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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第六章】ヘレトーア進軍篇
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【第六章】ヘレトーア進軍篇Ⅳ-接待は死ぬほど大変-

 蒼たちは町に次の町であるセティアについさっき到着した。この街に行くのに丸一日かかった。

 予想外に距離があり、ここまで来るのに時間がかかってしまったのだ。


「そろそろ着く筈だよ」


 一夜が蒼たちをナビゲートしていた。

 スマホの地図機能を使いっていたのだ。


「それにしても、この街は夜なのに賑やかだな」

「十二支連合帝国にも渋谷なんかはこんな感じだよ?」

「USWも夜の方が賑わう」


 蒼が夜の街に驚いていると一夜とスープレイガがそれぞれそう言った。

 どうやら、彼らにとってはそこまで珍しいという訳では無いようだ。

 というか、驚いているのは蒼だけのようであった。美浪もプロテアも大して驚いてはいなさそうであった。

 因みに神聖ローマは夜に賑わう町など殆ど無い。年に一度、夜に祭りがある時以外は基本的に夜は静かである。

 国によって文化には色々差があるんだなと蒼は思った。因みに蒼は渋谷には行った事が無い。三年もトウキョウにいたというのに。


「今日はここでホテルを探して止まろうか」

「そうだな」


「そこの方々!いい場所があるよ!」


 ホテルに行こうとしていたら知らない男に呼び止められた。

 蒼たちは「またか」と言った顔をした。

 しかし、今までの頭のおかしい宗教団体とは雰囲気が違っていた…ように見えた。


「いい場所って何ですか?」

「疲れた時に心も体もヘヴン出来る場所があるんですよ!!」

「何か発言が嫌らしいわね」


 プロテアは男に若干引いていた。美浪は平気そうであったが。


「ここからすぐの場所ですから!ではでは!」


 そう言って男は去って行った。


「何だありゃ?まぁ、どんな所か興味あるし、行ってみるか?」

「はぁ?何言ってやがる時神!そんな下らねぇ場所に行く暇があるんだったら先に進んだ方が良いだろ!」

「いやけど、どんな所かは気になる所ではあるね…まぁ、息抜きも大事さ!」


 一夜はノリノリでそう言った。楽しそうである。

 美浪もプロテアも少しくらいならいいと思ったのか特に反対はしなかった。


「ラブホとかソープだった場合はぶち壊すわ」

「プロテアさん、物騒な事言わないでくださいマジで」


 殺意に満ち溢れたプロテアの言葉に一夜は恐れを抱いた。

 プロテアの場合、マジで店を壊しそうなので怖いものである。

 プロテアは性的な事には寛容なのかと一夜は思っていたようだがラブホとかソープを嫌っている辺り、そう言う訳ではなさそうだ。


「じゃあ行ってみるか」


 蒼たちは店に向かった。

 店に到着するまではそんなに時間はかからなかった。

 店はかなりド派手なライトが照らされており、イケメンの写真が張り巡らされていた。看板には「FLOWER」と書かれていた。いや、これって…


「ホストクラブじゃねーか!!!」


 蒼は声を大にして叫んだ。

 いくらこういった知識が疎い蒼だからって流石にホストクラブは知っている。

 ホストクラブは要するにキャバクラの逆バージョンであり、暇を持て余した女性を男性がもてなす場所である。

 言うまでもないが蒼と一夜、スープレイガといった男性が来る場所では断じてない。


「これって、私たち、入ってもいいんですかね!?」

「美浪!?何言い出すんだよ!?」

「私、ホストクラブ興味あったんですよ!漫画とかでもそういうネタあったし!どんな所か気になるな~」

「…マジかよ…」

「なぁ、時神、控え目に行って霧宮は頭おかしいと思うんだが…」

「気にするな。少なくとも俺も今はそう思ってるから」


 見ての通り美浪は興味津々である。まぁ、美浪も女性だ。こういったものに興味があるのは不思議ではないかもしれない。

 一方、プロテアは美浪とは正反対の反応であり、結構ドライというか、冷めた反応をしていた。


「プロテア、君はこの店の事を知っているかい?」

「そもそもこの街は夜の町と言われててこの手の店は多いわ。ラブホもソープも結構あるわ。キャバクラもあるし、今私たちが目の前にあるようなホストクラブも当然あるわ」

「ああ!俺!お腹が痛くなってきたぞ!?じゃあ、お前らはここでごゆっくり…」


 蒼がそう言ってどこかに行こうとするとプロテアが蒼の肩をガッシリと掴んだ。


「フローフル?どこに行くの?」

「嫌だなぁ…プロテアさん。おなかが痛いからトイレに行くだけじゃないですか~?」

「あなたが行こうとしてるその場所…ソープがある場所なんですけど?」

「何を言っている?俺がそんな所に行く訳が無いだろう。大丈夫、すぐに戻ってくるから」

「何一人でスッキリしようとしてるのかしら?私がいる内はそんな事許されると思ってるの?」


 プロテアが蒼に対して鋭い眼光を向けていた。

 蒼の浅ましい考えなど、プロテアにとってはお見通しのようだ。

 これ以上隠すのは無理と判断した蒼は開き直り、力尽くで「楽園」に行こうとした。


「うおおおおおおおおおおおお!!!」

「逃がさないわ!!」

「うるせぇ!俺は何としても行くんだ!」

「行かせるわけ無いでしょ!?あなた!堕ちるつもり!?」

「堕ちるもクソもねぇ!俺は…卒業するんだ!!!」

「馬鹿なの!?あなたは!そんな事で童貞卒業しても虚しいだけよ!止めなさい!!童貞から素人童貞にクラスチェンジするだけよ!むしろ堕ちるのよ!?あなたは何を馬鹿な事を言っているのよ!?私がそんな事…断じて許さないわ!!」


