【第五章】イシュガルド殲滅篇ⅩⅣーblack hide shadowー
蒼たちは今、四神天城跡地にいた。
辺りはすっかり焼け焦げており、今は新たな四神天城を建設する目処を立てている。
黒宮は今、四神天城跡地の目の前にいた。
「やれやれ、こんな所に何のようですか?」
黒宮の後ろには蒼と慧留、一夜がいた。
「俺はイシュガルドと戦う」
「決意表明ですか?ですが、あなたたちの好きなようにさせる訳には行きませんね。こちらにも色々と都合というものがありますからね」
「関係ねぇ…俺はもう決めたんだよ。自分の意思で進むってな。もし、俺の…俺たちの邪魔をするんなら、真正面で叩き潰す!」
「成る程…もし、君たちの言い分を承諾しなければ、私を叩き潰すと………いい度胸ですねぇ…」
黒宮が瞳を鋭くする。
本気だ。今の黒宮は本気で蒼たちを倒そうとしている。
「やっぱ、あんたは俺たちの邪魔をするって訳だな」
「それはそうでしょう…負けると分かっているのに、戦場に連れ出す薄情ではありませんよ、私は」
黒宮の周りに巨大な影が出現した。
「来るよ!」
「分かってる!」
影が三人を襲い掛かった。三人とも軽々と攻撃を回避した。しかしー
「このままではジリ貧だね」
一夜がそう呟いた。黒宮の力は圧倒的だ。悠長にしている暇はない。
「【第二解放】!」
蒼の瞳はサファイアの様に蒼い瞳になっていた。さらに髪は白く染まっており、全身に白い衣を纏っていた。
背中には水色の翼が左右に生えており、頭上には五芒星の形をした輪っかが出現していた。
蒼の『天使』の二段階目の解放だ。
「【アルカディアの氷菓】」
蒼は剣を黒宮に向けた。すると、氷が出現し、黒宮に襲い掛かる。
黒宮は蒼の攻撃を全て回避した。更に、自身の影に黒宮は隠れ、蒼の影から黒宮が突然姿を現した。
「隙だらけですよ?」
「な!?」
黒宮は影から影を渡る力がある。影がある場所であれば黒宮はどこにでも移動できる。
制約はあるものの、近くにある影を渡る事など黒宮にとっては造作もない事だ。
「【黒閃光】!」
慧留は黒い閃光を放った。黒宮は陰に隠れ、攻撃を回避した。
黒宮は近くの影から姿を現した。
「時神さん、あなたの影、貰いますね」
黒宮がそう言うと蒼の影が突然針のように変化し、蒼の全身を貫いた。
「がは!?」
蒼は吐血し、倒れ込んだ。しかし、蒼は自身の影すら凍らせた。だが、自身の影を凍らせ、砕け散った瞬間、蒼の全身から血が噴き出した。蒼は流石に驚いた。
黒宮が蒼の疑問に淡々と答えた。
「影と影の発生源は連動しています。影を破壊してしまえば、影の発生源にも影響が出ます。今回、あなたは自分の影を凍らせ、砕け散りました。それにより、発生源であるあなたの身体にもダメージが来た訳ですよ。しかも、影を破壊したところで再び、あなたの身体から影が発生します。無限ループですよ?」
黒宮は潜り込んだ影を自在に操る事が出来る。しかし、逆に言えば、自分の影以外は黒宮自身が潜り込まなければ、操る事は出来ない。
蒼は一旦、自分の影を破壊し、新しい影が生成された。この影は先ほどの蒼の影とは別の蒼の影の為、黒宮は今の蒼の影を操る事は出来ない。まぁ、また潜り込まれたらそれまでだが。
それに黒宮が陰に潜り込むタイミングが全然蒼たちには分からない。そのタイミングを掴まなければ、蒼たちは勝手に自滅する事になる。
「くそが!」
「御出で、【黒時皇帝】!」
