【第一章】十二支連合帝国篇Ⅶ-爪の先-
ついに始まった「アザミの花」との決戦!蒼たちは魔道警察官に紛れ込み、戦いに参加した。戦いが激化していく中、蒼たちは敵の本拠地へ進んでいく。
「アザミの花」殲滅戦に参加する戦闘員たちが順に船に乗っていた。今は早朝だった。
「なぁ、本当に大丈夫なんだろうな?一夜」
時神蒼が苗木一夜にそう聞いてくる。一夜はすぐに答えた。
「大丈夫さ。僕らには佐藤慎司と言うつよーい味方がいるのだから」
「お前の無茶な要求のせいで俺は心臓が爆発しそうだ」
佐藤はそう呟いた。
船に乗り終え、船は十二支南島に向かっていた。
船に乗った後、佐藤と一宮高校生徒会一行が船の個室で集まっていた。
「いや~、ドキドキだね…」
常守澪が呟くと音峰遥がそれに対して注意した。
「澪…あたしたちはこっそり警察に潜入してるってこと…忘れないでよ…」
「分~かってるよ~。ハルちゃんの意地悪…」
澪はバツが悪そうにそう言った。
「でも、驚きました…まさか、苗木さんと魔道警察の人が知り合いだったなんて…」
美浪がそう言うと佐藤は淡々と答えた。
「腐れ縁なだけさ…」
「まぁ、僕たちは仲良しだよね~」
「あの二人とも…話が噛み合ってないんですけど…」
佐藤と一夜の発言に湊は突っ込みを入れた。
「到着にはどれほどかかるんですか?」
月影慧留が一夜に聞いてくる。
「ここからだと一時間くらいじゃないかな?そこまで離れているわけではないし」
一夜が答えると佐藤もそれに続いた。
「ああ、そうだな。今日は空も晴れているし、順調に行けばそのくらいで着く。」
「でもまさか…警察に忍び込むことになるとは思いませんでした…」
慧留が言うと蒼も同調した。
「ああ、全くだ。何だよこの制服…高校の制服以上に窮屈だぞ…」
蒼がそう言うと美浪と慧留がそれを否定した。
「そう?この服可愛い思うんやけど…」
「私もこの服はかわいいと思うかも…」
「…女の子って分からないね…」
美浪と慧留を見て湊がそう言った。
「珍しく意見が合うな…湊」
蒼がそう言うと湊が驚いた表情をした。
「え?ひどくない?」
「ひどくねぇ」
湊の発言を蒼はあっさり否定した。
因みに魔道警察の制服は男子は黒、女子は青を基調とした制服であり、左胸に国家の刺繡が付けられていた。
「てか、この国は警察といい学校といい変態なのか?女子のスカート短すぎだろ…」
蒼がそう言うと美浪がキョトンとした顔をした。
「これ位普通やないん?」
美浪は頭に疑問符を浮かべた。
「俺の国は膝までスカートの長さがあった。そんなに短かったら見えるだろうが…」
「………」
蒼がそう言うと遥が蒼にジト目を向けた。
「な…何だよその眼は…」
蒼が遥に尋ねると遥はとぼけたように答えた。
「いいえ、あなたも年頃の男子なんだなと思っただけよ」
「悪いかよ!?」
蒼が叫び交じりに言うと遥はそれを否定した。
「別にいいんじゃない。男の子だし」
遥はおちょくるようにそう言った。
「アオチーは変態だ~~!ははははは!」
澪は面白おかしく言い放った。蒼は澪に殺意の眼差しを向けた。
「皆…その辺にしなよ…みっともない…」
湊がそう言うと蒼が湊に食って掛かった。
「はぁ?お前いい子ぶってんじゃねーよ!このくそナルシストが!」
「今それ関係ないだろ!?」
湊が蒼に対してそう言い放った。
「やれやれ…だね…」
一夜が両手を上げてそう言う。