 プロテアが必死で蒼を止めた。

 蒼とて年頃の男子である。そういうのに憧れる時期もあるだろう。

 しかし、プロテアはそんな不純な事を許せなかった。


「男には堕ちると分かっていても「楽園」を求める時があるんだあああ!!」

「そんなの認めない!認めないわ!!」


 プロテアが必死で蒼を引き止めている。その光景はシュール以外の何物でもなく、一夜は一人でクスクスと笑っていた。

 スープレイガはあそこまで脱童貞に必死になっている蒼の姿に憐れみを覚えていた。不憫だ、不憫すぎる…


「悲しい…悲しすぎるぜ…時神…!」


 スープレイガは蒼を哀れむ様にそう言った。スープレイガにここまで言わせるとは、今の蒼にはそれほど、鬼気迫るものがあるという事だろう。

 一方、美浪はこの状況をどうすればいいか分からないのかただただ見ているしか無かった。


「クッソおおおお!!抜け出せねぇえええええ!!!」

「いい加減に…しなさい!!!!」


 プロテアが蒼に思いっきり頭突きをした。

 あまりの石頭っぷりに蒼は一瞬気絶しかけたが、どうにか意識を保った。しかし、そのまま倒れてしまった。


「何するんだよ!?」

「あなたが聞かないからでしょ!?それに……あなたに…は…わ…………が……いるし…」


 プロテアが恥ずかしそうに何かを言っていたが蒼には聞き取れなかった。

 一夜と美浪、スープレイガにすら蒼は軽蔑の目を向けられていた。


「え?何で俺はお前らにそんな眼で見られてるんだ?」

「蒼…まったく君は…こればっかりは養護できないよ」

「蒼…ニブチン」

「時神…お前バカだろ?」


 色んな人に言いたい放題言われたが蒼は気にしない事にした。


「プロテア?行ってみようよ!ホストクラブ!」

「興味津々ね…まぁ、ちょっとくらいなら…」


 プロテアは美浪の勢いに押され、行く事にした。だが、蒼と一夜とスープレイガはホストクラブに入る事は出来ない。

 いや、出来ない事は無いのかもしれないが、入るのは些か抵抗がある。

 蒼たちは仕方無く近くにあったキャバクラに行く事にした。







 美浪とプロテアはホストクラブの中に入って行った。

 中は豪勢であり、いかにもお金持ちが行きそうな場所である。

 イケメンたちが沢山おり、女性たちがもてはやされていた。


「何か…気持ち悪いわね」

「まぁ…派手ではありますね…」


 プロテアは周囲の光景に軽くドン引きしていた。

 美浪はまだマシであったが確かにこの光景には驚いていた。


「お嬢さん方、こちらへどうぞ。二人ともお美しい」


 スーツ姿の男がそう二人に行ってきた。

 プロテアはあまりの気持ち悪さに少し、顔を曇らせた。


「プロテア?大丈夫ですか?」


 美浪は満更でも無い感じであったようだが、プロテアは心底気持ち悪そうであった。

 どうやら、プロテアはホストクラブにいるような男性は苦手なようだ。


「ええ、大丈夫よ…行きましょう…」


 …なんか無理している様にしか見えなかった。

 豪華なソファが置いており、プロテアと美浪は席に座った。


「何にする?僕的にはこれがお勧めだよ?」


 …と言って、メニュー表にかなり値段の高い酒に指を指した。

 ぼったくりだなとプロテアは思った。まぁ、この手の店は基本的にメニューはぼったくりであり、金を貢がせるのが目的みたいな所がある。

 まぁ、向こうからすればそれが商売な訳だし、こういった場所を拠り所としている人もいるので一概には否定出来ない。

 プロテアもメイドカフェで働いていた時期があったし、そう言う意味では似たようなものなのかもしれない。

 だがやはり、プロテアは少なくとも今はホストクラブの魅力が分かりそうにない。

 しかし、愛想笑いはやはり上手いモノだなとは思った。

 この手の店では笑顔は非常に大事である。身だしなみも勿論そうだが、笑顔も非常に大事だ。それはプロテアにも理解出来た。


「え?じゃあ、お言葉に甘えて…」

「え?いいの?」

「まぁ、一つくらい頼まないとなんか失礼ですし…」

「まぁ、そうだけど…」


 美浪は未成年ではあるが、酒を飲む機会は家の都合上多かったりするし、そもそも妖怪は十三歳の時点で成人扱いであり、飲んでもそこまで問題無かったりする。

 因みに、美浪はそこそこ酒は強い。なので少し飲んだだけで吐いたり記憶が吹っ飛んだりする事はまず無い。


「ねぇ?どこから来たの?可愛いね」

「そうですか?えへへ…」


 美浪は照れたようにそう言った。確かに美浪は可愛い部類に入るが…流石にチョロ過ぎないかとプロテアは思った。

 プロテアもホストクラブに行くのは初めてだが、あまり楽しいものでは無かった。

 変に年を喰っているせいか、それとも自身もメイドカフェでバイトしていたからこの手の店に耐性が付いてしまっているのかは分からないが、プロテアはホストクラブの魅力があまり分かりそうになかった。

