【第五章】イシュガルド殲滅篇ⅪーDance in ecstasy pierrotー
世界とはー何ですか?
秩序とはー何ですか?
法とはー何ですか?
神とはー何ですか?
心とはー何ですか?
これら全てに、意味などあるのでしょうか?そもそも、意味を見出す必要性があるのでしょうか?
コランはこれをないと考えている。せっかく生まれてきたんだもの。生きる事や物事に意味を求めていたら本能に任せて生きていく事が出来なくなる。
理由が無いと行動できない奴はクソだとコランは考えていた。理由が無くて動けなくなる者は多くいる。
例えば、何かを行動を起こす時には一々、何かの理由をつけなければ行動できない。
理由などいらない。好きなようにやればいいのだ。
この世界は楽しんだもの勝ちだ。そう、コランにとって楽しい事。それは混沌である。
色々な娯楽に触れてきたが長くその娯楽に浸っているうちにコラン自身も飽きが来ていた。
しかし、世界の混沌や戦争、争いはコランを飽きさせない。常に予想外の出来事が起き、時に自身の思い通りになり、時に思い通りにならない。いや、むしろ思い通りにならない事の方が多い。
しかし、コランは争いや戦争を遠い場所から眺めるのが好きであった。
自分が仕掛けた罠にはまり戦争が始まる様はまさに滑稽そのものであり、非常に愉快であった。
人間や魔族の心は非常に分かりやすい。大事なものを奪われる…そうするとすぐに争う。
人は魔族は常に安心を求めている。その安心を守る為なら何でもする。相手を殺すだろう。相手を貶めるだろう。相手を苦しめるだろう。相手の心をへし折ろうとするだろう。差別や迫害もするだろう。
特に人という生き物は下劣で卑劣で愚かで…実に賢しい生き物である。だからこそ、人は常に世界の頂点に立ち続けている。
勝てない相手の前だと相手の心に付け込む、相手を騙す、隙を突く、こういった事を当たり前のようにする。
その姑息さ、卑しさ、醜さが人たり得るのであり、人が常に勝ち続けている要因なのだ。
これだから--人は面白いのだ。
コランにとって人間は最高の玩具なのだ。そして、世界はコランにとっては玩具箱に過ぎない。
いや、もしかしたら、この世界の神にとってはコランすらも玩具に過ぎないのかもしれない。
それはそれで、コランは楽しむまでだ。
さぁ、狂おう、踊ろう、この狂気の世界を。この偽りの世界を楽しもう。
コランの考えは今も昔も変わらない。この狂気を常に楽しみたいのだ。
「…というのが、僕の考えなのですが如何でしょうか?」
コランはおどけたように遥と澪にそう言った。
遥と澪は動揺していた。
いきなり現れたと思ったら突然、自身の人生観について語り出したので驚いたのだ。
「ああ、紹介が送れたね。僕はコラン・ロンド。まぁ、よろしっくね」
「随分、余裕なのね。分かってるの?二対一よ?」
「僕にとって一対一も二対一も大して変わらないよ。だって、世界に比べれば、君たち二人は小さな小さな存在だしね」
「比べる対象がおかしくない?」
遥と澪はコランの意図が全く理解できない。だが、一つ言える事は、この男はまともでは無い。
見た目もさることながら、その言動からしてもまともな人物ではないという事を物語っていた。
「おかしくないさ。まぁ、僕はこれでも、自分は頭おかしいとは思ってるんだよ?」
「自覚があるならなお、質が悪いわね」
「それもそうかもね(笑)」
コランは面白おかしくそう言った。
彼は自分が狂っている事を自覚している。その上でこのような事をしている。
「あなた、一体何者なの?」
「それを簡単に言う訳ないっしょ?」
「なら、力づくで聞き出すしかないって事ね」
遥と澪はコランに向かって走り出した。そして、澪は杖を顕現させた。『星神の杖』だ。木製の木の様な材質で出来ている杖だ。
遥はヘッドホンを耳に取り付け直した。音を操るヘッドホンであり、銘は『ハンニバル』といい、遥専用の武器だ。
二人はコランに攻撃を仕掛けた。
「【星閃光】!」
「【ヘッドホンミサイル】!」
澪は【星閃光】を放ち、遥は【ヘッドホンミサイル】を放った。
