【第六章】ヘレトーア進軍篇ⅡーHowlingー
「いやああああああああああ!!!!」
「マジどうなってんだここー!?」
美浪とスープレイガは絶叫していた。まるで何者かに襲われたかのような、そんな感じだ。
「石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤…(以下略)」
「なんつーか、もう、勘弁してくれ…」
「この程度で折れないで…」
一方、一夜はというと意味の分からない呪文を唱えており、蒼もかなりやつれていた。
そんな中、唯一プロテアのみが冷静であった。
「なぁ?マジこの国どうなってんの?ヤバイんだけど…」
「そう?別に普通だけど?」
蒼は溜め息を付いた。プロテアはそんな蒼たちを不思議そうに見ていた。
では、何故、プロテア以外の四人がこんなトチ狂ったテンションになっているのかというと…それは数時間前に遡る。
蒼、一夜、美浪、スープレイガ、プロテアの五人は飛行船に乗っていた。
彼等が何故、この飛行船に乗っているのかといえば、ヘレトーアに向かっているからだ。
ヘレトーアで決行されるという『浄化作戦』、その全貌を暴き、可能であればそれを阻止する事が目的だ。
しかし、相手はヘレトーア、四大帝国だ。正直、この面子でも厳しい物がある。
相手は一国だ。この五人は一人一人の戦闘力は高いがそれだけでどうにか出来る程甘い相手ではない。
蒼たちも心して掛からねばならない。
「これ、操縦者がいないな…自立制御か…」
蒼がそう呟いた。
どうやら、この飛行船は自動で操縦されているようで操縦者はいないようだ。
自動的にヘレトーアに行くよう、組み込まれているようだ。
「この速度なら後一時間程で着くわ」
プロテアは真顔でそう言った。
一夜は興味深そうに辺りを見回し、美浪は落ち着かない感じであり、スープレイガはヤンキー座りをしながら辺りを見回していた。
「そうか…」
「蒼!中々この飛行船はいい作りをしているよ!」
「お前、テンション高いな~珍しく」
「ああ!この飛行船は自立制御が組み込まれてるんだがこれが素晴らしくてね!」
珍しく一夜がテンションを上げていた。いや、一夜は自分の興味がある事に対しては異様にテンションを上げるのだが、蒼は一夜がテンションを上げる所をあまり見ないので珍しく感じただけだ。
「緊張感の無ぇ奴だな…」
「それはどうも」
「皮肉のつもりだったんだがな…」
「そうかい…」
一夜はスープレイガの言葉を軽くスルーした。
相変わらず、こういう事は上手いなと蒼は一夜に対して感心した。
美浪はというと相変わらず落ち着かない感じで辺りを見回していた。
「美浪?」
「あっ!?えっと…その…こういう乗り物…あんまり乗った事なくて…」
「あー、落ち着かないのか…」
「う…うん…」
美浪は冷や汗をかきながらそう言った。
蒼も飛行船に乗るのは初めてだが、別に落ち着かないとかはない。
美浪は基本的に乗り物には乗らないっぽいので余計に慣れないのかもしれない。
「おい、見えてきたぞ」
スープレイガがそう言うと、確かに大きな大陸が見えてきた。
あれがヘレトーアだ。大陸一つが丸々国の為、かなりの大きさを誇る。
飛行船が着陸していく。どうやら、ヘレトーアの一番外側に着陸していくようだ。
「流石に一気に本拠地まで行くのは無理か…」
「だろうね。こんな巨大な船で移動すれば警戒されてしまうし…ここからは徒歩で行くしか無いね」
「やっと降りられる~」
飛行船はそのまま着陸し、真っ先に美浪が外に出ていた。
「やっぱり、シャバの空気は最高ー!」
「お前は出所した囚人か…」
美浪の言葉に蒼は冷静に突っ込みを入れる。そんなに嫌だったか飛行船。
「ったく、遊びに来たんじゃねーんだぞ…」
スープレイガが呆れ果てていた。確かに緊張感が無さすぎる気もしなくもないが。
「う~ん、ここは海岸のようだね。ヘレトーアには様々な環境があって、ここは一番外側だから海岸になってるんだね」
「ええ、ここからだと近くに都市であるシャンベラがあるわ。そこを目指しましょう」
一夜とプロテアがそう言うと、蒼たちは移動を開始した。