 プロテアは五十年以上生きている人間だ。にも関わらず、若々しい見た目を保っている。

 彼女が五十を超えていると言っても嘘だと言われるだろう。プロテアの見た目はどう見ても女子高生のそれである。

 これはプロテアが特殊な術を使っているとかそう言う訳では無く、イシュガルドの人間は普通の人間より成長速度が遅いらしく、そのせいで若々しい姿なのだそうだ。


「ねぇ、元気無いね?大丈夫かい?」


 どうやら、プロテアはかなり暗い顔をしていたようだ。

 美浪もかなり心配していた。


「…大丈夫よ」


 そう言って、プロテアは目の前にあった酒を飲んだ。

 どうやら、プロテアが考え事をしている間に酒が来ていたようだ。

 美浪もそこそこ飲んでいたようだ。結構な量を飲んでいる筈だが、美浪は一向に酔って無かった。

 プロテアも年齢的には酒が飲める年だ。飲んでも問題無いと美浪は思ったのだがー








 蒼たちはキャバクラに来ていた。

 しかし、蒼も一夜もどうも落ち着かない様子であった。初めて来た場所である為、緊張していたのだろう。

 しかし、スープレイガのみは余裕の表情をしていた為、蒼は妙に腹が立っていた。


「時神と苗木はいつまで固まってんだよ?」

「うるせぇ!!」

「返す言葉も無い…」


 蒼も一夜もこういう場所は行きたくないなと思った。


「うわああああああああああああああああああああ!!何だぁ!?」


 外からそんな声が聞こえた。蒼たちは外の様子が気になったのですぐに外に出た。








 時は少し、ほんの少しだけ遡る。

 プロテアが酒を飲んだ瞬間、プロテアはバタンと倒れた。


「え!?プロテア!?大丈夫ですか!?」


 美浪は慌てて声を上げた。

 男たちもかなり焦った表情をしていた。どうやら、プロテアは酒にかなり弱かったらしい。


「お嬢さん!大丈夫ですか!?」


 男がプロテアの肩を揺らす。すると、プロテアは目を血走らせながら肩を揺すった男の頬を殴り飛ばした。


「はっぽおおおおおおおおおん!!!」

「何気安く触ってんだゴラァ!触ってんじゃ…ねぇええええええよ!」


 プロテアの顔は真っ赤になっていた。

 プロテアの眼は焦点が合っておらず、かなりヤバそうであった。


「おいお前…」

「ひぃいいいい!!!」


 プロテアが男を壁ドンして顔を近付けた。

 普段のプロテアでは絶対に使わないような汚い言葉を使っていた。

 男はあまりの恐怖に恐れおののいていた。

 いきなり男が殴り飛ばされてはそうなるのも無理は無いだろう。


「私とジャンケンしろよ…ヒック…私が負けたらぁ…ヒック…一枚一枚脱ぐからぁ…お前、負けたら一枚一枚脱げや…皮をな…」

「いやいや!全然フェアじゃねぇええええ!!」


 男はプロテアの横暴な発言に突っ込みを入れずにはいられなかった。

 しかし、プロテアは問答無用でジャンケンをしてきた。


「ジャンケン…ポォォォオオオオオオ(ノ・ω・)ノオオオォォォンンンン!!!」


 プロテアはグー、男はチョキであった。


「あっち向いてぇぇぇ~~、ほおおおおおおおおおおおおいいいいいいいいい!!!」


 プロテアは人差し指で男を殴りつけた。


「これもう罰ゲームううううううううううううううううううう!!!!!」


 そう言って男は吹き飛ばされてしまった。

 そして、先ほどの男と同様、気絶してしまった。

 周囲の女性たちは恐れおののいて逃げ出してしまった。

 しかし、流石は鍛え抜かれたホストたちである。プロテアの滅茶苦茶な言動でもまだ逃げずに立ち向かっている。

 ホストとしてのプライドがそうしているのかは分からないが今のこの惨状が地獄絵図である事は間違いない。


「プロテア!!落ち着いて下さい!」


 美浪は止めようとするが、プロテアは近くにいた男をまた捕まえ(物理的な意味で)ジャンケンを強要した。


「んじゃもう一回行っくよ~♪」


 今のプロテアの声は非常に可愛らしいのだが、今のこの地獄絵図とマッチして無さ過ぎて怖さに拍車が掛かっていた。

 男は屈さずにジャンケンに興じた。


「ジャンケンポン♪」


 プロテアがパー、男はチョキであった。

 男は「好機!」と言った顔をしていた。男は指を上に突き上げた。


「いっよっしゃあああああああ!!!あっち向いて…ほおおおお…」

「ポッキンチョッ♪」


 プロテアがそう言って男の人差し指をへし折った。


「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!どっちにしても負けてるううううううう!!!」


 更にプロテアは男を蹴り飛ばした。

 男は白目を向いて気絶していた。

 流石にこれ以上被害が出るのはヤバい。美浪はプロテアにくっ付き、止めようとした。


「止めてください!プロテア!!落ち着いて!!」


 美浪は二度とプロテアに酒を飲ませてはならないと思った。

 必死で美浪はプロテアを止めるがプロテアは激しく抵抗した。

 更に、プロテアは霊力を暴発させ、地面に鉄の針が出現した。


「話せゴルウアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 プロテアはの暴走は止まらない。

 美浪は自身の浅はかさを呪った。プロテアがまさかここまで酒に弱いとは…というより、プロテアがここまで酒癖が最悪だとは思わなかった。

 美浪ではプロテアの霊力の暴発を止める事は不可能だ。店がどんどん潰れて行く…







「何だこりゃあ!?」


 スープレイガは声を上げてそう言った。

 先程、ホストクラブがあった店は鉄屑になっていた。

 蒼と一夜はこれをやったのが誰かは見当がついていた。


「プロテアだね…多分…」

「はぁ!?あれ…あの女がやったのか!?」


 噂にはプロテアの力は聞いてはいたが、スープレイガは驚きを隠せない様子であった。


「あいつ…マジで店壊しやがった」


 蒼が顔に手を当ててそう言った。

 蒼たちは取り敢えず、中に入って行った。

 中に入るとすぐに美浪とプロテアを見つけた。

 何やら、美浪はプロテアの背中をさすっているように見える。そして、プロテアは口から「キラキラ」を吐き出していた。


「え?なにこの状況?」


 蒼は間の抜けた声でそう言った。


「うえぇ~~」

「大丈夫ですか?プロテア…」


 プロテアはかなり気持ち悪そうにしていた。

 蒼たちは全く状況が掴めなかった。一体全体何が起こっているのやらである。


「おい!?ここで何があった!?」

「…はぁ~、ややこしい奴が来た」


 現れたのはインベルであった。






「すみませんでした…」


 プロテアは頭を下げて店の人に謝罪した。

 プロテアの後ろに蒼、美浪、一夜、スープレイガ、インベルがいた。

 まさか、ここまでプロテアの酒癖が悪いとは誰が思おうか…

 因みに店は元通りになっている。酔いから覚めたプロテアが何とかして直したのだ。終始気持ち悪そうだったが…

 今でもかなり気持ち悪そうだった。プロテアが暴走してから一日近く経っているにも関わらず、未だに二日酔いが続いているようだ。


「店員が四名、怪我をしています…幸い、明日には復帰できそうなんですが…今日は無理なのであなた方に手伝ってもらいます」


 店員の人がそう言った。

 因みに死者は出ていなかった。不幸中の幸いである。

 それに、明日にはプロテアが絞めた人たちも復帰出来るとの事だ。現代の医療技術に感謝である。…そして、散っていった四人のメンタルにも感謝である。

 下手をすればずっとここで働かされる可能性すらあったのだ。


「それと…今日はとても大事な日なんですよね~」


 店員の男が恐る恐るそう言った。

 どうやら、今日は何か大事な事があるらしい。そんなタイミングでこの状況だ。最悪にも程があるだろう。


「どういう事ですか?」


 一夜が尋ねると店員の人はすぐに答えた。


「今日は…セイント教神官、ルバート様がこの店に来るんですよ」


 そう言った瞬間、全員の顔が一気に険しい顔になった。

 それもそうだ、セイント教神官という事は、事実上、セイント教の長がこの店に来るという事だ。

 ヤバいなんてもんじゃない。下手をすれば速攻で打ち首もんである。

 蒼たちの顔は真っ青を通り越して真っ黒になっていた。もう、お先真っ暗である。


「おいおいおいおいおいおいいいいいいいいいいい!?とんでもねぇ事になってんじゃねーかあああ!!!」


 蒼がたまらず叫んだ。それもそうだ、いきなりそんな大物が来るなんてヤバすぎる。

 蒼たちは浄化作戦を探る為にヘレトーアに来た。しかし、相手からゲットゴーイングしてくるとは誰も思わないだろう。

 これは好機チャンス…なんておめでたい考えが出来る程、蒼たちは楽観者では無い。

 むしろ、これはヤバい。蒼たちはこれから敵になるかもしれない相手を接待しなければならないのだ。

 こんな場所で浄化作戦の事を聞き出す事なんか出来ないし、下手な事をすればここの従業員やホストたちが処罰される可能性すらある。

 蒼たちだけならどうとでもなるかもしれないがただでさえここの店で盛大にやらかしてる蒼たちは(主にプロテアのせい)余計に下手な事は出来ない。


「まぁ、基本的には私が接待します。ですが、私一人では対応出来ない可能性もあります。その為に、ヘルプを二人つけたいです。それ以外の人たちはヘルプのヘルプでお願いします」

