【第五章】イシュガルド殲滅篇ⅩーCourt of the ironー
プロテアは四神天城の前に立っていた。
プロテアは正面から城に浸入しようとしていた。
「まさか…正面から?」
魔道警察官がそう呟いた。すると、プロテアは嗤いながら歩き出した。
「人に会いに行くのにわざわざ裏口から行く理由もないでしょう?」
「止まれ!止まらなければ射つ!」
「射ってきたら?」
プロテアは左手に【鉄王剣】を造り出し、城の入り口に突入した。
「射てぇ!」
魔道警察官たちは銃でプロテアに狙いを定めて一斉射撃を行った。
しかし、自分に来る銃弾をプロテアは全て切り裂いた。
「な!?」
「銃弾を全て…切…り…」
言っている間にプロテアは魔道警察官たちを切り裂いた。
ある者は上半身と下半身が分断され、ある者は首を跳ねられ、ある者は頭を切り裂かれたりととにかく、プロテアは一撃で魔道警察官たちを殺していった。
魔道警察官たちは一方的にやられていった。
プロテアが魔道警察官をほふっていると突然、城の正面から戦車が五台ほど出てきた。
この戦車は特殊な金属でコーティングされており、あらゆる魔術攻撃や霊術攻撃に耐性を持っている。
搭載されている武器も魔族を殺す事を想定して造られている。
「人間を相手に魔族を殺す道具を使うなんてね…」
プロテアは皮肉混じりにそう呟いた。
イシュガルドは普通の人間より長寿なのと並外れた霊力を持った人間なのだ。
にも関わらず、彼等はプロテアを化け物と認識し、兵器まで持ち出した。
プロテアは呆れた様子でそれを眺めていた。
「射てぇ!!」
戦車の砲台からミサイルが一斉に放たれた。プロテアはミサイルを真っ二つに切り裂き、残りの四発のミサイルもすれ違い様に切り裂いた。
ミサイルが爆発する前にプロテアが切り裂いた為爆発はせず、不発に終わってしまった。
更にプロテアは一台目の戦車に乗り込み、隙間に剣を突き刺し、横に剣を薙いだ。
すると、戦車の上の部分ごと、中に搭乗していた魔道警察官の首も切り裂かれた。
「ひぃ!?」
魔道警察官があまりの恐怖に仰け反った。しかし、プロテアはその仰け反った魔道警察官に一瞬で間合いを詰め、剣で首を吹き飛ばし、瞬殺した。
最早、これは戦いになっていない。ただの一方的な虐殺である。
「面倒ね」
プロテアはそう言って、跳躍し、剣で虚空を切り裂いた。
すると、残りの戦車が真っ二つに切り裂かれ、搭乗者ごと切り裂いた。勿論、即死である。
プロテアは直後の背後からの攻撃もすぐに気付き、剣で相手の心臓を的確に貫き、切り裂いた。まるで、後ろにも目があるかのようであった。
「ただの鉄の塊が本物の戦車に勝てる筈も無いでしょ?」
外にいた魔道警察官はほぼ全滅していた。プロテアは残りの魔道警察官も始末しようとした。
「【黒閃光】!」
プロテアは後ろから放たれた閃光を切り裂いた。
「来たのね?月影慧留」
プロテアの目の前にいたのは慧留であった。
「でも、あなたはグレビリアとの戦いで結構消耗してると思うのだけれど…?」
「何の事かな?」
慧留は惚ける様にそう言った。しかし、プロテアの言っている事は正しいのだ。
慧留はグレビリアとの戦いでかなり消耗してしまった。
彼女の能力がかなりの初見殺しっぷりな能力であった為、手こずった挙げ句、かなり消耗させられていた。
「御出で、【黒時王子】」
慧留は『悪魔解放』を使用した。
刀は黒紫色の錫杖へと姿を変え、服装はは黒い喪服に変化していた。
更に頭には黒いヴェールが着いていた。
慧留は天使であるが、かつて堕天し、堕天使となった。
蒼たちと戦った後も堕天自体は解けておらず、慧留は悪魔の力をそのまま使える。
