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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第六章】ヘレトーア進軍篇
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【第六章】ヘレトーア進軍篇Ⅰー反逆する人類ー

 イシュガルドの事件が収束した。

 そして、プロテアの口からヘレトーアが行おうとしている浄化作戦の事を知った蒼達はそれを止めるべくヘレトーアに向かった。

 今、ヘレトーアと蒼達の激闘が幕を明ける。

 五百年前、人類は魔族に対して反旗を翻した。

 その名も『ヒューマニックリベリオン』。この戦争により、人類は魔族を掌握し始める。

 このヒューマニックリベリオンは人間が霊呪法を体得した事により、魔族を退けたと言われている。

 それは、間違いだ。いや、確かに霊呪法は戦争の勝利には大きく貢献しただろう。

 だが、それだけで魔族から領土を取り戻せるほど、甘い相手では無かった。

 では、何故か?それはある一人の少年がきっかけとなる。

 彼の名はーアラルガンド・セクラム。後にヘレトーア最強の騎士と呼ばれる存在により、人類は再び復活を遂げる事となる。





 アラルガンド・セクラムは一人だった。そう、生まれた時から一人だった。

 両親の顔は知らない。物心つく前から魔族に殺された。

 親しい友人もいなければ、拠り所とする人もいなかった。そう、アラルガンドは本当に一人であった。

 それでも、アラルガンドは心が完全に壊れる事は無かった。

 アラルガンドには友がいたからだ。それが、アラルガンドが昔から持っている長剣だ。

 この長剣には意思が宿っているようであり、アラルガンドは長剣と対話できていた。

 この長剣はアラルガンドが物心つく前から持っていたらしく、この長剣はアラルガンドが持つまではローマ帝国、後に神聖ローマと呼ばれる場所に安置されていた。

 何故、アラルガンドの元にこの剣が現れたのは分からない。だが、それでも、アラルガンドにとって、この長剣は心の拠り所であった。

 今は戦争中だ。人類は魔族により、滅ぼされかけていた。それでもなんとか持ちこたえられているが時間の問題であった。

 特に天使、悪魔、神々は強大な力を持っており、人間たちでは手も足も出なかった。

 そもそも、何故、魔族は人を襲う。その理由も分からない。それだけではない、魔族同士で争う事もある。というより、魔族同士で争う事の方が圧倒的に多い。

 人類はそれに巻き込まれてついでに滅ぼされかけている…といった所だ。

 突然現れて、突然滅ぼされかければそれは世話無いだろう。


「知りたいか?何故、魔族同士で争うのか…」

「まぁ、少しくらい、気にはなるな」


 長剣の問い掛けにアラルガンドはそう答えた。


「なら、教えようか。『世界宮殿(パルテノス)』だ」

「パルテノス?なんだそれ?」

「『世界宮殿(パルテノス)』またの名を『世界宮殿(せかいきゅうでん)』。今から五百年前に現れた宮殿だ。『世界宮殿(パルテノス)』はこの世界の楔だ。その世界宮殿を支配すれば世界を我が物に出来ると…他の魔族たちは考えているようだ」