しばらく歩くと確かに大きな町が見えた。
レンガの建物が沢山たっており、商業も発達しているようで中々の繁華街のようだ。
「ここがヘレトーアの宗教都市、シャンベラよ」
「ここ以外にもいくつか都市はあるみたいだね」
「まぁ、今回は行かないけどね」
プロテアと一夜が説明をしていると蒼と美浪は辺りを見回していた。
成る程、中々綺麗な町である。流石に四大帝国の中でも安定している国と言われているだけはある。
「で?どーすんだ?」
「ここで一休みした方がいいと思うわ。どの道、ここから『精霊城』に行くには最低三日は掛かるわ」
「ラウフ・カルス?」
スープレイガの問いにプロテアは答えたが蒼はプロテアの言葉に疑問を持った。その疑問は一夜がすぐに答えた。
「『精霊城』はヘレトーアの軍がいる中心地でヘレトーアのど真ん中にあるそうだよ。僕たちが目指す場所は必然的にここになるね。黒宮さんたちの見立てによるとヘレトーアそのものが計画に加担しているみたいだし」
そう、今回はヘレトーアそのものが敵である可能性が極めて高いのだ。
だからこそ、何も考えずに正面から突入するのは自殺行為に等しい。まずは情報を集めるのだ。
「さて…と…」
蒼がそう言うと大量の人がこちらに来る音がした。
そして、色々な人が宗教の勧誘をしてきた。
「さぁさぁ!!君たちもハデス教に入信しませんか!?しますよね?はい!決定!!!!」
「ねぇ?ねぇ?君もジュルミン教に入らないかい!?何と!この石鹸……食べられるんですよぉ…!!!」
「そんな君にはエルヴィス教!!さぁ!入ろう!いや!入れ!!!」
大量の人があらゆる宗教の勧誘活動をしてやって来た。
あまりの勢いにプロテア以外の四人はドン引きしていた。
それもそうだろう、勧誘に来ている人たちは目が血走っており、頭がイカれてるようにしか見えなかった。
それに、入信の紙を大量にこちらに渡そうとしているので邪魔で仕方ないし、少々、いや、かなり勧誘の仕方が過激であるように思える。
「オイオイ!どうなってんだ!?」
流石のスープレイガも動揺を隠せなかったらしい。
いくら彼でもこんなイカれた眼で勧誘されては不気味がるようである。
意外とそういう所では彼はまともであるようだった。
「ああ、このヘレトーアでは三大宗教以外にも多くの宗教が存在するのよ。でも、三大宗教以外は人が足りないからどこもかしこも必死で活動してるのよ。中でもこの町はかなり過激な方ね」
「それを先に言えよ!」
「いや、ヘレトーアに行けばこんな町いくらでもあるし…」
「誰だ!?この国安全とかほざいたバカは!ちゃんと見てんのか!?」
プロテアが冷静に説明をしていると蒼は溜まらず叫んだ。
三大宗教以外にも多くの宗教がある事は知ってはいたが、まさかここまで過激とは…
イシュガルド教も五十年前にイシュガルドの人間が大量に殺されてはいるが、それ以外のイシュガルド教も多くいるようで、未だにイシュガルド教自体は国に対して影響力を持っているようだ。
だが、それ以外の宗教はどこもかしこも人がいないようだ。
そりゃ、こんなカルト宗教みたいな勧誘をされては人も来ないのも当然だろう。
もっと、節度を弁えて勧誘しなくては人が減る一方だろうに…
「いえいえいえ!こっちには既にイシュガルド教の人がいますので~いいです!」
蒼がそう言うと辺りの空気が変わった。
それは美浪や一夜、スープレイガもそれを察したようである。
プロテアは見慣れているのかあまり大袈裟に反応する事は無かった。
「ぺっ!」
「ゴミが…」
「三大宗教…滅びろ…」
………地面に唾を吐き掛けたり、小声で罵りながら多くの人が去って行った。
礼儀知らずも甚だしいだろう。こんなんで人が来るわけ無いだろう。何を考えてるんだあのバカ共はと蒼は思ったがそんな事を言って、言う事を聞いていればこんな事にはなっていないだろうとも思った。
………マジで誰なんだヘレトーアを安全とかほざいた奴。めっちゃ世紀末やん。
「おい…どこもこんな感じなのか?」
「この町は特に酷いわ。固まって行動すると身動き取れなくなるし、何人かで別れて行動した方がいいわ」
「そうだな…」
「取り敢えず、二組に別れよう」