「【鉄連鎖針】!」
プロテアは剣を地面に突き刺した。すると、地面から無数の鉄の針が慧留に襲いかかる。
「【冥界創造】!」
慧留が錫杖を地面に叩き付けると【鉄連鎖針】の向かう方向が慧留からプロテアに変わった。
慧留の【黒時王子】の能力は過去改編能力。
慧留は【鉄連鎖針】の進行方向をプロテアに改編したのだ。
プロテアは再び【鉄連鎖針】を放ち、相殺した。
更に、プロテアは走り出し、慧留に肉薄した。
「【王魔黒閃光】!」
慧留は巨大な黒い波動を放った。【王魔黒閃光】は【黒閃光】の上位魔術だ。
【黒閃光】とは比較にならないほどの威力を誇る。
実際、アンタレスの魔力があったにしてもあの澪を一撃で倒している。
だが、プロテアは【鉄王剣】で【王魔黒閃光】ぶった斬り、慧留の身体を切り裂いた。
「がっ…」
慧留はそのまま倒れ込んだ。圧倒的に力量差があった。だが、これは単純にプロテアが強いというだけでなく…
「あなた、グレビリアとの戦いで魔力が殆ど無かったわね。そんな状態で私と戦おうなんて…蛮勇ね」
そう、プロテアの言う通り、単純な力の差だけでは無く、慧留が先程の戦いにより、魔力がかなり消耗していた事が大きく影響していた。
いくらプロテアが強いといってもここまで一方的に慧留がやられる事はまず無い。
「くっ…」
慧留は無理矢理身体を起こした。だが、たったの一撃を受けただけにも関わらず、服はボロボロになっており、更に身体からは夥しい量の出血が見られた。
慧留の白い肌が赤く染まっており、かなり痛々しい光景であった。
「グレビリアには感謝しなくてはね。あの子が彼女を消耗させていなかったら私は本気を出さざる得なかったでしょうし…」
「!?」
予想していなかった訳では無いがプロテアはまだまだ全力では無かった様だ。まだ、何か力を隠している。
慧留は錫杖で何とか倒れまいとするが、既に満身創痍だ。
このままでは確実に殺られる。プロテアは【鉄王剣】を振り上げようとした。
このままでは慧留の身体が真っ二つになる。しかし、慧留は身体が震えて動けない。
ー動いて!お願い!動いてよ!
慧留は必死に自分に言い聞かせるが無情にも身体が動かない。
最早、これまでー
「!?」
プロテアは直前で動きを止めた。何故なら、先程までプロテアが握っていた【鉄王剣】が粉々になっていたからだ。
「え…?」
慧留は訳が分からず声を上げた。
それもそうだ、いきなり自身を切り裂こうとした剣が突然消えたのだ。驚きもするだろう。
「とうとう、戦う気になったのね、常森厳陣」
「私の国民たちに何をする?イシュガルド…」
「ハッ!あなたがかつて私たちにやった事と同じ事をしたまでよ」
プロテアが皮肉混じりにそう言った。
プロテアと慧留の前に現れたのは常森厳陣であった。
厳陣はプロテアの言葉を聞くとギロリとプロテアを睨み付けた。
「やはり…あの時、貴様を見逃したのは間違いだったようだな。プロテア…」
「そうね…殺しておくべきだったかもしれないわね?まぁ、私はあなたが何故、私を見逃したかなんてどうでもいいの!私はあなたと黒宮大志…そして、四宮舞を殺すわ!」
「かつての教師も殺すか…」
「私の両親を殺したのはあの女よ!」
「ああ…そうだな…だが、お前は知るべきだ…四宮君がどんな気持ちで…」
「分かるか!!解ってたまるか!!!ふざけるな!あんたらが勝手に攻め込んで勝手に私たちを殺したんじゃない!!そんな奴等の気持ちが分かってたまるか!!!!」
プロテアは眼を血走らせながら叫んだ。
厳陣はやりきれない気持ちになっていた。
あの時、厳陣は舞がプロテアを殺さずに逃がそうとしている事に気付いていた。
