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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第五章】イシュガルド殲滅篇
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【第五章】イシュガルド殲滅篇ⅩⅢー止まない雨ー

 ここは四神天城(シシンテンジョウ)から南に少し進んだ場所にある墓地だ。

 天気は曇り、時期に雨が降りだすだろう。周囲の人間たちは悲しみに溢れていた。

 そう、今、執り行われているのは…葬式だ。

 葬式には薊やくる、黒宮、厳陣を初めとした多くの者たちが出席していた。

 音峰遥は死んだのだ。イシュガルドの者に殺されたのは明白であり、厳陣も本格的に殲滅を考えている。

 茜と風雅も出席していた。風雅は黒髪のスーツを着た男である。

 茜は泣いていた。風雅はそんな茜を見て、辛そうな顔をしていた。

 やがて、雨が降り始めた。雨は収まるどころかますます酷くなっていった。

 まるで、泣いているようであった。

 葬式は滞りなく進んで行った。


「………」


 慧留は遥の遺影を見ていた。悲しい…悲しいのに…涙がでない。

 もう、流しきってしまったのだ。慧留は遥の死を聞き、すぐに泣いた。何時間も…

 その証拠に慧留の目は少し、赤くなっていた。

 隣には美浪と一夜、湊もいた。来てないのは…澪と蒼だけだ。

 澪は未だに昏睡状態であり、生死をさまよっている状態だ。

 蒼は…少なくとも慧留たちには分からない。


「蒼…どうして来てないの?」

「………美浪君、蒼は…」

「蒼は遥さんの事を何とも思ってない訳が無い…」


 美浪の疑問に対して一夜と慧留はそう返した。

 蒼と一夜と美浪は厳陣たちから逃亡した件だが、不問となった。

 正確には魔道警察官が多く死亡した上に遥を失った…被害が甚大である為、蒼たちを処罰している暇が無いというのが本当の所だ。

 その為、蒼たちは普通に葬式に参列出来る筈なのだ。実際、一夜と美浪は来ている。


「時神は…多分、似たような事を多く経験してる」


 屍がそう言った。屍は現在、車イスを使用している。

 負傷が酷い為、やむ無い処置だ。


「俺や薊やくる、秀明や審矢は多くの仲間の死を経験してる…だから、お前らよりはマシだ。けど、仲間の死は簡単に慣れてくれねぇ…むしろ、心が磨り減って行く感じすらする。時神もそうなんじゃねーか?」