澪の【星閃光】は細い先攻であり、技範囲は狭いが絶大な威力を誇る技である。
コランは【ヘッドホンミサイル】は難なく躱したが、【星閃光】は躱しきれず、右肩に直撃した。
コランの肩が吹き飛び、右手が地面に落ちた。
「ふ…中々やるね…けど、僕は負けないよ~」
コランは不敵に嗤いながらそう言った。
澪と遥はコランに対して警戒を怠らなかった。
「【道化王冠】」
コランがそう言った瞬間、コランの姿が消滅した。
「「!?」」
いきなり姿が消えた為、澪と遥は動揺した。
完全にコランの姿が消えていた。目を離さなかった筈なのに完全に姿を消していた。
二人は周囲を見回すがコランの気配が全く感知できない。
「一体どこに?」
「さぁ…どこに…… !?ハルちゃん危ない!」
「!? 何す…!?」
澪は遥を突き飛ばした。遥は澪の姿を確認すると驚愕した。
澪の脇腹にナイフが刺さっていた。いつの間にかコランに攻撃されていたようであった。
しかし、攻撃が全く見えなかった。どこでどう攻撃したのかさっぱり分からなかった。
「一体…どうなって…」
「あたしにも分からない。ハルちゃんの後ろから殺気がして…気が付いたらナイフが刺さってた。しかも、おかしいのが…」
「?」
「痛みが感じない。攻撃されている筈なのに…」
「どういう事!?」
「ふふふ…これが僕の力だよ」
そう言ってコランが姿を現した。
コランは面白おかしくケタケタ笑っていた。
その様子がまるで狂気に満ち溢れたピエロそのものである。いや、彼の見た目はそもそもピエロなのだが…
「僕の『二十二式精霊術』、【道化王冠】の能力は五感の完全制御さ。視覚、嗅覚、触覚、聴覚、味覚の五感を完全に制御する」
「「!?」」
コランは嗤いながらそう言った。
コランの【道化王冠】は五感を支配する能力だ。
発動条件は相手に自身の能力の解放を見せる。ただそれだけだ。それだけで、術は発動する。
この力が発動していれば、同士討ちは勿論、あらゆる事象を誤認させる事が出来る。
極めて強力かつ、危険な能力であるがいくつか制約自体は存在する。
一つ目は術者から長距離離れていれば、術は自動的に解除される。
二つ目は術の発動中は自身は霊力、或いは魔力を使った攻撃が一切出来なくなり、肉弾戦か飛び道具を使った攻撃しか出来ない。
三つ目は術を発動中は霊力が消費し続けている状態であり、あまり長時間術を発動し続けていると霊力がすぐに尽きる。
しかし、霊力の消耗に関してはコランは類稀なる霊力を持っている為、そう簡単には霊力はそこを尽きない。
霊力が尽きる前に肩をつければいいだけの話だ。
以上のように強力な力であるのは事実だが、制約も多い。
しかし、開放を見られてしまったらほぼ無敵状態になるのは確実であり、完全催眠にかかってしまえば後は直感に頼る他無い。
「さてさてさてさ~~~~て、果たして君たちの隣にいるのは本当に本物の君たちなのかな~~~。もしかしたら僕かも知れないよ~~~。もしかしたら僕が君たちの味方かもしれないぞ~~~~~。ふひひひひ…」
コランは下卑た笑い方をしていた。
澪は再び、攻撃を仕掛けた。【星閃光】をコランの脇腹に当てた。しかしー
「!?」
「澪…?どうして?」
「な!?」
コランだと思っていた目の前の男はコランではなく、遥であった。遥は膝を尽き、血を吐いた。
澪は後ろを振り返った。遥が邪悪な笑みを浮かべていた。そして、遥は澪にナイフを三本ほど投げた。
全て澪に命中した。命中した個所は左腕、脇腹、右太ももの三か所だ。
澪は倒れた。そして、後ろにいた遥を見つめた。遥の姿は消え、コランの姿に変わった。
「ざ~んね~ん!当てたのはミ・カ・タ・でした~!ドンドンパフパフ~♪」
「この屑が……!!」
澪が今までにない怒りの形相でそう吐き捨てた。
澪はコランの卑劣な攻撃に怒りを隠す事が出来なかった。
「いいね~いいね~、その顔!興奮しちゃう♡」
コランは恍惚とした顔でそう言った。
「このサイコパスイカレ野郎が!」
遥が立ち上がりながらそう言った。
遥は澪の攻撃を受けて相当なダメージを受けていた。