だが、それにも関わらず、厳陣はあの時、舞を見逃した。
あの時の厳陣は甘かった。今ほど冷徹に徹しきれていなかった。
その甘さが今の状況を作り出した。
「どちらにせよ、貴様はここで殺す」
「死ぬのはあなたよ。見た所…黒宮大志はいないようね…」
「私一人で貴様の相手は十分だよ」
「舐めるな!」
プロテアは【鉄王剣】を造り出し、厳陣に肉薄した。
「今日は…太陽が照っているなぁ…」
厳陣はそう言って、右手から火の玉を作り出した。それを見て、プロテアは怒りを露にした。
「イシュガルドでも無い人間が………その力を使うなああああああああああああ!!!!!」
プロテアは【鉄王剣】を振り上げた。しかし、プロテアが造り出した【鉄王剣】は粉々に消え去った。
「!?」
「鉄と熱では相性が悪い…それは君も分かっているだろう?」
厳陣は火の玉をプロテアにぶつけた。プロテアは近くの壁に激突した。その壁もドロドロに溶けて消えた。
「が!?」
プロテアは咄嗟に【鉄鎧冑】で身体を鉄の鎧で覆った。それにより、即死は免れたが、鎧は一瞬で熱により熔けた。
厳陣は二種類の【二十二式精霊術】を使う事が出来、今回使ったのは【太陽】。この能力は熱を操る能力であり、太陽が照っていればいる程、力を発揮できる。
厳陣の能力は二種類とも環境によって左右される能力ではあるが、はまればほぼ絶大な力を誇る。
「貴様と私では相性が悪い………すぐに肩をつける。いくぞ」
厳陣は【太陽】の力を使い、炎の剣を顕現させた。
炎の剣には膨大な霊力が込められていた。
プロテアもそれに気が付いたのか今までに無い恐怖の表情を浮かべた。
直感した、この炎はヤバイと。
「【炎帝爆殺】」
厳陣は剣を振り上げた。すると、辺りが灰塵と成し、四神天城も例外では無く、灰となった。
【炎帝爆殺】は全てを燃やし尽くす業火の炎だ。
これでも威力と範囲は抑えており、本来の破壊力は四神天城だけでなく、街そのものを灰に出来る。
この炎を喰らってはプロテアも生きてはいまい。
慧留は厳陣の凄まじさに恐怖を覚えた。まさか、これ程の力があるとは…十二支連合帝国の総帥を務めるだけの事はある。
厳陣の力は黒宮と同等…下手をすればそれ以上の力がある。
「イシュガルドの生き残りよ…そして、死んだ同胞たちよ…炎に抱かれて安らかに眠れ」
厳陣がそう言って、慧留の元に行こうとする。しかしー
「!?」
厳陣は殺気に気が付いた。プロテアはまだ死んではいない。
プロテアはいつの間にか厳陣の懐にいた。
ー馬鹿な!?なぜそこに!?
プロテアは【鉄王剣】で厳陣を切り裂いた。すると、厳陣の右肩、左肩同時に出血した。
ーな!?一太刀だけで何故だ!?
厳陣は少し混乱したがプロテアの姿が消えている事に気が付いた。
厳陣は気配に気が付き、咄嗟に避けようとしたが間に合わず脇腹を貫かれていた。更に、脇腹を切り裂かれた。
「ぐっ!?」
動きが速すぎる。この速度は尋常ではない。何らかの仕掛けがあると考えるのが自然だろう。だが、それらしい仕掛けは無かった。
やがて、プロテアは厳陣の目の前に現れた。全身が出血しており、とても戦える状態とは思えなかった。
しかし、プロテアは立っていた。だが、そこまで体力が残っている様にも思えなかった。
とは言え、それは厳陣も同じだ。先程のプロテアの連撃で相当ダメージを負っていた。
厳陣は完全に不意を突かれた形になった。
厳陣はプロテアの能力が何かを考えた。ただの加速術では無いのは明白である。
それにしてはあまりにも速すぎる。それに、厳陣程の実力者が全く反応出来ないというのはやはり、ただの加速術では無いのは間違いない。
ーならば、どんな能力だ?
