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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第五章】イシュガルド殲滅篇
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【第五章】イシュガルド殲滅篇ⅩⅧーWings wind wave ー

 イシュガルドの内乱、セルリアはその時、鬼神を見た。

 ただただ破壊の限りを尽くし、全てを喰らい尽くす破滅の嵐。

 かつて、色々な建物で溢れたイシュガルドの集落の一つが一瞬で壊滅した。

 セルリアの村を殲滅したのはミルフィーユただ一人であった。

 セルリアはミルフィーユの姿が鬼か鬼神、あるいは死神に見えた。

 彼女が天使だと信じるものはこの凄惨な光景を見て言える者などいないだろう。

 全て、風の力により、蹂躙されたのだ。

 ミルフィーユはセルリアを見逃すなんて事はしなかった。

 ミルフィーユはセルリアの隠れている場所へと近付き、セルリアを見つけ出した。


「ひっ!?」


 当時のセルリアは小さな子供であり、髪も白髪であった。


「あなた、見込みがあるかも」


 ミルフィーユはそう言った。ミルフィーユは強い相手と戦う事を好んでいる。

 それ故に見込みのありそうな者は生かすようにしている。

 だが戦争において、それはルール違反であり、バレれば処罰の対象にもなる。

 だが、ミルフィーユはこう思った。バレなければいいと。


「あなた、名前は?」

「…セ……セルリア………」

「私はミルフィーユ・ペテルギウス。あなたの全てを奪った者よ。私を殺したければ強くなりなさい」


 ミルフィーユはそう言って、セルリアの意識を奪った。

 ミルフィーユは強い相手と戦う。その為ならどんな事でもする。

 ミルフィーユはセルリアとプロテアには特に期待していた。セルリアなら、自分を本気で戦わせてくれる。そんな予感がしたのだ。

 そして、ミルフィーユは五十年待ち続けた。

 この五十年、ミルフィーユは退屈…という訳でも無かった。

 いや、厳密には15年前までは退屈だった。だが、ミルフィーユは十五年前、初めて弟子を取った。

 その者は神聖ローマの王子であった。王子の癖に言葉は汚く、とても貴族とは思えなかったし、彼を当初は邪険に扱っていた。

 次第に彼の本質が見えてきて、いつの間にか、ミルフィーユにとって、眼が離せない存在になっていった。

 この時のミルフィーユは一番人間味があった時期かもしれない。

 今は、大分そう言った面は出さなくなったが。

 彼は今頃どうしているのか?そもそも、生きているのか…それすら分からない。

 五年前を気に、彼は神聖ローマから逃亡した。それから、彼の行方は分からず仕舞いである。

 あれから、もう五年経つのだ。時の流れは速いものだとミルフィーユは感じた。

 そう、不思議な事に年を取れば取るほど時間というのは速く過ぎ去っていく気がするのだ。

 時間は常に平等である筈なのに。ならばなぜか、『慣れてしまう』のだ。

 時間の経つ速さに慣れていき、時間の流れが速く感じるのだ。故にミルフィーユは刺激を欲した。

 天使は個体数が他の種族に比べ、極端に少ないく、繁殖力もかなり低いが永遠に近い長寿を誇り、老化もしない。

 それは悪魔や神にも言える事だ。そう、『三大皇族』は繁殖力が非常に低い代わりに、強大な戦闘力、長寿性を持っていたのだ。