「いや、ヘルプのヘルプってそれただの置物…」


 インベルが突っ込むが話はそのまま進んだ。


「先に自己紹介しておきますね、私はアミューズ・テレステと申します。今日はお願いします。言っておきますがやらかすのだけは止めてくださいお願いします」


 黒髪のイケメン…アミューズがそう言った。

 その後、蒼たちも自己紹介をした。

 取り敢えず、ここはホストクラブである。となると選出されるのは必然的に男二人になる。


「で?誰がホストをやんだよ?」


 スープレイガが尋ねた。こういう事は間違い無くスープレイガは嫌いな筈だが、スープレイガは意外と冷静である。


「スープレイガさんと苗木さんでお願いします。残りの方はヘルプのヘルプでお願いします」


 スープレイガは露骨に嫌そうな顔をした。そりゃそうだろう。


「だから、ヘルプのヘルプって何だよ!?」


 インベルは訳の分からないテンションでそう言った。

 こればっかりは蒼たちも同意せざるを得なかった。

 それに、スープレイガと一夜という選出はいかなものかと蒼は思った。

 確かにスープレイガはワイルドな感じがあり、見た目の受けは良さそうだが、性格は粗暴である。

 一夜は一夜でスープレイガよりは粗暴な感じは無く、見た目も整っている方とは言えるが、女性慣れは全然してない。というか、デリカシー皆無である。

 しかし、素直に反論出来ない事も事実だ。蒼はお察しだし、インベルもこういう事は苦手なのだ。


「それでは皆さん!頑張って行きましょう!」


 アミューズがそう言うと皆はやけくそ気味に声を上げた。


 着替えが済み、蒼たちは全員スーツ姿であった。

 蒼は黒を基調とした執事風のスーツであり、シャツは青色であった。蒼もなんだかんだ言って顔立ちは整っているので決まってはいるのだが、なんかコスプレ感が凄かった。

 インベルは蒼とは対照で白色のスーツでシャツは赤色であった。普通の蒼と違って特にコスプレ感は無かった。これはこれで決まっている。

 一夜は黒色のスーツでシャツは灰色であった。一夜の落ち着いた雰囲気が強調されており、知的な感じも出ている。いつもと同じようで違うような感じであり、ミステリアスな感じが出ている。…雰囲気だけだけど。

 スープレイガはインベルと同様、白色のスーツであったが、執事風であり、シャツは黒色である。スープレイガのワイルドな感じが出ていた。


「皆さん!よく似合っていますよ!」


 アミューズがそう言った。

 しかし、蒼たちはあまりスーツを着た事が無いので、結構窮屈に感じていた。

 美浪とプロテアもいた。二人とも黒のスーツ姿であった。美浪は髪をオールバックにしており、プロテアは髪を右に寄せていた。

 二人とも容姿が整っている為か、男装してもそこまで違和感がなかった。…美浪は若干、慣れて無い感じがするが。


「ルバート様が来るまでは通常通り行いますので、皆さん、頑張って行きましょう!」


 こうして、波乱の接待が始まったのである。







 まずは勧誘だ。暇を持て余す女性たちを多く連れ込まなければならない。


「あの、ちょっといいですか?」


 プロテアが女性二人に声を掛けた。


「この人…かっこいい…」


 一人の女性がそう言った。流石プロテアである。


「この店に来ませんか?我が自慢のイケメンたちが集っています」


 プロテアがそう言って手をホストクラブに手を差し出し、ホストクラブ「FLOWER」の扉が開いた。

 そこにいたのは金髪リーゼントのワイルドな感じの男と灰色の髪をしたミステリアスな雰囲気を醸し出す男であった。二人共バラの花を持っていた。


「ようこそ、「FLOWER」へ」

「今夜は返さないよ?」

「さぁ、夜のパーリナイの始まりだ」

「夢の世界へご招待…」


 何だろう、蒼たちは二人のキザな言葉に若干気持ち悪さを感じた。

 というか、二人は言葉の意味を分かっているのだろうか。微妙にこの二人、噛み合ってないような気がする。


「始めるぜぇえ!!レッツ、ショウぉぉおおおおおおタぁぁあああイムぅ!!!!」

「「「「「いえええええええええええええええええええええあああ!!!!」」」」」


「じゃねえええええええええええええええええええええええええええええええええよおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 皆がノリノリの中、スープレイガが盛大に乗り突っ込みした。

 そして、スープレイガはバラを投げ捨てた後、どこから拾ってきたのかバズーカを乱射していた。


「何で俺がレッツショウタイムしなくちゃんなんねーんだよ!!何だよ!夜のパーリナイって!意味分かんねぇよ!!」


 スープレイガの言ってる事は間違いなく正論だ。なのに何故だろう、余り説得力が無かった。

 今のスープレイガはただやけくそになっているようにしか見えなかった。


「いい感じですよ~、その調子で行きましょう!」


 アミューズがそう言った。

 この状況のどこがいいんだと蒼は言いたかった。が、以外にも女子からの受けは悪く無さそうであった。

 その証拠に興味を持った女性たちがこの店に集まり始めた。

 うん、分からん、さっぱり分からん。


「なぁ、フローフル?ホストってこんなんだっけ?」

「俺に聞くな」






 しばらくするとかなりの数の客が来ていた。

 途中までは何とか蒼たちも捌き切れていた…しかし、ヤバい奴らが来てしまったのだ。


「え?何で??」


 美浪はそんな事を呟いた。

 何故ならホストクラブに筋骨隆々の男たちがやって来たからだ。

 しかも、周囲の空気などお構いなしに暴れまわっており、最早、カオスである。

 幸い、彼らの周囲に女性客がいなかったがそれでも状況はヤバい。あの場所だけは楽園ではない、最早魔界である。


「おらあああああああああああ!!!もっと盛り上がるわよおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 男たちが相も変わらず叫んでいた。どうやら、そう言う趣味をお持ちのようだ。


「おいおいおい!?どうすんだよ!?これ!?速くあいつらには魔界にお帰り願わないと!?」


 インベルもあの空間のカオスさが理解しているようで何とか手を打った方が良いと思っているようだ。


「ちっ、俺たちはヘルプのヘルプだからな、スープレイガ、Are you ready?」

「いや、何がアーユーレディー?だよ!無駄に発音良いのがウザぇし、あんなピラニア軍団にFlying go 出来る訳ねぇだろ!馬鹿かてめぇは!!」


 蒼が無駄に良い声でそう言うとスープレイガは盛大に突っ込みを入れる。しかし、スープレイガの返し方が妙にノリのいい感じであった。

 正直、二人のテンションが完全におかしくなっていた。


「あなたぁ~、黒髪のそこのイケメン♡来てくれるかしら?」

「え?」


 アミューズはそのまま男たちに首根っこを掴まれ、「魔界」に連れて行かれてしまった。


「あ…が…ヘ…ル…プ…ヘ…ル…プ……が…」


 アミューズがそう言うが皆顔が引きつるだけであった。

 アミューズは男たちに押し潰されており、彼の左手からしか生存確認が出来ない。天に召されるのも時間の問題だろう。

 男たちは顔を引きつる中、女子二人の反応は少し違ったものだった。


「大丈夫よ、左手が生きてるし。それに彼らはプロよ、やり切れるわ」

「何を根拠にそんな事言ってんのそもそも俺たちが未だにここにいて働かされてんのはアンタのせいだろ!?」


 プロテアの横暴な言い草にインベルは盛大に突っ込みを入れた。何故だろう、インベルが常識人の見えると蒼は思った。

 ぶっちゃけ、インベルはうるさかったり騒がしかったりするだけで、それ以外は常識人だが。

 それに、インベルの言葉も尤もだった。プロテアがやらかさなければ蒼たちはそもそもこんなカオスな地獄絵図を見ずに済んだだろう。


「あの空間は魔界にしか見えないかもしれません!ですが、その先にあるのは男たちが交わるエデンの園!これはこれでいいですよ!」

「済まない美浪君、言わせてくれ。頭おかしいんじゃないのかい君は!あの地獄のような空間がエデンの園とかマジでキ〇ガイだよ!というか君のキャラ崩壊が著しいよマジで!」


