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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第五章】イシュガルド殲滅篇
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【第五章】イシュガルド殲滅篇ⅧーThe suspend manー

 蒼はティラの事を少し思い出していた。あの時、蒼はどうすれば良かったのか。

 まぁ、考えた所で過ぎてしまった事なので答えは出ない。しかし、出ない答えを延々と蒼は考えてしまう。


「蒼、聞いているのかい?」


 一夜がそう言うとハッと意識が元に戻った。蒼は今、アキバのネットカフェにいた。

 そこには一夜と美浪もいた。今は夜の十二時前だ。彼らは今日、調べた事を共有していたのだ。


「悪い…聞いてなかった」

「ボーッとするなんてらしくないね」

「ああ、ちょっとな」

「まぁ、いいや。じゃあ、改めて話すよ。どうも、五十年前のイシュガルドの内乱が起こった原因…どうもキナ臭いんだよね」

「どういう事だ?」

「君たちはイシュガルドの内乱が起こった理由は知ってるね?」

「確か、ヘレトーアの軍人がイシュガルドの子供を誤って射殺したから…ですよね?」


 一夜の問いに美浪は答えた。そう、この出来事により、内乱は始まった。

 そして、その殺された子供がプロテア・イシュガルドの弟である。


「で?何がキナ臭いんだよ?」

「僕はヘレトーアのサーバーを片っ端から調べたんだ。軍の内部の情報もね。だが、射殺したヘレトーアの軍人の情報が一切なかったんだ」

「単なる漏れじゃないのか?」

「どうもそんな感じじゃなかったね。その軍人の情報だけ綺麗に無いんだ。なんらかの隠蔽工作をしてるのは多分間違い無いと思うよ」

「そうか…他には?」

「そうだね…それ以外にイシュガルドの【二十二式精霊術(アルカナ)】に関するデータがあったよ。それも膨大な量だ」


 一夜がパソコンを立ち上げ、蒼と美浪に見せた。そこには膨大な情報があった。

 蒼と美浪ではとても読みきれそうに無い。恐らく、一夜も読むのがやっとだろう。


「いくらなんでも情報量が多すぎじゃねーか?それに、ここまで細かくイシュガルドの事を把握してるとなると…」

「ああ、恐らく多くのイシュガルド人が彼らにより実験台とかにされていたと見るべきだね」

「どうもキナ臭ぇな。イシュガルドというよりヘレトーアがだ」

「ああ、イシュガルドの内乱…必ず裏があるね」

「ヘレトーア浄化計画?何ですか、これ?」

「恐らく、ヘレトーアは何らかの計画を進めている…という事だろう」


 ヘレトーアがイシュガルドを使って何らかの計画を企てている可能性が高い。

 ヘレトーアは今までこの計画を成功させる為に水面下で活動を続けていた。しかしー


「これ、イシュガルドの事ばかり書かれてるけど、見た感じ肝心の計画の内容が書かれて無いぞ…」

「ああ、流石にそこまでは調べられなかったよ。向こうも完全に無防備…という訳では無いようだしね。まぁ、僕はここまで…かな…美浪君は?」


 一夜が美浪に訪ねるが美浪は何故か冷や汗をかいており、明らかに焦っていた。


「あっ…えっと…その…すみません。有力な情報は無かったです…」

「なぁ?お前のそのテンパり具合…なんかおかしいんだが?」

「ソ…ソソ…ソンナコトナイデスヨー…」

「何で片言?」

「美浪君…君まさか、ロクに何もせずにア○メイト行ったりゲー○ーズ行ってたんじゃ…」

「違うんです!ちょっとのつもりだったんですう!でもなんかいつの間にか時間が過ぎてて…」

「はぁ~、君って奴は…」

「まぁ…俺も今日メイドカフェ行ったしな。そんな気にする必要ねぇよ」

「蒼にしては随分寛大だね。というか…メイドカフェ行ったのかい!?」

「まぁ、興味あったしちょっとな…それに、美浪の事だからどっちにしても結果は変わらなかっただろ」

「ああ、それもそうか!」

「酷くないですか!?」


 美浪は堪らず叫んだ。確かにこういうのはあまり得意では無いが苦手というわけでもない。

 なのにこの言われようだ。正直、心外である。


「だったら、蒼はどうなんですか?」

「ああ…俺か…」


 蒼は少し迷った。ティラの事を話すべきかどうかを。しかし、変に隠した所で意味が無いのも事実だ。


「今日、ティラに会った」

「「!?」」


 蒼がそう言うと一夜と美浪は驚いていた。まぁ、いきなりそんな事を言われたらそりゃ驚くのも当然と言えるだろう。


