【第六章】ヘレトーア進軍篇Ⅲーred bloodー
「インベル…」
蒼がそう言うと、赤髪の男が顔を上げた。
「フローフル…フローフルじゃないか!五年振りだな!」
赤髪の男が蒼の肩をバンバン叩いた。
蒼も心なしか嬉しそうであった。
「本当に久しぶりだな、インベル」
「蒼、その人は?」
美浪が蒼に問い掛けた。
「ああ、こいつはインベル・ヴァレンテ。俺の昔の仲間だ」
「おう!俺はフローフルの一番の親友だぜ!」
「仲は別に普通だった」
「いやいや、少なくとも『セラフィム騎士団』の中では一番仲良かっただろう!?」
「ああ、そうなのかもな。「お前の中では」な」
「相変わらずだなお前…」
インベルはやれやれといった様子であった。
「蒼にも親しい者がいたんだね。てっきり、ぼっちかと思ったよ」
「いや、似たようなもんだぜ?こいつ、俺とアポロとミルフィ以外あんま喋らなかったし」
蒼以外の四人が顔をしかめた。
それも当然だ。ミルフィとは恐らく、先日、蒼が言っていたミルフィーユ・ペテルギウスの事だろう。
曰く、蒼の剣の師匠であり、『セラフィム騎士団』の中でもかなり有名な部類に入る人物なので一夜たちはミルフィーユの事は知っている。問題はもう一人だ。
「インベル…アポロは元気にしてるか?」
「ああ、まぁな。あ、後、ミルフィに前会ったんだってな。ミルフィがこっそり俺とアポロに連絡を寄越してたんだよ。多分、他の奴等は知らねぇぜ。お前が十二支連合帝国にいる事は」
「そうか…」
「それで?何故、君はここにいるんだい?」
「ああ、それは……の前に、あんた誰だ?名前教えてくんねぇと誰か分からねぇぞ」
インベルが言うのも尤もだ。
どうやら、インベルはかなり砕けた態度で相手と接するようだ。
正直、一夜たちは蒼があまり友達がいるイメージが無かったので以外に思った。
「ああ、これは失礼。僕の名前は苗木一夜だ。よろしく」
「霧宮美浪です」
「プロテア………イシュガルドよ…」
「………」
スープレイガ以外は名前を名乗った。
スープレイガはどうもインベルの事がお気に召さないようだ。
「アンタは確か…『七魔王』のスープレイガ・レオンジャックだな。噂通り無愛想だな~」
「うるせぇ…」
「で?そこの銀髪の子はイシュガルドか…フローフルたちと共に行動してたなんてな…やれやれ、どちらがお人好しなのか…それともただ酔狂なだけか…相変わらず、お前は面白いな…フローフル」
インベルは心底楽しそうにそう言った。
プロテアもどうやら、インベルが苦手のようであった。
まぁ、他人の際どい所にズカズカと入り込んでくるインベルはプロテアからすればあまり好きになれないだろう。
「それで…何でここにいるんですか?」
美浪が改めて質問をするとインベルは「ああ、そうだったな」と言って答えた。
「浄化作戦について調べるために『精霊城』を目指してたんだよ」
「お前もか」
「あ~、成る程な。何でイシュガルド連れてるのかと思ったらお前らも浄化作戦がらみか」
インベルは得心がいったようである。
どうも、蒼たちがイシュガルドを連れている事に違和感があったが成る程、それなら納得だ。
「インベル、ヘレトーアについて、知ってる限り教えてくれねぇか?」
「多分、お前らと似たような状態だ。ルミナスにヘレトーアに行けって言われただけで、前情報は一切無しだ。後、強いて言うなら…ここの町の奴等が頭おかしいって事だな」
「お前もか…」
「そうだ!目的地が一緒なら一緒に行こうぜ!」
インベルが突然提案してきた。
インベルはセラフィム騎士団である。勿論、戦力にはなるのだが…
「正直、信用できないね」
「そう言う事だ。じゃあな、インベル」
そう言って、蒼たち五人はそそくさと去ろうとした。