 美浪の頓珍漢な言葉に一夜は突っ込まずにはいられなかった。

 普段の一夜からは想像もつかないような暴言を吐いていた。それほどまでに一夜は疲弊しているのだ。

 一夜だけでは無い、スープレイガも蒼もインベルもかなり精神的に参っている。女子二人がなんか楽しそうなのがめちゃくちゃ勘に障る。

 それはそうだ、彼女らは基本的には見てるだけなのだ。男たちばかりいるこの場所に花を添えているだけだ。

 状況を楽しめる御身分という訳である。おかしいな、二人のせいでこんな事になってるのに何で当の二人(犯罪者たち)が楽しんでいるのだろうか?これは明らかにおかしいだろう。


「おい…左手の生存確認すら無くなってきてるぞ!?」


 インベルが顔を引きつらせながらそう言った。

 アミューズの左手がどんどん沈んでいっていた。それはまるで底なし沼に沈んでいっているようであった。

 このままでは冗談抜きでアミューズの命が危ない。しかし、蒼たちはその場から動けなかった。

 それもそうだ、今の蒼たちはライオンの前にいるチワワと同じだ。

 恐怖というのは素晴らしい感情だと蒼と一夜とスープレイガとインベルは初めて思った。恐怖があるからこそ、怪物から逃げる事が出来る。

 恐れ知らずにあんなピラニア軍団に行けば、蒼たちは消し炭になっていたであろう。

 しかし、アミューズはあんな状況の中、懸命に立ち向かっている(ようにはとても見えない)。

 蒼たちはそんなアミューズのプロ意識に敬意を表さざるを得なかった。

 そして、蒼と一夜、インベル、果てはスープレイガまでもがアミューズに綺麗な敬礼をしていた。


               アミューズに敬意を!敬礼!!!




 時が経ち、ラストオーダーを向かえ、他の客たちは帰っていった。

 後は一番の鬼門、ルバートが待つのみとなった。

 しかし、こちらの被害は甚大であった。先程の筋骨隆々のオカマたちによって蒼たちは精神的にダメージを負い最早、満身創痍の状態であった。

 更に、ここのエースであるアミューズがその男たちによって戦闘不能(物理的に)となってしまっている。


「おいおいおい!?どうすんだこれ!?アミューズさん白目向いてるし!」


 インベルが深刻そうにそう言った。いや、実際にマジで深刻なのだが…

 しかし、蒼たちには最早、気力が残されていなかった。


「しっかりしなさい、ルバートはセイント教神官なのよ?」

「ゴメン、マジで今のお前の態度に殺意沸いてるから話しかけるな」


 プロテアのあまりに無神経な物言いに蒼はプロテアを睨み付けながらそう返した。

 プロテアも悪いと思ったのかすぐに頭を下げて誤った。


「どう考えても私のせいですごめんなさい許してくださいそんな眼で私を見ないでください」

「豆腐メンタルだね…意外と…」

「どうしましょう…これ…」


 今の光景は例えるのならば嵐が去った後…と言った所だろう。結構、散らかってしまっているので早急に片付けなくてはならない。

 美浪とプロテアはそそくさと片付けを始めた。


「フローフルたちは少しでも休んでて」


 プロテアがそう言うと蒼たちはお言葉に甘える事にした。

 だが、どうやら、束の間の休息すら許されないらしい。


「あの~、ルバート様が近くに既に来てます」


 店員の男がそう言うと、蒼たち六人は目元が真っ黒になっていた。

 蒼たちはもう心が折れそうであった。

 何でこんな日に限って化け物たちが来てしまったのか。

 運命は常に残酷である。しかし、嘆いている訳にはいかなかった。

 何としてもこの絶望的な状況から脱さなくてはならない。

 プロテアと美浪は早急に掃除を始め、蒼たちは身だしなみを整えていた。

 そして、勇敢にも戦ったアミューズは一夜とインベルが運び、見えない場所へと放り投げた。緊急事態だ。しょうがない。


「まもなく来ます!」


ーき…来たああああああああああああああああああ!!!


 皆が心の中でそう思った。

 皆、見た目こそ普通にしているが内心真っ黒である。

 接待ってこんなに大変なんだなと蒼はつくづく思った。

 いや、今回に関しては大変のベクトルがあまりにも違い過ぎる気がしたのだが、それは恐らく気のせいだそう言う事にしておこう。

 そして、そのまま門から一人の人物が現れた。

 赤黒い髪と瞳が特徴の吸血鬼を思わせるような人物だ。服は灰色の宗教服であり、髪は短く中性的な容姿をしていた。


-あれが…ルバート・セイント…


 蒼たちはルバートの圧倒的な存在感に心を奪われていた。


「えっと…黙られると僕も困るんだけど…」


 ルバートが気まずそうにそう言った。


「「え?」」


 一夜と美浪は素っ頓狂な声を上げた。

 何か二人の琴線に触れたのだろうか。

 それにしても、顔だけでなく声までも中性的だ。これでは男か女か分からない。まぁ、ここに来る人は大概女性だし、彼女の雰囲気からしても当然女性だろう。…さっきの筋骨隆々の男たちは知らない。


「「僕っ娘来たああああああああああああああああああああああああああ!!!」」


 一夜と美浪は興奮の声を上げた。

 確かに一人称で女性にも関わらず僕というのは違和感があるがそこまで興奮する事だろうか?


「ああ!僕は!僕は!!楽園にいるんだ!!!」

「いや、何訳の分からん事言ってんの?」


 一夜の言葉に蒼はジト目で突っ込みを入れた。

 一夜だけでは無い、美浪も興奮気味である。何がそんなに嬉しいのか蒼たちには理解出来なかった。


「僕っ娘は属性の一つね。女性にも関わらず僕という一人称を使う事で愛らしさをアピールできるという事よ」

「すまん、言ってる意味がさっぱり分からん」


 プロテアの説明をインベルは全く理解出来ていなかった。まぁ、それは蒼もスープレイガも同じであるが。

 僕っ娘というのは先程、プロテアが言っていた萌えの一つであり、女性なのに僕という一人称を使う事で個性を出せるし、愛らしさも出せるのである。

 しかし、一夜も美浪も些か興奮しすぎである。


「では、こちらにどうぞ」


 インベルがルバートを案内する。

 ルバートはVIP席に座った。ルバートは周囲を見回した。見た所かなり寡黙の様である。

 とてもホストクラブに行くような人物に見えなかった。

 ルバートの右隣に一夜、左隣にスープレイガが座った。


「僕は一夜」

「スープレイガだ」


 二人共取り合えず自己紹介をした。

 二人共、何を話そうか考えているようだ。しかも、ルバートは非常に寡黙な正確な為か、全くと言っていいほど口を開かなかった。

 一夜もスープレイガも冷や汗をかいていた。このままでは空気は悪くなる一方だ。

 何か話題を振る必要があるだろう。しかし、ルバートはセイント教の神官である。皆を導く立ち位置にあるのでそれなりに喋る人物だと思っていたのだが、無口、圧倒的無口である。