「それで、争いを?まったく、いい迷惑だな…で?何でお前は俺にそんな事を教えた?「ケルビエル」?」


 アラルガンドは長剣…ケルビエルに訪ねた。

 ケルビエルは物心ついた時からずっとアラルガンドと共にいた。

 そして、時折、長剣から「本当の姿」になる時もあったが、今は長剣の姿になっている。


「私は…お前の願いを叶えているだけだ。私は他人の信仰心を力としている。何度も言っているだろう?それとも、「何か他に目的があるのでは?」と考えてるのか?」

「ああ、まぁ、そうだな」

「そうか、まぁ、この煩わしい戦争を止めたいのが強いて言うのなら目的だな。この空気は好きではない」

「それで?「お前がこの争いを止めろ」と?」

「そうだ」

「断る」


 アラルガンドはあっさりとケルビエルの要求を断った。

 アラルガンドは今の生活に満足している。今更、この世界に変革を起こして要らぬ恨みを抱かれたくもない。

 歴史を変える事が出来る、出来た者たちは例外も無く、誰かに疎まれ、憎まれ、悪役(ヒール)となる。

 英雄も、国や価値観、環境が違えば暴君に変わる、それと同じだ。


「唯一の親友の頼みも聞けんのか?」

「恩着せがましい」

「私はどのみち、この環境では生き残れない」

「どういう事だ?」

「私は今の汚れた環境では生き残れないのだ」


 ケルビエルは潔癖の天使だ。

 今は大戦中であり、世界中の空気が淀んでおり、汚れている。

 黒い灰や黒い雨なども発生しており、生身の身体ではまず耐えられない。

 人間が当たれば人堪りもない。それは、ケルビエルも例外では無いようだ。


「私はこの五百年、どうにか生き残れたのだが…もう、限界が近い。そもそも、私は貴様と会う前に死んでいる筈だった。そんな時に貴様の両親と出会った」

「俺の…両親に…?」

「お前はその時、物心がついてなかった。貴様は黒い雨により、身体を蝕まれていた。貴様の両親も同様だった。貴様の両親はお前を助ける為に自身の命を私に捧げたのだ」

「………」

「それで私は貴様の中の黒い雨を浄化し、どうにか生き延びる事も出来た。しかし、それももう、限界だ。この世界の争いを止めねば、私もあなたも…死ぬ」

「………」


 アラルガンドは少し考えた。

 自分の命は自分一人だけのものではない。それを改めて知る事となった。

 正直、自身の命などアラルガンドにとってはどうでもよかった。

 しかし、親友が死に瀕しているというのであれば話は別だ。

 アラルガンドは覚悟を決めたようにケルビエルを見た。


「分かったよ…しょうがねぇな…手助けしてやる」

「感謝するよ」

「なぁ?何でお前はそんなに生き残りたいんだ?」


 アラルガンドは疑問に思った。

 こんな糞みたいな世界を何故、生き残りたいと思うのか…分からない。

 少なくともアラルガンドは生き残りたいとはあまり思えなかった。

 理由も無く死ねないからただ漫然と時を過ごしている。

 そう、人は理由が無ければ中々死ねないものだ。生きる事に理由は無くとも出来る。

 だが、死は自分の中で理由を作っておかなければ出来ない。なんとも不思議なものである。


「貴様と生きたい…それだけでは駄目か?」


 ケルビエルはそう言って、長剣の姿から黄金色の少女の姿へと変化した。

 この姿こそ、ケルビエルの本来の姿である。瞳は金と銀のオッドアイであり、なんとも神秘的な見た目をしている。

 アラルガンドは少し戸惑ったが、アラルガンドもケルビエルと同じ理由だ。

 ケルビエルが死んで欲しくないから、戦う事に決めた。

 本当に大切な事は、いつだって単純で、ありきたりな事なのだ。

 だから、ケルビエルの言葉にアラルガンドは妙に納得していた。


「じゃあ、早速、世界に喧嘩売りに行くか」

「その前に私と正式に契約を交わさないとな」

「どういう事だ?」

「私と貴様は今までは仮契約状態であった…という訳だ。言っただろう?貴様は物心つく前から私といたと。その時点で契約自体は結ばれていたが、貴様の意思が無かったから完全に契約していた」