「本当に大丈夫なのかこいつら…」
佐藤は心配そうに蒼たちの喧嘩を見ていた。
時は昨日の夜まで遡る。
「一夜…お前の言う考えってなんだ?どうすれば警察に気付かれずにあいつらのアジトまで行けるんだ?」
蒼がそう言うと一夜は答えた。
「簡単だよ…僕たちが魔道警察になればいいんだよ」
一夜がそう言うと一同は驚いた顔をした。
「でも…どうやって?」
慧留が一夜に聞くと一夜はすぐに答えた。
「警察に知り合いがいてね。ついさっき、その警察にアジトの場所を伝えた。すぐにでも魔道警察は戦いの準備をするだろうね」
一夜がそう言うと遥が一夜に尋ねた。
「ということは、あなたが警察と「アザミの花」をぶつけるように仕組んだってこと?」
一夜はすぐ答えた。
「そうだね。あの後調べたんだが、「アザミの花」の構成員は一万人程だ。僕らだけでは太刀打ちできない。だから警察の力を利用する必要があったのさ」
次に、湊が質問をした。
「具体的にどうやって潜入するんですか?」
「まずは協力者を紹介するよ。入ってきてください」
一夜がそう言うと人が入ってきた。男性であり、恐らく二〇代である。強面と言うほどでもないが鋭い顔つきをした男性だった。
「彼は魔道警察署の佐藤刑事だ。今回、我々に協力をしてくれる」
一夜が紹介すると佐藤は挨拶をした。
「佐藤慎司だ。君たちの事は聞いている。宜しく頼む」
「彼は魔道警察の諜報部所属なんだ。僕と同じ情報戦が得意なのさ」
一夜がそう言うと佐藤はそれを否定した。
「今はもう諜報部じゃない。バリバリの戦闘部隊だ。それに、情報戦じゃあ苗木には手も足も出ねぇよ」
佐藤がそう言うと蒼が一夜に尋ねた。
「信用していいのか?」
「僕が保障するよ」
蒼の質問に一夜が答えた。
「まぁ、なえきんの作戦はいいんじゃないかな~?有効な策だと思うよ」
澪が答えた。そして、遥もそれに同意した。
「確かに現状、最も有効な作戦だわ。まぁ、古典的且つベタな点を除けばね」
他の皆も首肯した。
「…決まりだね」
一夜はそう言って作戦を決行した。
ここは十二支南島の「アザミの花」のアジトである。リーダーの天草屍はこのアジトの最深部にいた。
「さて、来たか…さぁ、決戦の始まりだ」
屍はそう宣言した。
「アザミの花」の幹部、十二神将はそれぞれの部隊を統括するため分散しており、それぞれの場所を取り仕切っている。
「やれやれ…お早いご到着で」
赤島が気だるげにそう言った。
いつもなら兎咬の突っ込みが飛ぶのだが、今日は別行動だ。
いつもなら鬱陶しがるところだが、いざいなくなると落ち着かなくなるものである。
「さぁてと…やるかぁ!」
赤島はそう言うと「アザミの花」の尖兵が動き出した。
決戦の始まりである。
魔道警察の船が上陸した。
その上陸した瞬間を狙われ一斉に「アザミの花」の兵士が襲ってきた。
「いきなりかよ!」
蒼がそう呟くと一夜が話しかけて来た。
「モタモタしてる暇はないよ!アジトはこの先だ!急いで!頼みましたよ!佐藤刑事!」
一夜がそう言うと生徒会一行は走り出した。
兵士たちはやはり神器を所有していた。
「あれは…俺が初めて戦った「アザミの花」の奴が持っていた剣だ」
蒼がそう呟く。そう、蒼が「アザミの花」の構成員と最初に戦った片桐と言う男が持っていた剣だ。
「どうやら、あれは【草薙剣】だね~。しかも、多分あれ人工的に量産されたやつよ~」
澪が走りながらそう言った。