コランの五感制御により、遥と澪の同士討ちが成されてしまったのだ。
このままではお互いが潰し合うだけになってしまう。
澪と遥は逆方向にお互い走り出した。
「???」
コランは訳が分からないと言った様子で二人の様子を見ていた。
「澪、良かった。私と同じ考えで」
「ハルちゃん…死なないでね…」
そう、遥と澪は同士討ちを避ける為に、二手に分かれたのだ。
遥と澪は同じ考えであった…という訳だ。
その事に気が付いたのかコランは称賛の言葉を贈った。
「言葉にせずともお互い意思疎通が出来るのか…素晴らしいね」
しかし、コランは身体を震わせ、舌を舐めずり、恍惚とした表情をしていた。
「いいね~( *´艸`)ますます絶望した顔が見たくなったった~~」
コランはそう言いながらフラフラしながら下水道を歩いて行った。
「はぁ…はぁ…」
澪は息を切らせながら走っていた。
なるべく遠くに逃げる必要があった。遥との同士討ちを避ける為に。
「もう、逃げられないゾウ!」
コランがそう言ってナイフを投げてきた。澪はすかさず攻撃を躱した。
「良かった。これなら、ハルちゃんはちゃんと逃げてくれるね。いくら五感制御を使えるといっても敵はあなた一人!」
澪はそう言って星神の杖に魔力を込め、コランに攻撃を仕掛けた。
「無~駄」
コランはそのまま姿を消した。再び、【道化王冠】を発動させたのだ。
五感が完全に狂わされた状態で澪はどうにかして彼の場所を突き止めなくてはならない。
「霊呪法第九百八十番【世界索展】!」
【世界索展】とは霊呪法最大の霊力及び魔力の探索術である。世界全体の霊力及び、魔力を探知出来る。
「見つけた……!」
澪は虚空に【星混沌旋風】を放った。
「がは!?」
コランは驚きの表情と共に口から血を吐いた。
更に、コランは派手にふっ飛ばされながら地面に転がった。
「な…何で…うわあああああ」
コランは身体を這いずらせながら逃げていく。その様は非常に無様であった。
しかし、澪はコランを逃がすつもりは無かった。
卑劣な手段で遥と同士討ちさせた事を澪は絶対に許しはしない。
「逃がさないよ…」
澪は霊呪法第六三八番【義憤女神審判】を放った。
加減無しの本気の一撃だ。これだけ攻撃範囲が広ければコランとて回避のしようが無いだろう。
澪はコランが五感制御発動中は霊力及び魔術の力が使えない事は分かっていた。
だからこそ、加減無しに攻撃をしたのだ。
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
コランは悲鳴を上げながら裁きの光によって吹き飛ばされた。
「はぁ…はぁ…」
周囲の水は完全に蒸発していた。しかし、再び、水が流れ出した。
だが、周囲の壁がかなり抉れており、上からも地上の光がところどころ差し込んでいた。
澪は怒りに任せて極大の一撃を放った。その威力は凄まじく、後少し力を入れれば下手をすれば地下水道が崩れてしまう。
この地下水道はかなり頑丈な造りをしている筈なのだが、澪の霊呪法は凄まじい破壊力により地下水道の壁を破損させていた。
澪は辺りを見回した。これだけの一撃を受けて生きているとは思えないがコランの事だ。生きている可能性もあった。
澪は地下水道を歩き出した。派手に壊してしまったなと澪は思った。これは後で弁償をしなければならないかもしれないなと澪は思った。
しばらく歩くと黒焦げになった男がいた。間違いなくコランだ。
「あ…が……」
コランは黒焦げになりながらも身体を這いずらせていた。
往生際が悪く動いていた。未だに逃げようとしていた。
「生きて帰れると思うな…」
澪は眼を鋭くさせていた。
澪の左手から光が溢れ出し、ビームサーベルが出現した。
「あ…え…と……その…………助けてクレマセンカネ?」
「本気で言ってるの?」
「お………お慈悲を…………」
澪はビームサーベルをコラン目掛けて振り上げた。
コランは消し炭になり消滅を始めた。
澪の無慈悲な一撃がコランを消し飛ばした。
「ははは…馬鹿め………ぼ………く…………は………………偽………………も…………………」