「それは本当かい?」

「ああ、何故かメイドカフェでバイトしてた。俺が休憩のつもりでメイドカフェに行ったらたまたま会った」

「いやいや、何!?その超展開!?何でメイドカフェにいたの!?」

「…俺に言われてもな…俺もまさか予想外だった…まさか、テロリストがメイドカフェでバイトしてるとか…」

「それで?どうだったんだい?」

「どうやら、閻魔弦地を殺したのは…あいつらしい。それと、四宮さんと慧留を襲撃したのもあいつだ。だが、悪い…逃がしちまった」

「仕方ないよ。だが、あの閻魔を暗殺出来る程だ。相当実力があると見て間違いないね」


 蒼は重要だと思う事を話した。しかし、美浪がいきなりどうでもいい質問をしてきた。


「それで?ティラのメイド姿はどうでした?働きぶりは?」

「いや!どうでもいいよね、それ!?」

「いや、どうでもよくはないよ、蒼!もしかしたら、彼女の弱点が分かるかも!」

「そんなんで弱点が分かったら苦労するか!お前らの趣味に付き合ってやる余裕はねぇ!」


 蒼は美浪と一夜に呆れ果てていた。こんな状況だというのに空気を読まなすぎである。


「じゃあ、今日のところはここまでだね。明日も継続して情報収集を続けよう」


 一夜がそう言うと情報共有は終了した。








 天草屍は一人、夜道を歩いていた。蒼たちが失踪してから数日経っていた。

 慧留と屍は蒼たちを捜索しつつ、イシュガルドの事も調べていた。

 しかし、これと言った手掛かりがないまま、時間だけが過ぎていった。蒼と一夜、美浪も失踪しており、彼らも探さなくてはならない中、イシュガルドの捜索もしている。

 この二つの出来事が同時に起きるというのは明らかに不自然だ。恐らく、無関係ではないのだろう。


「さて…これからどうするか…」


 屍はそう呟いた。慧留とは別行動を取っている。それぞれ別々で探した方が良いだろうという結論に辿り着いたからだ。

 屍は自分の仲間である蛇姫薊(へびひめあざみ)御登狂(みとくる)にも協力してもらおうと思ったがこの二人とは何故か連絡がつながらない。

 二人だけではない、赤島英明(あかじまひであき)兎咬審矢(とかみしんや)とも連絡がつかない。

 このタイミングで連絡がつかないというのは些か不自然である。

 薊とくるは十二支大学に通っている。この大学は主に魔道警察官を育成する大学であり、全寮制の大学でもある。

 赤島と兎咬は魔道警察官であり、この国を守っている。そう、彼らは全員、国と密接に関わりを持っている。この四人が全員連絡が取れないとなると-


「十二支帝国の政府が俺たちに対して何らかの妨害をしてる…って事か?」


 考えられなくはなかった。実際、屍は心当たりがある。

 蒼たちは「USW」に慧留を救出する為に厳陣たちの静止を無視し、無断で乗り込んだことがある。結果的には丸く収まったが、厳陣はかなり強引な手で蒼たちを静止していた。

 今回は特に厳陣や大志と深く因縁があるイシュガルドだ。蒼や屍たちを妨害しようとしている事も一応辻褄は通っている。

 そう考えると赤島たちと協力するのは恐らく不可能だ。下手をすると屍や慧留までもが厳陣たちに拘束されるかもしれない。

 そう考えると下手な行動は出来ない。今まで以上に慎重に行動しなければならないだろう。


「!?」


 屍は突然寒気に襲われた。その寒気の正体は恐らく、強大な霊圧によるものだ。

 間違いない、敵がいる。イシュガルドの可能性もある。屍は慎重に辺りを見回した。しかし、特にそれらしいものは無かった。

 気のせいかもしれないと思ったがどう考えてもこの寒気は気のせいとは思えなかった。それに次第に寒気も強くなっていっている。

 更に、今度は鼻を覆いたくなるような強い異臭が襲い掛かった。この鉄臭い臭いは恐らく血の匂いだ。匂いが味覚を刺激し、口から血の味がした。

 またもや、異変は起こる。今度は不気味な声が聞こえた。その不気味な声は例えるのなら、屍人(ゾンビ)の呻き声のようであった。

 そして、最後に屍は吊るされた縄が視界に入った。その瞬間、景色が反転した。


「な!?がはぁ!?」


 屍は身体を動かすが身体が動かない。屍は今、黒い空間にいた。そして、黒い縄が屍の首を絞めつけていた。そう、屍は縄により身体が吊るされていた。


-これは…どうなってる!?何が…!?何も見えない…どうなってる!?


 このままでは窒息死してしまう。屍は身体を動かそうとするが動かない。というより、感覚が無かった。 縛られているのに何故か首の痛みは感じないし、縄で縛られているのは分かるのだが屍自身は何も見えていない。