慧留は三人を見た。慧留の姿は全身が黒い喪服に身を包んでいた。
さらに、背中には骨と漆黒の羽根で出来た翼が展開されていた。
瞳は紫色に変わっており、頭には黒いベールがかかっており、黒い髪を包んでいた。
慧留の【悪魔解放】だ。
慧留は錫杖を突き立てた。すると、黒宮の影が突然黒宮に襲い掛かって来た。しかし、黒宮は自身の影を掴み、大人しくさせた。
慧留の【黒時皇帝】の能力は過去改変能力だ。慧留は過去にあった出来事を別の出来事に改変出来る。
制約はあるものの強力な能力である。さっきのは黒宮の影が黒宮に襲い掛かるように改変したのだ。しかし、黒宮はその力をすぐさま無効化した。
そもそも、黒宮は影を操る力の為、影を用いた能力が通用する筈もない。それに、慧留の能力は改変する物質に触れる事でより強力な改変を行う事が出来る。
今の改変能力程度では黒宮を制圧する事は難しい。だからと言って黒宮の影に直接触れる事はリスキーすぎるし、仮に触れられたとしても、黒宮を倒せるとは思えない。
ここまでは慧留の想定通りである。
「付け焼刃な影では、私は倒せませんよ」
「【氷魔天刀】」
氷の剣が襲い掛かる。しかし、黒宮の影が盾となり、攻撃を防いだ。黒宮の影はかなり固く、蒼の刀を弾いた。
慧留は【神速】を使い、高速で移動し、蒼の前に立ち、蒼の氷に錫杖を突き立てた。
「【冥界創造】!」
すると、黒宮の身体が凍り付いていた。慧留の過去改変で黒宮が蒼の氷が黒宮を凍らせたという事に改変したのだ。
しかし、黒宮は何もしていなかった訳ではないらしい。黒宮は蒼の後ろに自身の影を後ろに仕込んでいたようで、その影が蒼と慧留に襲い掛かった。
「ぐうあ!」
「ぐううう!!」
蒼と慧留が吹き飛ばされた。黒宮は余裕の表情をしていた。黒宮は既に氷から脱していた。
「その程度では私には勝てませんよ?この程度ですか?あなたたちの力は?」
「ちぃ!」
蒼は既に片膝をついていた。慧留もかなり疲弊していた。蒼と慧留の二人を相手にここまで黒宮は圧倒していた。
これが、先ねに城の時を生きている真祖の力。
「さて、そろそろ………!?」
「「「!?」」」
黒宮たちは巨大な霊圧を感知した。これはー
「こんな時に!?」
「慧留!!」
蒼が慧留に声をかけた。慧留は蒼に反応した。
「蒼!?」
「お前は先に行ってくれ!ここは俺と一夜で何とかする!」
「でも…」
「いいから早く!」
蒼がそう言うと慧留は霊力の感じる場所に走って行った。
黒宮も霊力の感じる場所へと行こうとした。しかし、蒼がそれを静止した。
「何のつもりですか!?あなたは…イシュガルドに味方すると言うのですか!?」
「イシュガルドは関係ねぇ…俺はまだアンタに納得してもらってねぇ」
「くだらない事に意地を張らないでくれますか!?こっちは国が…」
「俺もそうだ、自分の命がかかってる」
「はぁ!?一体何を…」
「アンタを納得させねぇと変わらねぇ…」
蒼は黒宮の言葉に耳を貸さなかった。このような非常事態では黒宮を行かせるなり、共闘するというのが筋と言ったもんだ。
しかし、蒼はそれを拒んでいる。傍から見たら蒼たちのやっている事は愚行そのものである。蒼自身、そんな事は重々承知している。
だが、蒼は黒宮に認めてもらわなければならない。蒼にとってそれはこのような愚行に走るに値する事なのだ。
「いいでしょう…なら、あなたたちを本気で消す事にしましょう!!!」