インベルは慌てて蒼たちに立ち塞がった。
「待て待て待て待て待て!おかしくないか!?ここは普通に共闘する展開だろ!?」
「さっきも一夜が言ったがお前は俺以外面識無いだろ?怪しまれるのは当然だ」
「いや、けどそこは!お前が太鼓判押せばいい話だろ!?」
「お前、五月蝿いし」
「うるさくねぇよ!?そこまでは!?」
「五月蝿いわね」
「ウルせぇな」
プロテアもスープレイガも便乗し、そのまま蒼たちは去ろうとする。
しかし、インベルはこのぞんざいな扱いに流石に頭が来たのか剣を抜いて、地面に突き刺した。
すると、蒼の眼前に炎が出現した。
「何すんだ!?顔が燃える所だったじゃねーか!?」
「フローフルが無視するからだろ!?」
「だからって手ぇ出すなよな!?相変わらず短気な奴だな!」
「お前だって相変わらずだな!すぐ無視するし!そんなんだからいつまで経ってもボッチなんだよ!コミュ障なんだよ!」
「お前眼が腐ってんじゃねえーの!?今の俺はボッチじゃねぇ!」
「「「「いやでもコミュ障じゃん」」」」
「お前らどっちの味方だ!」
蒼とインベルは口論を続けた。
しかしおかしい。蒼は一夜たちの味方をしていた筈なのに彼らにコミュ障扱いされた。何かがおかしい。
「なら、勝負しないか?」
「面白ぇ…そう言えばお前との決着は着いて無かったな…」
「284勝284敗50引き分け。どっちが勝ちか決めようか」
…どうやら蒼とインベルは友であり、ライバルと言った関係のようだ。
一夜たちが見る限りでは何だかんだ言ってこの二人は仲が良さそうであった。
ただ、蒼が若干ツンデレ気味なのが一夜たちから見て、面白かったのでそのまま見ていた。
「あの二人のやり取り何か面白いですね」
「しっ!分かってても…ぷぷ…言っては…ふふ…ダメだよ…ぷっ!」
美浪と一夜は心底楽しそうであった。
プロテアとスープレイガはぶっちゃけ速く先に行きたかったのだが、二人の勝負に割って入ると更に面倒な事になりかねないので見てるだけにした。それにー
ー天使同士の戦いはそう見れるものでもないし…
「じゃあ、行くぜ!【氷水天皇】!」
「焼き焦がせ!【炎竜天皇】!」
蒼は氷の剣を、インベルは炎の剣を顕現させた。
成る程、氷と炎、二人の性格がそのまま現れていると一夜は思った。
二人は刃を交える。凄まじい衝撃が走り、空気が揺れた。
「二人とも…すさまじいパワーだ!」
「凄いですね…これが…天使同士の戦い…」
一夜と美浪が驚きの声を上げている中、スープレイガとプロテアは黙って二人の戦いを見ていた。
蒼は刀を横に薙ぎ、インベルに氷をヒットさせた。
しかし、インベルは炎を発生させ、氷を溶かした。
「【赤炎噴火】!!」
インベルが地面に剣を突き立てると蒼の地面一帯から炎が噴火した。
「【聖雨】!!」
蒼は空から聖なる雨を降らせ、インベルの炎を鎮火させた。
蒼の【氷水天皇】は氷だけで無く、水も操れる。
【聖雨】はインベルの頭上にも降り注いだ。
インベルは攻撃を喰らい、ダメージを受けた。一方、蒼は無傷である。
「くそ……が!」
インベルは手から赤い閃光を放った。
彼が放ったのは『聖歌』の一つである、【白光線】。使う天使によって光線の色は異なるが『聖歌』の基本戦術である。
因みに蒼はこの『聖歌』は使用できない。完璧な天使でなくてはこの力は扱う事が出来ない。
その為、蒼は『聖歌』の代わりに霊呪法を使用している。
しかし、蒼は【虚神】でインベルの攻撃を防いだ。
そして、蒼はそのままインベルを【縛十光輪】でインベルの身体を縛り付けた。
「が!?」
「これで、終わりだ」
蒼はインベルの額に剣を突き付けた。
だが、インベルは不敵に笑い、霊力を【赤竜天皇】に込めた。すると、インベルの周りに炎が出現し、【縛十光輪】を焼き払った。