 更に、匂いは全くしないし、何も聞こえない。そう、まるで「五感が全て持っていかれている」ようであった。

 実は屍自身は何が起こっているか全く分かっていない。屍が今感じているのは呼吸できない事の苦しみだけである。

 屍の動きがだんだん緩やかになっていった。そして、徐々に力も抜けていっていた。このまま、屍は息絶えていく。



「【拒絶女王ルキフグス】!」



 屍は元の状態に戻っていた。そして、屍の隣には慧留がいた。


「大丈夫!?屍!?」

「あ、ああ…けど、一体どうなって…何でお前、こんな所に…」

「屍のいる場所にヤバい霊圧を感じたから不安になって向かったんだ。そしたら、屍、黒い縄に吊るされてたから…あのままだと本当に死んでるとこだったよ!?」

「な!?」


 屍は自分が想像以上にヤバい状況だったのだという事を思い知らされた。

 慧留が【拒絶王女ルキフグス】で時を巻き戻してくれなかったら屍は死んでいただろう。

 しかし、何故、屍は死にかけていたのだろう。屍自身、全く思い出せない。


「恐らく、近くに敵がいる筈だよ…けど、上手く気配を消してるのか、全然分からない…」

「それなら、俺に任せろ!」


 屍はポケットからスマートフォンを取り出した。【アルダメルクリー】だ。屍は【アルダメルクリー】に霊力を込めた。すると、眼鏡が出現した。

 屍はその眼鏡をかけ、辺りを見回した。すると、屍は再び、【アルダメルクリー】に霊力を込め、爆弾を造り出し、爆弾を放り投げた。

 すると、爆弾は爆発した。爆発した場所には人影が見えた。黒色の髪をしていた。灰色のローブを着ている男であった。


「何故、僕の場所が分かった?気配も霊圧も完全に消していた筈だが…」

「ああ、そうだな。けど、気配も霊圧も消せても、体温は消せないだろ?」

「成程な…その眼鏡…温度を感知する代物か…」


男はそう呟いた。よく見れば、男の右目には傷があり、見えない隻眼であるようだった。


「そのスマートフォンのような物…霊力を込めただけで指定した物質を出現させる物の様だな。………時神蒼の仲間たちは厄介な者ばかりと聞いていたが…ここまでとはな…」

「てめぇは何者だ?」

「答えるつもりはない」


 男…ワトル・イシュガルドは手を掲げた。すると、周囲に花が咲き乱れた。


「何だ?これは…」

「!?【世界逆流(レイウェルティ)】!」


 慧留が違和感に気が付き、咄嗟に【世界逆流(レイウェルティ)】を使った。すると、花は消えてなくなった。花が咲く前の時間まで戻したのだ。

 慧留の力は時間の巻き戻し…つまり「回帰」だ。その力でワトルが術を発動する前の時間まで巻き戻したのだ。


「ほう…僕の力に違和感を感じ取ったか…時間回帰か…恐ろしい力だ。僕の【吊人神イラ・パンド】を打ち消すか…だが、これならどうだい!?」