「蒼は…五年前までは『セラフィム騎士団』のメンバーだった…だから、仲間の死を経験はしてると思う」


 一夜がそう言うと皆は黙り込んだ。

 このメンバーで蒼が元『セラフィム騎士団』団員である事を知っていたのは一夜と慧留だけであった。

 しかし、ここにいる者は誰も驚かなかった。

 蒼が神聖ローマの王子と分かった時点で只者で無かった事は分かりきっていたので皆はそこまで驚くことは無かったのだろう。

 だとしたら仲間の死を多く経験してるのは頷ける。あの国はつい最近まで内乱が絶えない国であった。

 蒼は一体、どんな思いで死んでいった仲間たちの事を思っていたのだろう。


「蒼の気持ち…少しですけど…分かります」


 慧留がそう言った。慧留もかつて、親友を失っている。

 その親友の死がきっかけで慧留はこの国に逃亡したのだ。


 葬儀は終わりを迎えていた。しかし、雨は一向に止まない。

 それはまるで悲しみを洗い流すかのようであった。

 しかし、雨は止まず、悲しみが降り注ぎ続ける。








 葬儀が終わり、人は誰もいなくなっていた。

 遠くから誰かの歩く音が聞こえた。やって来たのは蒼であった。

 雨はまだ、降り続いていた。恐らく、今日一日は止みそうにない。

 蒼は虚ろな目で遥の墓を見ていた。


『あなたは仲間を…守りなさい。約束よ?』


 蒼は遥のあの言葉が何度も頭の中で反芻していた。

 蒼は遥と出会った時の事を思い出していた。

 初めは遥とソリが合わず、あまり彼女の事が好きでは無かった。

 しかし、時を共にすると蒼は遥の事を嫌悪する事は無くなっていた。

 そして、ある日から蒼は遥にある影を投影する様になっていた。

 エリス…蒼がかつて、姉の様に慕っていた人。エリスと遥は別人だし、性格も全然違う。


 だが、蒼は……遥にエリスの影を見る様になっていた。蒼は…遥の事を尊敬していた。

 そして、遥はエリスと同じ事を口にした。あの時、蒼は完全にエリスと遥を重ねてしまっていた。

 何度も何度も思う。残っておけば良かったのでは無いかと。そうすれば、遥は死なずに済んだのかもしれない。

 蒼は何度もそう思った。しかし、時は戻ってくれない。

 過去に戻る事は絶対に出来ない。それが、この世界のルールだ。

 蒼はまた、守れなかった。結局、五年前と何も変わっていなかった。

 何の為にこの国に来た?蒼は何度も自問自答した。しかし、自問の堂々巡りばかりが行われるだけである。

 蒼は何度も何度も考える。あそこで踏み留まっていれば、よかったのでは?

 あそこで、止めておけばよかったのでは?

 何度も何度も無意味な思考を働かせてしまう。


「時神」


 後ろから声が聞こえた。

 声の主は舞であった。


「四宮さん…何で…」

「妾も葬式が終わってからここへ来ようと思っておった。理由は…お主ならわかるじゃろ?」


 舞はそう答えた。蒼は何となくだが、舞の心情を察した。

 蒼は黙って、再び遥の墓を見た。


「争いとは…戦とは…酷なものじゃ。勝っても負けても、得るものより失うものの方が遥かに多い。それでも、勝者は得たものを数える事も出来る。しゃが、負ければ、仲間の死を数える事しか出来ん。時神…嫌、今はあえてこう呼ぼう。フローフル、お前もかつて同じ様な事を味わってきたのか?」


 舞は蒼に問い掛けた。

 どうやら、舞は蒼の素性をある程度把握しているようだ。恐らく、厳陣も黒宮も知っているだろう。

 神聖ローマの出身である蒼は厳陣たちからしたら未知数な部分が圧倒的に多い。

 それは慧留も同様であり、しかも今回の相手はイシュガルド。厳陣たちに因縁があるとはいえ、それだけで蒼を拘束するなどといった強行手段に出るのは些か不自然だ。

 厳陣は蒼を自身の監視下に置きたかったというのも蒼を拘束しようとした理由の一つだ。

 しかし、今回はそれが裏目に出てしまい、結果、遥を死なせてしまう結果になってしまった。


「さぁな、俺は仲間はそこまで多くなかった。俺は…あんたが思ってる程、優しくもない。俺は自分と関係の無い仲間が死んでも心は痛まなかった。どれだけ死んでもだ。けど……一つだけ……俺はそのたった一つの出来事で心が折れちまった。忘れてたつもりだったんだけどな。…思い出しちまったよ」


 蒼はそう呟いた。蒼にも神聖ローマに仲間がいた。

 ただ、蒼は生まれが生まれのせいで多くの者たちに迫害、差別をされていた。

 そんな蒼に親しくしていたのは極数名であった。エリスはその内の一人であった。

 蒼は自分と関係の無い仲間が死んでもなんとも思わなかった。

 戦争は死ぬのが当たり前で、蒼にとってはむしろ、自分を蔑んでいた者たちが死んで清々していたくらいだ。

 だが、蒼は…かつて、自分が一番大事にしていたものを失った。

 蒼は…その時から時間が止まってしまった。動けずにいた。

 だが、蒼は変わった。変わった…筈だった。

 しかし、蒼は再び仲間を失った。また、歩みを止めてしまった。

 蒼はもう、これからどうするべきかが分からなかった。

 今回、蒼は何もしていない。ただ、厳陣たちから逃げていただけだ。

 しかし、蒼がいなくても事態はどんどん動き出していた。

 蒼は己の無力さを痛感する事になった。


「妾たちは常に、道に迷っておる。時として立ち止まる事もある。じゃが、妾はもう、折れる訳には行かぬ。お前もそうだろう?お前は今は昔のフローフルではない。今は…時神蒼だろう?」