【草薙剣】とは神器のプロトタイプともいえる存在である。もっとも古くに作られた神器ともいわれ、汎用性が非常に高い神器である。
「一度戦ったことがあるが、かなり強力な神器だった。雑兵だからって気は抜けないな」
蒼がそう言うと目の前に一人の敵が立ち塞がった。
皆は一目でただ者ではないと分かった。
「ここから先は立ち入り禁止だぜ。通りたければ俺を倒してからにしな」
男はそう言ってきた。
「ここは私がやります。他の皆は先に行ってください」
美浪が言うと蒼が止めた。
「何言ってんだ!?ここは俺が…」
「うん。分かった~。じゃあお先~、気をつけてね~なっちゃん」
蒼が言いかけたところ澪がすぐさま蒼を連れて走って行った。
「おい、何考えてんだ!一人でやらせるなんて!」
「なっちゃんは大丈夫なの、強いし。それに…敵の幹部はまだまだいる。ここからは一対一に持ち込まないとこちらの戦局が不利になる…見たところあの男の周囲には人影はなかったし…大丈夫よ」
蒼が怒鳴ると澪はそれについて答弁した。
「心配なのは分かるけど、大丈夫よ。今のあの子なら。「奥の手」もあるしね」
遥がそう言った。
「美浪ちゃんは君が思ってるほど弱くないよ。信じよう!」
湊がそう言うと蒼は仕方なく「分かったよ」とだけ言って返事をした。
「行こう!皆!」
慧留がそう言うと皆は走り出した。
「俺と一対一でやるたぁいい度胸だな」
鉤爪がそう答えた。
「そうしないと勝てへんねん。お前と戦って他の皆まで余計な体力使わせるわけにはいかんからな」
美浪がそう言うと鉤爪は面白いものでも見るような表情をした。
「ハッ!まぁ、俺もそっちの方が都合がいい。何たって、そうしないと俺の場合は味方ごと攻撃しかねねぇからな!一対一の方が俺にとっても好都合だ」
「なら、さっさと始めよか!」
美浪は走り出し、鉤爪に接近した。
「相手が女ってのは物足りいねぇがせいぜい楽しませてくれよ!」
そう言って鉤爪は神器を取り出した。鉤爪の神器だった。
鉤爪は神器を美浪にぶつけようとしたが、躱され、逆に腹に一撃を入れられた。
「がはっ!」
鉤爪は悶絶するが、美浪は攻撃の手を緩めなかった。
さらに、顎にパンチをし、左足で、鉤爪の胴体を蹴り飛ばした。鉤爪は軽々と吹っ飛び後ろにあった木に当たった。
ここ、十二支南島は森林が多い島であり、草木が生い茂っているのだ。
「ふふふ。女、名は?」
鉤爪が美浪に問いかける。
「霧宮美浪」
美浪が答えた。
すると、鉤爪も自身の名を名乗った。
「俺は、鉤爪新だ。正直、お前のことを舐めていた。謝罪しよう…そして、全力で叩き潰す!行くぜ!【戦神】!」
鉤爪が神器を解放すると鉤爪がより鋭く、鋭利になった。
鉤爪は美浪に肉薄した。
-なっ!速い!
「きゃあ!」
鉤爪は美浪の身体を切り裂いた。神器の力で速力が上がっている。
しかも、ここは森だ。動きが捕らえづらい。
今度は後ろから攻撃を仕掛けて来た。鉤爪の神器により、背中を切り裂かれた。
「かはっ!」
鉤爪の攻撃は止まらない。
鉤爪の神器【戦神】は名前に反して派手な攻撃はしない。この神器は主に所有者の身体能力を強化する神器である。鉤爪で相手を切り裂くのが基本戦術である。
しかし、シンプルな能力故、汎用性が高く、尚且つ応用が利く神器でもある。そう言う意味では、【戦神】と言う名は相応しい名前かもしれない。
-目で追ったらあかん。感じるんや!