そう言ってコランは完全に消え去った。しかし、澪は違和感があった。
「?」
すると、頭の中から声が聞こえた。
【あっははははははははははははははははは!!!!僕を簡単に殺せると思った!?思っちゃいました!?!?馬っ鹿だな~、ざ~んね~ん!生きてますよ~~!!!プ~クスクスクス!!】
この苛つく声は間違いなくコランの声である。
しかし、コランはさっき仕留めた筈である。澪は再びコランの遺体があった場所を見た。するとそこにあったのは-
不細工な顔をした小さな人形であった。そう、いつの間にかコランと人形が入れ替わっており、澪は今までずっと人形に攻撃をしていたのだ。
【あ~、後お友だちが結構ヤバいカモかもよ~】
そう言って澪の頭の中に傷だらけで倒れている遥の姿が出てきた。
間違いなく、コランが見せている映像だ。
澪は今までにないくらい焦りの表情を浮かべた。このままでは遥が危ない。
しかし、コランの【道化王冠】に掛かっている状態で遥の元に行ってしまえば遥と再び同士討ちになる可能性がある。
それだけは避けねばならない。しかし、頭の中に遥の声が聞こえてきた。
【はぁ…はぁ…助けて】
【澪……】
【澪…早く来て…】
【助けて…】
【澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪】
【澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪】
「はあ……はぁ……」
澪は耳を塞ぎ目を瞑り塞ぎ込んだ。しかし、遥の幻聴は激しくなるばかりで一向に収まる気配が無い。
むしろ酷くなっているとすら思える。澪は発狂寸前まで精神的に追い詰められていた。
コランは狡猾にも澪の心の隙に付け込んでくる。
【ほらほらほおう~~ら!速くしないと、お仲間が死んじゃうぞ☆】
「黙れぇ!ハルちゃんはお前なんかにやられない!お前なんかに!」
【ああ~~なんて酷いんだ!こんな薄情な友を持ったあの子はとても不幸だな!】
コランは芝居がかった口調でそう言った。
澪は未だに遥の幻聴が止まず、目の瞳孔が定まらなくなっていた。
明らかに発狂寸前だ。気がどうにかしてしまいそうであった。
【澪……澪……澪………澪……】
【助けて…澪…助けて……】
【早く来………て………】
「あ………あ…………」
澪はとうとう耐えきれなくなりー
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
発狂し、壁に何度も何度も頭突きをした。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…
澪の額から夥しい量の血が噴き出していた。しかし、無情にも声は収まらない。
澪はコランにより、ナイフで何ヶ所か身体を貫かれており、傷口からも血が噴き出していた。しかし、意識は一向に覚醒状態であり、意識が無くなる事が無い。
コランの五感制御の影響で意識を失う事が出来ない状態にあるのだ。澪は今程戦いの中で気を失いたいと思ったことは無い。
「ふぅ…意外としぶといな~」
コランはそう呟いた。彼は今、遥と戦っている。
遥は息切れを起こしており、身体中にナイフが突き刺さっていた。
「戦いの途中に何を言ってるの?」
「いや、ヒトリゴトさ」
コランは恍惚とした顔でそう言った。
明らかにただの独り言とは思えなかった。しかし、今の遥はあまり細かい事を考えている余裕は無かった。
コランの五感制御の力で完全に戦いの主導権が握られてしまってる上に、対策方法が全く思いつかなかった。
遥はこれだけダメージを受けているというのに一向に意識は失わない。恐らく、彼の能力で意識が覚醒しているせいだと遥はすぐに分かった。
しかし、感覚が制御された状態は何とも難儀な事だ。
「私は…」
「おっと!君は僕の踊りに付き合ってもらうよ!」
コランはナイフを投げてきた。遥はこれを躱した-と思いきや-
「ぐっ!?」
遥は背中にナイフが刺さった。躱したと思っていたナイフは幻覚であったのだ。