 舞は蒼にそう言い残して去っていった。

 元からあまり長居するつもりはなかったらしい。

 舞は…蒼より遥かに戦争を経験している。蒼もあの年にしては戦争を多く経験している。

 しかし、それでも舞には遠く及ばない。

 舞は遥の死を悲しんでいた。そう、見えないように振る舞っていただけだ。

 蒼にだってそんな事は分かっている。

 舞は言った。今はフローフルではなく、時神蒼だと。

 元々、時神蒼という名前には愛着がそこまで、蒼本人には無かった。

 だが、今は蒼が変わったといえる唯一の証でもある。


ー名前なんて…単なる記号かと思ってたんだがな…


 名前には…意味がある、力がある、つけた人の思いが籠っている。

 蒼も自分の名前に思いを込めていたのかもしれない。蒼本人が知らない、無意識に…

 蒼は舞に激励され、少しだけ、前を向けた気がする。

 失った者はもう、戻る事は無い。だが、その死んだ人の思いは自身が覚えている限り、消える事は無い。


「遥…俺は忘れない。あんたの事を…」


 蒼はそう言って、去って行った。







「落ち着いたようね」

「そだねー、思ったより被害は出なかったねー。十二支連合帝国は思ったより優秀だね」


 プロテアが真顔でそう言うと、ニヤつきながら、コランは答えた。

 相変わらず、ピエロの格好をしている薄気味悪い男であった。


「戦果は順調…とは言い難いが、あちらの戦力を着々と減らせている。特にコランが音峰遥を殺したのは大きい。彼らの戦力の何人かはまだまだ若い。一人、親しい友人が死ぬと相手の士気を落とせる。プロテアが厳陣に重症を負わせている。奴もすぐには動けない筈だ。攻め込むなら今が最適だな」


 セルリアは固い口調でそう言った。彼はこのイシュガルド兵団たちのリーダー格の存在だ。

 今、いるメンバーは三人、本来は六人いたのだが、約半数が彼らにやられ、今は拘束されている。


「とうとう…動くんだね…ふひひ…いいねぇ…」


 コランは下卑た笑みを浮かべながらそう言った。


「これからどうするの?三人で一気に攻める?」

「いや、俺たちはバラバラで行動する。コランは特に単独で行動した方が都合がいいだろう。それに、俺たちの力は見方を巻き込む能力ばかりだ。特に…俺とコランの力はな」


 セルリアはそう言った。

 コランの能力は五感制御という能力であり、この力はコランが『二十二式精霊術(アルカナ)』を発動する瞬間を見た者全員に発動してしまう。味方も例外なくコランの力に嵌まってしまう為、コランは単独で行動した方が都合がいい。

