【第五章】イシュガルド殲滅篇ⅩⅤ ーCourt of the iron 2ー
慧留は一宮高校に向かっていた。
プロテアは間違いなく一宮高校にいる。プロテアはそう、確信していた。
「急がないと…」
慧留は黒い翼を展開した。そして、高速で一宮高校に向かった。
慧留は一宮高校から何か爆発している光景が見えた。
既に何らかの戦闘が始まっている事を意味していた。
あそこに敵がいるのは確実である。だが、慧留はあそこで戦っているのは誰か、それを知っていた。
プロテアと舞だ。あの二人は一宮高校で決着を着けようとしているのだ。
先程の爆発はかなり激しい戦闘をしているという事だ。慧留はより緊迫した表情をしていた。
「間に合って!」
慧留は更に速力を上げ、【神速】も使用して光速で爆発のした一宮高校の教室へと向かった。
美浪は慧留を追っていた。
慧留の移動速度が予想以上に速かった為、追い付けずにいた。
だが、慧留の向かう場所自体は大体把握していた。この方角と距離からして一宮高校だろう。
何故、そんな所に敵がいると慧留は考えたのか、そこまでは美浪は分からなかったが、そんな事を考えている余裕もない。
一刻も速く慧留と合流しなくてはならない。
美浪がそう思いながら慧留を追っていた。その時だ。
一宮高校とは別方向に巨大な霊圧を感じ取った。
ー何!?これ…!?
美浪は驚愕の表情をしていた。
黒宮の霊圧でも無い。この霊圧は…恐らくイシュガルドの者の霊圧だ。
しかし、美浪にとって、この霊圧は今までに感じた事の無いものであった。
単純に巨大な霊圧という訳では無い。とにかく、異質なのだ。
まるで、未知の敵に遭遇したような…そんな感じの感覚に近かった。
このまま放置しておくのはまずいと思った美浪は霊圧の感じた場所に行く事にした。
慧留の事は気掛かりであるが、今はこの霊圧を何とかするべきであろう。
恐らく、戦闘は始まっている。放っておく訳にはいかないだろう。
美浪は方向を変えて、霊圧を感じる方角へと進んで行った。
「月影慧留…」
プロテアがそう呟いた。
「プロテア…」
慧留もプロテアの名を呼んだ。
プロテアは先程まで舞と戦っていた。戦いはプロテアが勝利し、今まさに舞に止めを指そうとしていたのだ。
そんな時に慧留はやって来た。プロテアは忌々しげに慧留を睨み付けた。
「あなたは…いつもいつもいつもいつもいつもいつも…肝心な時に邪魔を……!」
プロテアは怨めしげに慧留を見た。
そう、最初に舞を殺しに行った時も、厳陣の時も必ずと言っていいほど慧留がプロテアの邪魔をしていた。
そんな慧留を忌々しく感じるのは当然かもしれなかった。
「月…影……」
舞は既に生き絶え絶えの状態であった。このままでは数分も保たない。
慧留はまず、舞の救出を最優先に考えた。しかし、プロテアには慧留の魂胆がお見通しのようであり、舞に近づけさせようとはしなかった。
「【神速】」
慧留は光速で移動したがプロテアには動きが読まれていた。
「御出で!【黒時皇帝】!!」
慧留は【悪魔解放】を発動した。
全身が黒い喪服で覆われており、頭には黒いヴェールが掛かっていた。
更に、背中には骨と黒い羽根で出来た翼が両翼あり、黒紫色の錫杖が右手に握られていた。
「【冥界創造】!」
慧留が錫杖を地面に突き立てた。すると地面が隆起し、プロテアの足場が崩れた。
慧留の【黒時皇帝】の能力は過去改変能力だ。
慧留が教室を細工したという過去に改変させたのだ。それにより、地面が崩れ、プロテアに隙を与える事に成功した。
慧留は【神速】で舞に接近し、そして、光速でプロテアから離れた。
「くそ…逃がさない…!」
プロテアは慧留と舞を追っていった。
「ここなら…」
慧留は先程の教室から離れ、中庭前まで逃げていた。
そして、【拒絶王女】を解放し、舞の傷を治療した。
【拒絶王女】の能力は時間の巻き戻しである。この力で舞が傷を追わされる前の時間まで巻き戻す事が可能だ。
しかし、傷が深いため、完治するまで時間が掛かりそうだ。
「済まない…月影…」