一夜がそう言うと、蒼とプロテアと一夜で、美浪とスープレイガの二組に別れた。
「おい、美浪…スープレイガと一緒で大丈夫か?」
「あ?時神?そいつぁ、どういう事だ?」
「大丈夫ですよ……多分」
美浪がそう言うと、早速情報を集める為に行動を開始した。
美浪とスープレイガは町を歩いていた。
「綺麗ですね~。あの川とか…」
「興味無ぇ……」
「無愛想ですよ?そんなんだからモテないんですよ」
「……ぶん殴るぞ………」
美浪の遠慮の無い発言に切れそうになるスープレイガ。
今すぐぶん殴りたいところだが、町が町である以上、いつ、あの世紀末状態になるかも分からない。無駄な体力を消耗する訳にも行かない。
「きゃ~!助けて~!!」
そんな声が聞こえた。
スープレイガと美浪は声のする方へと振り向いた。
すると、頭が禿げてるおっさんが、女性をゆっくりした速度で追っている事が分かった。
この時点で美浪とスープレイガは察した。茶番だと…
美浪とスープレイガはゴミを見るような眼で男女二人を見ていた。
「げははは!!俺はセイント教の人間だ!セイント教は悪徳宗教なのだー!」
「きゃー!速くジュラル教に入信して私を助けて下さい~!!」
美浪とスープレイガは黙って立ち去ろうとした。すると、男女二人組が必死で二人を引き止めた。
「いやいやいやいやいや!!困ってる所を見たら助けなさいよ!?学校で習わなかったの!?」
「さぁ!君たちもジュラル教に入信を!!!」
男女二人は眼を血走らせながらそう言ってきた。美浪ととスープレイガは恐怖を感じずにはいられなかった。
「ふざけんな!なら、まず、助けられるような雰囲気作ってから出直して来い!」
スープレイガがそう言って、男女二人を振りほどこうとするが、以外と力が強く、引き離せない。
「えっと…私たち…イシュガルド教なんで結構です!」
美浪がそんなブラフを口にすると二人は途端に冷静になり、スープレイガと美浪から手を離した。そしてー
「「ぺっ!」」
そう言って、立ち去って行った。いや、マジで疲れる、二人は精神的にかなり磨耗していた。
「おいおい…まさか、これがずっと続くのか?」
スープレイガがそう言うと、美浪は顔を俯かせた。
案の定、勧誘は続き、あの手この手を駆使して勧誘してきた。
そして、美浪とスープレイガは走りながら発狂した。
「いやああああああああああ!!!!」
「マジどうなってんだここー!?」
スープレイガと美浪はしばらく走り続けた。
誰もいなさそうな場所まで逃げた。
全力疾走した為、相当息切れしていた。
「マジ…どうなってんの?ここは……」
「こっちが聞きたいですよ…」
スープレイガがそう言うと、背中に何か入っている感じがしたので背中をまさぐると大量の入信書が入っていた。
スープレイガは血相を変えて、再び発狂しそうになる。
「一体…とうやって…俺…走り続けたし入れられた記憶無いぞ??え???何これ……呪い???」
スープレイガかなり精神的に不安定になっていた。
いや、マジでスープレイガはどうにかなってしまいそうな勢いであった。
美浪も彼等の執念に軽く…いや、相当恐怖を感じていた。
これはスープレイガでなくとも恐怖を感じずにはいられないだろう。
「これ…私たち生きて帰れるんですかね…」
美浪は力無くそう呟いた。
ヘレトーアに来て早々、別の意味で危機に瀕していたのであった。
蒼とプロテア、一夜は店にいた。
取り敢えず店に行っておけば安全だろうという考えたのだが、それが如何に安易な考えかを思い知る事になる。
「イシュガルド教のあなたはこちらを」
そう言って、店の人はプロテアに犬の骨を置いた。
しかし、プロテアは無表情であった。どうも慣れているようだ。
蒼と一夜は何とも言えないと言った表情をしていた。
「あなたたち!イシュガルド教なんかより、ミルス教に入りましょう!ミルス教はこの洗剤があるんだけど………食べれるんですよぉ……ふひひひ…」
店の人がそう言うと、一夜と蒼は冷や汗をかいていた。
プロテアは店の人の前に鉄の針を発生させた。
「ひっ!?」
「ねぇ?速く注文した品物を持ってきて来れるかしら?」