美浪は五感をフル稼働させていた。相手の周囲の動き、気配を感じ取っていた。
「そこやあ!」
美浪は後ろを振り向き拳を叩き付けた。しかしー
「残念。そいつは外れだ」
美浪が殴りつけたのは丸太だった。
鉤爪が外れを宣言すると鉤爪で美浪の身体を切り裂いた。
「かはっ!」
美浪は躱しきれず、またもや身体を切り裂かれた。
美浪の身体からは大量に出血していた。
「ここまでだな…俺の勝ちだ」
鉤爪が勝利宣言をする。しかし、美浪はまだ諦めていない。
「私は負けへんよ。絶対に勝つ!…まぁ、このままやったら間違いなく勝てへんやろな…ここで、「奥の手」を使うことになるなんて…」
美浪がそう言うと美浪の身体に変化が現れた。爪が鋭くなり、身体中から体毛が生えていた。
やがて、姿が巨大な狼に変化した。
「なっ!?神獣化だと!?馬鹿な!そんなことが…」
神獣化とはその名の通り、自身の身体を神獣にする能力であり、獣人のみが使える能力である。霧宮美浪は狼の妖怪であり、美浪の家系は神獣化の力が使える。
神獣化した者の戦闘力はそこら辺の神器では相手にならないような戦闘力があと言われている。
妖怪も獣人のカテゴリーに入る種族もおり、美浪はその種族なのだ。
しかし、神獣化は獣人なら誰でも使える能力ではない。力が余りに強大なため、使えるものはごく一部である。
さらに、使い続けると使用者の寿命を削ってしまう諸刃の剣でもある。
「まぁ、三分以内に決着つければ問題ないやろ」
狼の姿になった美浪がそう言った。
今の美浪は真っ白い美しい狼だった。全長は三メートルほどあり、眼光も鋭い。
「クソが!」
そう言って鉤爪が高速で移動し、美浪の動きを翻弄しながら、攻撃を計った。しかしー
「なっ!?」
再び後ろから攻撃した鉤爪であったが、完全に動きを読まれ、右足で防がれた。さらに、丸太の囮も意に返していなかった。
神獣化によって五感もケタ違いに上昇していたのだ。
「残念やけど聞かへんで」
美浪がそう言うと鉤爪は神器を両手で重ねた。
「ならこれならどうだ!【爪龍覇】!」
鉤爪は巨大な爪の一撃を放った。この技は鉤爪の最大の技だった。
「なっ!」
しかし、美浪は【身体強化】によって、自身の身体を強化し、右足を振り下ろして、鉤爪の一撃を消し飛ばした。
「終わりや」
そう言って美浪は跳躍し、左足を思いっきり大地に振り払った。すると、かまいたちのような突風が起き、その突風によって鉤爪は身体中を切り裂かれた。
「ぐわあああああああああああああああ!!!」
鉤爪は叫び声を上げそのまま気絶した。
「ぎりぎり、三分…何とかなったな~」
そう言って、美浪は神獣化を解いた。そして、元の可憐な姿に戻った。
目の前に傷だらけで倒れている鉤爪の姿があった。
「あっちゃ~。また神器壊してもた…まぁ、ええやろ」
神器【戦神】は粉々に砕けていた。これは修復不可能だろう。
「私も結構ダメージ受けてもしもたし…もう戦えへんな…どこかに隠れてよ。服もビリビリに破れてもうたし血まみれやし…」
そう言って美浪は近くにあった小さな洞窟に隠れていった。
美浪をおいて目的地まで走り続ける蒼たち生徒会一行は再び「ただならぬ敵」に遭遇した。
「「アザミの花」十二神将、湖泉」
湖は自分の名を名乗った。
「ここは俺がやるぜ…」
蒼はそう言った。
「なら私も残る!蒼のサポートをする」
慧留はそう言った。
「何言ってんだよ!お前は先に…」
蒼がそう言うと一夜が軽く「じゃあ任せたよ」とだけ残して他の四人はアジトへ向かった。
「あいつら!人の話を無視しやがって…」
蒼がそう言うと湖が一夜たちを止めようとした。