慧留は黙って治療を続けた。何とか一番深い傷である脇腹の傷は塞ぐ事が出来た。
「今は喋らないで下さい」
「いや、お前に伝えなければならない事がある」
舞がそう言うと、慧留は少し驚いていた。
舞をここまで追い詰めたプロテアの能力については慧留にとっては気になる所ではあったからだ。
「残念ながら、能力が何なのかは分からなかった。だが、私は確かにプロテアを殺した。じゃが、プロテアはいつの間にか私の後ろにいた…まるでプロテアが死んだという事実が「無かった事になっているようじゃった」しかも、妾が与えたダメージも完全に無くなっていたのじゃ」
つまり、舞の話が正しければ、一度プロテアを殺しているのだ。
にも関わらず、プロテアは甦った。いや、この甦ったという表現が適切なのかも正直怪しいところではある。
「あなたが仕留めそこなったという事は?」
「それはない。確かにプロテアの霊圧は一度完全に消滅しておる。妾が流石に霊圧を読み間違える事は無いぞ」
確かに舞が霊圧を読み間違えるとは思えなかった。
だが、慧留が考える限りそんな事はあり得ない。
以上の点を踏まえると考えられる事は主に二つ。
一つはプロテアが相手の感覚或いは記憶を誤認させる能力を持っている事、二つ目はこれは正直あまり考えたくは無いのだが、空間、あるいは時間に何らかの干渉をする能力を持っているかの二つだ。
少なくとも慧留が考える限りではこの二つが考えられる。実際、自分も含め、時間に関する能力を持っている者はいる。蒼や屍がそうだ。
まだ、情報が少なく何とも言えないが、少なくともプロテアが鉄を操る以外の特殊能力を有しているのは確実である。
「見つけた」
「「!?」」
プロテアはすぐ眼の前にいた。慧留はすぐに【黒時皇帝】を解放した。
「四宮先生はここにいてください。まだ、腹の傷しか治って無いので無理しない様にしてください!」
慧留がそう言って、プロテアの元に突っ込んで行った。
「月影…後は…頼んだぞ…」
舞はそのまま意識を失った。
慧留の力は傷は巻き戻す事が出来ても霊力や魔力、体力までは巻き戻す事は出来ない。
舞は力尽きてそのまま気絶した。
一方、慧留はプロテアと刃を交えていた。
だが、はっきり言って、近接戦闘はプロテアの方が有利である。
どうにかして慧留はプロテアから距離を取る必要がある。
慧留は【神速】を使い、光速で移動した。
だが、プロテアの動体視力は常軌を逸しており、慧留の動きを捉えていた。
プロテアは慧留の向かう場所に【鉄連鎖針】を放った。
慧留のいる場所にピンポイントに無数の鉄の針が出現し、慧留の身体を切り裂いた。
「くっ!【黒閃光】!」
慧留は【黒閃光】を放った。しかし、またもやプロテアは【黒閃光】を切り裂いた。
更に、プロテアは再び慧留に距離を詰める。
再び慧留がプロテアに距離を詰められれば慧留に勝ちの芽が無くなってしまう。
「【神速】!」
慧留は再び【神速】を使い、プロテアから距離を取り近くの教室まで逃げ込んだ。
しかし、プロテアは高速移動系統の術は持っていないようだが、異様な速さで慧留に詰め寄ってくる。
これはただ単に速いという訳では無い。
慧留は辺りを見回した。そして、違和感に気が付いた。
「!? まさか…」
「【鉄棘】!」
慧留は攻撃を回避しようとした。しかし、自身の動きが鈍くなっているのを感じた。
対して、相手の攻撃速度は明らかに上がっている。
「【悪魔盾】!」
慧留は魔力の盾を展開した。
【悪魔盾】は悪魔が使う『魔歌』の一つであり、霊呪法で言う【虚神】に相当する魔術だ。
「あなたのその能力…時間の「加速と減速」だね」
「ご名答…正解よ。流石、私と同じ時間を操る者…理解が速かったわね」
そう、プロテアの能力は時間の加速及び減速だ。この二つを同時に行う事も可能だ。
つまり、プロテアの時間だけを加速し相手の時間の進みを遅くして動きを鈍らせながら光速で攻撃する事も出来る。
だが、加速と減速は別の霊子回廊で行われているため、同時に発動するとお互いの能力が完全に発動が出来ない。