 セルリアの能力も味方を巻き込んでしまう能力の為、一人で行動した方が良いと考えたのだろう。

 他の三人もかなり特殊性の強い能力ばかりで汎用性には欠けるものの、条件が整えば絶大な力を誇る能力ばかりである。

 プロテアの様に単純(シンプル)な能力を持つ者はイシュガルド内にはいない。それにー


「プロテアも…本気を出そうと思ったら単独の方がいいだろう?」

「まぁ、そうね」

「ま!あの時は僕が四神天城(シシンテンジョウ)に駆け付けて無かったらヤバかったけどねー!今度は気を付けてよね~」

「……分かってるわよ」

「さて、では願わくば、ここにいる者たちが誰も死なない事を願う。そして、ワトル、デイジー、グレビリアも助け出す」

「イェア!」

「ええ」


 セルリアがそう言うとコランとプロテアはそう、返事をした。


「さて、ではここから出ようか」


 セルリアとコランとプロテアは歩き出した。そして、階段を上り、地上に出た。

 彼らはトウキョウの地下に潜伏していたのだ。

 そして、それぞれ、別々の場所に散っていった。






 蒼は一宮高校に来ていた。

 何故、ここに来たのか…蒼自身にも分からなかった。

 ここで…ここで、遥と出会ったのだ。初めは色々と怒られて、ボコボコにされた…

 あれから、随分経つ。もう、三年も経っているのだ。時は無情である。何をしても、過ぎ去ってしまう。

 時間は、優しい。どんなに悲しみに暮れても時間が経てばそれを癒してくれるだろう。

 蒼は時の流れを感じながら歩いていた。

 暫く歩いていると目の前に見知らぬ人がいた。

 女性だ。白髪の髪をした女性であった。

 蒼と女性の目が合う。女性は蒼の事を知っているようであった。


「あなたは…時神蒼君?」

「え?何で…俺の事…」

「あなたの事は娘と一夜君から聞いてるわ。月影慧留さんや天草屍君の事もね」

「………」

「私は音峰茜…遥の母です」


 蒼はすぐにお辞儀をした。

 蒼は茜とは勿論、会った事は無い。だが、遥の母親であれば、それも納得だ。

 しかし、分からない事がある。遥から話を聞いているのであればまだ分かるが何故、一夜が出てくるのか…


「ここではなんだし、家に来なさい」


 茜が蒼にそう言って、歩き出した。

 蒼は少し戸惑いながらも茜に付いていった。

 ここから少し歩いた所に家があった。大きくも小さくも無い普通の家だ。

 庭があり、手入れされていた。つい最近、ガーデニングしていたのだろう。


「今日はね…娘の誕生日だったの…とは言っても私があの子を拾った日なんだけどね」

「拾った?」

「その様子だと、あの子から何も聞いてないみたいね。あの子は…遥は実の親に自分の力を気味悪がられて捨てられたの。そこで、私が遥を保護する事にしたの」

「………」


 蒼は黙って聞いていた。驚いていなかった訳ではない。

 しかし、遥はこんな事を言った事がある。この生徒会は「訳あり」の集まりだと。

 だから、遥に何らかの複雑な事情があっても不思議な事では無いと蒼は思っていた。


「あの子はとても素直でいい子だったわ。少々頑固で細かい所にうるさい所もあったけどね…友達も決して多いとは言えなかったけど、澪ちゃんがいたし…」

「あの二人は…俺が見た感じもすごく仲良さそうでした」

「ええ、だから、澪ちゃんはこれからも自分を攻め続けるでしょうね…澪ちゃんは、あれで結構繊細だから…」


 茜はうつむきながらそう言った。しかし、すぐに顔を前に戻し、家の中に入っていった。蒼も彼女に続いた。


「さっ、座って。あなたの話、色々聞きたいのよ。遥と一夜君があなたに拘る理由を知りたいしね」

「俺に…拘ってる?あの二人が?」

「ええ、だから、聞かせて」


 蒼は茜のまっすぐな瞳を見て、断れないと思った。だが、何を話すべきか分からない。

 というか、まずは蒼が彼女の事を知りたいくらいなのだ。


「具体的には…何を話せばいいんですか?」

「う~ん、そうだな~、じゃあ…」


 遥は蒼に色々な質問をした。

 学校はどうかとか、一夜たちとはどうだとか、今までで楽しかった事はとか、逆に悲しかった事…答えられる限り答えた。

 彼女の質問の内容は母が自分の子供に対してする質問のようであった。


「こっちも聞きたいんすけど、茜さんと一夜はどういう風に知り合ったんですか?」

「あー、蒼君からしたら気になるか…」


 そう言って、茜は話を始めた。

 曰く、一夜が突然、茜に訪ねて来たらしく、それは約、8年前の事らしい。

 蒼と一夜が出会って間もない頃である。

 少なくとも蒼が関係しているのは想像に難くない。

 更に、度々、ギャンブルをし、苗木日和の資金を稼いでおり、今もそれを継続しているようである。


「……まぁ、こんなとこ。彼は自分の事はあまり話さない人だったから…」