厳陣が考えるが悠長に考えている時間は無さそうであった。
「これで…終わり…よ!!」
プロテアが突撃しようとした。しかし、足を滑らせ、倒れた。
「くそが!後…少し…なのに!」
プロテアは叫んだ。厳陣はプロテアの隙を逃さなかった。厳陣は炎の玉をプロテアに放った。
「待って!常森総帥!」
慧留は厳陣を静止しようとしたが、もう遅い。炎はプロテアへと吸い込まれていった。
【はいは~~い。舞台はまだ終わらせませんーーーっよ!!】
「「!?」」
炎は完全に掻き消されていた。そして、プロテアの前に道化師の格好と化粧をした男がいた。
あの男が厳陣の炎を消したのだ。
厳陣と慧留はピエロの男がかなり不気味に見えた。
コランはプロテアの身体を片手で抱えた。
「コラン…」
「派っっっ手にやられたね~、プロテア。リョナられてるみたいよん?」
「うる…さい……」
コランの軽口にプロテアは意識絶え絶えで返した。
厳陣は重症、慧留も戦闘不能。相手はほぼ戦闘不能状態のプロテアと新手のコラン。
どちらが有利かは明白である。コランはここで肩を付けた方がいいと考えた。しかしー
「プロテア……残念だけど……今回は撤退した方がいいかもしれない……」
「【光刃刀】!」
コランの正面から光の刃の衝撃波が襲ってきた。コランはこれを軽々と回避した。
「無事か!常森総帥!月影慧留!」
二人の男がやって来た。片方は金髪のリーゼントと瞳が特徴の不良っぽい青年で、片方は黒髪のストレートヘアーと白と黒のオッドアイが特徴の青年であった。
二人とも黒い軍服を来ている。間違いなくUSWの者だ。
「スープレイガ・レオンジャック、ドゥームプロモ・ドラコニキル…USWの兵隊さんだよ」
二人はUSWの暗殺部隊アンタレスの幹部である『七魔王』の一員だ。
かつては蒼と死闘を繰り広げた、USW屈指の実力者たちだ。
コランもプロテアも彼等の強さを理解していた。
「はぁ~、思ったより速くここを嗅ぎ付けたみたいだね~。グリゴリと前『七魔王』殺られたのがそんなに嫌だったのかな?」
「また会ったな!ピエロ野郎」
「スープレイガ、あの男か?」
「ああ、間違いねぇ…」
「そだねー、また会ったね~。そんなに僕ちんの事が大好きなのかな??」
コランはおどけた様にそう言った。
スープレイガは彼の言動に苛ついていた。
「てめぇ…ふざけてんのか?」
「ふざけてなんかいませぇ~ん♪」
「野郎…!」
スープレイガは剣を構えた。スープレイガも長剣を抜いた。
「やる気満々だね~おお~怖(>.<)」
「あまり、怖がっている様には見えませんねぇ…」
コランの目の前にいきなり人影が現れた。コランは流石に少し驚いたが、相手の攻撃を軽々と回避した。
男は黒い服に片眼鏡をかけた男だ。コランは勿論、ここにいる者に彼の名を知らぬ者はいない。
「黒宮…大志…」
「うっわ~、流石にこれは…分が悪すぎるンゴ!参ったな~」
コランは頭を抱えた。プロテアを守りながら彼等と戦うのはあまりに無謀すぎる。
コランは逃げる気満々であった。流石に分が悪すぎる。
「う~ん、ここは、逃げるんだよ~~!!」
コランはプロテアを抱えたまま、猛スピードでダッシュした。
「逃がすか!」
ドラコニキルが距離を詰め、コランの背中を切り裂いた。
しかし、コランの身体が跡形も無く、消え去った。プロテアも同様に姿を消していた。
【ははは!君たちに僕を捕まえるのは無理だよ。僕に構ってる暇があるなら、お仲間の心配をした方がいいーと思ーうゾ!】
そう言い残してコランはプロテアを連れて完全に姿を消してしまった。