黒宮は魔力を全開まで解放させた。完全に本気である。今まで蒼が感じた中で最もヤバい魔力であった。さしずめ、神と言った所か…
「上等だ…」
蒼は冷や汗をかきながらそう呟いた。
「さてさてさてさてさてさてさてさ~~~て。プロテアもセルリアも動き出してる頃合いだーねーーー」
コランは愉快な声でそう言った。コランは敢えて囮役を引き受けたのだ。
現在コランは電柱のてっぺんにいた。
コランは「イシュガルドの人間では無い」。彼はただ、イシュガルドに協力をしているだけだ。
つまり、コランにとって、イシュガルドの復讐などには興味が無いのだ。
ただ、この狂乱を楽しみたい…コランはたったその為だけに動いている。
そして、コランには【道化王冠】がある。相手を罠に嵌めつつ自身はこの戦いを悠長に傍観する事が出来る。
「おっと…さっそく嗅ぎ付けて来たね。う~ん、月影慧留辺りかな?」
コランは慧留がここに向かって来ている事は分かっていた。恐らくは彼女が向かって来ているだろう。
なら、彼女をここに留まらせる。そして、慧留とセルリアの復讐が完遂するまで泳がせる。
他にも感づいて向かって来ている者もいる。
常森厳陣は大きな病院で集中治療を受けている。常森澪も同様だ。
スープレイガとドラコニキルもこちらに向かって来ているようだ。
ー僕の舞台でゆっくりと踊るといい…
「悪いけどあなたの思い通りにはなりませんよ」
「………へぇ??君が一番乗りかい?霧宮美浪…」
そこにいたのは霧宮美浪であった。見た目は普通の人間と変わらないものの彼女は狼の妖怪なのだ。
しかし、どうやら、コランは拍子抜けしている様子であった。
美浪は霊力を足場にしており、空中に浮かんでいる状態であった。
「残念だね~。君か…悪いが僕…君には興味が無い。死にたくなければそのまま帰った帰った」
「…確認いいですか?」
「ナニかな???」
「遥さんを殺したのは…あなた?」
美浪が真剣な眼でそう問いかけた。すると、コランの身体が小刻みに震えだした。そしてー
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
コランは笑い出した。そして、更に、身体を倒し、のたうち回りながら笑った。
「はははははははははーー、くるちー!!!!」
「ふざけてるんですか!?」
「うん、フザケテルヨー。てか、違うね、僕じゃないよ?殺したの?君のお友達だよ?ホントだよん?」
「だとしたら、あなたがそういう風に仕組んだんやろ!?」
「あー、まぁ、そだねー」
コランがあっけらかんとした感じでそう答えた。
コランは美浪に対して本当に興味が無い様であった。
美浪は怒りの形相を浮かべていたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「あなたは…どうやら、何らかの方法で顔を変えられるようですね…」
「うん、まぁ、その能力も持ってるよ。僕、悪戯が大好きなんDA☆」
コランがおちゃらけた喋り方を崩さなかった。
美浪はコランに殴りかかった。
「【道化王冠】!」
コランが光輝き、そして、姿を消した。
「消えた!?」
美浪は辺りを見回した。しかし、コランはいない。
いつの間にか美浪の背中にナイフが刺さっていた。
「!? いつの間に!?」
ーこれで終わりねー。
コランは心底落胆しながら美浪の頸動脈をナイフで切り裂こうとした。しかしー
ーえ(゜〇゜;)???????