遥はフラフラになっていた。コランはこのままでは不味いなと思った。
「ふむ…このままでは殺してしまいそうだな………いやはや…どうしたものか…?」
コランはどうやら遥を殺す気が無い様子であった。
しかし、分からない。何故、コランはここで遥の相手をしているのかが。殺す気がなく、勝負も明らかに見えている。
にも関わらず、コランがここにとどまる理由は何だ?遥は考えるがコランは掴み所の無い男である為、糸が全く分からない。
「う~ん、もう暫くは僕の霊力も持つが…もし、このまま霊力が尽きるようであれば…仕方ないな…」
コランは珍しく真面目な口調で話していたかと思うと遥かにナイフを投げつけた。
今度の遥は空中にジャンプし、攻撃を回避した。
「う~ん、やっぱ一筋縄じゃあ行かないな~」
コランはそう言って姿を消した。遥は周囲に音の膜を張り、コランの居場所を補足しようとした。
しかし、遥は聴覚を利用して周囲を探知する為、どうしてもコランの居場所が特定できない。
だが、遥は今までの経験を振り返り、コランの居場所を探知しようとした。
「何をしようが僕の【道化王冠】には無敵だよ」
コランは遥の背後に近付く。
しかし、遥はその瞬間、後ろを振り返った。
「な!?」
コランは驚愕の表情を浮かべた。遥はそんなコランにお構いなしに攻撃を仕掛けた。
「【絶縁のサウンディングベート】!!!!!」
遥は最後の力を振り絞った。
遥の頭上から気泡の塊が出現し、コランを瞬く間に包み込んだ。そして、コランの身体は上空に浮かび上がった。
「な!?何だこれは!?」
「あたしのとっておきの技よ。この技を使ったのはあなたが初めてだけどね」
遥はそう言った。
遥のこの技は三年の月日を経て手に入れた技だ。USWの一件以来、遥は力をつけ、今の技を編み出した。
この技こそ、遥の最大の技なのだ。
音の塊に完全に閉じ込められたコランは身体をじたばたさせながら遥に問い掛けた。
「ここにいるのは本当に僕かい?もしかしたら、幻覚かも知れないよ?そうだ!さっきだってそうだったじゃないか!これは幻覚だよ?別の場所に僕がいるかも…」
「それは無いわ。これが私の霊呪法であればそれもあるかもしれないわね。けど、私が音の力で捕らえた者を間違える事は無いわ!」
コランを捕えていた音が振動を始めた。
コランは明らかに焦っていた。五感制御で完全に澪と遥を手玉に取っていた筈なのに今は遥に完全に追い詰められていた。
コランは侮っていたのだ。自身の力が無敵だという自惚れ、それが今の状況を造り出したのだ。
「あ………あ~~~~~~!?やばいやばいやばいーーーーー!!!!」
音の振動が激しくなり、コランの身体を切り刻む。
音はさらに響き渡り、コランの身体をズタズタに切り裂いた。
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
コランは絶叫を上げた。そして、コランの身体から大量の血飛沫が飛び散った。
コランは上空から落下した。全身が切り刻まれており、ほぼ、原形を留めていない。
ピエロマスクもズタズタにされており、見る影も無かった。
「やった…!」
「いや、やって無いよ」
「!?」
コランは立ち上がり、フラフラになりながら遥に近付いた。
遥は驚愕した。あれだけのダメージを受けていながらまだ立ち上がってくる。とても人間とは思えない。いや、仮に魔族であったとしてもあれだけダメージを与えても立ち上がれる者はそうはいない。
「油断したよ……それは認めよう。僕は……自分の力を………過信しすぎていたようだ。そして、何より、君たち二人を舐めていたよ。ふふふ……参ったな……霊力がもう、残り少なくなってきたな~。仕方ない…ここで君を殺すとしよう」
コランは走り出した。そして、ナイフを取り出し、遥に近接攻撃を仕掛けた。
今まではナイフを投擲していただけであった為、比較的殺傷能力自体は低かったのだが、近接戦を仕掛けてきたという事はコランが本格的に遥を殺しにかかっている。
遥は再び、身構えた。そして、遥は【サウンドミサイル】を放った。