更にインベルは剣を蒼に向け、剣の切っ先から炎が放たれた。
「【赤炎噴火】!!」
しかし、蒼は【瞬天歩】で回避した。
「まだ、終わりじゃねぇ!【第二…」
「!?」
「何か近くで爆発があったぞ!?こっちだ!」
「「!?」」
どうやら、野次馬が来たようだ。このまま蒼たちが見つかれば面倒な事になりそうだ。
「引いた方が良さそうだね」
「ああ!インベル!勝負はまた今度だ!」
「あ!?お前ら!!待て!!!」
蒼と一夜は一目散に逃げ、そこに美浪、スープレイガ、プロテアと続いた。
インベルは蒼たちを見失ってしまったが蒼たちを追いかけて行った。
「ここまで来れば安全だろう…どうやら、インベルも撒けたみたいだしな」
蒼たちは今、荒野にいた。ここら辺の土地はかなり荒れ果てているようであった。
「全く…ひどい目に合ったぜ…」
「そうだね…とはいえ、良かったのかい蒼?友達…何だろう?」
「いいんだよ。俺は…あいつらに何も告げずに出て行っちまったんだぞ…合わせる顔がねぇよ」
「素直じゃないですね~」
「ウルせー!!」
美浪の指摘に蒼は堪らず叫んだ。
「蒼、彼とはどういった関係なんだい?」
一夜は蒼の『セラフィム騎士団』時代の事は殆ど知らない。
蒼の事だからてっきりボッチなのかと思ったがインベルを見る限りそう言う訳でも無さそうであった。
「ああ、あいつは…俺がずっと一人だった頃に突然話しかけてきたんだよ。それからもつるむ事は多かった。あいつと後、もう一人と一緒にお互いを鍛えたりもした」
「これは、蒼と苗木さん、インベルとの三角関係フラグですね!」
「「ならねぇよ(ないよ)!!」」
美浪の訳の分からない発現に蒼と一夜がほぼ同時に叫んだ。
「フローフルとインベルが親密な関係に…でも、フローフルが他の男と仲良くしている一夜は快く思わず、二人を引き裂く為に暗躍する……薄い本が出来そうね」
「プロテアもBL興味あるんですか!?」
「いえ、知識として知ってるだけよ。そう言うネタに喰いつく女子は多いし」
「変な妄想をするのは止めてくれるかい!?」
「全くだ…」
プロテアが便乗したが一夜は堪らず叫び、蒼に至っては呆れていた。
因みにBLとはボーイズラブの事であり、男同士の恋愛を描いた作品の事だ。
好き嫌いの別れるジャンルではあるが、若い女性に結構人気のあるジャンルでもある。
一夜はBLの事を知っているが蒼も勿論知識としては知っている。まぁ、オタク知識に乏しい蒼は一夜程は詳しくは無いが。
「プロテアはどんなBL作品が好きなんですか?私が好きなのは進〇の巨人のリヴァ〇レとか黒〇のバスケの僕〇司×俺〇司とか…」
「私、F〇eeのはる〇このカップリングしか見た事が無いのだけれど…」
「ああ!あれもいいですよね!人工呼吸の下りとかもう!!!」
「はい!僕らがいる前でそういう話しないで!」
…何か美浪とプロテアが仲良くなってる気がする。因みに、蒼は二人の会話の意味が全く分かっていない。
スープレイガも同様に二人の会話が理解不能と言った様子だ。しかし、一夜は意味が分かっているようで必死で止めていた。
「一夜さんにはBLの良さが分からないんですか!?」
「分からないよ!?分かってたまるか!!そう言うのは腐女子だけで盛り上がってくれないかな!?」
「はぁ!?腐女子の何が悪いんですか!?腐ってるのがそんなに駄目ですか!?」
「いやいや!別に駄目とは言ってないよ!!そういうのが苦手な人がいる中、そういう話をするのはどうかと思うよ!?」
「大丈夫ですよ!スープレイガと蒼は意味全く分かってないみたいですし!」
「僕が嫌なんだよ!!」