 ワトルが右手を上げると騒音が響き渡った。慧留と屍は耳を塞いだ。やがて音は収まった。しかし、異変は起こった。


「何だ…!?これは……」

「----------------」

「月影!」

「----------------」


 何も聞こえない。屍は慧留の言葉もワトルの言葉も何も聞こえなかった。それは慧留も同様のようであった。

 更に異変は起こった。慧留と屍の首に黒く細い紐がついていた。そして、少しづつ、二人を締め付けていった。


「「!?」」

「君たちはここで終わる…例え、どれだけの人数で僕に襲い掛かろうとも僕の【吊人神イラ・パンド】の前では無力だ…まぁ…僕のこの言葉も君たちには聞こえていないだろうがね」


 ワトルの【吊人神イラ・パンド】の能力は自身が発動させた物に影響を受けさせ、受けた五感のいずれかを潰す。

 更に、五感の一つを潰されれば、首に黒い紐が巻きつけられ、潰された五感の数だけ締め上げる力も強くなる。

 一つの五感を潰されただけでも相手を殺傷する力がある。しかし、全ての五感を潰せばほぼ確実に殺せるため、ワトルは五感を全て潰した後に屍を殺すつもりであった。結果的には慧留の力によってそれは狂わされたわけだが…

 最初に屍がやられた時、屍は寒気に襲われた。これは五感の一つ、触覚に作用するワトルの幻術であった。これにより、屍は触覚を潰された。

 鼻を覆うような異臭もワトルの術であり、これにより、屍は嗅覚を潰され、更に、嗅覚と直結している味覚も潰された。

 その後にワトルが発生させた呻き声を聞いた事により屍は聴覚を潰され、最後にワトルが見せた吊るされた男を見た事でワトルの【吊人神イラ・パンド】が完成し、屍を殺害寸前まで追い込んだ。

 結果的には慧留が敵の霊圧を感知した事により、屍が死ぬ前に【世界逆流(レイウェルティ)】で屍にかかっていた術を解除した。

 そして、今、慧留と屍が受けたのは聴覚によるものだ。二人はワトルにより、聴覚を潰され、それにより、二人の首には黒い紐がついていた。

 この紐が首を絞めつけるせいで動きが抑制されている。しかも、この紐はかかっている者には一切認識されない。つまり、慧留と屍は何故自分の首が絞めつけられているかのような感覚に襲われているかに気付いていない。

 気付いているのはワトルによって何かされている…という事だけだ。慧留は【世界逆流(レイウェルティ)】で周囲の時を巻き戻そうとしたが出来ない。

 慧留の【世界逆流(レイウェルティ)】は慧留自身が巻き戻す時間を認識していないと使えないという欠点が存在する。

 最初、屍を元に戻せたのは屍に黒い紐で吊るされている事を慧留自身が認識できていたからだ。しかし、今回は慧留自身もワトルの術にかかっているせいで巻き戻すべき場所を認識できない。