ドラコニキルは無理に追おうとはしなかった。それよりも優先するべき事があったからだ。
「スープレイガ、彼等を運ぶぞ」
「へいへい、分かりましたよ」
ドラコニキルとスープレイガは慧留たちの対処に当たる事を優先した。
厳陣も慧留も重症である。このまま放っておくとマズイ。黒宮も手伝った。
「私はここの対処に当たりますのでスープレイガさんとドラコニキルさんは二人をお願いします」
「ああ、そのつもりだ。いくぞ、スープレイガ」
ドラコニキルとスープレイガはこの場から去っていった。
「派手にやられましたね~。これは…思ったよりヤバめですね~。それに、あの男…まさか…」
黒宮はあのピエロ男に心当たりがあった。
だが、仮に黒宮の想像通りであった場合、少々面倒な事になるのは目に見えていた。
それ程、あの男は厄介だという事だ。
黒宮はすぐ様事態の収束を行った。
しかし、黒宮は突如、莫大な霊力を感知した。
「!? 何ですか!?この魔力は!?」
黒宮は近くの電柱に昇り、辺りを見回した。すると、一宮高校付近から強大な魔力が溢れ出していた。
これは尋常ではない。すぐに事態を収束しなければマズい事になる。
黒宮はすぐに魔力の流れている場所へと向かった。
時は遡る。
ここは十二支大学の寮だ。ここは総合大学であると同時に魔道警察官を育成している場所でもある。
蛇姫薊と御戸狂は寮に半ば軟禁状態になっていた。
「何で私たちだけここに籠る様に言われてるのかしら?」
薊はそう呟いた。紫のセミロングと蛇のような瞳が特徴の女性だ。
彼女は蒼たちの仲間であり、大学は違うがかつては同じ高校にいた。
今でもときどき会ったりする事もあった。
だが、数日前から薊とくるは何故か寮の出入りを禁止され、軟禁されていた。
「う~ん、多分、何かあったのは確かなんだろうけど…それが何なのかは分からないよね~」
くるはそう返した。
彼女も蒼たちのかつての仲間であり、今は薊と共に行動している。
黒髪黒目が特徴のツインテールの小柄な少女である。
くるも今回の件が何らかの事がある事は分かっていた。
薊とくるを軟禁する理由があるとしたらそれは恐らくー
「蒼、あるいは屍が何かやらかした…と考えるのが自然ね…」
「はぁ~、相変わらず巻き込まれ体質だな~、蒼ちゃんと屍ちゃんは」
薊が答えるとくるは呑気そうに答えた。
薊やくるはかつてはテロリストであった。それ故、このような事は慣れっこだ。
だが、蒼や屍たちが何か悪さをしているとはとても思えない。
だとすると国が…正確には常森厳陣と黒宮大志が何らかの動きをしている…と考えるのが妥当だろう。
もし仮にそうだとすると薊とくるはここで大人しく軟禁されている場合では無い。
「で、どうする?薊ちゃん?ここから抜け出すとなるとちょっと面倒だよ?」
「そうね…けど、このまま何もしないっていうのもね。屍たちの安否も気になるわ」
「確かにそうだね~。うん、じゃあ、抜け出すんだね!」
「まぁ、抜け出すと言っても少しの間だけね。あくまで私たちが今やるのは状況把握だけよ。慎重に行動をしなくてはならないわ」
くるの問いに薊は冷静に答えた。
状況が全く分からない以上、薊たちも迂闊には行動するわけにも行かない。
薊の判断は冷静なものである。
「くる、あなたの幻覚でここに私たちがいるように見せる、出来る?」
「うん、大丈夫。あくまでも軟禁されているだけだからそこまできつく監視はされてないみたいだから。けど、すぐにボロは出ちゃうよ?」
「分かっているわ。だから、私がフォローするわ。とにかく、あなたは幻覚でこの場をやりすごして」