美浪と一夜は口論を続けていた。蒼とスープレイガは全く理解していなかった。だが、二人はどうしようもない争いをしている事だけは分かった。
さっきも言ったが、BLは賛否が分かれるジャンルであり、無理な人にはとことん受け付けないのだ。
二人が理解し合えないのは当然と言うべきである。
「まぁ、これに関してはどうしようもない所なのよね。皆、価値観や偏見はあるから」
プロテアは二人の心情を察したかのようにそう言った。
何故だろう、プロテアが今までで一番逞しく見えた。
「で?どうする?このまま進むか?」
スープレイガがプロテアに尋ねる。
「あの二人の言い争いが終わるまでは無理じゃないかしら?」
プロテアがそう言うとスープレイガが二人の話に割って入った。
どうやら、スープレイガは今の二人の争いを不毛と感じているようであった。
「おい!てめぇら!俺らの目的はヘレトーア帝国をぶっ潰す事だろ!!そんなくだらねぇ言い争いしてんじゃねぇ!!」
……スープレイガの言ってる事が微妙に違う気がする蒼だが、気にしない事にする。
しかし、一夜と美浪は鋭い目でスープレイガを睨み付けた。
「くだらない…くだらないって何ですか!?あなたはBLが何なのか全く分かってませんね!!BLは単に男同士がイチャイチャするだけの作品じゃないんですよ!そう!BLは人生なんですよ!それを知りもしないで…何がくだらないですか!!ふざけないでください!これはお互いのプライドをかけた戦いなんですよ!邪魔なんで消えてください!!ウザいんですよ!そういう、何も知らない癖に一方的に批判するアンチ!あの濃密な男同士のからみの良さが分からないなんて…馬鹿じゃないですか!死ぬんですか!?スープレイガさんの頭の方がよっぽどくだらないですよ!!BL舐めんじゃないですよ!!」
「第一、君はどっちの味方なんだい!?なら、例を言おう。例えば、君が蒼に対する溢れ出る思いに気が付き始めた、そう、それは恋!だが、蒼はスープレイガと同じ男…しかし、この溢れ出る思いは止まらない!!そこから二人のエロ展開に突入するんだよ!!これが気持ち悪い意外に何があるんだい!?男同士で恋愛とか…僕には考えられないよ!大体君は、この言い争いの意味が分かっているのかい?いや!分かっていない!そんな馬鹿な君は黙って見ていていたまえ!!!」
二人からの集中砲火を喰らい、流石のスープレイガが仰け反った。
更に、二人の口論が続く。スープレイガは完全にただの当て石だ。
「なぁ、あいつらちょっと力尽くで黙らせるわ」
普通、あそこまで言われれば気持ちが折れてしまうものだが、さっすがスープレイガさん、そんな事は無かったぜ。
むしろ、さっきよりも怒りが爆発しそうな様子である。スープレイガは剣を抜いた。
「煌々と照らせ!【黄金…」
「待て待て待て!!【悪魔解放】は駄目だ!!プロテアも止めろ!!」
蒼が力尽くでスープレイガの暴挙を止めた。流石に【悪魔解放】は不味い。味方同士で同士討ちとか愚の骨頂である。
プロテアも事態の深刻さに気が付き、スープレイガを止めた。
そして、当の苗木一夜氏と霧宮美浪氏であるが、いつまでも言い争いを続けていた。
このヘレトーアに来てから、蒼たちは別の意味で危機に瀕してばかり…な気がする。
「ったく…フローフルたちはどこにいやがる!?」
インベルはあれから蒼たちと完全にはぐれてしまった。今回の勝負は…まぁ、引き分けだろう。途中で邪魔さえ入らなければ、自分が勝っていたのにとインベルは思った。
ここは荒野である。ヘレトーア帝国はその土地の性質上、大半が荒野である。発展している町もあるがやはり荒野が多い。
一部では砂漠もあるくらいだ。インベルはこのままこの荒野で蒼たちを探してもしょうがないと考えていた。