コランは自分の身に何が起こったのか理解できなかった。
何故なら、コランは美浪に殴り付けられ、吹き飛ばされていたからだ。
「ぶぅああああかなあああああああ!?!?!?(゜〇゜;)?????何故僕の場所が分かった!?君の五感は完全に支配している筈なのに!?」
「やっぱり、五感を操作されてたんですね…成る程…それで遥さんと澪さんを同士討ちさせたんですね…」
美浪はコランの能力を把握している訳では無かった。しかし、コランが口にした事が真実であれば、美浪の解釈はまかり通る。
美浪は五感を封殺されている。だが、五感と直感は別物だ。
美浪の直感は野生の直感と同じであり、第六感でもある。
直感でコランの位置を察知したのだ。コランの能力は美浪とは相性最悪と言える。
「直感…野生ならではの能力…そんなぁ…そんなのって無いよぉ……三 (lll´Д`)」
コランが困った顔をしていた。美浪は引き続き警戒を続けた。
「あなたの能力は私には効きません!」
「うん、どうやらそうみたいだね~。いや、参ったなぁ…「この僕」では倒せそうに無い…けど、武器を一つ潰すくらいはしないとねぇ…」
コランがそう言って、ナイフを飛ばしてくる。しかし、美浪はそのナイフを全てキャッチし、逆にコランに投げ返した。
ナイフは全て、コランの身体に吸い込まれていった。
「ひぎゃあああああああああ!!!!」
コランは呻き声を上げた。
コランの【道化王冠】がまったく通用していない。
五感を狂わせても、美浪は直感でコランの場所を感知してしまう。
コランは【道化王冠】以外の特殊能力は一切有していない。
故に【道化王冠】を無効化されると途端に戦えなくなる。
一応、コラン自身も高い身体能力を有してはいるが、美浪には遠く及ばない。
つまり、今のコランは半ば詰んだ状態にある。
コランは完全に美浪を舐めきっていた。あくまでも美浪の戦闘能力は遥や澪には遠く及ばない。
だが、相性の悪さでコランは追い詰められていた。
「【神掛】」
美浪の身体から霊力がほとばしり、霊力が狼の形になっていた。【神掛】は自身の身体に神を取り憑かせる術であり、莫大な霊力と膂力を発揮する事が出来る。
「ひょえ~…(^O^)/オワタ」
コランはお手上げと言わんばかりに両手を上げた。
しかし、美浪は問答無用でコランを殴り飛ばした。
「ぎょえええええええええええええええええええええ!!!!!」
美浪は未だに殴り続けていた。
「ちょちょちょちょ…待った!タンマタンマ!!ギブギギブギブギブ!!!降参しますからあああああああ!!!」
コランは無様に降伏を宣言した。
美浪はコランの目の前で動きを止めた。しかし、美浪は相変わらず鋭い眼光でコランを見ていた。
「分かってくれたんだね!(>_<)そんな君にはプ~レ~ゼ~ン~…」
コランはそのまま大量の毒煙玉とナイフを美浪に投げつけた。そして、速攻でコランは逃げ出した。
「ト~!!!!あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!うっそだぴょ~~~ん!!!!」
しかし、美浪は毒煙玉とナイフを全て回避し、コランの逃げた場所に先回りしていた。
「なぁ!?いくらなんでも速過ぎ…Σ(゜Д゜)しかも、【道化王冠】全く効いてないし…」
「で?………もう、終わり?」
美浪はコランを見据えながらそう言った。
コランはどうにかしてここから逃げる術を考えた。しかし、ここから逃げ出す手が思いつかない。
コランは【道化王冠】を完全に無効化され、不意打ちも全く効かない。
意表を突いたり、同士討ちを得意とするコランにとって美浪は天敵そのものだ。
「いや~、見逃してくれませんかね?ねぇ~、お願い~、三百円あげるから~」
コランのふざけた態度が美浪の琴線に触れたようで美浪は怒りを露わにした。
「ふざけるな!あなたは…何がしたいんですか!?そんな…」
「僕はこの世界を狂乱に染め上げたいだけだよ~」
「そんな理由で遥さんを…」