 そう、つまりはアラルガンドがケルビエルと完全に契約を交わすことで更なる力を得る事が出来るのだ。

 アラルガンドは元から霊力が高かった。ケルビエルと共にいても何も異常をきたしていないのがその証拠だ。

 ケルビエルは常に特殊な霊力を放っており、長時間共にいるだけで精神が壊れてしまう。

 仮契約をしていたとはいえ、アラルガンドに異常が無かったのはアラルガンド自身の脂質が大きいのだ。


「なら、さっさと始めるぞ」

「ああ」


 二人は契約を交わし、アラルガンドは魔族たちに喧嘩を吹っ掛けたのであった。







 アラルガンドは旧オーストラリアを先導、そして、霊力の扱い方をあらゆる人々に教えた。

 人間たちはその力を応用していき、霊呪法を開発した。

 更に、旧オーストラリアに残っている人類を手当たり次第集め回った。

 更に、アラルガンドは孤立した魔族を吸収して味方として取り込む事で戦力を増強させた。

 流石に、天使や神々、悪魔を仲間に率いれるのは無理だったが、相当な戦力をアラルガンドは手にしていた。

 これで、人類の一定の地位は約束されるだろう。だが、三大皇族の力は絶大であり、彼等が仮に手を組めば、こちらの勝ち目は無くなる。

 アラルガンドはたったの短期間でここまで成果を上げる事が出来たので上出来と言えるが、それでも彼等三大皇族の力は絶大であり、真っ向から挑めば勝ち目はゼロだ。

 なら、人間に利用価値があると思わせればいいとアラルガンドは考えた。


「成る程…ね…」


 ケルビエルが長い髪を弄りながら、アラルガンドの考えを素直に称賛した。

 ケルビエルはかなり身体が衰弱していた。平気そうな顔をしていたが、アラルガンドはケルビエルの状態を理解していた。


「……間に合いそうか?」

「ケホッ…ああ、大丈夫だ…」


 ケルビエルは明らかに無理をしているのは明らかであった。

 吐血をするようになってから何日も経っていた。

 しかし、焦る訳にもいかない。ここで一手ミスるとその時点でもれなく人類全員ゲームオーバー。ケルビエルを助ける所では無くなってしまう。

 だからこそ、アラルガンドはケルビエルが保たない時の為にもう一つの手段を考える必要がある。

 アラルガンドはケルビエルと共に生きたい。生きていたい。そう、思うようになっていた。


「後…少しだ…!」









 しかし、アラルガンドの思いは虚しく、失敗に終わってしまう事となった。

 争いを一時的に止める事が出来た。三大皇族は人類に興味を持ち、生かす事にもなった。

 しかし、それだけでは争いを完全に止める事は出来なかったのだ。

 人類は守られた。しかし、アラルガンドが一番守りたかった者を…守る事は出来なかった。


「私は…ここまでだ…済まない…」


 ケルビエルは横たわってそう言った。

 アラルガンドはまだ、諦めてはいなかった。


「俺は…まだ、諦めない。必ず、お前を迎いに行く」