 やがて、一夜は口を開いた。


「ところで、君、BLE〇CHで好きなキャラは何だい?」


 一夜が訳の分からない質問をしてきた。

 あたりの空気は完全に凍っていた。いきなり何の脈絡もなく神官相手にBLE〇CHの話をしたら空気が凍るのも当然である。

 何か困ったら自分の趣味の話をしたがるオタクの性である。


「朽〇白哉」


 さらっとルバートは答えた。え?BLE〇CH分かんの?と周囲の皆は思っただろう。

 因みにインベルはBLE〇CHを全く知らない。だが、インベル以外は一応知っている。

 漫画の知識に疎い蒼だが一応知っており、尸〇界篇までなら何とかついていける。一夜にこの漫画を昔勧められたのを蒼は思い出した。

 それにしてもここで言うような話では無かった。さらに驚いたのがルバートが話についていけている所である。

 偏見だが、神官とかそう言った地位がそれなりに上の者はこの様な知識に疎いと蒼は考えていた。自分やインベルたちがそうだし。


「へぇ~、白哉好きなんだね~、かっこいいよね。特に卍解とか…」


 一夜がホッと一安心していた。いや、ついていける人だから良かったけどそうでなければ双方共に傷を負う事になっていただろう。


「でも、白哉って最終章で株めっちゃ落とすわよね?しかも、ルキア処刑する理由も朽〇家の誇りだったり、結局プライドだけが高い傲慢な男なのよね」

「お前白夜に何か恨みあんの!?白哉フルボッコじゃん!てか最終章で白哉何があったんだよ!?」


 プロテアの手痛い指摘に蒼は堪らず声を上げた。因みに蒼も結構白哉が好きだったりするのでプロテアの言葉に異議を唱えたかったが都合により割愛。

 しかも、蒼はプロテアの言葉で少し続きが気になってしまった。まぁ、今気にしてもしょうがないが…


「私はウル〇オラが好きですね!BLE〇CHって敵も魅力的ですし」

「そうだね、けど僕はグリム〇ョーも好きだよ」

「いや、お前らの趣味はどうでもいいんだよ!!」


 美浪と一夜のどうでもいい発言に蒼は堪らず声を上げた。

 因みに蒼は既に二人の話についていけて無かった。尸〇界篇までしか知らないから仕方ない。

 スープレイガはさっきから何も喋っていなかった。なんか乗り遅れた感が凄い。

 だが、スープレイガもとうとう口を開いた。


「いや、やっぱ主人公の〇護だろ。やっぱ主人公だし」


 因みにスープレイガは見ての通りあまり漫画を読まないので当然BLE〇CHのキャラもそこまで知らない。

 それでもインベルよりはマシだが、あまり知らない蒼にすら知識量は届かない。


「君、余り知らないだろ?」

「うるせぇ!」


 一夜の指摘にスープレイガは思わず叫んだ。

 頑張って話を合わせてるのにその言い草は酷い。特に彼がここまで話を合わせてる事すら奇跡である。

 蒼はスープレイガの意外な一面を見れた気がする。


「白哉以外でも、ザエルア〇ロとか藍〇も好き」

「へぇ~、中々コアなキャラぶっこんできたね。まぁ、藍〇は割と聞くけど」


 蒼も藍〇知っていた。言わずと知れたBLE〇CHのカリスマキャラだ。

 しかし、蒼はルバートが言ったもう一人のキャラは分からなかった。尸〇界篇までしか分からないから仕方ないね!

 というか、ルバートが心なしか楽しそうなのが蒼は非常に解せなかった。割とノリは良い方のかもしれない。


「藍〇とザエル〇ポロは色々な意味で凄いですよね~。ザエル〇ポロ戦を一年かけてやったのは伝説ですよね!」

「一年やったって何!?」

「うん、藍〇は一貫した野心があって、僕は好き。黒棺もかっこいいし。白哉もかっこいいクールガイで好きだった…最終章までは」


 ルバートがノリノリで話し出した。てか、マジで白哉最終章で何があったんだよ…

 ルバートはあまり喋らないタイプだが、案外素直な性格なのかもしれない。というか、漫画とか普通に読むんだなと蒼は思った。

 あまりに見た目とかけ離れていたのでそう思うかもしれない。


「ところでBLE〇CH以外も何か漫画を見てるのかい?」

「ジョジョとかワートリも見てるよ。後、ライトノベルも見るよ」

「おいおい…マジかよ…オタクやん…」


 スープレイガがそう呟いた。あまりにイメージと乖離しすぎていた為か、スープレイガも訳の分からないテンションになっていた。


「注文はどうする?」


 スープレイガ投げやりな感じでそう言った。

 ルバートは意外とノリノリな為、今のところは上手く行っていると言っていい。

 だが、こういう時こそ、事故というのは起こるものだ。


「ドンペリで」


-強烈なの来たーーーーー!!!