「行かせない!」
しかし、蒼がそれを止めた。
「慧留…俺から離れてろ…さっさと倒してあいつらを追いかける!【氷水天皇】!」
蒼がそう言って【氷水天皇】を構えた。
「あなたがあの「天使使い」ね。いいわ、相手になってあげる」
湖が戦闘態勢に入った。
「来るぞ!慧留!」
蒼が言うと後ろにいる慧留は首肯した。
「湧き起これ、【泉人】」
湖が神器を解放する。すると、湖のレイピアの形をした神器から水が湧き出て来た。
「水の神器か…一見すると俺の方が有利だが…」
蒼はそう呟いた。そう、蒼の天使は水と氷の天使だ。
一見すると蒼の方が有利なのである。しかし、神器は強大な力を持っている。相性を覆す手段が必ずある。蒼はそう確信していた。
「【水弦覇】」
湖のレイピアから水が大量に発射された。解放した瞬間に湧き出た水も一緒に蒼に襲い掛かってきた。
「ふっ!」
蒼は【氷水天皇】で水を切り裂いた。すると、一瞬で水は凍りついた。
そして、その氷が一斉に湖に襲い掛かった。
「【熱湯聖水】」
水が熱湯に変化し再び蒼に襲い掛かる。再び蒼は水を再び氷に変えようとするが温度が高すぎて凍らせることが出来ない。
「何!?」
蒼は水に押しつぶされた。
【泉人】の能力は熱湯を自在に操る能力である。熱湯である以上冷めさせて凍らせることが可能だが【泉人】の水は「温度が下がらない」。
そのせいで【氷水天皇】の力を以てしてもあの水を凍らせることが出来ない。
水圧が収まり蒼が出てくるが蒼と慧留の周囲には【虚神】が展開されていた。
蒼は咄嗟に自身と慧留に【虚神】を展開したのだ。
「くそ!温度の下がらねぇ水か…相性いいどころか最悪じゃねーか…」
蒼は顔を歪めながらそう呟いた。
温度の下がらない熱湯は蒼の天敵以外の何物でもない。かなりマズい状況になっていた。
ー【氷水天皇】では勝てない…仕方ない…ここで使うのはさすがにマズいが…やるしかない。
蒼が何かを決意すると慧留が何かに気付いたような顔をした。
「ねぇ、蒼、あの水、レイピアに戻っていってるよ」
慧留がそう言うと蒼は「温度の下がらない水」のカラクリを理解した。
「なるほどな…水とレイピアは繋がっている。だから、温度が下がらなかったのか…」
【泉人】の水は全て繋がっており、温度も共有されている。それによって温度が下がらなかった。ならばー
「接近戦に持ち込めば戦える!」
そう言って蒼は湖に接近した。
「【ハイドロミサイル】!」
湖はミサイルを模った水を蒼に発射した。
「霊呪法第二八七番【土龍絶壁】!」
蒼は霊呪法を唱え巨大な岩の壁を発生させた。そして、その岩壁が水を辛うじて防いだ。
慧留も何とか遠くに避難をした。
「【ハイドロカッター】!」
湖は焦りの表情と共に鋭利な水の刃を飛ばした。蒼は流石に躱しきれなかった。
身体を水圧によって切り刻まれたが、何とか湖の手前まで接近できた。
「はあ!」
蒼が【氷水天皇】を振るう。
しかし、湖はレイピア型の神器【泉人】でその刃を受け止めた。
そこから二人は斬撃の応酬を繰り返した。二人の剣の実力はほぼ互角だった。湖は自身の水の力も使っているが蒼の氷に防がれていた。氷で熱湯に勝つことは出来ずとも防ぐことは出来る。
二人の戦いは完全に互角だった。
しかし、不利なのは明らかに蒼の方であった。相手は距離を離れれば有利に事を運べるからだ。
蒼が今、接近戦に持ち込めているのは咄嗟のことで相手の思考を乱されていたからだ。今度距離を離されると蒼が不利になる。蒼はこのまま手を緩めるという選択肢が無かった。
―次距離を離されたら終わりだ。このまま決める!