それに、インベルの目的はヘレトーア帝国の浄化計画の全貌を明らかにする事だ。蒼たちを見つける事ではない。
しかし、蒼たちが味方につけば心強い味方になるのも確かだ。インベル一人では不安だし。なんせ相手はそこら辺の小国では無く、四大帝国の一国だ。流石のインベルも一人では戦力不足だ。
それに、インベルは蒼が無事であった事を嬉しく思っていた。素直に共に行動したいと考えてもいる。蒼が十二支連合帝国でどんな暮らしをしているのかも知りたいし。
「やっぱ、先回りした方が良いな。幸い、目的地が同じだし、ルートも恐らくかぶってる。っつーか、シャンベラから『精霊城』に行く最短ルートは一つしかねぇし」
インベルはそう言ってスマホを取り出して、地図を見た。そして、次の目的地を絞り込み、すぐに向かう事にした。
しかし、目の前に人がいた。こんな夜中に荒野にいるのは明らかに不自然である。
「誰だ?てめぇは?」
「名乗る必要なし!」
フードを被った男は突然、インベルに襲い掛かった。インベルは剣を抜き、応戦した。相手は両手にクナイを所持していた。
クナイには霊力が込められているようで相当頑丈だ。
「【赤竜天皇】!」
インベルの剣が赤く染まる。インベルが剣を振り回すと炎が出現し、男目掛けて放たれた。
しかし、フードの男はインベルの炎を簡単に振り払った。
「何だあいつ…俺の炎を…」
インベルは訝し気にフードの男を見た。
「ふ…まさか、『セラフィム騎士団』まで来ているとはな…」
フードが燃え散り、素顔が露になった。左目に傷がある坊主頭の男だった。
「てめぇは…ヘレトーアか?」
「ああ、我は哀悲兵」
「そうか、俺はインベル・ヴァレンテだ。早速尋ねるが、浄化作戦の事を…教えてくれないか?」
「教えるわけがなかろう。貴様はここで始末する」
「やっぱそうか」
「行くぞ!」
哀が両手のクナイをインベルに突き付けた。インベルは軽々と攻撃を躱す。
「な!?」
インベルは絶叫の声を上げた。何故なら、回避して、クナイが地面に当たったのだが、その瞬間、「地面が割れた」。
力が強いとかそう言ったレベルの話ではない。更に哀は追撃を続ける。インベルは攻撃を紙一重で回避するが、回避したはずなのにダメージを負っていた。
力が強すぎて掠っただけでも大きなダメージになるようだ。インベルはクナイを破壊しようと【赤竜天皇】で攻撃した。しかし、それは愚策だった。
「がっ!?」
インベルは完全に哀に力負けしており、クナイもかなりの強度を誇っていた。武器の強度が互角であれば、後は持ち主の単純な力の差がものを言う。
インベルは先程の打ち合いで力負けし、「右手の骨が砕けてしまった」。
「『セラフィム騎士団』の力はその程度か…まぁ、それも無理もない。我の【剛力】の前では全て無意味となる。そう、力こそが全てなのだ!」
「脳筋が…!」
そう、哀の能力は単純なものだ。単純な「力」。
『二十二式精霊術』だ。しかし、彼はイシュガルドの人間ではない。
『二十二式精霊術』はイシュガルドの人間にしか扱えない筈だ。
しかし、哀は精霊の力を使っている。『二十二式精霊術』である事は間違い無い。
「どうなってる…」
「最早、『二十二式精霊術』はイシュガルドだけの力では無いという事だ。『二十二式精霊術』は精霊の力を扱う。原理さえ分かれば能力を扱える!まぁ、精霊を媒介とする道具はいるがな」
そう、『二十二式精霊術』は周囲の精霊の力を使って発動させる能力だ。
イシュガルドの人間は生まれつき、精霊の力を操作する機能が備わっており、生まれつき扱えない人間でも、鍛錬で体得が出来る。
しかし、他の人間は精霊を黙視する事すら出来ないのだ。精霊は情報の塊であり、普通の人間が精霊を認識してしまえば、脳が処理不全を起こしてしまう。