 ドンペリとは酒の一種だが、とにかく強烈な酒であり、一口飲んだだけでも泡を吹いて倒れる事も珍しくない。

 ルバートの発言で再び空気が凍った。しかし、注文を断る訳にもいかない。

 蒼と美浪がドンペリを持って来た。


「タワーを作って欲しいんだけど」


 ルバートの発言で蒼と美浪は顔を真っ黒にした。もう、飲む気満々である。

 蒼たちは仕方なく、ドンペリを持って行き、ドンペリタワーを作った。

 ルバートは眼を輝かせていた。どうやら、かなりの酒好きらしい。

 その無邪気な眼差しは可愛さすら感じた。


「折角だから、皆も飲んで良いよ」


 ルバートはそう言った。見た感じかなり上機嫌だった。

 ルバートはすぐにドンペリを口に含んだ。一気飲みである。しかし、飲んでも酔うどころか顔色一つ変えていなかった。


「やっぱり美味しいね、ドンペリ」

「おいおいおい…めちゃくちゃ強いんじゃねーかアレ…言っとくけど、プロテアは絶対に飲むなよ?」

「分かってるわ」


 あんなものをプロテアが飲んでしまえば昨日以上の地獄絵図となる事だろう。

 しかし、誰も飲まないというのもまずい。


「じゃあ、お言葉に甘えて…」

「…………」


 一夜とスープレイガはドンペリを口に含んだ。すると一瞬で顔を真っ赤にしてぶっ倒れた。


「えええええええええええええええええええええええええええ!?逝くの速ええええええええええよおおおおおおおおおお!!!!」


 蒼は絶叫した。たった一発で一夜とスープレイガはノックダウンである。どうやらこの二人もあまり酒は強くないらしい。

 ドンペリタワーはまだ結構ある。このままでは蒼たちは保ちそうにないかもしれない。


「え?ダウンするの速過ぎ…」


 ルバートがそう言った。そりゃそうも言いたくなるだろう。

 これは蒼たちも飲まされるだろう。というか、ルバートはどうやら蒼たちにも飲むよう勧めているようだった。

 酒を無理やり飲まされる状況を作る…アルハラもいい所である。

 ここで飲まないのも流石に不味い。


「おい、美浪、お前は強いのか?」

「まぁ、強い方ではありますけど…蒼は?」

「俺はソコソコ…まぁ、少なくともあの二人よりはマシだ。インベルはどうだ?」

「俺もまぁ、それなりには…つーか天使は比較的皆酒強いし」

「そう言われればそうだな…」


 そう、天使はどういう訳か全体的に酒が強い者が多い。ミルフィーユなんかも結構酒が強かったりする。まぁ、そこまで好きという訳ではなさそうだったが。

 逆に悪魔は酒に非常に弱い傾向にある。スープレイガがその一例だ。

 それはさておき、蒼たちはドンペリを飲む事にした。

 三人共まずは一杯飲み干した。三人共顔がほんのり赤くなっていたが誰もワンパンはされていなかった。


「いいね、君たち中々強いね」


 ルバートはそう言って二杯目のドンペリを口にしていた。あっという間に飲み干していた。まったく、彼女の身体はどうなっているんだと心底蒼たちは思った。


「やっば…これ結構強いぞ」

「そうですね。これはあんまり持たないかもしれません」


 インベルと美浪はそう言った。

 蒼も無言であったが結構ヤバめであった。想像以上にアルコールがきつかった。

 そう長くは保たないだろう。


「このままどんどん飲もう!」


 ルバートのテンションがハイになりだした。流石に五杯目となると酔い始めるようだ。

 しかし、蒼たちはいつ、ダウンしてもおかしくない。このままではヤバい。

 蒼と美浪とインベルはドンペリを飲み続けたが、美浪とインベルはそのままダウンしてしまった。


「もう無理…へっぷっ…」

「フローフル…後は頼んだ…」


 プロテアと違い、暴れなかったのが幸いだ。二人共酒癖が悪くなかったのがせめてもの救いであった。

 蒼は結構飲んでいるにも関わらず意識を保っているのは自身の能力でアルコールを浄化しているからだ。

 蒼は水と氷を扱う能力だ。アルコールの浄化も可能である。

 …少しセコイ気がしなくも無いがこの状況では仕方ない。


「ねぇ~君、アルコール浄化してるでしょ?そういうのは汚いと思うんだよねえ~」

「!?」


 どうやらルバートは蒼のやっている事がバレていた様だ。

 ルバートは蒼を壁に押し付け、顎クイをしてきた。何故だろう、無駄にドキドキする。

 というか、流石のルバートもかなり酔っているようだった。

 しかし、蒼のやっている事がバレてしまった以上、蒼は普通にドンペリを飲まざるを得ない。

 蒼はドンペリを飲み続けた。無言の圧力、恐るべしである。蒼は結構限界まで近づいていた。


「てか君、どっかで見た事あるんだよね~。どこで会ったのかな~、思い出せないや」


 ルバートがいきなりそんな事を言い出した。

 因みに蒼はルバートと会った記憶は無い。無い筈だが、彼女が嘘を言っていたり、全くの出任せを言っているとは思えなかった。


「ねぇ?君、何て言うの?名前、教えてー」

「時神蒼」

「時神…蒼君ね。覚えたわ。また、会う事が会ったらよろしくね」


 ルバートはそう言って立ち上がった。

 どうやら、帰ろうとしているようだ。フラフラだが、意識は割とはっきりしているようだ。

 蒼はというとそろそろ意識が飛びそうであるが、どうにかして意識を保っている。

 無事にルバートを出迎えた…かどうかは分からないが、一応目的は達した。最悪、プロテアもいる事だし、大丈夫だろう。


「今日は~、楽しかったよ~。素敵な時間をありがと。じゃあね~」


 ルバートは鼻歌を歌いながら帰っていった。

 店はいつの間にか人はいなくなっていた。蒼はホッとした。次の瞬間、蒼も意識が闇に消えた。


「フローフル!?」


 プロテアが駆け付けたがその時、蒼に意識は無かった。









 どうにか波乱の接待を終えた蒼たち。

 あの後、プロテアがホストクラブ内にある個室に全員を運んだ。

 朝になり、最初に目が覚めたのはプロテアと蒼であった。


「ここは…」

「ホストクラブの個室よ。大丈夫?二日酔いしてない?」

「ああ、大丈夫だ」


 どうやら、蒼は割と大丈夫そうであった。

 プロテアはホッと安どの息を吐いた。


「ねぇ、フローフル?あなた、ルバートと会った事があるの?」

「…少なくとも俺は覚えて無い。けど、あいつは俺の事を知ってるようだったんだよな~。出任せとも思えなかったしな」

「酔った勢いの世迷言…でも無さそうだったわね。確かに」


 そう、プロテアはその事が気になっていた。蒼とルバートは接点が無い筈だ。にも関わらず、ルバートは蒼の事を知っているようであった。

 だが、蒼自身には身に覚えが無いときた。どうも話が噛み合わない。


「ところでプロテア…あいつ一応、お偉いさんなんだよな?」

「ええ…一応、セイント教の事実上の長よ。少なくとも五十年以上は神官の職についてるわ」

「それにしてはやたら自由人というか…なんか思ったより子供っぽかったし話すの苦手そうだったし。あまり神官って感じがしなかったんだが…」

「私もルバートはと直接会うのは初めてだったのよ。だから、どんな人かは知らなかったわ。まさか、あんなにマンガ好きとは思わなかったけど」


 どうやら、プロテアもルバートのマンガ好きには驚いていた様だ。

 まぁ、プロテアはプロテアで結構そういうのに詳しいから蒼からすればプロテアも同じようなものである。

 セクラム教もこんな感じなのだろうかと思うとヘレトーアは本当に大丈夫かと蒼は思ったが流石にルバートは特殊な部類だろうと蒼は無理矢理思う事にした。

 ルバートは果たして、浄化作戦の事を知っているのだろうか。賛同しているのだろうか?それは蒼には分からないが、蒼やプロテアが見た感じ、ルバートが世界を憎んでいるようには見えなかった。

 世界を滅ぼそうとする意志も感じられなかった。

 というか、これから間も無く大規模な作戦がヘレトーアで実行されるというのにこんな所にわざわざ足を運んだルバートの神経が分からなかった。

 ルバートが何をしたいのかかなり謎である。


「まぁ、今考えても仕方ねぇか。遅れちまった分、速く行かねぇとな」

「ええ、昼頃には彼らも起きてるでしょう。その間に準備を済ませましょう」


 そう言って二人はここから出る準備を始めた。







 あの後、アミューズが蒼たちにお礼を言って来た。

 蒼たちからすれば謝罪のつもりであったのだが、まぁ、アミューズは本番の前に思わぬ怪物に遭遇してフライアウェイしていたのでその間にルバートを何とかした蒼たちに感謝していたのだろう。