 そんな化け物の様な三大皇族を人類はどの様にして支配していったのか…それは、いずれ、語られる事になるだろう。







 そして、セルリアの目の前に、セルリアの全てを奪った鬼神が降臨した。


「【第二解放(エンゲルアルビオン)】」


 ミルフィーユの見た目の変化は殆ど無かった。あるとすれば、背中に風で出来た翼と天使の輪っかのようなものが頭上にあるぐらいで外見の変化はほぼ無かった。

 しかし、辺りには無数の竜巻が発生しており、晴天であった筈の空が一瞬で雲に覆われていた。

 ミルフィーユの【第二解放(エンゲルアルビオン)】は天候を支配圏に置く事が出来る。

 これが、ミルフィーユの【第二解放(エンゲルアルビオン)】。


「【朧弦月(おぼろげんげつ)風騎士宮殿(ラファエル・パラスト)】」


 セルリアは辺りの異常な景色に驚嘆した。


「その…力は…」

「そうだよ、私がこの力を使うのは実に五十年振り。あのイシュガルドの内乱以来♪」


 ミルフィーユは笑顔でそう言った。ミルフィーユは全身が血塗れだ。

 ミルフィーユは本気で戦う事を望んだ。セルリア、あるいはプロテアなら、本気を出させてくれるかもしれない。

 そう考えていたが狙い通り、ミルフィーユら【第二解放(エンゲルアルビオン)】を発動させた。

 【第二解放(エンゲルアルビオン)】は天使の切り札だ。天使であれば誰でも扱える資格はあるものの、習得者は極僅かだ。

 『セラフィム騎士団』に入団するにはこの【第二解放(エンゲルアルビオン)】を習得するのは必須条件であると言われている。

 【第二解放(エンゲルアルビオン)】の霊圧は一般的には【第一解放(アインスエンゲル)】の8倍から12倍と言われている。

 無論、個人差はあるがそれでも強力な力であり、天使の切り札である事には変わり無い。

 だが、ミルフィーユは相当なダメージを負っている。立っているだけでもやっとの状態の筈だ。にも関わらずこの笑顔。不気味でしょうがないだろう。

 セルリアは【痛覚完全遮断(ペイン・キラー)】と【皇帝反転神(イラ・イムベラトル)】以外の特殊能力は皆無に等しい。

 セルリアに限った話では無いが、特殊な能力を持つ者はその能力に特化する傾向が強く、能力が封じられるないし、無力化されると途端に弱体化する。

 セルリアは後ずさった。

 セルリアの村はミルフィーユの【第二解放(エンゲルアルビオン)】により、一瞬で焦土と化した。

 あの時のトラウマが蘇ってしまったのだ。あの時のミルフィーユは全てを破壊し尽くす鬼である。

 あの時の記憶を思い出すとセルリアは怯えずには居られなかった。

 だが、セルリアはすぐに平静を取り戻した。

 あの時とは違う。セルリアは自身の力を把握し、その上で力をつけた。そう、復讐の為に。

 もう、セルリアは負ける筈が無いのだ。いや、負ける事などあってはならないのだ。


「あなたのその力。発動条件が全部で三つあるわね」

「!?」


 セルリアはミルフィーユの発言に驚いた。

 たったの一回だけでセルリアの発動条件を把握したのだ。

 確かに、セルリアの力の発動条件は三つある。


「一つ目は相手の血の摂取。けどこれはただ摂取するだけでは駄目でそのデカイ剣を通じて摂取する必要がある。二つ目はそのデカイ剣を地面に突き立てる事。さっき唱えた呪文はまぁぶっちゃけ、唱える必要は無いね。三つ目の条件を見破られない為のカモフラージュだね。恐らく、そこに転がってる三人も二つ目までは気が付いていた」