蒼は次の瞬間霊呪法を放った。
「霊呪法第二四五番【氷魔蓮刃】!」
湖の真下から氷の刃が飛び出してきた。咄嗟の事で対応が間に合わず、【氷魔蓮刃】をまともに受けた。
「きゃあああ!」
更に蒼は攻撃を続けた。
「【聖雨】!」
空から雨が降ってきた。この雨に降れたものは身体が切り裂かれる裁きの雨である。
湖は身体が切り刻まれる。
「まだよ!」
そう言って湖は立ち上がり、レイピアから水を放った。
「【ハイドロブラスト】!!」
極大の水が放たれた。しかも、発射速度が段違いに速い、躱しきれない、防ぎきるのも不可能だ。
「しまッ!」
蒼が焦りの表情をする。
しかし、水が蒼に届くことはなかった。
「なっ!?」
湖は驚愕の表情をした。そして、慧留と視線があった。先程までは隠れていたのになぜか今は近くにいた。
-そうか…貴様が…
湖は慧留に視線が集中していたせいで蒼が詠唱で霊呪法を使っていることに気付かなかった。
「天空を舞い降りし義憤の女神よ、裁きを与えよ!痛みを与えよ!王の名のもとに!霊呪法第六三八番【義憤女神審判】!」
蒼は六〇〇番台の霊呪法を放った。
【義憤女神審判】は裁きの光であり、この光を受けたものは義憤の女神の力によって断罪される。
裁きの光から守る為に水を自身の周りに展開した湖であったがもう遅い、水は一瞬で蒸発し、湖も光に呑まれた。
巨大な爆発音が鳴り響いた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
蒼は息絶え絶えと言った状態だった。あれほどの高速戦闘を続けただけではなく、六〇〇番台の霊呪法を使ったのだから当然と言えば当然である。
「大丈夫?蒼…」
慧留が駆け付けてきた。
「ああ、大丈夫だ。ありがとな…最後のあれ…お前がやってくれたんだろ?どうやったんだあれ?」
蒼は湖の最後の一撃を消したのが慧留であることに気付いていた。
「えっと…「水をまき戻した」んだ…。あの水が発射される前の時間に」
時間の巻き戻し…それは紛れもないチート能力であろう。しかし、それが無ければ蒼は負けていただろう。
「時間の巻き戻し以外の能力は使えないのか?」
蒼は尋ねるが慧留は首を横に振った。
「私が使えるのは巻き戻しだけ…それ以外の時間系統の能力は使えない」
「時間の巻き戻しが出来るってのはすごいことだけどな…」
蒼がそう言うと慧留は戸惑った顔をした。
「さっきのは隙があったから出来たんだ。結構時間を巻き戻したし…巻き戻す時間が長ければ長い程タメが必要だから戦闘ではあまり使えないし…」
「それでもすげぇよ…ありがとな」
蒼はそう言うと慧留は笑顔を浮かべた。
「じゃあ、傷を治してしばらくしたら追いかけよう!」
慧留がそう言うと蒼は頷いた。
湊、遥、一夜、澪の四人は基地の内部に入っていた。
「一夜さん基地の内部は分かりますか?」
湊が一夜に聞いてくる。
「ああ、問題ない。全体地図はもう持ってるからね」
一夜がスマホを見ながらそう言う。
「でも、ヤバいわよ。音波で敵の位置情報を探ったけど分かってるだけで百人くらいはいるわ」
遥が微妙な顔でそう言った。
遥は音波を使って敵の位置を特定できる。ブービートラップなども音波で見破れるため、遥の前ではそういったものは無意味である。
「うわ~、マジで?もうここまで入り込んでるなんて…他の奴らは何やってんのよ…」
声の方向を見ると大量の兵隊と一人の少女が立っていた。
「何よあんた…」
遥が聞いてくるが少女はその質問には答えず別のことを話していた。
「くるさ~、まっさかここまで攻め込まれてるなんて思わなかったよ…参ったな~。ここで始末するしかないか~」
「!…こいつヤバいわ…苗木君と澪は先に行って!あたしと湊で食い止める!」
遥が言うと湊がヤバそうな顔をした。
「え?俺も戦うんですか?あんなヤバそうなやつと?見たところ今まで戦ってきた十二神将の中で一番ヤバい気がするんですけど…」
湊が言うと遥が冷静に話し出した。
