に引きずり込んだ男だろう。
「こいつは?お前がやったのか?」
「ああ、ヘレトーアの軍人だ」
「え…でも、この人…見た所…」
「ああ、イシュガルド人だ」
一夜の疑問にスープレイガは答えた。どうやら本当にイシュガルド人であったようだ。
「けど、イシュガルドはヘレトーアに恨みがあるんじゃねーのかよ!?」
インベルが叫んだ。蒼もこれには驚いているようだ。美浪や一夜も同様だ。しかし、プロテアはそこまで驚いているようには見えなかった。
「あんま驚いてねぇ所を見ると知ってるんだな?」
「ええ、少しはね」
スープレイガの問いにプロテアが答えた。
「どういう事ですか?」
「イシュガルドは昔、神に供物を与える為に人柱の風習があったのよ。私の父がこの風習を撤廃したんだけど、この風習に恨みを持っている人たちは結構いて、そう言った人たちはヘレトーアに吸収されてるって事は聞いた事があるわ」
プロテアはそう答えた。
やはりプロテアもこの事は知っていた様だ。だが、プロテアの様子を見る限り、知ってはいたが実際に会うのは初めての様であった。
「しかし、ヘレトーアは思った以上に厄介な国みたいだね。事実上、三大宗教を一つに統合している国という事だ。攻め入るのは容易じゃ無いね」
そう、セクラム教、セイント教だけで無く、イシュガルドの人間も少数ではあるがヘレトーアにいる。
それは事実上、ヘレトーアには自国の全ての兵力を所有しているという事だ。
恐らく、この国の魔族たちもヘレトーアは一つに統合している。
ヘレトーアの最も恐ろしい所はその全てを一つにする統率力と言える。
「で?こいつはどうする?」
「! 人の気配がする。どうやら、砂漠とは言え、ある程度軍の者がいるようだ」
一夜がパソコンを弄りながらそう言った。
どうやら、ここに援軍が来るのも時間の問題の様だ。ここに留まる訳にも行かない。
「こうなったら一刻も速く砂漠を抜けるよ!」
一夜がそう言うと皆はすぐにこの場から去って行った。
「哀様に続き、クレシア様まで…」
どうやら軍の者が蒼たちがいた場所に到着したようだ。
だが、そこにいたのは血まみれで倒れているクレシアだけであった。
「方角から考えても間違い無く向かっている先は『精霊城』だ。アラルガンド様とルバート様にも報告を入れねば」
男がそう言うともう一人の男がクレシアを担いで近くにあった車に移動させた。
To be continued