「…………」


 ミルフィーユは饒舌にセルリアの能力の解説を始めた。

 セルリアは平静を装ってはいたが、彼女の言ってる事は当たらず遠からず…どころか全て正解である。


「三つ目…能力発動には恐らく、「あなた自身の血」もいる。それに、それなりの量をね。だから、わざとダメージを受けてたんでしょ?」


 …ミルフィーユはセルリアの能力を完全に間違いなく当てて見せた。

 セルリアの能力をたった一回見ただけで発動条件を見破るなどとんでもない洞察力である。


「何故…分かった…」

「私はあなたより場数を踏んでるんだよ?一回見ただけで相手の能力見破るぐらいじゃないと…生き残れない」

「……!?」


 セルリアは改めてミルフィーユの恐ろしさを目にした。

 そして、ミルフィーユの尋常では無いこの霊圧。この霊圧だけで身体が灰になりそうであった。

 しかし、セルリアは眼前の敵に突き進んで行った。


「う…うおおおあああああああああ!!!!」

「話は終わりにしましょう…さぁ!始めましょう!狂乱のパーティを!!!」


 ミルフィーユは右手を動かした。すると、周囲の竜巻が動き出した。

 そして、風がミルフィーユの右手に収束し、セルリアに放たれた。


「【無限乱風(ヴィンド・ツァルロス)】」


 風の爆弾がセルリアを襲い掛かる。セルリアは攻撃が速すぎて黙視する事すら出来ず攻撃が直撃した。


「がっ…」


 セルリアのバスターソードは粉々になり、更に身体中がミルフィーユの風により切り刻まれた。

 身体を切り刻まれ過ぎて痛みが感じなかった。だが、身体は動かなかった。

 一撃、たったの一撃でセルリアは地に伏した。

 【痛覚完全遮断(ペイン・キラー)】を使い、身体を動かそうとするが、身体全身の切り刻まれており、左手足が吹き飛んでいた為、立てない。

 身体の組織が完全に破壊されていれば、【痛覚完全遮断(ペイン・キラー)】を使っても身体を動かす事は出来ない。

 更に、セルリアの『二十二式精霊術(アルカナ)』はセルリアのバスターソードが無ければ発動出来ない。

 だが、そのバスターソードも粉々になっていた。武器を失い、左手足まで切断された。

 セルリアに最早打つ手は無い。完全敗北だ。


「た…っ…た…の…一…………撃で…………」


 セルリアは生き絶え絶えの声でそう呟いた。


「あっ……やりすぎちゃった…」


 ミルフィーユは間の抜けた声でそう呟いた。

 どうやら、ミルフィーユはセルリアを殺すつもりは無いらしい。


「てめぇ…は……!」


 ミルフィーユの後ろから声が聞こえた。

 ミルフィーユはその声に聞き覚えがあった。そう、その声はー


「フローフル?」


 ミルフィーユは眼を輝かせながらそう言った。


「知り…合い……なの……?蒼ちゃん…」


 倒れていたくるが蒼に訪ねた。

 蒼はくるの状況を見て、驚き、辺りを見回した。くるだけではない、薊と美浪も倒れていた。


「まさか…てめぇが……」

「私じゃないよ。やったのはセルリア。あっ、あそこに倒れてるイシュガルド人ね」

「な!?」


 蒼は驚くがミルフィーユはそのまま話を続けた。


「私はわざわざ、あのイシュガルド人を倒しに来たんだよ?十二支連合帝国は感謝するべきだよ?」

「お前の事だ。どうせ、戦いたかっただけだろ?」


 蒼はミルフィーユの事はよく知っている。彼女が戦闘狂である事も。


「まぁ、そうだけどね。イシュガルドの内乱でせっかく彼等を生かしたのに意味無いからね」

「てめぇが…プロテアたちを生かしたもう一人の人物か…」

「うん、そうだよ?四宮ちゃんと一緒にイシュガルドを五人ぐらい生かしたっけな~。まぁ、それまでの五十年間は知らないけどね」