 アラルガンドはそう言って、ケルビエルを長剣の姿に変えた。これで、ケルビエルは休眠状態に入った。

 しかし、死のギリギリである事には変わり無い。あくまでも凍結させただけだ。

 アラルガンドはケルビエルを生き返らせる。そう誓った。あの時交わした約束…それを果たす為に。

 アラルガンドは何故、自分がこんなに必死になっているか分からなかった。

 だが、アラルガンドは進むしか無いのだ。


「いずれ来るであろうその時まで…俺は生き続ける」


 アラルガンドは長剣を持ち、歩き出した。


 そして、旧オーストラリアは新たな人間の国が形成された。それは、後に「ヘレトーア帝国」と呼ばれるようになる。

 そう、ヘレトーアは四大帝国の中でも一番始めに国として形成された国なのだ。

 ヘレトーアからUSW、神聖ローマ、十二支連合帝国と続いていく。

 ヘレトーアのシステムをあらゆる国が真似ていった。

 魔族たちは人間に利用価値があると判断した。どうにか人間たちは魔族たちと関係を取り持っていた。

 アラルガンドはそれからケルビエルを生き返らせる手段を探し続けた。

 今はヒューマニックリベリオンが終結した。だが、平和とは程遠い。

 言うなれば今は停戦状態なのだ。アラルガンドは研究を続けた。








 そして、アラルガンドは三百年の時を過ごした。すると、大きな大戦争が起こった。

 その名も「天使大戦」。人類はアラルガンドの予測を遥かに越える形で力をつけていっていた。

 アラルガンドもその戦争に参加した。恐らく、この戦争に勝利すれば、世界が以前より平和になる、そう確信していたからだ。

 アラルガンドにとって最も予想外であったのは悪魔を味方につけた男がいた事だ。

 彼の名はクリフォト・ユールスナール。後にカーシス・ベルセルクと名を変える事になる男だ。

 彼はアラルガンドの考えた国のシステムを採用し、USWを創設した。

 更に、クリフォトはあらゆる悪魔を手中に納めており、事実上、人が悪魔を掌握したのだ。

 これにより、戦況は大きく傾く事となった。


「ご協力、感謝しますよ。アラルガンド君」

「こちらこそ…と、素直に言うと思うか?カーシス卿?」


 アラルガンドはカーシスと初めてこの時対面したが得体の知れない雰囲気を気味悪く感じた。

 黒ずんだ青色の髪に瞳、黒い法服を着た、不気味な雰囲気を持つ男だ。

 成る程、只者では無い、敵に回すと厄介だとアラルガンドは直感した。


「随分、疑われてるね、私も。君も私も「似た者同士」だと言うのに…」

「!? 貴様…一体どこでそれを…?」


 カーシスがそう言うとアラルガンドは彼の言葉の意味に気が付いたのか驚きを隠せなかった。


「私だけ君の事を知っている…というのは不平等だね…なら、教えようか。私も君と同じで「契約」をしてるんだよ。君は天使と契約しているようだが…私は悪魔と、契約している」