「うん、分かった」
くるは自分と薊の幻覚を作った。見れば見るほどそっくりである。
「…目の前に自分がいるのは何か、気持ち悪いわね」
「何でそういう事言うの?……で?どうするの?」
「【月読尊】と【伊弉冉舞姫】を使うわ」
「え?でも、あれは今、取り上げられちゃってるよ?」
かつて、「アザミの花」と呼ばれる組織が神器を強奪し、それを利用して十二支連合帝国を混乱を巻き起こした事がある。
そのメンバーが天草屍をリーダーとした薊、くる、兎神、赤島がそのメンバーであった。
しかし、神器は大半が破壊された。しかし、三年の月日を経て、神器は修復された。
だが、【伊弉諾尊神創】のみは修復出来なかった。これだけは他の神器とは作りが特殊らしく、修復出来る者はいなかった。
【伊弉諾尊神創】の残骸は確か屍が回収していた筈だ。
そして、神器だが、適合者がアザミの花のメンバーにしかいなかった為、魔道警察官になったアザミの花たちは使用を許されていた。
薊とくるも一応、使用は認められていたのだが、軟禁されてからは没収されている。
「心配無いわ、こんな事もあろうかと場所は既に捕捉してるから」
「なら、心配ないね!」
「行くわよ」
薊はそう言うと、くるは薊について言った。
薊とくるは部屋を出て、しばらく歩いた。誰にも気付かれないように。
「妙ね…殆ど見張りがいないわ」
「そだねー、何人か居てもいい筈なのにね」
軟禁とはいえ、あまりにも見張りがいなさすぎる。
周囲の警戒もかなり甘いように思える。薊とくるにとっては今の状態の方が助かるがかなり不気味であった。
「ここに手を回す余裕が無いって事じゃない?」
「普通に考えるとそうね。魔道警察官は人員不足だしね」
魔道警察官は非常に人数不足である。
三年前は十万人程いたのだが、四大帝国会議を気に魔道警察官は一新され、三年前の魔道警察官の大半は牢屋送りになっている。
そのお陰でかなりの人数不足であり、現在はたったの一万人程しかいない。
魔道警察官を育成するのはそう容易では無いため、人数が増えないのも原因の一つである。
これでも一新された直後に比べれば増えてはいるのだ。
しかし、魔道警察官は四大帝国会議の一件で信用を大きく無くしており、魔道警察官に対して懐疑的な眼を向ける者は現在でも多く、魔道警察官志望の人間が例年より現象傾向があるのも原因だ。
それらの点を踏まえ、更に今は何らかの事件が起こっていてそこに大量に人を回している。
恐らく、蒼や屍にも人数が割かれていると考えるべきだろう。
これらの点を考えると人数不足で、薊やくるに人を回している余裕が無いというのが妥当な結論だ。
「もうそろそろね。保管庫よ」
十二支大学の寮を出て、少し歩いた所に魔道警察官が使う武器の保管庫がある。
「保管庫といっても広いよ?どこにあるの?」
「心配無いわ、私の神器にマーキングをしてあるから」
薊は自分の神器の先端に熱を帯びた玉の形をした装飾品を着けていた。
薊は周囲の熱を感知する事が出来る。薊は眼を瞑り周囲の熱を探った。
「見つけたわ」
「どこどこ?」
「最下層ね、それと…偶然ね…」
「?? どうゆう事?」
「近くに蒼がいるわ…後、二人いるわね…その二人は誰か分からないわ」
「何で蒼ちゃんがいるって分かるの?薊ちゃんの熱感知はあくまでも熱だけだよね?」
「蒼は普通の人間や魔族より体温が低いのよ。恐らく、蒼の『天使』が関係してるわね」
「そっか、蒼ちゃんが使う『天使』は氷だから体温も低いんだ」