「誰かを殺す理由なんか人それぞれじゃないで~すか~?魔族でも人間でも、そう言った理由で誰かを殺す奴もいるよ~?僕に対して怒りをぶつけるのはお門違いじゃないかな??」
コランの言う事も尤もだ。誰かを殺す理由など様々だ。コランはその内の一つに過ぎない。しかし、美浪にとって根本的にそこが問題では無かった。
「私はあなたを許しません…あなたの様な人間は…生きてちゃいけない」
美浪にとって遥は姉のような存在であった。自分の事を知りながら、対等に接してくれた。
困った時や悲しい時もいつも遥が助けてくれた。そんな遥をコランの手前勝手な理由で殺された事に怒りを抑える事は出来なかった。
美浪はコランの息の根を完全に止める事に決めた。
「【大神浪牙】!」
美浪は右手に霊力を収束させ、コランに殴りつけた。コランは躱す事も出来ず、吹き飛ばされた。
「ひぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
美浪は全力でコランに殴りつけた。コランは数百メートル程吹き飛ばされ、地上に落下した。
美浪はコランのいる場所まで近づいた。
コランの今の状態は無様な姿であった。顔は捻じ曲がっており、腹には巨大な風穴が開いており、上半身と下半身が分断されていた。
コランの周りには血だまりが出来ており、とても生きているとは思えなかった。
「う…ぎ…ゅえ…ここ…まで…か…」
コランは生き絶え絶えの状態でそう言った。少なくとも美浪は驚いていた。あの状態でまだ生きているという事に…
通常、あのような傷を負えば即死の筈だ。しかし、コランはまだ口を開けていた。とても人間とは思えなかった。
イシュガルドは人間の集団の筈だ。イシュガルドは通常の人間より長寿であり、生命力が高い事は知っているが流石にここまでとは考えられなかった。
美浪はコランに近付いた。
「ははは…予…想外の…天……敵に遭………遇して…………しま……ったな…ついてないな~、僕は…けど…ぼ…く………は……………」
コランはそのまま生き絶えた。そして、コランの死体は塵となり消え去った。
「仇は…取りましたよ…遥さん…」
美浪は静かにそう呟いた。
しばらくすると、後ろから二人の人影がやって来た。スープレイガとドラコニキルだ。
「てめぇは…時神の仲間…」
「まさか、君一人で倒したのか?」
「はい、なんとか」
ドラコニキルの問いに美浪はすぐ答えた。
「これで四人目…後、二人か…」
「二人…ですか?」
「ああ、今回の敵襲は六名だと聞いている」
ドラコニキルはそう言った。
やがて、慧留もやって来た。スープレイガたちと同様で莫大な霊圧を感知してやって来たのだろう。
「美浪ちゃん?それに、スープレイガにドラコニキル…」
「敵はそこの女が倒したんだと…無駄足だったわ」
スープレイガがつまらなそうにそう言った。
「凄いね。美浪ちゃん、たった一人で倒すなんて…」
「相手の能力と私の能力の相性が良かっただけです…それに…今回の相手は…遥さんの仇…でしたから」
「そう…だったんだ…」
慧留は切なげにそう言った。これで全て解決とは行かないが、遥の仇は取った。
復讐は何も産み出さない。だが、美浪は皮肉にも彼等と同じ事をやってしまった訳だ。
「どうする?残りの敵がこの隙に何かやってる可能性があるぞ?」
「そう…だね…」
慧留は相手が襲撃しそうな場所を考えた。そして、ある場所を思い浮かべた。
「そうだ…あそこに…」
「月影慧留…何か分かったのか?」
「はい…でも、いるかどうかは確証が無いので私一人で向かいます」
「無茶ですよ!慧留ちゃん!そんな…」
慧留がそう言うと美浪が止めに入った。
無理もないだろう。敵の力が未知数である以上、一人で行くのは危険すぎる。
「スープレイガ、ドラコニキル…美浪ちゃんは四神天城に行って。あそこには蒼と一夜さんが黒宮さんと戦ってる」
「あなた一人で大丈夫なのですね?」
「はい…」
「分かりましたよ、我が姫」
「その言い方は止してよ…慧留でいいよ」
「分かったよ、慧留。スープレイガ、行くぞ」
「命令すんな!」