「…何で…あいつはそこまで…」

「それは本人に直接聞くしか無いんじゃないかしら?」


 蒼は一夜の親友であった筈だ。なのに、彼の事を何一つ分かっていなかった。

 蒼は本当に自分は何も出来ない、無力なんだと感じた。


「蒼君…これだけは…言っておくわね。遥はあなたの事を信じていたわ…」

「俺を…」

「あなたにはまだ出来る事が…やるべき事が残っている筈よ」


 蒼は茜の言葉を聞き、前を見据えた。

 今回の蒼は間違いなく敗北した。仲間を守れなかった。

 自分を守る事で手一杯だったからだ。

 人は弱い。必ず誰よりも優先して己を守ろうとする。そうしなければ自分が死ぬからだ。

 自分の心に余裕がある時に少し、手を差し伸べるのがやっとなのだ。

人の優しさは気まぐれなものである。だが、だからこそー

 何度も思い出すあの時の情景。穢れ行く憧憬。しかし、蒼はあの時とは違う。

 守られているだけのフローフルではない。優しさにすがるだけの弱いフローフルではない。

 蒼は確かにこの国に来てなにかが変わったのだ。

 それはとてもとても、小さな物なのかもしれない。それでも、蒼は変わったのだ。

 多くの人たちとの出会いを経て、蒼は変わった、そして、今でも変わり続けている。

 今は…十二支連行帝国にいる、時神蒼だ。

 蒼は真っ直ぐと茜を見つめた。そしてー


「茜さん…ありがとうございます」

「ええ」


 蒼はそう言って、椅子から立ち上がり、家から出ていった。


「遥…一夜君…あなたたちの信じた人を…見せてもらうわ」


 茜はそう呟いた。







 雨は未だ降り続けていた。しかし、蒼の中に降り続いていた雨は、もう、止んでいる。

 また、降るかもしれない。その度に立ち止まるかもしれない。それでも、蒼は進み続ける。

 蒼は遥の言葉の意味をようやく、分かった気がする。


「蒼!」


 後ろから声が聞こえた。蒼は驚き、後ろを振り向いた。

 そこにいたのは慧留であった。

 慧留は息を切らしていた。どうやら、ずっと、蒼を探していたようであった。


「慧留…」

「今まで…どこに行ってたの?」

「ちょっと…落とし物を探しててな…」


 蒼がそう言うと慧留は蒼の言っている事を何となく察した気がした。


「で?その落とし物は見つかった?」

「いや、結局見つからなかった。もう、多分二度と見つかんねぇんだ…」

「………」


 慧留は蒼の言葉を黙って聞いていた。

 予想外の答えだから…という訳ではない。むしろ、予想していた通りの答えであった。

 だが、蒼はまだ、何かを言おうとしている。その答えまでは慧留は知らない。


「だから、死んでいった奴等の思いは…忘れない事にした」

「そっか…」

「落とし物が見つからなくても、そいつの思いは絶対に忘れねぇ…」

「うん」

「お前も忘れんな」

「うん…」

「俺も…俺は…俺たちは!絶対に忘れねぇ!!絶対だ!!!!」

「………うん……!」


 慧留はいつの間にか泣き出していた。蒼も涙を流していた。

 しかし、蒼は空に向かって吠えた。祈りと願いを込めて…


「覚悟は…決まった様だね…」


 一夜がやって来た。蒼と慧留は一夜を見た。


「何か…この三人になるの…随分久しぶりな気がする…」

「実際は…そうでもないけどね…」

「一夜…お前に…後で聞きたい事がある………覚悟はしとけよ」

「えー、それは怖いな~」


 一夜は笑いながらそう言った。

 一夜はどうやらいつも通りのようであった。


「流石だな…一夜は…」

「そんな事…無いよ。僕も君たちと同じさ…仲間の死に一々気にして立ち止まるような…弱い人間さ…」


 一夜は淡々とそう言った。

 一夜はいつもの降る舞いから薄情な人物と思われ勝ちだが、そうじゃない。

 彼は、仲間に対しては情に厚い人間なのだ。そうでなければ、身の危険を犯してまで蒼たちを匿ったりなどしない。


「だが、この気持ちは…絶対に忘れない」

「ああ、僕もだよ。この気持ちは忘れない、いや、忘れちゃいけないんだよ」

「私も…絶対に忘れません…!」


 三人は改めて決意をするようにそう言った。そう、これは誓いだ。

 これからどれだけ犠牲が伴おうと、忘れないという誓いだ。そして、これ以上仲間を死なせないという誓いでもある。


「さぁ、行こうか…」

「ああ」

「うん」


 彼らはこれから向かうべき場所に行こうとしていた。

 そう、彼らが行こうとしている場所は…四神天城(シシンテンジョウ)跡地だ。


「明日の朝、ここに落ち合おう。それから、四神天城(シシンテンジョウ)に向かおう。準備もあるしね」

「ああ!」

「うん!」


 蒼たちはそのまま、別れた。明日の戦いの為に。






 蒼と慧留は自宅に戻る途中であった。