プロテアがそう言うと、店の人は「三大宗教滅びろ…」とだけ呟いて去って行った。
蒼も一夜も既に心が折れそうだった。
まったく、この町は景色や観光にはもってこいなのに…どうしてこうなった…カオスだ。この町はマジでどうなってるんだ…
「なぁ?ここからさっさと出ていった方がいいんじゃねーか?」
「それは無理ね。今から出ていったら日が暮れてしまうわ。………せめて、今日だけはどうにか凌ぎましょう…」
「えっと…プロテアは大丈夫なのかい?随分、ぞんざいな扱いを受けているが…」
「別に問題無いわ。どこに行ってもこういうのは付き物よ」
プロテアは冷静にそう言った。
蒼と一夜はプロテアがかなり可哀想に見えてきた。不憫すぎるだろう、流石に。
「そんな事より、あなたたちの方が大丈夫?この短時間でかなりやつれてるけど…?」
「この状況でやつれない君の方が僕たちからしたら異常なんだけど…」
「同感だな…」
プロテアはこの国出身だから慣れている…という事だろう。
蒼と一夜はあまりこういう事には慣れたく無いなと感じた。
しばらくして蒼たちは食事を済ませ、早々に店を出ていったが、待ち伏せされていたのか蒼たちに人が集まってきた。
「君君!是非、ジュラル教に!」
「この石鹸、食べれるんですよぉ!!」
「入信すればあなたも気持ち良くなれますよ!!!」
早速これだ。蒼も一夜も顔に手を当てた。
プロテアは蒼と一夜の手を掴み、ダッシュで走った。
「「ぬあああああああああああああああああああああ!!!」」
蒼と一夜はあまりのスピードに絶叫した。
しかし、後ろから多くの人たちが追尾してきていた。
プロテアのこの速度について行けるとか人類化け物かよと蒼は思ったがそんな事を口にする余裕もない。
「是非、入信をー!!!」
「入信書もありますよ!!」
「入信すれば!フライパン貰えるよー!!」
「石鹸と洗剤ーーー!!!!」
「コッペパンーー!!!」
後半の台詞は最早何が言いたいのか意味不明であった。
蒼は割りと意識は保っていたのだが、一夜がこの速度と風圧によって酔ってしまったのかかなりグロッキー状態だった。
「お、おい!一夜!大丈夫か!?おい、プロテア!止めろ!!もう人はいないから!!!」
蒼がプロテアにそう言うと、プロテアは突然走るのを止めた。
その反動で蒼と一夜が吹き飛び、電柱に顔をぶつけた。
「痛ってーーー!!」
「あ~、ぎもぢ悪…い…」
「大丈夫?」
「ああ、何とかな。一夜…お前は大丈夫か?」
「うん…何とかね…一応、動けるよ」
一夜はそう言いながら、割れた眼鏡を取り、ポケットからケースを取り出した。
そして、そのケースに手を突っ込み、そこから眼鏡のスペアを取り出し、そのまま掛けた。
「何?それ…もしかしてそのケースの中に無限に眼鏡があるのか?」
「無限では無いけど…それなりにあるよ」
「四○元ポケットかよ…」
蒼は呆れたようにそう呟いた。
プロテアは一夜の持っているケースを不思議そうに見ていた。
「そのケース…無限に物を入れられるの?」
「いや、限りはあるよ。というか、僕のこの眼鏡ケースには眼鏡しか入れてないし」
一夜はプロテアの質問に答えた。
「それにしても、ここどこだ?」
「ここには人はあまり来ない筈よ」
「正直、外は動けたもんじゃない。さっさとホテルでも探して僕が情報収集した方が速そうだ…」
「そうだな」
そう言って、蒼たちは歩き出した。
すると、目の前に小さな少女がいた。少女は歩いていると足を滑らせ、転んでしまった。足を怪我してしまったようだ。
「大丈夫か?」
蒼はそう言って、少女の元へと駆け寄った。
「怪我は大した事無さそうだね」
一夜はそう言って、少女の足に包帯を巻いた。
プロテアは訝しげな眼で蒼と一夜、少女を見ていた。
「何かしら?この展開…どこかで…」
プロテアが何やらブツブツ言っていたが、蒼たちは気にしない事にした。
「ありがとう!お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
「ああ、これから気を付けるんだぞ」
ーああ、こんな頭のおかしいキ○ガイが蔓延る中、こんな普通の少女もいるんだな!