霊力を大量に消費して能力を底上げする事も出来るが、消耗が激しすぎる。
厳陣との戦いも時間の加速と減速を駆使して不意討ちしたのだ。
「あなたは過去改変能力である程度私の能力に干渉出来るようね」
「まぁね…けど、完全には干渉出来ないよ」
そう、プロテアの能力が加速か減速のどちらか一つだけであれば慧留の過去改変で無効化する事も出来たが、どちらも持っている以上、慧留の動体視力では対応しきれないのが現状だ。
慧留はプロテアの動きをある程度読む必要がある。
慧留の感じた違和感は周囲の物が落ちる時、落ちる速度がゆっくりである事に気が付いた。
錯覚かと感じたが、自身の動きが鈍くなっていくのを感じたので錯覚では無かった事を確信した。
「時間の加速と減速…シンプルな能力だけど、それ故に強力な力よ。これが私の第二の『二十二式精霊術』…【審判時神】よ」
通常、『二十二式精霊術』が発現する能力は一人につき一つだが、二種類以上の力に目覚める者も少なくは無い。
厳陣の『二十二式精霊術』は【太陽】と【狂月光】の二種類がある。
プロテアはイシュガルドの中でも類い稀なる才能を有しており、中でも霊力の演算能力は相当なものだ。
更に、プロテアは単純な身体能力や動体視力も図抜けており、時が加速した世界でも減速した世界でも相手を捕捉出来る。
いくら加速と減速の力を有していてもそれを使っても相手を捕捉出来る程の動体視力が無ければ無意味となる。
蒼も時間の加速や減速を行う事が出来るが加速した世界でも周囲を捕捉出来るのは蒼の動体視力では無く、【黒時皇帝】の持つ、【時空眼】があるからなのだ。
「それに…蒼より時間の加速と減速に特化してる能力…時間の加速と減速に関しては多分蒼より上…かも…」
そう、蒼は時間の加速と減速、停止、時間エネルギーを使用した技を使える…つまり、満遍なく時間制御の力を使える。
だが、それは逆にこれといって得意な時間制御も無い、要は器用貧乏な状態だ。
間違いなく、加速と減速に特化したプロテアの方が蒼の時間加速と減速を上回っているだろう。
「この力さえあれば、霊力を誤認させる事も不可能じゃないし、一度死んだ様に見せかけて不意討ち出来る……そう思ってるんでしょ?」
「? 違うって言うの?」
プロテアは慧留の考えを当てて見せた。
慧留は少なくとも舞が言っていた事はこれで錯覚であると判断していた。
「ええ、違うわ。あの時私はある意味「本当に死んだし、生き返った」わ」
「まだ、【審判時神】に能力が隠されてるって言うの?それとも第三の能力を…?」
慧留の疑問にプロテアはすぐに答えた。
「いいえ、ネタばらしすると、私が持ってる『二十二式精霊術』の力は【鉄征神】と【審判時神】だけよ。言っておくけど、この二つの能力はあなたが今まで体感した通りよ」
つまり、プロテアはこう言っているのだ。
【鉄征神】は鉄を操る能力しか有していないし、【審判時神】も時間の加速と減速しか有していないと、そう言っているのだ。
だが、プロテアは舞の不意を突いたのは時間の加速と減速によるものでは無いと行っている。
「一体…どういう…」
「厳密には加速と減速の延長線の力よ。まぁ、いずれ分かるわ。それまでに保てば…ね……!」
プロテアは【鉄王剣】を慧留に振り上げた。
時間の加速で一瞬で距離を詰めたのだ。慧留はどうにかして攻撃を回避し、距離を取る。
しかし、動きが遅くなる。これは時間の減速能力だ。
だが、慧留はこの時間の減速能力は【冥界創造】で発動しなかったという過去に改変し、能力を無効化した。
しかし、プロテアの加速までは無効化出来ない為、プロテアに距離を再び詰められた。
プロテアは慧留の肩を切り裂いた。
「うぐ……!」
慧留は天井に飛び、錫杖を打ち付けた。すると、天井から巨大な岩が落ちてきた。
プロテアは剣でそれを切り裂こうとしたが、いつの間にか剣が折れていた。
慧留が過去改変の力を発動させ、慧留の剣は過去に折れていたという事実に改変したのだ。