「確かに今までの十二神将とは格が違うわ。けど、あなたはあそこにいる兵士の相手をしてもらいたいの。兵士に構っていられるほどの余裕がないわ」
「けど、兵隊も百人以上いるんですけど…」
湊はそう呟いたがやるしかないと思ったようだった。
「名前…聞かせてもらっていいかな~」
少女がそう答えた。遥はすぐに答えた。
「音峰遥」
「董河湊」
恐らく相手が聞いたのは遥の方だが一応湊も名乗った。
「くるは御登狂。よろしくね~、遥ちゃん、湊ちゃん」
「「ちゃん!?」」
湊と遥はびっくりして叫んだ。
「ふぅ~。何とか治ったか」
蒼が呟く。一方、慧留はかなり息切れを起こしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「大丈夫か、慧留?」
蒼が慧留の心配をする。
「大丈夫だよ。時間系の術は霊力の消費が激しくて…さっきの巻き戻しで大分消費しちゃって…でも、大丈夫大丈夫!」
慧留は笑顔でそう言った。「さっきの巻き戻し」というのは湖戦で使った巻き戻しの事だろう。
蒼の想像以上に魔力を消費していたのだろう。
「これを食え…「エリクサー」だ。天使がこれを食うと霊力が回復する」
そう言って蒼は慧留に丸薬を渡した。
「ありがとう…蒼」
慧留は蒼にお礼を言った。蒼は照れくさそうに慧留の後ろを向いた。
「なっ!」
蒼は突然驚きの声を上げた。
「…?どうしたの?蒼…」
慧留は疑問の声を漏らした。
「まさか、こんなところにいたとはな、天使!」
聞き覚えのある声だった間違いない。
「赤島…英明…!」
そこにいたのは間違いなく赤島英明本人だった。
「そこに倒れてるのは湖か?」
赤島が尋ねる。
そこには湖が倒れていた。
「安心しろ、死んじゃいねぇよ」
蒼がそう答えた。
「そういう問題じゃないんだよ。湖もさっさと回収して手当てを要請しようか…後、神器は壊れてねぇみたいだし、後で回収するとして…やってくれたな~天使。暗城だけじゃなく湖まで…」
赤島は怒りの眼差しを蒼に向けた。
「いやいや、そこの湖とか言う奴はともかく、暗城に関しては完全に向こうから攻めて来たんだ…俺が攻められる筋合いはねぇ」
蒼は赤島の言葉の揚げ足を取った。しかし、赤島は聞き入れなかった。
「俺は「これ以上関わるな」と言ったんだ。お前はそれを破った」
赤島はそう言うと蒼はそのことについて真顔で答えた。
「ああ、それは違いねぇな。けど、関わるなって方が無理な話だろ。てめぇらの勝手でお家転覆とかこっちは御免なんだよ!」
蒼は吐き捨てるようにそう言った。
-あの人が…赤島…
慧留を始め生徒会メンバーは赤島英明の話は蒼から聞いていた。
しかし、遭遇してみれば想像を絶するほどの霊力を持った青年だった。恐らく十二神将最強クラスであることは間違いなかった。
慧留がこれまであってきた十二神将の中でも彼はレベルが違った。
「慧留…遠くまで離れてろ。こいつが相手じゃ…手加減出来ねぇ!!」
蒼が言い放つと蒼の身体から霊力が迸った。
慧留は蒼の言う通り二人から離れた。
「エリクサー」を飲んだからと言って霊力が回復するのにはそれなりに時間を要する。
今の慧留でははっきり言って蒼の足手まといになる。それは慧留本人も分かっている。
だからこそ、慧留は進んで蒼と赤島から距離を取ったのだ。
「あん時以来だな…正直、あの時はこうなるなんて想像がつかなかった。まさか、こうなるとはな…」
赤島がそう言った。しかし、蒼が言葉にしたのは赤島とは正反対の言葉だった。
「俺は逆だ…こうなる気がしてた。そして、俺はお前をぶっ倒す!あの時の決着を着けてやる!」
「せっかく拾った命を無駄にするとは…馬鹿な奴め!」
時神蒼と赤島英明の二人の決戦が今、始まった。
To Be Continued
はい、第七話投稿しました。今回は遂に「アザミの花」との最終戦が始まりました。まだしばらくは続きます、この戦いは。
今回、投稿が遅れました…次からはいつも通りのペースに戻ると思います。
それではまた