「まぁ、あくまでも熱感知だから蒼とは限らないけどね。いずれにしても保管庫の地下にいる以上、見過ごす訳には行かないわね」
薊がそう言うとくるはこくりと頷いた。
「まずは神器を取り返すわ」
「うん!」
薊とくるは保管庫の中に入って行った。
保管庫の中は薄暗く、多くの武器が保管されていた。
薊は無表情で進んでいくがくるは些か不気味がっているようであった。
「うう~、実習とかでたまに来るけどやっぱ不気味だな~、ここ」
「武器を造り保管してるんだから不気味じゃない方が違和感あると思うけど?」
「確かにそうなんだけどさ」
薊の言い分はもっともである。戦う為の武器を造り保管している場所であるのだから不気味じゃない方が逆に不気味というものだ。
しかし、くるは保管庫があまり好きになれなかった。勿論、薊も好きという訳では無い。
ただ、薊はあまり不気味かどうかは気にしない気質である為、ここの事は特に怖いとかはあまり思わない。
対してくるは結構気にする方である為か、不気味だとは感じるようだ。
ただ、怖がっているという訳では無い。あくまでも不気味だと思っているだけである。
「あのさ…魔道警察官てさ、どこまで信用出来る?」
「? 何言ってるの?「信用してないに決まってるじゃない」」
「はは…だよね。私もそう」
薊はくるの質問にあっさりと答えた。
魔道警察官は四大帝国会議で大きな失態を犯した。
十二支連合帝国の闇が世間に露呈されたからだ。
しかし、どの組織も、それも一国を収める組織が一枚岩な訳が無い。
十二支連合帝国の魔道警察官も当然そうであり、今でもそう言った問題は残り続けている。
組織を率いる者が人間である以上、組織を完全に統一する事はほぼ、不可能なのだ。
薊やくるが魔道警察官になる理由は十二支帝国の魔族に対する差別意識を無くさせる為に過ぎない。
完全に彼らの事を信用する事は薊たちには出来ない。
疑う事自体は悪い事では無いのだ。
「何の疑問を持たずにただただ従っているだけの方がタチが悪く面倒なモノよ」
「う~ん、薊ちゃんの言う事は分かるけど分からないな~」
くるは頭を抱えながらそう言った。
薊はそんなくるを見て呆れたような顔をした。
「ここよ」
「うわ~、やっぱ、神器を保管してるだけあって保管が厳重だね~」
「問題無いわ」
薊は目の前の金庫を見た。この金庫の中に神器が保管されている。
しかし、金庫はかなり頑丈な作りをしており、恐らく、薊とくるの力では開ける事は出来ないだろう。
だが、薊は「問題ない」と言った。何か方法があるのだとくるは思った。
案の定、薊はカードキーのような物を取り出し、金庫の認証装置にカードキーを当て、認証した。
すると、金庫のロックが解除され、神器が出てきた。
そこにあったのは傘の形をした神器と月輪の形をした鉄の神器があった。間違いなく、【伊弉冉舞姫】と【月読尊】だ。
薊は【伊弉冉舞姫】を、薊は【月読尊】を手に取った。
「やったね!取り返した!」
「ええ、けど…そう簡単にはここから帰らせてはくれないみたいね」
薊がそう言うと後ろから機械兵がやって来た。二体いた。二体とも蛇のような外見をしていた。
「『機械魔兵』!?」
「いいえ、違うわ。これは…『八岐大蛇』」
「ええ!?八岐大蛇って『神騎兵』じゃん!?」
神騎兵とは十二支連合帝国が二年前に開発した神器と同じ原理で作り出された新兵器である。
神器と違い、遠隔操作が出来るという利点があり、基本的には神騎兵には搭乗者はいない。
だが、遠隔操作という都合上、細かい動作を苦手としており、神器より柔軟性が劣るといった欠点が存在する。