 慧留は完全に自身の能力の穴を突かれてしまった。


「君たちはここで終わる。聴覚以外の全ての五感を潰せば確実なんだが…下手をして反撃される訳にもいかないからね、君たちがくたばるまで身を隠させてもらうよ」


 慧留と屍はワトルが何を言っているのか全く分からなかった。しかし、この場から離れようとしているのは確実であった。

 ここで奴を逃がしてしまえば、間違いなく、慧留と屍は窒息死する。


「させるか!」


 屍が【アルダメルクリー】を使い、爆弾を造り出し、放り投げた。しかし、ワトルは軽々と爆弾を空に飛んで躱し、地面に着地した。


「!?」

「無駄無駄…僕には通じないよ」


 屍は走り、ワトルに近づいた。そして、肉弾戦に持ち込んだが、やはり、首を縛られて呼吸困難に陥っているせいで本来の力が出せない。

 普段通りであれば屍はワトルに肉弾戦で負けることは無い。しかし、今はワトルが完全に圧倒していた。

 ワトルは屍の拳を軽々と受け止め、足で思いっきり屍を蹴り飛ばした。


「屍…」


 慧留は立ち上がり、【黒閃光(オスキュラスレーゼル)】を放ったがこれも軽々とワトルは躱した。本来の力を制限されているせいで簡単に避けられてしまう。

 慧留の鼻から血が出ていた。目からも血が出ていた。更に、口からも吐血していた。

 慧留はかつて、アンタレスと呼ばれる悪魔と契約していた。しかし、今はその契約は完全に解除されている。

 故に今の慧留はあの時の力はどう足掻いても出せない。慧留は何度も自分の身体の時間を巻き戻そうとするが巻き戻す物を認識できない以上完全に無意味だ。

 それに、自分の身体を巻き戻すのは大量の魔力を消耗する。無暗に乱発する事も出来ない。更に、慧留と屍は今、敵の能力すら判明出来ていない。


「やはり、感覚を一個潰しただけではかなり動くね。まぁ、力尽きるのも時間の問題だがね」


 ワトルは余裕の表情を浮かべていた。今の様子ではワトルは無暗に攻めるなどという事はしないだろう。


-くそ…が…


 屍も口から血を吐いていた。もう、長くは戦えない。

 屍は何とかする方法を考えた。しかし、何も思いつかない。ワトルの能力ははっきり言ってチートと言っても差支えのない能力だ。

 屍は力を振り絞って立ち上がった。そして、【アルダメルクリー】にありったけの霊力を込めた屍は超大型の爆弾を造り出し、ここら一帯を吹き飛ばそうと考えた。

 そうすれば、ワトルにもある程度ダメージを与える事が出来ると考えたからだ。ワトルはここから離れようとはしなかった。つまり、あまり離れすぎると術が解けてしまうからと考えるのが普通だろう。