蒼は疲弊していた心が回復している気がした。それは、一夜も同じであるようだ。
「ねぇ!お兄ちゃん、お姉ちゃんの名前教えて!」
「時神蒼だ」
「苗木一夜だよ」
「………」
蒼と一夜は自己紹介する中、プロテアだけが何も言わなかった。
まるで少女の事を警戒しているようだった。
「ねぇ、トキガミアオってどう書くの?」
少女が蒼に紙を渡す。
「ああ、それはね………はっ!?」
蒼が名前を書こうとしていたが、蒼はその直前、自分が書こうとしていた紙が何なのか気が付いた。
これはーこれはーこれはー
少女の眼は鋭い眼光を放っていた。まるで、「速く名前を書け」と言っているようであった。
蒼は両手が震えていた。一夜も蒼の挙動不審な行動に気が付いたのだろう。
一夜も顔を引き吊らせていた。
「ふん!!!!!」
蒼は直ぐ様、紙を引き裂き、そして、発狂した。
「クソッタレえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
「お兄ちゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!」
少女は泣きながらそう言った。
一夜も絶望したような顔をしていた。
「この流れ、見たことあるわ」
プロテアが自然な感じでそう言った。
そして、スープレイガと美浪と合流するまで蒼たちは過激な勧誘を受けて、今は三人共、ベンチに座っていた。
何と言うか、蒼と一夜は既に心が折れていた。完全に眼が虚ろになっていた。
「石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤…(以下略)」
「なんつーか、もう、勘弁してくれ…」
「この程度で折れないでよ…」
一夜は訳の分からない呪文を唱え出し、蒼はかなりやつれていた。
プロテアは割りと平気そうであった。そのメンタルを少しでもいいから分けて欲しいと蒼は思った。
「というか、一夜のその呪文もどっかの作品で見たことあるんだけど止めた方がいいわよ」
「え?何?どっかの作品って?」
「あー、アニメの話よ。多分、フローフルには分からないわ」
「いやー、展開があまりにも似すぎてるからつい…ね…はは…」
こんなにやつれてる一夜を見るのも珍しい。普段は常に余裕な感じを出しているので尚更目立つのかもしれない。
「あ、スープレイガと美浪も来たみたいよ」
プロテアが指を指した。
蒼と一夜は二人を見た。すると、二人は何かを察したように美浪とスープレイガを見つめた。
美浪もスープレイガも二人とも眼は死んでおり、ほほ満身創痍な状態であった。
「はは…あちらも…僕たちと似たような状態だったんだね…」
「この国は狂ってる…」
一夜と蒼は二人の心情を真に強くお察しした。
何故なら…自分達も似たような状態だからだ。
「なぁ?マジこの国どうなってんの?ヤバイんだけど…」
「そう?別に普通だけど?」
スープレイガの言葉に対して普通にプロテアは返した。
フラットな奴だなと蒼は思った。
五人は早速、ホテルに直行し、部屋を借りた。
…案の定、ホテルでも過激な勧誘が行われたが蒼たちは何とかこれをはね除け、部屋に入っていった。
部屋は一部屋だけ取った。正直、二部屋取る理由が無かった。
恐らく、ヘレトーアには多数の観光客も来ており、観光客らしき人物も何人か見たが例外無く皆、眼が死んでいた。
蒼は自分達だけでは無かったんだなと思い、なんか悲しくなった。
「明日にはこの町でよう、マジで。というか今すぐ出たいくらいだ」
「夕食は予め買っておいたから今日はこれで凌ごう…」