 蒼と美浪、インベルは二日酔いしていなかったが一夜とスープレイガは二日酔いしており、かなり辛そうであった。

 その為、夜まで近くの店で休憩する事となった。


「気持ち悪い…」

「全くだ…」


 一夜とスープレイガは心底気持ち悪そうだった。

 どうも二日酔いは彼ら曰く、吐きたくても吐けない感覚らしい。出来ればそんな感覚は味わいたくないなと蒼たちは思った。


「まさかあんな所で神官様と対面する事になるとはね~、ついているのかついてないのか分からないね。けど、彼女とは気が合いそうだったよ」

「確かにそうですよね~。あんなにオタクだとは思いませんでしたよ!いや~、分からないものですね~!」


 本当にその通りである。

 人は見かけや役職で判断出来ないものだなと蒼たちは心底思い知った。


「まぁ、取り敢えず俺はお前らに付いて行くぞ」


 インベルはそう言った。

 この状況では仕方無いだろう。今回もなんだかんだ言ってインベルは蒼たちを助けてくれたし、別に断る理由も無い。

 それに、戦力は多い方が良い。インベルは心強い味方だ。


「旅は道連れ世は情け…か…」

「お?何だフローフル?洒落た事言うじゃねーか?」

「別に洒落てねぇよ…」


 蒼が心底疲れた様子でそう言った。

 蒼はインベルに対しては割と素でいる事が多いように思える。

 なんだかんだ言って蒼はインベルの事を友人と思っているようだ。


「蒼は君の事を心配してたよ?インベル君」

「!? 何だよ~!フローフルは昔から照れ屋だからな~!ははははは!!」


 インベルが上機嫌になっていた。

 面倒臭いなと蒼は思う反面、この感じも久しぶりだなと感じた。


「別に心配してねぇ」

「してたわね」

「してましたね」

「してたな」

「てめぇら、マジでどっちの味方なんですかね?」


 蒼は切れ気味でそう言った。

 他の五人はそんな蒼の反応を見て楽しそうにしていた。


「もう時間だな」

「そうだね、行こうか。だいぶ楽になったね」


 蒼たちは立ち上がった。

 そして、『精霊城(ラウフ・カルス)』に向かって出発しようとしていた。


「ここからだとどれくらいかかるんですかね?」

「速くて二日くらいね。あまり時間が無いわ。急いで行きましょう」


 プロテアがそう言うと蒼たちはコクリと頷いた。

 そう、蒼たちには時間が無い。一刻も早く、ヘレトーアの本拠地へと向かい、彼らの野望を暴かなければならない。

 作戦の詳しい情報も未知数だ。速めに行った方が良い。


「よし!じゃあ、行くか!」


 蒼たちは立ち上がり、先に向かった。

 新たな仲間、インベルを加えて。








「アッチ~~~~」


 蒼は気だるげにそう呟いた。蒼は暑いのが大の苦手なのだ。

 では何故、蒼がここまで暑がっているのかと言うと、今、蒼たちがいる場所が関係している。

 そう、蒼たちがいる場所、それは砂漠だ。

 しかも今は昼間なのでとても暑い。気温は当然のように四十度を越えていた。

 蒼だけではない。この暑さでは蒼でなくともきつい。

 一夜もかなりヘロヘロだし、美浪も慧留、プロテアもかなり暑そうであった。

 砂漠は寒暖差が激しいという特徴もある。

 昼は四十度を軽々と越える程に暑いのだが、これがいざ夜となると気温がマイナスになる事もある程寒く、環境が非常に不安定である。

 今は昼間なので当然猛暑である。しかし、インベルのみは平気そうであった。


「何でインベル君だけは平気なんだい?」

「こいつは炎を操る。だから熱にも耐性があるんだよ」

「ま、そう言うこった」


 一夜の疑問を蒼が淡々と言うとインベルが自信満々に胸を張った。

 こういう時は炎を操る者は羨ましい。

 基本的に熱や炎を操る者は総じて暑さに強い傾向がある。

 なら、逆に寒さに弱いのかと言われればそんな事は無く、むしろ、自身の身体にある熱や炎を自在に操れるので寒さを凌げるのだ。

 この様な不安定な環境には炎や熱を操れる者は結構アドバンテージがあると言える。

 無論、蒼も氷を扱う天使なので、寒さには非常に強い。むしろ、寒いのが好きなくらいだ。


「それにしても、今日は特に暑いわね」

「そうなんですか?」

「ええ、四十度を越えるってここら辺ではあまりないわ。この感じじゃ、もっと奥の砂漠に行けば更に暑いわね。五十度は越えるかも…」

「ひぃ!?」


 美浪はプロテアの言葉にかなりビビった。

 四十度を越えてる今のこの状況でもかなり堪えているのにこれから更に十度以上上がるとなると心が折れそうになる。

 プロテアも美浪も一夜も暑さに対する耐性は人並みだ。

 流石にこれ以上暑くなる様では何か考えなければならないかもしれないと思った。


「つかさ、インベル君なんて呼び方、止めねぇか?あんまり君付けで呼ばれるの、好きじゃねんだ。他人行儀だし」

「そうかい?なら…分かったよ、インベル」

「ま、俺が苦手なだけだけどな!よろしくな、一夜!」


 どうやら、インベルは一夜の思っている以上に砕けた人物であるようだ。

 蒼と仲が良いというのもなんだか、納得した気がした。

 当の蒼は否定しているが、蒼は素直じゃない所がある。


「そこの君たち!待ちたまえ!」


 蒼たちは声が聞こえたので声の通り立ち止まった。

 一夜の横にこの砂漠のど真ん中に座っている人物がいた。

 その男は頭にローブを巻いていた褐色の男であった。

 服装はどこか民族風であった。


「何ですか?」


 美浪が質問をした。

 男はニコニコしていた。


「いやー、こんな所に人がいるのは珍しくてですね。つい、呼び止めてしまったんですよ」


 男は嬉しそうにそう言った。

 確かにここは砂漠だ。人がいないのも無理は無いだろう。

 なら、何故、こんな所に男はいるのか、彼等は疑問でならなかった。


「あんた、何でこんな所に?」

「ああ、ちょいと依頼があってな?何でも、このヘレトーアに侵入者が来たって話だ。今、ヘレトーアは国との交流を一時的に絶っている状態で近付けない筈なのに…だ…」


「「「「「「!?」」」」」」


 男の言葉に皆、驚いた。


「もし、ヘレトーアに外部からの侵入者がいた場合、結界が反応して侵入者を捕捉し続ける。だが、それも正確ではない。それでだ、私は国から侵入者を抹殺しろと言われている。今はこの辺りにいるようだ。君たち、知らな…」


 男が薄ら笑いをしながらそう言いかけた途端、蒼は【氷水天皇(ザドキエル)】で男を切り裂き、切り裂いた箇所が凍り付いた。

 しかし、男の姿は消えていた。


「どうなっている?」






To be continued

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