「私が聞きたいのは何でお前が私の「契約」の事を知っているのかだ」

「それについても簡単さ。契約している私の悪魔、アンタレスから聞いたのさ。今から三百年前らしいね。まぁ、私は契約して間もないから君ほど歳は喰ってないけどね」


 ケルビエルはアラルガンドにより、凍結状態になっているだけで、死んでいる訳ではない。

 なので、契約自体は解除されておらず、アラルガンドは人間を越えた存在になっているままだ。

 故に通常の人間より長寿であり、三百年生きていてもまったく老化していない。

 恐らく、クリフォトも同じなのだろう。彼とは長い付き合いになるかもしれない。アラルガンドはそう考えた。

 そして、クリフォトを敵に回さぬようにしなければと思った。

 彼を敵に回す事で自身の目的が達成されなくなる可能性があるからだ。

 そうでなくとも未だケルビエルの蘇生法が分かっていないのだ。焦りもする。

 クリフォトはアラルガンドの考えを見抜いたようにこう語ってきた。


「君は…かつて自分が愛した天使を生き返らせたいのだろう?『神降ろし』なんて方法があるよ?」

「神…下ろし…だと…?そんなもの、出来るわけ無いだろ!?」


 神降ろしとはその名の通り、神をこの世界に降臨させる事だ。

 だが、ケルビエルは天使だ。それに、この世界に残留している以上…『神降ろし』など出来る筈も無い。


「天使を神に昇華させれば、どうかな?」

「!?」

「理論上は可能な筈だ。実際、アンタレスにも聞いてみたが、不可能では無いそうだ」

「……」


 アラルガンドはケルビエルを生き返らせる糸口を見つけた事より、クリフォトの頭脳に驚いた。

 成る程、多少ぶっ飛んだ考え方だが、それなら、不可能では無い。

 だが、クリフォトはあくまで提唱しているだけであり、恐らく、誰もこの方法は試した事は無い。

 いや、試す機会が無いのだから、試す事も無いのだ。

 だが、試そうとしている男が、ここにいた。


「ふっ…成功する事を期待するよ」


 クリフォトはそう言って、アラルガンドから去っていった。


「天使を神に…か……」


 アラルガンドは笑みを浮かべ、「ついに見つけた」と言葉を溢した。








 アラルガンドは天使を神に昇華(シフト)する研究を始めた。そして、神に比較的近い人類を発見した。

 イシュガルド人だ。彼等は神である【ダーラマラン】によって、力を与えられた部族だそうだ。

 故に、彼等は【ダーラマラン】を信仰していた。

 アラルガンドはまず、この【ダーラマラン】について調べた。そして、分かった事がある。

 【ダーラマラン】と言う名は偽りの名前であった。本当の名前はイシュガル・ポセイドン・パルテミシア。

 『世界宮殿(パルテノス)』を守護するパルテミシア十二神の一人だ。

 パルテミシアは『世界宮殿(パルテノス)』の守護者として『世界宮殿(パルテノス)』黎明期から守護していたのだ。

 世界を安定させる為に。結局、どのみち、彼等の争いは無駄だったという事だ。

 なぜなら、既に守護神がいるのだから。

彼と交信した人物がいるそうで、その人物がイシュガルドたちに力を与えた。

 神の力を盗んだ人間がいる。その事にアラルガンドは驚かずにはいられなかった。

 その力が『二十二式精霊術(アルカナ)』だ。イシュガルドはこの特殊な力により、己の身を守っていた。

 元々『二十二式精霊術(アルカナ)』は神しか扱えない力なのだ。

 しかし、それを人間が扱えるようになっていた。アラルガンドはイシュガルドを着目しだした。

 アラルガンドは当時のイシュガルド教のリーダーであったエルヴィス・イシュガルドと利害の一致で手を組んだ。

 そして、彼等イシュガルド教をヘレトーア帝国の一番始めに出来た重要な宗教になった。

 研究を続ける内にアラルガンドは天使を神に昇華(シフト)させる方法へと辿り着いた。

 それは、三体の神の依り代を人柱にする事だ。それを知ったアラルガンドは自身も宗教を創る事に決めた。

 神の依り代を創るには信仰心が必要だ。自身も人柱となり、宗教を作り出す。

 そして、アラルガンドは【ケルビエル】を宗教神とした『セクラム教』を創った。

 最後の三つ目の『セイント教』、この宗教もアラルガンドが創り出した宗教だ。