だが、ヘレトーアは精霊を処理する道具を使用する事で人為的に『二十二式精霊術』を使用できるようにしたのだ。
しかし、精霊の扱いは極めて難しい為、道具があったとしても簡単に扱える物でもない。
「けど、『二十二式精霊術』を扱える奴はそんなに多くないんだろ?」
「まぁな。『二十二式精霊術』は扱いが難しい。確かに扱えるのはヘレトーアでも極少数だ」
『二十二式精霊術』は不明な点や分かっていない事が多く、神聖ローマも警戒はしているのだ。
彼の能力は単純な膂力の倍増らしい。それ以外の特殊能力は無さそうだ。
だが、だからと言って油断は出来ない。単純な能力であるからこそ、能力の全容が分かったくらいではあまり意味が無いとも言える。
強力な能力やトリッキーな能力は発動条件がシビアであったり、制約があったりする事が殆どだが、彼の様な単純な能力はどんな状況でもある程度対応出来るし、制約なども救あい事が多いため、汎用性の高い能力であるとも言える。
正直、このまま接近戦に持ち込んだ所でインベルが不利である。右手の骨も完全に砕けている為、しばらくは動かす事も出来ない。
早めに勝負を決めた方が良いだろう。最早、出し惜しみは無しだ。
「【第二解放】」
インベルは【第二解放】」を発動させた。インベルの周囲に霊力の奔流が流れ込んだ。
哀はそのまま警戒を解かなかった。このまま突撃しても良かったのだが、あの霊力の奔流の前では身体が保たない可能性があった。
哀の能力はあくまでも力の強化。身体が硬化する訳では無い。哀はあくまでも慎重を期しているのだ。
「【天炎緋血】」
インベルの姿にはあまり変化が無かった。あるとすれば背中に四翼の赤い翼が生えているだけであった。服装にも変化は無かった。
しかし、『天使』である【赤竜天皇】には変化があった。
赤い剣から巨大な巨大銃に変わっていた。その銃は赤く、まるで血の色のようであった。
インベルの翼が大きく開いた。その翼が展開された瞬間、周囲の霊力、果てには精霊をも吸収していた。
そして、巨大銃から炎の塊が作られていた。
「【炎魂砲撃】」
巨大な炎の塊が発射された。範囲がデカすぎて哀がこの攻撃を回避することは不可能である。
「ならば!切る!!」
哀はそのまま突っ込み、二刀のクナイでインベルの炎の大砲を切り裂いた。しかし、切り裂いた衝撃で炎が爆発した。
だが、哀は身体が焼け爛れていたものの生きていた。そして、そのままインベルに接近した。
インベルは炎の砲撃を連射した。だが、先程の様なふざけた火力と範囲には程遠かった為、哀は攻撃を躱す。
翼を展開させ、周囲にある霊力、魔力、果ては精霊までも吸収し、我がものとする、それがインベルの【第二解放】、【天炎血銃】の最も恐ろしい能力だ。
恐らく、先ほどの一撃は巨大な城を一撃で火の海にするぐらいの破壊力はあるだろう。
しかし、霊力を収束している内は隙が生まれる。そこを突けばいい。
「流石に対応が速いな」
インベルはそう呟いた。
インベルは先程の【炎魂砲撃】により、収束した霊力を一気に使ってしまった。
本来なら一撃で決める予定だったが、流石はヘレトーアの尖兵。簡単には殺らせてはくれないようだ。
「ここからでは銃は撃てまい!」
哀はインベルの目の前にいた。
確かにここからでは銃は撃てない。何故なら、インベルの一撃の威力が大きすぎるからだ。
こんな至近距離で砲撃など撃てばインベルもただでは済まない。
だが、インベルは余裕の表情をしていた。
「【剣形態】」
「が!?何…だと…?」
哀の腹には巨大な体験が突き刺さっていた。
突如、インベルの銃が変形をし、大剣に変わったのだ。
「【炎天血剣】」
哀の腹に炎を流し込み、そのまま哀の腹が爆発し、哀は吹き飛ばされてしまった。