コランに音のミサイルが直撃し、吹き飛ばされた。
しかし、コランはフラフラになりながらも立ち上がって高速で遥に間合いを詰めた。
「!? しぶといわね!【サウンドミサイル】」
遥は連続で【サウンドミサイル】を放ったが、次々と遥の攻撃を躱していった。
さらに、距離を詰め、とうとう、遥の目の前にまで追いついた。
遥は距離を取ろうとしたがコランは遥を逃がさなかった。
遥の右肩にナイフを突き刺した。
「ぐ!?」
「まだまだァ…行くよォ…」
コランは遥に刺さっていた何本かのナイフを取り、遥の身体を滅多打ちに切り裂いた。
腹、足、腕、あらゆる箇所を切り裂いた。
そして、遥の両腕にナイフを突き刺し、壁に固定させた。
これでは遥は身動きが取れない。遥は手を動かそうとしたが動かせば動かす程、激痛が襲い掛かり、更に、かなり強く固定させている為、遥の力では引き剥がすのは厳しかった。
「ふぅ…ここまで僕を手こずらせるなんて…いや、これは明らかに僕が君たちの力を見誤り、舐め腐った怠慢だね…これは…反省しないとな~」
コランは心底反省した様子でそう言っていた。
コランはフラフラと遥に近付いて来た。この男は不死身かと遥は思った。
遥は【サウンドミサイル】を放ったが、コランはこれを一発残らず躱した。
それでも、遥は攻撃を続ける。しかしー
「------!-------!」
「どうやら、声が枯れてしまったようだね」
「!?」
「いや~、助かったよ~。これで楽に殺せるね」
コランはゆっくりと近付き、遥の目の前に立った。
「一思いに一撃で殺してあげるよ。僕をここまで追い詰めた褒美だよ」
コランは遥の頭目掛けてナイフを突き刺そうとした。
頭に当たれば確実に即死だ。遥はそれでも技を出そうとした。
「-------!------!」
しかし、無情にも声が出ない。
遥は死ぬ気などサラサラ無かった。死ぬ訳にはいかない。待っている人がいる。大事に思ってくれる人がいる。
遥は蒼、一夜、慧留、屍、湊、美浪、薊、くる…そして、澪の事を思い浮かべた。それだけではない、家族もそうだ。彼らの為にも死ぬ訳にはいかない。
-私は生きる!!
「終わりだよ!」
「【星閃光】!!」
突然、光の閃光が遥とコランの間を遮った。
コランは自身のナイフを持っていた「筈」の右手を見た。右手はナイフごと吹き飛ばされ、木っ端微塵になっていた。
「ほう…発狂状態から何とか脱したのかい?大した者だよ…君たちは?」
「澪……」
コランだけでなく、遥も驚いていた。絶体絶命の状態で澪が遥を助けに駆けつけてくれたのだ。
「ハルちゃんは死なせない!」
澪は【流星神速】で突撃し、コランを殴り飛ばした。
コランは数メートル程吹き飛ばされた。
「ハルちゃん!」
澪は遥の元に行き、彼女を両手を縛っていたナイフを引き抜いた。
遥はそのまま倒れこんだ。澪は遥を抱きかかえた。
「澪…ありがと…」
「大丈夫!?死んじゃ駄目だよ…まだ…仲直りできてないんだからさ」
「ええ、そうね」
澪はそう言って遥をそっと地面に置いた。
そして、遠くにいるコランを見た。
「あいつはヤバいわ。逃げた方が…」
「そうしたいけど、ハルちゃん抱えて逃げるのは多分無理。あいつ、かなり霊力を残してる」
「!?」
彼が異常なほどタフなのはまだまだ霊力に余力があるというのも理由の一つなのだろう
しかし、だとしたら相当な霊力量だ。恐らく最低でもコランの霊力は澪の三倍はある。
「けど、いくつか分かった事があるよ。あいつの五感制御…発動中は霊力がずっと垂れ流しの状態になってて霊力の流れが無くなると五感制御が自動的に解ける。ハルちゃんがあいつを弱らせてくれたおかげで私たちは今は五感制御が解けてるんだよ。今なら…いや、今じゃないと倒せない」
澪はそう言ってコランを見つめた。
これで最後の局面である。
「まったく…面倒な事になって来たね…まあ、予定が狂ったがいいだろう」
コランは怪しい笑みを浮かべていた。
「これで、決着をつける!」
澪はそう言ってコランと再び合いまみえた。
To be continued