 しかし、蒼は行きたい場所があるといい、慧留と別れた。

 蒼が来た場所、それは、一宮高校だ。また、ここに来た。

 今日、ここに来るのは二度目だ。蒼が何故、ここに来たのか…それは蒼にも分からない。

 ただ、気まぐれでここに来ただけだ。雨は…随分前に止んでいた。


「ったく…何やってんだか…俺は…」


 蒼は自嘲気味にそう言った。理由も無いのに何となくこんな所に来るなんて酔狂もいいところだ。

 蒼はまだ、覚悟が決まっていないかもしれないと思った。


「ん?」


 蒼は何かを見つけて、そこに近づいていた。

 そこにいたのは銀髪赤目の髪の長い少女であった。そう、プロテアだ。


「プロ…テア…」

「時神蒼…」


 二人の視線が交錯する。

 会ったのは一週間程前の筈なのに随分、久しぶりの再会な気がする。


「奇遇ね、こんな所で会うなんて…」

「ああ、そうだな」

「で?どうする?私を…殺す?」


 プロテアは鉄の剣を造り出した。戦う気満々である。

 しかし、蒼は戦う素振りすら見せなかった。


「いや、今日は…二人でどっか行かないか?」

「はぁ!?」


 プロテアは驚いた。それも無理は無いだろう。

 今の二人は敵同士だ。なのにいきなり、二人でどこか行こうなどと言い出したのだ。正気の沙汰とは思えない。


「どういうつもり?」

「俺はまだ、お前と戦えない。だから、今の内にお前の事を少しでも知っておきたいんだよ」

「何をバカな…」

「俺はお前と「今は」戦えない。俺には…お前と戦う資格が無いならだ。俺は…仲間を死なせた…俺が逃げたから…」

「その仲間を殺したのは私の仲間よ」


 そう、遥を殺したのはイシュガルド…つまりはプロテアの仲間だ。

 蒼にとって、プロテアは憎い仇の筈だ。しかし、蒼は未だに戦おうとはしなかった。


「ああ、俺は…お前たちを許す気はねぇよ。けど、俺はまだ、「向き合えてない」。向き合う事が出来なきゃ…お前らには…多分戦っても意味がない」

「とにかく、あなたは戦う気が無い…ということね。なら、遠慮なく…」


 プロテアは蒼に剣を振り上げた。しかし、蒼を切り裂く直前で剣をピタリと止めた。


「何で…反撃しないの?」

「だから、何度も言ってんだろ?戦えないって」


 力を封じられている可能性をプロテアは考えたがどうもそんな感じでは無い。

 蒼はあえて何もしなかったのだ。


「………」


 プロテアは調子を狂わされたと言った顔をし、鉄の剣を納めた。


「ありがとな」

「勘違いしないで。戦う気の無い腑抜けを殺すのが忍びないだけ…」


 そう言って、プロテアは歩き出した。

 蒼はそんなプロテアを呆然と見ていたが、プロテアは蒼の方に振り向いた。


「どこか行くんでしょ?エスコートしなさい!」

「その言い方止めろよな…何か…デートみたいじゃん…」

「そうね、あなた、見た感じ童貞臭いしね。女の子の手を握っただけでドギマギしたりするんでしょ分かってるわ。私みたいに可愛かったら尚更ね。デートしてあげるんだから感謝しなさい、童貞」

「分かったから童貞童貞言うの止めてマジで」


 先程まで、敵意剥き出しであった先程のプロテアとはえらい違いであった。

 前までの二人の感じに戻っていた…気がした。

 二人はそのまま歩き出した。


「あなたは…何をしたいの?」

「どういう事だ?」

「何で…戦わないの?」

「だから、言ってるだろ?俺は…戦う権利が無いんだよ…俺は…お前の事を何も知らない…それに…」

「…それに?」

「俺は…仲間を死なせた。もう、誰も死なせない。だから、あいつと事前に話し合いを済まさないと行けねぇ」

「あいつ?」

「お前がよく知ってる奴だよ」


 蒼はそう、プロテアに行った。暫く歩くと、町に着いた。


「この町は?」

「ここには大方の店があるぜ?まぁ、メイドカフェとかは無いけどな」

「で?どこに連れていってくれるの?わざわざナンパされたんだから、少しは楽しませなさいよ?」

「以外とノリノリだな…何でお前はそんな乗り気なんだよ…誘っておいてなんだけど…」


 蒼にとっては気になる事ではあった。確かに話を持ち掛けたのは蒼だが、プロテアがここまで乗り気なのは気になった。

 あくまでもこの二人は敵同士だ。にも関わらず、プロテアは何事も無いかのように蒼と接している。

 蒼の方がプロテアとは敵同士であるという事を忘れそうになるくらいだ。


「私は…あなたに対しては特に個人的な恨みも無いし、あなたは私に対する敵意も今はない」

「けど、いずれは敵対する。ここで俺が戦えない内に殺すのがベターじゃないか?」

「あなたが私の邪魔をすれば殺す…それだけよ、あなたは私に説得こそ試みてはいたけれど、私と刃を交えては今のところいないわ。だから、私には戦う理由が無い。理由の無い戦いは虚しいものよ」