ドラコニキルとスープレイガは四神天城へと向かって行った。
慧留もある場所に行く為に走り出した。
そして美浪一人だけ残された。
「一人だけ行かせません。慧留ちゃん」
美浪は慧留を追って走っていった。
四宮舞は学校に足を運んでいた。イシュガルドの一件でどこの学校も休学していた。
しかし、舞はこの一宮高校に来ていた。決着を着ける為に。
舞が犯した罪、それを償う為に、そして、彼女を救う為に。
「てっきり、弱ってる常森総帥の所へ向かうと思っとったんじゃがな…」
「いいえ、あなたは、私がここに来ると分かっていた」
そう、舞は分かっていた。効率を優先するのであれば、弱っている厳陣を始末するのが得策だろう。
現在、厳陣は前の戦いで重症を負っており、大きな病院で治療を受けている。
「それに、常森厳陣には私の仲間が向かってるわ。それで十分。そして、あなたを殺せば、後は黒宮大志だけ…」
「成程のう…」
「そして、何より、あなたは私が殺さなきゃいけないの!絶対に!」
「奇遇じゃのお…妾もお主とは決着を着けねばならんと思っとった所じゃ」
そもそもこうなった原因は過去の舞の過ちにある。
舞の甘さがこのような結果を産み出した。多くの人達を巻き込み、傷付く結果となった。
ここで決着を着け、終わらせる。
「そうね、終わらせましょう。全てを」
舞の目の前にプロテアがやって来た。
ここは教室。二人はお互いに睨みを利かせていた。
「決着を着けようかの」
プロテアは【鉄王剣】を顕現させ、舞に斬りかかった。
舞も古式銃を取り出し、銃撃を放った。しかし、プロテアは銃弾を全て切り落とした。
「大した動体視力じゃな。【戦神】!」
舞は自身の古式銃に守り神の一体、【戦神】を取り憑かせた。
舞には四大神が宿っており、それを使役する事で大きな力を発揮できる。
舞は再び銃弾を発車した。すると、銃弾が放たれプロテアに当たる直前に連鎖的に爆発した。
【戦神】の能力は爆発系統の能力だ。射った銃弾を好きなタイミングで爆破させる事が出来る。
「…甘い」
プロテアは爆発する前から既に銃弾を回避していた。明らかに人間の反射速度を越えていた。
まるで「時間を飛び越えた」かのようである。
舞はプロテアに斬られる直前に攻撃を回避した。
「【豊神】!」
舞はプロテアに銃弾を再び射った。
プロテアはすかさず、銃弾を切り裂いた。しかし、その瞬間、プロテアの剣から植物が発生した。
植物は瞬く間に剣を侵食し、プロテアの身体をも侵食しようとしていた。
プロテアは咄嗟に剣を放した。すると、剣は植物により完全に侵食され、飲み込まれた。その植物がプロテアに襲い掛かった。
舞の先程使った弾は四大神の【豊神】の力だ。【豊神】は植物を司り、撃ち抜いた場所に植物を発生させる事が出来る。
撃ち抜かれた対象は植物に侵食される。そして、発生させた植物を使役する事も出来る。
「【鉄連鎖針】!」
プロテアは地面に両手を置いた。すると、地面から鉄の針が無数に発生した。
植物が鉄の針によって貫かれ、活動を停止した。
舞は瞬時に【戦神】に切り替え、銃弾を発射した。
「【鉄棘】!」
プロテアは再び【鉄王剣】を顕現させ、剣から棘が出現し、舞の銃弾に当たった。
その瞬間爆発し、舞の攻撃を回避した。
「【冥海神】!!!」
舞は【冥海神】を銃に憑依させた。【冥海神】は舞の四大神の中で最も強大な力を持つ。
イシュガルドの内乱の時にプロテアを仮死状態にしたのもこの銃弾である。
「【海神銃】」
舞の銃弾から見えない銃弾が放たれた。
【冥海神】は見えない銃弾を発射出来る。更に単純な水属性を付加した銃弾も放てる。
プロテアは流石に目に見えない銃弾を切り裂く事が出来ないようだあり、銃弾を回避しようとしたが、銃弾はプロテアの手足に直撃した。
舞は更に銃弾を放った。さっきと同じ銃弾だ。
「くっ…!【鉄鎧冑】!」
プロテアの身体に鉄の鎧が展開されたが、舞の【海神銃】はプロテアの鎧を軽々と貫通した、
プロテアの脇腹と両片に銃弾が貫かれた。
「ごは…!!!」