 屍の考えは間違っていなかったようで、ワトルはどうやら、屍が特攻しようとしている事に気が付いたようだ。

 すると、彼の顔は今までで一番の焦りの顔を浮かべていた。


「させるか!」


 ワトルは巨大な丸い岩を発生させた。彼らの触覚を潰す気だ。二つの感覚を潰せば二人を殺すには十分である。

 屍はもう、殆ど意識を失っていたがそれでも霊力を込め続けた。すると、屍自身、予期せぬ事態が起こった。


「!?」

「これは…」


 巨大な岩が………「止まっていた」。それだけではない、屍と慧留の首が締め付けられる感覚が無くなっていた。


「何!?何だこれは…!?止まっている…だと…僕の能力が「完全に停止している」だと!?」

「うおおおおお!!!」


 屍はワトルに接近した。そして、屍は巨大な岩を殴りつけた。何度も何度も…

 すると、岩は屍とは逆方向に飛んでいった。そして、その岩はワトルに直撃した。


「が!?」


 ワトルは触覚を潰され、首に黒い紐が出現した。紐がワトルを締め付ける。


「ぐわああああ…」


 ワトルはもがき、苦しんでいた。ワトルは何が起こったのか理解できなかった。触覚が封じられているせいで身体を動かせない。しかし、苦しみ自体は感じている。

 ワトルの意識が遠のいていく。まさか、自分の能力を喰らう事になるとはワトル自身、夢にも思わなかっただろう。

 ワトルは完全に意識を失っていた。その瞬間、ワトルを縛り付けていた黒い紐は消え去った。

 屍と慧留の首にあった黒い紐も消えていた。


「どうやら…人段…」


 屍は意識を失った。


「屍…屍…!」


 慧留は慌てて屍に駆け寄った。そして、屍を担いで慧留は歩き出した。







「ここは…」

「目が覚めたようじゃな…」

「四宮…」


 屍は一宮高校の保健室にいた。横には慧留もいた。眠っているようだ。

 どうやら屍と慧留は舞によって治療されていたようだ。見たところ、慧留も無事のようだ。取り敢えずは大丈夫のようだ。

 しかし、屍には一つの懸念事項を思い出した。


「あいつは!?俺と月影が戦ってた…」

「あの男は妾の力で拘束しておる。直に常守と黒宮に引き渡すつもりじゃ」

「そうか……悪いが…俺たちの事は常守総帥と黒宮大志には黙っておいてくれ」

「? どういうことじゃ?」

「時神と苗木、霧宮が失踪した。俺はもしかしたら常守総帥と黒宮大志が関わってるんじゃないかと思ってる…勝手な頼みなのは分かってる…けど頼む!」

「まぁ、たまには良いか」

「!?いいのか!?」

「ああ、主には借りがあるしな…じゃが…」


 舞は屍の頬をつねった。


「妾の事は先生と呼べ」

「分かったよ…四宮先生」

「じゃが…月影はともかく、お主は暫くの間戦えぬぞ」

「!? どういうことだ!?」

「お主の霊力の消耗量が激しくての…完全に回復するまで一週間はかかる。一体何があった」


 舞が屍に問い詰めると慧留も目が覚めたようだ。


「屍…無事だったんだね!四宮先生もありがとうございます!」

「礼には及ばん」


 どうやら、慧留が屍を担いで移動しようとした時に舞と遭遇し、今に至るようだ。


「と…天草…何があったか答えてもらうぞ」


 舞が仕切り直した。だが、屍は特に隠すつもりもなかった。


「月影が目ぇ覚めたんなら丁度いい。月影も聞いてくれ」

「え?何?」

「俺は…どうやら、「生物以外の時間を止める力」を身に付けたみたいだ」

「「!?」」


 慧留と舞が驚愕の表情を浮かべた。

 それも無理はない。なんせ、いきなり、時間を止める力を得たというのだ。


「どういう事じゃ?」

「そのままの意味だ。俺のこの【アルダメルクリー】に新たな力が目覚めたって事だ。能力はさっきの一回で大体把握してる」

「時間を操る能力は基本的に複雑なのばっかりなのにそんなすぐに分かるものでもないよね?」


 慧留の言っている事は尤もだ。時間を操作する能力…それは何らかの制約があったり、複雑な能力である事が多いのだ。


「とか言いながら月影もすぐに自分の力を把握してたじゃねーか」

「あれは…アンタレスの加護の力があったからだよ」


 慧留が蒼たちと戦った時に絶大な力を誇っていたのはアンタレスの加護があったからだ。

 それにより、慧留は自身の力も把握し、強大な力を誇ったのだ。

 しかし、今の慧留はあの戦いが終わって以降、アンタレスとの契約が解除された。

 それにより、あの時ほどの強大な力は今は使えない。


「まぁ、いいや。俺の力はさっきも言ったが生物以外の時間を止める事が出来る。霊力や魔力の流れも止められる。だが…俺に出来るのは生物以外の時間を止める事だけだ。その代わり、時神の時間停止の力と違って止める時間に限界は無い。勿論、俺の意思で解除も出来る」