 プロテアは淡々とそう言った。

 蒼はプロテアの発言を以外に思った。彼女のような人間は基本的には手段を選ばない。いや、厳密には選べないのだ。

 復讐に取り憑かれた者は基本的にはその復讐しか頭に無くなり、邪魔となる者は必ず排除しようとするものだ。

 しかし、彼女はそれをしない。その理由が分からない。

 彼女の先程の発言も答えになっているようで蒼からしたらまったく答えになってない。

 プロテアという人物は蒼が思っている以上に複雑であるようだった。


「何よ?」

「いや、何でもない」

「そ、じゃあ、行きましょ」


 プロテアはそう言って、蒼より前に歩き出した。

 蒼はそんなプロテアを追っていった。






 あれから蒼とプロテアはゲーセンでゲームをしたり、クレーンゲームをしたりもした。

 近くに遊園地があったので、そこに行くことにした。

 遊園地とはいえ、こんな街中にある遊園地である為、そこまで巨大というわけでは無いがそれなりの広さがあった。

 今は夜中の八時の為、後二時間程で閉館だが、蒼たちは構わず入場した。

 そして、ジェットコースターに乗ったりメリーゴーランドに乗ったりと様々なアトラクションに乗った。

 二人は暫くして、近くのベンチで休憩していた。


「こんな街中に遊園地があるなんてね…」

「ああ、そうだな。結構、珍しいかもな~。けど、まぁ、遊園地なんて俺、行った事無いからそこら辺はよく分からんねぇな」

「あなた…遊園地行った事無いの?」

「ああ、まぁな。この国に来てからはそんな機会無かったしな~。ローマの時なんかはずっと戦い続けてたしな」


 蒼がこの国に来てからはアザミの花や四大帝国会議、USWの騒動があった為、そんな暇は勿論無かったし、それから三年ほどは比較的平和であったが、それはそれで、蒼たちは勉強に追われていた。

 特に蒼は慧留の頼みで勉強を教えてたりしていたし、そうでなくとも生徒会の業務が忙しかった。

 大学に入ってから楽になったかというとそういうわけでもなく、大学の生活に慣れるのにかなり時間がかかってしまった。

 更に、極めつけは蒼がそう言った事にあまり興味が無かった事が原因だ。


「ふーん、なら、私が…あなたの………初めて…なのね…」

「そういう紛らわしい言い方止めろよな!?」


 プロテアは蒼に意味深な眼で見つめながら言った。

 蒼はかなり動揺していた。そんな蒼を見て、プロテアはクスクスと笑った。


「あなたは本当に面白いわね。からかいがいがあるわ。やっぱり童貞ね」

「なんか、それ、貶されてる気がするんだが…つか、童貞言うな」

「いえ、そんな事…無いわ…」

「…え?」


 プロテアの予想外の反応に少し戸惑う蒼。


「ねぇ、そろそろ閉園だし、最後にあれ、乗らない?」


 プロテアが指を指したのは観覧車であった。

 蒼はプロテアから乗りたい乗り物を言い出したので驚いた。どうやら、プロテアはそれなりに楽しんでいた様だ。

 どうも、蒼はプロテアの事がよく分からなかった。敵かと思ったら無邪気で楽しそうにしてて、敵では無いかと思えば、狂暴で悪辣な一面を覗かせる。

 そんなプロテアが蒼にはよく分からなかった。そして、不思議とそんな謎だらけのプロテアを見ても恐怖は不思議と無かった。

 むしろ、プロテアの事をもっと知りたい、理解したいと…蒼は思う様になっていた。

 蒼はこんな気持ちになった事は無い。

 慧留に対して自分を変えた存在として、一夜は親友として、屍は戦友として、美浪や遥、澪、湊たちは仲間として、蒼は彼らを大切に感じているが、プロテアに対する感情はまた、別のものであった。