「ホテルに止まってる筈なのに何でこんなサバイバル生活っぽくなってるのかしら?」
蒼と一夜が物思いに言うなか、プロテアはいつも通りであった。
美浪もスープレイガも蒼たち同様にかなり参ってるっぽいが…
「逆にこの状況で平気なお前が凄えよ」
「ですね~」
スープレイガと美浪は力無くそう言った。
まさか、ヘレトーアがここまで世紀末してるとは思わなかった。
どうしてこうなったと言いたいくらいにはえげつない町である。
「外には出れない。どこから襲われるか分かったもんじゃないしね。しかも、幼い子供を使ってまで勧誘する下劣な奴等だ!奴等に対して絶対に油断してはいけないよ!」
一夜が力説をした。
美浪とスープレイガは一夜の言葉の意味があまり分かっていたかったが、被害者である蒼は耳が痛くなるような言葉であった。
一夜の言葉の意味をプロテアが冷静且つ端的に美浪とスープレイガに説明した。
「成る程な…弱そうな奴を使って獲物を誘い込む…戦いの常套手段だ…」
「ヘレトーアは思った以上に策士ですね…!」
二人は真剣な顔でそう言った。
蒼と一夜も訳の分からないテンションになっており、そんな四人を見て、プロテアは一言だけ吐き捨てた。
「バカらしいわね」
「取り敢えず、僕は色々ネットを使って調べてみるよ。君たちは自由にしているといいよ」
蒼、美浪、スープレイガの三人は疲れたようですぐに寝付いた。
プロテアは一人で外の景色を見ており、一夜は小型パソコンを弄っていた。
「眠れないのかい?」
「そういうあなたも、さっさと寝た方が良いんじゃないかしら?人間は貧弱なんだし」
「そういう君も…いや、君はそんな見た目だけど五十年以上生きているんだったね」
「そう言う事よ」
「まぁ、まだ寝るような時間でもないしね。……疲れる気持ちも分かるけど…」
一夜は今日一日の事を思い出すと心が折れそうになる。子供に騙されそうになった時は何の冗談でもなく心が折れそうになった。
プロテアは慣れていると言っていたが、正直、一夜は慣れる気がしない。…慣れたくもないが。
プロテアはこの五人の中で一番年が上だ。人間だというのに奇妙な話である。
一夜、蒼、美浪は同年代だし、スープレイガも蒼たちより少し年が上なだけらしい。
「フローフル…不思議な人ね」
「そうだね。彼といると退屈しない」
「あなたたち、付き合い長いんですってね」
「まぁね、あれこれ、出会ってから八年くらい経つからね~」
「五年前じゃないの?」
「初めてあったのは八年前だよ。確かに五年前から頻繁に連絡を取るようになったけどね。蒼と直接毎日会うようになったのも三年前からだし…」
プロテアは聞いていた話と少し違っていたので驚いたが、どうやら、十二支連合帝国側は蒼たちの事を完全に把握しきれていないようだ。
蒼もそれなりに秘密主義を貫いているようだし、一夜も同じのようだ。しかしー
「何で私にわざわざ?私はこの中で一番信用できない筈だけど?」
そう、プロテアは以前までは敵同士であったのだ。信用できる筈も無い。
にも関わらず、一夜はプロテアに割と砕けた態度で接していた。プロテアだけでは無い。
蒼はまぁ、まだ分からなくも無いが、美浪も一夜と変わらず同じように接していた。
スープレイガは流石にプロテアの事を警戒しているようであったが、プロテアには一夜の心理が理解できなかった。
「蒼が君を信じてるからだよ。それだけで信じる理由になる」
「あなた…賢いと思ってたけど、意外と馬鹿なのね」
「そうかも知れないね。けど、蒼が信じている者を疑うのはやっぱり僕には出来ないね」