「あ…」
「悪いな…俺の天使は可変式なんだよ」
そう、インベルの【天炎緋血】は銃形態と剣形態の二種類に可変する事が可能である。
周囲の霊力を収束し、力を爆発的に上昇させる事が出来、更に、銃形態と剣形態により、接近戦も遠距離戦も対応可能な万能の【第二解放】と言える。
「さてと…色々話を聞きたい所だが…クソッ!人が来たか…」
インベルは最初から哀を殺すつもりは無く、浄化作戦の事を聞き出すつもりだったのだ。しかし、哀はヘレトーアの軍人だ。
インベルが軍人に手を出した事を知られれば面倒な事になる。
インベルはそのまま逃走する事にした。
哀のあの傷では当分戦う事は出来ないだろう。哀はヘレトーアの中でもかなりの実力者であると言える。そのうちの一人を倒せたのであればまぁいいだろう。
「何だ!?あれは!?人が倒れてるぞ!?」
民間人が哀を発見し、すぐに助けを呼んだ。
その時にはインベルの姿はどこにも無かった。
「ふぅ…ここまで来れば大丈夫か」
インベルはどうにかして誰もいない場所まで逃げる事が出来た。
ここまで来れば一先ずは安全だろう。しかし、敵は思った以上に強かった。
まさか、【第二解放】を使わされる羽目になるとは。敵は思った以上に強大なのかもしれない。
こうなってはインベル一人で対処するのは難しいだろう。しかし、今は神聖ローマは誰一人救援を呼ぶことが出来ない状態だ。
ルミナスが何らかの準備を進めているようでそれが済むまでは援軍は呼べないとの事だ。
なら、インベルがやる事は一つだ。蒼たちと合流する。それしかない。取り合えず、この一件が片付くまでは蒼たちといた方が良いだろう。
だが、インベルは先程の戦いで右腕が砕けてしまい。今は正直、身体を休めたい所だ。
天使の回復力であれば、一晩あれば回復出来る。今日は回復に努める事にする。
幸い、彼らが向かうであろう場所はここからかなり近く、十分先回りできるだろう。
仮に先回りに失敗しても、向かう場所は大体見当がついているのでそこまで気にする事は無いだろう。
彼らも浄化計画絡みでここに来ているようだし、利害自体は一致する。
「けど…何でフローフルあんなに冷たいんだよ…せっかく会えたのに…」
そう、インベルの一番の気がかりだ。
せっかく会えたのに冷たすぎやしないかとインベルは思った。
まぁ、昔からドライな性格ではあったが、基本的にはいい奴なのだ。
今はそんな事を考えても仕方がないが…取り敢えず、今は蒼たちと合流するのが重要だ。
恐らく、刺客は哀だけでは無い。他にも何人かいる筈だ。
それに彼らは『二十二式精霊術』を使用していた。イシュガルドの人間にしか使えない筈の力を行使していたのだ。
彼らはキナ臭い…そう思うには十分である。
そう言えば、アポロはフローフルの事を心配していた。とは言え、彼女は今、連絡がつかない状態だ。
というより、現在『セラフィム騎士団』と連絡がつかないのだ。
「まぁ、いいや。あいつは昔から素直じゃないからな~。照れてるだけだろ!…………多分」
インベルは自分に言い聞かせてみるがやはり結構不安である。
蒼は昔から棘のある発言も多いし…………よくよく考えたらインベルに対してだけな様な気がした。
まぁ、ここでごちゃごちゃ考えても仕方ない。取り敢えず、今は蒼に会いに行く。それを優先すべきである。
蒼たちが向かう先は見当がついている。恐らくはあの場所だ。
ヘレトーアは単純に戦力が未知数という事だけが危険という訳では無い。
民間人もトチ狂っているようだ。シャンベラのあの過剰なまでの宗教勧誘が良い証拠だ。
他の町はそうでない事を祈りたい。
「………今日はもう寝るか…」
そう言ってインベルは眠りに就いた。
To Be continued