 蒼はプロテアから自分を生かした人間は舞だけでは無いという事は話していたがその協力者が誰なのかまでは聞いていなかったのだ。

 だが、協力者がミルフィーユであると知り、蒼は納得した。

 ミルフィーユは常に強者を求めている。

 彼女が彼等が強くなる事を期待していたのなら、生かすのも分かる。

 ミルフィーユは確かに戦闘狂ではあるが、誰かを殺す事はあまり好まない。死んでしまえばその者と戦えなくなるからだ。

 ミルフィーユはあくまで戦う事が好きなだけであり、殺し合いが好きな訳では無い。


「その様子だと、結構楽しめたみたいだな」

「まぁね、五十年待った甲斐があったよ。っと、ちょっとやり過ぎちゃってさ、その子、病院に運んでくれないかな?」


 ミルフィーユが蒼にそう言った。


「分かったよ」

「ありがと、流石は私の弟子!いい子いい子!」


 ミルフィーユはそう言って、蒼の頭を撫でた。蒼はミルフィーユの手を弾いた。


「俺はもう、アンタの弟子じゃない。俺は…アンタを裏切ったんだ」

「フローフルはいつまで経っても私の弟子だよ」


 ミルフィーユは優しい声でそう言った。先程までのミルフィーユからは想像がつかない声であった。


「怒って無いのか?」

「少なくとも、私は怒ってないよ。あなたが選んだ道だしね。まぁ、ルミナスは怒ってるかもしれないけど…」


 ミルフィーユはバツが悪そうにそう言った。


「あなたの事は黙っておくわ」

「ああ、助かる」

「じゃあ、私は行くね。久し振りに可愛い愛弟子に会えて良かったよ」

「ああじゃあな、ミルフィ」


 ミルフィーユはそう言って、自分の足元に風を出現させ、風に乗って去って行った。


「戦闘狂って点を除けばまともな奴なんだけどな…」


 蒼はミルフィーユに対して色々と勿体無いと感じていた。

 ミルフィーユ戦闘狂であるという点を除けば非常に常識的な性格をしている。

 むしろ、『セラフィム騎士団』の中でもかなり良識のある性格をしている。

 蒼が『セラフィム騎士団』の中で気軽に話せる数少ない人物でもあった。


「さて…こいつらを全員なんとかしないとな」


 蒼は美浪、薊、くる、セルリアを病院まで運んだ。









 ミルフィーユは『天使城(セラフィムヴァール)』に帰還した。

 ミルフィーユはすぐに城内に入って行った。


「あなたにしては、随分やられたわね」

「思っていた以上にやり手だったので」

「あなたの事だから、どうせ殺さずに帰って来たのでしょう?」

「まぁ、そうだね」


 ミルフィーユが話している相手は無論、ルミナスだ。

 ルミナスは城の城内の入り口に待っていたのだ。


「イシュガルドは…やはり、特殊な人間だった…という事ね」

「まぁ、そうだね」

「ご苦労様、あなたは身体を休めなさいな」


 ルミナスはそのまま、ミルフィーユの前に去って行こうとする。


「ちょっと待って」


 すると、ミルフィーユがルミナスを呼び止めた。


「何かしら?」

「わざわざ、私をイシュガルドと戦わせた理由は?」

「ああ、それは単純にあなたの望みを叶えたかったのと、イシュガルドに対して威嚇する事も目的よ」

「…そう」


 ルミナスはそうミルフィーユに告げた。

 実際、ルミナスの言ってる事は事実で嘘はついていない。ついていないのだがー


「他には?」


 ルミナスは溜め息を吐きながら話を続けた。


「フローフルには会えた?」

「!? あなた…知ってたのね?」

「ええ、三年前から」

「何で報告しなかったのかな?君は彼を…」

「私は、五年前のあの日から一つの事にだけ、動いているわ。そう、世界の平和と統一。それが私の最終目的。その為にはイシュガルドは邪魔だった。まぁ、他にも邪魔はいるけど、それは「インベル」に任せるとして…」