流石のプロテアでも落石を防御する事は出来ず、押し潰された。しかし、瞬時に【鉄鎧冑】を顕現し、落石を凌いだ。
しかし、慧留は眼の前におり、プロテアは再び【鉄王剣】を顕現させ、慧留の錫杖を受け止めた。
「【冥界創造】!!」
慧留がそう言うとプロテアの身体に纏っていた鉄の鎧が消えていた。
過去改変の力でプロテアの鎧が寿命で壊れた過去に改変したのだ。
更に、慧留は左手から魔力の刀を造り出していた。
「しまっ…!」
「【黒魔剣】!」
慧留はプロテアの右肩をバッサリと切り裂いた。『魔歌』の一つである【黒魔剣】だ。
プロテアの右肩から腹にかけて血が大量に吹き出した。
プロテアの周囲の時間は加速されている。つまり、プロテアの周囲では攻撃が加速する。
それにより、ダメージも倍増するのだ。プロテアの時間加速は完全無欠のチート能力などではなく、受けるダメージも倍増する諸刃の剣でもある。
厳陣との戦いの時、【炎帝爆殺】を回避した時も時間の加速で回避した。しかし、その時は炎を喰らいながらも辛うじて回避していた為、炎を受けたのは少しであるにも関わらず、プロテアの身体にはかなりのダメージを受けていた。
プロテアの周囲の時間を加速させている為、後手に回ると途端に不利になる。
「【双黒魔剣】!」
慧留の左手から黒い魔力の剣がそして、右手の持つ黒紫色の錫杖から黒い魔力の刃が顕現された。
プロテアは対応しようとするが、慧留の動きが速い。理由はプロテアの力を逆利用されているせいで慧留の動きが加速しているのだ。
プロテアは能力を解除しようとしたが一歩遅かった。
慧留はプロテアの身体を切り刻んだ。
「がああああああ!!!」
しかし、プロテアは倒れなかった。プロテアは時間の加速能力を解除し、慧留に斬りかかった。
両手に【鉄王剣】を顕現させていた。
本来ならプロテアの方が有利な筈であるが、プロテアは先程切り刻まれたダメージがかなりでかく、動きが鈍っていた。
ここで時間の加速を使えば、慧留まで加速し、再び逆利用されてしまう。だからと言って減速能力を使えばプロテアの動きまで遅くなってしまう。
本来、時間加速を逆利用されたくらいでまんまとやられるプロテアでは無いのだが、慧留には過去改変がある。それを併用しながら攻撃を行われた為、プロテアは対応出来ず、やられてしまった。
そして何より、慧留は近接戦闘は苦手としている。それはプロテアにも分かっていた。
だから彼女が接近戦を持ち込む事は無い、その油断が今の結果を招いた。
慧留は決してこの事を意図していた訳では無い。
慧留は本能的に攻撃をしたのだ。そう、慧留はプロテアの戦い方を「覚えている」気がしたのだ。
慧留自身、この感覚が何なのかは理解しきれていない。恐らく、力も扱いきれていない。
だが、慧留はこの感覚に頼る他、方法が無い。
「驚いたわね…はぁ…あなた…私の動きを…読んでる…いや、知ってる?」
「さぁ…どうかな?私自身にも分からないよ…」
慧留は嘘はついて無かった。
プロテアは気を取り直して、再び攻めに入った。完全に殴り合いになっていた。
慧留はプロテアの動きをある程度読んではいたが、読めているだけであり、対応仕切れている訳では無い。
やはり、接近戦ではプロテアに軍配が上がる。だが、だからと言って迂闊に距離を取ってしまうと、プロテアが時間の加速と減速を発動させてしまう。
「【鉄連鎖針】!!!」
プロテアは自分ごと地面に無数の鉄の針を出現させた。
プロテアは自分の地面から出現した鉄の針は【鉄鎧冑】で防いだ。
慧留は対応仕切れず、鉄の針に貫かれた。
「がはっ!?」
急所は避けられていたもののかなり身体を貫かれていた。
慧留は過去改変により、自分の周囲の鉄の針を消滅させた。
だが、足がすくみ、杖で辛うじて支えられている状態である。
「そろそろ…限界のようね!」
プロテアは右手の剣を上に左手の剣を下に掲げた。
そして、プロテアから魔力が収束されていく。
「【鋼剣尽咆哮】!!!」
プロテアから無数の鉄の剣が放たれた。更に、時間加速により、剣の発射速度が異常に速い。避け切れない。