プロテアはそのまま倒れこんだ。
勝負は決した。舞の勝利である。舞とプロテアには明らかな力量差があった。
プロテアは立ち上がろうとしたが、中々立てなかった。
「【戦神】!」
舞は【戦神】と【冥海神】を同時に銃弾に憑依させた。
そして、銃口から巨大な魔力の砲弾が発生した。
舞はプロテアを跡形も無く消し飛ばすつもりだ。
「プロテア…お前は少し休め…もう、復讐の業火に我が身を焼き付くす必要は無い」
舞は今度こそ甘さを捨て、プロテアを消す事に決めたのだ。
迷いは無い。プロテアは舞の今の教え子たちを傷付けた。プロテアは舞のかつての教え子だ。
舞は今の教え子たちを守る為に過去の教え子を殺す選択をしたのだ。
過去か未来か…舞にはその選択を迫られ、そして、決断した。
「はぁ…はぁ…」
プロテアは舞を睨み付けた。
「!?」
その瞬間、舞は僅かに怯んだ。
今、押しているのは明らかに舞…どころか、後、一撃でプロテアわ倒せる。
にも関わらず、プロテアの殺気は舞が怯む程であった。
「【戦海神激鉄】!!!」
舞は巨大な魔力砲を放った。魔力砲は周囲の物体を抉り飛ばし、プロテアに襲い掛かる。
この砲撃をまともに食らえばプロテアは木っ端微塵になるだろう。
「イ…ラ……ハカ…ム…」
プロテアは舞の砲撃をまともに喰らった。そして、プロテアの五体は跡形も無く消し飛んだ。
舞は足が震え、そのまま腰を抜かし、そのままへたりこんだ。
「プロ…テア……」
舞はプロテアがいた場所を見つめていた。
そこは何もなく、あるとすればそれは…無だけだ。
教え子の親を殺し、そして、その教え子も殺した。舞の犯した罪は決して許される事では無い。
舞は再び立ち上がり、プロテアのいた場所に向かった。
「………プロテア………私は…」
舞は何かを言おうとした。しかしーその時ー
「これで終わりよ。四宮舞」
「!!??」
舞は驚いて後ろを振り返った。しかし、その瞬間、舞の身体は左肩からバッサリと切り裂かれた。
舞の身体を切り裂いたのは、先程殺した筈のープロテア・イシュガルドであった。
「がっ…」
舞はそのまま倒れこんだ。しかし、プロテアは追撃を止めなかった。
舞は銃弾を射とうとしたが、舞に右手を切り裂かれ、舞の身体と右手が分離した。そして、傷口からドップリと血が流れた。
「ぐあああああああああ!?」
更にプロテアは舞の腹を貫き、そして、そのまま右へと薙いだ。
腹の半分程が切り裂かれ、臓物が真っ二つ寸前になっていた。
腹の半分を切り裂かれた為そこから血が流れている上に舞の口からも血が流れていた。
もはや、普通の人間が生きている様な状態ではない。それでも舞が辛うじて生きているのは舞が神々と契約をしている魔女であるからだ。
だが、それも長くは保たない。後、一撃喰らわせば間違いなく舞は死んでしまう。
「やっと…やっと…終われる」
プロテアはやや興奮気味にそう呟いていた。
長年の怨みをようやく晴らす事が出来る満足感で満たされているからであろう。
「プロ…テア……」
舞は口をパクパクさせるがそれ以上声が出なかった。
舞はプロテアによって負わされていた傷が全て消えていた。
恐らく厳陣をやった時と同じ力を使ったのだ。しかし、それが何なのかは舞にも皆目見当がつかなかった。
ープロテア……妾は……お前に殺される運命なのじゃな…
舞はせめて、これから先のプロテアが少しでも心が救われる事を願った。
舞の力ではプロテアをどうする事も出来なかった。
「これで、ようやく終われる。あぁ、お父さん、お母さん…イデス…これでやっと…」
プロテアは眼の焦点が明らかに合っていなかった。
興奮していて舞以外が見えていなかった。プロテアは舞に剣を振り上げた。
「【黒閃光】!!」
「!?」
プロテア目掛けて黒い閃光が放たれた。プロテアは咄嗟に気配に気が付き、黒い閃光を切り裂いた。
「誰だ!?」
プロテアが叫んだ瞬間、教室の扉から一人の少女が入ってきた。
入ってきたその少女は、月影慧留であった。
To be continued