 ミルフィーユはルミナスの行動に違和感があった。

 ルミナスは昔から何を考えているか分からないがルミナスがフローフルの存在を黙認する理由が分からなかった。

 分かった所で意味は無いのかもしれないが。


「私は知ってる、あなたの本質を。あなたは世界の平和なんていう御大層な事はこれっぽっちも望んでない」

「どう思うかはあなたの自由よ、ミルフィーユ。けど、今の皇帝陛下は私である事は忘れないでね」


 ルミナスはそう言い残してミルフィーユから去って行った。

 ミルフィーユはルミナスの後ろ姿をずっと見続けていた。

 ルミナスは昔からそうだ。何を考えているか、真意が読めないのだ。

 白より白く、光より輝いて見える。故に暴力的で残虐、ルミナスとはそういう人物なのだ。

 だが、ミルフィーユはルミナスの一つの本質だけは理解している。

 そう、彼女はーこの世界の事などどうでもいいのだ。それだけは分かる。そしてー

 ミルフィーユはそれだけは分かっていた。ルミナスは普段謎だらけの少女であるが、それだけは分かっていたのだ。













 イシュガルドの侵攻が鎮圧してから一週間が経っていた。世間ではもう、夏休みだ。

 だが、蒼たちには夏休みは訪れなさそうである。

 何故なら、蒼たちにはやる事があるからだ。

 イシュガルドはセルリア以外は既に傷は癒えているのだが、プロテア以外は黒宮達が拘束している。

 プロテアも本来は捕まる筈だったのだが、蒼と慧留の説得で牢屋に入れられる事は避けられた。

 しかし、プロテアの仲間達が黒宮達に人質として扱われている事には変わりはない。

 プロテアは既に復讐心は捨てたのだが、それを言っても信じて貰える訳が無いし、それに、プロテアとて、黒宮たちに対して思う所はあるのだ。

 厳陣と舞だが意識は既に取り戻しており、明日には戦線に復帰出来るようだ。

 しかし、慧留は魔力の使いすぎでかなりの重症であり、意識はあるもののしばらくは魔力を使えない。

 屍も同様であり、しばらくの間、戦うのは無理そうだ。

 くると薊も重症であり、しばらくは戦えそうにない。

 唯一美浪のみは回復しており、今からでも戦える。どうも彼女は傷の治りが非常に速いようだ。

 蒼たちだが、今は四神天城(シシンテンジョウ)の執務室にいた。

 蒼だけではない、一夜、プロテア、黒宮、スープレイガ、ドラコニキルがいた。


「さて、状況を整理しましょうか」


 黒宮が話始めた。蒼たちは黙って聞いていた。


「今回、イシュガルドの者たちが攻め込んで来ました。そして、今はどうにか鎮圧。プロテアさん以外はこちらで確保させて貰ってます」


 黒宮がそう言うとプロテアは下に俯いた。仲間が現在、人質にされている。あまり気分のいい事では無いだろう。


「黒宮さん、神混髏奇(こうまるく)って何者なんだ?アンタ、何か知ってるんじゃねぇか?」


 蒼が割って入ってきた。黒宮はそれを予想していたかの様にその質問に答えた。


「彼は恐らく…最近、存在が知れ渡った組織のメンバーです」

「組織?」

「ええ、我々はその組織について負っています。今は便宜上、その組織の名は『ピエロ』としています」

「『ピエロ』?」

「ええ、組織のメンバー全員が個人差はありますが、全員、ピエロを連想させる服装や顔をしているのでそう呼ばれてます。目的は不明。しかも、彼等の存在は知れ渡ったのが最近ですので殆どの人は存在が知られてません。初めて確認されたのは神聖ローマだそうです」