慧留はそのまま臆せず突っ込んだ。剣の数があまりにも多すぎる。
慧留の過去改変ではとても処理しきれない。
慧留は攻撃を回避するが回避しきれず、無数の鉄の剣が慧留の身体を貫く。
「【魔王大盾】!」
慧留は巨大な防壁を張った。【悪魔盾】の上位魔術であるが、一瞬で防壁は砕け散った。
「きゃああああああああ!!!!!」
慧留は無数の鉄の剣の猛攻に吹き飛ばされた。
慧留は身体に刺さった剣を引き抜きながら立ち上がった。
「はぁ…はぁ…」
慧留は錫杖を杖変わりに立ち上がり、そしてプロテアの前に進んで行った。
しかし、プロテアは一瞬で慧留の間合いを詰め、剣を上に掲げた。
慧留は顔を上に向けた。そこには鉄の剣と悲しげな顔をしているプロテアの顔であった。
「これで、終わりよ」
「ええ、あなたがね…!」
慧留がそう言った瞬間、慧留とプロテアの間に黒い歪みの様なものが出現した。
慧留とプロテアの身体が黒い歪みにより、血が迸った。
「何!?これは…!?」
「【小型黒穴】…」
【小型黒穴】は超小型のブラックホールの事だ。
蒼との戦いでも慧留はこの魔術を使ったが今の【小型黒穴】はあの時程の力は無い。何故なら、あの時はアンタレスの加護があったからだ。
だが、今のプロテアを倒すには十分である。こな【小型黒穴】は過去改変を起こした歪みを増幅させて発生させている。慧留の奥の手である。
「まずい…!?」
プロテアは距離を取ろうとするが、【小型黒穴】はプロテアを離さない。
慧留はその隙を突き、錫杖に魔力をを乗せた。そして、プロテアに攻撃した。
「【黒魔剣】!!!」
慧留は【小型黒穴】の引力を利用し、プロテアの身体を切り刻んだ。
「がっ…は……」
プロテアはそのまま倒れ込んだ。
慧留もそのまま横たわった。もう、プロテアも慧留も立ち上がれずにいた。
「この…私が…私は…負け…られない…!!」
プロテアは鉄の剣を杖変わりに無理矢理立ち上がった。
「はぁ……はぁ……」
慧留も立ち上がろうとするが立ち上がれない。
「あなたは…間違ってる!」
「そんな事…!分かってるわ!間違って…いても!間違っていると分かっていても!私は進むしか無いのよ!」
プロテアは自分のやっている事が間違いだという事など分かっていた。
しかし、それでも許せなかった。常森厳陣を、黒宮大志を、四宮舞を…そして、この世界の全てを。
プロテアはただ壊すだけだ。この腐った世界を…そして、全てを地獄に送ると…プロテアはそう決めた。
その為にこの五十年、ひたすらに鍛練をした。復讐を果たす為に、この世界を壊す為に。
「あなたは…本当にこの世界を壊したいの!?これが…あなたの…本当にやりたかった事なの!?」
慧留は訴え掛ける様に言った。
慧留はどうも、プロテアがそう望んでいる様には見えなかった。
苦しんでいる、悲しんでいる。そのやりきれない思いが今の状況を生んでいるのだと慧留はそう…感じていた。
慧留もプロテアの気持ちが少しだけ分かる気がした。
理不尽により、自身の大事なモノを奪われ、それでも世界は平然と当たり前の様に廻っていて…
失ったモノは決して戻って来なくて…奪った側の者たちはノウノウと生きていて…それが許せない。
これは呪いだ。心を縛り付けて…
だが、慧留は知っていた。プロテアの様な人間の末路を…人を呪わば穴二つ…誰かを呪えばその呪いは全て自分に返ってくる。
だが、慧留は知っていた。例え間違いだと分かっていても人は…心を持つ者たちは…誰かを呪わずにはいられない事を…
「四宮先生は…確かにあなたの両親を殺したのかもしれない…常森総帥も黒宮さんもイシュガルドの人間をたくさん殺したのかもしれない。私は…彼等を許してとは言わないよ…けど、あの人たちの思いも…知って欲しいんだよ!」
「うるさいうるさいうるさい!!!そんなの知りたくない!!!私は…!!!!」
プロテアは今までにない程、時間加速と減速を同時に行っていた。
周囲の空間が歪んでいた。プロテアは慧留に対して怒りを露にした。