 【グノウェー】と呼ばれるヘレトーアに住む太陽神をアラルガンドが手懐けたのだ。

 【グノウェー】は太陽神ではあったが、意思を持たない動物のような神であった。

 そして、この【グノウェー】を宗教神とした宗教、『セイント教』をアラルガンドが広め、別の人物に『セイント教』のリーダーを任せた。

 その人物がルバートの先祖であるピアノ・セイントであった。

 やがて、このセイント教は三大宗教の中でも最も有名な宗教になった。

 これにより、ヘレトーアの三大宗教が生まれたのだ。後はこの三つの宗教の信仰心を大きくすれば、儀式が出来る。


 そして、百年後、訪れた儀式の時、アラルガンドは天使を神に昇華(シフト)させようとした。

 ヘレトーアの巨大な城、精霊城(ラウフ・カルス)。ここで儀式を行う事となった。

 アラルガンドは儀式の話をし、成功すれば人類に大きな力を与えられるだろうといい、儀式を了承させた。

 まぁ、儀式が成功すれば必然的にそうなる。何故なら、神の力を手に入れるのだから。


「始めるぞ」


 アラルガンドは魔方陣を描き、中心に自身の持つ長剣、『ケルビエル』を突き刺した。

 この儀式は極秘で行われており、他の者たちは知らない。

 魔方陣に立っていたのはピアノ、エルヴィス、アラルガンドの三名だ。

 そして、ケルビエルを神に昇華(シフト)する術を発動させた。

 城は、大地は揺れ、地面から巨大な目玉が出現した。そして、目から輝きが放たれ、全てを飲み込んだ。








「ここは…?」


 アラルガンドは目を覚ました。長剣からケルビエルの霊体が現れた。

 間違いなく、神の力だ。どうやら、ケルビエルを神に昇華させる事に成功したらしい。

 だが、これで終わりでは無い。まだ、神降ろしは終わっていないのだ。


「ケル…ビエル…」


 アラルガンドはケルビエルの名を呼んだが、ケルビエルは答えない。あくまでも昇華(シフト)が成功しただけであり、意識は戻っていない。

 やがて、ケルビエルの霊体は消え、長剣に戻っていった。


「次こそ、お前に…」


 アラルガンドがそう言い掛けるとある事に気が付く。そう、エルヴィスとピアノが倒れていた。

 アラルガンドは二人を抱き抱えて起こそうとするが、死んでいた。

 あくまでも人柱になるだけであり、死ぬ事は無い、そう、思っていた。

 実際、アラルガンドは死なずに済んだ。だが、一つの事を思い出した。

 人柱になる。つまりは中に存在する神の力を抜き取るということ。

 アラルガンドはケルビエルと契約していた為、奪われる事は無かったのだろうが、他の二人はどうだ?

 エルヴィスはイシュガルの力を取られ、フォルテにいたっては【グノウェー】と直接契約している状態だ。

 契約している神の力を抜き取られたら、死ぬ…

 だが、アラルガンドはこうなる事をまったく予想していなかった訳ではない。

 犠牲も覚悟していた。アラルガンドは『神降ろし』をいずれ決行させる事を決めた。

 その為に、新たなセイント教とイシュガルド教の頭を作らなければならない。

 そして、神を降臨させる。

 アラルガンドは最早、神を、ケルビエルを降ろす事しか頭に無かった。

 いつからかは分からない。だが、アラルガンドは既に狂っていたのだ。









 イシュガルドの内乱。この内乱が起こったのは第三次世界大戦の終結の三年後であった。

 ヘレトーアは第三次世界大戦には最低限しか参加せず、浄化計画を進めていた。

 アラルガンドは生きていく内に人の…魔族の愚かさに嫌気が差していた。

 全てを…終わらせようとした。イシュガルドは儀式終了後アラルガンドを弾圧しようとした。

 彼がエルヴィスを殺したとイシュガルドは考えていたのだ。

 実際、それは間違いでもなんでもなく、事実であった。

 アラルガンドはイシュガルド排除に動いた。再び人柱が必要ではあるが、昇華(シフト)の時の様に神の力の人柱を集める必要もない。

 今度はヘレトーアの国民全員を生け贄に捧げればいい。そうすれば、ケルビエルは甦る。

 そして、世界は浄化されるのだ。

 イシュガルドの内乱を引き起こすきっかけとなったのは神混髏奇だが、どちらにしても髏奇が事件を起こそうが起こすまいがアラルガンドはイシュガルドを弾圧するつもりであった。