 『ピエロ』、髏奇はその組織のメンバーだというのか?蒼はその情報は信憑性に欠けると思った。

 あまりにも漠然としすぎている。まぁ、黒宮達も完全には組織の全体像が把握出来てないようなので仕方の無い事だろうが。


「組織が知れ渡ったのは最近なんだよな?」

「ええ」

「だが、あいつはイシュガルドの内乱を引き起こした、ある意味黒幕とも呼べる存在だぞ?その頃からその『ピエロ』とかいう組織は…」

「恐らく、あったのでしょうね。推測に過ぎませんが。とにかく、『ピエロ』は謎多き組織です。立ち回りは慎重にした方がいいでしょう」


 黒宮は冷静な口調でそう言った。


「で、その神混髏奇が言ってたヘレトーアの『浄化作戦』ってのは何だ?」

「それはですね…」

「それは私が説明するわ」


 蒼の質問を黒宮が答えようとした所をプロテアが話を切り出した。


「『浄化作戦』、それは一言で言うと、この世界を消滅させる事よ」

「「「「!?」」」」


 プロテアの言葉に蒼、一夜、スープレイガ、ドラコニキルは驚きを隠せなかった。

 いきなり、世界を壊しますなんて言えばそうなるのも無理は無いだろう。


「どー言う事だ?」


 スープレイガがプロテアに問い掛けるとプロテアはすぐに答えた。


「そのままの意味よ。彼らは「神を降ろし」、この世界を「浄化」する」

「世界を壊す目的は何だ?」

「それは私にも分からないわ。私たちは常森厳陣たちを抹殺後、ヘレトーアを潰すつもりだったわ」


 プロテアは淡々と説明した。


「浄化作戦はいつ決行されるんだ?」

「一週間後に決行されるらしいわ」

「なら、今すぐにでもヘレトーアに行かないとね」


 一夜がそう言うと皆、コクりと頷いた。


「さて、問題は誰が行くかだが…」


 ドラコニキルがそう言うと蒼は立ち上がり「俺が行く」と答えた。


「勿論、僕も行くよ」


 一夜もそう言った。


「まぁ、あなたたちは確定ですね。ですが、二人は少なすぎます。せめて、もう二三人は欲しいですね」

「なら、私も行くわ」


 黒宮がそう言うとプロテアが名乗り出た。


「あなたはここに残って拘束します。行かせる訳にはー」

「分かった。一緒に行こう」

「時神君!?分かってるのいるのですか!?その人はー」

「ああ、目的は俺たちと同じだ。それに、プロテアはもう、大丈夫だ」

「まったく…何を根拠に…」


 黒宮は呆れ果てたようにそう言った。しかし、蒼の意見に以外な人物が助け船を出した。


「まぁ、その女が何かおかしな事をすれば、俺たちが始末するさ」

「スープレイガ…」

「こっちは時間が無ぇんだ。勘違いすんな」


 スープレイガは面倒臭そうにそう言った。

 突然後ろから扉が開く音がした。現れたのは美浪であった。


「私も行きます」


 美浪は先週、重症を追っていたがどうやら完治したようだ。


「俺も行くぜ。文句ねぇな、ドラコニキル」

「ああ、それでいい。俺は面倒事が嫌いなんだ。お前が適任だろう」

「ドラコニキルは行かねぇのか?」

「今回は俺たちは黒宮卿たちと色々と準備をしなくてはならないからな」

「そうか」

「明日に飛行船を手配します」


 黒宮がそう言うと蒼、一夜、スープレイガ、プロテア、美浪は頷いた。

 彼等五人が今回、ヘレトーアに行く事となった。ヘレトーアの目的の意図は未知数だ。

 いや、目的だけではない。力も未知数だ。今までは表だって活動していなかっただけであり、恐らく、今回の計画の為に相当な戦力を蓄えていると予想される。

 正直、蒼たちだけでは戦力不足は否めない。

 だが、相手の出方が分からない以上、下手に人数を削く訳にもいかない。

 そうでなくとも現在、十二支連合帝国は甚大なダメージを受けているのだ。

 澪は遥の死んでから一度も目を覚ましていない。慧留も屍もとても戦える様な状態では無かった。薊やくるも同様に戦える状態では無い。

 美浪は身体が頑丈でかつ、回復する速度が並の魔族より速い為、今でも戦線に復帰できているが、美浪程の頑丈な魔族はそこまで多くはないのだ。

 今は、このメンバーでどうにかするしかないのだ。

 彼等は明日、決戦へと向かうのであった。








 ここはヘレトーアの本拠地であり、軍の基地でもある精霊城(ラウフ・カスル)