「あなたは…!フローフルは…!!私を惑わせる!!!あなたを殺した後はフローフルも殺す!!!!私は……過去を切り捨てる!!!!」
「私はあなたをー殺す」
プロテアはそう言った。蒼と観覧車に乗っている時にプロテアが最後に言った言葉がそれであった。
「随分、物騒な事を言うな…」
蒼もなにかを言おうとしていたが、言葉を止め、そう言った。
蒼はあまり驚いてはいなかった。プロテアがそう言うのでは無いのかと何となく予想していたからだ。
復讐に喜びは嬉しさは、邪魔にしかならない。これらの感情は心を乱し、復讐心を削ぐ。
遊んでいる時のプロテアはとても楽しそうであった。反面、どこか悲しい顔もしていた。
そう、プロテアは揺らいでいるのだ。復讐するか止めるべきかを…
「あなたが…私を惑わせた。だから…その迷いを断ち切る為にあなたを殺すわ」
「お前は…非情に徹しきれねぇよ…悪には…成りきれねぇよ…」
蒼はプロテアの眼を見てそう言った。そう、蒼は知っている、プロテアが心の優しい人間である事を。
誰かの為に、悲しむ事が出来、誰かの為に怒る事が出来る、そんな優しい人間であるという事を蒼は知っている。
「何で…そんな事を言えるのよ!私は…」
「誰かの為に悲しみ、怒る事は…簡単な様で…とても難しい事だ…少なくとも…昔の俺は…それが出来なかった…」
かつての蒼は仲間が死んでも何も感じなかった。怒りも、悲しみも無かった。
だが、エリスを失って…そして、遥を失って…やっと蒼は悲しんだ。心の底で奪っていった者たちを憎んだ。
プロテアは…自分に関係の無い者たちであっても、悲しんだ…イシュガルドの内乱…プロテアにそこまで縁も所縁もない者たちも多く死んだだろう。
だが、プロテアはそういった人たちの分まで…悲しんだ。家族だけじゃない。奪う事しか出来ない、戦争の存在そのものをプロテアは悲しんだのだ。
「俺は…そんな優しいお前を…放っておきたくないんだよ…」
「だから、「俺はお前を救う」とでも言うつもり?」
「いや、そんな御大層で無責任な事は言うつもりはねぇよ…」
誰かの心を救う事…それはとても難しいものだ。
蒼は軽々とそんな誰かを救うなんて無責任な事は言えなかった。
傷付いた人の心を救う事は簡単な事じゃない。救える保証も無いのに救うなんて軽々しく言う人間など烏滸がましいにも程がある。
「だったら、あなたは…私をどうしたいの!?」
プロテアは叫んだ。プロテアは蒼の考えが分からなかった。
そもそも、プロテアは蒼に振り回されっぱなしであった。
時神蒼…奇妙な人物だとプロテアは感じた。初めて出会った時からそうだ。メイドカフェの時もそして…今も…そうだ。
プロテアは…審判を決する事に迷いを生じていた。
「俺はー本当のお前を…連れ戻す」
蒼はプロテアを真っ直ぐ見て、そう言った。
「あなたに私の何が分かるって言うのよ!知ったような口聞かないで!」
「知ってるさ!今のお前はな!過去のプロテアは知らねぇさ…けど、俺は今の今ここにいるプロテアを知ってる!」
蒼は知っている、プロテアの優しさを。確かに、過去のプロテアは蒼には分からない。
だが、冷徹に振る舞おうとするプロテアの影に優しいプロテアがいる事を蒼は知っていた。
蒼はそんかプロテアを連れ戻したかったのだ。
救うなんて御大層な事じゃない。蒼はただ、本当のプロテアに戻って来て欲しいだけだ。
ただの願望で…我が儘だ。だから、蒼はこれからその資格を貰いに行く。そう、決めたのだ。
「私は…全てを棄て、世界を壊す!!!」
プロテアは慧留に剣を投げつけた。このまま行けば、慧留の脳天に直撃する。
慧留は咄嗟に【黒閃光】を放った。そして、黒い閃光がプロテアの腹に貫かれた。
「がっ…」
その瞬間、プロテアの周囲の時間が加速し、更にプロテア以外の時間が減速していった。
プロテアの時間とそれ以外の時間に歪みが起き、プロテアの身体がどこかに消え去って行った。
「何が…どうなってるの…?」
To be continued