「それ、普通にチートじゃん」

「それを貴様が言うか…月影…」


 時間を操る能力を持つのは蒼と屍だけではない。慧留も同様に時間を操る力を持っている。

 しかも、彼女の能力は時間回帰と過去改編の二つを持っている。

 屍よりもよほどチートと言えるだろう。


「更に、止めた物体を殴ったり蹴るなどして衝撃を与えてから時間停止を解除すると止めた間に与えた衝撃が圧縮されて物質に伝達される」

「へぇ~。便利な能力だね」

「確かに色々応用が利きそうな能力じゃな」


 屍が時を止めた物質に殴り付けて解除された瞬間にワトル目掛けて飛んでいったのはその為だ。


「じゃが…それなりに制約も存在するんじゃろ?」

「…まぁな……まず、霊力の消耗が激しい…効果範囲もそこまで広くない。今のままじゃ一発使うだけで病院送りだな…まぁ、これはある程度は改善出来る…」

「けど…まだあるよね?」

「ああ、もう一つの制約は…生きているものには全く効かない。効くのは物質だけだ」

「使い所が試される力というわけじゃな」

「ああ、今回はマジで運が良かっただけだ…」

「そうだね…屍の力が偶然目覚めなかったら私たちやられてたよ」

「…いずれにせよ、天草は暫くの間は安静にしろ。…常森と黒宮は妾がなるべく根回ししておく」

「いいんですか?昔の仲間を欺くなんて…」

「昔はあの二人を優先したまでじゃ…じゃが、今の妾は教師じゃ。生徒を優先するさ」

「今はあんたの生徒じゃねーぞ」

「細かい事は気にするな」


 屍の指摘を舞は適当に流した。


「妾も何か分かればお前たちに伝える」

「ありがとうございます。じゃあ、私は先に失礼しますね」


 慧留はそのまま帰って行った。







「さてと…どうしたものかな~」


 慧留はそう呟きながら青空を見上げていた。敵は恐らくまだいる。

 しかし、手懸かりが無い以上…


「いや、手掛かり…あるかも…」


 慧留はそう言って家に戻ろうとしていた足を逆方向に向けた。

 慧留が向かった先は…四神天城(シシンテンジョウ)だ。

 イシュガルドは常森厳陣、黒宮大志、四宮舞を狙っている。彼等に接近すると自然と彼等は現れる筈である。

 しかし、厳陣と黒宮は恐らく、慧留も警戒している筈だ。

 先程屍から厳陣たちが自分達に妨害をしている可能性がある事を聞いた。

 可能性としては十分に有り得る。つまり、慧留はこれから先、慎重に行動しなければならない。

 慧留は正直、イシュガルドが正しいとは思っていない。だが、厳陣や黒宮の事も納得が出来ていない。

 慧留はどちら側にも回る気は無い。あくまでも、自分の選択を信じるまでだ。


 四神天城(シシンテンジョウ)に到着した。辺りは厳重に警備が敷かれていた。

 まぁ、当然と言えば当然かもしれない。赤島と兎神もいた。

 彼等に見つかると面倒になる事は容易に想像できる。

 慧留は城の近くで足を止めた。魔力も完全に消していた。

 まず、見つかる事は無いだろうが、それでも油断は出来ない。なにせ、相手は対魔術戦のプロだ。


ーさてと…ここからどうしよう…


 慧留は近くの壁に隠れながら考えた。来てはみたものの、見つかれば確実に捕まるのは目に見えていた。

 ここに来れば何か分かるかもしれないと思ったが自身の迂闊さを実感する事となった。

 これでは慧留が捕まって終わりだ。

 いくら慧留でもここにいる者たちを無傷で突破はまず不可能だし、厳陣と黒宮を二人相手にするのは無謀過ぎる。

 今は厳陣たちに探りを入れるより、蒼たちを探した方がいいかもしれない。

 慧留はすぐに四神天城(シシンテンジョウ)から離れようとする。しかしー



「!?」



 慧留は殺気を感知し、後ろを振り向いた。すると、そこには刃物が近づいていた。


「な!?」


 慧留は咄嗟に回避した。後一歩遅ければ、慧留の首は近くを転がっていただろう。


「流石ね…」

「あなたは…」

「あなたの考え通り、私はイシュガルドよ…」


 ローブを外しながら少女はそう言った。外見は黒髪ウェーブと琥珀色の眼をした少女であった。


「こんな所で何を…て、聞くまでも無いよね」

「ええ、そこを通して貰うわ」

「…させないよ」


 少女と慧留はお互いを見ていた。




 To be continued

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