 それが、髏奇によって少し早まったに過ぎない。


「そう、この世界において、神は絶対的な存在だ」


 アラルガンドが神を信仰している理由は、自分が復活させようとした存在が自分の手によって神になったからだ。

 アラルガンドは自身の行いを過ちだと思った事は無い。

 そもそも、アラルガンドにとって、この世界などどうでもよかった。

 ケルビエルさえいてくれればそれでよかったのだ。だが、そのケルビエルがこの世界に生きている人間や魔族のせいで死ぬ羽目になった。

 これが許せる筈も無いだろう。この世界を汚す事しか出来ない人間や魔族は愚か極まりない存在であり、アラルガンドにとって、滅ぼすべき対象である。

 アラルガンドは儀式を始めようと準備を進め、そして、ついにその時はやって来たのだ。









「この飛行船だな」


 時神蒼はそう呟いた。白黒混じりの神に青と黒のオッドアイの持ち主だ。どこか気怠げな印象の青年だ。


「随分大きいね~」


 そう呟いたのは苗木一夜だ。アッシュブロンドの髪と瞳、眼鏡が特徴の青年だ。彼は蒼と付き合いが長い。


「感心してる場合じゃねーだろ?さっさと行くぞ!」


 金髪のリーゼントと瞳が特徴のどこか不良じみた外見をしている男がそう言った。

 彼の名はスープレイガ・レオンシャック。USWの暗殺組織アンタレスの幹部『七魔王(セブン・ドゥクス)』の一人だ。


「そうですね、速く行きましょう」


 水色のセミロングと瞳を持った可憐な少女だ。

 彼女の名は霧宮美浪。蒼や一夜とよく行動している人物であり、狼の妖怪だ。


「急がないとね」


 銀髪赤目の少女がそう言った。彼女はプロテア・イシュガルド。

 蒼たちと敵対していたが、今は利害の一致で手を組んでいる。

 プロテアは常森厳陣や黒宮大志、四宮舞を殺そうとしたが、色々あり、今に至る。


「では、皆さん、気を付けて」


 黒宮がそう言った。黒髪に黒い執事服、片眼鏡(モノクル)を掛けている男性である。

 後ろには無言で蒼たちを見ている黒髪のストレートヘアーが特徴の白と黒のオッドアイの男はドゥームプロモ・ドラコニキル。

 スープレイガと同じ『七魔王(セブン・ドゥクス)』であり、リーダーだ。


「ああ、黒宮さんたちは慧留たちを頼む」


 蒼がそう言うと黒宮が頷いた。

 月影慧留や天草屍を始めとして多くの蒼の仲間たちは重症を負っている状態だ。

 蒼はそんな彼等の身を案じていたのだ。


「速く行きましょう。一刻の猶予も無いわ」


 プロテアが蒼にそう言った。

 彼女は今、仲間を黒宮たちが人質に取られているに等しい状態だ。

 このゴタゴタを終わらせた後、どうにかしなければならない。

 プロテアにとっては速くこの一件を終わらせたい所であるのだ。


「そうだね、行こう、蒼」

「俺は正直、てめぇらの都合なんて知ったこっちゃねーが、まぁ、速く行くに越したこたぁ、ねぇな」

「そうですね!」


 一夜、スープレイガ、美浪がそう言うと、蒼とプロテアは飛行船の方へと向き、五人は飛行船に乗り込もうとしていた。


「じゃあ、行くか」


 蒼たちは全員、飛行船に乗り込んだ。

 すると、物凄いスピードで飛行船が飛んでいった。

 本来、ヘレトーアに辿り着くまで丸一日掛かるのだが、これなら、数時間で辿り着けるだろう。

 とは言え、ヘレトーアは広い。飛行船でも行ける範囲が限られている以上、それなりに時間を要する事になるだろう。

 黒宮もただ手を小招いているだけでは無い。まだ、準備が出来ていないのだ。

 慧留たちの回復も優先するべきであろう。


「ふー、では、私は準備を進めておきますよ。黒宮卿」


 ドラコニキルはそう言い残して黒宮の元から去って行った。

 黒宮はドラコニキルを見送った。しばらくすれば、黒宮もここから去る。

 だが、黒宮はその前にイシュガルドの内乱の事を思い出していた。

 あの時、黒宮は自身の主の為に行動した。それが間違いだとは思わなかった。

 しかし、あの戦争で多くの人たちが死んでいったのも事実であり、多くの命を奪ったのは間違いなく、黒宮自身だ。

 黒宮は自身の罪を赦されるとは思っていない。そもそも、この世界で生きる以上、人は大なり小なりあるが罪を背負う事になる。

 それは、変わらないのだ。変わる事のない、唯一絶対の真理だ。

 今回の戦いで恐らく、ヘレトーアの長きに渡る因縁の決着が着くだろう。

 しかし、仮に決着が着いたとしても失ったモノは戻ってこない。

 それでも、黒宮は前に進まなければならない。いや、進むしかないのだ。


「頼みましたよ…皆さん…」





To be continued

 新章、ヘレトーア進軍篇スタートしました。このストーリーは引き続きヘレトーアに主軸を置いたストーリーとなっています。

 五章では回収されなかった謎も多く判明する話になっており、蒼の過去にも少しだけ触れる事になります。

 今回で第六章という事でこの章でこのフェアレーターノアールの折り返しの章となります。これからも蒼達の行く末を見守って下さい。それでは。

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