「随分、フローフルの事を買ってるのね」
「それは、君もだろう?」
一夜が悪戯っぽく笑いながら言うとプロテアは一夜から視線を逸らした。
一夜はそれを図星と捉えたようで更にクスクスと笑った。
「何がおかしいのよ?」
「いや、僕たちは、意外と似た者同士なのかもしれないね」
「馬鹿馬鹿しい…」
「かもね…」
そう、一夜は蒼と出会ってあの出来事があってからは蒼を信じると決めたのだ。
ここは神聖ローマの大地。
蒼は仲間と共に走っていた。左に赤い髪をした少年、左に薄紫色の髪をした少女がいた。
やがて、三人は散り散りになり、蒼は一人の男と対面した。
男は蒼の前に立ち塞がっていた。蒼は男を無理矢理退かせようとした。
しかし、それは叶わなかった。そして、蒼は捕らえられ、二人も捕らえられた。
身体を縛られている蒼は叫び続けた。ずっと、ずっと…
「はっ!?」
蒼は眼が覚めた。朝になっていた。どうやら、悪夢にうなされていたようだ。
プロテアのみ起きていたが、他の三人はまだ眠っていた。朝とはいえ、6時頃だ。起きるには少し速いかもしれない。
「どうしたの?怖い夢でも見てたの?」
「昔の…夢をな…」
「どんな…夢だったの?話したくないんだったら別に答えなくてもいいのだけれど…」
プロテアは単純に蒼の昔の事が気になったのだ。
「仲間と共に、守りたいものの為に戦った。けど、勝てなくて…俺は失った。そんな夢だ」
蒼はそれ以上は話さなかった。
実は蒼が何故神聖ローマから逃亡したのかは一夜すらも知らないのだ。
しかし、今の話は恐らく、それに関係する話であろう。
「朝だな…綺麗な空だ…」
「そうね…」
「はぁ…観光には持ってこいの場所なのに……人間だけが汚れてる…」
「そればかりは同意するわね」
蒼は遠い眼でそう言うと、プロテアはあっさりと同意した。
プロテアもプロテアで色々思うところはあるのだろう。
「人は弱いわ、いつでも己を守ろうとする。だから、見てみぬフリをする」
「…そうかもな」
そう、人は自分の身の危険があるといつだってやる事は決まっている。
見捨てる…いや、そうしなければ生きられないのだ。
いい人ほど先に死ぬというが正にその通りだ。
蒼もそれを痛いほど分かっている。しかし、それは人間に限らない。
魔族も同じだ。いつだって自分を守ろうとする。
だが、蒼は知っている。それでも、誰かの為に生きようとしている者がいる事を。
だからこそ、蒼は進み続けなければならない。
「けど、そうじゃない奴もいる」
「…そうね。確かに心当たりあるわ。そういう、お人好しのバカたたちがね」
プロテアは肩の荷が降りたかのようにそう呟いた。
プロテアは前回の戦いを経て、確実に変わった。
蒼と慧留との出会いにより、変わった。
プロテアは今、復讐の為に戦っているのではない。大事な人たちを、身近な人たちを守る為に戦っている。
蒼や慧留のような人間がいるんだと…この世界に可能性を見せてくれた、あの二人のお陰で。
プロテアがそんな事を考えていると美浪とスープレイガ、一夜が眼を覚ました。
「じゃあ、行くか」
蒼たちは町を出て歩いていた。
すると、フラフラになりながら、こちらに向かって歩いている人物がいた。
赤い髪が特徴であり、瞳も真っ赤である。白を基調とした服を着ているがちょこちょこと赤い意匠が施されていた。
黒と蒼色を基調とした蒼の服装とは対極である。
「何だ?あいつ?」
スープレイガが訝しげな顔でそう呟いた。
しかし、蒼のみは彼の顔に見覚えがあった。そう、彼はー
「インベル…」
蒼はそう呟いたのであった。
To be continued