 この感情が何なのか…今の蒼には知る由も無い。


「どうしたの?行かないの?」

「ああ、行こう」


 蒼はプロテアの後ろに着いていった。そして、観覧車に到着した。

 蒼とプロテアは観覧車に乗った。蒼たちの観覧車が上空に上がっていく。


「なぁ、プロテア、どっちが…お前なんだ?」

「何がよ?」

「無邪気なお前、鬼の様なお前、どっちが本当のプロテアなんだ?」

「それは…秘密よ」


 プロテアはそう言った。蒼は本当は分かっている「どっちもプロテア」なのだ。

 人には様々な一面がある。性格にはそれぞれ違いがあるのかもしれないが、人一人ではその人の性格を全て知る事は難しい。

 誰もが色々な一面があるものだ。プロテアはそれが激しいだけだ。


「こっちも、一つ聞いていい?」

「ああ」

「何で、私を今日誘ったの?遊びに」

「お前の楽しそうな顔が…なんか好きだったんだよ。それで…かな?」


 そう、蒼はメイドカフェの時からプロテアの明るい一面を知った。

 それを、知ってプロテアを放っておきたくないと感じたのだ。


「何それ?バカみたい…」

「そうかもな」

「今日は………少し、楽しかったわ」

「俺も…楽しかったよ」


 そう、二人は今日の夜を楽しんでいた。

 いっぱい遊んだ。いっぱい驚いた。いっぱい歩いた。いっぱい…お互いの笑顔を見た。

 二人の今の笑顔だけは本物だ。


「フローフル…何で?何であなたは私を迷わせるの?」

「………」

「何で…あなたのせいで…私は…迷ってる…復讐をする事を…」


 プロテアは蒼と出会い、迷いが生じていた。

 復讐する事で全てを引っ提げて、地獄に行くつもりであった。

 しかし、蒼と出会って、プロテアは変わった。変わってしまった。

 今を楽しいと感じ初めてしまったのだ。プロテアの存在意義を否定された気持ちになったのだ。

 嬉しい筈なのに嬉しくない。表裏一体の愛憎(アンビバレンス)がプロテアの心を震わす。


「俺も…お前とは戦いたく無いよ…けど、俺は…仲間を守る!もう、誰も死なせない!もし、仮にお前と戦う事になっても、俺はお前と戦う。そんで、「お前を助ける」!」

「何それ?意味が分からないわ」

「お前は迷ってる。俺も今、道に迷ってる。そうなったら、もう、お互いにぶつかり合うしかねぇよ」


 蒼は戦うと決めた。プロテアも迷いが生じているとはいえ、復讐は諦めていない。

 であれば、お互いの思いをぶつけるしかない。いつだってそうだ。自分の思いを伝えるには行動で示すしか無い。

 そして、蒼とプロテアは戦う事でしかそれを示せない。

 お互い似た者同士で、不器用でそれでいて優しい。だからこそ、こんなやり方しか出来ないのだ。


「そうね…そうするしか…無いわね私たちは…ねぇ、フローフル…」


 プロテアは笑顔を浮かべながら続ける。


「今の私、とっても幸せな気持ちだわ。こんな気持ち…久しぶりよ…」

「…俺もだよ………」

「もっと、速く、あなたに逢えてたのなら…私の心は…変わったのかなぁ…」

「それは…俺にも分からねぇよ」


 出会いは偶然で必然なのかもしれない。だがしかし、その出会いによってどのような化学反応を起こすのかは、分からないのだ。

 もしかしたら、今、この瞬間に二人がいるからこそ、二人は今、幸せな気持ちになっているのかもしれない。


「そうね…童貞にこんな事を聞くのはヤボだったわね」

「いい加減、童貞童貞言うのマジで止めてくれねーかな?」

「なら、童貞じゃないの?」

「それは…」

「答えて」


 プロテアはまっすぐな眼で蒼を見た。今までにない真剣な眼であった。


「ああ!そうだよ!!童貞だよ!!!悪いか!?」

「ううん、悪くないわよ。でなきゃ弄り甲斐が無いわ…」


 プロテアはクスクス笑いながらそう言った。蒼は少し、悲しくなってきた。


「もう、これで最後よ。次に会った時は…」

「ああ、今度あったら…本当に今度こそ敵同士だ」

「もう、二度と会わない事を祈るわ」

「いいや、俺はお前に会いに行く。何度もな」

「私は…あなたとは戦いたくないのよ!」

「俺だってそうだ。だからー」


 蒼はプロテアの眼を真っ直ぐと見て、こう言った。


「今度逢う時は俺はお前を必ず救い出す!そんで、お前と一緒に歩む!」


 プロテアは頬が上気するのを感じた。しかし、プロテアの期待は一瞬で悪い意味で裏切られる事になる。


「!? それってプロポー…」

「俺の仲間と一緒にな!」

「ガクリ」


 プロテアはそんなすっとんきょうな声でふんぞり返った。

 まったく、時神蒼には予想外の事ばかりするなとプロテアは思った。

 しかし、人は簡単には変われない、代われない、かわれないのだ。

 観覧車が一番上まで上がった。夜空がとても綺麗であった。

 二人はその夜空を眺めながらお互いを見つめ合いー


「俺はお前をー」

「私はあなたをー」


 二人は宣言したのであった。







To be continued

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