 ここで、浄化作戦は決行される。

 人は、この世界は神からすれば不浄だ。不浄な者は全て消し去らなければならない。

 そう、この世界は神により、清められなければならない。その為の浄化作戦だ。

 ここの城の深部には礼拝堂(チャペル)があり、ここで祈りを捧げている者がいた。

 アラルガンドだ。ヘレトーア最強の騎士であり、事実上、この国を支配している男だ。

 一応、大神官も存在しているが、彼はただの肥太った豚同然であるが、アラルガンドは同じ志を持っている為、「今は」そこまで邪険には扱っていない。

 ヘレトーアは宗教大国だ。神の加護があったからこそ、この国は四大帝国の中でも比較的平和であった。

 だが、愚かにも天に逆らい、反旗を翻した者がいた。

 それはアラルガンドと同じ種族、人間だ。そして、アラルガンドは五年前の事を思い出していた。

 そう、アラルガンドに愚かにも挑み、破れた者がいた。その者の事を思い出していた。

 取るに足らない敵であった。だが、アラルガンドは確信していた。

 あの男は鬼だ…と。だからこそ、彼を徹底的に叩きのめした。神に…天により裁きを受けたあの男は死にはしなかったが、彼の剣はアラルガンドが完全に折った。

 二度と立ち向かう事など出来ぬ筈だ。

 アラルガンドのやる事は昔から変わらない。ヒューマニックリベリオンの時から何もー

 アラルガンドは人の身でありながら五百年以上生きている。

 そう、アラルガンドは「ただの人」だ。どこにでもありふれた、普通の人間だ。


「古き神話の最終章は、ここから始まる。さぁ、この世界の全ての者たちよ…天に召され、有るべき姿へと還れ」


 アラルガンドはいや、アラルガンドたちは常に神の名の元、己が正義の為に戦う。

 アラルガンドは礼拝堂(チャペル)に突き刺さっている金色の長剣を手に取った。

 この礼拝堂(チャペル)はアラルガンドが所有する「城」でもあり、ここにはアラルガンドの武器が置かれている。

 この金色の長剣は滅多な事がなければアラルガンドは使わない。

 いつもは適当に仕入れた長剣でやり過ごしている。

 だが、今回はそうも行かない。今回がその「滅多な事」なのだ。

 世界をもう一度一からやり直す為に。

 過ちを犯して、そして取り返しがつかなくなってしまった場合、どうすればいいか。

 簡単な話だ。もう一度、全て壊して一からやり直す事だ。

 そうすれば、また、創り直せる。新たな世界を想像する事が出来る。

 無論、アラルガンドはその新世界の神になろう…などという傲慢な事は考えていない。

 デミウルゴスやマータたちは神になろうとしているのかもしれないが。

 あの様な邪な者たちがいるから…世界は不完全で穢れるのだ。

 アラルガンドはデミウルゴスたちを計画終了と同時に始末するつもりだ。

 そして、新世界に舞い降りる神を祝福し、新たな世界を創る。

 そう、世界を一度壊し、もう一度、世界を、創る。

 今までもそうであった。アラルガンドが生きてきた五百年間、世界は幾度も破壊と再生が繰り返された。

 だが、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、人は、この世界に生きる者たちは同じ過ちを繰り返した。

 アラルガンドはそんなこの世界に生きる者たちに嫌気が差していた。

 そう、この世界では神が絶対。いや、この世界だけではない。

 全てに於いて、神は絶対的な存在なのだ。人は、何かにすがらなければ、壊れる。

 アラルガンドはそんな、ありふれたただの人間だ。

 永かった…五百年という気の遠くなる程の時を過ごした。そのアラルガンドの宿願がようやく叶う。


 ヘレトーアは遂に動き出す。四大帝国の中でも表立った活動は少ない。

 大半の者たちからすればヘレトーアは宗教大国という認識しか無いだろう。

 だが、ヘレトーアは「四大帝国」だ。

 四大帝国以外にも小さな小国は多くある。その中で四大帝国の座をヘレトーア勝ち取っている。


 ヘレトーアの『浄化作戦』は一週間後に決行される。全てがー終焉へと変わる。






To be continued

 イシュガルド殲滅篇はこれにて終わりとなります。ここからは物語のネタバレが含みますので自己責任でお願いします。


 今回は今までで全然触れられて来なかったヘレトーアに主軸を置きました。そして今回はビックリするほど主人公が活躍しませんでしたね。正に置物。しかし、蒼はこれから挽回しますのでその点は心配なく(多分)


 今回の話の主軸は二つあって一つは蒼と新キャラであるプロテアとのやり取り、そしてイシュガルド殲滅戦を知り、それに奔走する慧留、この二本柱です。その為、今回は慧留が主人公で、蒼は今章のキーパーソンであるプロテアを導くといった役回りになりました。プロテアはこれから物語に関わってくる重要なキャラになりますので彼女の活躍にご期待下さい。


 今回の敵ですが、今までとは違い、少し癖の強い能力の持ち主が多かったですね(相手の感覚を奪ったり、狂わせたり、事象を逆転させる能力など)。これは勿論、意識してやった事で今回の敵は初見殺しを意識しました。初見では倒しづらい敵をどう倒して行くのかを書いて見たかったので。シンプルな能力を持っていたのはプロテアぐらいでしょうか?まぁ、プロテアも二つ目の能力はかなり特殊ですが…因みに今回の敵であるイシュガルドたちの名前は全員オーストラリアで有名な花が由来となっています。


 今回の話でセラフィム騎士団ミルフィーユの狂気っ振りとチートっ振りを発揮しましたね。このキャラは蒼の師匠であり、イシュガルド内乱でも関わってくるという結構設定が詰め込まれてるキャラです。でも、戦闘狂である事を除けば意外と常識人なんですよ(笑)今までは天使が出てくる事があまりなくて(本編では蒼以外に出た天使はローグヴェルトとルミナスだけ)外伝で出した位なんですよ。なのでミルフィーユを今回割りとガッツリ書けたので楽しかったです(地味に本編で蒼の次に第二解放を見せたキャラでもあります)。


 次章はいよいよ、蒼達がヘレトーアに殴り込みに行きます。今回の話はかなりダークでシリアスな話になってしまいましたので次は明るく、そして救いのある話にしたいと思っております。


それではまた次回お会いしましょう!

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