また、自立制御装置が作動している物もあり、基本的にはこの自立制御装置による運用が一般的だ。
それでも、実戦では十分に戦える上に集団戦では非常に有用な兵器でもある。
「見た所、自立制御装置によって動いてるわね」
「じゃあ、さっさと…」
「相性は正直良くないけど、さっさと倒した方が良いのは確かね」
薊は毒を用いた攻撃、くるは幻覚を用いた攻撃をする。
自立制御装置で動いている神騎兵とは相性が悪い。しかし、ここで倒しておかなければ薊とくるがやられてしまう。
神騎兵の『八岐大蛇』が攻撃を仕掛けてきた。
薊とくるはこれを軽く躱した。
「【月読光明】!」
くるの頭上にあった天輪が輝いた。すると、『八岐大蛇』は光に飲み込まれ、動きを拘束した。
【月読光明】は天輪から光を発生させ、相手の動きを抑制させる技だ。生身の者であれば、幻術に引っ掛ける事も出来るが、相手は自立制御を用いている神騎兵だ。精々目暗まし程度にしかならない。
しかし、くるの目的はただの目暗ましだ。
「【神毒】」
薊は【伊弉冉舞姫】を三連弓の形に変形させ、矢を一斉に放った。
薊の神器に限らず、神器には武器の形を変えるギミック機能が搭載されている。限度はあるがある程度武器の形を変形させる事が出来る。
薊の矢が二体の『八岐大蛇』に直撃した。しかし、『八岐大蛇』は動きを止めず、再び突進してきた。
「う~ん、やっぱ相性が良くないな~。私が出来るのは本当に目暗ましくらいだよ。私の幻術全然効いてないし」
「そうね。けど、一撃喰らわせたくらいじゃ通らないのは想定内よ」
薊はそう言って『八岐大蛇』に突っ込んでいった。
くるは薊のサポートに徹し、【月読尊】を使った。
しかし、【月読尊】は幻術を駆使して戦う神器である為、対生物に対しては非常に有効だが五感を持たない機械などとは非常に相性が悪く目暗ましくらいしか出来ない。
薊の神器もくるよりはマシとは言え相性がいいとは言えない。薊の神器、【伊弉冉舞姫】は生物の致死量を操作する協力無比な神器であるが、命が無い機械とは相性が悪い。
その上、これは【月読尊】にも言える事だが、その特殊な能力故に単純な攻撃力がかなり低く能力が効かない相手に対しては一気に不利になる。
「はぁ!」
薊は【伊弉冉舞姫】の矢を当てた。しかし、『八岐大蛇』はあまりダメージを受けていない様子であった。
「ヤバいよ、薊ちゃん!私の幻術の目暗ましが効かなくなってる!」
「………神器に頼った戦いはしない方がいいわね。自立制御装置だからと言って甘く見ていたわね」
「なら、どうする?」
「私があのデカ物を引き付けるわ。あなたがあの二体を倒して!」
「分かった。正直、あいつに通用するか分からないけど…」
薊は矢を放ち、『八岐大蛇』の注意を自分に引き付けた。
くるは自身の神器を手を当て、霊力を注ぎ込んだ。
「【幻惑之円光】!!!」
【月読尊】から光が放たれた。『八岐大蛇』はその光を浴びると動きが鈍り始めた。
やがて、『八岐大蛇』は動かなくなり、機能停止した。
くるの【月読尊】は『八岐大蛇』に組み込まれている自立制御装置に干渉したのだ。時間が経てば再び動き出すがしばらくは安全だ。
「何とかなったわね」
「ふぅ~、神器取り返すだけでこんなに手こずるなんて…」
二人とも幸い無傷ではあるもののかなり消耗していた。このままでは寮に仕掛けたくるの幻覚が解けてしまう可能性がある。
「一旦、寮に戻りましょう」
「そうだね」
二人は寮に帰還した。
To Be continued




